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第3章
教育の目標・内容と社会・済の発展
2 わが国の教育目標・内容の史的展開
(5) 教育費からみた教育の質的発展


教員組織や設備・教材等の教育条件は教育内容に影響を及ぼすが,すベての教育条件を総括すれば,これを生徒1人当たり教育費によって教育の充実程度を検証することができる。

まず学校段階別にみると,小学校については生徒1人当り経費は明治以降年々増加傾向をたどっているのに対し,旧制中学校では,戦前までは横ばい状態で,戦後の新制高等学校になってようやく上昇を始め,大学・高等専門学校については,大正時代の高等教育拡充期になってから増加傾向を示しているが,戦後はかなり目立って落ちている。

小学校費が逐年漸増を示しているのは,義務教育の量的な普及に呼応して,質的な面でも充実に努力してきたことを物語っている。

中学校費が明治末から昭和初めにかけて1人当たり教育費が停滞ないし低下しているのは,主として中学校教育の普及によって,学校規模・学級規模が拡大し,しだいに適正規模化して来たために,いわば生徒1人当たり教育費が割安になったことによるものである。

大学についての戦後の低下現象には,義務教育の拡充が優先してじゅうぶんな経費の配分が遅れている面があるが,他面次の理由が存することを見落としてはならない。すなわち,第1は戦後は教育民主化を主軸としてその他もろもろの社会的要因により,大学がいわゆる大衆化し,その規模が拡大し,その結果教員1人当たりの学生数が飛躍的に増加したこと,第2は,戦前は大学の教員の給与が,小学校教員に比べてかなり高かつたのが,戦後は,両者のひらきが縮まってその給与が相対的に低下したこと,第3に戦前の大学と専門学校がすべて新制の大学となったことに伴い,教育研究面での物的条件の整備が相対的に遅れていることである。

次に生徒1人当たり教育費を使途別に分けると,「教職員の給与」,教材・消耗品費,修繕費,光熱費,衛生費,給食費等を内容とする「その他の消費的支出」,土地費,建築費,設備費等を内容とする「資本的支出」に分類される。小学校では,各経費はいずれも,伸びてきているが,その中でも「その他の消費的支出」の伸び方が特に大きい。「教職員の給与」が年次的に増加し,現在は明治時代の7倍となっていることは,教員数が充実して教員1人当たり生徒数が減少したことと,教員の待遇が改善されてきたことによるものである。「その他の消費的支出」の伸びの大きいこと,特に戦後におけるその著しい増大は,小学校の諸条件が全般に改善されたこととともに,学校給食,学校保健等新しい教育活動が取り入れられ,この面から教育内容が豊富になったことによるものである。「資本的支出」についてみても,戦後の伸びは大きくなっており,戦災の復興と新制中学校の建築を中心に,施設・設備の整備充実のあとを示している。

図21  学校種類別の生徒1人当たり教育費

旧制中学校と戦後の新制高等学校については,「教職員の給与」は,戦前までは大きな変化はないが,戦後は教員数の充実,待遇の改善によって増加している。「その他の消費的支出」についても,戦前まで変化はみえないが,戦後は増加の方向にある。「資本的支出」についてみると,明治33年(1900)にかなり高くなっているが,これは明治32年(1899)に「中学校編制及設備規則」が制定され,施設・設備を一定基準によって整備することか義務づけられたことによるものと推測される。また,戦後は小学校の場合と同様に,年々この面での充実が図られてきている。

大学については,大正末の大学・高等専門学校拡充期には,いずれの費目も増加するが,その後戦争中から戦後にかけては,全体に減少している。学生1人当たり「教職員の給与」と学生1人当り「資本的支出」は,最近やや上昇しているが,まだ戦前の水準にまでもどっていない。学生1人当り「その他の消費的支出」の戦後の低下は特にいちじるしく,最近になっても戦前の1/3程度で,目だった上昇はみられない。小学校の生徒1人当たり「教職員の給与」が,明治初の7倍となっているのに対し,大学のそれはわずか1.8倍に止まっているのは,教員1人当たり学生数が戦後急増したことが大きな影響とはいえ,さきにみた諸要因とあわせ今後じゅうぶん留意すべき問題点である。昭和35年(1960)の生徒1人当たり「その他の消費的支出」が,小学校の場合明治23年(1890)の16倍,中学校の場合2.6倍になっているのに,大学のそれは逆に減少傾向を示しており,大学における物的条件の改善が遅れていることを物語っている。

次に,生徒1人当たり教育費を諸外国と比較すると,わが国に対して,初等・中等学校では,アメリカは6.8倍,イギリスは4.2倍,西ドイツは2.9倍,フランスは2.4倍,ソ連は2.2倍となつている。近年わが国と外国との差は縮少する傾向にあるが,絶対額ではなおかなりのひらきがある。

生徒1人当り教育費のひらきを,国民所得との関係でみると,国民1人当り国民所得の倍率は,アメリカ合衆国8.6倍,西ドイツ3・1倍,フランス3.8倍で,国民所得のひらきにくらべて教育費のひらきは小さくなっているが,イギリスの場合のように,国民所得の倍率3.8倍よりも教育費の倍率4.2倍の方が大きい例もあらわれており,教育費の拡充にはなお努力が払われるべきである。

表28 各国における初等,中等学校生徒1人当たり公教育費

小学校の生徒1人当たり教育費は,小学校教育の量的普及が早期に完了したために,教育費は質的充実に向けられ,現在にいたるまで増加の一途をたどっている。

中等教育においては,戦前までは旧制中学校の普及による生徒数の増加があって,質的充実にまで経費をあてるゆとりがなかったが,戦後ようやく,量的普及とともに質的充実にも努力が向けられ,生徒1人当たり教育費は増加の傾向にある。

大学においては,戦後量的拡充が急激に進んだため,学生1人当たり教育費の低下をもたらしているが,今後は大学教育の質的充実をはかるために,教育費の増加が一番必要とされる分野である。


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