二 技術革新等に伴う著作権法の改正

技術革新と著作権

 こうして新著作権法が徐々に定着する一方、施行後数年を経過するうちに、複製、情報処理、電気通信などの分野の技術革新が急速に進み、これに伴って新たな問題が起こってきた。複写機、録音・録画機器の発達普及は著作物の複製を容易にし、著作権者等の利益を脅かすようになり、またコンピュータの開発とともにコンピュータ・プログラムやデータベースなどの新たな知的創作物が生まれ、これへの保護が叫ばれるようになった。文化庁は、昭和四十六年に設置した著作権審議会においてこうした問題の検討を進め、その結果に基づき、五十九年の貸レコード問題解決のための改正を皮切りに、逐次著作権法の改正を実現していった。

貸レコード規制

 貸レコードは、昭和五十五年から青少年層の広範な支持を背景に瞬く間に全国に広まった。しかし、この当時貸与に係る著作者等の権利が認められていなかったため、レコード販売の減少などで不利益を被った音楽の著作権者やレコード製作者などと貸レコード業者との間で激しい対立を生むことになった。この対立を解決するため、五十八年には議員立法により「商業用レコードの公衆への貸与に関する著作者等の権利に関する暫定措置法」が制定されたが、五十九年にはこの「暫定措置法」を吸収して、著作権制度上の貸与の位置付けを明らかにするため、著作権法の改正が行われ、翌年から施行された(暫定措置法は廃止)。この法改正では、映画の著作物を除くすべての種類の著作物について、その著作者に公衆に対する貸与に関し許諾又は禁止し得る権利(貸与権)を与え、また、レコードについては、実演家とレコード製作者にもレコードの発売後一年間の存続期間を持つ貸与権と一年経過後は貸与を禁止することはできないが、貸与業者から報酬を受けることのできる権利(報酬請求権)を与えた。ただし、図書館等におけるレコード等の貸与については図書館の公共的使命に配慮して、著作者等の許可を得なくても貸与ができることとする措置を講じた。なお、映画の著作物に関しては、従前よりその複製物の譲渡又は貸与について、著作者の権利(頒布権)が認められていたが、図書館や視聴覚ライブラリーなどの施設においては補償金の支払いを条件として、ビデオやフィルムを著作者等の許諾を得なくても貸与することができるという措置を講じた。

コンピュータ・プログラムの保護

 コンピュータ・プログラムに対する法的保護については、既に、著作権審議会の検討結果や判例で著作物であるとの判断が示されていたが、一方では、プログラムが産業上利用される場合が多いことや、その保護期間は短期間で足りるとする考え方などから、著作権制度によらない独自の保護方策を講じるべきであるとの意見もあった。通商産業省が、このような意見を踏まえて、昭和五十八年十二月にはプログラム権と称する新しい概念により保護立法を行う姿勢を示したため、著作権法による保護が適当であるとする文化庁と対立が生じることとなり、コンピュータ業界や学界なども巻き込んで、激しい議論に発展した。しかし、アメリカをはじめ先進諸国が著作権法上コンピュータ・プログラムを著作物として明記するなど、著作権法による保護の方向が国際的にも明確な流れになってきたことなどから、六十年六月、著作権による保護を明確にするための著作権法改正が成立し、ここに文化庁と通商産業省との対立は収束を見た。この改正法は翌年から施行された。

 この法改正では、コンピュータ・プログラムを著作物として明記するとともに、プログラムを作成するために用いるプログラム言語、規約、解法は著作物に当たらないことを明らかにし、さらに、プログラムの作成及び利用の実態に即して、法人著作、著作者人格権、所有者による複製等について、その特性に配慮した特別の規定を設けることとした。

 また、コンピュータ・プログラムの登録について著作権法の特例を定めるため、「プログラムの著作物に係る登録の特例に関する法律」が六十一年制定され、翌年、文化庁長官に代わって登録事務を行う指定登録機関として、財団法人ソフトウェア情報センターが指定された。

データベースの保護

 コンピュータの発達普及とともに開発が進んだデータベースについても、その作成者の権利保護が唱えられ、この声にこたえる改正が昭和六十一年行われた。この法改正では、データベースの法的保護を明確にするため、データベースを著作物として明記するとともに、双方向性のオンライン・データベース・サービスにも対応し得るよう新たに有線送信権の規定が設けられた。また、ケーブルテレビなどの発達に対応して、放送事業者の保護に準じて、有線放送事業者を著作隣接権制度による保護の対象として追加した。この改正法は、翌六十二年から施行された。

ビデオ海賊版の取締り

 録画機器が普及するに従い、権利者に無断で複製されたいわゆるビデオ海賊版が大量に出回るようになった。このことも権利者にとっては大きな不利益になることだったので、昭和六十三年、権利者に無断で複製されたビデオなどのいわゆる海賊版の取締りを強化する法改正を行った。これにより、海賊版ビデオを貸与目的でレンタル店の店頭に陳列するなどの海賊版を頒布目的で所持する行為は著作権を侵害するものとみなされ、罰則の適用が可能となった。また、この時著作隣接権の保護期間を従来の二十年から三十年に延長するなどの措置も講じた。

レコード保護強化

 平成三年にはレコードの保護強化等のための改正を行った。昭和五十九年の改正では、国内の実演家やレコード製作者の貸与権を認めたものの、外国の実演家及びレコード製作者には認めていなかった。国際条約上これは特に問題になることではなかったが、我が国の場合貸レコードで洋盤が多く貸し出されている事情を考慮し、国際的な権利保護の実質を上げる観点から、これを認めることにしたものであった。また前回改正で三十年に延長した著作隣接権の保護期間を更に五十年に延長した。外国レコードからの無断複製等に対しても取締り措置を強化した。

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