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1部   初等中等教育の課題と展望
第3章  諸外国における初等中等教育の動向
第1節  概説


1980年代から1990年代に向かうなかで,我が国と同じように,諸外国でも国際経済の競争激化,科学技術の急速な発達など様々な社会,経済の変化を経験している。また家庭,地域社会など子どもを取り巻く環境も大きく変わりつつある。こうした状況の下で,各国は,これらの変化に対応して様々な初等中等教育の改善に取り組んでいる。

しかし,各国の初等中等教育の改善は,こうした共通の背景をもちながらも,その具体的展開においては,各国が抱える固有の事情からも大きな影響を受けている。アメリカ合衆国やイギリスでは,経済の国際競争力の低下に直面し,経済力の回復を図る戦略の一環として教育改革を推進している。ソ連においても低迷する経済の活性化を図る一連の改革のなかに教育改革を位置付け,国の重要施策としてこれを行っている。

また,科学技術の発達や情報化の進展等も教育の在り方に大きな影響を与えており,フランスは科学技術の新時代に対応する教育政策を掲げている。1992年に予定される欧州市場統合も,関係国の間に国際化等の対応を促している。

その一方で,教育や子どもをめぐる状況については,アメリカ合衆国やイギリスを始め多くの国では学力の低下が深刻な問題として認識されている。また,アメリカ合衆国など,規律の乱れ,問題行動の増加といった問題を抱えている国もあり,早急な対処が求められている。このほか,西ドイツでは子どもの急激な減少が大きな問題とされている。

本章では,以上のようなことを背景に進められている初等中等教育の改善の動向を,アメリカ合衆国,イギリス,フランス,西ドイツ,ソ連の各国についてみていく。これらの国の施策の具体的な展開は第2節以下で各国別に述べるが,ここでは我が国の初等中等教育の問題とめ対比においでみた各国の事情についていくつか指摘しておきたい。

教育内容・方法については,我が国ではこれまで画一的・硬直的に過ぎた面があったため,個性重視の観点から特に中等教育を中心に多様化・弾力化が図られているが,アメリカ合衆国やイギリスは,これと対照的に共通性・基準性を強める方向に向かっている。これらの国では,従来教育課程が多様であったか又は共通の基準がなく,このことが学力低下の一因であったとされている。特にこれまで教育課程について国が基準を設定することがなかったイギリスでは,1988年教育改革法を成立させ,義務教育段階の必修教科を定め,教育内容に共通の基準を設けるようにした。また西ドイツのギムナジウム(普通中等学校)の上級段階でも選択制の拡大の結果低下した学力を回復するため,主要教科について必修を増加させている。

しかし,フランスではむしろ我が国と同様,進路指導の適正化と併せて生徒のコース・科目選択や履修の方式の弾力化を進めている。ソ連でも教育課程が画一的・硬直的であったとして,選択科目の増加が図られている。

後期中等段階の教育については,各国の事情により状況が異なっている。制度面では,我が国やアメリカ合衆国ではほぼ1種類の学校となっているのに対し,イギリス,フランス,西ドイツなどの欧州諸国では,多様な種類の学校が併存していることが特徴的である。また,欧州諸国では1日の一部または週のうち数日を学習にあてるパートタイムの課程・学校が比較的普及している。

後期中等教育への進学状況をみると,我が国やアメリカ合衆国では90%以上の生徒が義務教育修了後も進学・進級し,学習を継続するが,欧州諸国では就職その他により学校を離れる者が少なくない( 1-3-1 )。これらの国では,こうした学校を離れた青少年を含めた教育・訓練についての対策が求められている。若年失業が深刻なイギリス,フランスでは就職に有利な技能を身に付けさせるため,青少年を対象とする職業訓練事業が1980年代に大規模に実施されてきている。

学校教育の多様化,弾力化という点では,イギリスでは,大学入学資格試験のために過度に専門化していた後期中等教育について履修科目の幅を広げるような措置を講じているが,アメリカ合衆国では,教育内容・方法について州の主導により共通性,基準性を強める方向にあるものの,近年になり,一部の学区や学校で,個別のニーズにこたえて多様なコースを提供したり,場合によっては学区を越えた通学を認める「学校選択」を試みるなどの動きがみられる。

ソ連では,後期中等教育の最終学年まで義務教育となっているが,この段階においても,選択科目の増加とともに,人文,物理・数学,化学・生物など特定分野を深く学習する特別学校や特別クラスを増設するなどの多様化が図られている。

なお,アメリカ合衆国では希望者全員を中等学校へ入学させ,また欧州諸国では本人・親の希望に基づき各学校での教員の指導等により進路が決定し,後期中等教育への進学にあたって選抜試験が行われないため,我が国のような高校入学のための受験競争はない。

児童生徒の問題行動については,我が国では校内暴力やいじめ等が社会問題ともなって,徳育や生徒指導の充実が求められているが,アメリカ合衆国では薬物乱用や10代の妊娠等が大都市を中心に近年深刻化しており,学校教育においても市民道徳の教育が求められるようになっている。ソ連においても青少年の非行が増加していることを問題視し,生徒指導の強化を図っている。なお,欧州諸国でも青少年の間に薬物使用がみられるが,我が国やアメリカ合衆国と異なり,これらの青少年が必ずしも学校に在学していないこともあり,この問題に対しては現在のところ政策的には学校教育の取り組むべき課題として高い優先度は与えられていない。

また,我が国では高校在学者の2%強が毎年中退しているが,諸外国ではアメリカ合衆国やフランスなど中退者がこれをはるかに上回る規模で出ている国もある。例えば,アメリカ合衆国では,連邦政府の統計によれば,約29%の生徒が中等学校卒業までに中退しており,その理由には薬物乱用や妊娠,学業不振が多い。フランスでも,国民教育省の報告によれば,何らの中等職業資格も取得できずに中退する者がこの10年間で半減したとはいえ,依然11%生じており,2000年までにこれをさらに半減するという目標を掲げて魅力ある教育内容の開発などの努力を続けている。

教員の資質向上については,教員の質的低下あるいは教員の不足に悩む国が少なくなく,教員問題を政策の大きな柱として養成,任用,資格,研修,待遇の様々な面で対策を講じている。我が国でも,学校教育において教員に期待される役割が大きいことから,養成,採用,研修等の改善を通じ教員の資質向上を図っているが,特に待遇については優れた人材を確保するため,一般公務員を上回る給与支給を規定する法律(「学校教育の水準の維持向上のための義務教育諸学校の教育職員の人材確保に関する特別措置法」)が昭和49年に制定され,優遇措置が講じられている。

養成の面では,教員養成課程の基準の明確化(アメリカ合衆国,イギリス),履修要件の拡大(アメリカ合衆国,ソ連),養成機関の統合再編(フランス)などによる教員養成教育の改善,あるいは教育の普及・拡大等により不足する教員の補充のための養成課程の定員拡大(フランス,ソ連)を図っている。

教員資格を見直しているアメリカ合衆国やフランスでは,おおむね資格の厳格化,高度化を図っている。教員の研修については,国の補助金の交付(イギリス),研修の法律による義務づけ(西ドイツ)などにより各国共通に拡充している。教員の待遇については,アメリカ合衆国,フランス,ソ連では,給与が一般的な水準より低いので,給与の引上げを図っている。

1-3-1 義務教育修了者の進路状況


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