四 文化活動の広がり

 近年、国民の間で芸術文化に対する関心が高まるにつれ、文化と経済活動の関係が注目され始め、様々な形で民間企業等による芸術文化活動への支援が行われている。このような企業の活動は、戦前から既に見られたが、昭和六十二年以降の民間企業等の基本財産寄附による芸術文化関係の助成財団の増加、平成二年の社団法人企業メセナ協議会の設立、二年三月に発足した芸術文化振興基金への総額一〇〇億円を超す寄附金、おびただしい数の企業の名を冠した音楽等の公演の増加などによって、世の注目を集めるようになった。文化庁も、昭和六十三年には、国と企業等が協力して芸術創造活動を財政的に支援する芸術活動特別推進事業を始めたり、芸術文化振興基金への寄附金を受け入れるなど、民間との協力に積極的に対応した。芸術文化の振興に当たっては、企業等民間による芸術文化活動への積極的支援を助長することが極めて重要である。このため、国と民間との協力事業の推進、税制の優遇措置の拡大を進めている。

 国民が直接参加する文化活動は、音楽、美術、演劇、文学、民謡・民舞、吟詠、茶道、煎(せん)茶道、華道、香道、フラワー・デザイン、盆栽、囲碁、将棋、コントラクトブリッジ、菊作り、錦鯉(ごい)の飼育、食生活文化、服飾文化等の広範な分野にわたり、それぞれ、多くはここ二十年の間に設立された文化庁所管の公益法人を中心として普及が図られ、多様な文化活動が展開されている。

 近年のゆとりと豊かさに対する志向の高まりの中で、文化財に対する関心も増大しており、住民が文化財に愛着を持ち身近に接することができるよう文化財の活用がますます求められている。例えば、博物館や美術館等で美術工芸品等の有形文化財の公開を行うほか、平成元年度から行っている「ふるさと歴史の広場」などの史跡等の整備による活用や地域の活性化のための伝統的建造物群保存地区の利用、さらには、三年度に始まった「生活関連重点化枠」の中で実施されている「地域中核史跡等整備特別事業」などの新しい手段による活用のケースが増えてきており、今後、そのような観点からも、文化財保護行政の一層の強化が期待されている。

 また、四年六月、「地域伝統芸能等を活用した行事の実施による観光及び特定地域商工業の振興に関する法律」が成立し、地域に根ざした伝統的な民俗芸能等の活用が図られることとなった。

 今日、国際社会の中での我が国の地位向上に伴って日本の伝統文化に対する関心が高まってきており、日本古美術品の海外展などの要望が強くなってきている。さらに、世界中にある文化遺産の保存修復協力についても、我が国の進んだ技術が世界各国から求められてきている。このような状況の下、四年六月、「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」が批准され、文化財保護の分野においても我が国が国際的な協力を推進することとなった。

 情報化が進む社会の中にあって、国民の文化活動を支援するためには、文化に関する情報を迅速、的確に提供する情報システムの整備を行う必要がある。このため、昭和六十三年より国立博物館や国立文化財研究所において、文化財に関する情報システムの調査研究・設計やデータベースの構築を推進している。また、平成二年からは、地域における文化活動や文化団体等の情報を含む全国的な文化情報システムの構築について調査研究を開始した。

 文化振興の施策は、伝統文化の中から新しい文化を創造するため、新たな文化財の保存・活用施策を立てつつある新しい文化財保護施策と連携しつつ、時代の進展に即して充実が図られている。また、文化を通した国際理解・協力を図るため文化の国際交流の一層の推進を図っている。

 このような視点から、元年に発足した文化政策推進会議は、文化振興のための総合的な施策の在り方について審議を行っている。この中では、生活文化、地域文化、人材養成、練習・発表のための場の確保、芸術支援の在り方、文化の国際交流・協力について検討が行われている。

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-- 登録:平成21年以前 --