第8章 スポーツ立国の実現

総論

 平成23年に制定された「スポーツ基本法」においては,スポーツは,世界共通の人類の文化であり,国民が生涯にわたり心身共に健康で文化的な生活を営む上で不可欠なものであるとともに,スポーツを通じて幸福で豊かな生活を営むことは全ての人々の権利であるとされています。また同法において,スポーツは,青少年の健全育成や,地域社会の再生,心身の健康の保持増進,社会・経済の活力の創造,我が国の国際的地位の向上など,国民生活において多面にわたる役割を果たすものとされています。
 スポーツ庁は,「スポーツ基本法」の理念を実現するため,国際競技力の向上はもとより,スポーツを通じた健康増進,地域・経済の活性化,国際交流・協力,障害者スポーツの振興,学校体育の充実など,関係省庁や企業と一体となってスポーツ行政を総合的・一体的に推進しています。
 また,2019(令和元)年にはラグビーワールドカップ(以下,「RWC2019」という。),2020(令和2)年には2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下,「2020年東京大会」という。)が控えており,スポーツ庁としても大会の成功に向けた取組を進めています。

第1節 ラグビーワールドカップ2019に向けた取組

 2019(令和元)年9月より全国12会場で開催されるRWC2019は,アジアで初の開催であるとともにラグビー伝統国以外で初の開催となります。また,RWC2019の翌年には,2020年東京大会が控えていることからも,訪日観光客の増加による社会・経済の活性化に寄与することが期待されています。RWC2019の開催に向けては,「平成31年ラグビーワールドカップ大会特別措置法」(以下,「ラグビー特措法」という。)に基づき諸支援を行っています。また「ラグビーワールドカップ2019における地域交流推進要綱」に基づき,RWC2019の開催地方公共団体又は公認キャンプ候補地方公共団体が行う地域交流等の取組に対して地方財政措置(特別交付税措置)により支援しており,29年度から30年度に50自治体99件の交流計画を支援の対象として決定しました。そのほか,円滑な準備及び運営のため,無線局免許申請等の手数料並びに無線局の電波利用料を免除するようラグビー特措法の一部改正が行われました。
 平成30年9月20日には,秋篠宮殿下が本大会の名誉総裁に御就任されました。また,大会1年前イベントが明治記念館で開催され,31年1月には大会ボランティアが決定されるなど,大会の機運醸成並びに大会成功に向けた準備が着実に進められています。
 あわせてスポーツ庁は,「2019年ラグビーワールドカップ普及啓発事業」として,小・中学生年代を対象に,タグラグビー(ラグビーからタックルなどの接触プレーを排したボールゲーム)を活用したラグビー競技の普及拡大に取り組むとともに,小中学校学習指導要領へのタグラグビーの記載を行い,普及促進を図っています。

第2節 2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた取組

 2020年東京大会に向け,スポーツ庁では,国際競技力の向上に向けた環境整備やドーピング防止体制の推進,スポーツを通じた国際貢献事業「Sport for Tomorrow」の一層の推進,さらにはスポーツ・インテグリティの確保に向けて取り組んでいます。

1 国際競技力向上に向けた強力で持続可能な人材育成や環境整備

 オリンピック・パラリンピック競技大会をはじめとする国際競技大会において,我が国のトップアスリート(※1)がひたむきに努力し,試合で躍動する姿は,国民に希望と勇気を与える素晴らしい力を持っています。スポーツ庁では,「第2期スポーツ基本計画」(平成29年3月)や「競技力強化のための今後の支援方針(鈴木プラン)」(28年10月)を踏まえ,関係機関と連携しつつ,我が国の国際競技力向上に向けた環境整備に取り組んでいます。なお,オリンピック・パラリンピック競技大会の直近5大会におけるメダル獲得数及び金メダル獲得ランキングは,以下のとおりです(図表2‐8‐1)。

 図表2‐8‐1 オリンピック・パラリンピック競技大会におけるメダル獲得数及び金メダルランキングの推移


  • ※1 アスリート:競技者のこと。以下,「アスリート」と表記する

(1)中長期の強化戦略に基づく競技力強化を支援するシステムの確立

 2020年東京大会及びポスト2020年を見据え,高度で安定した競技力強化を行うため,各競技団体が少なくとも2大会先のオリンピック・パラリンピック競技大会における成果を見通した中長期の強化戦略プラン(以下,「強化戦略プラン」という。)の策定・実践・更新を通じてトップアスリートの強化等を総合的・計画的に進められるよう支援しています。
 具体的には,日本スポーツ振興センター(JSC)に設置されたハイパフォーマンススポーツセンター(※2)に公益財団法人日本オリンピック委員会(JOC),日本パラリンピック委員会(JPC)を含めた協働チームを設置し,競技団体の強化戦略プランの各段階で多面的にコンサルテーション・モニタリングを実施するとともに,そこで得た知見をターゲットスポーツの指定や各種事業の資金配分に関する競技団体評価に活用することとしています(※3)。
 また,スポーツ庁では,各競技団体が行う国内外の強化合宿やコーチ等の設置などの日常的・継続的な強化活動について,オリンピック競技とパラリンピック競技の一体的な支援を実施しています。令和元年度からは,「ラストスパート期」としてそれまでの各競技団体の成果を踏まえ,「メダル獲得の最大化」の考えのもと支援を柔軟かつ大胆に重点化していくこととしています(※4)。
 そのほか,女性アスリートの国際競技力の向上にも取り組んでいます(※5)。


  • ※2 パフォーマンススポーツセンター:オリンピック競技とパラリンピック競技を一体的に捉え,国立スポーツ科学センター(JISS)と味の素ナショナルトレーニングセンター(NTC)が持つスポーツ医・科学研究,スポーツ医・科学・情報サポート及び高度な科学的トレーニング環境を提供し,各種スポーツ資源の開発等を行う。令和元年5月に「ハイパフォーマンスセンター」より改称。
  • ※3 参照:「競技力強化のための今後の支援方針(鈴木プラン)」(平成28年10月,スポーツ庁)
    https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/sports/mcatetop07/list/detail/1377938.htm
  • ※4 参照:鈴木プラン(平成28年10月,スポーツ庁)
  • ※5 参照:第2部第8章第5節2

(2)次世代アスリートを発掘・育成する戦略的な体制等の構築

1.次世代アスリートの発掘・育成

 将来のトップアスリートとして活躍が期待されるアスリートの発掘・育成は重要です。スポーツ庁では,2020年東京大会及びそれ以降の大会で活躍が期待される次世代のアスリートに対して,メダル獲得などの集中的な育成支援や海外での長期的な強化活動を支援しています。また,全国各地の才能を有するアスリートを効果的に発掘・育成・強化する体制の整備を進めており,その一環として,JSC,日本スポーツ協会(JSPO),JOC,JPC及び地方公共団体等と連携し,全国各地の将来有望なアスリートの効果的な発掘・育成を支援するジャパン・ライジング・スター・プロジェクト(J‐STARプロジェクト)を進めています(※6)。


  • ※6 参照:第2部第8章第1節 Column No.15
2.国民体育大会の開催

 国民体育大会は,広く国民の間にスポーツを普及し国民の体力の向上を図るとともに,地方スポーツの推進と地方文化の発展に寄与することを目的として,毎年都道府県対抗方式によって開催される国内最大の総合スポーツ大会です。文部科学省,JSPO,開催地の都道府県が共同で国民体育大会を主催しています。平成30年の第73回大会では,冬季大会(山梨県,神奈川県及び新潟県)と本大会(福井県)を合わせて40競技が実施され,約2万5,000名の都道府県代表選手・監督が天皇杯(男女総合成績第1位)・皇后杯(女子総合成績第1位)を目指して競い合いました(図表2‐8‐2)。

 図表2‐8‐2 第73回国民体育大会(平成30年)競技種目及び選手・監督数

(3)スポーツ医・科学,情報等による多面的で高度な支援の充実

 我が国の国際競技力の向上のためには,より高度な科学的トレーニング環境の整備が重要です。このため,JISSのスポーツ医・科学,情報サポート機能やNTCのトレーニング場の機能等を一体的に捉え,ハイパフォーマンススポーツセンターとして機能強化を図っており,たとえば,選手の強化方法や各国のメダル獲得戦略等の情報収集・分析や,メディカル,トレーニング,競技映像,栄養などの各種情報を一元的に管理し,必要な情報を迅速に取得できるシステムの構築・活用,競技用具等の開発などに取り組んでいます。
 また,「ハイパフォーマンス・サポート事業」では,強化合宿や競技大会における動作分析,ケア,トレーニング,心理,栄養,映像・動作分析,生理・生化学など,各分野の専門スタッフによる,スポーツ医・科学,情報等を活用したアスリート支援を行うとともに,オリンピック・パラリンピック競技大会等においてアスリート,コーチ,スタッフが競技へ向けた最終準備を行うための医・科学・情報サポート拠点であるハイパフォーマンス・サポートセンターを設置しています。平成30年度は,第18回アジア競技大会・アジアパラ競技大会において,2020年東京大会を見据えたサポート機能のトライアルを実施しました。

 アスリート支援の活動風景(映像分析)
 アスリート支援の活動風景(映像分析)

(4)トップアスリート等のニーズに対応できる拠点の充実

 トップアスリートが同一の活動拠点で集中的・継続的にトレーニング・強化活動を行える体制の確立も重要であり,ハイパフォーマンススポーツセンターをはじめとした拠点の充実に取り組んでいます。

1.ナショナルトレーニングセンター(NTC)

 NTCは,我が国のトップアスリートが同一の活動拠点で集中的・継続的な強化活動を行うための施設です。
 また,NTCのみでは対応できない,冬季,海洋・水辺系,屋外系のオリンピック競技,高地トレーニング及びパラリンピック競技のトレーニング環境の充実を図るため,既存施設をNTC競技別強化拠点施設として指定しています。
 さらに,トップアスリートにおける強化・研究活動拠点の在り方についての調査研究に関する有識者会議の平成27年1月「最終報告」の提言を受け,オリンピック競技とパラリンピック競技の一体的な拠点構築に向け,NTC拡充整備を進めており,令和元年6月末の完成を目指しています。

2.国立スポーツ科学センター(JISS)

 JISSは,スポーツ医・科学研究,支援を行うための中枢機関として平成13年に設置されました。各分野の研究者,医師等が連携しながら,各競技種目特有の課題解決を目的とした「スポーツ医・科学研究事業」,JISSにおける研究成果を踏まえたトレーニング指導,動作分析,映像技術サポートを行う「スポーツ医・科学支援事業」,内科,整形外科,心療内科,歯科,皮膚科,眼科,産婦人科による診療や,リハビリテーション,心理カウンセリング,栄養相談等を行う「スポーツ診療事業」等を実施しています。

 ナショナルトレーニングセンター(NTC)
 ナショナルトレーニングセンター(NTC)

 国立スポーツ科学センター(JISS)
 国立スポーツ科学センター(JISS)

ColumnNo.15 「J‐STARプロジェクト」について

 「第2期スポーツ基本計画」(平成29年3月)や「競技力強化のための今後の支援方針(鈴木プラン)」(28年10月)では,アスリートの発掘が重要な課題として位置付けられています。このことから,29年度から,JSPOにおいてJSCから委託を受け,「競技力向上事業」の一環として,全国の将来性豊かなアスリートを発掘するためのプロジェクト「ジャパン・ライジング・スター・プロジェクト(J‐STARプロジェクト)」を実施しています。
 JSPOにおいては,JOC,JPCなどの関係団体と連携してオリンピック・パラリンピック競技の発掘プログラムを展開しており,主として中学生・高校生年代を対象に,3段階の選考(ステージ)を経て各競技団体が実施する強化・育成コースへ導くことを目標にしています。具体的には,第1ステージにおいて運動能力測定結果等の情報を基に選考を行い,第2ステージでは全国各地域で測定会を実施し,各対象競技の適性を評価するための専門的な測定による選考を行います。また,第3ステージでは競技毎に拠点となる都道府県(競技拠点県)にて,世界レベルの指導者とともに合宿形式でのトレーニング等による選考を行います。

 「J-STARプロジェクト」平成30年度(2期生)の実施概要
 「J-STARプロジェクト」平成30年度(2期生)の実施概要

 なお,平成29年度のプログラムでは,第1ステージについてオリンピック競技で1,189名,パラリンピック競技で114名,計1,303名の応募があり,第3ステージまでの選考を経て,総勢49名(オリンピック競技37名,パラリンピック競技12名)の1期生が本プログラムを修了しました。1期生では,競技転向を含め発掘後1年未満で,オリンピック競技では年代別全国大会に出場したり,パラリンピック競技では全日本選手権やアジアパラ競技大会でメダルを獲得したりする等の成果を挙げています。
 平成30年度も2期生の輩出に向けプログラムを実施しており,スポーツ庁としても,引き続き,本プロジェクトへの支援等を通じて,オリンピック・パラリンピック競技大会に向けて有望なアスリートを発掘・育成に取り組んでいきます。

 「J-STARプロジェクト」平成29年度(1期生)の状況
 「J-STARプロジェクト」平成29年度(1期生)の状況

2 ドーピング防止体制の推進

 ドーピングとは,競技者の競技能力を向上させるため,禁止されている薬物や方法を使用することなどを言います。ドーピングは,1.競技者に重大な健康被害を及ぼす,2.フェアプレーの精神に反し,人々に夢や感動を与えるスポーツの価値を損ねる,3.優れた競技者によるドーピングが青少年に悪影響を与えるなどの問題があり,世界的規模での幅広い防止活動が求められています。
 我が国は,2006(平成18)年に国際連合教育科学文化機関(以下,「ユネスコ」という。)「スポーツにおけるドーピングの防止に関する国際規約」を締結し,世界ドーピング防止機構(WADA)常任理事国として,国際的なドーピング防止活動に積極的に取り組んでおり,国際的に見ても我が国のドーピング違反確定率は低い状態を維持しております。
 さらに,2020年東京大会に向けて,国際競技大会に対応できる検査員の確保と育成を図るとともに,関係機関とのアンチ・ドーピングに関するインテリジェンス(情報)共有の仕組みの構築を進めています。スポーツ庁は,公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構(以下,「JADA」という。)との連携を図りつつ,アスリート等に対するドーピングの未然防止を目的とした教育・啓発活動,ドーピング検査技術の研究開発などに積極的に取り組むとともに,若い世代を対象としたドーピング防止教育を推進しています。
 こうした中,平成30年6月に,我が国で初めてのドーピング防止活動に関する法律として,「スポーツにおけるドーピングの防止活動の推進に関する法律」が成立し,同年10月に施行されました。本法律により,スポーツにおけるドーピングの禁止が規定され,不正の目的をもって行われるドーピングが違法化されました。また,本法律第11条第1項に基づき,「スポーツにおけるドーピング防止活動に関する施策を総合的に推進するための基本的な方針」を31年3月に策定しました。
 スポーツ庁は,今後も,JADAをはじめ関係団体と連携し,スポーツの価値を守るため,クリーンでフェアなスポーツの実現に努めていきます。

ColumnNo.16 新国立競技場の整備の進捗状況

 新国立競技場の整備は,平成28年12月に本体工事(全体工期36ヶ月)に着工し,既にスタジアムの外観が完成に近い形で出来上がってきています。現在,令和元年11月末の竣工に向け,内・外装の仕上,フィールド工事などを行っています。

 JSC提供/2019年4月1日現在
 JSC提供/2019年4月1日現在

ColumnNo.17 オリパラ関連四法の成立

 2020年東京オリンピック・パラリンピック大会及びラグビーワールドカップ2019日本大会に向けた立法措置が盛り込まれたオリパラ関連四法が平成30年6月13日に議員立法で成立し,同月20日に公布されました。オリパラ関連四法における立法措置の内容は次のとおりです。

1.オリパラ特措法・ラグビー特措法一部改正法

 電波法の特例として大会のための周波数の使用に対する無線局免許申請手数料や電波利用料等の納付を免除すること,また,祝日法の特例として令和2年に限り,海の日,山の日及び体育の日(令和2年より「スポーツの日」となる。)を移動し,オリンピック開会式前日及び当日,閉会式翌日を休日とすることが盛り込まれています。
 まず,特に大学等に対しては,学生の大会への参加やボランティア活動の実施は意義があるものであることから,本改正の趣旨を踏まえ,学事暦(大学の授業や試験スケジュール)の設定に当たって適切に対応いただくよう,平成30年7月26日付けの通知でお願いをしました。

2.スポーツ基本法一部改正法

 実態に合わせ「公益財団法人日本体育協会」を「公益財団法人日本スポーツ協会」に,「財団法人日本障害者スポーツ協会」を「公益財団法人日本障がい者スポーツ協会」にするとともに,令和5年から「国民体育大会」を「国民スポーツ大会」(略称:「国スポ」)とすることが盛り込まれています。本改正後も「体育」の教育的な意義に代わる点はなく,学校の教科としての「体育」や「体育館」などの名称変更を求めるものではありません。

3.祝日法一部改正法

 令和2年から「体育の日」の名称を「スポーツの日」に改めるとともに,「スポーツの日」の意義を「スポーツを楽しみ,他者を尊重する精神を培うとともに,健康で活力ある社会の実現を願う」とする(体育の日の意義は「スポーツにしたしみ,健康な心身をつちかう」)ことが盛り込まれています。

 【令和 2 年のカレンダー】
 【令和 2 年のカレンダー】

4.スポーツにおけるドーピングの防止活動の推進に関する法律

 ドーピング防止活動に関し,基本理念を定め,国の責務等を明らかにし,基本方針の策定その他の教育・啓発活動,人材育成,関係機関との連携等に関し必要な事項を定めることにより,ドーピング防止体制を推進することとされています。
 オリパラ関連四法が2020年東京大会の成功に極めて重要な法律であることも踏まえ,今後,スポーツ庁としても必要な取組をしっかりと進めてまいります。

3 Sport for Tomorrowの推進

 2013(平成25)年8月,アルゼンチンのブエノスアイレスで行われた国際オリンピック委員会(IOC)総会における,2020年オリンピック・パラリンピック大会の東京招致に際し,安倍晋三内閣総理大臣が「日本は100ヵ国以上,1,000万人以上の人々にスポーツの悦びを届けます」と宣言しました。この総理宣言をきっかけに始まった「Sport for Tomorrow(SFT)」プログラムは,2014(平成26)年から2020(令和2)年までの7年間で,世界のより良い未来のため,若者をはじめあらゆる世代の人々に,スポーツの価値とオリンピック・パラリンピック・ムーブメントを広げて行く取組です。この取組を推進するため,平成26年8月にスポーツ庁,外務省,JSC,JOC,JPC等のスポーツ統括団体等から成る運営委員会と,それ以外の企業や地方公共団体,NGO・NPO,大学等のSFT会員で構成されたSport for Tomorrowコンソーシアム(官民協働体)が設立され,各機関の連携を強化する体制が整備されました。主に「スポーツの普及と国際的競技レベルの向上」,「スポーツの力で世界を変える(平和と開発)」,「スポーツ交流を国民的な文化に」をテーマに,各コンソーシアム会員が相互に連携し,事業に取り組んだ結果,30年9月末時点で,支援実施国・地域数は約200カ国・地域,裨ひ益者は約700万人となっています。
 また,国際的な人材育成のため,筑波大学は平成27年9月から,つくば国際スポーツアカデミー(TIAS)において,修士課程のプログラムを開始しました。29年3月には国内外のスポーツ関係機関へ第一期生を,30年3月には第二期生を,31年3月には第三期生を輩出しました。さらに,日本体育大学,鹿屋体育大学も,各大学の特徴を活いかした短期の人材養成プログラムを実施しており,2020年以降を見据えて,これら3大学の連携も推進しています。こうした取組を継続し,官民連携の下,2020年に向けて日本から世界へ,スポーツの力を発信することとしています。

4 オリンピック・パラリンピック教育

 2020年東京大会を契機に,子供から大人まで国民一人一人がスポーツの価値並びにオリンピック・パラリンピックの意義に触れることで,スポーツの価値を再認識し,多くの方がスポーツに親しむようになることは大会のレガシー(遺産)の一つとして重要です。
 平成27年11月27日に閣議決定された「2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会の準備及び運営に関する施策の推進を図るための基本方針」では,次世代に誇れる有形・無形のレガシー(遺産)を全国に創出することとされており,スポーツ庁では,オリンピック・パラリンピック教育をこのレガシー創出の重要な取組の1つとして推進しています。
 このため,平成27年度以降,オリンピック・パラリンピック教育を全国で実施しており,29年度は「オリンピック・パラリンピック・ムーブメント全国展開事業」として,被災地を含む全国20府県・政令市,30年度は全国34の道府県・政令市のオリンピック・パラリンピック教育推進校において,オリンピック・パラリンピックの競技体験会,教員向けセミナー等,様々な取組を実施しました。
 加えて,平成29年度からは,東京都や公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会,JOC,JPC,大学などと意見を共有する全国コンソーシアム会議を定期的に開催し,それぞれが行うオリンピック・パラリンピック教育の取組の充実を図っています。
 さらに,国民のパラリンピックへの興味・関心を高めることを目的に,市民向けのパラリンピック競技体験会を全国20か所で実施するとともに,パラリンピック教育の教員向けセミナーを全国15県・政令市で開催しました。
 こうした取組を今後とも推進し,全国でオリンピック・パラリンピック教育を実施し,オリンピック・パラリンピック・ムーブメントを全国に拡げることとしています。

5 スポーツ・インテグリティの確保に向けた取組の推進

(1)スポーツ団体のガバナンス強化,コンプライアンスの徹底

 スポーツは本来,見る人々を感動させ,国民に勇気を与えるものです。しかしながら,昨今,スポーツ選手等による違法賭博や違法薬物,スポーツ団体での不正経理,スポーツ指導者による暴力,ファン等による人種差別や暴力行為等,スポーツの価値を損なう問題が頻発しています。そのため,平成29年3月に策定された第2期スポーツ基本計画では,2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けて,我が国のスポーツ・インテグリティ(誠実性・健全性・高潔性)を高め,クリーンでフェアなスポーツの推進に一体的に取り組むことを通じて,スポーツの価値の一層の向上を目指していくこととしています。スポーツ庁では,様々な問題が相次いで発生している状況を踏まえ,30年6月に「我が国のスポーツ・インテグリティの確保のために」としてスポーツ庁長官メッセージを発出し,アスリートや指導者に対する教育・研修の強化,問題事案に係る公正・迅速な調査と説明責任の履行等を依頼しました。しかし,この後もスポーツ界において不祥事が後を絶たなかったことから,30年12月に,取組の具体的内容や時期を明示した「スポーツ・インテグリティの確保に向けたアクションプラン」を策定しました。同プランに基づき,スポーツ団体における適正なガバナンスの確保を図る仕組みを導入することとし,JSC及び統括団体(JSPO,JOC,公益財団法人日本障がい者スポーツ協会(JPSA))と連携し,中央競技団体(※7)のガバナンスの確保のために協力して取り組む体制を構築するため,30年12月に「スポーツ政策推進に関する円卓会議」を開催しました。
 また,スポーツ審議会スポーツ・インテグリティ部会において,平成31年2月よりスポーツ団体が遵守すべき原則・規範を定めた「スポーツ団体ガバナンスコード」に関する審議を開始し,令和元年6月に「スポーツ団体ガバナンスコード」〈中央競技団体向け〉を策定しました。同コードの策定により,単に不祥事事案の未然防止にとどまらず,スポーツの価値が最大限発揮されるよう,その重要な担い手であるスポーツ団体における適正なガバナンスの確保を図ることとしています。なお,令和2年度から中央競技団体は自らの取組状況を説明・公表するとともに,自らが加盟する統括団体から,ガバナンスコードに基づく適合性審査を受けることとなります。


  • ※7 JSPO,JOC,JPSAに加盟する,各競技を統括する全国規模のスポーツ組織(NF)(例)日本○○連盟,全日本○○協会など

(2)スポーツを行う者の権利・権益の保護

 スポーツ・インテグリティの確保のためには,スポーツ団体のガバナンス強化のみならず,スポーツを行う者の権利・利益の保護も重要です。
 スポーツ庁は,指導者等の資質・能力の向上及び教育・啓発活動を促進するとともに相談窓口の設置及び活用を促進しています。また,JSCにおいては第三者相談・調査制度の利用対象者の範囲の拡大及びSNS相談窓口の本格的導入を図ることとしています。
 スポーツ団体の決定は全ての競技者の活動に関わることから,広く公共性が求められ,その決定の際には全ての競技者にとって適正かつ公平な措置が必要です。競技団体の代表選手選考や競技資格停止処分などをめぐる紛争解決の手段として,公益財団法人日本スポーツ仲裁機構によるスポーツ仲裁・調停があり,スポーツ団体のスポーツ仲裁自動応諾条項(※8)の採択状況は56.8%(平成31年4月)と近年着実に増加しています。スポーツ紛争の迅速かつ適正な解決に向けた更なる体制整備のため,スポーツ庁は,スポーツ仲裁・調停に関する理解増進,仲裁人・調停人等のスポーツ仲裁に関わる専門的人材の育成,調査研究に取り組んでいます。


  • ※8 ポーツに関する紛争が生じた際には,公益財団法人日本スポーツ仲裁機構の仲裁手続を利用して解決することを定める条項のこと。あらかじめスポーツ団体の規則に盛り込まれることにより,競技者等が仲裁の申し立てを行った際に自動的に仲裁の合意があると見なされる。

第3節スポーツを通じた健康増進

 スポーツ庁には,「スポーツ基本法」の理念を具体化していくため,従来文部科学省が行っていたスポーツ振興施策の更なる充実を図ることはもとより,新たなスポーツ施策を強力に進めることが期待されています。特に,「スポーツ基本法」の前文に「スポーツは,心身の健康の保持増進にも重要な役割を果たすものであり,健康で活力に満ちた長寿社会の実現に不可欠」であると規定されているとおり,我が国の国民医療費が年間で約42兆円に達する中,運動・スポーツに取り組むことによる効果として,健康増進,健康寿命(※9)の延伸が注目されるようになってきています。
 そのため,スポーツを通じた健康増進を重点的に推進し,運動・スポーツにより健康寿命が平均寿命に限りなく近づくような社会の構築を目指すことが重要となっています。
 スポーツを通じた健康増進を図っていくためには,国民全体のスポーツへの参画を促進するとともに,国民の誰もが,いつでも,どこでも,いつまでもスポーツに親しむことのできる環境整備が必要です。


  • ※9 健康寿命:健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間

1 スポーツ参画人口の現状

 第2期スポーツ基本計画(平成29年3月)では,成人の週1回以上のスポーツ実施率を42.5%から65%程度,週3回以上を19.7%から30%程度とする目標を掲げています。平成30年度の調査では,成人の週1回以上のスポーツ実施率は55.1%,週3回以上では27.8%となっています(図表2‐8‐3)。一方で,「この1年間に1回もスポーツを実施しなかった」かつ「今後もするつもりがない」と回答した人が14.8%存在しています。男性,女性の20代~70代すべての年代において前年度より増加しており,特に60代男性は8.5ポイント増となりました。全世代の中で最も高いのは,男女とも70代であり,70%を超えています。また,女性は,50代を除くすべての年代において,同世代の男性より実施率が低くなっています。(図表2‐8‐4)。スポーツをする理由としては,「健康のため」が77.9%と最も多く,「体力増進・維持のため」,「運動不足を感じるから」が続いています。逆に実施頻度が減ったあるいは増やせない理由としては,「仕事や家事が忙しいから」,「面倒くさいから」,「年をとったから」などが多くなっています。スポーツ庁は,これらの現状を踏まえながら,ライフステージに応じたスポーツ活動の推進とその環境整備を行うことによって,スポーツ実施率の向上を目指しています。

2スポーツ実施率向上のための施策

(1)ライフステージ等に応じた施策

 スポーツ庁では,平成30年9月に「スポーツ実施率向上のための行動計画」を策定しました。本行動計画においては,国民全体を対象とした取組に加え,主な対象として1.子供・若者,2.ビジネスパーソン,3.高齢者,4.女性,5.障害者を挙げています。一人でも多くの方がスポーツに親しむ社会の実現を目的としており,生活の中に自然とスポーツが取り込まれている「スポーツ・イン・ライフ」(生活の中にスポーツを)という姿を目指しています。
 具体的な取組として,スポーツに無関心な層も含めた国民全体のスポーツへの参画を促すため,「スポーツによる地域活性化推進事業(運動・スポーツ習慣化促進事業)」を実施しています。具体的には,地方公共団体が行う域内の体制整備及び多くの住民がスポーツに興味・関心を持ち,スポーツの習慣化につながる取組等を支援しています。
 また,生活習慣病の予防・改善や介護予防を通じて健康寿命の延伸に効果的なスポーツ・レクリエーションを活用したプログラム等を策定するため,平成29年度には運動・スポーツの価値効用に関するエビデンスを基にスポーツプログラムを開発するとともに,開発したプログラムの効果検証を行いました。30年度はそれらのスポーツプログラム実施の自走化を目的としたモデル事業を全国5カ所で実施しています。
 さらに,スポーツ庁は,毎年10月を「体力つくり強調月間」として,広く国民に健康・体力つくりの重要性を呼び掛けるとともに,「体育の日」を中心とした体力テストや各種スポーツ行事を実施しています。
 このほか,多年にわたり地域や職場において,スポーツの振興に顕著な成果を上げた人や団体等に対し,その功績をたたえるため,文部科学大臣が表彰を行っています。

 図表2‐8‐3 成人のスポーツ実施率の推移

 図表2‐8‐4 世代別週1日以上スポーツ実施率の比較(平成30年度)

(2)スポーツを実施するための環境整備

 総合型地域スポーツクラブ(「以下,「総合型クラブ」という。)は,地域住民が自主的・主体的に運営し,身近な学校や公共施設などを拠点として日常的に活動する地域密着型のスポーツクラブです。
 生涯スポーツ社会の実現に寄与するほか,地域の子供のスポーツ活動の場の提供,家族のふれあい,世代間交流による青少年の健全育成,地域住民の健康維持・増進などの地域社会の再生に関する多様な効果も期待されています。
 全国の総合型クラブの育成数(創設準備中を含む)は,平成30年度に3,599クラブとなっており,クラブ育成率(全市区町村数に対する総合型クラブが育成されている市区町村数の割合)は,同年度に80.8%に達しています(図表2‐8‐5)。
 また,「平成29年度総合型地域スポーツクラブに関する実態調査」によると,自己財源率が50%以下となっているクラブや運営の改善を図るためのPDCAサイクルが定着していないクラブも少なくない状況となっています。
 こうした状況等を踏まえて,総合型クラブに関する今後の方向性や具体的施策について検討を行うため,「総合型地域スポーツクラブの在り方に関する検討会議」を開催し,平成28年11月に提言を取りまとめました。
 この提言では,総合型クラブが,2020年東京大会以降も地域におけるスポーツの推進エンジンとなり,地域の様々な課題を解決する役割を担える団体として定着し,持続的に成長していくための基本的方向性や今後取り組むべき具体的方策が示されています。
 平成29年度に引き続き,提言内容や「第2期スポーツ基本計画」の内容を踏まえ,関係団体と連携し,総合型クラブの質的な充実に向けた施策を推進し,総合型クラブの持続的な発展を図っていくこととしています。具体的には,総合型クラブの自立的な運営の促進に向けた支援を担う中間支援組織の整備や総合型クラブによる行政等と協働した公益的な取組の促進を図るための登録・認証等の制度の整備などを行うこととしています。

 図表2‐8‐5 総合型地域スポーツクラブの設置状況

ColumnNo.18 「FUN+WALK PROJECT」について

 スポーツ実施率を年代別に分析してみると,20代から50代の実施率が平均より低くなっており,いわゆるビジネスパーソン世代のスポーツの習慣化が課題となっています。しかし,ビジネスパーソン世代は,日々忙しく,なかなかスポーツをするための時間を確保することができないという状況にもあります。このため,スポーツ庁では,普段の生活から気軽に取り入れることのできる「歩く」ことに着目しました。「歩く」に「楽しい」を組み合わせることで,自然と「歩く」習慣が身につくプロジェクトとして「FUN+WALK PROJECT」を官民連携で推進しています。
 1日の歩数を普段よりプラス1,000歩(約10分),1日当たりの目標歩数を8,000歩と設定し,通勤時間や休憩時間,昼休みといった隙間時間を活用して「歩く」ことを促進しています。まずは,“歩きやすい服装”=「FUN+WALK STYLE」での通勤をキーアクションとして呼びかけています。例えば,底が柔らかく歩きやすい革靴・ビジネスシューズ,スニーカー,リュックサック,ストレッチ素材のスーツなどが考えられます。
 また,歩数に応じて全国のご当地キャラクターが変身する機能や歩けば歩くほどお得なクーポンが受け取れる機能を持つFUN+WALKアプリの活用も図りながら,歩くことをきっかけにスポーツの習慣化を促しています。

 FUN+WALKPROJECT

第4節 子供のスポーツ機会の充実

1 子供の体力の現状と課題

 人間が発達・成長し,創造的な活動を行っていくために,体力は必要不可欠なものです。文部科学省は,昭和39年から「体力・運動能力調査」を実施しています。平成10年度に新体力テストが採用された以降の合計点の推移を見ると,ほとんどの年代で緩やかな向上傾向となっています(図表2‐8‐6)。

 図表2‐8‐6 新体力テスト合計点の年次推移

 一方,平成10年度以前から継続実施されている項目を見ると,体力水準が高かった昭和60年頃との比較では,握力及び走能力(50m走・持久走),跳能力(立ち幅とび),投能力(ソフトボール投げ・ハンドボール投げ)に係る項目は,中学生並びに高校生男子の50m走を除いて,依然低い水準となっています(図表2‐8‐7)。

 図表2‐8‐7 50m走・ボール投げの年齢別・性別年次推移

 また,1週間の総運動時間(体育・保健体育の授業を除く。以下同じ。)に関し,中学生においては,運動をする生徒とそうでない生徒に二極化しています。特に,女子においては,1週間の総運動時間が60分未満の生徒が全体の約2割存在しています(図表2‐8‐8)。

 図表2‐8‐8 児童生徒の体育・保健体育の授業を除く1週間の総運動時間の分布

2 学校における体育・運動部活動の充実

(1)学習指導要領の趣旨を踏まえた学校体育の充実

 現行の学習指導要領に基づく学校体育の取組の中,運動やスポーツが好きな児童生徒の割合が高まったこと,健康の大切さへの認識や健康・安全に関する基礎的な内容が身に付いていることなどが見られます。他方で,1週間の総運動時間に関し,運動する子供とそうでない子供の二極化傾向が見られること,さらには社会の変化に伴う新たな健康課題に対応した教育が必要などの指摘があります。
 これらを踏まえ,平成29年に小学校及び中学校学習指導要領,30年に高等学校学習指導要領を改訂しました。現行と同様に,小学校から高等学校までを見通した指導内容の系統化や明確化を図りつつ(図表2‐8‐9),さらに,体育については,スポーツとの多様な関わり方を楽しむことができるようにする観点から,運動に対する興味や関心を高め,技能の指導に偏ることなく,「する,みる,支える」に「知る」を加え,「知識及び技能」「思考力,判断力,表現力等」「学びに向かう力,人間性等」といった三つの資質・能力をバランスよく育むことができるように学習の過程を工夫し,充実を図ることとしています。また,我が国の伝統と文化により一層触れることができるよう,武道の内容の充実を図り,学校や地域の実態に応じて種目が選択できることとしています。さらに,粘り強く意欲的に課題の解決に取り組むとともに,自らの学習活動を振り返りつつ,仲間と共に課題を解決し,次の学びにつなげる主体的・協働的な学習過程を工夫し,充実を図ることとしています。保健については,健康に関心をもち,自他の健康の保持増進や回復を目指して,疾病等のリスクを減らしたり,生活の質を高めたりすることができるよう,知識の指導に偏ることなく,三つの資質・能力をバランスよく育むことができるように学習過程を工夫し,充実を図ることとしています。また,健康課題に関する課題解決的な学習過程や,主体的・協働的な学習過程を工夫し,充実を図ることとしています。

 図表2‐8‐9 体育・保健体育指導内容の体系化

(2)運動部活動改革に向けた取組

 運動部活動については,顧問の教師に競技の経験等がないため,生徒が専門的な指導を受けられない,過度な練習が生徒の心身のバランスのとれた発達を妨げている,教師の長時間勤務につながっているといった問題があります。
 このことからスポーツ庁では,平成29年度,生徒にとって望ましいスポーツ環境を構築する観点に立ち,生徒が生涯にわたって健康的な生活を送るうえでの基盤となる運動習慣の確立や,バランスのとれた心身の成長や学校生活を重視し,生徒のスポーツ活動が地域・学校等に応じて多様な形で最適に実施されるよう,「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」を策定しました(30年3月)。
 本ガイドラインでは,1.運動部活動に係る活動方針・計画の策定や,部活動指導員の配置による指導・運営体制の構築等,運動部活動の適切な運営のための体制整備,2.合理的でかつ効率的・効果的な運動部活動の推進のための取組,3.スポーツ医・科学的観点を踏まえた生徒の発達に応じた適切な休養日等の設定,4.生徒のニーズを踏まえた運動部の設置や地域との連携によるスポーツ環境の整備,5.学校単位で参加する大会等の見直しについて,地方公共団体,学校の設置者,校長,スポーツ団体等に対し,改革のための速やかな取組の実施を求めています。
 また,平成30年度に,本ガイドラインの取組状況について都道府県等に対し,調査を実施した結果,同年度内に全ての都道府県が本ガイドラインを踏まえ,中学校の運動部活動に関する方針を策定する等,全国において取組が進められています。
 今後も,本ガイドラインの周知徹底を図るとともに,先進的な取組事例に関する実践・調査研究の実施や,部活動指導員の配置促進等,運動部活動改革を進めていくこととしています。

(3)体育活動の安全かつ円滑な実施のための取組

 スポーツ庁は,運動会等で実施される組体操について,年間8,000件を上回る負傷者が発生している現状を踏まえ,教育委員会と学校に対して,「組体操等による事故の防止について」(平成28年3月25日付け事務連絡)を発出し,活動内容に応じた安全対策を確実に講じることを求めています。また,体育活動中の重大事故の防止に向けて,教育委員会と学校に対して,発生した体育活動中の重大事故をまとめた「学校における体育活動中(含む運動部活動)の事故防止等について」(平成30年9月3日付け事務連絡)を発出し,事故防止に万全を期するよう求めています。26年度からは事故防止のための最新の知見,全国の事故の発生状況や事例等に係る情報を共有するために,「スポーツ事故防止対策推進事業」を通じて全国セミナーを実施しています。30年度は全国12ヶ所で開催するとともに,熱中症予防の映像資料など事故防止に関する資料を作成・配布し,より一層安全な体育活動を推進しています。
 また,平成29年3月27日に栃木県那須町で発生した雪崩事故を踏まえ,昨年度に引き続き,高校生等以下については原則として冬山登山は行わないよう「冬山登山の事故防止について」(平成30年12月11日付けスポーツ庁次長通知)を各都道府県教育委員会等に対し発出し,改めて指導の徹底を行いました。

第5節 スポーツに関わる多様な人材の育成とスポーツを通じた女性の活躍促進

1 スポーツに関わる多様な人材の育成

(1)新しい時代にふさわしいコーチング

 スポーツの指導において暴力を行使する事案が明らかになったことなどを踏まえ,スポーツ庁は,コーチング環境の改善・充実に向けた取組を推進しています。そのための取組の一つとして,平成27年度に作成した,コーチが育成過程において確実に習得すべき知識・技能に基づいた「モデル・コア・カリキュラム」を令和元年度のJSPO公認スポーツ指導者の養成研修から盛り込むなど,スポーツ指導者の更なる資質の向上等に取り組んでいきます。

(2)アスリートのキャリア形成支援

 競技力向上に励む一方で,現役引退後のキャリアパスに不安を抱えているアスリートも多くいます。トップアスリートのみならず,各世代で強化に励むアスリートが安心してスポーツに取り組むことができ,培ってきた技術や経験,優れた資質や能力を引退後も社会に還元する環境を整備することが重要です。
 スポーツ庁は,エリートアカデミー生(※10)の学習及び生活面に対する総合的なサポートや,引退移行期のアスリートを対象とした教育研修プログラムの開発,引退移行期のアスリートと企業のマッチング支援,アスリートの引退後のキャリアについてのデータベース構築を実施しています。また,スポーツ団体・大学・企業等の関係者が連携して,アスリートのキャリア形成に関する課題や支援方策に取り組むため,スポーツキャリアサポートコンソーシアム総会を年1回開催しています。さらに,アスリートのキャリアに係るフォーラムの開催や情報発信を通じて,アスリートとしてのキャリアと人としてのキャリアを同時に歩むというデュアルキャリアについて意識啓発を行ったほか,キャリアアドバイザーの育成を行うなど,アスリートのキャリア形成支援に取り組んでいます。


  • ※10 JOCエリートアカデミー生のこと。将来オリンピックをはじめとする国際競技大会で活躍できる選手を育成するための事業。

(3)スポーツ審判員の活動に対する理解促進

 スポーツの試合をする上で審判員の存在は欠かせないことから,世界的規模のスポーツ競技会において優れた成果等を挙げるなど我が国スポーツの振興に関し功績顕著な審判員に対して,文部科学大臣より顕彰を行っています。
 また,スポーツ審判員の多くが他の職業と兼職で活動しており,職場の理解を得た上で大会等に携わっています。こうした状況を踏まえ,我が国のスポーツの振興と国際的な地位向上に資することが期待される審判員に対し,スポーツ庁長官より奨励を行うとともに,職場における理解を深めることを目的として被奨励者の所属長に通知をしています。

2 スポーツを通じた女性の活躍推進

 現在,女性のスポーツ参画については,中学生女子の運動習慣の二極化や若年層で低いスポーツ実施率,スポーツ指導者やスポーツ団体の役員における女性の割合の低さ,競技スポーツにおける女性特有の課題への対応など,様々な検討すべき課題があります。
 政府は,あらゆる分野における女性の活躍促進を重要な課題としており,「未来投資戦略2018」(平成30年6月15日閣議決定)や「女性活躍加速のための重点方針2018」(30年6月12日すべての女性が輝く社会づくり本部決定)においても,スポーツ分野における女性の活躍促進が位置付けられています。
 文部科学省においても,「第2期スポーツ基本計画」(平成29年3月24日策定)において,施策目標の一つとして,「女性の『する』『みる』『ささえる』スポーツへの参画を促進するための環境を整備することにより,スポーツを通じた女性の社会参画・活躍を促進すること」を掲げています。
 また,国際的にも女性のスポーツに関する議論は活発に行われています。「国際女性スポーツワーキンググループ(International Working Group on Women and Sport)」IWGは1994(平成6)年から4年に1度「世界女性スポーツ会議」を開催しており,2014(平成26)年の同会議で採択された女性のスポーツ発展のための10の原則を示す「ブライトン・プラス・ヘルシンキ2014宣言」に,29年4月,スポーツ庁,JOC,JPSA・JPC,公益財団法人日本体育協会(現JSPO),JSCが同時に署名をしています。
 スポーツ庁は,女性の「する」「みる」「ささえる」スポーツへの参画の促進のための環境を整備するため,「スポーツを通じた女性の活躍促進会議」を開催し,平成29年8月から具体的な施策の検討を進めています。
 女性のスポーツ実施率の向上については,スポーツイングランド(イングランドにおけるコミュニティスポーツ政策遂行の政府系機関)が実施したインサイト分析(※11)等も参考にしつつ,現状把握調査を実施して女性のスポーツ実施率が低い要因分析を行いました。
 国内のスポーツ団体の女性役員比率の向上については,令和2年までに30%とすることを目標に,女性リーダー・コーチアカデミー2018において,女性役員育成のモデル研修を実施しました。また,スポーツ団体の女性役員及び女性役員候補者を対象に「スポーツ団体女性役員カンファレンス」等の研修会を実施し,参加者には女性役員人材バンクへの登録を推進しています。
 女性アスリートの国際競技力向上については,女性特有の課題に着目した調査研究や医・科学サポート,ハイレベルな競技大会の開催やエリートコーチの育成等を通じた支援を実施しています。
 また,2018(平成30)年5月にはボツワナで開催された「世界女性スポーツ会議」に参加し,鈴木スポーツ庁長官が日本政府初となる基調講演を行いました。
 さらに,「第1回日ASEANスポーツ大臣会合」で女性のスポーツ分野においての協力が合意されたことを受け,2018(平成30)年10月には,ミャンマーのネーピードーで「日ASEAN女性スポーツ特別会合」を実施し,日ASEAN間の女性スポーツ協力分野における具体事業の検討を行いました。


  • ※11 インサイト分析:サービスの受け手(消費者)の意識や行動を深く探る消費者マーケティングの手法。

第6節 大学スポーツの振興

 大学におけるスポーツ活動には,大学の教育課程としての体育の授業,学問体系としてのスポーツ科学及び課外活動(体育会活動,サークル活動,ボランティア等)の側面があります。全ての学生がスポーツの価値を理解することは,大学の活性化やスポーツを通じた社会発展につながるものです。また,大学の持つスポーツ資源(学生,指導者,研究者,施設等)の活用は,国民の健康増進や障害者スポーツの振興に資するとともに,地域や経済の活性化の起爆剤となり得るものです。しかし,我が国の大学は,スポーツの振興に係る体制が不十分な場合が多く,また,大学スポーツ全体を統括し,その発展を戦略的に検討する組織が少ないのが現状です。
 このため,文部科学省及びスポーツ庁は,平成28年4月から「大学スポーツの振興に関する検討会議」を開催して大学スポーツの活性化について議論を行い,29年3月に取りまとめを行いました。本取りまとめにおいては,大学スポーツの振興に向けて,大学トップ層の理解醸成,スポーツマネジメント人材の育成,各大学のスポーツ分野の取組を戦略的,一体的に行う部局の設置等が重要であるとの方向性が示されました。
 また,組織の平成30年度中の創設を目指し,30年7月より大学,学生競技連盟が中心となり,設立に向けた準備をより具体的に進める「日本版NCAA(※12)(仮称)設立準備委員会」を開催し,組織の名称を一般社団法人大学スポーツ協会(英名:Japan Association for University Athletics and Sport略称:UNIVAS)と定めるとともに,学業充実,安全安心・医科学,事業・マーケティング分野のテーマを設定し議論を進めました。その結果,31年3月1日にUNIVASが設立され,同日までに197大学,28競技団体から加盟の申し込みがありました。
 加えて,スポーツ庁は,令和3年度までに,学内のスポーツ活動の企画立案,コーディネート,資金調達等を担う専門人材である大学スポーツアドミニストレーターを配する大学を100大学にするという目標を掲げています。30年度には15大学を選定し,スポーツ分野を一体的に統括する部局やスポーツアドミニストレーターの設置や,大学スポーツにおける先進的なモデル事業を進めました。


  • ※12 日本版NCAA:我が国の運動部活動の現状は,各大学で学内の体育会組織への関与の在り方が異なる上に,各学生連盟が競技種目別に設立されており,運動部活動全体での一体性を有していない。一方,大学スポーツ先進国のアメリカでは,NCAA(全米大学体育協会:National Collegiate Athletic Association)という大学横断的かつ競技横断的統括組織が存在し,大学スポーツ全体の発展を支えている。大学スポーツ資源の潜在力を発揮するため,スポーツ庁では,日本版NCAAの平成30年度中の創設に向けた議論を進めていた。

第7節 障害者スポーツの振興

1 障害者スポーツの環境の整備

 「スポーツ基本法」には,障害のある人の自主的かつ積極的なスポーツを推進するとの理念が掲げられています。近年,障害者スポーツにおける競技性の向上は目覚ましく,障害者スポーツに関する施策を,福祉の観点に加え,スポーツ振興の観点からも一層推進していく必要性が高まっています。
 平成29年度のスポーツ庁委託調査によると,障害のある人(成人)の週1回以上のスポーツ実施率は20.8%(成人全般の実施率は55.1%(30年度スポーツ庁調査))にとどまっており(図表2‐8‐10),地域における障害者スポーツの一層の普及促進に取り組む必要があります。
 そこで,スポーツ庁は平成30年度から,地域における障害者スポーツの振興体制の強化,障害者が身近な場所でスポーツを実施できる環境の整備等を図る取組や,障害者スポーツ団体と民間企業とのマッチング等により障害者スポーツ団体の体制の強化を図り,他団体や民間企業等と連携した活動の充実につなげる取組を実施しています。
 また,「Special プロジェクト 2020」として,2020(令和2)年に全国の特別支援学校でスポーツ・文化・教育の祭典を開催するためのモデル事業や,特別支援学校を地域の障害者スポーツの拠点として活用する取組を実施しています。
 さらに,令和元年度からは,スポーツ車いす,スポーツ義足等の地域の障害者スポーツ用具の保有資源を有効活用し,個人利用を容易にする事業モデル構築の支援を実施することとしています。これらの取組を通じて,障害者スポーツの振興を図っていくこととしています。

 図表2‐8‐10 障害者(成人)が過去1年間にスポーツを行った日数

2 全国障害者スポーツ大会

 平成13年度から,それまで別々に開催されていた身体に障害のある人と知的障害のある人の全国スポーツ大会が統合され,「全国障害者スポーツ大会」として開催されています。
 平成20年度から,精神障害者のバレーボール競技が正式種目に加わり,全国の身体,知的,精神に障害のある人々が一堂に会して開催される大会となっています。本大会は,障害のある選手が,競技等を通じてスポーツの楽しさを体験するとともに,国民の障害に対する理解を深め,障害のある人の社会参加の推進に寄与することを目的として,国民体育大会の直後に当該開催都道府県で行われています。
 平成30年度の第18回大会は,同年10月13日から15日まで福井県において開催され,県内各所で個人・団体・オープン競技の計16競技が行われ,約3,300人の選手が出場しました。なお,令和元年度の第19回大会は茨城県で開催され,精神障害者の卓球競技が正式種目に追加されることとなっています。

3 主な国際障害者スポーツ大会

(1)デフリンピック競技大会

 デフリンピック競技大会は,4年に一度行われる聴覚に障害のある人の国際スポーツ大会であり,夏季大会と冬季大会が開催されています。夏季大会は1924(大正13)年,冬季大会は1949(昭和24)年をそれぞれ第1回として開催されています。2017(平成29)年7月には,トルコのサムスンにおいて第23回夏季大会が開催されました。108名の日本代表選手が大会に参加し,過去最多となる27個(金6個,銀9個,銅12個)のメダルを獲得しています。なお,2019(令和元)年12月にイタリアのヴァルテッリーナ地方で第19回冬季大会が開催される予定です。

(2)スペシャルオリンピックス世界大会

 スペシャルオリンピックス世界大会は,4年に一度行われる知的障害のある人のスポーツの世界大会であり,夏季大会と冬季大会が開催されています。スペシャルオリンピックスは,順位は決定されるものの,最後まで競技をやり遂げた選手全員が表彰されるという特徴がある大会です。夏季大会は,1968(昭和43)年,冬季大会は1977(昭和52)年をそれぞれ第1回として開催されており,2019(平成31)年3月にはアラブ首長国連邦のアブダビで第15回夏季大会が開催され,日本からは73名の選手が参加しました。
 また,スペシャルオリンピックスでは,知的障害のある人とない人が共にチームを組みスポーツを楽しむ取組も進めており,世界大会の種目にも採用されています。

(3)パラリンピック競技大会

 パラリンピック競技大会は,オリンピック競技大会の直後に当該開催地で行われる,障害者スポーツの最高峰の大会であり,夏季大会と冬季大会が開催されています。夏季大会は,1960(昭和35)年にイタリアのローマで第1回大会が開催され,オリンピック競技大会と同様,4年に一度開催されています。2016(平成28)年9月には,ブラジルのリオデジャネイロにおいて第15回大会が開催され,日本からは132名の選手が参加しました。
 冬季大会は,1976(昭和51)年にスウェーデンのエンシェルツヴィークで第1回大会が開催されて以降,オリンピック冬季大会の開催年に開催されており,2018(平成30)年3月には,韓国の平昌において第12回大会が開催され,日本からは38名の選手が参加しました。

第8節 スポーツの成長産業化

 スポーツ産業の活性化による収益をスポーツ環境の充実に還元し,スポーツ人口の拡大へとつながるスポーツの自律的好循環を生み出していくことが重要です。
 このため,平成30年6月に閣議決定された「未来投資戦略2018」でも,「スポーツ市場規模を2020年までに10兆円,2025年までに15兆円に拡大することを目指す」こと及び「全国のスタジアム・アリーナについて,多様な世代が集う交流拠点として,2017年から2025年までに20拠点を実現する」ことが目標として掲げられました。

1 スタジアム・アリーナ改革の推進

 「観るスポーツ」のためのスタジアム・アリーナは,地域活性化の起爆剤となる潜在力の高い基盤施設です。その潜在力を最大限発揮させるには民間活力の活用が必要であることから,平成29年6月に,スタジアム・アリーナ改革全体の方向性や国内外の先進事例などをまとめた「スタジアム・アリーナ改革ガイドブック」を公表しました。30年12月には,スタジアム・アリーナの持続的な運営・管理に必要な事項等を新たに盛り込んだ「スタジアム・アリーナ改革ガイドブック(第2版)」を公表しました。あわせて,国の支援に係る一元的な相談窓口の設置(相談窓口URL:https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/sports/mcatetop02/list/detail/1406525.htm)や専門家派遣等を通じて先進事例の形成に取り組んでいます。今後も必要な情報提供や各地域で進む先進的な取組を支援することにより,スタジアム・アリーナ改革を推進していきます。

2 スポーツ団体の経営力強化

 スポーツ団体が,ガバナンスの確保やスポーツを通じた社会課題の解決といった社会的な要請に応えていくためには,収益の向上など安定的な経営基盤の確立が必要です。一方で,スポーツ団体では,経営人材の育成や流動の仕組みが十分でないなどが要因で,専門性(財務,IT等)や国際的な視野のある人材,またそれらの人材を総合的にマネジメントする経営人材が不足している状況にあります。このため,スポーツビジネススキルを身につけることができる学科(スポーツMBA)の創設や,外部人材の流入促進に向けた検討を行うとともに,中央競技団体における中長期普及・マーケティング戦略の策定支援を進めることにより,スポーツ団体の経営力強化を図っていくこととしています。

3 スポーツの場におけるオープンイノベーションの推進

 スポーツの成長産業化の基盤を形成するため,スポーツ界がオープンになり,スポーツの場におけるオープンイノベーションを推進し,スポーツへの投資促進やスポーツの価値高度化を図ることが必要です。その実現に向けて,スポーツ界が有するデータ・権利・施設等の多様なリソースと他の産業や学術機関等が有する技術・ノウハウ等のリソースとの融合を促し,新たな財・サービスの創出を促進するスポーツオープンイノベーションプラットフォーム(SOIP)の構築を推進しています。平成31年1月に企業や研究者,スポーツ団体等が一堂に会するカンファレンスを開催し,現場レベルでの人的交流を促しました。30年度の取組に加え,関係団体等との連携強化を図るとともに,イノベーションが加速するような実証・事業化を支援していきます。

4 スポーツ指導スキルとスポーツ施設のシェアリングエコノミーの推進

 スポーツ分野におけるシェアリングエコノミーを普及していくことは,スポーツ指導者と施設の稼働率・収益性を高め,スポーツ市場を拡大するとともにスポーツ実施率向上にも資すると考えられます。そのため,平成30年6月からモデル形成に向けた実証事業を行うとともに,推進に向けたガイドラインを作成するための検討会を開始し,関係者へのヒアリング等を通じて,スポーツ分野特有の課題抽出を行い,ガイドライン骨子をとりまとめました。今後,スポーツ分野におけるシェアリングエコノミーを推進していくため,先行するモデル事業を支援するとともに,二次利用を目的とした施設や指導者などのデータのオープン化を進めていきます。

第9節 スポーツを通じた地域活性化

1 地域のスポーツ施設の整備

 地域活性化をはじめとして,被災地の復興支援,障害者スポーツの振興,国際貢献等スポーツの有する力は様々な面にわたりますが,その際にスポーツ施設の果たす役割は重要です。
 これまで,スポーツ庁は,学校施設環境改善交付金等による地域スポーツ施設(社会体育施設)・学校体育諸施設の整備に対する支援,学校施設の開放や地域との共同利用の促進等に取り組んできました。また,地方公共団体においても,老朽化施設の更新,指定管理者制度による民間活力の導入,地域住民がスポーツに親しみ交流する場としての学校施設の開放等によりスポーツ施設を適切に整備・維持管理し,スポーツ環境を形成する取組が進められてきました。
 一方,平成28年度に取りまとめた「体育・スポーツ施設現況調査」によれば,我が国の体育・スポーツ施設数は,学校体育施設については継続して減少し,地域住民のスポーツ環境となる社会体育施設については横ばいとなっています。今後,施設の老朽化,財政のひっ迫,人口減少などに対応しつつ,量的・質的に地域に求められるスポーツ施設を提供することが課題となっています。このため,平成29年度は,地方公共団体が安全なスポーツ施設を持続的に提供し,国民が身近にスポーツに親しむことができる環境を整備できるよう考え方を整理した「スポーツ施設のストック適正化ガイドライン」を策定しました。また,地方公共団体による個別施設計画策定を支援する「スポーツ施設の個別施設計画策定支援事業」を実施しています。
 これまで行ってきたスポーツ施設の整備に対する支援を進めるとともに,地方公共団体や民間事業者,関係団体等と連携し,地域活性化・経済活性化に貢献するスポーツ施設の整備・運営を推進することとしています。

2 スポーツツーリズム振興に向けた取組

(1)地域スポーツコミッションの活動支援

 スポーツ庁は,地方公共団体,スポーツ団体,企業(観光産業,スポーツ産業)等が一体となり,スポーツによるまちづくり・地域活性化を推進する組織である「地域スポーツコミッション」等の取組に対する支援を行っています。具体的には,「地域スポーツコミッション」等が行う,スポーツへの参加や観戦を目的として地域を訪れたり,地域資源とスポーツを掛け合わせた観光を楽しむスポーツツーリズムの推進,スポーツイベントの開催,大会や合宿・キャンプの誘致等の活動に対し支援を行っています。平成30年度は8地域の取組を支援しました(図表2‐8‐11)。

 図表2‐8‐11 平成30年度スポーツによる地域活性化推進事業(スポーツによるまちづくり・地域活性化活動支援事業)採択地域

 スポーツ庁の調査では,平成30年10月段階で全国に99の地域スポーツコミッションがあります。「第2期スポーツ基本計画」は,地域スポーツコミッションの設置数を33年度までに170とすることを目標に掲げており,今後も支援事業や各地の優良事例の横展開等により,設立の拡大や活動の充実を図っていくこととしています。

(2)各種セミナーの開催等

 スポーツ庁は,地域のスポーツツーリズムの取組を推進するため各種セミナーを開催したり,観光に関する展示会・イベントに出展し,スポーツ庁や地域の取組を積極的に紹介しています。平成30年度は,関係団体との共催により,「ゴルフツーリズムセミナー」や「サイクルツーリズムセミナー」を開催するとともに,「BICYCLE CITY EXPO 2018」や「ツーリズムEXPOジャパン2018」に出展し,最近のスポーツツーリズムの動きについて紹介しました。今後,各地域でもセミナーを開催していくこととしています。

(3)スポーツ文化ツーリズムの推進

 スポーツ庁,文化庁及び観光庁が平成28年3月に包括的連携協定を締結して,28年度から「スポーツ文化ツーリズムアワード」を開始しました。30年度は全国の事業・イベント事例の中からマイスター部門3事例,チャレンジ部門2事例の計5事例を選定し,31年1月に開催した「第3回スポーツ文化ツーリズムシンポジウム」で表彰しました。

 スポーツ文化ツーリズムアワード2018

ColumnNo.19 「アウトドアスポーツツーリズム」と「武道ツーリズム」の推進

 スポーツ庁は,平成29年8月にスポーツツーリズム需要拡大のための官民連携協議会を立ち上げ,3回にわたる議論や国内外のニーズ調査を経て,30年3月に「スポーツツーリズム需要拡大戦略」を策定しました。同戦略において,日本が誇る恵まれた自然環境と四季の魅力を活いかした「アウトドアスポーツツーリズム」と,日本発祥の武道と伝統文化や精神文化が融合した希少性の高い「武道ツーリズム」を今後推進する重点テーマに設定しました。
 この戦略に基づき,両ツーリズムのプロモーション動画を作成し,平成30年12月からYoutube及びFacebookで配信を開始しました。配信後31年2月までの2月余で再生回数は560万回を超え,国内外からの多くの反響をいただいています。

 アウトドアスポーツツーリズム編
 アウトドアスポーツツーリズム編

 武道ツーリズム編
 武道ツーリズム編

第10節 スポーツを通じた国際交流・協力

1 スポーツ国際戦略の策定と展開

 「スポーツ基本法」前文には,「スポーツの国際的な交流や貢献が,国際相互理解を促進し,国際平和に大きく貢献するなど,スポーツは,我が国の国際的地位の向上にも極めて重要な役割を果たすものである」と記載されています。スポーツ庁は,「Sport for Tomorrow」事業などを中心に様々な施策を通じて,スポーツによる国際交流・協力に取り組んでいます。
 スポーツによる国際交流・協力の取組の一層の充実に向けては,平成29年7月にスポーツ庁長官からスポーツ審議会に対して「第2期スポーツ基本計画の着実な実施について」という諮問が行われました。スポーツ審議会は,スポーツ国際戦略部会を設け,スポーツを通じた国際交流・協力の効果を他分野にも拡大し,関係機関と連携して,効果的かつ効率的な取組を推進するための「スポーツ国際戦略」の策定に向けて,議論を重ねました。同部会を中心とした検討を経て取りまとめられた答申を踏まえ,スポーツ基本法第30条の規定に基づくスポーツ推進会議の議を経て,30年9月,スポーツ庁は「スポーツ国際戦略」を策定しました。
 さらに,「スポーツ国際戦略」に具体的な施策として盛り込まれたスポーツ産業分野では,スポーツ庁,経済産業省,日本貿易振興機構(JETRO)及びJSCの4者で,平成30年に閣議決定された「未来投資戦略2018」を踏まえ,同年7月に基本合意書を締結する等,連携を強化しています。我が国のスポーツとスポーツ産業の海外展開の促進のため,さらなる取組を進めていきます。
 加えて,「スポーツ国際戦略」の目標にも掲げられた持続可能な開発目標(以下,「SDGs」という。)に関し,スポーツ庁では,スポーツの多くの人々を巻き込む力を活用し,SDGs達成への貢献を目指す取組を「スポーツSDGs」と呼び,本取組を推進しています。平成30年11月には,ビル&メリンダ・ゲイツ財団とともに,「スポーツSDGs」の一環として,アスリートとNGOの協力により,SDGsの達成と2020年東京大会のレガシー創出を目指す取組「Our Global Goals」におけるパートナーシップを発表しました。「スポーツSDGs」のムーブメントを一層広めるため,ハッシュタグ「#SportsSDGs」を使った広報も呼びかけています。

2 スポーツの国際交流・協力

 各国とのスポーツにおける連携を強化するために政策対話の枠組みづくりを積極的に行っています。平成29年7月にはユネスコの「体育・スポーツ担当大臣等国際会議(MINEPS)」に参加し,「万人のためのスポーツへのアクセスに関する包括的な構想の展開」,「持続可能な開発と平和に向けたスポーツの貢献の最大化」,「スポーツの高潔性の保護」の三つのテーマに基づく,実行指向型の成果文書「カザン行動計画」の策定に貢献しました。その成果もあり,我が国は,ユネスコの「体育・スポーツの政府間委員会(CIGEPS)」のメンバー国に選出されました。29年10月には「第1回日ASEANスポーツ大臣会合」がミャンマーのネーピードーで開催され,日本とASEAN諸国が体育教員・指導者の育成,女性のスポーツ実施率の向上,障がい者スポーツの発展,アンチ・ドーピングに関する能力開発の四つの分野で協力することに合意しました。30年9月には,「第2回日中韓スポーツ大臣会合」が日本で開催され,第1回会合(韓国・平昌)で合意した「平昌宣言」に基づいて,3か国間のスポーツ交流を促進するための方策等について議論を行い,3か国間のスポーツ交流を促進するための「東京行動計画」を取りまとめました。

3 国際競技大会の招致・開催に対する支援

 我が国で国際競技大会を開催することは,我が国の競技力向上に資する環境の構築などスポーツの振興につながるだけでなく,世界のトップアスリートの競技を目の当たりにすることを通じて多くの国民に夢や感動を与えるなど,国際交流,国際親善や経済・地域の活性化等にも大きく寄与します。スポーツ庁は,国際競技大会の招致・開催が円滑に行われるよう,関係団体・府省庁との連絡調整を行い,必要な協力・支援を行っています。
 RWC2019の他,2019(令和元)年11月より開催される女子ハンドボール世界選手権大会(熊本県内)や2021(令和3)年世界水泳選手権大会(福岡県・福岡市)の招致の際には,文部科学大臣による招致メッセージの発出やスポーツ庁長官のプレゼンテーションなどにより,大会招致に向けた支援を行いました。またワールドマスターズゲームズ2021関西については,大会組織委員会が行う開催準備の相談に応じる等大会成功に向けた支援を行っています。スポーツ庁は,世界規模の総合競技大会だけでなく,単一競技大会やアジア地区の競技大会なども含めて,様々な国際競技大会の招致・開催に向けた協力と支援を行っています。

4 国際交流・協力の基盤の整備

 「スポーツ国際戦略」に基づき,日本の国際的地位の向上,国際競技大会等の招致・開催,スポーツを通じた国際交流・協力等の我が国のスポーツの国際展開を戦略的に展開し,その効果を最大限に高めるためには,国際スポーツ界において活躍できる人材への支援・育成を実施するとともに,国内関係者による戦略会議の開催,国際会議への参画,海外拠点の設置に向けた準備を進め,2020年以降も見据えた強固な基盤を構築することが重要です。
 スポーツ庁では,国際スポーツ界における我が国のプレゼンス(影響力)の向上とスポーツによる国際社会の発展への貢献を図るため「スポーツ国際展開基盤形成事業」を実施しています。
 本事業は,我が国の情報収集・発信能力を高めるとともに,スポーツ国際政策の展開を促進するための基盤形成を目的としており,国際競技連盟(以下,「IF」という。)等の日本人役員の増加・再選に向けた取組や国際スポーツ界の中核的存在となる人材育成,国内外のネットワークの強化等の支援を行っています。平成30年度には,ラグビーやサーフィンで新たに理事ポストを獲得するなどIF等の日本人役員は30人となり,IF等の国際機関における日本人役員数を35人とする第2期スポーツ基本計画の目標の達成に向け着実に推進しています。

第11節 第2期スポーツ基本計画とスポーツ振興財源

1 第2期スポーツ基本計画について

 平成29年3月,「第2期スポーツ基本計画」が策定されました。「スポーツ基本計画」は,文部科学大臣がスポーツに関する施策の総合的・計画的な推進を図るために定めるものであり,「スポーツ基本法」の理念を具体化し,国,地方公共団体及びスポーツ団体等の関係者が一体となってスポーツ立国の実現を目指す上での,重要な指針となるものです。
 「第2期スポーツ基本計画」は,中長期的なスポーツ政策の基本方針として,

  • スポーツで「人生」が変わる!
  • スポーツで「社会」を変える!
  • スポーツで「世界」とつながる!
  • スポーツで「未来」を創(つく)る!

 の四つの方針を立て,それらの方針の下に,今後5年間のスポーツに関する施策の柱として以下の四つを打ち出しました。

  1. スポーツを「する」「みる」「ささえる」スポーツ参画人口の拡大と,そのための人材育成・場の充実
  2. スポーツを通じた活力があり絆(きずな)の強い社会の実現
  3. 国際競技力の向上に向けた強力で持続可能な人材育成や環境整備
  4. クリーンでフェアなスポーツの推進によるスポーツの価値の向上

 スポーツ庁は「第2期スポーツ基本計画」に基づき,全ての人々がスポーツの力で輝き,前向きで活力のある社会,絆(きずな)の強い世界,豊かな未来の実現を目指して,スポーツ行政に取り組むこととしています。

2 スポーツ振興財源

 令和元年度のスポーツ庁のスポーツ関係予算は,約350億円を計上しました。一方,国費では行き届きにくいスポーツ振興活動への助成を行い,スポーツ振興の補完的財源としての役割を果たしているのがスポーツ振興くじとスポーツ振興基金です。

(1)スポーツ振興くじ

 スポーツ振興くじは,誰もが身近にスポーツに親しめる環境の整備,将来性を有する競技者の発掘・育成等のための財源の確保を目的として,超党派のスポーツ議員連盟により提案され,平成10年5月に議員立法として成立した「スポーツ振興投票の実施等に関する法律」により創設されました。
 現在,スポーツ振興くじとしては,サッカーの試合結果(勝敗・得点)を対象として,購入者が自分で予想を行うくじ(予想系の「toto」)と,コンピュータがランダムで試合結果を選択するくじ(非予想系の「BIG」)の大きく分けて2種類のくじを販売しています。
 平成25年度からは,1等当せん金の引き上げたくじを販売することや,イギリスのプレミアリーグやドイツのブンデスリーガ等の海外のサッカーの試合結果をくじの対象とすることで,我が国のJリーグの休止期間中でもくじを販売することが可能となりました。ここ数年は1,000億円程度の売上となっています。
 スポーツ振興くじの販売から得られる収益は,我が国のスポーツの振興のために使われることとなっています。これまでに約1,695億円の助成金が,地方公共団体が行うグラウンドの芝生化や地域のスポーツ施設の整備,スポーツ団体が行うスポーツ選手の発掘・育成などに役立てられてきました(図表2‐8‐12)。
 これからも,スポーツ振興くじの売上を拡大し,その収益によって日本のスポーツがますます発展するように取り組むこととしています。

(2)スポーツ振興基金

 スポーツ振興基金は,我が国の国際競技大会における不振などを受け,競技水準の向上に向けた気運が高まる中,スポーツ関係者,経済界など民間各界からの要請等を踏まえて,政府出資金250億円を原資に,平成2年に設立されました。
 その後,民間からの寄附金約45億円を原資に加え,その運用益等を財源として,トップアスリートの強化事業などに対する助成を行っています。平成30年度は,以下の事業に対し,約23億円の助成を行いました(図表2‐8‐13)。
 しかしながら,近年の低金利の状況を踏まえ,財政資金の有効活用を図る観点から,政府出資金250億円については,新国立競技場の整備費と2020年東京大会に向けた選手強化費に125億円ずつ充当することを決定し,平成27年度から段階的に国庫納付することとしています。

 図表2‐8‐12 平成30年度スポーツ振興くじ助成金助成額

 図表2‐8‐13 平成30年度スポーツ振興基金助成金助成額

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総合教育政策局政策課

-- 登録:令和元年11月 --