一 戦後国語施策の見直し

戦後国語施策の見直し

 終戦直後に実施された「当用漢字表」や「現代かなづかい」などの一連の国語施策は、国語表記の平明化を図り、教育上の負担を軽減し、社会生活上の能率を増進することによって文化水準の向上に資するという目的をおおむね実現したと言えよう。しかし、その反面これらの漢字表等の制限的、画一的な取扱い方は、国語の表現を束縛し、表記を不自由なものにするという批判や一般社会の漢字使用の実情に合わないという指摘がなされるようになった。また拘束力の問題や適用分野の問題、例えば各種の専門分野にまで一律に適用するのが適当かどうか、などについても論議が生じ、戦後の一連の国語表記に関する施策の再検討が要望されるようになった。

国語表記の答申とその実施

 このような批判や要望にこたえて、昭和四十一年六月、文部大臣から国語審議会に対して「国語施策の改善の具体策について」の諮問がなされ、国語表記の見直しが開始された。同審議会は、まず「当用漢字音訓表」及び「送り仮名の付け方」の改定に着手し、四十七年に「当用漢字改定音訓表」及び「改定送り仮名の付け方」を併せて答申した。引き続き「当用漢字表」及び「当用漢字字体表」の改定の問題を取り上げ、五十六年に「常用漢字表」として答申した。なお、さきに改定された「当用漢字改定音訓表」は、この「常用漢字表」に吸収・合併された。さらに、同審議会は「現代かなづかい」の見直しを行い、六十一年に「改定現代仮名遣い」の答申を行った。これらの答申を受けて政府は、四十八年に「当用漢字音訓表」(五十六年に常用漢字表に吸収されたことにより廃止)及び「送り仮名の付け方」を、五十六年に「常用漢字表」を、さらに六十一年には「現代仮名遣い」を、それぞれ内閣告示・内閣訓令によって実施に移した。

改定漢字表等の性格

 漢字表等の国語表記改定における最大の改革点は、その取扱いの性格の変更である。改定された漢字表等は、従来の制限的、画一的な色彩を改め、表記上の「目安」(常用漢字表)、「よりどころ」(送り仮名・仮名遣い)という、ゆとりのある緩やかなものと位置付けた。また、従来の漢字表等が、国民生活すべての分野に及ぼされるものであるかのような誤解を与えがちであった点を改め、適用分野は「法令、公用文書、新聞、雑誌、放送など、一般の社会生活」であること、「科学、技術、芸術その他の各種専門分野や個々人の表記にまで及ぼそうとするものではない」ことを明確に示した。

 このように画一性、拘束性を否定し、柔軟な取扱いにしたことについては、おおむね評価され、好感を持って社会に受け入れられた。

改定の内容

 「送り仮名の付け方」は、送り仮名の付け方の規則を簡明にし、活用語尾を送ることを主要な原則とするとともに、慣用を尊重して例外、許容を設けたものである。

 「常用漢字表」には当用漢字の一、八五〇字より九五字多い一、九四五字が掲げられた。なお、この常用漢字表の先に改定された「当用漢字音訓表」は、この「常用漢字表」に吸収・合併された。

 「現代仮名遣い」は、語を現代語の音韻に従って書き表すことを原則とするとともに、慣習を尊重して特例を設け、「現代かなづかい」に比べて構成を簡明にしたほか、歴史的仮名遣いとの対照表を付表として添えた。このほか若干の改定があるが、従来の「現代かなづかい」が実施後四十年を経過し、一般の社会生活における使用状況が十分安定し、国民の間で広く支持されているとの判断から、実際上の表記の仕方にはほとんど変化がなかった。

外来語の表記

 昭和六十一年の「現代仮名遣い」をもって戦後国語施策の見直しは一応の決着を見たが、国語審議会はこれに引き続き、「現代仮名遣い」に関連する事項として外来語表記の検討を進め、平成三年二月、「外来語の表記」の答申を行った。この答申を受けて政府は、同年六月に「外来語の表記」として内閣告示・訓令によって実施に移した。この「外来語の表記」は、使用する仮名について、外来語や外国の地名、人名を書き表すのに一般的に用いるものと、それらを原音や原つづりになるべく近く書き表そうとする場合に用いるものとに分けて示し、その使い方をそれぞれ例示したものである。この「外来語の表記」の性格も、これまでの改定漢字表等と同じく一般の社会生活において現代の国語を書き表すための「よりどころ」というゆとりのあるものであった。

当面する国語問題

 絶え間なく進展する現代の社会の中で、国語をめぐり様々な問題が論じられている。言葉の乱れということがしばしば話題になり、また情報機器の発達や国際化の進展等に伴う新しい問題等も指摘されている。

 そこで平成三年九月に発足した第一九期国語審議会は、このような現代の国語をめぐる様々な問題について、改めてその所在を明らかにするとともに、今後適切な対応が望まれる問題にはどのようなものがあり、それにどのように対応していくのがよいか等のことについて幅広く審議しているところである。

お問合せ先

学制百二十年史編集委員会

-- 登録:平成21年以前 --