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第5章
長期総合教育計画
2 教育計画に取り入れるべき諸要素
(2) 教育投資の有効な配分


第2に教育投資の配分の問題は,教育の効果をあげること,いいかえれば投資効果をあげる意味において,きわめて重視すべきことがらである。

教育投資の効果的な配分のために特に留意すべき点は,進みゆく社会・経済の要請の中で発展的に教育をとらえることである。技術革新を基軸とする経済の成長と社会の高度化は,われわれの想像をこえた変容をもたらすであろう。新たに現実となりつつある重化学工業の比量の増大,第3次産業の拡大,それにともなう職業人口構造の変化,国民消費水準の向上,労働時間の短縮と余暇の増大等の諸傾向と,これにともない展開されるわが国の政治・経済・社会・文化の諸分野における新しい姿およびこれを導く新しい人間像など,考慮す べき諸要素はきわめて多角的であり複雑である。

このような社会・経済の将来にわたる発展の姿は教育発展の目標とされるべきものであると同時に,教育によって導かれてゆくべきものであることを思えば,教育の最も重要な使命は,すべての国民のもって生まれた能力をじゅうぶんに開発するということである。教育によって個人のもついろいろな姿のすぐれた能力を高度に開発し活用するとともに,能力に恵まれない者に対してもそれぞれの限度において,あまねくこれを開発することは,教育投資の配分を考える際の基本的な態度でなければならない。この基本的な態度に立って,以下長期総合教育計画の策定において教育投資配分の観点から,特に考慮すべき問題点を提起してみたい。


a 後期中等教育の完成

わが国において,義務教育終了後の15歳〜17歳という身心ともに成長する重要な時期にあるすべての青少年に後期中等教育を与えることは,かれらの将来にわたる成長のためにも,伸びゆく社会の推進力をつちかうためにも,教育の投資の観点からは,きわめて重視すべき問題である。したがって,後期中等教育の拡充と完成は,長期総合教育計画において,第1に取り上げられなければならない要点である。中等教育の前期をなす中学校に続く後期中等教育を完全に普及するためには,まず,この年齢層の青少年の発達段階から考えて,その能力,適性および進路に応じた適切な教育を与えることが必要である。そのためには,必ずしも従来の学校制度の既成概念にとらわれない弾力性のある教育制度を検討することが必要であろう。このさい能力・適性に応ずる教育や,個人と社会の要請に応ずる弾力的な教育制度が,人間差別や個人の発展を妨げるものでないという理解と配慮およびその保障については特に留意することが必要である。


b 高等教育の拡充

わが国の高等教育機関には,大学院,大学,短期大学,高等専門学校の4種類があるが,今日高等教育は,科学技術の進歩,教育の民主化および国民所得の伸張にともなって著しく拡大,普及し高等教育機関の性格・機能も大きな変化を遂げており,一方では大学を中心とする高度の学術研究という伝統的使命を保持するとともに,他面では,広い階層の人々に高い職業技術教育と市民的教養を与えるという,新たな重要な任務を果たすベきことが要請されている。

しかしながら,高等教育を受ける者はそれにふさわしい資質能力を備えた者であるべきこと,高等教育機関における専門分野別の構成については,人材需要の社会的要請をも考慮して定めるべきこと,および高等教育の水準を確保するためには,一定の基準を確保すべきことなどの基本的条件を忘れてはならない。

そこで,資質,能力を備えた者の選別の方法,特に入学試験制度の改善と,育英奨学制度の拡充,人材需要の社会的要請に対応する学部・学科の構成・規模,なかんずく科学技術の革新にともなう科学技術者の養成,産業社会の高度化に応ずる社会的人材の育成,さらに大規模化,大衆化という量的拡大にともない,ややもすれば遅れがちな高等教育機関の質的充実などは,教育投資的観点からは最も配慮すべき問題である。

さきにみたように,戦後における高等教育への教育投資の配分率の低下,特に学生1人当たり教育費の低下は,上に述べたような新しい事態に即して考えるときには,きわめて憂慮すべき現象であって,今後の教育投資は高等教育への配分率の上昇に向かって増額が図られなければならない。


C 科学技術教育の振興

科学技術の進歩は,経済の発展,社会の高度化を促進させることはいうまでもない。最近における進歩はまさに革新の名に値する著しいものがある。特に最近の技術革新は高度の学術研究に基づくもので,開発研究,応用研究とともに,基礎研究の重要性をますます強め,高度の研究者の育成を根本において必要としている。さらに生産技術の高度化は多数のすぐれた技術者・技能者の養成を強く求めている。教育がこの需要に即応するためには,大観的に,まず初等・中等教育において理数科を中心とした基礎学力を強化すること,高等 学校において工業課程を拡充すること,および高等教育機関において理工系部門を拡充することとその研究体制を充実すること,が中心的課題である。もちろんこのことは狭義の専門的知識や技術の修得のみを意味するのではなく,広い基礎学力と豊かな一般教養を修めた,進展する産業社会の科学者・技術者の養成でなければならない。

教育投資のこの面への配分いかんは,おそらく一国の将来の発展を左右するであろう。わが国における事情もまた決してその例外ではない。


d 教員の養成と確保

前章までに述べてきたように,わが国における教育の量的拡大と質的拡充は,たえず教員に対する需要の拡大と,その資質の向上を要求しつつ,あいともに発展してきているのである。一定量の教員を養成,確保し,その資質の向上を図ることなく,教育の物的条件の整備のみを進めることは,教育投資の効果を高めるゆえんではない。

教員についての今後の問題として,第1には拡大と充実を要求する教育の需要に教員の供給を対応させること,第2に,教育の本質とその新しい発展に対応する新しい型の教員の養成を検討することが望まれる。第1の問題については,従来の人材養成計画では,教員の需給計画の配慮が欠けていた。したがって,教員の需給計画に基づいてその養成計画をたて,これを社会全体の人材需給計画におり込んでゆくことが,いわゆる人材開発政策の基本でなければならない。

なかんずく社会の他の分野の需要に応ずる専門分野の教員の養成と確保が図られなければ,教育の発展はもちろん,期するところの社会・経済の発展もその基礎からくずれることになる。この意味で特に科学技術系教員の養成と確保,具体的にはその待遇の改善がじゅうぶん考慮されなければならない。


e 学習指導の改善と物的条件の整備

教育の発展は,広く国民に教育を施すことによる量的拡大とともに,その水準の向上を意味する質的充実がともなわなければならない。教育の質的充実を図るため,教員の重要性とともに,学習指導の改善と物的条件の整備を忘れてはならない。教育内容が社会の発展に即応し,学習指導がまた能率的・合理的であることは,学習効果を高めるゆえんである。これには当然学校の施設・設備・教材・教具の整備充実がともなわなければならない。教育諸科学の発達にともなう学習指導・教授法の改善,視聴覚教材に代表される最近の教材の進歩,給食,保健など,学校教育の内容が豊富になったことなどは,教育投資の立場からみれば,いわば教師の技術装備率と資本装備率を示す指標である。教育効果を高めるために,この両要素の高度化に考慮をはらう必要がある。


f 国民資質の向上

今後の教育投資配分の重点について,これまで五つの問題を取り上げてきたが,もちろん問題はこれに限られるわけではない。この項の最初においても,今後の社会・経済の発展と高度化を想定するとき,国民のもてる能力の開発,活用が根本において教育の果たすべき使命であることを述べた。社会の特定分野の発展や限られた人材の力では,今後の経済成長も社会の発展も期しえない。国民全体の福祉の増進とは,国民のすべてが豊かな人間生活を享受し,またかかる社会を国民すべての力でささえていくことでなければならない。国民のもてるすべての能力を開発し,その資質を全体として向上させることが不可欠の要件となるゆえんである。この意味で,めざましい普及を遂げた義務教育の質的充実は,国民の基礎教育という観点で,今後もたえず努力すべき課題である。専門教育の高度化に対して,たえず基礎学力や教養教育への考慮がはらわれてきたのも,この観点に立つ。さらに進展,変化の激しい今後の社会・経済の姿を予想すれば,学校教育を離れた後においても,国民は不断にその知識,技術の更新と充実に努め,教養を深めていくことが必要であろう。成人教育や広く社会教育が社会人に欠くことのできないものとして新たに認識されてきていることは,顕著な世界的傾向でもある。教育投資の効果は,決して直接的な経済効果のみを目ざす理論ではなく,国民の福祉を増進し,広く,社会の進展において,その効果を求めるものであることを忘れてはならない。


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