第6章 私立学校の振興

総論

 私立学校に在学する学生・生徒などの割合は,大学・短大で約7割,高等学校で約3割,幼稚園で約8割,専修学校・各種学校で9割以上となっています。また,グローバルな知識基盤社会の中で,各私立学校には多様化する国民のニーズ(需要)に応じた特色ある教育研究の推進が求められており,それぞれが建学の精神に基づく個性豊かな活動を積極的に展開しています。このように私立学校は,我が国の学校教育の発展にとって質・量両面にわたって重要な役割を果たしています。
 文部科学省は,「第3期教育振興基本計画」において「私立学校の教育研究基盤の強化」を施策群の一つとして掲げるなど,私立学校の振興を重要な政策課題として位置付けています。具体的には,私立学校の教育研究条件の維持向上と在学する学生生徒などの修学上の経済的負担の軽減を図るとともに,1.教職員の人件費や教育研究に係る経費などの経常費や施設整備費に対する補助,2.日本私立学校振興・共済事業団による貸付け,3.税制上の支援措置,4.学校法人に対する経営支援,5.学校法人制度の改善をはじめとする振興方策を講じて一層の充実に努めています。
 各私立学校には,それぞれの自助努力によって経営基盤の維持・強化を進め,教育研究内容や財務状況に関する情報公開を積極的に行いつつ,国民の要請に応える個性的で魅力あふれる学校づくりを進めることが期待されています。

第1節 私立学校に対する助成

1 私立大学等に対する助成

(1)経常費に対する補助

 文部科学省は,昭和50年に制定された「私立学校振興助成法」の趣旨に基づき,1.教育条件の維持及び向上,2.学生等の修学上の経済的負担の軽減,3.経営の健全性の向上を目的として,私立の大学,短期大学,高等専門学校における教育研究に必要な経常的経費(教職員の給与費,教育研究経費など)に対して補助を行っています。平成30年度予算では,約3,154億円を計上しています。この補助には,大きく分けて「一般補助」と「特別補助」があり,30年度は一般補助の割合を約86%としています(図表2‐6‐1)。

 図表2‐6‐1 私立大学等経常費補助金予算額の推移

 一般補助の配分に当たっては,1.学生定員の管理状況,2.専任教員一人当たりの学生数,3.学生納付金の教育研究経費への還元状況,4.教育情報,財務情報の公表の状況など,教育条件や財政などの客観的な指標に基づき補助金額を増減し,効果的・効率的な配分を行っています。
 特別補助は,自らの特色を生かして改革に取り組む大学等を重点的に支援することとし,平成30年度には,教育の質的転換や,産業界・他大学等との連携,地域におけるプラットフォーム形成による資源の集中化・共有など,特色化・機能強化に向けた改革に全学的・組織的に取り組む大学等を重点的に支援する「私立大学等改革総合支援事業」や,経済的に修学困難な学生を対象とした授業料減免等を行う大学等への支援などを行っています。

(2)施設・設備等の整備に対する補助

 私立大学等が実施する施設・設備等の整備については,次のような補助を行っています。

  1. 校舎などの耐震改築及び耐震補強工事(非構造部材の耐震対策工事を含む。),防災機能強化のための工事に対する補助や,アスベスト対策工事及びバリアフリー化工事に対する補助
  2. 教育・研究に必要な装置・設備の整備に対する補助
     平成30年度予算では,私立学校施設・設備の整備の推進のために約102億円(私立高等学校等への施設及び設備整備費を含む。)を計上したほか,補正予算において私立学校施設の耐震化やブロック塀等の安全対策のために約134億円(私立高等学校等への施設整備費を含む。)を計上しました。

2 私立高等学校等に対する助成

(1)経常費助成費等に対する補助

 私立の高等学校,中等教育学校,中学校,義務教育学校,小学校,幼稚園及び特別支援学校の運営のために必要となる経常的経費については,都道府県が助成しています。文部科学省は,初等中等教育の全国的水準の維持向上のため,都道府県が行う助成に対して国庫補助を行っています。また,都道府県に対して地方財政措置が講じられています(図表2‐6‐2)。

 図表2‐6‐2 私立高等学校等経常費助成費等補助の推移

 平成30年度予算では,約1,021億円の国庫補助金を措置するとともに,地方交付税措置の充実が図られています。
 国庫補助金では,ICTを活用した教育の推進や外部人材の活用などを進める学校への支援拡充,私立幼稚園における特別な支援が必要な幼児の受入れや預かり保育への支援など,私立学校の特色ある取組を支援しています。

(2)施設・設備の整備に対する補助

 校舎施設の機能をより高めることを目的として私立学校が実施する施設整備に要する経費の一部を補助しています。具体的には,耐震改築及び耐震補強(非構造部材の耐震対策工事を含む。)など施設の防災機能強化・安全機能強化のための施設整備(地震による倒壊の危険性が高い(Is値(※1)0.3未満)学校施設の耐震改修については,補助率を3分の1から2分の1に引き上げています。)や,アスベスト対策工事やバリアフリー化工事などに対する補助を行っています。
 前述のとおり,平成30年度には,私立学校施設・設備の整備の推進のために約102億円(私立大学等への施設,装置及び設備整備費並びに私立高等学校等IT教育設備整備推進事業費を含む。)の予算を計上したほか,補正予算において,私立学校施設の耐震化やブロック塀等の安全対策のために約134億円(私立大学等への施設整備費を含む。)を計上しました。
 また,私立高等学校等におけるコンピュータなどのICT教育設備の購入に要する経費の一部を補助する「私立高等学校等IT教育設備整備推進事業」を実施しており,平成30年度は約24億円の予算を計上しています。


  • ※1 値:「構造耐震指標」(Seismic Index of Structure)。建物の構造的な耐震性能を評価する指標。Is値が大きいほど耐震性が高い。「建築物の耐震診断及び耐震改修の促進を図るための基本的な方針」(平成18年国土交通省告示第184号)において,Is値が0.3未満の建物は地震によって倒壊または崩壊する危険性が高いとされている。

(3)教員研修事業費等に対する補助

 私立学校における教育指導の充実を図るため,一般財団法人日本私学教育研究所が実施する私立高等学校などの初任者研修事業などに要する経費の一部を補助しています。平成30年度は約2,000万円の予算を計上しています。

3 私立学校施設高度化推進事業

 私立学校施設の耐震化を促進するため,日本私立学校振興・共済事業団からの融資を受けて実施される私立学校の耐震改築・改修事業や私立大学病院の建て替え整備事業について利子助成を行っています。平成30年度は約12億円の予算を計上しています。

4 私立専修学校に対する助成

 文部科学省は,専修学校がその柔軟な制度の下で,社会の多様なニーズに対応した実践的な職業教育,専門的な技術教育等を行う教育機関として発展していくため,様々な施策を実施しています。
 具体的には,教育装置・情報処理関係設備の整備,学校施設や非構造部材の耐震化工事等,専修学校における教育環境の充実や安全・安心な学校施設の整備に要する経費の一部を補助しています。また,専修学校教員の資質向上を図るため,一般財団法人職業教育・キャリア教育財団が行う教員研修事業等に要する経費の一部を補助しています。さらに,専修学校等が産業界等と協働して,産業界の人材ニーズに対応した専門人材養成をするための教育プログラムの開発・実証等を委託するなど,専修学校教育の一層の振興を図っています。

第2節 私立学校振興方策の充実

1 日本私立学校振興・共済事業団の事業

 日本私立学校振興・共済事業団は,私立学校の教育の充実・向上と経営の安定を図るための助成業務,私立学校を設置する学校法人に対する経営等に関する相談業務,及び私立学校教職員の福利厚生を図るための共済業務を総合的に行っています。
 具体的には,私立学校振興のための助成業務として,文部科学省から私立大学等経常費補助金(※2)の交付を受け,これを私立大学等を設置している学校法人に交付しています。平成30年度は約3,154億円を交付しています。
 さらに,私立学校の施設・設備の整備などに必要な資金について,長期・低利の有利な条件で学校法人への貸付けを実施しています。特に耐震改築事業及び耐震改修事業に対しては,文部科学省からの利子助成(私立学校施設高度化推進事業費補助金(※3))により,実質的には通常の融資よりも有利な条件での融資を実施しています。
 学校法人に対する経営等に関する相談業務としては,私立学校の教育条件や経営に関する情報の収集を行うとともに,学校法人等の依頼に応じて経営相談を実施しています。この業務の一環として,理事長・学長等を対象とした「私学リーダーズセミナー」や将来学校運営の中核を担う若手職員を対象とした「私学スタッフセミナー」を開催しているほか,「専門家人材バンク」を設けて専門知識を有する人材を派遣しています。
 また,私立学校教職員のための共済業務を実施しています。具体的には,1.私立学校教職員共済制度の加入者とその家族の病気・けが・出産・死亡又は災害などに対して給付を行う短期給付事業,2.加入者の老齢・退職・障害又は死亡に対して年金の給付を行う厚生年金保険給付事業及び退職等年金給付事業,3.加入者の病気の予防等に係る健診事業,病院や宿泊施設の運営,加入者を対象とした資金の貸付けや,貯金の受入れなどを行う福祉事業を実施しています。


  • ※2 照:第2部第6章第1節1(1)
  • ※3 照:第2部第6章第1節3

2 私立学校に関する税制

 私立学校に関しては,私立学校教育の振興や学校法人の公益性の観点から,種々の税制上の支援措置が講じられています。
 私立学校を設置する学校法人については,収益事業を行う場合を除き,法人税・事業税等は非課税とされ,収益事業から生ずる所得についても,法人税には軽減税率が適用されています。また,学校法人が自ら直接保育又は教育のために使用する不動産に関しては,不動産取得税・固定資産税・登録免許税が非課税とされています。
 特定公益増進法人の証明を受けた学校法人に対して個人が寄附を行った場合には,寄附金額のうち2千円を超える金額を所得から控除する所得控除が認められています。法人が寄附を行った場合には,一般の寄附金とは別枠の損金算入が認められています。
 また,寄附実績等に係る一定の要件を満たした学校法人に対して個人が行った寄附については,寄附金額の約4割が所得税額から控除される税額控除が認められています。寄附者にとっては,所得の多寡にかかわらず減税効果は一定であるため,学校法人にとっても,より幅広い関係者から小口の寄附金を期待することができます。なお,平成31年1月時点で,文部科学大臣所轄学校法人のうち353法人(約53%)が税額控除対象法人の証明を受けています。
 さらに,一定の要件を満たす学校法人に対して相続財産をその申告期限までに寄附した場合には,その相続財産に係る相続税は非課税とされています。加えて,土地や建物をはじめとする資産を学校法人に対して贈与等する場合で一定の要件を満たすものとして国税庁長官の承認を受けた場合は,贈与等がなかったものとみなして所得税を非課税とする措置が設けられており,このうち学校法人が当該資産を基本金として管理する等の一定の要件を満たすものについては,申請手続が簡素化される等の特例が設けられています。平成30年度税制改正では,従来,特例の対象資産とされていなかった株式等についても対象資産とされました。また,国税庁長官の承認を受けた寄附財産を基本金に組み入れる場合には,特例を用いないときでも,資産を売却し,売却益で別の資産を取得することが認められることとなりました。
 さらに,令和元年度税制改正では,祖父母等が孫等に対して教育費として一括贈与した資金に関して,贈与税が非課税となる措置について,制度の適用期限を2年延長するとともに,贈与された資金からの教育費の支払いは30歳までとされていた受贈者の年齢制限が,在学中であることを条件に40歳まで引き上げられることになり,博士課程学生等への支援が充実されることとなりました。
 文部科学省は,これらの税制制度等の一層の定着を図り,私立学校における経営基盤の強化の促進に努めています。各私立学校には,これらの税制上の支援措置を積極的に活用して経営基盤の強化を図り,魅力ある教育研究を進めることが期待されています。

3 学校法人に対する経営支援

 日本私立学校振興・共済事業団の調べによる平成30年度における入学定員の充足状況を見ると,入学定員の8割を満たしている私立大学は517校(88.8%),私立短期大学は193校(64.1%)であり,入学者が入学定員の半分未満である私立大学は11校(1.9%),私立短期大学は16校(5.3%)となっています。また,29年度決算において,学納金,寄附金などの自己収入から人件費,教育研究経費などの支出を差し引いたものがマイナスの学校法人(大学を持つ学校法人)は39.7%となっています。
 18歳人口の減少等,学校法人を取り巻く経営環境は全体として厳しい状況が続いています。各学校法人には,新しい時代の要請に応じた学部・学科の見直しや特色ある教育研究活動の展開はもとより,経費の削減など経営の効率化を図り,経営基盤の安定のための努力を積極的に行っていくことが求められています。
 文部科学省は,学校法人の健全な経営の確保に資することを目的として,学校法人の管理運営の組織及びその活動状況,財務状況等について,学校法人運営調査委員による調査を実施し,必要な指導・助言を行っています。また,経営が悪化傾向にある学校法人に対しては,個別に指導・助言を行っていますが,令和元年度からは,新たな財務指標を設定し,学校法人の自主的な経営改善を一層推進するとともに,日本私立学校振興・共済事業団とも連携の上,経営改善に向けた指導を強化し,著しく経営困難な学校法人に対しては,撤退を含む早期の経営判断を促す指導を実施することとしています。
 また,学校法人がその自主性及び公共性を十分に発揮できるよう,学校法人の監事を対象とした専門性向上のための研修会や,事務局長等を対象とした高等教育に関する施策の情報提供等を目的とした協議会を開催しています。
 一方,日本私立学校振興・共済事業団は,前述の「私学リーダーズセミナー」,「私学スタッフセミナー」,「専門家人材バンク」など,経営改善の支援や情報の収集・提供業務を行っています。
 また,社会に対する説明責任を果たす上で重要である財務情報の公開について,学校法人は,近年積極的に取り組んでいます。平成30年度においては,661法人(100%)が財務情報をウェブサイトで公開しています(※4)。


  • ※4 参照:https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shinkou/07021403/1355974.htm

4 学校法人制度の改善に向けて

 近年における少子化の進行等の社会経済情勢の変化により,個々の学校においては,定員の充足が困難になるなど,私立学校をめぐる経営環境が一層厳しさを増しています。そのような中,各学校法人が経営基盤を安定させ,国民の期待に応える個性豊かな魅力あふれる学校づくりを推進することが求められます。このような中,私立大学等の振興に関する総合的な検討を行うため,平成28年4月から,「私立大学等の振興に関する検討会議」を開催し,29年5月に「議論のまとめ」が取りまとめられました。「議論のまとめ」においては,高等教育にふさわしい質の確保や私学の多様性・機動性を生かした取組の伸長など,私立大学に求められる教育研究を進めていくための,今後の私学の振興方策について幅広く提言を受けました。この「議論のまとめ」を受け,今後の学校法人におけるガバナンス機能の強化等について検討を行うため,大学設置・学校法人審議会の下に学校法人制度改善検討小委員会を設置し,29年11月から議論を行い,31年1月7日,「学校法人制度の改善方策について」が取りまとめられました。とりまとめでは,我が国の教育において大きな役割を担う私立学校が,今後も社会からの信頼と支援を得て重要な役割を果たし続けるため,学校法人の自律的で意欲的なガバナンスの改善や経営の強化の取組,情報公開の推進により,学生が安心して学べる環境が整備されるよう,改善に向けた考え方と方策が提言されています。このとりまとめの内容を受けて,1.役員の職務及び責任の明確化(学校法人や第三者に対する損害賠償責任や,理事の行為の差止め請求をはじめとする監事機能の充実等)2.情報公開の充実(財務書類等及び役員報酬基準の一般閲覧および公表(文部科学大臣所轄法人),寄附行為・役員名簿の一般閲覧等の情報公開の充実等)3.中期的な計画の作成4.破綻処理手続の円滑化等について定める私立学校法の改正案が学校教育法等の一部を改正する法律案として閣議決定されました(平成31年2月12日閣議決定)。今後,こうした制度改正や私学団体が自ら定める行動規範である私立大学版ガバナンス・コードの策定などにより,ガバナンスの強化や情報公開を推進するとともに,私立大学の連携・統合を推進していきます。

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-- 登録:令和元年11月 --