第12章 安全・安心で質の高い学校施設の整備

総論

 学校施設は基本的な教育条件の一つであり,教育水準の維持向上の観点からその安全性や快適性を確保し,児童生徒等の発達段階に応じた安全・安心で質の高い施設整備を行う必要があります。また,社会情勢の変化や地域の実情を踏まえ,教育内容・方法の変化に対応し,多様化する学習活動に適応していくことが重要です。
 さらに,学校施設は,災害時に地域住民の避難所等にもなることから,その耐震化や防災機能の強化も極めて重要です(※1)。東日本大震災や熊本地震では,耐震化されていた学校施設が地震による建物の倒壊から児童生徒等の命を守りました。
 あわせて,環境への配慮や,急増する老朽施設への対策(長寿命化等)も課題となっています。

 図表2-12-1 安全・安心で質の高い学校施設の整備

 文部科学省は,これらの課題への対応などのため,学校の設置者が施設整備に役立てるための指針や事例集などを作成して学校の設置者に周知するとともに,耐震化や老朽化対策などの施設整備に対して国庫補助を行っています(※2)。
 また,国立大学等の施設は,高度化・多様化する教育研究活動の展開に不可欠な基盤であり,創造性豊かな人材の養成や独創的な学術研究,質の高い医療の提供などを推進するためには,施設の充実を図ることが重要です。文部科学省では,国立大学等の施設の重点的・計画的な整備の推進とともに,施設マネジメント及び多様な財源の活用の推進などにより,教育研究活動を支えるキャンパス環境の整備充実を図っています。


  • ※1 防災機能の強化については参照:第2部第13章
  • ※2 私立学校の施設整備については参照:第2部第6章第1節

第1節 安全・安心な学校施設の整備

1 学校施設の耐震対策

 公立学校施設は,児童生徒の学習・生活の場であるとともに,地震などの災害時には地域住民の避難所としての役割も果たすことから,耐震化により安全性を確保することは極めて重要です。
 このため,文部科学省では,公立学校施設の構造体の耐震化及び屋内運動場等の吊り天井の落下防止対策について,平成27年度までの完了を目標に,制度の充実を図りながら重点的に推進してきました。
 この結果,平成30年4月1日現在,公立小中学校の構造体の耐震化率は99.2%,屋内運動場等の吊り天井等の落下防止対策実施率は98.2%となり,おおむね完了した状況です。
 文部科学省としては,構造体の耐震化及び屋内運動場等の吊り天井の落下防止対策が未完了の地方公共団体に対して,引き続き必要な財政支援を行うとともに,一刻も早く耐震化が完了するよう要請しています。また,公立学校施設は,今後,老朽化した施設の割合が急速に増加していくことが見込まれています。老朽化した施設では,地震発生時にガラスの破損や内外装材の落下など非構造部材の被害が拡大する可能性が高いため,吊り天井以外の非構造部材の耐震対策を含めた老朽化対策,防災機能強化についても対策を推進しています。

 図表2-12-2 公立小中学校の耐震化の進捗状況

2 学校施設の老朽化対策の推進

 公立学校施設については,これまで耐震化を最優先に進めてきましたが,その一方で老朽化が進行した学校施設の割合が増加し,安全面や機能面で不具合が生じています。
 平成29年度に文部科学省が実施した調査によれば,全国の公立小中学校で,外壁・窓枠の落下等の建物の老朽化が主因の安全面における不具合は年間約3万2,000件発生しています。不具合の件数は約1万4,000件であった24年度調査に比べて2倍以上に増加しています。
 また,家庭や社会の環境の変化に伴い,学校施設の機能・性能の向上が求められています。例えば,少人数指導等に対応した学習環境やICT環境の整備,バリアフリー化,防災機能の強化,空調設備の設置,トイレの改修,省エネルギー化など学習環境の改善が必要です。

 学校施設の老朽化対策の推進
 これらの課題を解決するためには,中長期的な視点の下,学校施設の計画的な整備を行うことが必要です。平成28年度に改正した公立学校施設等の整備目標等を定めた文部科学省告示「公立の義務教育諸学校等施設の整備に関する施設整備基本方針」と「公立の義務教育諸学校等施設の整備に関する施設整備基本計画」においても,これらの課題や計画的な整備を行うことの必要性を記載しています(※3)。

 図表2-12-3 経年別に見る公立小中学校の保有面積


  • ※3 参照:https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/1306433.htm

(1)計画的な整備の推進

 平成25年11月に政府が策定した「インフラ長寿命化基本計画」を踏まえ,文部科学省は,27年3月,所管・管理する施設の維持管理等に関する中長期的な方向性を明らかにするための「インフラ長寿命化計画(行動計画)」を策定し(※4),学校施設等の長寿命化に向けた取組を推進しています。「インフラ長寿命化基本計画」では,各地方公共団体は域内の個別施設ごとの長寿命化計画(個別施設計画)を策定することとされています。
 文部科学省は,地方公共団体による中長期的な学校施設の整備計画の策定や長寿命化改修の導入を推進するため,必要な支援を行っています。
 個別施設計画の策定を推進するため,平成27年4月に「学校施設の長寿命化計画策定に係る手引」(※5)を作成するとともに,27年度から29年度まで「学校施設の個別施設計画策定支援事業」(※6)を実施しました。29年3月には,この手引及び策定支援事業の成果等に基づき,学校施設の長寿命化計画の標準的な様式を示すとともに,より具体的な留意点等を解説した「学校施設の長寿命化計画策定に係る解説書」(※7)を作成しました。引き続き,この解説書に関する説明会等を開催する等して地方公共団体における個別施設計画の策定を促しています。

 図表2-12-4 インフラ長寿命化基本計画について


  • ※4 参照:https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/27/03/1356260.htm
  • ※5 参照:https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shisetu/036/toushin/1356229.htm
  • ※6 参照:https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/1360476.htm
  • ※7 参照:https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/29/03/1383568.htm

(2)長寿命化改修の推進

 厳しい財政状況の下,中長期的な視点に立って計画的に学校施設の整備を進めていくためには,コストを抑えながら改築(建替え)と同等の教育環境を確保することができ,排出する廃棄物量も少ない「長寿命化改修」に重点を移していくことが必要です。長寿命化改修は,建物の耐久性を高めることに加え,現在の学校に求められている水準まで建物の機能や性能を引き上げるものです。おおむね築後45年程度までの適切な時期に長寿命化改修を行うことで,技術的には70~80年程度に耐用年数を延ばすことが可能です。
 長寿命化改修を推進するため,平成25年度に学校施設環境改善交付金の事業の1つとして「長寿命化改良事業」を創設し,地方公共団体が行う長寿命化改修について経費の3分の1を補助しています。加えて,地方財政措置により実質的な地方の負担割合を26.7%に軽減しています。
 また,平成29年3月には,長寿命化改修の先導的事例や留意事項等を記載した「学校施設の長寿命化改修に関する事例集」(※8)を作成しました。

 廊下の壁を一部撤去して多目的スペースを整備
 廊下の壁を一部撤去して多目的スペースを整備

 改築同等の教育環境を確保
 改築同等の教育環境を確保


  • ※8 参照:https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/1383800.htm

(3)維持管理の徹底

 学校施設の老朽化が進むと,建築当初には確保されていた安全性や機能性が低下し,必要な性能を満たさなくなるおそれがあります。学校施設の管理者は,学校施設が常に健全な状態を維持できるよう,適切に維持管理を行っていくことが必要です。
 このため文部科学省は,維持管理の重要性や手法等について解説した手引(※9)を作成するとともに,全国の国公立学校における維持管理点検の実施状況を調査しています。
 また,平成29年5月には,体育館の床板の剥離による負傷事故の防止を目的として,学校の設置者等に対し適切な清掃(水拭き及びワックス掛けの禁止)や日常点検を要請(※10)するなど,維持管理を通じた安全・安心な教育環境の確保に取り組んでいます。


  • ※9 参照:https://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/maintenance/__icsFiles/afieldfile/2017/06/14/1369016_01_1.pdf
  • ※10 参照:https://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/maintenance/1386779.htm

3 学校施設における事故防止及び防犯対策の充実

 学校施設における児童生徒等の安全を守るためには,教職員をはじめとする関係者が危機管理意識を持って緊密に連携し,ハード・ソフト両面において組織的・継続的に安全対策及び防災対策を行うことが必要です。
 文部科学省は,学校施設の事故防止や防犯対策に関する報告書など(※11)を作成し,研修会などを通じて学校設置者に対し普及啓発を図っています。また,「学校施設整備指針(※12)」において,学校施設の安全対策や防犯対策に関する留意点を示しています。さらに,児童生徒等の事故防止や防犯対策の観点から,必要となる施設整備に対して国庫補助を行っています。


  • ※11 参照:https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/21/03/1259234.htm
    https://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/shuppan/07091904.htm
  • ※12 参照:第 2 部第12章第 2 節1

4 学校施設の室内環境対策

 文部科学省は,児童生徒等が健康で快適に学校生活を送れるよう,室内空気汚染対策などの環境対策を推進しています。具体的には,学校施設を整備する際に建築材料などから発散する化学物質による室内空気汚染に関する主な対策の要点をまとめたパンフレットなどを作成し,各都道府県教育委員会などに配布しています(※13)。また,「学校施設整備指針」の中に,化学物質濃度が基準値以下であることを確認した上で建物の引渡しを受けることなどの留意事項を盛り込んでいます。
 さらに,アスベスト(石綿)対策については,平成17年に事業所などにおける健康被害の状況が発表されて以来社会的に深刻な問題となっていることを受け,児童生徒等の安全対策に万全を期すために,「学校施設等における吹き付けアスベスト等の対策状況フォローアップ調査」を実施しています。29年10月1日時点の調査によれば,少数の機関を除き,学校の設置者による吹き付けアスベスト等の対策についてはほぼ完了している状況です(※14)。また,26年3月の「石綿障害予防規則」の改正により,これまでの吹き付けアスベスト等に加え,新たに石綿含有保温材等(※15)が規制対象に加えらました。この改正を受けて,児童生徒等の安全性を確保する観点から,石綿含有保温材等の使用状況及び劣化,損傷等の状況を把握するため,「学校施設等における石綿含有保温材等の使用状況調査」を実施しています。
 これらの調査結果を踏まえ,学校の設置者に対し,調査が未完了な場合の早期完了と適切な対策の実施を要請しています。また,対策工事に係る国庫補助や具体的な対策方法を示した留意事項の通知を行うことにより,適切な対策が講じられるよう取り組んでいます。


  • ※13 参照:https://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/shuppan/1305497.htm
  • ※14 アスベスト対策への取組 参照:https://www.mext.go.jp/submenu/05101301.htm
  • ※15 保温材等:熱源本体や,ダクトや配管等に使用されている保温材のほか,鉄骨柱,はり等に使用されている耐火被覆材,屋根用折板や煙突に使用されている断熱材のこと。

第2節 快適で豊かな施設環境の構築

1 新たな時代に応じた学校施設への取組

(1)「学校施設整備指針」の策定

 文部科学省は,学校施設が安全で豊かな環境を確保し,教育内容・方法の多様化に対応するための機能を備えていくため,学校種ごとに施設の計画及び設計における留意事項を示した「学校施設整備指針」を策定し,学校の設置者に周知しています(※16)。
 平成29年2月には,学習指導要領の改訂等に対応するため「学校施設の在り方に関する調査研究協力者会議(主査:上野淳首都大学東京学長)」を開催し,今後の学校施設の在り方及び「学校施設整備指針」の改訂に関する調査研究を開始しました(※17)。31年3月には同会議において,これからの小・中学校施設における教育の場や教職員の働く場,地域との連携・協働の場としてふさわしい環境づくりなどの観点から提言がなされ,文部科学省は,この提言に基づき小学校及び中学校の施設整備指針を改訂しました。令和元年度は高等学校施設整備指針の改訂を予定しています。


  • ※16 参照:https://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/seibi/main7_a12.htm
  • ※17 参照:https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shisetu/044/index.htm

(2)学校施設のバリアフリー化の推進

 学校施設は,障害の有無にかかわらず児童生徒や教職員等が支障なく学校生活を送ることができるよう配慮されていることが必要であるとともに,地域コミュニティの拠点や災害時における地域住民の避難所等としての役割を果たすことからも,バリアフリー化を進めることが重要です。
 文部科学省は,「学校施設バリアフリー化推進指針」や「学校施設整備指針」においてバリアフリー化の推進に関する基本的な考え方や計画・設計上の留意点を示しています。また,避難所となる学校施設のバリアフリー化に関する事例集(※18)を作成しています。
 さらに,地方公共団体が実施する公立学校施設のバリアフリー化の取組に対する支援策の一つとして,スロープ,多目的トイレ,エレベーター等の整備に対して国庫補助を行っています。


  • ※18 参照:https://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/shuppan/1403195.htm

2 環境を考慮した学校施設づくり

(1)環境を考慮した学校施設(エコスクール)の整備推進

 喫緊の課題である地球環境問題への対応の一環として,再生可能エネルギー設備の導入や校舎等の断熱性の向上,校庭の芝生化などの環境を考慮した学校施設(エコスクール)の整備を進めています。エコスクールの整備によって,児童生徒等にとって健康的で快適な学習・生活空間を維持しながら施設の環境負荷低減を図ることができます。また,エコスクールは児童生徒等が環境について学ぶ教材としての側面を持つとともに,地域の環境教育の発信拠点としての機能を果たすこともできます。

1.エコスクールの整備推進

 文部科学省は,太陽光発電設備等の再生可能エネルギー設備の導入や校舎の断熱性の向上,校庭の芝生化等に対して国庫補助を行っています。また,エコスクールの整備推進のため,地方公共団体が公立学校施設をエコスクールとして整備する事業について「エコスクール・プラス」の認定を関係省庁と連携して実施しています。平成30年度はエコスクールとして整備する学校を55校認定いたしました。
 さらに,パンフレットや事例集の作成,ウェブサイトによる情報発信など,エコスクールの整備の意義や効果の普及に取り組んでいます。

2.再生可能エネルギーの導入

 再生可能エネルギー設備の導入を促進するため,文部科学省は,平成21年度から太陽光発電設備を対象に国庫補助を開始しました。その後,地域の実情に応じた再生可能エネルギー設備の整備を推進するため,風力発電設備及び太陽熱利用設備についても補助対象とし,設備の整備を推進しています。公立小中学校の太陽光発電設備の設置率は,調査を開始した21年時点の3.8%から,30年5月時点では31.0%に増加しています。

3.省エネルギー対策

 「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」(以下,「省エネ法」という。)に基づき,学校においてもエネルギーの使用の合理化(省エネルギー)に努めることが求められています。文部科学省は,学校事務職員と意見交換を行い,学校で活用できる省エネルギー対策に関する資料「学校でできる省エネ」を作成するとともに,実地調査や講習会の開催などの取組を行っています(※19)。
 一方,学校施設の高機能化・多機能化等により,地方公共団体が省エネルギーの推進に苦慮している状況が見られます。このことから,教育委員会における省エネルギー推進方策等を検討するため,平成30年1月から「学校等における省エネルギー対策に関する検討会」(※20)を開催し,学校等における省エネルギー推進のための基本的事項をまとめた手引きを作成しました。

 図表2-12-5 エコスクールの推進


  • ※19 参照:https://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/green/index.htm
  • ※20 参照:https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shisetu/048/index.htm

(2)学校施設の木材活用

 我が国の伝統的な建築材料である木材の活用は,温かみと潤いのある教育環境づくりを進める上で効果的であり,たくましく心豊かな児童生徒等の育成に寄与しています。また,地域の木材を利用することによって,校舎への愛着,地域文化の理解促進,また森林の水源涵かん養などの効果も期待されます。さらに,木材は再生可能な資源であり,エネルギー源として燃やしても大気中の二酸化炭素の濃度に影響を与えない「カーボンニュートラル」な特性を有する資材であることから,地球温暖化防止にも貢献することができます。
 文部科学省は,平成22年10月に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が施行されたことを踏まえ,林野庁や国土交通省と連携して,地方公共団体に対して,学校施設の整備に当たっても,各学校や地域の実情を考慮しつつ,木材の利用に積極的に取り組むよう促しています(※21)。具体的には,木材利用に関する手引や事例集の作成・配布,講習会を実施するとともに,木材を利用した公立学校施設の整備について国産補助を行っています。
 公立学校における木材利用の状況については,平成29年度に建築された学校施設(886棟)のうち,592棟(66.8%)が木材を使用していました。また,この592棟のうち,木造施設は204棟(29年度に建築された全ての公立学校施設のうち23.0%),内装に木材を使用した施設は388棟(同43.8%)でした。
 平成26年度には,日本工業規格である「木造校舎の構造設計標準(JIS A3301)」を改正するとともに,JISA3301の考え方や具体的な計画例,留意事項等を取りまとめた技術資料を作成しました。27年度には,「建築基準法」の一部改正により,これまで耐火建築物としなければならなかった木造3階建て学校施設が,防火地域以外の地域では,一部を除き一時間準耐火構造で整備できるよう規制緩和されました。この法改正を受け,整備する際のポイントや留意事項をまとめた「木の学校づくり―木造3階建て校舎の手引―(※22)」を作成しました。加えて,27年度から29年度まで,JISA3301を活用した木造校舎や,木造3階建て学校施設,直交集成材(CLT:Cross Laminated Timber)を用いた木造校舎等を整備する地方公共団体の先導的な取組を支援するため,「木の学校づくり先導事業」を実施しました。


  • ※21 参照:https://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/mokuzou/index.htm
  • ※22 参照:https://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/mokuzou/1369464.htm

3 廃校施設・余裕教室の有効活用

 少子化による児童生徒数の減少に伴って廃校施設や余裕教室が生じています。廃校施設や余裕教室は,元は公立学校として,国庫補助や設置者である地方公共団体の財源,すなわち国民や住民の貴重な税金で整備されたものであるため,地域の実情やニーズに応じて有効活用することが求められています。廃校施設は,社会体育施設や社会教育施設,社会福祉施設や民間企業の工場,オフィス,宿泊施設などに活用されている事例もあります。余裕教室は,放課後児童クラブ,放課後子供教室(※23),地域防災用備蓄倉庫,保育所など学校以外の用途に活用されている事例もあります。
 文部科学省は,活用事例や活用に当たって利用可能な補助制度をパンフレット等で周知しています。また,国庫補助を受けて整備された学校施設を学校以外の用途に転用する場合等に必要となる財産処分手続を弾力化・簡素化し,有効活用を促しています。
 加えて,廃校施設の活用支援の取組として,廃校施設の活用事例集を作成したり,活用されていない廃校施設の情報を集約し,文部科学省のウェブサイト上で公表したりすることによって,活用希望者とのマッチングを支援する「みんなの廃校プロジェクト」を展開しています(※24)(図表2-12-6)。

 図表2-12-6 ~未来につなごう~「みんなの廃校プロジェクト」


  • ※23 参照:第2部第3章第3節3
  • ※24 参照:https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/1296809.htm

4 文教施設への公共施設等運営権制度の導入推進

 効率的かつ効果的であって良好な公共サービスを実現するためには,多様なPPP/PFI(※25)を推進することが重要です。平成30年6月15日,民間資金等活用事業推進会議において「PPP/PFI推進アクションプラン(平成30年改定版)」(以下,「アクションプラン」という。)が決定されました。
 アクションプランでは,公共施設等運営権制度を活用した事業(以下「コンセッション事業(※26)」という。)等の重点分野が設定されました。スポーツ施設,社会教育施設及び文化施設(以下,「文教施設」という。)については,「平成28年度から平成30年度までの集中強化期間中に3件のコンセッション事業の具体化を目標とする」こととなっています。
 文部科学省は,平成28年4月から「文教施設における公共施設等運営権の導入に関する検討会」を開催し,文教施設において公共施設等運営権制度を活用するメリット等を整理した報告書を取りまとめるとともに(※27),地方公共団体におけるコンセッション事業導入の検討が円滑に行われるよう,実務的な手引きを30年3月に作成しました(※28)。
 本報告書や実務的な手引きを地方公共団体に周知するとともに,コンセッション事業を検討する地方公共団体への支援事業を実施しています。


  • ※25 PPP:PublicPrivatePartnershipの略。公共サービスの提供に民間が参画する手法を幅広く捉えた概念。民間資本や民間のノウハウを活用し,効率化や公共サービスの向上を目指す手法。PFI:Private Finance Initiativeの略。公共施設等の建設,維持管理,運営等に民間の資金,経営能力及び技術的能力を活用することで,効率化やサービスの向上を図る公共事業の手法。
  • ※26 コンセッション事業:施設の所有権を移転せず,民間事業者にインフラの事業運営に関する権利を長期間にわたって付与する事業。
  • ※27 参照:https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shisetu/040/gaiyou/1382968.htm
  • ※28 参照:https://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/ppp/1406650.htm

第3節 未来を拓(ひら)く教育研究基盤の形成

 国立大学等の施設は,日本の次代を担う人材育成の場であるとともに,地方創生やイノベーション創出の拠点となるなど,「Society 5.0」(※29)の実現に資する知の基盤です。
 現在,国立大学等の施設は,建築後25年以上を経過した施設が約6割を占めるとともに,建築後50年以上を経過した改修を要する施設が今後5年間で大幅に増加するなど,老朽化が深刻な課題となっています。また,キャンパス内に敷設されている給排水管や電気設備などのライフラインの老朽化も著しく進行しています。そのため,安全面はもちろん機能面に問題がある施設が多数存在し,高度化・多様化する教育研究活動に対応する上で様々な支障が生じているとともに,大学経営そのものにも影響を及ぼしています。
 こうした中,文部科学省は,大学経営の一環として国立大学法人等の戦略的な施設マネジメントを推進するとともに,「第4次国立大学法人等施設整備5か年計画(平成28年3月29日文部科学大臣決定)(※30)」(以下,「第4次5か年計画」という。)を策定するなど計画的・重点的な整備を推進しています。
 加えて,最近の災害による被害を踏まえ策定された,「防災・減災,国土強靱化のための3か年緊急対策」(平成30年12月14日閣議決定)の中で,国立大学等施設において,災害時に落下の危険性のある外壁や天井等の改善整備や,研究活動継続や安全確保対策等のためのインフラ設備更新等を行うこととしています。

 図表2-12-7 国立大学等施設の老朽化状況


  • ※29 参照:第2部第7章第1節1
  • ※30 参照:https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/28/03/1368920.htm

1 「第4次国立大学法人等施設整備5か年計画」に基づく整備の推進

 文部科学省は,「第5期科学技術基本計画」を受けて,平成28年3月に第4次5か年計画を策定し,1.安全・安心な教育研究環境の基盤の整備,2.国立大学等の機能強化等変化への対応,3.サステイナブル・キャンパス(※31)の形成の3つの課題に取り組んでいくこととしています。


  • ※31 サステイナブル・キャンパス:自然環境との共生,再生可能エネルギーの導入,省エネルギーの一層の推進などにより環境への負荷が少ない持続可能なキャンパス。

(1)基本的考え方

 文部科学省は,前記の3つの課題に取り組むに当たっての基本的な考え方として,老朽改善整備が遅れている既存施設については,インフラ長寿命化計画等を踏まえ,計画的かつ重点的に老朽改善整備を進めていくこととしています。また,国立大学等の施設に求められる「大学教育の質的転換」,「大学の強み・特色の重点化」など重要課題への対応については,キャンパスマスタープランを踏まえつつ,的確に進めることが重要であるとしています。なお,これらの整備に当たっては,既存施設について最大限有効活用を図りつつ「リノベーション(※32)」により対応していくことが重要としています。
 さらに,改修や改築の際は,施設の集約化により敷地を有効活用することや,保有する建物の総面積を抑制することで維持管理費等を削減し,その削減した費用を教育研究水準の向上に資する環境整備に投資するなど,大学経営の視点を踏まえた施設の管理運営を行っていくことが重要であるとしています。


  • ※32 リノベーション:教育研究の活性化を引き起こすため,施設計画・設計上の工夫を行って,新たな施設機能の創出を図る創造的な改修。

(2)重点的な施設整備の推進

 文部科学省は,第4次5か年計画において,1.安全・安心な教育研究環境の基盤の整備,2.国立大学等の機能強化等変化への対応,3.サステイナブル・キャンパスの形成を推進することとしています。
 「安全・安心な教育研究環境の基盤の整備」では,耐震対策や防災機能強化,老朽化した基幹設備の更新を推進しています。「国立大学等の機能強化等変化への対応」では,機能強化に伴い必要となる新たなスペースの確保や戦略的なリノベーションによるアクティブ・ラーニングスペース等の導入とともに,大学附属病院の再開発整備の着実な実施を推進しています。「サステイナブル・キャンパスの形成」では,省エネルギー対策や社会の先導モデルとなる取組を推進しています。また,これらの整備に当たっては,戦略的な施設マネジメントの取組や,多様な財源を活用した施設整備等も併せてより一層推進することとしています。

 文理融合型の総合研究棟の整備
 文理融合型の総合研究棟の整備

 朽化した図書館の改修
 老朽化した図書館の改修

 図表2-12-8 老朽改善による機能強化等の整備事例

2 今後の国立大学等施設の整備充実に向けた取組

(1)戦略的な施設マネジメントの推進

 大学の理念やアカデミックプラン(※33)の実現のため,経営的視点から,施設の整備や維持管理,既存施設の有効活用,これらに必要な財源の確保等の施設全般に係る取組をより一層推進することが求められています。
 このため,文部科学省は,施設マネジメントの基本的な考え方,具体的な実施方策や先進事例等を示した報告書や事例集を作成し(※34),国立大学法人等における戦略的な施設マネジメントの取組を推進しています。
 また,国立大学法人等の施設の老朽化が深刻な課題となる中,施設の長寿命化により既存施設を有効活用し,トータルコストの縮減や予算の平準化を図ることが求められています。このため,文部科学省は,平成29年11月に「国立大学法人等施設の長寿命化に向けたライフサイクルの最適化に関する検討会」を開催し,施設の長寿命化に向けた基本的な考え方や具体的な推進方策等について検討を行うとともに,施設の各部位ごとの改修・更新実績や劣化状況の整理,施設の長寿命化を図るために有効な取組事例の収集を行い,平成31年3月に報告書「国立大学法人等施設の長寿命化に向けて」を取りまとめました。
 今後も,施設の長寿命化が適切に行われるよう国立大学法人等における取組を支援することとしています。


  • ※33 アカデミックプラン:大学の理念を踏まえた教育,研究等に関する将来構想。
  • ※34 参照:https://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/kokuritu/1318421.htm

(2)国立大学附属病院施設整備の推進

 今後の国立大学附属病院の整備に当たっては,大規模災害時における電気・水の確保など,医療継続のための防災機能強化が重要な課題となっています。平成26年6月に策定され,30年12月に見直しが閣議決定された「国土強靱(じん)化基本計画」においても,病院における防災・減災機能の充実について盛り込まれています。
 文部科学省は,平成26年の同計画を受け,現状を踏まえた今後の国立大学附属病院施設における防災機能強化の在り方について検討するため,「国立大学附属病院施設の防災機能強化に関する検討会」を開催し,28年11月に報告書(※35)を取りまとめました。
 本報告書では,附属病院施設の防災機能強化に関する実態調査の結果や,平成28年4月に発生した熊本地震における熊本大学医学部附属病院の被災状況等も踏まえ,今後附属病院が災害時の医療拠点として防災機能の充実・強化を図る際に求められる取組をまとめています。
 また,平成30年度より,「防災・減災,国土強靱化のための3か年緊急対策」として,災害発生後の医療継続のための浸水対策等を行うこととしています。


  • ※35 参照:https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shisetu/039/toushin/1378593.htm

3 大学等の施設づくりへの技術支援

 文部科学省は,国立大学等施設の質的水準の確保・向上を図るとともに,社会の変化に対応した施設づくりのため,技術的な面から国立大学等の施設づくりを支援しています。
 また,国公私立大学,研究機関などの施設における省エネルギー推進のための取組を実施しています。

(1)技術的基準の整備

 国立大学等の施設整備に当たっては,建物の一定の品質と性能を確保するため,各府省庁共通の「統一基準(※36)」や文部科学省が定める「特記基準(※37)」などの技術的基準を定めています。
 また,文部科学省は,国立大学等が施設を設計する際の基本的考え方や留意事項を示した「国立大学等施設設計指針」を策定(※38)するとともに,大学機能を活性化する教育研究空間づくりを紹介する事例集の作成等を行っています。


  • ※36 統一基準:官庁施設整備に関し,各府省庁が定めた基準類のうち,共通化することが合理的な基準類を整理・統合し,各府省庁統一の基準として「官庁営繕関係基準類等の統一化に関する関係省庁連絡会議」の決定を受けた基準類。
  • ※37 特記基準:施設の特殊要因等のため,「統一基準」により難い部分がある場合に,「統一基準」を補完する基準として各府省庁が個別に定めた基準類。
  • ※38 参照:https://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/eizen/1349007.htm

(2)省エネルギーの推進

 省エネ法の規制や地球温暖化問題などを受けて,大学等においても省エネルギーの一層の推進が求められています。文部科学省は,大学等における省エネルギー対策の手引や事例集を作成するとともに,講習会を実施するなどの取組を行っています(※39)。
 また,エネルギーの使用量が多い大学等を対象に,平成30年9月から31年3月にかけて経済産業省と連携して現地調査を実施するなど,大学等が省エネルギーを図ることができるよう指導・助言を行っています。


  • ※39 参照:https://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/green/index.htm

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総合教育政策局政策課

-- 登録:令和元年11月 --