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第3章
教育の目標・内容と社会・済の発展
1 類型と新しい傾向
(1) 教育目標


世界の各国における教育目標は,それぞれの国の社会的,文化的伝統や政治体制による違いがあるが,社会・経済の発展段階に応じて大局的に分すれば,次の四つの類型に分けることができる。

 (a)国民の各層に教育の機会を均等に与える民主的な教育制度をとり,個人の希望と適性を尊重するとともに,実生活の要請をも考慮し,社会で役にたつ職業人を養成することを目標とするものであって,これはアメリカ合衆国が代表例であり,戦後の日本もこの類型に属する。
 (b)すべての国民にひろく教育を開放し,学校と産業とを緊密に連係させ,国家の要請に基づく生産技能者・技術者を養成することを目標とするものであって,これはソ連によって代表される類型である。
 (c)伝統的な教育からなお抜けきらず,初等教育の段階から教育のコースが分化し,その目標も,大別して,知識の注入と人格のとうやを重視して教養人を養成することと,直接職業人を養成することに分かれている国であって,イギリ具,フランス,西ドイツ等ヨーロッパの古い国々はこの類型といえよう。
 (d)近代教育制度が未熟で,教育の普及もふじゅうぶんであるが,国家を急速に発展させるために,教育によつて国民を啓発し,必要な人材を育成することを目標とするものであって,新興諸国はおおむねこの類型にあると考えられる。

このような分類は,もちろん固定的なものではなく,いずれの類型も進みゆく社会に即応してその様相を変えてゆくものである。そのことは最近の各国の傾向についてみることができる。すなわち第2次世界大戦後,先進主要国においては,いわゆる技術革新の時代になり,経済は急速に発展し,社会の高度化の速度もきわめて急激である。このような事態に対応する人間と,それを推進する人材を開発・養成する必要から,これらの諸国では教育改革が企画され,あるいはすでに実施に移されている。また東南アジア,ラテンアメリカの低開発国においても,経済開発の支柱を教育に求め,積極的に新たな教育計画の樹立と実施に乗り出している。

主要国の教育改革を教育的観点から考察すると,以下のような四つの共通点を指摘することができよう。


(a) 義務教育年限の延長

各国は,発展する社会における国民全体の資質の向上を図るため教育水準の品上を企図して,義務教育年限の1〜2年の延長を行なっている。イギリスの1944年のバトラー教育法では,義務教育年限9年を10年に延長し,また,同法およびクラウザー報告では,将来さらに1年これを延長することを提案している。フランスでは,1959年のベルトワン改革によって,8年が10年に延長された。西ドイツの1959年の教育改革案では,現在の8年または9年を 一律に9年にするとともに,続いて10年に延長することを提案している。ソ連では1959年のフルシチョフ改革により,都市10年,その他7年を,一律に8年とし,さらに今後10年間に,学齢期の全生徒を3か年の中等教育に完全に就学させることを目ざしている。

また,1960年に関係国の間で決められたカラチプランにそって,アジア地域の各国は,今後20年間に少なくとも7年制の初等義務教育を実施することを申し合わせて目下それぞれその実現に向かっている。


(b) 中等教育の再編成

中等教育を広く国民に開放し,生徒の能力・適性に応じた教育を施し,人材を開発するために,社会的伝統に基づいた複雑な中等学校制度の整理と目的的な再編成が進められている。すなわち,イギリスの1944年教育法,フランスの1959年教育改革,西ドイツの1959年教育改革案では,伝統的で階層的性格をもつ中等学校を,進学基礎教育の学校,技術教育の学校,普通完成教育の学校の3種に分化させ,能力・適性によって入学者を選定する目的的整備を行なうとともに,さらに3種の学校間の転学や技術教育,普通完成教育の学校から上級学校への進学の道を開くなど開放的な制度を立てている。


(c) 科学技術教育と人材開発

最近における科学技術の急激な進歩に応じて,高等教育において,大量の科学技術者の養成と優秀な人材の開発が行なわれている。イギリスでは,1945年以来科学技術者養成問題を取り上げ,その増員を図るとともに,1956年の技術教育白書によって,工業専門学校の拡充が計画されている。ソ連では,1959〜65年の7か年計画で,高等教育における科学技術者の倍増を目ざし,現在その実施の過程にある。アメリカ合衆国では,1958年の「合衆国防衛教育法」によって,理科・数学・工学・外国語の学力の優秀な学生と大学教員を志望する大学院学生とに対して奨学金を支給し,社会的に優秀な人材の開発と確保に積極的な施策を進めている。


(d) 一般教育の重要性

各国が,科学技術教育に異常な努力を注ぐと同時に,広い基礎教育と豊かな教養を重視することは,とくに欧米諸国に共通にみられる傾向である。広い基礎教育と豊かな教養の上に高い専門教育を修得することによって,豊かな人間を形成し,高度化する社会に適応して,発展し進みゆく社会・経済を支配する人間を育成することを目ざしている。

各国の教育目標は,初めに述べたように一応4類型に大別されるが最近のすう勢は,各国の教育改革に現われているように,むしろ新しい共通の目標に向って進む傾向がみられる。すなわち,義務教育年限の延長,中等教育の再編成,科学技術者養成と人材開発,広い教養の修得という共通の目標を掲げて各国とも同じような動きを示している。前述の4類型はもとより固定的なものではないが,この類型に示されたような各国の発展段階と性格の基盤の上に立って,前述の共通の目標に向って各国なりのきしみをみせながら発展して行く姿が,今後の世界の教育の向う大勢である。


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