三 科学研究費補助金の拡充

科学研究費補助金

 この補助金は、あらゆる学術分野における優れた独創的・先駆的な研究を、格段に発展させることを目的として、大学等の研究者の自由な発想に基づく基礎的研究のうち、学術研究の動向に即して特に重要なものを取り上げて研究費を助成するものである。これまでに、基礎科学の分野において数多くの独創的、革新的な新知見を生み出し、優れた研究者グループを育て、新しい研究領域の開拓に多大な成果をあげてきており、我が国の学術振興にとって、極めて重要な意義を有するとともに、研究者にとっても極めて期待の大きい研究費である。予算額は、この二十年間に約六倍となり、平成四年度予算額は六四六億円である。

 文部省では、この補助金が、我が国の学術研究の推進に果たす役割等に配慮し、加えて、学術研究の急激な変化と展開に適切に対応していくため、その着実な拡充を図るとともに、次のように、この補助金制度の改善・充実に努力してきている。

学術的・社会的要請の強い研究の充実・強化

 人類共通の課題を解決する観点から学術的・社会的要請の強い領域を長期にわたって推進することを目的として、これまで設置されていた「がん特別研究」に加え、昭和四十七年以降、「自然災害特別研究」、「環境科学特別研究」及び「エネルギー特別研究」を新設してきた。五十九年の学術審議会答申及び六十年の同審議会建議(科学研究費補助金における重点領域の取扱いの改善について)の趣旨に沿い、学術的・社会的要請の強い研究を重点的、機動的に推進するための方策として、これまでの「特別研究」、「特定研究」を整理統合する形で、新たな研究種目として「重点領域研究」を設置した。この重点領域研究は、六十二年度から予算措置され、当初の設定領域数は二四領域であったが、平成三年度には六八領域が設定され、それぞれ活発な研究活動が展開されている。

特別推進研究の創設

 我が国の経済の発展に伴い、基礎研究の分野においても世界をリードするなど、その国際的地位に応じた貢献が求められるようになった。このような状況を考慮し、昭和五十七年、我が国が世界の最先端で競っている分野の研究であって、格段に優れた成果をもたらす可能性のある研究のための補助金の種目として「特別推進研究」が設けられた。以後その設置の趣旨にかんがみ、毎年一〇件程度の厳選された課題が採択されている。

優れた若手研究者への科学研究費補助金の創設

 昭和六十年には、将来の日本を背負う研究者養成の重要性にかんがみ、我が国の本格的なフェローシップ制度として日本学術振興会に「特別研究員制度」が創設された。これに併せて、優れた若手研究者にその研究生活の初期において、自由な発想の下に主体的に研究活動に専念するための研究費として、同特別研究員に科学研究費補助金の「奨励研究A」の申請資格を与えたが、その後、特別研究員の拡充に併せて、平成三年度からは、新たな研究種目としてこれを独立し特別研究員奨励費として予算措置している。

萌芽的・創成的研究の促進等

 世界の学術研究の動向や急速な変化等に適切に対処する必要があり、平成元年には、学術審議会から「科学研究費補助金の改善について」の建議が行われた。文部省ではこれを受けて、二年から、研究の芽生え期に創意豊かな着想を育てる方途として、自己の研究課題を「萌(ほう)芽的研究」である旨を説明する制度(自己申告制)を導入するとともに、申請採択制度の多様化を図るため、学術審議会が選定したテーマを新プログラム方式で推進するための「創成的基礎研究費」を創設した。また、三年には、学術研究の流れに柔軟に対応するため、既存の分科細目に加えて期限を限って流動的に運営する「時限付き分科細目」の制度を導入した。

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-- 登録:平成21年以前 --