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第5章
長期総合教育計画
1 長期総合教育計画の必要性と意義


これまでの各章では,教育投資がわが国の経済成長に果たした役割について,その総体的な効果を大観し,ついで教育の発展と社会,経済の成長の関係を特に教育の量と質の二つの面から考察し,進んで国民所得あるいは政府支出のうちの教育への投資量,教育投資のなかにおける初等,中等,高等の三つの教育分野への配分の推移,および教育費の負担関係の変遷の三つの面に重点をおいて,教育費の国民経済における実態とその効果を検討してきたのである。これは,わが国の教育の現在の実態を教育投資という観点から歴史的に,かつ諸外国との比較において,客観的,実証的に分析し,はあくしようとする試みにほかならなかった。

このことは,別の角度からいうと,わが国90年の教育史を通じてその特質を教育投資の観点から取り上げて,浮き彫りにし,これを諸外国における教育の発達段階とその特質との対比において,現在のわが国の教育の実態と問題点の歴史的・国際的位置づけを試みたのである。この歴史をふまえた現状の客観的・実証的な分析と認識は,とりもなおさず問題解決の方向を示し,その解決の努力を促し,将来の教育政策の展望につながるものである。

教育投資の観点から教育政策と教育計画を考える際に最も重視されるべき点は,公共投資の一部門として,すなわち,公共福祉に寄与する投資であるという考え方においてこれをとらえることである。教育施策を促す要因としては,通常大きく分けて,個人的な要請と社会的な要請との二つの面が考えられる。個人的な要請は主として個人所得の消費面における教育費支出として現われてくるものであり,教育の民主化や国民所得の上昇にともない,この面からの要請はいっそう強まる。たとえば,父兄,生徒の側からの上級学校への進学の希望とか,専攻課程の選択とかという形で現われてくる。これに対して,社会的要請は,進みゆく社会の必要を先見し,あるいはその必要に即応するために生ずるものであり,主として公共投資における教育費配分という形をとって現われてくるものである。両者は互いに影響し合いながら全体としての教育需要として現われるものであるが,教育投資の観点に立つ教育計画は,社会的要請の面におもな視点をおいて,換言すれば,きたるべき社会が何を教育に求めるか,また,教育が新しい社会の形成のためにいかに貢献するかの観点に立って,究極において,国民の福祉増進のために,長期的展望のもとに公共投資の一環として教育投資の計画化を図ることでなければならない。

このような角度に立った教育の政策・計画は,従来明白な形においては取り上げられてこなかった。その多くは,社会的要請を背景にしていたとはいえ,その取り上げ方が,近視的であり部分的であつた。たとえば近年各国にみられる例であるが,出生率の増加によって起こる学齢児童の増加を予測しての学校施設の増設計画とか,将来における教員の不足を予測しての教員の養成計画などの教育計画などは,この種類に属するものである。

しかしながら最近にいたり,世界各国がその必要を痛感し真剣に取り組んでいる教育計画とは,かかる近視的・部分的なものとは異なり,教育の各分野をおおう総合的な計画であり,それは当然に10年あるいは20年にわたる長期間を意図するものである。さらに,かかる長期総合的教育計画が,社会・経済発展計画の要請と密接に結びついているところに,従来にない新しい性格が見いだされる。

長期総合教育計画の登場は,ソ連の教育計画が国家的要請としての生産力拡充を主眼とする国家総合計画(ゴスプラン)と結びついて効果的に行なわれたことが刺激となったことにもその一面の理由があったといえようが,今日ではアメリカ合衆国でもヨーロッパ各国でも,あるいは欧米諸国の加盟するOECD(経済協力開発機構)においても,それぞれ高度経済成長を目ざし,豊かな生活水準をもつ福祉国家の建設につらなる「長期総合教育計画」の作成に取り組んでいる。

またこのような長期総合教育計画は,ひとり先進諸国において大きな関心を呼んでいるばかりでなく,「低開発国」においても,また真剣に取り上げられている。ラテンアメリカや,アジアおよびアフリカの各地域においては,あたかも百年前わが国が近代化を開始した時のように,経済の繁栄と社会の発展をもたらし,先進国との差をちぢめようとして,教育の役割に大きな期待をよせ,教育投資の可能な限りの努力をはらいつつある。これらの地域の国々では国民所得中に占める教育投資の比重を,従来の1%〜2%から4%〜5%へ引き上げ ることを目標において,経済の繁栄と社会の発展に直接結びつけて,その投資効果を有効なものにしようとしている。

教育計画はそれぞれの国の性格や発展の段階の相異によって,計画の考え方や取り上げ方や進め方に差異のでてくるのは当然である。しかし,教育計画において,(1)将来の進みゆく社会の要請をあらかじめつかむこと,すなわち,長期の社会・経済計画と緊密に結びついた総合的な長期的なものであること,(2)教育が社会・経済の発展に大きな役割を演ずること,すなわち,収穫をもたらす実りの多い投資であるという新しい思想と認識の上に立つものであること,(3)さらに,教育投資がどのような教育分野に,いつ,いかに配分されたら最も効果が大きいかという点を計画の中に含めていることは,そのいずれを問わず共通に見いだされる特色である。


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