一 文化財保護法の改正

 昭和二十九年の文化財保護法改正以降、高度経済成長などに伴い、社会、経済等様々な面において、急激かつ大規模な変動が起こり、文化財を取り巻く環境が大きく変わった。都市の膨張、産業構造の高度化や機械化等の生産様式の変化、生活様式の変化などを通じて、各地域に残る伝統的な建造物あるいは昔ながらの宿場町・城下町等の町並みの改廃や変貌、地域の民俗芸能、工芸技術の衰勢などが顕著となった。特に、全国的に広がった宅地や工業団地の造成、道路建設などの大規模開発は、土地に関係する文化財、特に埋蔵文化財の保存に危機をもたらした。

 このような状況の下で、文化財の保護体制を強化すべきであるとの認識が高まり、各方面から、保護すべき文化財の範囲の拡大、埋蔵文化財の保護強化などについての文化財保護法の改正が要望されるに至った。このため、昭和四十九年五月衆議院文教委員会に「文化財保護に関する小委員会」が設置され、法改正の検討が始められた。そして、五十年五月には文化財保護法の一部改正が発議され、同年六月に可決成立、十月一日から施行された。この改正の主な点は、次のとおりである。

 (一)埋蔵文化財に関する制度の充実 法改正の最大の眼目は、各種の開発事業の進展から埋蔵文化財の保護を強化することにあった。すなわち、埋蔵文化財を包蔵していることが知られている土地における国、地方公共団体等の土木工事等の事前協議、工事中の遺跡発見の際の工事の停止命令等についての制度化、工事の事前届出時期の早期化などを図るとともに、埋蔵文化財の調査に対する地方公共団体の役割を明示した。

 (二)民俗文化財の制度の整備 従来民俗資料として扱われていた風俗慣習に係る分野の名称を民俗文化財に改めるとともに、民俗芸能を民俗文化財の中に位置付けることとした。また、有形の民俗文化財については、改正前の重要民俗資料と同様の重要有形民俗文化財としての指定制度を、また、無形の民俗文化財については、新たに重要無形民俗文化財としての指定制度を設けた。

 (三)伝統的建造物群保存地区制度の新設 文化財の一分野として新たに伝統的建造物群を設け、これと一体をなして歴史的風致を形成している一定の地域を伝統的建造物群保存地区として保護する制度を定めた。この制度は、市町村が、条例等により、伝統的建造物群保存地区を定め、市町村の申出に基づき、文部大臣がその価値が特に高いと認めるものについて重要伝統的建造物群保存地区として選定し、国の助成対象とする方式を採っている。

 (四)文化財の保存技術の保護制度の新設 文化財の保存修理等のため欠くことができない伝統的な技術又は技能で保存の措置を講じる必要のあるものを選定保存技術として文部大臣が選定することができることとし、選定した技術については、その保持者又は保存団体を対象として財政援助その他の保存措置を講ずる制度を新設した。

 (五)地方公共団体における文化財保護行政体制の整備 都道府県教育委員会において、1)それまでの文化財専門委員制度に代わる都道府県文化財保護審議会の設置、2)文化財の巡視、所有者等に対する指導・助言、地域住民に対する文化財保護思想の普及活動を行う文化財保護指導委員(非常勤)の設置が、それぞれできることとした。

 また、地方公共団体の文化財の保護事業に要する経費に充当するための起債について適切な配慮をするものとした。

 (六)その他 有形文化財の中に、建造物と一体をなしてその価値を形成している土地その他の物件を含むこととするとともに、学術上価値の高い歴史資料を明確に位置付けた。また、重要文化財について、その保存に影響を及ぼす行為をも許可の対象とするとともに、重要無形文化財の指定に当たっては、従来の保持者の認定のほかに保持団体を認定することができることとした。

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