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1部   初等中等教育の課題と展望
第3章  諸外国における初等中等教育の動向
第3節  イギリス
1  初等中等教育改善の背景・方向


「この法律により,教育水準を向上させ,選択の機会を拡大し,良い教育を受けた明日のイギリスを創る新しい機構が生まれる。」これはベーカー教育科学大臣(当時)が,1987年12月下院で行った教育改革法の趣旨説明の一部である。この発言は,教育水準の向上,それによる明日の国力の強化,教育における親の選択を重視する,政府の教育改革にかける決意の一端を示すものとして理解されている。

教育改革法はサッチャー政権が教育改革の総仕上げとして1988年7月29日に制定した法律で,初等中等教育から高等教育に及ぶ広範な改革事項を規定している。同法では数多くの事項を規定しているが,初等中等学校における学力の向上については,公営の初等中等学校の主要教科について共通な基準を定める全国共通教育課程の導入が,注目されている。

イギリスにおいては1970年代から初等中等学校の児童生徒の学力の低下に対する懸念が高まった。学力低下の要因としては,1960年代以降普及した児童生徒の興味に偏った教え方と,教育内容に関する全国的な基較でイギリスの生徒が西ドイツや日本よりも悪い成績をとったため,学力の低下と国の経済の停滞との相関関係を指摘する声も高まった。

1979年に成立したサッチャー政権は,このような問題を解決するため教育改革の最重要課題に教育水準の向上を掲げて,特に教育内容の改善,試験制度の改革,教員の資質向上について次の対策を講じてきた。

教育内容については全国共通の基準がなく,地域間や学校間の格差が大きかった。また必修教科が定められていないために中等学校では物理,外国語などの主要教科を履修しない生徒も多かった。そのため教育内容の改善については,義務教育年齢の児童生徒を対象に主要教科の全国共通の基準を設定することが最大の課題とされてきた。

そこで1984年以降主要教科のガイドラインを順次作成・刊行し,1988年に成立した教育改革法で全国共通教育課程(NationalCurriculum)の創設を定めた。また16歳において行われていた2種の資格試験を,この年齢の生徒の発達段階に適したものにするため,1988年に中等教育修了一般資格試験(GCSE)に一元化した。

教員の資質向上については,1983年の白書「教員の質」(TeachingQuality)において示された改革構想に基づき,教育実習の充実などの教員養成課程の改善,現職教育の拡充・強化,勤務評定の導入の3点を中心に改革を進めてきた。

イギリスでは近年学校教育に対する親の要求が多様化してきている。

そこで親の学校運営への参加の機会を拡大するとともに,親の学校選択の機会を拡大する必要が高まってきた。そのため1986年の教育法で親の代表を含む学校理事会の権限を強化し,1988年の教育改革法で初等学校及び中等学校の運営と選択について次の施策を定めた。

第一に,親の学校選択の幅を広げるため,公営学校(地方教育当局が設置し運営する公立学校と,有志団体が設置し地方教育当局が維持する有志団体立学校の2種類がある)の入学定員を拡大すること。

第二に,個々の実情に応じた学校運営を行うため,公営学校における予算の運用と教職員の任免に関する権限を地方教育当局から学校理事会へ委譲すること。

第三に,公営学校が理事会の決議と親の賛同によって,地方教育当局の管轄を離れて国から直接補助金の交付を受ける国庫補助学校へ地位変更することを認めること。国庫補助学校の創設により,公費で維持する学校の種類が増え親の学校選択の機会が拡大することと,地方教育当局の方針とは異なる学校運営が可能になる。

またこれらの施策は学校の自助努力を高め効率的な学校運営を推進するものであるから,教育水準の向上に寄与するものと考えられている。

後期中等教育については,科学技術の発達,産業構造の高度化,若年失業者の増大などに対応した職業教育の改善が課題とされ,企業との協力による若年者訓練事業(YTS)を開始して産業界の実状に適応した職業教育の拡充を図ってきた。

1-3-5  イギリスの学校系統図


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