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第1章
教育発展の経済的効果
1 経済発展と教育の役割


明治以来,わが国における教育の近代化が果たした役割は,いろいろな観点から評価されうるであろうが,特にわが国の経済発展に関連して教育が果たした役割は,今日,世界各国から注視の的となっている。

まず注目されている第1の点は,戦後の復興とそれに続く経済成長である。すなわち,敗戦の荒廃から立ち直った戦後の経済復興とそれに続く経済発展の巨大な足どりは,欧州における西ドイツと並んで,世界的奇跡とまで考えられている。物的経済条件のほぼ1/4を喪失したにもかかわらず,この輝かしい戦後の経済発展をささえたものは,戦前からの蓄積された知識.技能という人的要素であったといわれる。これこそ過去数十年にわたる教育の成果の蓄積にほかならない。

第2に問題とされている点は,今世紀においてきわめて急速な経済成長を遂げた国々―カナダ,西ドイツ,イスラエル,ソ連,アメリカ合衆国―の中にわが国もまたその地位を占めていることである。これら諸国の経済成長をもたらした要因として,政治的.社会的または精神的要因が当然考えられるが,それはどの国にとっても同一の方式で,または同様の比重で作用したとはいえない。しかし,これらの経済成長の著しかつた諸国において,ただ一つの共通の要因としては,教育制度の果たした重要な役割がある。しかもこの教育の内容が技術的変革と経済発展の方向へ,意図的にかつ強力に志向された近代的教育であった点を見のがしてはならない。わが国の近代教育の発展もまた,この軌道を歩んだものである。

第3に特にわが国の教育の果たした役割が経済発展との関連において注目をあびている点は,近代社会のいわゆる「離陸期」において,わが国がもつ不利な条件を教育の普及によって克服した点である。すなわち,ヨーロッパ先進諸国に比べて近代化の開始がはるかに遅れをとり,また他のアジア.アフリカ諸国と同様に過大な人口をかかえ,さらに自然資源において極度に貧困な条件にありながら,他のアジア.アフリカ諸同を引きはなして,急速に欧米諸国の経済水準に迫つた。この後進性,過大人口自然的資源の欠乏を克服して急速な経済成長を遂げた例として,アジアにおけるわが国と,ヨーロッパにおけるデンフークがあげられているが,その経済発展に対して,共通の基本的推進力をなしたものが,近代教育制度の導入,特に有業人口の大部分を占めた農民に対する普通教育の普及であったとみられている。

このようにわが国近代教育の発展が,経済発展において演じた役割は,世界的視野からみると,すばらしい一つの歴史的実例であったとみられている点を,われわれは深く省みる必要がある。

第3に述べた例として指摘されるわが国明治初期の教育は,経済活動に直接寄与するというよりは,むしろ経済活動を活発に推進させるための基盤の培養に力が注がれたのである。初等教育の普及によって,国民の資質を高め,その志向を近代化し,経済活動に参加させることを可能としたのである。

第2にあげた例は,前述の基盤にのって進展する経済の需要に教育が対応して発展した過程が,ほぼ成功であったことを物語るものと考えられる。

最初に指摘した例は,第二次世界大戦の敗戦による社会的。経済的崩壊から予想外の復興と発展を遂げることができたのは,教育の蓄積に負うところが大きかつたことを示すものである。

これまでのわが国の教育が経済発展に寄与した功績はきわめて高く評価されてきているが,これは,国民が消費を抑制し,節約した所得を教育に投じた努力の結晶であるとみなければならない。わが国の教育に対する高い評価は,過去の国民の教育への熱意と努力に帰せられるであろう。過去において国民所得中に占める教育費の割合が世界で首位を争うほどの高さにあったこともこれを証明する一例である。


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