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1部   未来を拓く学術研究
第3章   学術振興の新たな展開
第1節   重点的な研究推進システムの活用に向けて
3   今後の方向と課題



(1) 研究分野の選定

重点的な研究推進システムを活用するに当たっては、研究動向や研究水準を的確に把握すると同時に、研究者を中心とする各方面の意向を適切に汲み上げ、効果的な施策を展開することが基本となり、重点的な研究推進を図るべき研究分野や研究課題の選定が重要となる。これは必ずしも容易ではないが、これまでの学術審議会等の議論を踏まえると、次のような観点からの検討が必要である。

1) 研究発展の内在的要請に基づき、必須の研究設備等が大型化・高額化するとともに、多数の研究者等の組織的共同が研究推進上不可欠な条件となっているもの
2) 研究分野全体の活力が高く、追加的投資により研究の格段の発展が期待されるもの
3) 社会的要請が強いものの、それに対応する学問分野が幅広い、又は研究拠点が散在していることから、研究者側の研究資源が集中しにくいもの
4) 研究の発展段階の観点から見て成長期にある分野で、適時に重点的投資を行うことにより、研究の効率的発展が期待されるもの
5) 当該分野の研究の発展が他の分野等の研究の発展に大きな波及効果をもたらすなど、学術研究における先導的又は基盤的意義を有するもの
6) 学術研究全体の整合性ある発展の観点から見て重要であるが、立ち遅れており、その進展に特別の配慮を必要とするもの
7) 学術的かつ社会的に重要であるにもかかわらず、国際的にみて対応が遅れているもの
8) 経済的・社会的な課題の解決に密接に関連しており、その解決を図るための国のプロジェクトの一環を形成し、その研究成果に対する社会的要請の高いもの

これらの多角的な観点から、例えば、地球環境科学、情報学、脳研究、感染症等の研究分野の重点的な研究推進が必要となっている。このうち、文部省として、緊急性が高く早急に取り組むこととしている地球環境科学、情報学研究の推進について、下記(2)、(3)で説明する。また、これらの分野についても人文・社会科学を含めた総合化が必要とされているが、今後の重要課題として、人文・社会科学研究の推進について、下記(4)で説明することとする。

今後、文部省として、重点的な研究推進を図るべき研究分野をより的確に見出していくため、内外における研究動向や各研究分野の研究費をはじめとする研究条件の現状を把握することが重要である。また、研究者を中心とする各方面の意向を適切に反映させるため、従来からその役割を果たしている学術審議会の機能を充実させていく必要がある。さらに、同審議会における検討を経て、新たな重点的な研究推進システムを構築することが必要である。


(2) 地球環境科学の推進

人類の存続にとって重大かつ緊急である地球環境問題の解決には、人間の生き方の再検討と、その基盤となる自然の理解の両方が必要であり、人文・社会科学から自然科学にわたる幅広い学術研究を総合化し、新たな地球環境科学を構築することが求められている。

平成7年4月、学術審議会は「地球環境科学の推進について」建議を行い、地球環境問題の解決を目指す総合的な共同研究を推進するために、地球環境科学の中核的研究機関を設立することについての検討を提言した。

その後、この建議を踏まえ、地球環境に関連する幅広い分野からの多くの研究者による「地球環境科学に関する中核的研究機関のあり方に関する研究」の報告書が平成9年3月に取りまとめられたが、その概要は下記(ア)から(ウ)までのとおりである。

文部省では、これらを踏まえ、更に具体的な検討を行うとともに、この中核的研究機関の実現に向けて取り組み、関係省庁とも連携・協力しつつ、地球環境科学の推進を図ることとしている。


(ア) 地球環境問題に関する研究の現状

地球環境問題という今日的課題に対し、地球科学、生態学、人文・社会科学、工学、農学など様々な分野において、研究者の強い関心が寄せられ、その解明や解決に資する研究が蓄積されつつある。

しかし、これらの諸分野における取組も、欧米諸国に比べて必ずしも十分とは言えず、また、これまでの研究の展開は、従来の学問分野の枠組みにとらわれ、分野間の十分な交流や協力のないまま進められてきた。


(イ) 地球環境科学の必要性

地球環境問題に取り組む学術研究には、地球環境変動のメカニズムを解明するとともに、人間活動と地球環境との相互関係を明らかにして、社会システムの在り方、ひいては人間の生き方について再検討を行い、自然と人間が共生可能な新たな文明の潮流を創造していくことが求められている。

そのため、地球環境に関連した諸分野におけるこれまでの取組に加え、新たな発想と視点の下に、地球環境問題の本質解明と理解及びこれに基づく問題解決を軸に据えて、人文・社会科学から自然科学までの幅広い学術研究を総合化することにより、「地球環境科学」という新たな問題解決型の総合科学を速やかに構築するとともに、そのための総合的な研究を推進する中核的研究機関を設立することが必要となっている。

また、地球環境問題に関連した様々な学問分野において、それぞれ研究が蓄積されつつあることから、新たな「地球環境科学」の構築に向けて、中核的研究機関を中心に、これら既存の研究活動の有機的な連携を図る研究体制を整備することが求められている。

一方、地球環境問題は地球規模の問題であるとともに、地域レベルの問題でもあり、我が国は、特にアジア・太平洋地域における先進国として、高い技術力の移転を含む積極的な貢献を期待されている。そのためにも、国際的な共同研究計画等の提案や実施を行う中核的研究機関の設置が必要である。


(ウ) 今後の研究内容と方向性

地球環境科学は、地球環境問題の本質解明と理解及びこれに基づく問題解決を目標とする総合科学として構築されるべきものである。この目標を達成するためには、次のような五つの大きな研究テーマ(1-3-1 )を軸に研究を進めることが考えられる。

・ (研究1)人間圏と地球システムの相互作用、地球環境変動メカニズムの解明
・ (研究2)人間活動が引き起こす地球環境変動の予測
・ (研究3)地球環境問題を引き起こす人間及び文明の在り方の考究
・ (研究4)地球環境問題への対応策
・ (研究5)地球環境問題の地域における研究
1-3-1 地球環境科学の研究内容と方向性


(3) 情報に関する研究の推進

学術審議会では、平成9年1月、情報学部会が情報に関する研究の今後の推進方策について審議を開始し、同年7月、「情報学研究の推進方策について(中間まとめ)」を取りまとめて公表したが、その概要は下記(ア)から(ウ)までのとおりである。なお、同年5月、日本学術会議において、計算機科学に関する中核的研究所の創設について勧告が行われている。

文部省では、これらの提言を踏まえて、大学院の拡充や、中核となる研究機関の実現に向けての取組をはじめ、その積極的な推進を図ることとしている。


(ア) 意義・重要性

情報に関する研究は、これまでの理工系中心の情報科学・計算機科学から、近年は、生命科学や人文・社会科学の分野まで幅広く関係を持つようになっている。情報に関する学問は、既存の学問の成果の蓄積の上に発展してきたが、その一方で、情報に関する研究から生み出された概念やコンピュータなどの技術は、今日、ほとんどすべての学問分野に活用され、これらの学問分野の発展や、新たな学問分野の創出に貢献している(1-3-2 )。

また、高度情報社会への進展が見られる中で、産業の発展や国民生活・文化の充実・向上に大きな役割を果たすものと期待されている。


(イ) 現状

我が国における情報に関する研究の現状を見ると、ハードに関する技術面では、世界をリードしてきている。しかし、コンピュータの基本ソフトウェアなどソフトに関する分野については、特にアメリカに比べ著しく遅れている面があると言われている。

大学の研究教育体制について見ると、学科や専攻、近年は研究科など、研究組織は相当程度整備されてきているものの、研究教育内容や教員構成に偏りの見られる例が少なくなく、研究者数や学生数も十分ではないとの指摘がある。

また、研究者数、社会への人材供給数とも、欧米、特にアメリカに比べて極めて不十分であり、大幅な拡充が必要であると指摘されている。

さらに、近年、欧米はもとより、一部のアジア諸国においても、情報に関する研究開発の積極的な推進を図るため、計画的な取組が行われている。


(ウ) 今後の推進方策

欧米に対する遅れを是正するとともに、世界の学術の振興に貢献するため、

1) 情報分野の中核的な研究機関を設置することが重要である。その際、大学学部・研究科、国立研究機関、企業等及び海外の研究機関等と連携し、情報関連分野の研究を全体的・総合的に推進することが強く求められる。
2) 人材養成(研究者、社会の専門人材)が急務であり、大学学部・研究科の一層の充実が必要である。
3) 人文・社会科学系まで含み、情報の意味や価値を見据えた、情報に関する学問の体系化に向け、必要な研究を進める。
4) 研究費について、情報関連分野の重点的な支援が強く望まれる。
1-3-2 情報に関する学問の構成


(4) 人文・社会科学研究の推進

学術審議会においては、昭和48年、59年及び平成4年に学術振興のための基本的な答申が行われている。これらの答申においては、学術研究全般の推進のための考え方や方策が提言されており、その中で、特に人文・社会科学分野を取り上げ、その特性に配慮した振興の在り方について提言が行われている。

例えば、平成4年7月の答申においては、人文・社会科学分野の研究動向を踏まえ、「人文・社会科学の推進を図っていくためには、その研究基盤を全体的に充実・強化することにより各分野の発展を促す一方で、特に必要性の強い分野については、重点的に推進を図っていくことが大切である。その際、地球環境、生命倫理、地域研究、政策研究など人文・社会科学の一層積極的な貢献が期待される分野に配慮することが適当である。」とされている。さらに、学術審議会研究体制特別委員会に設置された「人文・社会科学研究の推進に関する懇談会」が、人文・社会科学研究の推進の必要性と振興方策に的を絞った検討を行い、7年3月に「人文・社会科学研究の推進について」を取りまとめた。

また、科学技術基本計画は、自然科学分野にかかわる研究開発のための政策を総合的・計画的に推進することを目的とするものであるが、「自然科学と人文科学との相互のかかわり合いが科学技術の進歩にとって重要であることにかんがみ、両者の調和のとれた発展に留意する」ことを求めている。

このように、人文・社会科学研究の特性に配慮しながら、上記2に述べたシステムを活用して、人文・社会科学分野の重点的な研究推進を図ることが必要となっている。

なお、1996(平成8)年にドイツの連邦教育学術研究技術省が公表した白書 「連邦研究報告」においては、人文・社会科学の重要性について、次のように述べられている。

ドイツ「連邦研究報告」

「学術は我々の文化の一部である。同時に、学術は、大きな持続性をもって、ドイツの文化的発展を形づくり、具体化する。学術研究は精神生活の糧である。文化的豊かさと精神的風土が学術の発展の反映であることは言うまでもない。

連邦政府の研究政策は、我々の社会の創造力の中枢である学術研究によって方向付けられており、人間行動の複雑さや、その基礎についての理解の深化を促すため、人文・社会科学の重要性を強調するとともに、人文・社会科学と自然科学の対話を支援する。

現代の社会発展によって生じる重要問題の多くは、『自然科学的・技術的』に解決されることはなく、それどころか、科学技術の発達の速さと深さは、社会が有する、価値を基礎にした座標系や、各人の行動を方向付ける力に対して問題を提起する。学術は、科学技術の発達の倫理的基礎や限界の問題にも取り組んで、規範的基礎の確立に重要な貢献を行う。

学術と社会の対話は必要不可欠であり、学術は『関与しなければならず』、積極的に発言を求めなければならない。連邦教育学術研究技術省は、この対話を、企画や出版によって強化し、中心課題として支援するとともに、新しい技術・開発の社会的受容の進展に貢献しよう。」


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