ここからサイトの主なメニューです
前(節)へ  次(節)へ
1部   生涯学習社会の課題と展望-進む多様化と高度化-
  むすびにかえて

生涯学習社会の実現に向けて、第3章では幾つかの課題と対応策を示した。現在、多くの人が所得水準の向上、自由時間の増大、高齢化の進行などの社会の成熟化に伴って、学習に生きがいや楽しみを見いだしたいと願っている。また、科学技術の高度化、情報化・国際化の著しい進展、産業構造の変化などに伴い、高度で体系的・継続的な学習を行い、新たな知識・技術を習得したいと考える人も増えている。

このような動向に対応するためには、様々な機関・団体の連携・協力の推進の下、より多様な内容の学習をより多くの場所で提供することが一層大切になってこよう。また、学習に取り組もうとする人を支援するための情報提供・学習相談体制の整備、学習の進展に伴って生じる時間の確保や経費負担の問題への対応、さらには、学習の成果に対する適切な評価の促進も一層重要な課題となると考えられる。

特に最後に述べた学習の成果に対する適切な評価については、従来の形式的な学歴に依存しがちな状況を変えていく契機となるものである。生涯学習社会の実現を目指す理由として学歴社会の弊害の是正が挙げられていたこと、そしてその是正には、現在の学歴以外にも、評価の対象となり得る多様な基準が作り出され、社会に受け入れられることが重要であることを改めて認識すべきであろう。

一方、学習者にとっては時間的・距離的な制約も大きな問題である。このため、通信系マルチメディアの活用や放送大学の全国化といった課題が今後一層重要性を増してくる。また、先に述べたように各教育機関で行われる体系的・継続的な学習へのアクセスについては、まとまった時間や経費をどう確保するかということが極めて重要な課題となる。教育訓練休暇制度やフレックスタイムの導入・普及、奨学金制度の充実等についての取組が更に必要となってくる。

これらのことを考えると、学習の多様化とそれに取り組もうとする人々の拡大の中で、「生涯のいつでも自由に学習機会を選択して学ぶことができる」ということの実質的な意味が今後ますます問われるようになるとも言える。

今後の取組の方向性については、既に、生涯学習審議会をはじめとして、各方面から提言がなされており、国,地方公共団体もこれに沿って取組を進めている。この点からすれば、生涯学習社会実現に向け着実な歩みがなされているとも言えよう。

しかしながら、これらの取組やその成果が必ずしも学習に関連する様々な機関・団体、あるいは学習者の間に浸透しているわけではない。現実は、幾つかの仕組みができてもそれらが十分には機能していないという状況があることも否定できない。

平成8年の生涯学習審議会の答申も基本的にこうした問題意識に立つものと言える。生涯学習審議会の提言している幾つかの施策を見ると、新しいものばかりではない。むしろ、制度的には現在でも可能になっているにもかかわらず、十分な活用がなされていないものを今後どうするのかという視点に立つものも多い。

制度がありながら、必ずしもそれが活用されない原因としては、一つの制度が機能するためには、これに関連する様々な条件を整えなければならないことが指摘できよう。例えば、先にも述べたように、大学が社会人を受け入れる仕組みを作っても、社会人が継続的に学習できる時間の確保や経済面での裏付けが伴わなければ現実にはその制度は動かない。ただし、これらがすべて国や都道府県、市町村の施策としてなじむものばかりではない。企業が、多様な学習経験やその成果を積極的に評価しようとする姿勢を広く社会に提示して、人々の意識を変えていくことなどが求められる。生涯学習社会実現のためには、多くの人々の努力が必要であることが更に明らかになってきたと言える。

また、これに関連して、個人の意識や個人が所属する家庭・地域、あるいは職場、さらには、社会全体の雰囲気といった問題もある。教育訓練休暇制度を有するフランスにおいてこの制度がなかなか機能していない原因の一つとして、職場を離れることへの抵抗感や人間関係の不安が指摘されている。このことは我が国も参考とすべきであろう。生涯学習社会の実現のためには、社会全体が個人の学習しようとする気持ちを大事にし、その成果を生かそうとする雰囲気が醸成される必要がある。

平成8年4月の生涯学習審議会の答申を受けて、文部大臣が各経済団体と会合し、社会人が学習しやすい環境を作り出すこと等について企業側に協力を要請したのも、こうした問題意識に基づくものである。

生涯学習社会の実現は、我が国が直面している様々な問題点を「様々な学習活動の展開とその適切な評価」を通じて打破し、豊かで活力ある社会を築くための手段であった。しかし、その生涯学習社会の実現を図ろうとする取組を通じて幾つかの課題が浮かび上がってきた。人々の学習活動が活発化していることは確かであるが、そのことは、必ずしも将来の生涯学習社会の実現を保証してくれているものではない。我々の意識を含め、様々なことが変わらなければならない。

文部省は、引き続き、生涯学習社会の実現の必要性について人々に訴えるとともに、人々の生涯にわたる学習活動を支援するため、学習機会の充実や学習情報・学習相談体制の整備、学習成果の適切な評価等、多様な取組を関係機関・団体とも連携しながら進めていく。

しかしながら、生涯学習社会は、文部省のみならず、他省庁、都道府県、市町村、学校、企業、その他多くの機関・団体、個人の主体的な取組があいまって初めて実現するものである。このことを改めて訴え、むすびに代えることとしたい。


前(節)へ  次(節)へ

ページの先頭へ   文部科学省ホームページのトップへ