一 初任者研修

初任者研修の動向

 教員の資質能力は、教員養成のみならず教職生活を通じて次第に形成されていくものであるが、中でも、新任教員の時期は、教職への自覚を高めるとともに、円滑に教育活動に入る大切な時期であり、この時期に実践的指導力を養い、自立して教育活動を展開できる能力を培うことは極めて重要である。このため、新任教員に対する研修に関しては各種の審議会等で試補制度などの提案がしばしば行われてきており、昭和四十六年六月の中央教育審議会答申は、「特別な身分で一年程度の実地修練を行うこと」を提言し、四十七年七月の教育職員養成審議会建議は、「採用後一年程度の実地修練を行わせることを目標に、組織的、計画的に初任者研修を段階的に実施すること」を提言している。

 こうした状況の下、五十二年度に、新任教員の実践的指導力の向上を図ることを目的として、教員の心構えについての研修として行われてきた新規採用教員研修を拡充し、新たに授業実習や授業研究についての研修を追加して行うこととし、全校種において実施した。

 その後も、五十三年六月の中央教育審議会答申、五十八年十一月の教育職員養成審議会答申において、初任者研修を実施することが提言されるなど、新任教員に対する研修の充実の重要性が指摘され続けてきたが、臨時教育審議会は、二十一世紀に向けての教育改革の重要課題として教員の資質能力の向上の問題を取り上げ、六十一年四月の第二次答申において、新任教員に対して実践的指導力と使命感を養うとともに幅広い知見を得させるため、初任者研修制度を導入することとし、早急に具体策を検討することを提言した。これを受けて、同年五月、教育職員養成審議会に対して諮問が行われ、六十二年十二月、同審議会は、「新任教員に対し、採用後一年間、指導教員の指導の下における教育活動の実務及びその他の研修を義務づける」旨の初任者研修の制度化を答申するに至った。これは、試補などの特別な身分で実地修練を受け、その成績によって教諭に採用するという考え方ではなく、教諭に採用後一年間の初任者研修を行うという現職研修の考え方に立っている。

初任者研修制度の成立

 文部省では、これらの動きを踏まえ、昭和六十二年度から、初任者研修の在り方を実地に即して研究するため、一部の新任教員を対象に初任者研修の試行を実施する一方、初任者研修の制度化を図るため、六十三年二月「教育公務員特例法及び地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律案」を第一一二回国会に提出し、活発な論議を経て、同年五月に可決成立した。これにより、文教行政の長年の懸案であった新任教員に対する研修制度が創設されることとなった。

 教育公務員特例法においては、初任者研修について次のように定められている。

 一 任命権者は、初任者に対して、その採用の日から一年間の教諭の職務の遂行に必要な事項に関する実践的な研修(初任者研修)を実施しなければならないこと。

 二 初任者研修の計画は、教員の経験に応じて実施する体系的な研修の一環をなすものとして樹立されなければならないこと。

 三 任命権者(県費負担教職員については、市町村教委)は、初任者研修を受ける者の所属する学校の教頭、教諭又は講師のうちから、指導教員を命じること。

 四 指導教員は、初任者に対して教諭の職務の遂行に必要な事項について指導及び助言を行うものとすること。

 五 教員の条件附採用期間を従来の六か月から一年に延長すること。

 初任者研修は平成元年度から学校種ごとに段階的に実施されており、元年度からは小学校、二年度からは中学校、三年度からは高等学校、四年度からは特殊教育諸学校の全新任教員を対象に順次本格実施され、初任者研修制度はすべての学校種で実施されている。なお、幼稚園及び特殊教育諸学校の幼稚部については、学校の組織や設置市町村の財政力等を勘案し、当分の間の措置として、初任者研修は行わず、四年度から初任者研修に準じた研修が実施されている。

 初任者研修においては、初任者は、学級や教科・科目を担当しながら、校内において指導教員を中心とする指導・助言による研修を週二日程度、少なくとも年間六〇日程度受けるとともに、校外において教育センター等における研修を週一日程度、少なくとも三〇日程度受けている。また、校外研修の一環として、四泊五日程度の宿泊研修を受けるとともに、都道府県・指定都市教育委員会から推薦された一部の初任者は、文部省が主催する洋上研修に参加している。

 文部省としては、初任者研修が、全国的に一定の水準を保ちつつ円滑かつ効果的に実施されるよう、初任者研修実施要項モデルや年間研修計画作成要領を示すとともに、実施のために必要な教員定数や非常勤講師の措置などの財政措置を講じている。

 初任者研修制度の導入により、初任者の教育力が著しく向上するのみならず、学校全体が活性化するなど様々な効果があがっており、制度として高い評価がなされているが、今後とも、各県市の一層の創意工夫や改善への努力が行われ、その質的充実が図られていくことが望まれる。

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