二 生涯学習と学校

生涯学習と初等中等教育

 生涯学習は学校教育の基盤の上に展開されるものであり、学校教育、特に小・中学校段階の教育は、生涯にわたる学習を行うために必要な基本的な能力と自ら学ぶ意欲・態度を育てる点で重要な役割を持っている。このことについては、昭和五十八年十一月の第一三期中央教育審議会の審議経過報告において、基礎・基本の徹底と自己教育力の育成が必要であるという提言がなされていたが、さらに臨時教育審議会の答申においてもこのことが指摘された。六十二年の教育課程審議会の答申においては、教育課程の改善のねらいとして、1)国民として必要とされる基礎的・基本的な内容を重視し個性を生かす教育の充実を図ること、2)自ら学ぶ意欲と社会の変化に主体的に対応できる能力の育成を重視すること、等が掲げられた。これを受けて、平成四年度から順次実施に移されている新しい学習指導要領においても、教育内容を基礎的・基本的な内容に精選し、思考力・判断力・表現力などの能力の育成を重視することとしている。

 高等学校については、生涯にわたる学習を行うために必要な基本的な能力と自ら学ぶ意欲・態度を育てることとともに、社会人が学習できる場として整備していくことが重要である。このことについては、定時制・通信制課程が、これまで勤労青少年に高等学校教育の機会を保障する上で大きな役割を果たしてきた。これを押し進め、生涯学習の観点から成人層を含めた種々の学習要求にこたえるため、文部省は、臨時教育審議会の答申を踏まえ、昭和六十三年度から定時制・通信制課程について単位制高等学校の制度を発足させた。単位制高等学校は、各学年の修了認定を行わず、単位の累積加算や科目履修生に対する配慮を可能にするなどの特色を持っており、生涯学習の観点から、学習者の幅広いニーズにこたえる学校としての役割が期待されている。平成四年度現在、公立の単位制高等学校は、二二都道府県で三一校、私立の単位制高等学校は、四都府県で五校が設置されている。

 なお、教育機関相互の連携としては、昭和三十六年に技能連携制度が創設されている。これは、高等学校定時制・通信制課程の生徒が、一定の要件を備えた技能教育施設(専修・各種学校、職業訓練施設など)で教育を受けた場合に、その学習を高等学校における教科の一部の履修とみなすもので、平成元年現在、約四万人の生徒がこの制度を利用している。

生涯学習と高等教育

 高等教育については、社会全体の生涯学習に対するニーズの高まりにこたえて、社会人の大学への受入れに配慮した履修形態の弾力化や多様な学習成果に対する評価の工夫が一層求められるとともに、教育研究の成果を地域社会に積極的に還元していくことが期待されている。このことについては、臨時教育審議会の答申を踏まえ、大学審議会の答申に基づいて、平成三年に、制度の大幅な弾力化・多様化が図られた。

 社会人の大学への受入れについては、学部レベル及び大学院レベルで、社会人のために特別の定員枠を設けたり、あるいは入学者選抜において特別の配慮を行う大学が増加した。また、大学を卒業又は中退した者や短期大学卒業者等に高度の学習機会を提供するための方策として編入学の制度があり、以前から国立大学に第三年次編入学定員が設定されていたが、編入学のための特別の定員枠を設定しやすいよう、三年に、大学設置基準の改正が行われた。

 夜間学部及び通信教育は、従来から社会人に対する高等教育の機会を提供する役割を担ってきた。夜間教育については、夜間学部及び夜間大学院が逐年増加し、三年には、学生の生活形態に応じた履修を可能にするいわゆる昼夜開講制が制度化された。なお、通信教育を行う大学の一つとして、昭和六十年度から学生受入れを開始した放送大学は、放送を利用して広く社会人等に高等教育の機会を提供する生涯学習機関として期待が寄せられている。(放送大学については、別の観点も含め、第三節で詳しく述べる。)

 また、大学におけるフルタイムの学習が困難な社会人等がパートタイムの形式で大学教育を受ける機会を拡大するため、平成三年に、科目等履修生の制度が新たに導入された。

 一方、高等教育の多様な発展に伴い、高等教育段階の様々な学習成果を適切に評価することが求められている。このことについては、大学・短期大学間の単位互換制度により、一定の範囲内で他の大学の授業科目の単位を大学の卒業に必要な単位として認定することができるとされていたが、三年に、大学以外の教育施設等における学習成果であっても、大学教育にふさわしい内容と水準を有するものについては、大学の判断でこれを評価し、一定の範囲でその大学の単位として認定する制度が導入された。

 さらに、三年には、生涯学習体系への移行に向けて、学位授与機構が創設され、短期大学や高等専門学校の卒業生等で大学の科目登録制等及び一定の要件を満たす短期大学・高等専門学校の専攻科において一定の単位を修得した者について学位授与機構において審査の上、学士の学位を授与すること等ができることとなり、高等教育段階の様々な学習の成果が適切に評価されることとなった。

 なお、四年三月には、社会人技術者の再教育推進のための調査研究協力者会議がリフレッシュ教育(新たな知識や技術を習得したり、陳腐化していく知識や技術をリフレッシュするために、大学等が職業人を対象として行う教育)の推進方策を取りまとめたところであり、大学等における積極的な取組が期待されている。

学校開放

 生涯学習における学校の役割としては、学校における教育研究の成果やその施設を地域住民に開放し、地域における生涯学習のニーズにこたえていくことも極めて重要である。

 大学における公開講座は、大学等における人的・物的資源を活用して、地域の人々に、高等教育レベルの学習の機会を提供してきた。大学公開講座は、平成元年度で国公私立合わせて約三、〇〇〇講座が開設され、十年前の三倍近くとなり、受講者も約四二万人に上っている。また、生涯学習の在り方に関する研究等を行う機関として、三年度現在五国立大学及び一国立短期大学で生涯学習教育研究センター等が設置されている。

 また、高等学校においては、元年度で約一、七〇〇の開放講座が開設され、九年前と比べ約五倍になるなど、成人の学習ニーズに応じて様々な内容の開放講座を行う学校が増加した。文部省では、高等学校開放講座の開設を促進するため、昭和六十三年度から助成を開始した。

 専修学校・各種学校は、成人、社会人を含む広範囲の人々を対象とする生涯学習機関として発展していくことが期待され、文部省では、平成二年度から専修学校の専門的な教育機能を地域に開放する専修学校開放講座の開設に対して助成を開始した。(専修学校・各種学校については、別の観点も含め、第四節で詳しく述べる。)

 また、今後の生涯学習社会における社会人・職業人のリカレント教育の重要性にかんがみ、文部省は、大学、短期大学、専修学校等の関係者が、地方公共団体、産業界関係者等の協力を得つつ、高度で実践的な学習機会を提供するリカレント教育推進事業を、三年度から新たに実施している。

 一方、学校施設の地域住民への開放は、昭和五十二年度から公立学校体育施設開放事業費補助が開始され、地方公共団体においても積極的に取り組まれた結果、五十年代になって急速に進んだ。五十九年度の公立学校の開放状況を見ると、運動場の開放は、小学校八四%、中学校七八%、高等学校四五%で実施されており、体育館の開放は、小学校八六%、中学校八一%、高等学校三三%に上った。

 大学についても、六十二年度に体育施設を開放した大学は全大学の八〇%に上り、また、大学図書館の開放は平成元年度で九六%の大学で実施された。

大学入学資格検定制度

 大学入学資格検定制度は、高等学校教育を受けられなかった者等に対し、能力に応じて広く大学教育の機会を与えるために昭和二十六年から設けられた制度であり、この資格検定を受け、一定の科目に合格した場合に大学入学資格が与えられるというものである。しかし、近年では、高等学校中退者数の増加などを背景に、受検者の多様化が進むとともに、受検者数も、特に五十年代末以降大幅に増加し、平成三年度は約一万七、〇〇〇人が受検し、約四、八〇〇人が合格した。

 このため、今後は、その基本的な性格は維持しつつも、このような実態の変化に着目し、生涯学習の観点から、学校教育への再度の挑戦の機会を与えるとともに、大学教育に対するアクセスの多様化を図る方策の一つとして、検定科目や検定方法等を検討することが課題となっている。

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