第9章 文化芸術立国の実現

総論

 文化庁は,総合的な文化行政を推進するための機能強化と京都への本格的な移転に向けた取組を進めています。具体的には,文化芸術の創造・発展,継承と教育の充実を進めるとともに,文化芸術を通じた共生社会の実現,イノベーションの創造や国家ブランドの構築を目指し,様々な施策を展開しています。また,国語・日本語教育に関する施策の推進,著作権施策の展開,宗教法人制度の運用等,様々な取組を行っています。

第1節 文化芸術推進基本計画(第1期)と文化予算

1 文化芸術推進基本計画(第1期)について

 「文化芸術推進基本計画―文化芸術の「多様な価値」を活(い)かして,未来をつくる―」(以下「基本計画」)は,文化芸術基本法に基づき,文化芸術に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため,文化審議会での審議や文化芸術推進会議における関係府省庁との調整等を経て,平成30年3月に閣議決定されました。
 基本計画では,文化芸術は,国民全体及び人類普遍の社会的財産として,創造的な経済活動の源泉や,持続的な経済発展や国際協力の円滑化の基盤となるものであり,本質的価値に加え,社会的・経済的価値を有していることが明確化されました。また,今日,少子高齢化やグローバル化,高度情報化などが急速に進展する中で,変化に応じた社会の要請に応じつつ,関連分野との連携を視野に入れた総合的な文化芸術政策の展開が求められていることに言及されています。さらに,2020(令和2)年東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下,「2020年東京大会」という。)は,スポーツの祭典であると同時に文化の祭典でもあり,我が国の文化芸術の価値を世界へ発信する大きな機会であるとともに,文化芸術による新たな価値の創出を広く示していく好機であることも示されています。
 また,文化芸術基本法の精神を前提としつつ,文化芸術の「多様な価値」(本質的価値及び社会的・経済的価値)を創出して未来を切り拓(ひら)くため,中長期的な視点からの四つの目標(「今後の文化芸術政策の目指すべき姿」)を定めています。さらに,これらの目標を中長期的に実現するため,5年間(対象期間:平成30年度から令和4年度までの5年間)の文化芸術政策の基本的な方向性として,六つの戦略と,それぞれの戦略に対応した基本的な施策として,関係府省庁の施策や文化芸術基本法において基本的な施策に例示として追加された事項を含め,約170の施策を盛り込んでいます。
 引き続き関係府省庁をはじめ各関係機関との連携及び協働を図りながら,基本計画に基づき必要な取組を進めていきます。

 図表2‐9‐1 文化芸術推進基本計画(第1期)の概要

2 文化庁予算について

 平成30年度予算は,「文化芸術の創造・発展と人材育成」,「かけがえのない文化財の保存,活用及び継承等」,「文化資源を生かした社会的・経済的価値の創出」,「日本ブランド向上に向けた多彩な文化芸術の発信」及び「文化発信を支える基盤の整備・充実」といった主要施策により,社会的・経済的価値をはぐくむ文化政策を推進する内容となっています(図表2‐9‐2)。
 「文化芸術の創造・発展と人材育成」では,豊かな芸術活動等を生み出す環境を創出し,我が国の芸術水準と国際的評価を高めるため,地域の特色ある文化芸術の取組支援,芸術団体の創造活動への効果的な支援及び子供たちの文化芸術を体験する機会の充実などの施策を推進しています。
 「かけがえのない文化財の保存,活用及び継承等」では,「日本遺産」をはじめ文化財を活用した観光振興・地域経済の活性化のための支援や,文化財を次世代に確実に継承するため,修理・整備や技術者の育成等への支援の充実を図っています。
 「文化資源を生かした社会的・経済的価値の創出」では,文化財の活用を促進するセンター機能の整備や文化財の保存・活用の好循環サイクルに向けた仕組みを構築するなど,文化資源を生かし,文化で稼ぐ新たな政策の推進を図っています。
 「日本ブランド向上に向けた多彩な文化芸術の発信」では,文化人・芸術家等のネットワーク形成・強化などによる国際文化交流や,我が国の多様な文化芸術を戦略的に国内外へ発信する取組の推進を図っています。
 「文化発信を支える基盤の整備・充実」では,国立文化施設の整備・充実などを通じて,文化発信の国内基盤を強化し,国民の鑑賞機会の充実を図るとともに,外国人に対する日本語教育の推進などを図っています。
 このほか,国際観光旅客税を活用して,文化財に対する多言語解説の整備を支援し,外国人観光客の日本文化への理解促進を図っています。

 図表2‐9‐2 平成30年度文化庁予算

第2節 新・文化庁の構築に向けた機能強化と本格移転に向けた取組

1 新・文化庁の構築に向けた機能強化

 「文化芸術立国」を実現していくため,平成28年の「文化芸術立国の実現を加速する文化政策―「新・文化庁」を目指す機能強化と2020年以降への遺産(レガシー)創出に向けた緊急提言―(答申)」(平成28年11月17日文化審議会)において,政策を総合的に調整し推進していくための体制の整備に努めることが答申され,加えて,29年の「文化芸術基本法」の改正において,文化庁の機能の拡充等を検討し,必要な措置を講ずるものとされました。
 また,平成28年3月には地方創生等の観点から,「政府関係機関移転基本方針」(まち・ひと・しごと創生本部決定)において,文化庁の京都への全面的な移転が決定されたところです。
 このような背景を踏まえ,文化庁では,「文部科学省設置法」等を改正し内部組織の再編を行い,平成30年10月に新体制を整えました。具体的には,文化に関する基本的な政策の企画及び立案並びに推進に関する事務等を文化庁の所掌事務に加えるとともに,学校における芸術に関する教育の基準の設定に関する事務及び博物館による社会教育の振興に関する事務を文部科学省本省から移管しました。また,組織としては,文化部・文化財部の二部制の廃止や文化資源活用課の設置など,時代区分を超えた組織編制,分野別の縦割型から目的に対応した組織編制とし,政策課題への柔軟かつ機動的な取組に対応できるようにしました。

 図表2‐9‐3 新・文化庁の組織

2 文化庁の京都への移転について

(1)「地域文化創生本部」の設置

 平成29年4月に,先行移転として京都に地元(京都府・京都市・京都商工会議所・関西広域連合,関西経済連合会等)の協力も得て「地域文化創生本部」を設置し,文化に関する政策調査研究,地域の幅広い文化芸術資源の活用による地方創生,食文化など生活文化の振興,文化財等を生かした広域文化観光など,京都,そして関西の方々とも手を携えながら,新たな政策ニーズ等に対応した取組を進め始めています。

(2)本格移転に向けた取組

 今後,遅くとも令和3年度中を目指すこととされる京都への本格的な移転に向け,テレビ会議システム等のICTを活用した業務効率化など,遠隔で行う業務の試行・改善の検討を行い,我が国全体の文化行政の更なる強化につなげるべく,引き続き関係省庁等と連携しながら,準備を進めてまいります。

第3節 2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた文化プログラム

1 文化プログラムの展開について

 文化の祭典でもある2020年東京大会は,魅力ある日本文化を世界に発信するとともに,地域の文化資源を掘り起こし,地方創生や観光振興の実現にもつなげる絶好の機会となります。
 こうした中,2020年東京大会に向けて,「東京2020文化オリンピアード」や「beyond2020プログラム」といった文化プログラムの取組が進められています。これらは大会ビジョン等を踏まえ,日本文化の再認識と継承・発展,次世代育成と新たな文化芸術の創造,日本文化の世界への発信に資する取組や,成熟社会にふさわしい次世代に誇れるレガシーの創出を見据えた取組に対して認証を行うものです。
 これらの取組を通して,我が国の文化芸術が一層振興され,更に日本全国で2020年東京大会の機運が大いに高まることが期待されています。

 図表2‐9‐4 東京2020大会に向けた文化プログラムの枠組

 図表2‐9‐5 各プログラムの認証要件

2 文化庁主催による主な文化プログラム

 文化庁としても,2020年東京大会の機会を活(い)かし,文化芸術立国の実現に向け,様々な主催事業を展開すること等により,文化プログラムの推進を図っています。
 平成30年度には,全国6か所の寺社仏閣や日本庭園等において,日本の大衆芸能である落語を上演する「ジパング笑楽座」をはじめとして,様々な文化プログラムを展開しました。「ジパング笑楽座」においては,簡単な英語とイラストによる独自の字幕システムを活用し,外国人や子供,初めて落語に触れる人も楽しめる新たな試みに取り組みました。
 また,文化プログラムの普及等を目的として,全国4か所において,「2020年とその先の未来に向かって」をテーマにシンポジウムを開催するとともに,全国各地の文化プログラム等の情報を広く収集し,インターネット上で管理・集約する「文化情報プラットフォーム」の試験的な構築にも取り組みました。この「文化情報プラットフォーム」の情報を基に,文化プログラム総合ポータルサイト「CultureNIPPON」(※1)を試験的に構築し,運用しています。

 独自の字幕システムを活用する「ジパング笑楽座」(福島県いわき市)
 独自の字幕システムを活用する「ジパング笑楽座」(福島県いわき市)


  • ※1 参照:http://culture-nippon.go.jp/ja/

3 「日本博」について

 文化庁では,2020年東京大会を契機とする文化プログラムの中核的事業として「日本博」を展開しています。「日本博」は,関係府省庁や地方公共団体,文化施設,民間団体等の関係者の総力を結集し,縄文時代から現代まで続く日本の美を各分野にわたって体系的に展開していく大型プロジェクトです。「日本人と自然」という総合テーマの下に,各地域が誇る様々な文化資源を年間通じて体系的に創成・展開するとともに,国内外への戦略的広報を推進し,文化による国家ブランディングの強化,観光インバウンドの飛躍的・持続的拡充を図ります。
 平成31年3月に「旗揚げ式」を開催し,当日は,「日本博」ロゴマークの発表や文部科学大臣による開幕宣言などを行いました。

 「日本博」旗揚げ式の様子(国立劇場大劇場)
 「日本博」旗揚げ式の様子(国立劇場大劇場)

第4節 舞台芸術活動等の推進

1 舞台芸術等の創造活動への効果的な支援

 我が国の文化芸術の振興を図るため,音楽,舞踊,演劇,伝統芸能,大衆芸能といった分野の芸術水準の向上の直接的な牽引力となる公演を重点的に支援するとともに,各分野の特性に配慮した創造活動を推進しています。平成30年度は,年間活動支援型36団体,公演事業支援型153件を支援しました。
 また,「戦略的芸術文化創造推進事業」として,芸術団体等からの企画提案を受けて行う実演芸術の水準向上のための取組や,障害者の優れた芸術活動の調査研究や海外への発信等を58件実施しました。

2 芸術文化振興基金

 芸術文化振興基金は,文化芸術活動に対する援助を継続的・安定的に行うため,平成2年に設立され,政府から出資された541億円と民間からの寄附金約140億円の計約681億円を原資としています。運用益は,各種文化芸術活動への日本芸術文化振興会が行う助成事業に充てています。寄附金の受付は随時行っており,芸術文化振興基金の拡充に努めています。

〈芸術文化振興基金からの助成額(平成30年度)〉

  • 芸術家及び芸術団体が行う芸術の創造・普及活動:6億5,528万円
  • 地域の文化振興を目的として行う活動:2億3,921万円
  • 文化に関する団体が行う文化の振興,普及活動:9,245万円

3 新進芸術家等の人材育成

 世界で活躍する新進芸術家等を育成するため,美術,音楽,舞踊,演劇などの分野において研修・発表の機会を提供しています。特に,「新進芸術家海外研修制度」では,昭和42年以来,新進芸術家等が海外の大学や芸術団体などで研修を受け,これまで多数の優秀な芸術家などを輩出しています(図表2‐9‐6)。

 図表2‐9‐6 新進芸術家海外研修制度のこれまでの派遣者の例

4 文化庁芸術祭の開催

 文化庁は,昭和21年度から毎年秋に「文化庁芸術祭」を開催しています。平成30年度は,オープニング公演として「通し狂言平家女護島」を上演したほか,オペラ,バレエ,演劇,音楽,能楽,文楽,舞踊・邦楽,舞踊,大衆芸能,アジア・太平洋地域の芸能等の11の主催公演を実施しました。
 また,演劇,音楽,舞踊,大衆芸能の参加公演部門には168件,テレビ,ラジオ,レコードの参加作品部門には118件が参加しました。各部門における審査の結果,優れた公演・作品に対して,文部科学大臣から芸術祭各賞が授与されました。

 「通し狂言平家女護島」
 平成30年度「文化庁芸術祭」主催公演
 国立劇場オープニング公演
 「通し狂言平家女護島」
 二幕目 鬼界ヶ島の場 俊寛僧都:中村芝翫

第5節 メディア芸術の振興

1 アニメーション,マンガなどのメディア芸術の振興

 アニメーション,マンガ,ゲームなどのメディア芸術は広く国民に親しまれ,新たな芸術の創造や我が国の芸術全体の活性化を促すとともに,海外から高く評価され,我が国に対する理解や関心を高めています。メディア芸術の一層の振興を図るため,創作活動に対する支援,普及,人材育成などに重点を置いた様々な取組を行っています。その一つの柱である「文化庁メディア芸術祭」は,「アート」,「エンターテインメント」,「アニメーション」,「マンガ」の4部門について,優れた作品を顕彰するとともに,受賞作品の鑑賞機会を提供するメディア芸術の総合フェスティバルとして,平成9年度から開催しています。30年度には,第21回の受賞作品展を6月に国立新美術館を中心に開催しました。また,同年8月1日(水曜日)から10月5日(金曜日)を募集期間とし実施した第22回のコンテストには,世界102の国と地域から4,384作品の応募がありました。他にも,過去の受賞作品を中心に優れたメディア芸術作品の鑑賞の機会を提供するメディア芸術祭地方展(30年度はやんばる展,飛鳥・橿原展,須賀川展を開催)やメディア芸術海外展開事業などを実施し,国内外に優れたメディア芸術作品を発信しています。

 Interstices/Opus I‐Opus II
 第21回アート部門大賞
 『Interstices/Opus I‐Opus II』映像インスタレーション
 Haythem ZAKARIA[チュニジア]
 (c)Haythem Zakaria

 この世界の片隅に
 第21回アニメーション部門大賞
 『この世界の片隅に』劇場アニメーション
 片渕須直[日本]
 (c)Fumiyo Kouno/Futabasha/Konosekai no katasumini Project

 人喰いの大鷲トリコ
 第21回エンターテインメント部門大賞
 『人喰いの大鷲トリコ』ゲーム
 『人喰いの大鷲トリコ』開発チーム(代表:上田文人)[日本]
 (c)2016 Sony Interactive Entertainment Inc.

 夜明け告げるルーのうた
 第21回アニメーション部門大賞
 『夜明け告げるルーのうた』劇場アニメーション
 湯浅政明[日本]
 (c)2017 Lu Film partners

 ねぇ、ママ
 第21回マンガ部門大賞
 『ねぇ、ママ』単行本
 池辺葵[日本]
 (c)Aoi Ikebe(AKITASHOTEN)2017

2 日本映画の振興

 映画は,演劇,音楽や美術などの諸芸術を含んだ総合芸術であり,国民の最も身近な娯楽の一つとして生活の中に定着しています。
 また,ある時代の国や地域の文化的状況の表現であるとともに,その文化の特性を示すものです。さらに,映画は海外に向けて日本文化を発信する上でも極めて効果的な媒体であり,有力な知的財産として位置付けられています。
 文化庁は,平成16年度から総合的な日本映画の振興施策を実施しており,1.日本映画の創造・交流・発信,2.若手映画作家等の育成,3.日本映画フィルムの保存・継承を推進しています(図表2‐9‐7)。
 具体的には,日本映画の製作支援,映画関係者によるシンポジウムなどの創作活動や交流の推進,日本映画の海外映画祭への出品支援やアジアにおける日本映画特集上映など海外への日本文化発信,短編映画作品製作による若手映画作家育成事業などの人材育成を通して,我が国の映画の一層の振興に取り組んでいます。特に日本映画の製作支援については,映画による国際文化交流を推進し,我が国の映画振興に資するため,平成23年度からは,国際共同製作による映画製作への支援も行っています。また,これらの活動を促進するため,データベースの整備による日本映画に関する情報提供も進めています。この他,映画及び映画関連資料の収集・保存・活用機能を一体的に強化し,より一層,我が国の映画文化振興を図るため,30年4月に「東京国立近代美術館フィルムセンター」を改組し,我が国唯一の国立映画専門機関「国立映画アーカイブ」が誕生しました。

 若手映画作家等の育成撮影風景
 若手映画作家等の育成撮影風景

 図表2‐9‐7 日本映画の振興

第6節 子供たちの芸術教育の充実・文化芸術活動の推進

1 学校における芸術教育の充実

 平成30年10月より小学校の「音楽」「図画工作」,中学校の「音楽」「美術」,高等学校の「芸術(音楽・美術・工芸・書道)」等の芸術に関する教育にかかる事務を文部科学省本省から文化庁に移管しました。これにより,芸術に関する国民の資質向上について,学校教育における人材育成からトップレベルの芸術家の育成までの一体的な施策の展開を図ります。
 平成29年3月に小学校及び中学校,30年3月に高等学校の学習指導要領を改訂しました。育成を目指す資質・能力を生活や社会の中の芸術や芸術文化と豊かに関わる資質・能力とし,目標を「知識及び技能」,「思考力,判断力,表現力等」,「学びに向かう力,人間性等」の三つの柱で整理して,これらが実現できるように示しています。また,各教科,科目の資質・能力の育成に当たっては,生徒がそれぞれの教科,科目の見方・考え方を働かせて学習活動に取り組めるようにすることを示しています。内容については,目標に対応して三つの柱で整理し,共通事項として表現と鑑賞の学習に共通に必要となる資質・能力を示しています。

 文化庁長官による中学校訪問
 文化庁長官による中学校訪問

2 子供たちの文化芸術活動の推進

(1)文化芸術による子供の育成事業

 子供たちが優れた実演芸術を鑑賞するとともに,文化芸術団体等による実技指導,ワークショップに参加し,更にこれらの団体等と本番の舞台で共演するなど,実演芸術に身近に触れる機会を提供する「文化芸術による子供の育成事業」を実施しています。平成30年度は,文化庁が選定した一流の文化芸術団体が小学校・中学校等において実演芸術公演等を実施する巡回公演を1,817公演,学校が独自に選定した個人または少人数の芸術家による実技披露,実技指導等を行う芸術家派遣を2,709か所で実施しました。

(2)伝統文化親子教室事業

 文化庁は,次代を担う子供たちに対して,民俗芸能,工芸技術,邦楽,日本舞踊,茶道,華道などの伝統文化・生活文化等を計画的・継続的に体験・修得することができる機会を提供する取組を支援しています。平成30年度は3,566団体の活動を採択しました。
 また,平成30年度から,子供たちの体験機会の拡充を図るため,地方公共団体による地域の伝統文化・生活文化等を体験する取組を12事業採択し,支援しています。

(3)文化部活動改革に向けた取組

 生徒のバランスの取れた生活や働き方改革の観点から「文化部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」を平成30年12月に策定し,公表しました。
 本ガイドラインは,義務教育である中学校段階の文化部活動を主な対象とし,高等学校段階においても,心身の発達及び進路に応じて,多様な教育が行われていることに留意し,原則的に適用,小学校段階についても休養日や活動時間を適切に設定することとしています。本ガイドラインに基づき,「適切な運営のための体制整備」「適切な休養日等の設定」「学校単位で参加する大会等の見直し」等について,持続可能な文化部活動にかかる取組を徹底するよう地方公共団体,教育委員会及び学校法人等の学校設置者,学校並びに関係団体に求めています。
 今後,フォローアップ調査などを実施し,本ガイドラインの適用状況を把握するとともに,本ガイドラインに則った取組が実施されるよう周知徹底を図ります。

(4)全国高等学校総合文化祭

 高校生に文化部活動の成果発表の機会を提供して,創造活動を推進し相互の交流を深めるため,都道府県,公益社団法人全国高等学校文化連盟等との共催により,「全国高等学校総合文化祭」(平成30年度は8月7日から8月11日まで長野県で開催),「全国高等学校総合文化祭優秀校東京公演」(30年度は8月25日,26日に開催),「全国高校生伝統文化フェスティバル」(30年度は12月15日,16日に京都府で開催)をそれぞれ毎年開催しています。

 第42回全国高等学校総合文化祭総合開会式
 第42回全国高等学校総合文化祭総合開会式

 図表2‐9‐8 開催部門一覧

第7節 文化芸術による共生社会の実現

1 障害者等による文化芸術活動の推進

 障害のある方々の優れた文化芸術活動の国内外での公演・展示の実施,助成採択した映画作品や劇場・音楽堂等において公演される実演芸術のバリアフリー字幕・音声ガイド制作への支援,特別支援学校の生徒による作品の展示や実演芸術の発表の場の提供等,障害者の文化芸術活動の充実に向けた支援に取り組んでいます。
 また,国立美術館,国立博物館は,展覧会の入場料を無料としているほか,全国各地の劇場,コンサートホール,美術館,博物館などにおいて,車いす使用者も利用ができるトイレやエレベーターの設置等障害のある方々に対する環境改善も進められています。
 平成30年6月には「障害者による文化芸術活動の推進に関する法律」が成立・施行されたことを受け,同法に基づく基本計画を作成しました。今後はこの計画に基づき,上記をはじめとする障害者による文化芸術活動の推進に関する施策をより総合的かつ計画的に推進することとしています。

2 アイヌ文化の振興

(1)国立アイヌ民族博物館

 アイヌ文化の復興等に関するナショナルセンターとして,北海道白老町に整備が進められている「民族共生象徴空間(愛称:ウポポイ)」の中核施設のうち,「国立アイヌ民族博物館」の施設整備や開業準備活動を行っています。
 「国立アイヌ民族博物館」は,アイヌ民族の歴史や文化を主題とした初めての国立博物館として,2020年東京大会に先立つ同年4月の開館を予定しています。
 「私たちのことば」など「私たちの」で始まる6つのテーマで,アイヌの人々が自分たちの文化を紹介する基本展示をはじめ,テーマ展示,子ども展示,映像シアター,特別展示により,その歴史と文化,そして人々の現在の暮らしを多角的に分かりやすく紹介します。
 また,展示解説文や音声ガイドには,訪日外国人(インバウンド)に対応した多言語の他,アイヌ語を使用し,館内の案内表示にもアイヌ語の表記を行う予定です。

 国立アイヌ民族博物館完成予想図
 国立アイヌ民族博物館完成予想図

(2)アイヌ文化の振興

 「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律」(以下,「アイヌ文化振興法」という。)に基づいて,同法の規定に基づく業務を行う団体として指定された公益財団法人アイヌ民族文化財団が実施する,アイヌに関する研究等の助成,アイヌ語の振興,アイヌ文化の伝承再生や文化交流,普及事業,優れたアイヌ文化活動の表彰やアイヌの伝統的生活空間(イオル)の再生事業等を支援しています。
 平成31年4月に「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(以下,「アイヌ施策推進法」という。)が新たに制定されました。その際,アイヌ文化振興法は廃止され,同法の内容はアイヌ施策推進法に引き継がれました。

第8節 地域における文化の振興

1 多様な文化を生かした地域づくり

 我が国には,全国各地に多様で豊かな文化が息づいており,地域ごとの特色ある文化を生かして,地域振興につながる取組を支援しています。(1)国民文化祭国民の文化芸術活動への参加機運を高めるとともに,地域や世代を超えた文化交流の輪を広げていくため,都道府県等との共催により,全国規模の文化の祭典である「国民文化祭」を毎年開催しています(平成30年度は大分県で開催)。

 第33回国民文化祭・おおいた2018開会式
 第33回国民文化祭・おおいた2018開会式

 図表2‐9‐9 主な内容

(2)文化芸術創造都市推進事業

 文化芸術の持つ創造性を生かした地域振興,観光・産業振興等に取り組む地方自治体を支援するため,情報の収集・提供,会議・研修の実施等を通じて,国内ネットワークを強化し,国全体が文化芸術の持つ創造性により活性化するための基盤づくりを進めています。

(3)文化芸術創造拠点形成事業

 地方公共団体の文化事業の企画・実施能力を全国規模で向上させるとともに,多様で特色ある文化芸術の振興を図り,ひいては地域の活性化に寄与することを目的とし,地方公共団体が主体となって取り組む文化芸術事業に対して支援を行っています(平成30年度採択実績:136件)。

(4)国際文化芸術発信拠点形成事業

 2020年東京大会とその後を見据えた効果的な対外発信を行い,訪日外国人(インバウンド)の増加,活力ある豊かな地域社会を実現するため,芸術祭などを中核とし,文化芸術と観光,まちづくり,食,国際交流,福祉,教育,産業その他関連分野と有機的に連携した国際発信力のある拠点形成を支援しています(平成30年度採択実績:11件)。

 Dance Dance Dance@YOKOHAMA 2018
 Dance Dance Dance@YOKOHAMA 2018
 横浜ダンスパラダイス photo:Kota Sugawara

 大地の芸術祭越後妻有アートトリエンナーレ
 新潟県十日町市
 大地の芸術祭越後妻有アートトリエンナーレ
 レアンドロ・エルリッヒ「Palimpsest:空の池」
 (Photo by Osamu Nakamura)

2 生活文化等の振興・普及

 生活文化・国民娯楽は,我が国の文化芸術に広がりを与え,またそれを支える土台として機能しているとともに,和装や茶道,食文化など外国人がイメージする我が国の文化を数多く含んでいます。また,正に我が国の魅力そのものとして,観光振興や国際交流の推進等にも極めて重要な役割を果たしています。文化庁では,こうした生活文化等が持つ多様な価値と魅力を生かし発信するとともに,各分野に関する実態調査を行い,生活文化の振興等を図ります。

第9節 文化財の保存と継承

1 文化財保護制度の改革

 文化財は我が国の様々な時代背景の中で,人々の生活や風土との関わりにおいて生み出され,現在まで守り伝えられてきた国民共通の貴重な財産です。しかし,過疎化や少子高齢化などを背景に文化財の継承の担い手が不足しており,文化財の滅失や散逸等の防止が喫緊の課題となっています。
 このような社会情勢を踏まえ,文化財をまちづくりなど他施策分野にも活(い)かしつつ,地域社会総がかりでその継承に取り組んでいくことができるよう「文化財保護法及び地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律」(以下「改正法」という。)が成立しました。

(1)地域における文化財の総合的・計画的な保存活用へ

 過疎化等の進展により,これまで価値付けが明確でなかった未指定の文化財や文化財と一体性を有する周辺環境など貴重な資源が失われつつあり,地域に所在する文化財を総合的に把握し,その保存・活用に地域一体で取り組むことが必要であることから,国・都道府県・市町村間や他施策分野横断での連携強化のみならず,地域住民や民間団体等の主体的参加や協力も得ながら,地域社会全体での計画的な取組を促進します。
 まず,都道府県が,文化財の保存・活用に関する総合的な施策の大綱を策定できることとし,域内の文化財の保存・活用に係る基本的な方針,広域区域ごとの取組,災害発生時の対応,小規模市町村への支援等を明示することで,都道府県が,市町村の区域を越える広域的な連携や,域内の市町村に対する積極的な役割の発揮を期するものです。
 次に,市町村が,文化財の保存・活用に関する総合的な計画(文化財保存活用地域計画)を作成し,国の認定を申請できることとしました。
 地域計画は,

  1. 当該市町村の区域における文化財の保存及び活用に関する基本的な方針
  2. 当該市町村の区域における文化財の保存及び活用を図るために当該市町村が講ずる措置の内容
  3. 当該市町村の区域における文化財を把握するための調査に関する事項
  4. 計画期間,その他

 を明示するもので,その作成に当たっては,市町村,都道府県,文化財の所有者,文化財の保存活用を支援する民間団体のほか,学識経験者,商工会,観光関係団体など市町村が必要と認める様々な関係者から成る協議会を組織することができます。
 作成した地域計画が国の認定を受けた場合の,国に対して登録文化財とすべき物件である旨提案できることとなっており,地域で見いだされた未指定文化財の保護について,国と地域の連携を一層強化しています。
 また,国指定等文化財の現状変更の許可(重大なものを除く。)など,文化庁長官の権限が地方公共団体に移譲されている一部の事務について,都道府県・市のみならず認定町村にも特例的に自ら事務を実施できることとしています。

 図表2‐9‐10 市町村による文化財保存活用地域計画の取組イメージ

(2)個々の文化財の確実な継承に向けた保存活用制度の見直し

 文化財の価値や保存・活用の在り方について可視化を図り,適切な取組を計画的実施を促進するため国指定等文化財の所有者又は管理団体が,「保存活用計画」を作成し,国の認定の申請ができるようになりました。保存活用計画は,今後予定される修理や整備などの事業など,計画の実施に当たっては別途,現状変更等の許可などの諸手続を要することが想定されるところ,改正法では,計画で修理等の行為の内容や具体的な部位が特定され,かつ適切な行為であること等が認められ文化庁長官の計画認定を受けた場合には,通常個別に要する許可を事後届出で良いとするなど手続を弾力化することとしています。

(3)地方文化財行政の推進力強化

 地方文化財行政の進展のためには,景観・まちづくり行政,観光行政など他の行政分野も視野に入れた総合的・一体的な取組を可能としたりすることが重要となります。
 このため,行うことができる文化財保護に関する事務について,各地方公共団体が文化財保護に関する事務をより一層充実させるために効果的と考える場合には,専門的・技術的判断の確保や開発行為との均衡などに留意しつつ,文化財に関して優れた識見を有する者により構成される地方文化財保護審議会を必ず置いた上で条例により,地方公共団体の長が担当できる特例を設けました(地方教育行政の組織及び運営に関する法律の改正)。
 また,地方公共団体における人材の充実を図るため,文化財の巡視や所有者等への助言等を行う「文化財保護指導委員」について,現在は都道府県に置くことができるとしているが,市町村にも置くことができることとし,日常的な管理の支援や防犯・防災対策等,地域に密接して専門的な人材が活動しやすい仕組みとします。

2 文化財の指定をはじめとする保存・継承のための取組

 文化財は,我が国の歴史や文化の理解のため欠くことのできない貴重な国民的財産であるとともに,将来の発展向上のためになくてはならないものです。また,将来の地域づくりの核ともなるものとして,確実に次世代に継承していくことが求められます。このため,文化庁は,「文化財保護法」に基づき,文化財のうち重要なものを指定・選定・登録し(図表2‐9‐11,図表2‐9‐12),現状変更や輸出等について一定の制限を課する一方,有形の文化財については保存修理,防災,買上げ等,無形の文化財については伝承者養成,記録作成等に対して補助を行うことによって文化財の保存を図っています。
 また,文化財の公開施設の整備に対して補助を行ったり,展覧会などによる文化財の鑑賞機会の拡大を図ったりするのみならず,地域の文化財を一体的に活用する取組に対しても支援を行っています。

 図表2‐9‐11 文化財保護の体系

 図表2‐9‐12 文化財指定等の件数

(1)有形文化財

 建造物,絵画,彫刻,工芸品,書跡,典籍,古文書その他の有形の文化的所産や考古資料,歴史資料で,我が国にとって歴史上,芸術上,学術上価値の高いものを総称して「有形文化財」と呼んでいます。このうち,「建造物」以外のものを「美術工芸品」と呼んでいます。有形文化財のうち重要なものを「重要文化財」に指定し,さらに,重要文化財のうち世界文化の見地から特に価値の高いものを「国宝」に指定して重点的に保護しています。(図表2‐9‐13,図表2‐9‐14)また,近年の国土開発や生活様式の変化等によって,社会的評価を受ける間もなく消滅の危機にさらされている近代等の有形文化財を登録という緩やかな手法で保護しています。
 有形文化財は,木材等の植物性材料で作られているものが多く,その保存・管理には適切な周期での修理が必要であるとともに防災対策が欠かせません。そのため,修理等に要する費用や,建造物については地震や火災などのからの被害から建造物を守るための工事や必要な設備の設置,危険木対策などの環境保全事業に対する補助を実施しています。

 図表2‐9‐13 平成30年度の国宝・重要文化財(建造物)の指定

 図表2‐9‐14 平成30年度の国宝・重要文化財(美術工芸品)の指定

(2)無形文化財

 演劇,音楽,工芸技術その他の無形の文化的所産で我が国にとって歴史上又は芸術上価値の高いものを「無形文化財」と呼んでいます。無形文化財は,人間の「わざ」そのものであり,具体的にはその「わざ」を体現・体得した個人又は団体によって表現されます。
 無形文化財のうち重要なものを「重要無形文化財」に指定し,同時に,これらの「わざ」を高度に体現・体得している者又は団体を「保持者」又は「保持団体」として認定しています(図表2‐9‐15)。保持者の認定には,重要無形文化財である芸能又は工芸技術を高度に体現・体得している者を認定する「各個認定」(この保持者がいわゆる,「人間国宝」)と,二人以上の者が一体となって舞台を構成している芸能の場合は,その「わざ」を高度に体現している者が構成している団体の構成員を認定する「総合認定」があります。また,「保持団体認定」は,重要無形文化財の性格上個人的特色が薄く,かつ,その「わざ」を保持する者が多数いる場合,これらの者が主な構成員となっている団体を認定するものです。
 重要無形文化財の各個認定の保持者に対し,「わざ」の錬磨向上と伝承者の養成のための特別助成金を交付するとともに,重要無形文化財の総合認定保持者が構成する団体や保持団体,地方公共団体等が行う伝承者養成事業,公開事業等を補助しています。また,我が国にとって歴史上,芸術上価値の高い重要無形文化財(工芸技術)を末永く継承し保護していくため,保持者の作品等の無形文化財資料を購入したり,その「わざ」を映像で記録して公開したりしています。

 図表2‐9‐15 平成30年度の重要無形文化財の指定・認定

(3)民俗文化財

 衣食住,生業,信仰,年中行事等に関する風俗慣習,民俗芸能,民俗技術及びこれらに用いられる衣服,器具,家屋その他の物件で我が国民の生活の推移の理解のため欠くことのできないものを「民俗文化財」と呼んでいます。民俗文化財には有形のものと無形のものがあります。
 有形,無形の民俗文化財のうち特に重要なものを「重要有形民俗文化財」,「重要無形民俗文化財」に指定し,保存しています(図表2‐9‐16)。また,重要有形民俗文化財以外の有形民俗文化財のうち,保存・活用のための措置が特に必要とされるものを「登録有形民俗文化財」に登録するとともに,重要無形民俗文化財以外の無形の民俗文化財のうち特に記録作成等を行う必要があるものを「記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財」に選択しています。
 民俗文化財は日常生活に基盤を置くものであり,近年の急激な社会構造や生活様式の変化によって変容・衰退のおそれがあります。文化庁は,重要有形民俗文化財に指定された衣服や器具・家屋等を保護するため,管理や修理,保存活用施設の整備等の事業を補助するとともに,重要無形民俗文化財に関する伝承者の養成や用具等の修理・新調等の事業に対しても補助を行っています。また,文化庁が選択した無形の民俗文化財を対象に,特に変容・衰滅のおそれが高いものについて,計画的に映像等による記録保存を確実に進めています。

 図表2‐9‐16 平成30年度の重要有形民俗文化財等の指定

(4)記念物

 貝塚,古墳,都城跡,城跡,旧宅その他の遺跡で我が国にとって歴史上又は学術上価値の高いもの,庭園,橋梁(りょう),峡谷,海浜,山岳その他の名勝地で我が国にとって芸術上又は鑑賞上価値の高いもの,動物や植物,地質鉱物で我が国にとって学術上価値の高いものを総称して「記念物」と呼んでいます。記念物のうち重要なものを,遺跡は「史跡」に,名勝地は「名勝」に,動物,植物,地質鉱物は「天然記念物」に指定し,さらに,それらのうち特に重要なものについては,「特別史跡」,「特別名勝」,「特別天然記念物」に指定して保護しています(図表2‐9‐17)。また,今日の地域開発の進展や生活様式の急激な変化に伴い,残存が困難な状況にある記念物については登録という緩やかな手法で保護しています。登録記念物については,「遺跡関係」,「名勝地関係」,「動物,植物及び地質鉱物関係」の三つの種別があります。
 指定・登録された史跡等について,保存と活用を図るための計画策定や整備等を行う所有者,管理団体等に対する補助を充実するとともに,地方公共団体が史跡等を公有化する事業に対する補助を実施しています。

 図表2‐9‐17 平成30年度の史跡・名勝・天然記念物の指定及び登録記念物の登録

(5)重要文化的景観

 石積みの棚田が営まれる集落,流通・往来の結節点に形成された町場,河川流域の土地利用等,地域における人々の生活又は生業や当該地域の風土により形成された景観地で,国民の生活又は生業の理解のため欠くことのできないものを「文化的景観」と呼んでいます。文化的景観を有する都道府県又は市町村では,「景観法」に基づく景観計画・条例や文化的景観保存計画等によって文化的景観の適切な保存・活用を図っています。このような文化的景観のうち,文化庁では,都道府県又は市町村の申出に基づき,特に重要なものを「重要文化的景観」として選定しています(図表2‐9‐18)。
 地方公共団体が行う文化的景観に関する保存調査や,文化的景観保存計画の策定,地域住民が参加するワークショップ等の普及・啓発,重要文化的景観の整備等の事業を補助しています。

 図表2‐9‐18 平成30年度の重要文化的景観の選定

(6)重要伝統的建造物群保存地区

 周囲の環境と一体を成して歴史的風致を形成している伝統的な建造物群で価値が高いものを「伝統的建造物群」と呼んでおり,城下町や宿場町,門前町,農山村集落などがこれに当たります。伝統的建造物群を有する市町村は,伝統的建造物群やこれと一体を成して価値を形成している環境を保存するために「伝統的建造物群保存地区」を定め,伝統的建造物の現状変更の規制等を行い,歴史的集落や町並みの保存と活用を図っています。文化庁は,伝統的建造物群保存地区のうち,市町村の申出に基づき,我が国にとってその価値が特に高いものを「重要伝統的建造物群保存地区」に選定しています(図表2‐9‐19)。
 「伝統的建造物群」を持つ市町村が行う伝統的建造物群の保存状況等の調査や,重要伝統的建造物群保存地区内の伝統的建造物の修理,伝統的建造物以外の建築物等の修景,伝統的建造物群と一体を成して価値を形成している環境の復旧,防災計画を策定するための調査,防災のための施設・設備の設置,建造物や土地の公有化等の事業を補助しています。

 図表2‐9‐19 平成30年度の重要伝統的建造物群保存地区の選定

(7)文化財保存技術

 我が国固有の文化によって生み出され,現在まで保存・継承されてきた文化財を確実に後世へ伝えていくために欠くことのできない文化財の修理技術・技能やこれらに用いられる材料・道具の製作技術等を「文化財の保存技術」と呼んでいます。文化財の保存技術のうち保存の措置を講ずる必要があるものを「選定保存技術」に選定するとともに,その技術を正しく体得している者を「保持者」として,技術の保存のための事業を行う団体を「保存団体」として,それぞれ認定し,保護を図っています。

(8)文化財を確実に次世代に継承するための取組の充実

 無形文化財の伝承や有形文化財の保存修理等のために必要となる伝統的な用具・原材料の入手が困難となってきている状況を受けて,その安定的な確保を目指し,関連技術の内容や生産現場の実状を正確に把握するための実態調査を行っています。
 ふるさと文化財の森システム推進事業を実施して,建造物の保存のために必要な原材料のうち山野から供給される木材(特に大径材,高品位材等,市場からの調達が困難なもの),檜皮,茅,漆等の植物性資材を安定的に確保するとともに,当該資材に関する技能者を育成するほか,資材の重要性や保存修理の考え方や方法についての理解を深めるため,修理用資材の確保や当該資材に関する技能者の育成等に関する普及啓発活動,保存修理の現場公開及び展示等を行っています。
 美術工芸品を災害や盗難等の被害から守るため,手引の作成や研修会の開催など,防災・防犯意識の向上や有効な対策への理解を促進するための取組を実施しています。さらに,海外流出や散逸等のおそれがある国宝・重要文化財等についても,国で買い取って保存しています。あわせて,海外流出を防ぐために,古美術品を海外に輸出する際には,当該古美術品が国宝・重要文化財に指定されておらず重要美術品に認定されていないことを証明する「古美術品輸出鑑査証明」を発行しています。(平成30年度3,734件)また,美術工芸品の活用を図るため,文化財保存施設の整備の推進や,国宝・重要文化財が出品される展覧会への支援とともに,国所有の国宝・重要文化財を文化庁主催展覧会に出品したり,博物館等に貸与したりしています。
 国宝・重要文化財(美術工芸品)の現状を把握するため,平成29年度末にフォローアップを行いましたが,フォローアップ調査時点の全指定件数1万524件のうち,所在不明の文化財は161件,追加確認の必要がある文化財は51件でした。現在,所在不明及び追加確認の必要がある文化財の所在確認を進めるとともに,31年2月より盗難文化財を含む所在不明文化財に関する情報を文化庁HP上で公開しています。

3 埋蔵文化財の保護

 「埋蔵文化財」(土地に埋蔵されている文化財)は,その土地に生きた人々の営みを示す遺産であり,土地に刻まれた地域の歴史と文化そのものです。
 埋蔵文化財を保護するために,「埋蔵文化財包蔵地」(全国に約46万8,000件)として周知された土地で開発事業等を行う場合,事前にその遺跡の内容を確認するための試掘・確認調査等を行います。そして,遺跡を現状保存するために調整を行いますが,やむを得ず現状保存できない場合は,遺跡の記録を作成してそれを保存するための発掘調査が必要になります(記録保存調査)。また,地域にとって重要な遺跡を積極的に現状保存するために,発掘調査を行う場合もあります(保存目的調査等)。
 現在,毎年約8,000件の発掘調査が全国で行われ,多くの成果が得られています。文化庁では,その成果をより多くの国民に,できるだけ早く,分かりやすく伝えるために,毎年「発掘された日本列島」展を開催しています。第24回目となる平成30年度の展覧会は,東京都江戸東京博物館,石川県立歴史博物館,岐阜市歴史博物館,広島県立歴史博物館,川崎市市民ミュージアムを巡回しました。
 また,水中に所在する埋蔵文化財(水中遺跡)の保護体制の整備充実を図るため,地方公共団体が水中遺跡の保存活用を円滑に推進するためのてびきの作成を進めています。
 「大規模震災における古墳の石室及び横穴墓等の被災状況調査の方法に関する調査研究事業」として,平成28年熊本地震で大きな被害を受けた史跡井寺古墳を始めとする熊本県内の古墳について,詳細な被災状況調査を進めています。

 異形台付土器(特別史跡加曽利貝塚出土)
 異形台付土器(特別史跡加曽利貝塚出土)

 単鳳環頭大刀(呰見大塚古墳出土)
 単鳳環頭大刀(呰見大塚古墳出土)

4 古墳壁画の保存と活用

 我が国では2例しか確認されていない極彩色古墳壁画である高松塚古墳及びキトラ古墳の両古墳壁画は,「国宝高松塚古墳壁画仮設修理施設」及び「キトラ古墳壁画保存管理施設」で保存修理・活用等が行われています。
 特別史跡キトラ古墳の恒久的な保存と確実な継承のため,修理が完了したキトラ古墳壁画は,国営飛鳥歴史公園キトラ古墳周辺地区のキトラ古墳壁画保存管理施設(キトラ古墳壁画体験館「四神の館」内)で,期間を定めて一般公開しました。4回の公開期間中(112日間),合計2万9,276人の来館がありました。
 国宝高松塚古墳壁画は,石室を解体して壁画を修理する保存方針に基づき,仮設修理施設において保存修理作業等を実施しています。引き続き壁画の保存修理作業をすすめるとともに,修理中の壁画の公開を実施します。また,キトラ古墳壁画の公開に合わせ,国宝高松塚古墳壁画仮設修理施設においても4回の修理作業室の公開を行い,28日間で計6,134人の参加がありました。

5 世界文化遺産と無形文化遺産

(1)世界文化遺産

 世界遺産条約(世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約)は,顕著な普遍的価値を持つ文化遺産・自然遺産を,人類全体のための世界の遺産として損傷・破壊等の脅威から保護することを目的として,1972(昭和47)年に国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)(※2)総会で採択され,我が国は1992(平成4)年に条約を締結しました。2019(平成31)年3月末現在の締約国数は193か国になっています。
 毎年1回開催される世界遺産委員会では,締約国からの推薦や諮問機関の評価等に基づいて審議が行われ,顕著な普遍的価値を持つと認められる文化遺産・自然遺産が世界遺産一覧表に記載されます。2019(平成31)年3月末現在で1,092件の遺産(文化遺産845件,自然遺産209件,複合遺産38件)が記載されています。
 2018(平成30)年7月,我が国が推薦を行っていた「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」が,世界遺産委員会での審議を経て,我が国で22番目の世界遺産として認められました(図表2‐9‐20)。
 現在,「百舌鳥(もず)・古市(ふるいち)古墳群」を世界文化遺産として推薦しており,2019(令和元)年夏に開催される世界遺産委員会で登録の可否が決定される予定です。

 図表2‐9‐20 我が国の世界遺産一覧

(2)無形文化遺産の保護に関する取組

 世界各地において,生活様式の変化など社会の変容に伴って,多くの無形文化遺産が衰退や消滅の危機にさらされる中,2003(平成15)年のユネスコ総会において,「無形文化遺産の保護に関する条約」が採択され,2006(平成18)年4月20日に発効しました。我が国は,2004(平成16)年に3番目の締約国となりました。2019(平成31)年2月末現在,この条約には178か国が加盟しています。この条約では,無形文化遺産を保護することを目的として,「人類の無形文化遺産の代表的な一覧表(代表一覧表)」の作成,無形文化遺産の保護のための国際的な協力及び援助体制の確立,締約国が取るべき必要な措置等について規定されています。
 2018(平成30)年11月,「来訪神:仮面・仮装の神々」が代表一覧表に記載されました。現在,我が国の記載件数は21となっています(図表2‐9‐21)。
 2018(平成30)年度は,2017(平成29)年度に提案したものの審査が延期となっていた「伝統建築工匠の技:木造建造物を受け継ぐための伝統技術」をユネスコへ再提案することが文化審議会及び無形文化遺産保護条約関係省庁連絡会議において決定されました。今後,2020(令和2)年11~12月頃に開催される政府間委員会で代表一覧表への記載可否が審議される予定です。

 図表2‐9‐21 代表一覧表に記載されている我が国の無形文化遺産

第10節 文化財をはじめとする文化資源を活用した付加価値の創出

1 文化資源を活用したインバウンドのための環境整備

 平成28年に策定された「明日の日本を支える観光ビジョン」において掲げられた「文化財の観光資源としての開花」を推進するため,文化庁では文化財を中核とする観光拠点の整備,並びに当該拠点等において実施される文化財等の観光資源としての魅力を向上させる取組への支援を行っています。

(1)文化財活用・理解促進戦略プログラム2020

 「明日の日本を支える観光ビジョン」等を踏まえ,文化庁において策定した「文化財活用・理解促進戦略プログラム2020」を推進します。これらの方針に基づき,引き続き,日本遺産をはじめ文化財を中核とする観光拠点を全国で200拠点程度整備するほか,文化財の一体的・面的活用や外国人の方にも分かりやすい解説の整備,文化資源の質の向上などに取り組むことにより,より一層の文化財の活用を図ります。

(2)文化資源の磨き上げについて

 平成31年1月より,国際観光旅客税が創設され,観光先進国実現に向けた観光基盤の拡充・強化が推進されているところです。文化財についても地域固有の文化資源として,国内外問わず多くの人々にその歴史的価値・魅力を発信すべく,国際観光旅客税を充当し,文化財に新たな付加価値を付与してより魅力的なものとなるよう磨き上げる取組を支援していきます。
 具体的には,「日本博」を契機とした文化資源による観光インバウンドの拡充や,文化財に新たに付加価値を付与しより魅力的なものとするための取組「Living History(生きた歴史体感プログラム)」等を支援します。また,日本が誇る先端技術を活用し,主要な空港等において,日本文化の効果的な発信を行うことや,文化財について先進的・高次元な多言語解説を整備することに対して支援を行います。

2 日本遺産の魅力発信

 地域の歴史的魅力や特色を通じて我が国の文化・伝統を語るストーリーを日本遺産として認定する仕組みを平成27年度に創設し,令和2年までに100件程度の日本遺産を認定することとしています。
 平成30年度は,日本遺産審査委員会の審査を経て13件を認定しました(図表2‐9‐22)。これまでに認定された日本遺産は計67件となり,認定地域に対しては,1.コンテンツ制作やガイド育成等の情報発信・人材育成,2.ストーリーの普及啓発,3.調査研究,4.説明版の設置等の公開活用のための整備に対して必要な財政支援を行い,地域活性化を図っています。
 平成30年9月には,富山県高岡市で各認定地域を一同に会した「日本遺産サミット」(約7,300人が参加)を開催し,ブース出展などにより地域の魅力発信を行いました。また,同時期に東京で開催された「ツーリズム EXPOジャパン」(国内外から約207,000人が参加)において,日本遺産をPRするための文化庁ブースを出展するなど,日本遺産の認知度の向上等を図っています。加えて,各認定地域の課題に応じた助言等を行う日本遺産プロデューサーの派遣による個々の地域に応じた支援を行うなど,日本遺産全体のブランド力向上に取り組んでいるところです。
 一方,各認定地域の取組の進捗には差もあり,状況に応じたメリハリを付けた事業を促進する必要があります。そのため,外部有識者からなる「日本遺産フォローアップ委員会」により各認定地域の取組の評価を行うとともに,必要な改善点を通知しています。これにより,認定地域が自らの課題を認識するとともに,事業の見直しを行うことで,より一層の日本遺産を活用した地域活性化を促します。
 今後とも,これらの取組を通じて,日本遺産を活用した地域の活性化や,日本文化の国内外への戦略的な発信に積極的に取り組んでいきます。

 図表2‐9‐22 平成30年度「日本遺産(JapanHeritage)」認定一覧

第11節 文化芸術によるイノベーションの創出,国家ブランドの構築

1 文化経済戦略の推進

 国・地方公共団体・企業・個人が文化への戦略的投資を拡大し,文化を起点に産業等他分野と連携し,創出された新たな価値が文化に再投資され,持続的に発展する「文化と経済の好循環」を目指し,平成29年12月に「文化経済戦略」を策定しました。この戦略は,1.未来を志向した文化財の着実な継承と更なる発展,2.文化への投資が持続的になされる仕組みづくり,3.文化経済活動を通じた地域の活性化,4.双方向の国際展開を通じた日本のブランド価値の最大化,5.文化経済活動を通じた社会包摂・多文化共生社会の実現,6.2020年を契機とした次世代に誇れる文化レガシー創出を基本となる考え方や重視すべき観点等を6つの視点として整理しました。さらに,この戦略推進のための主要施策の内容や目標等を明らかにした「文化経済戦略アクションプラン」を30年8月に策定し,関係府省庁と緊密に連携しながら文化経済戦略を推進します。
 また,近年,興行入場券の高額転売が社会問題となっていることを踏まえ,興行入場券の適正な流通を確保し,もって興行の振興を通じた文化及びスポーツの振興並びに国民の消費生活の安定等を目的とした「特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律(チケット不正転売禁止法)」が平成30年12月に成立し,令和元年6月14日から施行されます。本法律の適切な運用を図るため,国民への周知等を行い,興行を通じた文化及びスポーツの振興を推進します。

 図表2‐9‐23 「特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律」のポスター

2 企業等による芸術文化活動への支援

 世界のアート市場規模に比して小規模にとどまっている我が国アート市場の活性化と我が国アートの持続的発展を可能とするシステムを形成するための方策について,産業界等を巻き込んで検討を進めています。公益社団法人企業メセナ協議会との連携の下,同協議会が主催する「メセナアワード」の一環として,「文化庁長官賞」を設け,企業や企業財団による優れたメセナ(芸術・文化振興による社会創造)活動の顕彰を行っています。

3 国際文化交流の総合的な推進と国際協力への取組

(1)東アジア諸国や周年事業が設定された国々との交流

1.東アジア文化都市

 「東アジア文化都市」は,日中韓3か国から毎年1都市ずつを選定し,3都市が連携して年間を通じて様々な文化交流事業を実施するものです。平成26年から開始され,30年には,日本は金沢市,中国はハルビン市,韓国は釜山広域市が選定され,多彩な文化芸術イベントが実施されました。

2.周年事業における大型文化事業の実施

 外交関係樹立100周年など国交の節目の年をとらえて,周年事業として,友好と相互理解を深めることを目的とした交流事業を実施しています。平成30年は「日本メキシコ外交関係樹立130周年」に合わせた雅楽のメキシコ公演や,「日中平和友好条約締結40周年」に合わせた日本のオーケストラの中国公演を実施しました。

(2)文化関係の国際的な会議への参加

1.日中韓文化大臣会合

 日中韓文化大臣会合は,文化交流・協力の強化に向けた方策について,日中韓3か国の文化担当大臣が意見交換を行うものです。平成30年8月に中国ハルビン市で開催された第10回会合では,「ハルビン行動計画」を採択しました。
 同会合では,令和元年の「東アジア文化都市」として,日本の豊島区,中国の西安市,韓国の仁川広域市を正式決定したほか,今後の「東アジア文化都市」事業の充実,対外発信強化に向けた取組を推進し,東京,北京オリンピック・パラリンピックに向けた協力関係を推進することが確認されました。

2.ASEAN+3文化大臣会合

 ASEAN+3文化大臣会合は,東南アジア諸国連合(ASEAN)の10か国と対話国(日中韓3か国)の文化担当大臣が,文化分野における協力について意見交換を行うものです。平成30年10月には,インドネシアで第8回「ASEAN+3文化大臣会合」及び第3回「日ASEAN文化大臣会合」が同時開催されました。ASEAN+3文化大臣会合では,文化交流,創造文化産業,文化遺産管理,人材開発といった分野において,ASEANと対話国との間で文化協力を進めていくことを示した「ASEAN+3文化芸術協力に関する作業計画2019‐2021」を採択し,また,「東アジア文化都市」と「ASEAN文化都市」との間で都市間交流を進めていくことで一致しました。

(3)芸術家・文化人の交流

 「日本の心を世界に伝える」をテーマに,日本のトップレベルの芸術家や文化人の方々を「文化交流使」に指名しています。文化交流使は世界各国に一定期間滞在し,日本文化を海外の人に知っていただくための芸術・文化活動を行います。平成30年度は作曲,美術,浪曲,箏曲といった分野で活躍中の芸術家・文化人4人が指名され,活動を行いました。また,26年度から中国及び韓国に派遣している「東アジア文化交流使」についても,30年度には2人が指名され,講演や上映会などを行いました。
 また,国内外の芸術家を招へいし,地域で芸術活動を行うアーティスト・イン・レジデンス(AIR(エアー))への支援により,地域における国際文化交流を推進しています。平成30年度は,29団体に対して支援を行いました。
 さらに,外国の文化人,芸術家や文化財専門家などを招へいし,我が国関係者との意見交換などを実施しています。平成30年度は,アメリカ,イギリス,オーストラリア,グアテマラ,韓国,フィリピンの6か国から7人の専門家を招へいしました。

(4)芸術文化の国際交流の推進

 芸術文化の国際交流の推進は,我が国の芸術文化水準の向上を図るとともに我が国に対するイメージの向上や諸外国との相互理解の促進に貢献するものです。文化庁は,芸術文化の国際交流を推進するため,芸術団体が海外公演を行ったり,有名な国際芸術祭に参加したり,海外映画祭等に出品したりする取組を支援しています。
 また,平成30年6月に「国際文化交流の祭典の実施の推進に関する法律(平成30年法律第48号)」が成立し,これに基づき31年3月に「国際文化交流の祭典の実施の推進に関する基本計画」が閣議決定されたことを踏まえ,日本にて行われ,世界の関心を集める国際文化交流の祭典の実施を推進します。

(5)文化財に関する国際交流・協力の推進

1.文化遺産の保護における国際協力

 「海外の文化遺産の保護に係る国際的な協力の推進に関する法律」を踏まえ,文化遺産国際協力コンソーシアムの下で,文化庁,外務省,大学・研究機関,民間助成団体等が一体となって連携協力し,文化遺産の保護における国際協力を効果的かつ効率的に推進しています。具体的には,国内の各研究機関等とネットワークを構築して,文化遺産国際協力に関する調査研究や普及啓発などを行っています。

2.国際社会からの要請等に基づく国際支援

 文化遺産の保護における国際貢献事業として,文化遺産国際協力コンソーシアム,外務省や国際交流基金その他の関係機関との協力の下で,文化遺産の保護における国際貢献事業として,「緊急的文化遺産国際貢献事業」,「文化遺産国際協力拠点交流事業」を実施しています。
 「緊急的文化遺産国際貢献事業」では,平成16年度から,紛争や自然災害によって被災した文化遺産について,関係国や機関からの要請等に応じ,我が国の専門家の派遣や相手国の専門家の招へいを行うなど緊急対応の専門家交流事業を実施しています。平成30年度は,イラク及びウズベキスタン等の中央アジア諸国を対象に事業を実施しました。
 また,「文化遺産国際協力拠点交流事業」では,平成19年度から,海外の国や地域において文化遺産の保護に重要な役割を果たす機関等との交流や協力を行う拠点交流事業を実施し,現地で文化遺産の保護に携わる人材の養成に取り組んでいます。30年度からは,新規事業としてイランにおける遺跡の保存管理や活用に関する拠点交流事業や,シリアにおける文化遺産の記録作成や教育活動への支援に関する拠点交流事業を実施しました。

3.二国間取り決め等による国際交流・協力
(ア)日本古美術海外展

 日本の優れた文化財を諸外国に紹介することにより,日本の歴史と文化に対する理解の増進と国際親善に寄与することを目的とし,昭和26年から毎年,日本古美術海外展を開催しています。平成30年度は,6月から9月までウェールズ国立博物館(英国・カーディフ)において「今・昔(いま・むかし,ゾーイ・ア・ヘディウ)日本のアート&デザイン」展を開催するとともに,9月から10月にかけては,プーシキン美術館(ロシア・モスクワ)において「江戸絵画名品展」,9月から11月にリートベルク美術館(スイス・チューリッヒ)において「長澤蘆雪―18世紀日本のアバンギャルド」展,10月から12月に日本文化会館(フランス・パリ)において「縄文―日本における美の誕生」展を実施しました。

 江戸絵画名品展
 「江戸絵画名品展」
 (於:ロシア・モスクワ)

 「縄文―日本における美の誕生」展
 「縄文―日本における美の誕生」展
 (於:フランス・パリ)

(イ)イタリアとの交流・協力

 文化財の保存修復や国際協力の分野で長年の経験を有するイタリアと日伊文化遺産国際協力に関する覚書を締結して,積極的な交流を行っています。平成29年度からは自然災害による文化財建造物の危機評価に関する協力等の共同プロジェクトが進行しています。

(ウ)文化財保存修復研究国際センター(ICCROM)との連携協力

 我が国は,国際機関である文化財保存修復研究国際センター(ICCROM:イクロム)に加盟し,分担金の拠出や調査官の派遣など国際的な研究事業等への協力を行っています。

4.文化財の不法な輸出入等の規制

 不法な文化財取引を防止し,各国の文化財を不法な輸出入等の危険から保護するため,平成14年に「文化財の不法な輸入,輸出及び所有権移転を禁止し及び防止する手段に関する条約」を締結し,「文化財の不法な輸出入等の規制等に関する法律」を制定しました。この法律は,外国の博物館等から盗取された文化財の輸入を禁止しており,盗難被害にあった者は,民法で認められている代価弁償を条件として,特例として回復請求期間が10年間に延長されています。
 また,「シリアにおいて不法に取得された文化財の輸入における取扱いについて」(平成27年10月5日付け文化庁文化財部長通知)により,イラクに加え,シリアにおいて不法に取得された文化財についても輸入規制の対象となっています。
 さらに,武力紛争時における文化財を保護するため,「武力紛争の際の文化財の保護に関する条約」と「武力紛争の際の文化財の保護に関する法律」等に基づいて,武力紛争時に他国に占領された地域(被占領地域)から流出した文化財の輸入が規制されています。また,武力紛争時において戦闘行為として文化財を損壊する行為や,文化財を軍事目的に利用する行為等が罰則の対象となっています。

第12節 博物館・劇場等の振興

1 博物館の振興

 博物館は,歴史・芸術・民俗・産業・自然科学等に関する資料の収集,保管,展示,調査研究,教育普及等の本来の役割や機能に加え,観光・まちづくり・教育等の関連分野との有機的な連携を図りつつ,地域の文化振興の拠点となることが期待されています。
 こうした背景を踏まえ,平成30年10月の組織再編時に,博物館に関する事務を文部科学省から文化庁へ移管しました。文化庁は,博物館全体を所管する立場から,博物館のさらなる振興に取り組むこととしています。
 2019(令和元)年9月にはICOM(国際博物館会議)京都大会2019が開催されます。この大会は諸外国に対し我が国の文化を発信する絶好の機会であり,国内外の博物館ネットワークの活用・強化を図るとともに,開催に向けて関係機関と連携しながら必要な協力を行うこととしています。

(1)博物館への支援

 地域の教育力の向上や,博物館職員の資質向上を目的として,学芸員の資格認定試験や,博物館長及び学芸員等を対象とした専門的な研修等を実施しています。
 また,博物館が地域住民の文化芸術活動・学習活動の場として積極的に活用され,国内外の文化芸術の発信拠点としての機能が充実するよう,複数の博物館により構成される博物館コンソーシアムによる共同展示や共同研修,多言語による情報発信等の取組を推進する「博物館ネットワークによる未来へのレガシー継承・発信事業」(平成30年度採択実績:4件)や,美術館・博物館を中核とした,関係機関との連携による文化クラスター(文化集積地)創出に向けた地域文化資源の一体的整備に関する取組を支援する「博物館を中核とした文化クラスター形成事業」(平成30年度採択実績:90件)等,様々な支援を行っています。
 さらに,国立美術館・博物館は,多くの方に来訪していただけるよう,平成28年9月から開館時間を延長して週2回の夜間開館(金・土曜日は20時まで,東京国立博物館は金・土曜日21時まで)や,夜間開館と連動した,コンサート・野外シネマなどの参加・体験型各種イベントを実施しています。

(2)美術品補償制度の導入等

 「展覧会における美術品損害の補償に関する法律」に基づいて,展覧会のために海外等から借り受けた美術品に損害が生じた場合にその損害を政府が補償する「美術品補償制度」が設けられています。この制度の創設以来,平成31年3月末現在で37件(30年度は7件)の展覧会が美術品補償制度の対象になっています。美術品補償制度によって,展覧会の主催者の保険料負担が軽減され,広く全国で優れた展覧会が安定的・継続的に開催されることが期待されています。
 また,「海外の美術品等の我が国における公開の促進に関する法律」によって,従来は強制執行等の禁止措置が担保されていないために借り受けることが困難であった海外の美術品等を公開する展覧会の開催が可能となっています。平成30年度は17件の展覧会で公開するために借り受けた美術品等を指定しました。

(3)登録美術品制度

 「美術品の美術館における公開の促進に関する法律」に基づいて,優れた美術品の美術館や博物館における公開を促進する「登録美術品制度」が設けられています。この制度は,優れた美術品について,個人や企業等の所有者からの申請に基づき,専門家の意見を参考にして文化庁長官が登録するものです。登録された美術品は,所有者と美術館の設置者との間で結ばれる登録美術品公開契約に基づき,当該美術館で5年以上の期間にわたって計画的に公開・保管されます。また,登録美術品については,相続税の物納の特例措置(※2)が設けられています。平成31年3月末現在までに,80件(9,234点)の美術品が登録美術品として登録されています。


  • ※2 相続税の物納の特例措置:相続税の物納が認められる優先順位を国債や不動産などと同じ第一位とするもの。物納された美術品は,それまで公開契約を結んでいた美術館に無償で貸与され,引き続き美術館での保管・公開が可能となる。これまでに 5件の美術品が物納されている。

(4)国立施設の取組

1.国立美術館

 国立の美術館として,東京国立近代美術館,京都国立近代美術館,国立映画アーカイブ,国立西洋美術館,国立国際美術館,国立新美術館が設置されています。各国立美術館は,それぞれの特色を生かしつつ,6館が連携・協力して,美術作品の収集・展示,教育普及活動やこれらに関する調査研究を行うとともに,我が国の美術振興の拠点として,国内外の研究者との交流,学芸員の資質向上のための研修,公私立美術館に対する助言,地方における巡回展などを行っています(※3)。
 「国立映画アーカイブ」は,平成30年4月に東京国立近代美術館フィルムセンターを改組し,我が国で唯一の国立映画専門機関として独立しました。収集・保存・活用機能を一体的に強化し,より一層,我が国の映画文化振興を図ります。
 各国立美術館は,定期的に企画展を開催しており,平成30年度は,「生誕150年横山大観展」(東京国立近代美術館),「生誕110年東山魁夷展」(京都国立近代美術館),「ルーベンス展―バロックの誕生」(国立西洋美術館),「プーシキン美術館展――旅するフランス風景画」(国立国際美術館),「ルーヴル美術館展肖像芸術――人は人をどう表現してきたか」(国立新美術館)などを開催しました。国立映画アーカイブは,「国立映画アーカイブ開館記念映画を残す,映画を活(い)かす。」の上映などを行いました。

2.国立文化財機構

 国立文化財機構は,東京国立博物館,京都国立博物館,奈良国立博物館,九州国立博物館の4博物館を設置し,有形文化財を収集・保管して広く観覧に供するとともに,東京文化財研究所,奈良文化財研究所,アジア太平洋無形文化遺産研究センターを加えた7施設において調査・研究などを行うことにより,貴重な国民的財産である文化財の保存と活用を図ることを目的としています(※4)。同機構は,所蔵する国宝・重要文化財を含む約12万8千件(平成29年度末現在)の文化財を活用し,平常展,企画展などを通じて日本の歴史・伝統文化や東洋文化の魅力を国内外に発信する拠点としての役割も担っています。平成30年度には,特別展「縄文―1万年の美の鼓動」(東京国立博物館),特別展「京のかたな匠のわざと雅のこころ」(京都国立博物館),「第70回正倉院展」(奈良国立博物館),特別展「至上の印象派展ビュールレ・コレクション」(九州国立博物館)などの特別展を開催しました。
 東京文化財研究所は,日本・東洋の美術・芸能等の文化財に関する調査研究や文化財の保存に関する科学的な調査,修復材料・技術の開発に関する研究を行っています。また,海外の博物館・美術館が所蔵する日本古美術品の修復協力,ミャンマー等アジア諸国を中心とした文化財保存修復協力,ネパールにおける復興支援など,国際交流も進めています。
 奈良文化財研究所は,遺跡,建造物,歴史資料などの調査研究や平城宮跡,飛鳥・藤原宮跡の発掘調査などを進めています。全国各地の発掘調査などに対する指導・助言や文化財担当の専門職員などに対する研修も行っています。
 アジア太平洋無形文化遺産研究センターは,日本政府とユネスコの協定に基づき設置され,アジア太平洋地域における無形文化遺産保護に関する調査研究を強化する拠点の一つとして様々な活動を行っています。
 さらに,国立文化財機構は東日本大震災における被災文化財等救援事業を担当した経験を踏まえ,平成26年度から文化庁の補助金による文化財防災ネットワーク推進事業を実施しています。今後起こり得る大規模災害から地域の歴史や文化を伝える貴重な文化遺産を守るため,地方公共団体・各種関係団体とのネットワーク構築等を進めています。
 平成30年7月には,文化財の「保存」と「活用」の両立に留意しながらVRなどの先端技術を用いたコンテンツ開発,収蔵品の貸与促進などの事業を推進する「文化財活用センター」を設置しました。また,東京国立博物館は,日本の文化を世界へ発信する中心的な役割を担うために,インバウンドを含めた来館者の満足度向上を目指し,多言語対応の充実や快適な鑑賞環境の整備等を含んだ「トーハク新時代プラン」を公表して,新たなサービスに取り組んでいます。

 東京国立博物館 本館
 東京国立博物館 本館

3.国立科学博物館

 国立科学博物館は,国立で唯一の総合科学博物館であり,自然史,科学技術史に関する調査研究,標本資料の収集・保管とその継承を進めるとともに,調査研究の成果や標本資料を生かして展示や学習支援活動を実施しています(※5)。
 平成30年度は,展示活動については,展示を活用した学習支援活動に体系的に取り組み活性化を図るとともに,今後の常設展示の将来構想と地球館II期の改修に関する基本計画を基に,引き続き改修の準備を進めました。また,入館者の要望に応え資料解説を改善及び追加するなどにより,展示の魅力を一層感じられる観覧環境を整えました。
 さらに,「人体―神秘への挑戦―」,「昆虫」,明治150年記念「日本を変えた千の技術博」等の特別展のほか,企画展として,沖縄旧石器時代研究の最新情報を紹介した「沖縄の旧石器時代が熱い!」,博物館の標本や資料の種類や標本づくりのプロセスに焦点をあてて紹介した「標本づくりの技ワザ―職人たちが支える科博―」,弥生時代人骨研究をめぐる研究の歴史や最新の研究成果を紹介した「砂丘に眠る弥生人―山口県土井ヶ浜遺跡の半世紀―」等を開催しました。
 学習支援活動については,未就学児から成人まで幅広い世代に自然や科学の面白さを伝え共に考える機会を提供するため,展示を活用したコミュニケーション活動や利用者の特性に応じた講座・観察会等を実施するとともに,全国約30か所での博物館・教育委員会と協働した「教員のための博物館の日」の実施,自然科学系博物館等に勤務する中堅学芸員を対象にした専門的研修や大学院生等を対象にしたサイエンスコミュニケータ(※6)の養成を行っています。
 加えて,国立科学博物館の有する知的・人的・物的資源を活(い)かし,全国各地の科学系博物館等と連携協働して,巡回展示や学習支援活動,研修等を実施しています。例えば平成30年度には,北海道博物館協会や北海道博物館と連携し,道内の複数箇所での研修や,観光に係るシンポジウムを実施しました。また巡回展示や学習支援活動などを共に実施し,博物館活動の魅力向上に向けた考え方や事業手法の共有を図りました。

 調査研究の成果や標本資料を生かした常設展
 調査研究の成果や標本資料を生かした常設展

4.国立近現代建築資料館

 国立近現代建築資料館は,近現代建築に関する資料(図面など)を次世代に継承するための保存と活用を行う建築資料専門のアーカイブズ施設です(※7)。
 同館では,近現代建築資料に関する情報収集,資料の収集・保管・公開及び調査研究を行うとともに,展覧会の開催を通じて,我が国の建築文化に対する国民への理解増進を図っています。
 平成30年度は,「平成30年度収蔵品展建築からまちへ1945‐1970戦後の都市へのまなざし」(6月9日~9月9日),「明治期における官立高等教育施設の群像旧制の専門学校,大学,高等学校などの実像を建築資料からさぐる」(10月23日~2月11日)を開催しました。

 「明治期における官立高等教育施設の群像」展
 「明治期における官立高等教育施設の群像」展


  • ※3 参照:http://www.artmuseums.go.jp/
  • ※4 参照:https://www.nich.go.jp/
  • ※5 参照:http://www.kahaku.go.jp
  • ※6 サイエンスコミュニケータ:人と自然と科学が共存する持続可能な社会を育むため,誰もが科学について主体的に考え行動するきっかけを提供し,人と人あるいは科学と社会をつなげる人材。
  • ※7 参照:http://nama.bunka.go.jp/

2 劇場・音楽堂等の振興

(1)劇場,音楽堂等の活性化

 「劇場,音楽堂等の活性化に関する法律」及び「劇場,音楽堂等の事業の活性化のための取組に関する指針」の趣旨を踏まえ,文化拠点である劇場,音楽堂等が行う実演芸術の創造発信や,専門的人材の養成,普及啓発事業等を支援することによって,劇場,音楽堂等の活性化を図るとともに,地域コミュニティの創造と再生を推進する「劇場・音楽堂等機能強化推進事業」を実施しています(平成30年度採択実績:267件)。

(2)障害者等に対応した劇場・音楽堂等に関する税制措置

 障害者や高齢者に対して高度なバリアフリー対策を行った劇場・音楽堂等に対し,固定資産税等を減免する特例が創設されました。これにより,劇場・音楽堂等が,障害者等に優しい文化拠点として,年齢・障害の有無に関わらず共に文化芸術活動ができるような環境の整備を図り,共生社会の実現に向けた取組を支援します。

(3)日本芸術文化振興会

1.伝統芸能の保存・振興

 我が国の伝統芸能の振興の拠点として,国立劇場,国立演芸場,国立能楽堂,国立文楽劇場,国立劇場おきなわが設置されています。日本芸術文化振興会は,これらの5館を通して,歌舞伎,文楽,舞踊,邦楽,大衆芸能,能楽,組踊等の伝統芸能の公開や,伝承者の養成,伝統芸能に関する調査研究・資料の収集及び活用,劇場施設の貸与等を行っています。
 平成30年度は,公演事業として,5館で計181公演(1,031回)を実施しました。歌舞伎については,新たに復活した通し狂言「増ぞう補ほ双ふたつ級巴どもえ―石川五右衛門―」の上演や過去に復活した作品を再構成した「姫ひめ路じ城じょう音おとに菊きく礎その石いしずえ」の通し上演などを行いました(国立劇場)。文楽については,明治150年期年として「良ろう弁べん杉すぎ野の由ゆ来らい」「増ぞう補ほ忠ちゅう臣しん蔵ぐら」の上演(国立劇場),吉田玉助襲名披露公演(国立劇場・国立文楽劇場)などを行いました。能楽については,国立能楽堂開場35周年記念公演として,古典作品のほか,新作・復曲作品等の様々な演目を上演しました(国立能楽堂)。沖縄伝統芸能については,開場15周年記念特別公演として「琉球舞踊と組踊り」等7公演(国立劇場おきなわ)のほか,組踊上演300周年を記念する琉球芸能公演として「組踊と琉球舞踊」(国立劇場)を上演しました。
 また,外国人を対象とした「Discover KABUKI」,「Discover BUNRAKU」,「Discover NOH&KYOGEN」,「Discover KUMIODORI」を上演しました。伝承者養成事業では,平成31年3月現在,歌舞伎俳優6人,歌舞伎音楽(竹本)2人,歌舞伎音楽(鳴物)1人,歌舞伎音楽(長唄)2人,大衆芸能(寄席囃子(よせばやし))2人,能楽4人,組踊10人がそれぞれ研修中です。
 また,伝統芸能に関する調査研究を継続的に実施しているほか,各館において展示や各種講座等を実施し,伝統芸能に関する理解促進と普及に努めています。

2.現代舞台芸術の振興・普及

 我が国の現代舞台芸術の振興の拠点として,新国立劇場が設置されています。日本芸術文化振興会は,新国立劇場を通して,オペラ,バレエ,現代舞踊,演劇等の公演の実施や,実演家等の研修,現代舞台芸術に関する調査研究・資料の収集及び活用,劇場施設の貸与等を行っています(※8)。
 平成30年度,公演事業としてオペラ「魔笛」,日本から世界に発信するオペラ創作委嘱作品「紫苑物語」,バレエ「不思議の国のアリス」,現代舞踊「Summer/Night/Dream」,演劇「ヘンリー五世」など,計29公演(275回)を実施しました。実演家研修事業では,31年3月現在,オペラ15人,バレエ12人,演劇35人がそれぞれ研修中です。
 また,新国立劇場や舞台美術センター資料館において展示や各種講座等を実施し,現代舞台芸術の理解促進と普及に努めています。

 国立劇場外観
 国立劇場外観


  • ※8 参照:http://www.nntt.jac.go.jp

第13節 社会の変化に対応した国語・日本語教育に関する施策の推進

1 国語施策の推進

 国語は,国民の生活に密接に関係し,我が国の文化の基盤になるものです。時代の変化や社会の進展に伴って生じる国語に関する諸問題に対応して,より適切な国語の在り方を検討しながら,その改善のために必要な施策を実施しています。

(1)国語課題の検討

 文化審議会国語分科会は「常用漢字表」(平成22年11月30日内閣告示)を踏まえ,平成28年2月に「常用漢字表の字体・字形に関する指針(報告)」(※9)を取りまとめました。この指針では,印刷文字と手書き文字における表現の違いや,筆写の楷書ではいろいろな書き方があるもの,例えば「北」と「北」,「令」と「令」の関係などについて,Q&A式の説明や字形比較表等によって,具体的に分かりやすく解説しています。その後28年4月から「コミュニケーションの在り方」及び「言葉遣いについて」の審議を始め,30年3月に「分かり合うための言語コミュニケーション(報告)(※10)」を取りまとめました。なお,30年4月から,公用文作成の在り方についての検討を開始しています。


  • ※9 参照:https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kokugo/hokoku/pdf/jitai_jikei_shishin.pdf
  • ※10 参照:https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kokugo/hokoku/wakariau/index.html

(2)「分かり合うための言語コミュニケーション」

 「分かり合うための言語コミュニケーション(報告)」(平成30年3月2日文化審議会国語分科会)では,1章及び2章で,現代におけるコミュニケーションについての課題を整理し,これからの時代に求められる考え方を提案しました。その上で3章では,言語コミュニケーションにおける「正確さ」,「分かりやすさ」,「ふさわしさ」,「敬意と親しさ」という四つの要素(図表2‐9‐24)を取り上げ,情報や考えを互いにやり取りし,共通理解を深めていくための方策について述べるとともに,Q&A形式による,具体的な説明を行っています。
 多様化が進む社会においては,これまで以上に歩み寄りを大切にし,相手の言葉を寛容に受け止めつつ,自らは言葉や言葉遣いに留意するとともに更なる語彙を身に付け,またそれらを適切に運用できるよう前向きに取り組む必要があります。情報化に伴い変化してきた伝え合いのための手段や媒体の特性を意識しつつ,四つの要素とそれぞれの観点に留意してより良い言語コミュニケーションを目指すとともに,その重要性を社会全体で共有していくことが期待されます。

 図表2‐9‐24 言語コミュニケーションにおける四つの要素

(3)国語に関する世論調査

 社会変化に伴う日本人の国語意識の現状について調査するために,平成7年度から「国語に関する世論調査」を実施し(※11),その結果を毎年秋に公表しています。30年9月に公表した29年度調査では,現在,文化審議会国語分科会で審議中の「官公庁における文書作成について」に関する問いを中心に,全部で18の項目について調査しました。
 また,「国語に関する世論調査」で平成12年度から取り上げてきた慣用句等の調査結果に基づいて作成した動画「ことば食堂へようこそ!」を,YouTube文部科学省公式チャンネルMEXTchにおいて公開中です(※12)。


  • ※11 参照:https://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/kokugo_yoronchosa/index.html
  • ※12 参照:https://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kokugo_shisaku/kotoba_shokudo/index.html

ColumnNo.20 平成29年度「国語に関する世論調査」~表記の仕方が異なる場合があることを知っていますか~

 平成29年度「国語に関する世論調査」では,国語や言葉への関心,句読点や符号の使い方,表記の決まり,メールの書き方,外来語についての意識,新しい表現や慣用句等の意味・言い方などを調査しました。
 送り仮名の付け方など漢字の使い方について,学校で教わる表記の仕方と,官公庁などが示す文書や法令の表記の仕方が,例のように異なる場合があるということを知っていたかを尋ねました(図表2‐9‐25)。

  学校で教わる表記 官公庁などが示す文書や法令の表記
(例1) 仕分け 仕分
(例2) 申し込み 申込み

 図表2‐9‐25 学校で教わる表記の仕方と,官公庁などが示す文書や法令などの表記の仕方の異なり

 「知っていた」(12.9%)と「なんとなく知っていた」(19.1%)を合わせた「知っていた(計)」は32.0%となっています。「知らなかった」は66.9%となっています。
 年齢別に見ると,「知っていた(計)」は,60代以下で3割台となっていますが,70歳以上では26.2%となっています。「知らなかった」は,16~19歳が最も低く57.8%となっています。
 こうした「国語に関する世論調査」の結果を踏まえ,文化審議会国語分科会において,官公庁における文書作成について,引き続き検討を行います。

(4)消滅の危機にある言語・方言に関する取組

 平成21年2月にユネスコがアイヌ語など国内の八つの言語・方言(※13)が消滅の危機(※14)にあると発表したことを受けて,これらの調査研究や周知の取組等を行っています(図表2‐9‐26)。また,23年3月11日に起きた東日本大震災の被災地の方言に関する調査を行い,その保存・継承のための取組を支援しています。

 図表2‐9‐26 ユネスコによる日本における消滅の危機にある言語・方言とその危機状況

 ユネスコが認定した危機言語・方言のうち,平成22年度と24年度にアイヌ語,奄美(あまみ)方言,宮古方言,与那国(よなぐに)方言について,25年度と26年度に八丈方言,国頭(くにがみ)方言,沖縄方言,八重山方言について,それぞれ危機度の実態や保存・継承のための取組状況を調査しました。
 これらの調査結果を受け,平成27年度から,危機的な状況を周知するための「危機的な状況にある言語・方言サミット」と,研究者と行政等担当者の情報交換の場としての「危機的な状況にある言語・方言に関する研究協議会」を開催しています。30年度はサミットを沖縄県宮古島市で,研究協議会を東京と宮古島市で開催しました。
 さらに,平成25年度,26年度には,「極めて深刻」とされたアイヌ語を保存・継承するため,アイヌ語音声資料を文字化したり翻訳や注釈を作成したりするなどアーカイブ(保存記録)化に関する研究を行いました。そして,27年度からは,アイヌ語のアナログ資料のデジタル化とアイヌ語のアーカイブ作成の支援に,30年度からはアーカイブ作成における文字化や翻訳ができ,後進の指導にも当たれる人材の育成にも取り組んでいます。30年度は,約280本のアナログ資料を対象としたデジタル化と,公益財団法人アイヌ民族文化財団(博物館運営準備室)及び北海道平取町(びらとりちょう)立二風谷(にぶたに)アイヌ文化博物館のアーカイブ作成の支援,公益財団法人アイヌ民族文化財団(博物館運営準備室)で人材育成を行いました。また,東日本大震災によって被災地の方言が危機的な状況にあると考え,青森県,岩手県,宮城県,福島県,茨城県の各方言の特徴と方言に対する意識を調査し,25年度から,被災地における方言の活性化支援事業を実施するなど被災地の方言の保存・継承に資する活動を支援しています。30年度には5企画を採択しました。
 なお,平成22年度以降の消滅の危機にある言語・方言に関する調査研究の結果等については,文化庁ウェブサイトで公開しています(※15)。

 危機的な状況にある言語・方言サミット(宮古島)
 危機的な状況にある言語・方言サミット(宮古島)

 被災地方言の活性化支援事業(八戸)
 被災地方言の活性化支援事業(八戸)


  • ※13 ユネスコでは,日本で「方言」として扱われる言葉も「言語」として扱っている。
  • ※14 ユネスコでは,消滅の危機状況について,危機の度合いの高いものから順に,【絶滅】,【極めて深刻】,【重大な危険】,【危険】,【脆ぜい弱】,【安全】と表している。
  • ※15 参照:https://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kokugo_shisaku/kikigengo/index.html

2 外国人に対する日本語教育施策の推進

(1)外国人に対する日本語教育施策

 国内の在留外国人数は,約273万人と近年は200万人を超えて推移しており,我が国に中長期に在留する外国人が増加しています(平成30年12月末時点,法務省調べ)。国内の日本語学習者数は,約26万人(30年11月時点,文化庁調べ)となっています。日本で暮らす多くの外国人が様々な目的で日本語を学んでいます(図表2‐9‐27)。
 このような状況の下で,文化庁は,コミュニケーションの手段,文化発信の基盤としての日本語教育の推進を図るため様々な取組を行っています(図表2‐9‐28)。

 図表2‐9‐27 日本語学習者数等

 図表2‐9‐28 日本語教育に関する主な事業

(2)「生活者としての外国人」に対する日本語教育の充実

 文化庁は,文化審議会国語分科会が取りまとめた「『生活者としての外国人』に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案」など(図表2‐9‐29)を踏まえ,これらが地域の日本語教育を推進する上で一層活用されるよう,周知を図っています。
 また,外国人材の受入れ拡大に向けて,地域日本語教育の総合的な体制づくりの推進,日本語教室空白地域解消の推進,日本語教育の先進的取組に対する支援,日本語教育人材の養成及び現職者研修カリキュラムの開発事業等を実施するため,令和元年度予算として約8億円を計上しています。

 図表2‐9‐29 「生活者としての外国人」に対する日本語教育プログラム実践のための5点セット

(3)日本語教育の更なる推進に向けた施策の検討

 日本語教育をめぐる状況の変化に対応するため,文化審議会国語分科会日本語教育小委員会は,「課題整理に関するワーキンググループ」を設置し,平成25年2月に「日本語教育の推進に向けた基本的な考え方と論点の整理について(報告)」を取りまとめ,日本語教育を推進するに当たっての主な論点を11に整理しました。
 平成28年5月からは,論点の1つである「日本語教員の養成・研修について」の検討を行い,30年3月2日に「日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告)」を取りまとめ,31年3月4日には新たな活動分野を加えた改定版を取りまとめました。
 本報告では,日本語教育人材の役割を1.日本語教師,2.日本語教育コーディネーター,3.日本語学習支援者の三つに整理し,日本語教師については養成,初任,中堅という三段階に区分しました。さらに,「日本語教育コーディネーター」については,地域の日本語教室における地域日本語教育コーディネーターと法務省が告示する日本語教育機関(※16)における主任教員を検討の対象としました。
 また,日本語教育人材の役割・段階・活動分野(「生活者としての外国人」,留学生,児童生徒等,就労者,難民等,海外)ごとに,求められる資質・能力,教育内容及び教育課程編成の目安を提示しています。特に,日本語教師の養成段階における教育内容については,教育実習をはじめ,教授法,日本語教育のための日本語分析,文法体系,音韻・音声体系,文字と表記等,50の教育内容を「必須の教育内容」として示しました。平成30年度からは,本報告の内容の普及を図るとともに日本語教育人材の資質・能力の向上を目的として「日本語教育人材養成・研修カリキュラム等開発事業」を実施するほか,30年11月から日本語教育能力の判定についての審議を開始しました。

 図表2‐9‐30 日本語教育人材の役割・段階・活動分野に応じた養成・研修のイメージ


  • ※16 出入国管理及び難民認定法第7条第1項第2号の基準を定める省令(平成2年法務省令第16号)の表の法別表第1の4の表の留学の項の下欄に掲げる活動の項下欄第6号の規定に基づき告示をもって定める,在留資格「留学」が取得できる日本語教育機関

第14節 新しい時代に対応した著作権施策の展開

1 海賊版対策を中心とした著作権分科会報告書

 文化審議会著作権分科会においては,社会の要請を踏まえ,著作権制度の見直しなどについて検討を行っています。
 平成30年度(第18期)においては,「リーチサイト等を通じた侵害コンテンツへの誘導行為への対応」や「ダウンロード違法化の対象範囲の見直し」をはじめとする著作権等の適切な保護を図るための措置のほか,「著作物等の利用許諾に係る権利の対抗制度の導入」をはじめとする著作物等の利用の円滑化を図るための措置等について検討を行い,平成31年2月には,「文化審議会著作権分科会報告書」を取りまとめました。
 具体的には,リーチサイト・リーチアプリについては,利用者を侵害コンテンツにアクセスすることを容易にすることで,その拡散を助長する蓋然性の高い場・手段であると評価されることから,1.リーチサイトを運営する行為やリーチアプリを提供する行為,2.リーチサイト・リーチアプリにおいて侵害コンテンツに係るリンクを貼る行為等の双方を規制していくこととされています。
 また,侵害コンテンツのダウンロード違法化については,現行法上既に違法となっている音楽・映像以外のコンテンツについても,幅広く違法ダウンロードによる被害が確認されていることから,諸外国の取扱い等も踏まえ,対象範囲を拡大していくこととされました。その際,ユーザー保護の観点から,違法にアップロードされたものだと知らなかった場合には違法とならないように確実に担保するとともに,特に刑事罰については,悪質性の高い行為に限定して適用することとされています。
 この他,著作権分科会においては,クリエーターへの適切な対価還元に関する課題や,インターネットによる国境を越えた著作権侵害行為に対する対応の在り方,著作権保護に向けた国際的な対応の在り方等について検討を行っています。
 今後とも,著作物等の利用と権利の保護のバランスを図りながら,新たな時代の要請に応えることができるよう,著作権制度や流通の在り方を審議していきます。

2 平成30年改正等の円滑な施行に向けた対応

(1)平成30年著作権法改正

 平成31年1月,デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定の整備や教育の情報化に対応した権利制限規定等の整備を行う「著作権法の一部を改正する法律(平成30年法律第30号)」が一部の規定を除いて,関連の政省令等とともに施行されました(※17)。
 教育の情報化に対応した権利制限規定等の整備については,平成31年2月15日付で,教育機関の設置者が授業目的公衆送信補償金を支払う単一の団体として一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRAS)を文化庁長官より指定しました(※18)。また今回の法整備を契機に,教育関係団体と権利者団体との間で継続的な議論を行うための場として「著作物の教育利用に関する関係者フォーラム」が30年11月27日付で設立され,1.授業目的公衆送信補償金の徴収事務等を含む補償金の在り方,2.教育現場における著作権に関する研修や普及啓発等,3.著作権法の解釈に関するガイドライン,4.補償金制度を補完するライセンス環境等について,学校現場の実態等を踏まえながら当事者間で検討が行われています。


  • ※17 参照:https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/h30_hokaisei/
  • ※18 参照:https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/1413647.html

(2)TPP11整備法

 「環太平洋パートナーシップ協定」(以下,「TPP12協定」という。)は,アジア太平洋地域の12か国の参画のもとで構築された包括的な経済連携協定です。TPP12協定では幅広い分野で21世紀型の新たなルールを構築することを目指しており,著作権等の知的財産権についても,様々な内容について規定し,知的財産権の保護と利用の推進を図る内容となっています。
 TPP12協定で合意された著作権関係規定のうち,著作物等の保護期間の延長や著作権等侵害罪の一部非親告罪化等の事項に関しては,文化審議会著作権分科会における検討を経て,平成28年12月9日に,著作権法の一部改正を含む「環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律」(以下,「TPP12整備法」という。)が成立し,TPP12協定が日本国について効力を生ずる日に施行されることとなっていました。
 その後,平成29年1月,アメリカがTPP12協定の離脱を表明したため,11か国による交渉を行い,30年3月8日に「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定」(以下,「TPP11協定」という。)が署名に至りました。これを受け,TPP11協定を締結するため,同年6月,「環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律の一部を改正する法律」(TPP11整備法)が成立し,著作権法の改正を含めたTPP12整備法については,TPP11協定が日本国について効力を生ずる日に施行されることとなりました(※19)。
 TPP11協定は,同協定の署名国のうち少なくとも6又は半数のいずれか少ない方の国が国内法上の手続を完了したことを寄託者に通報してから60日後に効力を生ずることとされているところ,我が国は,平成30年7月6日にTPP11協定の国内手続の完了について,協定の寄託国であるニュージーランドに対し通報を行い,同年10月31日に6か国目となるオーストラリアが,国内手続を完了した旨の通報をニュージーランドに対し行いました。これにより,TPP11協定は同年12月30日に発効し,TPP12整備法において予定されていた著作権法の改正については,同日より施行されています。


  • ※19 参照:https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/kantaiheiyo_hokaisei/

3 著作権の円滑な流通の促進

 インターネットの普及は,著作物のデジタル化とあいまって,著作物の流通形態を劇的に変化させています。このような状況の中で,著作物の流通促進の観点から,次の施策を展開しています。

(1)「著作権等管理事業法」の的確な運用

 著作権等の管理については,著作物等の利用者の便宜を図るとともに,権利の実効性を高めるため,著作物等を集中的に管理する方式が普及しています。これらの事業を行う「著作権等管理事業者(※20)」に対して,「著作権等管理事業法」に基づき,年度ごとの事業報告の徴収や定期的な立入検査などを行い,適切に事業が行われるよう指導監督を行っています。


  • ※20 登録事業者数:28事業者〈平成31年3月1日現在〉

(2)権利処理の円滑化に向けた取組

 著作権者等の所在が不明の場合に著作物等を適法に利用するための「裁定制度」の運用を行っています。平成30年度は書籍における著作物や放送番組における実演など3万5,816件の著作物等の利用について裁定を行いました。なお,同年度には,裁定制度の利用円滑化の観点から,国及び地方公共団体等が裁定制度を利用する際,補償金の事前供託を不要とする法改正も行いました(平成31年1月施行)。詳細は文化庁ホームページ「著作権者不明等の場合の裁定制度」(※21)を参照ください。
 また,コンテンツの権利処理の円滑化を目的として,平成29年度から,「コンテンツの権利情報集約化等に向けた実証事業」に取り組んでいます。


  • ※21 参照:https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/chosakukensha_fumei/

(3)クリエーターへの適切な対価還元

 音楽やテレビ番組等を,私的使用の目的で特定の機器や媒体を用いて録音・録画する者は,著作権者に対して補償金を支払わなければならないとする私的録音録画補償金制度が平成4年に導入されていますが,新しい機器やサービスの台頭に伴い,録音・録画の実態に対応していないと指摘されていることを受け,クリエーターへの適切な対価還元の在り方について検討を行っています。

(4)著作権登録制度の運用

 著作権に関する事実関係の公示や,著作権が移転した場合の取引の安全の確保などのため,著作権法に基づく登録事務を行っています。

4 著作権教育の充実

 著作権に関する意識や知識を身に付けることは,今日ますます重要となっており,現行の中学校や高等学校の学習指導要領においても著作権について取り扱うこととされています。また,全国各地での講習会の開催や教材の作成・提供を行っています。講習会は,国民一般,都道府県等著作権事務担当者,図書館等職員,教職員を対象として毎年10数か所で開催されています。教材は,児童生徒を対象とした著作権学習ソフトウェア,教職員を対象とした指導事例集,大学生や企業を対象とした映像資料,初心者向けのテキスト,著作権Q&Aデータベース「著作権なるほど質問箱」などを,文化庁ウェブサイトにより広く提供しています(※22)。

 平成30年度図書館等職員著作権実務講習会(東京会場)
 平成30年度図書館等職員著作権実務講習会(東京会場)


  • ※22 参照:https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/

5 国際的課題への対応

 デジタル化・ネットワーク化の進展に伴い,著作物の国境を越えた流通形態がますます多様化しています。我が国コンテンツの海外での侵害形態として,CD,DVD等のパッケージに加え,インターネット上の著作権侵害が深刻な問題となっています。このような現状に対応した著作権侵害への対策と国際ルールの構築を積極的に推進しています。

(1)海外における著作権侵害対策

 アジア地域を中心に,我が国のアニメ,音楽,ゲームソフト,マンガなどに対する関心が高まる一方で,これらを違法に複製した海賊版の製造・流通及びインターネット上の著作権侵害が,放置することのできない深刻な問題となっています。このため,著作権保護の実効性を高めるための環境整備を目的として,主に以下の取組を行っています。

  1. 政府間協議等の場を通じた侵害発生国・地域への取締強化の働きかけ
  2. アジア・太平洋諸国の政府職員を対象とした研修
  3. 侵害発生国・地域の一般消費者を対象とした著作権の普及啓発活動

(2)国際ルールづくりへの参画

1.日EU・EPA等について

 日EU・EPAは,我が国にとって重要なグローバルパートナーであるEUとの経済連携協定です。平成25年3月から交渉を開始し,30年7月に署名に至りました。これを受け,我が国においては同年12月に本協定の締結について国会承認され,同月に日EU双方が本協定発効のための国内手続を完了した旨を通告したことから,本協定は31年2月に発効しています。
 日EU・EPAは21世紀の経済秩序モデルとして,知的財産分野についても様々なルールについて規定し,知的財産の保護と利用の推進を図る内容となっています。著作権分野については,著作物等の保護期間を著作者の死後70年等とすること等が含まれています。
 このほか,EPA(経済連携協定)交渉等の機会を通じて,アジア諸国を中心とする国々に著作権等関係条約の締結を働き掛けています。

2.WIPO(世界知的所有権機関)関連事項について

 国際的ルールづくりへの参画として,現在WIPO(※23)において放送機関の保護に関する新条約の策定に向けた議論などが行われており,積極的に参画しています。
 また,平成24年6月には「視聴覚的実演に関する北京条約」が,25年6月には視覚障害者等のための著作権の制限及び例外を規定した「盲人,視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者が発行された著作物を利用する機会を促進するためのマラケシュ条約」が採択されました。日本は,「視聴覚的実演に関する北京条約」については,26年5月に国会においてその締結が承認され,同年6月に加入しました。「盲人,視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者が発行された著作物を利用する機会を促進するためのマラケシュ条約」については,30年4月に国会においてその締結が承認されたことを踏まえ,同年10月に加入書を寄託し,31年1月から効力が生じています。


  • ※23 参照:第2部第10章第1節5(6)

第15節 宗教法人制度と宗務行政

1 宗教法人制度の概要

 現在,我が国には,教派,宗派,教団といった大規模な宗教団体や,神社,寺院,教会などの大小様々な宗教団体が存在し,多様な宗教活動を行っています。そのうち,約18万1,000の宗教団体が「宗教法人法」に基づく宗教法人となっています(図表2‐9‐31,図表2‐9‐32)。
 宗教法人制度を定める「宗教法人法」の目的は,宗教団体に法人格を与え,宗教団体が自由で自主的な活動を行うための財産や団体組織の管理の基礎を確保することにあります。宗教法人制度は,憲法の保障する信教の自由,政教分離の原則の下で,宗教法人の宗教活動の自由を最大限に保障するため,所轄庁の関与をできるだけ少なくし,各宗教法人の自主的・自律的な運営に委ねる一方で,宗教法人の責任を明確にし,その公共性に配慮することを骨子としています。

2 宗務行政の推進

(1)宗教法人の管理運営の推進

 都道府県の宗務行政に対する助言や,都道府県事務担当者の研修会,宗教法人のための実務研修会の実施,手引書の作成などを行っています。また,我が国における宗教の動向を把握するため,毎年度,宗教界の協力を得て宗教法人に関する「宗教統計調査」を実施し,「宗教年鑑」として発行するほか,宗教に関する資料の収集などを行っています。

(2)不活動宗教法人対策の推進

 宗教法人の中には,設立後,何らかの事情によって活動を停止してしまった,いわゆる「不活動宗教法人」が存在します。不活動宗教法人は,その法人格が売買の対象となり,第三者が法人格を悪用して事業を行うなど社会的な問題を引き起こすおそれがあり,ひいては宗教法人制度全体に対する社会的信頼を損なうことにもなりかねません。
 このため,文化庁と都道府県は,不活動状態に陥った法人について,活動再開ができない場合には,吸収合併や任意解散の認証によって,また,これらの方法で対応できない場合には,裁判所に解散命令の申立てを行うことによって,不活動宗教法人の整理を進めています。

(3)宗教法人審議会

 宗教法人の信教の自由を保障し,宗教上の特性などに配慮するため,文部科学大臣の諮問機関として宗教法人審議会が設置されています。

 図表2‐9‐31 宗教法人

 図表2‐9‐32 系統別信者数

 宗教年鑑など
 宗教年鑑など

お問合せ先

総合教育政策局政策課

-- 登録:令和元年11月 --