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第1章
教育発展の経済的効果
2 教育資本の蓄積


経済の発展において果たす人間能力が高く評価されるようになったことは,すでにふれたところであるが,この関係をわが国の経済的諸指標との関係でみてみよう。 表1 はわが国の国民所得,労働力(有業人口),物的資本(国富)の伸びを,明治38年(1905年)から昭和35年(1960年)までの55年間について示したものである。昭和10年から昭和30年までの間には,第二次世界大戦がはさまり,物的資本の損耗の激しかつた時期が空白となっているが,この事情を考慮しても,次のようなことがこの表から読み取れるであろう。

わが国の労働力は,この55年間に2,560万人から4,370万人へと1.7倍の増加を示したのに対し,物的資本の増加は5.8兆円から39.8兆円へと約7倍に達している。しかし,これとても国民所得の1.2兆円から12兆円へと上昇した10倍近い増加には及ばない。労働人口の増勢はきわめて鈍いのに対し,物的資本の増加率はかなり著しく,特に大正末期から昭和の初期にかけては,国民所得の増加率を上回っている。しかるに第二次世界大戦後についてみると,大戦において失った物的資本を,戦前の水準にまで回復しえた時期は昭和30年ごろであったが,その後の物的資本の増加率はきわめて高いものがある。しかし,国民所得の伸びは明治38年以降を通じて物的資本の伸びを上回っている。

表1 国民所得.労働力.物的資本.教育資本の推移

図1 国民所得.労働力.物的資本.教育資本の推移

このように国民所得の増加率が物的資本および労働力の増加率を上回っているのは,わが国だけでなく,世界の先進工業国に一般に見られる傾向である。これは物的資本,あるいは労働カのそれぞれの生産性の向上によるものとみられるが,これらの生産性の向上は,高度な設備.機械と,すぐれた知識.技能を備えた労働力によってもたらされたものである。単に物的資本の量と労働人口の量とを増すことによる生産の増加よりも,飛躍的な科学.技術水準の向上と,その広範な普及により,生産の増加が急速に伸びてきているのが,今日の技術革新による経済成長の実態である。

高度の生産性をもつ設備.機械をつくりだす人々,またこれを操作する人々,さらにこれらの物的資本を労働力と有効に結びつける組織と経営力をもつ人々があって,はじめて現代の産業は高い生産力を伸ばし続けることができるのであって,ここに人間の質という要因がいまだかつてみられなかったほど重視されるにいたった理由がある。最近の経済学が,物的資本,労働力と区別して新しく「人的能力」という要因に注目するようになったのも,このような事態を深く認識したからである。

生産の増加において「人的能力」の効果が大きく評価されるならば,人間の能力の高度化が積極的に意図されるべきことは当然である。このための主役を果たすものこそ教育にほかならない。教育の規模を拡大しその水準を高めるためには,それに要する費用の増大が伴う。したがって教育の拡充を図るための経費は,生産の上昇を引き起こすための投資とみることができる。この意味で教育に支出される経費を教育投資と呼び,その教育投資の蓄積を教育資本とみることができよう。

教育投資は教育を受けた人々の能力という形をとって蓄積されるのであるから,教育資本は生産に従事する人々によってになわれる資本である。

したがって教育資本の大きさは,就業人口のもつ教育の量と水準を金額で示すものであるといえよう。

教育資本は,昭和35年には7.1兆円と見込まれ,有業人口1人当たり16.1万円となる。この7.1兆円は明治38年の3,108億円に比べて,約23倍の増加を示している。これはこの期間における労働量の1.7倍,物的資本の7倍はもちろん,国民所得の10倍の増加率に比較してもきわめて大きい増加率である。しかも教育資本量の増加率は,どの期間をとってみても他の要素の増加率を上回っている。

一方,教育資本の絶対額を物的資本のそれと比較すれば,昭和35年において物的資本は39.8兆円と推定されるのに対し,教育資本は7.1兆円で教育資本は物的資本の18%に相当するにすぎない。

なお,ここで留意すべき問題は,物的資本の増加率と教育資本の増加率が,時代によって異なる点である。明治38年から大正6年までの12年間に,物的資本は1.47倍に増加したのに対し,教育資本は2.36倍の増加となっている。また大正6年から昭和10年までの18年間に,物的資本は3.05倍増加したのに対し,教育資本は3.51倍の増加となっている。しかるに最近の昭和30年から昭和35年までの5年間では,物的資本は1.83倍の増加になっているのに,教育資本は1.32倍の増加にとどまっている。

教育投資がきわめて生産的な投資であることが強く認められ,後述するように,世界の先進国がこぞって教育投資の拡大に向かっている最近の時期にあって,わが国においては,逆に教育投資の比重が下がりつつあることは,経済発展を意図する合目的な投資のバランスの上から留意しなければならない傾向である。


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