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第1章
教育発展の経済的効果
3 教育投資の収穫


教育資本の大きさは,すでにみてきたように時代を経てしだいに拡大してきているが,この教育資本は,はたしてどのような収穫をあげることができたのであろうか。これを国民所得の増加に対して,教育資本が寄与した程度という観点から考察してみよう。

国民所得の増加を要因別にみれば,次のような関係に分類できる。

国民所得の増加分の分類

人間能力の向上に基づく国民所得の増加分のうち,相当部分は労働人口の教育水準の向上によるものとみられる。労働人口の教育水準の高度化した温度は,教育資本の増加によって示される。教育資本が増加すれば,その収穫もそれに応じて増加する。教育資本の収穫額が増加すれば,国民所得の増加となって現われる。したがって教育資本の増加分からあがる収穫額が,国民所得の増加のうち,教育が貢献した部分になるわけである。

もちろん,教育投資の効果は,労働力の教育水準の向上をもたらすだけではなく,物的資本の生産性や,組織.経営力などの面にも現われるけれども,ここでは,一応,単に労働力に現われた教育投資の効果についてのみ考えることにする。

すでに教育資本の額は推定されたので,これの収益率が決定されれば,教育資本の収穫額を算定することができよう。

教育資本の収益率を算定するには,二つの方法が考えられている。一つは,学校段階別卒業者の所得の差額を算定して,この差額と学校段階別教育費との比率によって収益率を示す方法である。たとえば高等教育費の収益率を式で示せば,次のとおりである。

(高等教育卒業者の所得)-(中等教育卒業者の所得)/高等教育経費  このような方法を用いて,シカゴ大学のセオドア=シュノレツ教授はよ,アメリカ合衆国における教育投資の収穫を算定したのであるが,かれの計算によれば,教育投資の増加による国民所得の増加は,国民所得の増加総額の約33%と推定されている。すなわち,教育資本の増加による国民所得増加への寄与率は,33%であると考えられている。

第2の方法は,科学アカデミー会員ストルミリン氏によって示されたソ連のとった方法である。高度の技術を要する職につく者は,高度の教育を必要とし,高い給与を支払われている。すなわち,学歴と給与は比例関係にある。そこで給与の率で比重をかけ,高級技術者を単純労働者の数に換算する方法がこれである。たとえば,高等教育卒業者は単純労働者2人とみなすというように,高度の能力所有者を普通の労働者に換算するのである。このような方法によって算定した結果,ソ連の国民所得の増加分の約30%は,学歴構成の高度化によるものであると推定されている。

それでは,わが国の教育資本のもたらす収穫はどの程度であろうか。昭和5年から昭和30年の間にわたる期間について,シュルツの方式を参考にして一つの試算を行なった結果,国民所得の総増加分の約25%が教育資本の増加に基づくものであることが推定される。

このように,教育投資の生産性について,ある程度計数的にこれを明らかにすることができるが,特に技術革新の時代においては,生産設備の高度化に対応して教育水準が高度化されるときに,教育投資の効果は最大限にこれを発揮することができるのである。さらに教育投資の成果は,その性格上,開発された才能という形で蓄積されるのであるから,いったん投資されれば,その効果が永続性をもつという点からみても,きわめて生産的な投資とみることができる。

一方,教育に支出される経費は,投資としての効果をあげるばかりではない。教育経費が―面有している消費的性格は,その投資的効果を減殺するどころか,生産面以外の分野で社会の発展に貢献し,かえって投資的効果を増強していることも見のがせない点である。

以上,教育の経済発展に対して果たす役割を,教育投資論的観点から,巨視的な考察を試みてきたのであるが,現実に,教育が社会.経済の発展に対していかなる姿でいかに貢献したかをみるには,教育と社会.経済が具体的にからみあった発展の姿でとらえることが必要である。

教育投資の量が経済成長に密接な関連をもつものであり,教育投資の効果が将来ますます増大するであろうことは,すでに見てきたところである。教育投資を考察するにあたっては,教育投資が社会.経済の要請にいかに対応してきたか,また,教育投資が教育の量と質にどのように影響してきたかを究明すると同時に,次のような問題を具体的に検討することが必要である。すなわち,(1)国民所得や政府支出のうち教育投資はどのくらいの比重を占めるべきか,また,教育投資と他の投資.消費とのバランスはどうあるべきか,(2)教育のなかでは,どの分野に投資の重点を置くべきか,(3)教育費を支出する国,地方公共団体,私立学校,児童.生徒の父兄の負担関係はいかにあるべきか,などの問題である。

これらの問題については,社会.経済の発展段階に関連して考慮しなければならない。

本章では,とにかく教育費の支出が,国民経済の発展にとってきわめて生産的な投資であったことを示すにとどめ,教育と社会.経済との具体的関連は,次章以下で解明することにする。


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