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第2章
教育内容の水準
1 要求される教育水準
(3)教育課程


 教育の実際は,教育課程によって規制される。以下にわが国の教育課程の改訂にふれ,主要国との比較を試みることにする。


a わが国の教育課程

 わが国は,今回,最近における文化・科学・産業などの急速な進展に即応して国民生活の向上を図り,かつ,国際社会における確固たる地位を築いていくために,まず,義務教育における教育課程の全面的改訂を行ない,画期的な充実を図った。改訂の基本的な方針は次のとおりである。

1)道徳教育を徹底すること。
2)基礎学力を充実すること。
3)科学技術教育の向上を図ること。
4)地理・歴史教育を改善,充実すること。
5)情操のとうや,身体の健康・安全の指導を充実すること。
6)中学校において,生徒の進路・特性に応ずる教育をじゅうぶんに行なうようにすること。
7)小・中学校の教育内容について義務教育としての一貫性をもたせるようにすること。
8)各教科の目標および内容を精選し,基本的な事がらの学習に重点をおくこと。教育課程の最低の基準を示し,現場において地域や学校の実態に即して具体的な指導計画を研究・実施することを容易にすること。

 このようにして改訂された教育課程の基準は,小学校および中学校の学習指導要領としてすでに告示され,小学校は,昭和36年度から,中学校は37年度から実施に移されることになっている。

 この改訂作業は,各方面の意向を広範に取り上げるとともに,戦後における教育研究の成果はもちろん,各国の教育課程の実情もじゅうぶん参考にして,慎重に進められたものである。

 次に主要国の教育課程との比較を,主として教科の種類と授業時数の2点について述べてみるが,それに先だち,各国において教育課程の編成がどのように行なわれているかをみておこう。


b 教育課程の比較
(a) 教育課程の編成

 アメリカ合衆国・・・・・・・・・・・・連邦政府は原則として教育内容について関与せず,各州にまかせている。初等学校の教育内容については,ほとんどすべての州では州法または教育委員会規則等によってわくが設けられている。そのわくは,教科または教授項目と,授業日数についてである。しかし,さらに詳細に教育内容を定めている州も相当ある。中等学校についても大部分の州が卒業条件として履修すべき教科と,その単位数を指定している。しかし,この場合初等学校と異なり,その指定がすべての教科に及んでいるわけではない。地方教育委員会はこのわく内でさらに具体的な教育課程をつくる。教育課程の編成を学校,教師にまかせる教育委員会もある。

 イギリス・・・・・・・・・教育課程の編成は各学校の校長と教員の責任とされている。ただ,宗教教育に関しては,国の教育法によってその必修を規定している。このように形式的にはイギリスでも国家的統一性はみられないようであるが,実質的には,次のような方式によって全国的教育水準の確保が図られている。

 その第1は視学制度である。国は多数の視学官を配置し,学校とたえず連絡し指導することによって,教育水準の統一を図っている。

 第2は試験制度である。いわゆる「11歳試験」という県単位に実施される試験によって各県内初等学校第6学年の全生徒は同一の試験を受け,前述の3種の中等学校にふり分けられる。この試験が初等学校の教育課程を拘束している。さらに中等学校終了者に対しては,資格賦与試験(G.C.E試験)が,全国的規模において実施される。この試験の各科目の要綱が中等学校の教育課程を決定する大きな要素となっている。

 西ドイツ・・・・・・・・・・・・各邦の文部省が初等・中等教育の教育課程を定めている。したがって各邦内では,完全な統一性がみられるが,各邦間では若干の差異がある。しかし,各邦間の統一を図ろうとする動きが実を結ぼうとしている。

 フランス・・・・・・・・・・・・初等学校・中等学校の教育課程は,文部省が定める。したがって,その実施にあたって,教師が地方の事情を考慮する余地を残すだけである。

 ソ連・・・・・・・・・・・・この国の教育課程は,各構成共和国の教育省が定める。しかし,実際には,各構成共和国はロシア共和国のそれに準じて作成するので,各構成共和国間には母国語関係の科目に多少の相違がみられるだけである。

 わが国・・・・・・・・・・・・最後にわが国についてみれば,戦前は小学校令,中等学校令等に基づいて文部省が教育課程を定めていたが,戦後は学校教育法に基づいて文部省が学習指導要領において教育課程の基準を定めた。しかし,この学習指導要領は運営上のゆとりが相当認められたものであり,そのために学校間における教育課程の実施状況に著しい差異を生ずる結果となった。そこでこのような点を是正するとともに,時代の要請に即応する教育を行なうため,昭和33年学校教育法施行規則の一部改正および小・中学校の学習指導要領の全面改訂を行ない,教育課程の基準を明示し,国の義務教育水準の維持向上を図ることとした。

 以上によって,西ドイツ・フランス・ソ連の3か国においては統一的教育課程が実施され,イギリスにおいては統一的基準は存在しないが,他の手段によって統一を図っていることが知られる。


(b) 教科の種類

 主要国の教育課程における教科・科目を比べることによって,これらの国の学校で教えられる教育内容の比較を試みよう。

 初等教育各国とも,初等教育においては教科選択制を採用していない。これらの国の学校で蔽えられる教科は,ほぼ同一である。教えられる教科は名称こそ一致しないが実質的には,同一と思われる国語,社会科,算数,理科,音楽,図画工作,体育である。低学年においては,合科教授を行なっている国が多いが,中級学年以上においては,分科の傾向にあり,たとえばわが国やアメリカ合衆国で社会科として教えられている教科内容は,ヨーロッパ諸国では歴史,地理として教えられている。

 道徳教育を教科として設けているのは,フランスであり,わが国も昭和33年の教育課程の改訂によって,道徳の時間を設け,各教科やその他の教育活動において行なわれる道徳教育を補充し,深化し,統合して道徳教育を徹底することとした。また,イギリスー・西ドイツにおいては,宗教教育の時間があり,この両国においてはキリスト教が倫理の基盤をなしていることから考えれば,これも道徳教育の一つの形と考えられるであろう。

 アメリカ合衆国では,道徳教育の実施を義務づけている州はカリフォルニア,ニューヨークなど多数に上っているが,道徳教育を教科として設けることを規定していないのが通例である。また,宗教教育の実施を規定している州もある。

 ソ連においては道徳教育は,各教科において行なわれているほかに,教育省が徳目を内容とする生徒規則を定め,それを生徒に守らせている。

 中等教育中等教育にはいろいろなコースがあり複雑であるため,ここでは特に進学コースの教育課程を手心に比較する。

 第1に問題となる点は,教科に関する伝統である。ヨーロッパ諸国においては,古典中等学校(イギリス),高等学校の古典科(フランス),古典語高等学校(西ドイツ)のように古典語(ラテン語)に対する関心がまだ強く残っているが,アメリカ合衆国・ソ連においてはみられない現象である。このような教科を温存しておく理由としては,文化遺産の継承と同時に知的能力の訓練があげられている。しかし,時代の進展とともにしだいにラテン語に代わって近代外国語,自然科学の比重が大きくなっていることは否定できない。

 第2の問題は,教科選択制とそれに伴う単位制の問題である。ヨーロッパ諸国においては,各学校または各コースごとに一定の教育課程をつくり,生徒は一律にそれによって学習するのに対し,わが国とアメリカ合衆国においては単位制をとり,一定の必修科目以外は,科目選択の自由を生徒に与えている。したがって,このような制度をとるところでは,必修科目と選択科目の比重が問題である。科目の選択制は,個人の必要に応じた教育を施すという個人尊重主義に基づくものであるが,個人の必要とその欲求はまことに多種多様である。それらを完全に満足させるためには,いくら多くの科目を設けても,まだ足りないであろう。また生徒個人の欲求は,安易を求めて,高い知能と強度の学習を要する教科を避けて通るのは容易に推察されるところである。これがまさにアメリカ合衆国に起こっている事態である。生物1単位を取得しただけで,理工系大学に進学する学生に対し,大学側がどんなに困惑するかは容易に想像できる。


(c) 授業時数

 前項では教育課程を編成する教科の種類についてみたが,本項では,これらの教科の授業時数に関して述べることにする。

 まず年間の授業日数についてみると,わが国においては,昭和25年以降,年間の授業日数についての法的な規制はなくなった。そこで各学校の授業日数は非常にまちまちになる。このことは文部省が調査した昭和28年4月1日から29年3月31日までの1年間における小学校の授業日数の実態をみてもわかる。この調査の結果は 次の表 のとおりである。

第12表 小学校の年間授業日数

 この表によると,多くの学校の年間授業日数は,210日〜240日であるが,最大と最小の間には,ほぼ2倍近いひらきがある。さらに各教科ごとに,また各学年ごとに履修される授業時数についてみると,学校間の差は実に大きなものがみられる。義務教育の小学校において,その授業日数にこのような大きな学校差があることは好ましいことではなく,また,国民が同じように基礎学力を身につけ,国全体の教育水準を維持・向上する上からも問題視されるべき事がらである。

 このような実情から,わが国においては,学校教育法施行規則を改正して,各教科・道徳について各学年ごとに 第13 14表 のように年間の最低授業時数を規定し,小学校は昭和36年度から,中学校は昭和37年度から実施することにしたのである。

第13表 小学校の年間最低授業時数

 わが国の規定においては,各教科および道徳についての年間最低授業時数を定めているのであるが,これらの各教科および道徳に加えて,特別教育活動や学校行事等を実施するためには,各学校では実際に,年間40週前後の授業週数を計画しているのが通例である。

 授業時数の基準は,各国とも何らかの形で規定しているが,いまここで,年間の授業週数について,主要国間の比較をしてみると,国の法規で

基準を定めているイギリスでは,年間40週,同じくソ連では34週となっており,アメリカ合衆国は全国統一した規定はなく,各州まちまちであるが,全国平均36週(178日)で,最高はイリノイ州の187日,最低はアリゾナ州の165日で,その間に22日間の差がある。なお,休日を差し引いて算出すると西ドイツの年間授業週数39週,フランスは37週となる。

第14表 中学校の年間最低授業時数

 次に国語・社会・算数・理科等の授業時数について,主要国間の比較を行なうと, 次の表 のようになる。これは各国の初等学校第1〜第6学年の6年間の授業時数の総数についてみたものである。

第15表 主要国における初等学校の教科別総授業時数

この表 について比較すれば,授業総時数においては,わが国はフランス・ソ連よりも多いが,西ドイツよりは少ない。アメリカ合衆国・イギリス両国の実例は,わが国の最低基準と比較しても少ないという結果を示している。

 これを教科別に見ると,わが国の授業時数は国語を除いては,いずれも上位を占めていることがわかる。ただし,国語については,外国では社会科・理科の教育内容が低学年では国語に組み入れられていることを考慮しなければならない。数学についてみれば,西ドイツ・ソ連両国がわが国を

越えていることが注目される。イギリス・西ドイツ両国が宗教教育に相当の時間をさいていることも見のがすことのできないところであろう。

第10図 主要国における初等学校の教科別総授業時数の割合

 次に中等教育について比較すべきであるが,前にも述べたように各国の学制が異なるため比較が困難であるので,初等教育から一貫して,大学に入学するまでの総時間数を表示することにする。西ドイツ・フランス・ソ連3か国は基準にのっとり,アメリカ合衆国・イギリス両国は実例に基づいて,それぞれ大学入学以前の総修業年限の間に教授される総授業時数を示すことにする。わが国の場合,小・中学校段階は最低基準を,高等学校では実態を掲げた。なお教科については,5科目をとり出し,他は一括した。また,コース・教科の選択が認められる場合は,理工系進学課程の男子によった。

第16表 主要国における初等・中等学校の教科別総授業時数

第17表 主要国における初等・中等学校の教科別総授業時数の割合

 イギリスおよび西ドイツは,大学入学前の修業年限が13年であるため,総時数も多くなっており,修業年限10年のソ連が総時数も少ない。しかしかりにこの授業時数を修業年限で除して年平均授業時数を出せば,イギリスと西ドイツが最も多く,アメリカ合衆国が最も少ない。わが国は中位にある。なお,これは授業時数だけから見た比較であって,授業の形態,宿題などの問題を考慮に入れればこれを課する国とそうでない国とでは生徒に要求する学習時間数は各国ともに相当の変動をみることが予想される。

 次に,どのような教科に重点を置いているかを見るために,教科別比率を示せば 第17表 のとおりである。各国とも国語が相当大きい比率を占めているが,数学がこれに次いでいるのも各国に共通にみられる傾向である。なお,ソ連における数学の比率が各国に比べて最も高いことが注目される。理科についてはイギリスが高く,ソ連とわが国がこれに次ぎ,アメリ力合衆国が最も低い。

 外国語についてはイギリス・フランス・西ドイツが特に高いのが注目される。これは上級進学コースでラテン語・ギリシア語の古典語が含まれていることに一つの原因がある。

 地理・歴史を含めた社会科は,アメリカ合衆国が最高で,西ドイツとわが国がこれに次ぎ,イギリスははなはだ少ない。

 大学について授業時数を比較することはきわめて困難であるが,わが国・アメリカ合衆国・ソ連の3か国の典型的な工業大学の授業時間総数を試算したのが 第18表 である。

 修業年限は,わが国・アメリカ合衆国とも4年,ソ連は5年である。したがって,わが国・アメリカ合衆国両国の時間数がほぼ等しくソ連の時間数がアメリカ合衆国のそれより多いのは当然であるが年限はわずか1年の差であるのに,時間数では4割近くの増加となっていることに注目する必要がある。さきに述べたようにソ連は初等・中等教育では修業年限がわが国・アメリカ合衆国両国より2年短いため時間数も少ないのであるが,大

学に至って,これをじゅうぶんに補って余りあることが知られるであろう。アメリカ合衆国の専門家の評価によっても,ソ連の大学卒業者はアメリカ合衆国のマスターに匹敵するといわれている。

第18表 3か国の典型的な工業大学の総授業時数


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