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1部   初等中等教育の課題と展望
第3章  諸外国における初等中等教育の動向
第2節  アメリカ合衆国
1  初等中等教育改善の背景・方向


アメリカ合衆国では,1970年代ごろから,公立初等中等学校で行われている教育の質について,特に学力低下及び規律の乱れに対する懸念が高まった。1980年代に入ると初等中等教育の改善を求める動きが各州に広がり連邦教育省の審議会報告書「危機に立つ国家」の発表(1983年4月)を引き金として,教育改革運動が急速な進展を遂げた。

学校教育の全般的改善を目指すこの運動の発生要因として,次の諸点が挙げられる。第一は,過去約20年間に,公立初等中等学校の教育が質的に衰退し続けているという認識が市民の間に浸透し,学校教育の成果に対する市民の不満が高まっていたことである。第二は,アメリカ経済の国際競争力の低落を初めて体験したことがら,国の将来に対する危機感が高まったことである。経済再生に果たす教育の役割に関心が注がれるようになり,特に産業界及び政界の指導者層から国際競争力増強のために教育の質の向上が求められるようになった。なかでも,ハイスクールの教育が学力及び規律の面で危機的状況にあるとの認識が示され,改革は後期中等段階から着手された。

学力低下の状況を示す分かり易い例として,最も広く用いられているのは,大学入学志願者が受験する全国的な標準テストの得点の低下である。 1-3-3 はそのようなテストのうち代表的なSAT(大学進学適性テスト)得点の全国平均値の推移を表示したものである。学力低下の原因については,過去において学校が児童中心・経験主義的教育観に依存し過ぎたとの指摘がみられる。教育内容の行き過ぎた多様化を是正し,ある程度の基準性を確保するべきことが要請されるようになった。「危機に立つ国家」は,教育内容に共通性を取り戻すとともに,それを学間的に程度の高いものにするべきことを勧告した。そのため,新しい共通必修教科(ニューベーシックス)として5つの教科(国語,数学,理科,社会科及びコンピュータ科学)の履修を全員に義務づけるよう要請している。同じころ,カーネギー教育振興財団等の民間諸機関及び個人の研究者等から多数発表された同様の趣旨の改革案も,知育への関心を喚起した。

教育改善に果たす教員の役割が重視されていることから,すべての州において新しく教職に関する多様な政策がとられている。それらは,養成,免許,研修,待遇等教職のほぼすべての分野を網羅している。

規律に関する諸問題,特に薬物乱用,10代の妊娠等は大都市の学校を中心に近年ますます深刻化している。これらの問題は中途退学の原因となり,また,生徒の学業成果にも影響を及ぼす事柄でもあるので,質の一斉引上げを課題とする現在の学校教育にとって重要性を増している。

連邦政府の統計によれば,ハイスクールを中途で脱落する者の割合は,全国平均で28.9%(1987学年度)である。この割合は,大都市のハイスクールではもっと高く,例えばニューヨーク市の場合は,市教育委員会の発表によると45%(1979学年度)である。アメリカ社会の伝統的価値体系は,1970年代に急激で根底的な変貌を遂げたといわれ,その結果,家庭及び地域社会の教育的機能の低下がもたらされた。学校が市民道徳の基本を教育するよう求められ,また,1970年代以降は非英語圏及び非ヨーロッパ地域からの移民の子どもたちが急速に増加していることもあって,アメリカ的価値,特に民主主義的諸価値の伝達が学校に強く期待されるようになった。

「危機に立つ国家」から5年後の1988年に教育長官は報告書「アメリカの教育-その活性化に向けて」を発表した。アメリカ合衆国の教育水準は向上しつつあるが,その程度はまだ不十分であり一層の努力を必要とするというのが要旨である。

1980年代は,学校教育特に後期中等教育に卓越性を回復させることが教育の最大の目標とされている。そのため,州は,連邦のリーダーシップに応じてまず包括的な教育法に基づく州主導型の改革路線を採ったが,1980年代の後半に入るとこの方法の限界が指摘されるようになった。州法規による改革は,標準化及び効率化という点で効果をあげているが,反面,個々の学校及び生徒の有する個別かつ多様なニーズに応ずるのには不適切な性格も併せもっている。そのような欠陥を是正するためには,教室での教授=学習の過程に真に有効な変革を起こさせることが重要であるとの認識が広がった。このような観点から学区及び学校レベルでの個別化された自主的な改革が重要視され始めている。

各地の学校は,このような状況のなかでそれぞれ独自の取組みをみせているが,その方法及び態様は多様である。

1-3-2  アメリカ合衆国の学校系統図

1-3-3  大学進学適性テスト(SAT)得点の推移


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