第3章 生涯学習社会の実現

総論

 「生涯学習」とは,一般には人々が生涯に行うあらゆる学習,すなわち,学校教育,家庭教育,社会教育,文化活動,スポーツ活動,レクリエーション活動,ボランティア活動,企業内教育,趣味など様々な場や機会において行う学習の意味で用いられます。また,人々が,生涯のいつでも,自由に学習機会を選択し学ぶことができ,その成果が適切に評価される社会を指すものとして「生涯学習社会」という言葉も用いられます。
 また,教育基本法第3条においては,生涯学習の理念として,「国民一人一人が,自己の人格を磨き,豊かな人生を送ることができるよう,その生涯にわたって,あらゆる機会に,あらゆる場所において学習することができ,その成果を適切に生かすことのできる社会の実現が図られなければならない。」と規定されております。
 文部科学省では,同法を踏まえ,現在,第3期教育振興基本計画に基づき,生涯にわたる一人一人の「可能性」と「チャンス」の最大化に向け,新しい地域づくりに向けた社会教育の振興方策の検討や,職業に必要な知識やスキルを生涯を通じて身に付けるための社会人の学び直しの推進など,人生100年時代を見据えた生涯学習の推進に取り組んでいます。

第1節 国民一人一人の生涯を通じた学習の支援

 「人生100年時代」,「超スマート社会(Society5.0)」に向けて社会が大きな転換点を迎える中にあって,生涯学習の重要性は一層高まっています。文部科学省では,国民一人一人が生涯を通して学ぶことのできる環境の整備,多様な学習機会の提供,学習した成果が適切に評価され,それを生かして様々な分野で活動できるようにするための仕組みづくりなど,生涯学習社会の実現のための取組を進めています。
 生涯学習に係る機会の整備に関する重要事項については,中央教育審議会に生涯学習分科会を置いて審議を行っています。平成30年12月21日には,今後の社会教育の在り方について提言した「人口減少時代の新しい地域づくりに向けた社会教育の振興方策について(答申)」が取りまとめられました(※1)。

1 社会人の学びの推進

 社会の変化の激しい今後の時代においては,学校を卒業し,社会人となった後も,大学等で更に学びを重ね,新たな知識や技能,教養を身に付けることが必要です。また,出産や子育て等,女性のライフステージに対応した活躍支援や,若者の活躍促進等の観点からも,社会人の学び直し(リカレント教育)の推進がより一層求められているため,政府としても,「何歳になっても学び直しができるリカレント教育」を主要テーマの一つとして取り上げ,平成29年9月に「人生100年時代構想会議」を設置しました。同会議において30年6月に取りまとめられた「人づくり革命基本構想」には,リカレント教育の抜本的拡充について述べられています。
 社会人が大学等で学ぶにあたっては,社会人のニーズに合った実践的なプログラムが大学等にないことや,学ぶための時間がないこと,学費負担の問題等があることが指摘されており,大学等における社会人の学びはこれまで低調な状況が続いてきました。
 このことを踏まえ,文部科学省は,社会人の学びを推進し,多様なニーズに対応する教育機会の拡充を図るために,大学・大学院・短期大学・高等専門学校における社会人や企業等のニーズに応じた実践的かつ専門的なプログラムを文部科学大臣が認定する「職業実践力育成プログラム」(令和元年5月現在で261課程を認定,うち19課程は短時間で編成される課程(後述))や,専修学校における社会人が受講しやすい工夫や企業等との連携がされた実践的・専門的なプログラムを文部科学大臣が認定する「キャリア形成促進プログラム」(平成31年1月現在で12課程を認定)を制度化しています。また,社会人の短期間で修了できるプログラムに対するニーズが高いことを踏まえ,大学等が行う履修証明制度の最低時間数が「120時間以上」から「60時間以上」に見直されたことにより,これらの文部科学大臣認定制度においても認定対象となるプログラムが拡大されたところです。さらに,これらの制度により認定されたプログラムのうち一定の要件を満たすものについては厚生労働省の教育訓練給付制度の対象とされているなど,社会人の学びを支援しています。
 また,IT技術者等を対象とした実践的な教育プログラムの開発・実施等を推進する「Society 5.0に対応した高度技術人材育成事業」,地域や産業界の人材ニーズに対応した,社会人等が学びやすい教育プログラムを開発し実証する取組を推進する「専修学校による地域産業中核的人材養成事業」の実施や,放送大学におけるオンライン授業や他大学との連携等を通じて,人材ニーズに対応したカリキュラムの充実を行っています。
 さらに,女性の学びとキャリア形成・再就職支援を一体的に行う仕組み作りや,リカレント教育の講座情報等を提供する総合的な情報提供ポータルサイトの整備などの取組等により,社会人が学びやすい環境整備を行い,社会人学習者への支援を推進しています。
 そのほか,社会人の学びを主要な機能の一つと位置づけ,実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関として制度化された専門職大学,専門職短期大学及び専門職学科についても,平成31年4月に専門職大学2校と専門職短期大学1校が開学しました。今後も,関係省庁と連携し,社会人の学びを推進してまいります。

 自動車短期大学における実験実習の授業風景(職業実践力育成プログラム認定講座)
 自動車短期大学における実験実習の授業風景(職業実践力育成プログラム認定講座)


  • ※1 第2部第1章第1節1参照

2 障害者の生涯を通じた学習の支援

 障害者が,生涯にわたり自らの可能性を追求できる環境を整え,地域の一員として豊かな人生を送ることができるようにすることは重要です。平成30年3月に閣議決定された第4次障害者基本計画及び同年6月に閣議決定された第3期教育振興基本計画においても,障害者の生涯学習について明記されました。
 両計画に記載したとおり,文部科学省では,平成30年度より「学校卒業後における障害者の学びの支援に関する実践研究事業」として,学校から社会への移行期や人生の各ステージにおける効果的な学習プログラムや実施体制,関係機関・団体等との連携等に関する実践研究や,障害のある人が一般の生涯学習活動に参加する際の阻害要因や促進要因を把握・分析する調査研究を行っており,研究成果を順次普及することとしています。平成30年度に実施した「学校卒業後の学習活動に関する障害者本人等アンケート調査」の結果では,「一緒に学習する友人,仲間がいない」(71.7%),「学ぼうとする障害者に対する社会の理解がない」(66.3%)などが,障害者本人が感じる生涯学習の課題として挙げられ,「知りたいことを学ぶための場や学習プログラムが身近にある」(32.8%)とした回答は三分の一以下に留まっています。
 こうした現状を踏まえ,障害のある人の生涯を通じた多様な学習を支える活動を行う個人又は団体に対し,その功績をたたえる文部科学大臣表彰について,67件の対象者を決定し,平成30年12月には表彰式と事例発表会を開催しました。さらに,11月には,障害の有無にかかわらずともに学び,生きる共生社会の実現に向けた啓発として,「超福祉の学校~障害をこえてともに学び,つくる共生社会フォーラム~」を,特定非営利活動法人ピープルデザイン研究所との共催により東京都渋谷区にて開催しました。
 その他,「学校卒業後における障害者の学びの推進に関する有識者会議」において,概ね一年間にわたり障害者の生涯学習の推進方策について検討を行い,平成31年3月には「障害者の生涯学習の推進方策について―誰もが,障害の有無にかかわらず共に学び,生きる共生社会を目指して―」(学校卒業後における障害者の学びの推進に関する有識者会議報告)をとりまとめました。
 今後も,教育,スポーツ,文化芸術の施策全体にわたり,障害者の生涯を通じた多様な学びを支援するため,横断的・総合的に取組を推進することとしています。

 学校卒業後における障害者の学びの推進に関する有識者会議の様子
 学校卒業後における障害者の学びの推進に関する有識者会議の様子

 平成30年度「障害者の生涯学習支援活動」に係る文部科学大臣表彰式事例発表会「石見神楽」の様子
 平成30年度「障害者の生涯学習支援活動」に係る文部科学大臣表彰式事例発表会「石見神楽」の様子

 超福祉の学校~障害をこえてともに学び,つくる共生社会フォーラム~「障害のある人の学びと表現の実践交流フォーラム」の様子
 超福祉の学校~障害をこえてともに学び,つくる共生社会フォーラム~「障害のある人の学びと表現の実践交流フォーラム」の様子

 超福祉の学校~障害をこえてともに学び,つくる共生社会フォーラム~「職場のダイバーシティが生む学び」の様子
 超福祉の学校~障害をこえてともに学び,つくる共生社会フォーラム~「職場のダイバーシティが生む学び」の様子

Column No.12 文部科学省障害者活躍推進プラン

 文部科学省においては,これまで特別支援教育をはじめとした様々な障害者施策を通じて,障害者基本法の理念である「全ての国民が,障害の有無によって分け隔てられることなく,相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会」の実現に向けた取組を推進してきました。
 こうした取組を加速し,より積極的に障害者の活躍の場の拡大を図るため,平成31年1月に,浮島文部科学副大臣のもとに省内の関係課で構成される「障害者活躍推進チーム」を設置し,横断的・総合的に検討を進めてきました。
 検討の結果,学校教育,生涯学習,スポーツ,文化芸術の各分野において,より重点的に進めるべき6つの政策プランを「文部科学省障害者活躍推進プラン」としてとりまとめました。
 障害者がその個性や能力を生かして活躍することで,我が国の未来を切り開く力となるよう,本プランに掲げた施策を着実に推進していきます。

 文部科学省障害者活躍推進プラン 概要
 文部科学省障害者活躍推進プラン 概要

3 専修学校教育の振興

 専修学校は,昭和50年の学校教育法の改正において「職業若しくは実際生活に必要な能力を育成し,又は教養の向上を図る」ことを目的とする学校であるとされ,制度が創設されました。多様な分野において,社会の変化に即応した実践的な職業教育を行う中核的機関として,地域産業を支える専門職業人を養成しており,平成30年5月現在で3,160校が設置され,65万3,132人の生徒が学んでいます。

 図表2‐3‐1 専修学校の目的,課程及び主な要件

 専修学校は,入学資格の違いによって,高等学校卒業程度を入学資格とする「専門課程」(専門学校),中学校卒業程度を入学資格とする「高等課程」(高等専修学校),入学資格を問わない「一般課程」の三つの課程があります。文部科学大臣の指定を受けた高等課程又は専門課程を修了すれば,それぞれ大学入学資格,大学編入資格又は大学院入学資格が得られます。また,修業年限が2年以上,総授業時数が1,700時間以上等の要件を,又は修業年限が4年以上,総授業時数が3,400時間以上等の要件を満たしている課程であって,文部科学大臣が認定した課程の修了者にはそれぞれ「専門士」又は,「高度専門士」の称号が付与されます。
 平成24年度からは単位制及び通信制の教育が可能となりました。26年度には企業等との連携によって実践的な職業教育の質の確保に組織的に取り組む専門課程を「職業実践専門課程」として認定(31年3月現在で994校2,986学科)する制度が創設されました。また,30年度には社会人が受講しやすい工夫や企業等との連携がされた実践的・専門的なプログラムを「キャリア形成促進プログラム」として認定(31年1月現在で10校12学科)する制度が創設されました。
 教育費負担の軽減を目的として,高等課程は,高等学校等就学支援金や高校生等奨学給付金の支給対象とされています。また,専門課程の生徒のうち希望する者は,日本学生支援機構による奨学金(平成29年度から実施された給付型奨学金を含む)の支給対象とされています。さらに,専門課程の生徒のうち要件を満たす者は,令和元年5月10日に成立した「大学等における修学の支援に関する法律」による令和2年度からの新制度の対象となります。
 グローバル化の進展や産業の高度化・複雑化が進展していく中,専修学校は,その柔軟な特性を生かし,今後ますますその役割を果たしていくとともに,社会人の学び直しの推進にも更に貢献していくことが期待されています。

4 多様な学習機会の提供

(1)放送大学の充実・整備

 放送大学は,いつでも誰でも学ぶことができるよう,テレビ・ラジオの放送やインターネット等を活用して大学教育の機会を幅広く国民に提供しています。また,全国に「学習センター」等を設置して学生の学習を支援するとともに,地域の生涯学習の振興にも寄与しています。平成30年度第2学期現在で約9万人が学んでおり,これまでに160万人以上の学生が学び,10万人を超える卒業生を送り出しています。放送大学の学生は職業・年齢・地域を問わず多様であり,学生の有職率は約7割,身体に障害を有する学生も約900人在籍しています。このように放送大学は我が国の生涯学習の中核的機関として大きな役割を果たしており,社会人等が学びやすい環境の整備等を一層進めています。
 放送大学は,学部・大学院を合わせて300を超える科目を開設しており,学生は既存の学問分野にとらわれず学習の目的に合わせて科目を自由に選択することができます。また,特別支援学校教諭免許状をはじめとした各種資格に対応する科目の開講や特定分野の授業科目群を設定して学位以外の履修証明を与える「科目群履修認証制度(放送大学エキスパート)」などの実施によって,多様な学習需要に応えています。さらに近年,より社会のニーズに対応した学習の充実を図るため,女性のキャリアアップにつながる科目や小学校の外国語指導力向上のための科目,幼保連携型認定こども園の特例制度に定められた科目をはじめとするオンライン授業の配信の拡充を進めています。平成30年10月からはBSマルチチャンネル放送を開始し,社会人の学び直しや生涯学習のニーズに応え,様々な学びの機会を提供する番組も放送するなど,今後,人生100年時代を見据えた社会人の学びの一層の充実に取り組むこととしています。

(2)大学における生涯学習機会の提供

 生涯学習社会の実現に向けて,各大学(短期大学を含む。)は,社会人入試,夜間・昼夜開講制,科目等履修生,通信教育,履修証明制度,公開講座などを実施しています。このうち公開講座は多くの大学で開講され,大学における教育と研究の成果を直接,地域住民などに学習機会として提供する役割を担っています。平成28年度は855大学で3万378講座が開講され,114万5,688人が受講しました(回答があった大学のみ集計)。

(3)社会通信教育

 文部科学省は,学校又は一般社団法人若しくは一般財団法人の行う通信教育のうち社会教育上奨励すべきものを認定し,その普及・奨励を図っています。平成31年3月末現在,文部科学省認定社会通信教育は26団体110課程であり,30年における1年間の延べ受講者数は約7万2,000人となっています。

(4)民間教育事業者,NPO法人等との連携

 民間教育事業者や教育分野で活動を行うNPO法人などの民間団体は,社会づくりや地域づくりの重要な担い手として,国民の多様な学習活動を支える上で大きな役割を果たしており,ますます重要なものになっています。文部科学省は,民間団体と行政の協働による取組の充実を図るとともに,民間教育事業の後援等を行うほか,民間団体の取組を紹介するなど,民間団体の取組の活性化や官民のネットワーク形成を支援しています。

5 学習成果の評価・活用

(1)学校外における学修の単位認定

 高等学校では,生徒の能力・適性,興味・関心などが多様化している実態を考慮し,選択の幅を広げる観点から,生徒の在学する高等学校での学習の成果に加えて,1.大学,高等専門学校,専修学校などにおける学修,2.知識・技能審査の成果に関する学修,3.ボランティア活動,就業体験活動(インターンシップ)等,4.高等学校卒業程度認定試験の合格科目に関する学修など,在学する高等学校以外の場における学修の成果について,各高等学校の判断によって学校の科目の履修とみなし,単位を与えることが可能となっています。平成28年度は,1.大学,高等専門学校,専修学校などにおける学修については350校,2.知識・技能審査の成果に関する学修については1,304校,3.ボランティア活動,就業体験活動(インターンシップ)等については416校,4.高等学校卒業程度認定試験の合格科目に関する学修については327校が単位認定を行っています。
 また,大学等(大学,高等専門学校,専門学校)は,教育内容の充実に資するため,大学等における教育に相当する学修など大学等以外の教育施設などにおける学修について,当該大学等における単位として認定できることとされており,平成27年度は517大学(全体の69.3%)がこれを活用しています。

(2)高等学校卒業程度認定試験

 高等学校卒業程度認定試験は,高等学校を卒業していない者などに対して高等学校卒業者と同程度以上の学力があることを認定する試験です。この試験の合格者には,大学等の入学資格が付与されます。平成30年度における延べ出願者数は2万4,151人,受験者数は2万1,220人,合格者数は9,224人となっています(図表2‐3‐2)。出願者のうち約半数となる50.2%を高等学校中途退学者が占めており,高等学校卒業程度認定試験が高等学校等の中途退学者などの再挑戦の機会となっていることが分かります。試験合格者のおよそ半数は大学等に進学していますが,この試験は,就職などの機会に学力を証明する手段としても活用されています。文部科学省は,採用試験や採用後の処遇において高等学校の卒業者と同等に扱われるよう,パンフレットやポスターの配布などによって制度の周知に努めています。

 図表2‐3‐2 高等学校卒業程度認定試験の出願者・受験者・合格者数

(3)大学改革支援・学位授与機構による学位授与

 大学改革支援・学位授与機構は,大学・大学院の正規の課程を修了してはいないものの,大学・大学院を卒業又は修了した者と同等以上の学力を有すると認められる者に対して,高等教育段階の様々な学習成果を評価し,学位を授与しています。平成27年度からは,大学と同等の教育課程において学修指導が行われていると同機構が認定した短期大学・高等専門学校の専攻科の修了見込み者に対して学位(学士)を授与する新たな制度を設けました。30年度末までに,1.短期大学,高等専門学校卒業者などが大学,専攻科において更に一定の学習を行った場合に当たる者として延べ5万3,716人に,2.同機構が認定する教育施設(省庁大学校)の課程の修了者に当たる者として延べ3万0,029人に学位を授与しています。

(4)検定試験の質の向上等

 民間の団体(検定事業者)が,受検者の学習成果を測るために行う検定試験は,法令等に基づくものではありませんが,全国で実施され多数の受検者が参加するものや,専門的な知識・技能を測るために特定の受検者を対象に実施されるもの,各地域における文化活動や観光産業などの活性化を目的としたものなど,様々な規模・内容で実施されています。こうした検定試験によって測られる学習成果が適切に評価され,学校や職場,地域社会などで生かされるためには,検定試験の質の向上と信頼性の確保が重要です。
 文部科学省は,検定試験に関する評価や情報公開の取組を促進するため,「検定試験の評価等の在り方に関する調査研究協力者会議」を開催し,その成果を平成29年10月に「検定事業者による自己評価・情報公開・第三者評価ガイドライン」として取りまとめて公表しました。ガイドラインでは,検定試験の評価手法,評価の視点や内容,情報公開が望まれる項目などが検定事業者の自主的な取組の目安として示されています。
 また,本ガイドラインを踏まえた自己評価や第三者評価の普及・定着を促進するための第三者評価に関する調査研究を実施し,平成31年3月に報告書が取りまとめられました。今後も,検定試験の質保証の取組について,関係団体とも連携しつつ,普及してまいります。

第2節 現代的・社会的な課題に対応した学習等の推進

1 少子化対策

 我が国の深刻な課題である少子化問題に関し,政府は「次世代育成支援対策推進法」や「少子化社会対策基本法」及び同法に基づく「少子化社会対策大綱」などを踏まえ対策を推進しています。文部科学省では,1.教育の無償化・負担軽減,2.認定こども園の設置促進や幼稚園における預かり保育・子育て支援の充実,3.地域住民等の参画によるコミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)や地域学校協働活動,親の学習機会の提供などによる家庭教育の支援といった地域ぐるみで子供の教育に取り組む環境の整備等に取り組んでいます。
 特に1.については,平成29年12月に閣議決定された「新しい経済政策パッケージ」及び平成30年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2018」において,令和元年10月に予定されている消費税率10%への引上げに伴う税収の増加分を活用した幼児教育や高等教育の無償化等が盛り込まれました。また,平成30年12月には,閣議決定を踏まえ,「幼児教育・高等教育無償化の制度の具体化に向けた関係閣僚会合」において,「幼児教育・高等教育無償化の制度の具体化に向けた方針」が決定されました。第198回通常国会において,同方針を踏まえ提出された子ども・子育て支援法の一部を改正する法律及び大学等における修学の支援に関する法律が成立し,幼児教育の無償化は令和元年10月から,高等教育の修学支援新制度は令和2年4月から,それぞれ実施されることとなりました。

2 意欲ある高齢者の能力発揮を可能とする高齢社会への対応

 高齢社会においては,価値観が多様化する中で,学習活動や社会参加活動を通じての心の豊かさや生きがいの充足の機会が求められるとともに,就業を継続したり日常生活を送ったりする上でも社会の変化に対応して絶えず新たな知識や技術を習得する機会が必要となります。また,一人暮らし高齢者の増加も背景に,地域社会において多世代が交流することの意義が再認識されています。文部科学省では,地域の多様な主体の対話・協議による学びを通じた課題解決や活性化が持続的に行われるための方策や,高齢者の社会参画促進のためのノウハウなどについて,行政,企業,NPO,各種団体等で社会教育に携わる者の間で共有するためのフォーラム(学びを通じた地方創生コンファレンス全国フォーラム)を平成31年2月に開催し,高齢社会への対応に資する取組の普及・啓発を図りました。

3 人権教育の推進

 文部科学省は,「日本国憲法」及び「教育基本法」の精神にのっとり,学校教育及び社会教育を通じて,人権尊重の意識を高める教育の推進に努めています。学校教育については,学校における人権教育の在り方等に関する調査研究とその成果の普及等によって,教育委員会・学校における人権教育の取組の改善・充実を支援しています。 社会教育については,社会教育主事の養成講習等において,人権問題などの現代的課題を取り上げ,指導者の育成及び資質の向上を図っており,公民館等の社会教育施設を中心に学級・講座が開設され,各地域の実情に即した人権教育が推進されるよう促しています。

4 男女共同参画社会の形成に向けた取組

 男女共同参画社会の実現は,社会全体で取り組むべき最重要課題であり,「男女共同参画社会基本法」や「男女共同参画基本計画」等に基づき,政府において総合的かつ計画的な取組を進めています。文部科学省は,「第4次男女共同参画基本計画」(平成27年12月25日閣議決定)に示された施策の方向性等に基づき,男女共同参画を推進し多様な選択を可能にする教育・学習の充実を推進しています。

(1)男女共同参画を推進し多様な選択を可能にする教育・学習の充実

 男女共同参画社会の形成に向けて,学校・家庭・地域などにおいて男女共同参画を推進し多様な選択を可能にする教育・学習の充実などを図っています。
 学校教育については,小・中・高等学校において,児童生徒の発達段階に応じて男女の平等や相互の理解と協力について適切に指導が行われるとともに,男女が共に各人の生き方,能力,適性を考え,主体的に進路を選択する能力と態度を身に付けられるような進路指導が行われるよう努めています。また,都道府県教育委員会等に対し,各種会議をはじめ様々な機会において,女性の校長・教頭等の管理職への積極的な登用を働きかけています。高等教育機関に対しては,各種会議をはじめ様々な機会において,女性の国公私立大学及び高等専門学校の教授等への登用に関する事例等を紹介することにより各高等教育機関の取組を促しています。
 社会教育については,男女が各人の個性と能力を十分に発揮し,社会のあらゆる分野に参画していくための学習機会の充実を図っています。
 平成29年度から「男女共同参画推進のための学び・キャリア形成支援事業」を開始し,大学等,地方公共団体及び男女共同参画センター等の関係機関が連携し,子育て等により離職した女性の学びと再就職・社会参画支援を地域の中で一体的に行う仕組みづくりに関するモデルを構築するための実証事業を行いました。また,取組の普及啓発を図るため,研究協議会を開催しました。

(2)国立女性教育会館における活動我が国唯一の女性教育のナショナルセンターである国立

 女性教育会館(NWEC:ヌエック)は,「研修」,「調査研究」,「広報・情報発信」,「国際貢献」の四つを有機的に連携させながら,国内の男女共同参画を推進するための事業を展開しています。
 平成30年度には,女性団体,男女共同参画センター,地方公共団体,初等中等教育機関,教育委員会及び企業等に対し,それぞれの分野での男女共同参画を進めていくためのリーダー等に対する研修を実施するとともに,これらの機関や組織のネットワークの形成を支援しました。国際的な取組としては,アジア地域における男女共同参画推進のための人材育成と国際的なネットワークの形成を図るため,「アジア地域における男女共同参画推進官・リーダーセミナー」を実施しました。
 これらの研修等の土台となる調査研究や関連する専門情報の収集・提供の充実を図るために,企業における男女の初期キャリア形成過程についての追跡調査を継続するとともに,企業や大学等の男女共同参画の取組に資する情報収集・発信を施設内の女性教育情報センターや広報媒体(メールマガジン,SNS等)等で重点的に行いました。
 全国から抽出した公立小学校・中学校の本務教員を対象に実施した「仕事」や「職場環境」に関わる意識など,学校教員のキャリアと生活に関するアンケート調査の調査結果報告書を刊行しました。また,放送大学と連携して,女性のキャリアデザインに関するオンライン講座を運用するとともに,男女共同参画推進に携わる地方公共団体,男女共同参画センター,NPO・団体等の担当者を対象にした会館主催研修の一部にeラーニングを取り入れています。あわせて,これまでに実施した研修やセミナーの様子をウェブサイトで配信しました。さらに,PFI事業者,ボランティアと連携・協働して学習の場を提供する「NWECアニバーサリーウィーク」において,大学等,高等教育機関関係者向けの学習機会を提供するとともに,女性に対する暴力防止を広くアピールしました。

5 児童虐待の防止

 児童虐待の防止については,政府全体で様々な施策の推進を図っていますが,痛ましい事件は後を絶ちません。全国の児童相談所における児童虐待に関する相談対応件数が平成29年度には13万3,778件と過去最多になるなど,児童虐待は依然として社会全体で早急に取り組むべき課題です。
 児童虐待の未然防止や,早期発見・早期対応,虐待を受けた児童生徒の支援については,家庭・学校・地域社会・関係機関が緊密に連携する必要があります。文部科学省はこれまでも,学校教育関係者や社会教育関係者に対する児童相談所への通告義務や関係機関との連携等を図る上での留意点等の周知,教職員の対応スキルの向上を図るための研修教材の作成・配布などを行ってきたほか,スクールソーシャルワーカーやスクールカウンセラー等を活用した学校における教育相談体制の整備,家庭教育支援チームの組織化などによる相談対応や保護者への学習機会の提供などの家庭教育支援の充実に取り組んでいます。
 また,平成30年6月には,同年3月に東京都目黒区で発生した女児が虐待を受けて亡くなった児童虐待事案も受け,「児童虐待防止対策に関する関係閣僚会議」(以下,関係閣僚会議という。)が開催され,同年7月に「児童虐待防止対策の強化に向けた緊急総合対策」(以下,緊急総合対策という。)が取りまとめられました。これを受け,文部科学省から各都道府県教育委員会等に通知を発出し,1.各学校における児童虐待の早期発見に向けた取組の実施,2.関係機関との連携強化のための情報共有,3.児童虐待防止に係る研修の実施,4.「子どもを健やかに育むために~愛の鞭ゼロ作戦~」等の啓発資料の周知・活用に取り組むこと等を依頼しました。
 そのような中,平成31年1月には,千葉県野田市において児童虐待が疑われる小学4年生の死亡事案が発生しました。これを受け,同年2月8日,関係閣僚会議において「『児童虐待防止対策の強化に向けた緊急総合対策』の更なる徹底・強化について」(以下,「関係閣僚会議決定」という。)が決定されました。文部科学省としても,本事案において,市教育委員会が父親の求めに応じて,児童の書いたアンケートの写しを渡してしまった点を深刻に受け止め,課題をしっかりと検証した上で,関係機関とも連携しつつ,再発防止策を講ずるため,浮島文部科学副大臣を主査とする「千葉県野田市における小学4年生死亡事案に関するタスクフォース」を設置したほか,今回のような虐待が疑われるケースについての緊急点検の実施や,厚生労働省及び文部科学省が連携して関係閣僚会議決定に基づく取組を実施するため,両省副大臣を共同議長とするプロジェクトチームの設置を行いました。
 加えて,関係閣僚会議決定を受け,同年2月28日付で内閣府及び厚生労働省と連名で各都道府県教育委員会等に通知を発出し,1.学校等及びその設置者においては,保護者から情報元(虐待を認知するに至った端緒や経緯)に関する開示の求めがあった場合は,情報元を保護者に伝えないこととするとともに,児童相談所等と連携しながら対応すること,2.保護者から,学校等及びその設置者に対して威圧的な要求等が予想される場合には,速やかに市町村・児童相談所・警察等の関係機関や弁護士等の専門家と情報共有することとし,関係機関が連携して対応すること,3.要保護児童等が休業日を除き引き続き7日以上欠席した場合には,理由の如何にかかわらず,速やかに市町村又は児童相談所に情報提供すること等を求めました。
 さらに,同年3月19日には,児童虐待防止対策のための制度改正や「緊急総合対策」「関係閣僚会議決定」等のこれまでの取組の実施について改めて徹底するため,関係閣僚会議において「児童虐待防止対策の抜本的強化について」が決定され,これにあわせ,全国の児童生徒に対し,虐待をはじめ,いじめや友人関係,進路の悩みなど困ったことがあれば周りの大人に何でも相談してほしいと呼びかけることを目的として,文部科学大臣メッセージを発表しました。
 これらのことを踏まえ,文部科学省としても,1.専門スタッフの配置等による学校・教育委員会の体制強化や2.学校・教育委員会と児童相談所,警察等の関係機関との連携強化等の子供たちを守り通すための取組を一層強化していきます。

6 子供の貧困対策の推進

 子供の将来がその生まれ育った環境によって左右されることのないよう,貧困の状況にある子供が健やかに育成される環境を整備するとともに,教育の機会均等を図るため,平成25年6月に国会の全会一致で「子どもの貧困対策の推進に関する法律」が成立し,翌26年1月に施行されました。
 また,平成26年8月には,同法に基づき政府として総合的に子供の貧困対策を推進するための基本的な施策を定めた「子供の貧困対策に関する大綱」(以下,「大綱」という。)が閣議決定されました。
 大綱では,子供の貧困対策を総合的に推進するに当たり,関係施策の実施状況や対策の効果等を検証し評価するため,生活保護世帯に属する子供の高等学校等進学率や,スクールソーシャルワーカーの配置人数,子供の貧困率(※2)等,25の指標を設定しています。あわせて,これらの指標の改善に向けては,1.教育の支援,2.生活の支援,3.保護者に対する就労の支援,4.経済的支援,5.子供の貧困に関する調査研究等,6.施策の推進体制等といった事項ごとに,当面取り組むべき重点施策を掲げています。
 大綱を踏まえて,文部科学省は,まず,以下のような取組を通じて,幼児期から高等教育段階まで切れ目のない形での教育費負担軽減を進めています。

  • 幼児教育の無償化(※3)
  • 義務教育段階における就学援助の充実(※4)
  • 高等学校等就学支援金制度の実施,高校生等奨学給付金の充実(※5)
  • 大学生等における給付型奨学金制度の本格的な実施や無利子奨学金制度の着実な実施(※6)

 なお,子ども・子育て支援法の一部を改正する法律及び大学等における修学の支援に関する法律の成立により,令和元年10月から幼児教育の無償化が,令和2年4月より高等教育の修学支援新制度が,それぞれ施行される予定です(※7)。
 また,学校を貧困の連鎖を断ち切るためのプラットフォームとして位置付け,以下のような取組を推進しています。

  • 貧困による教育格差の解消のための教員定数の加配(※8)
  • スクールソーシャルワーカーの配置の拡充や貧困対策のための重点加配(※9)

 このほか,地域の教育資源を活用した子供の貧困対策として,以下のような取組を推進しています。

  • 困難を抱える親子が共に学び育つことを支援する「地域の教育資源を活用した教育格差解消プラン」の実施(※10)
  • 地域学校協働活動の一環として行う,地域住民等の協力による,学習が遅れがちな中学生・高校生等を対象とする原則無料の学習支援(地域未来塾)の実施

  • ※2 子供の貧困率:17歳以下の子供全体に占める,貧困線(等価可処分所得(世帯可処分所得を世帯人員の平方根で割って調整した所得)の中央値の半分の額)に満たない17歳以下の子供の割合であり,OECD(経済協力開発機構)の作成基準に基づく。
  • ※3 参照:第2部第4章第14節1
  • ※4 参照:第2部第4章第18節2
  • ※5 参照:第2部第4章第18節3
  • ※6 参照:第2部第5章第2節1(3)
  • ※7 参照:第2部第3章第2節1
  • ※8 参照:第2部第4章第13節2(1)
  • ※9 参照:第2部第4章第9節2
  • ※10 参照:第2部第3章第2節10(2)

7 主権者教育の推進

 平成27年6月に「公職選挙法等の一部を改正する法律」が成立し,選挙権年齢が満18歳以上に引き下げられました。これにより,未来の日本の在り方を決める政治に,より多くの世代の声を反映することが可能となりました。一方で,これまで以上に,国家・社会の形成者としての意識を醸成するとともに,自身が課題を多面的・多角的に考え,自分なりの考えを作っていく力を育むことが重要となりました。
 文部科学省は平成27年11月に設置した「主権者教育の推進のための検討チーム」の取りまとめを踏まえ,単に政治の仕組みについて必要な知識の習得のみならず,主権者として社会の中で自立し,他者と連携・協働しながら,社会を生き抜く力や地域の課題解決を社会の構成員の一員として主体的に担う力を育む主権者教育を推進しています。
 具体的には,総務省と連携して,政治や選挙等に関する副教材等を全国の全ての高等学校等に配布するなどの取組を行っています。
 また,平成28年12月の中央教育審議会答申を踏まえ,29年3月に告示した小・中学校の新学習指導要領では,社会科,家庭科,特別活動など関連する教科等において主権者教育の充実を図りました。さらに,30年3月に高等学校学習指導要領を改訂し,現代社会の諸課題を捉え,その解決に向けて,社会に参画する主体として自立することや他者と協働してよりよい社会を形成することについて,考察し,選択・判断する力を育む科目として「公共」を新たに設置しています。
 大学等においても,各地方公共団体の選挙管理委員会と連携したキャンパス内における期日前投票所の設置や,インターンシップなどを通じた学生等への啓発活動等の充実を図っています。また,特に令和元年の参議院議員通常選挙に向け,「住民票の異動及び投票方法に関する周知啓発について(依頼)」(平成31年2月12日付け高等教育局長通知)を通じ,進学や就職等で引っ越しをした場合における住民票の異動と投票方法について大学等に周知を行いました。

8 消費者教育の推進

 消費者をめぐる問題が複雑化・高度化する中,消費者被害防止の観点だけでなく,様々な情報の中から必要なものを取捨選択し,適切な意思決定や消費行動を選択し,意見を表明し行動することができる自立した消費者を育成する教育が重要です。
 文部科学省は,「消費者教育の推進に関する法律」及びこれに基づく「消費者教育の推進に関する基本的な方針」(平成25年6月閣議決定)(30年3月変更)並びに「消費者基本計画」(27年3月24日閣議決定)を踏まえ,学校教育や社会教育における消費者教育を推進してきました。
 また,平成30年6月,成年年齢を引き下げる民法の一部を改正する法律(30年法律第59号)が成立し,令和4年4月1日より施行予定であることから,若年者に対する消費者教育の更なる充実が求められています。
 そのため,消費者庁,文部科学省,法務省,金融庁の関係4省庁において,平成30年度から令和2年度の3年間を集中強化期間とする「若年者への消費者教育の推進に関するアクションプログラム(平成30年2月)(同7月改定)」を決定し,本プログラムに基づき,若年者に対する消費者教育の推進を図っています。
 学校教育では,平成29年3月に小・中学校,30年3月に高等学校の学習指導要領を改訂し,関連する教科等において消費者教育に関する内容の更なる充実を図っています。また,各学校の指導の改善に資するよう,都道府県教育委員会等に委託して,消費生活に関する諸課題も含め,実社会との接点を重視した課題解決型学習プログラムに係る実践研究を行っています。
 社会教育では,文部科学省の消費者教育に関する取組の成果を広く還元するとともに,多様な主体の連携と協働を促進する場として「消費者教育フェスタ」を開催しています。平成30年度は,国立女性教育会館,兵庫県姫路市,神奈川県横浜市の3か所で開催し,有識者による基調講演やパネルディスカッション,実践者による事例報告や授業公開などを実施しました。また,消費者教育の指導者用啓発資料を配布し,消費者教育を通じて育むべき力と指導者の役割,指導者が消費者教育を行う上でのヒントや関係者が相互に連携して取り組む手法等について啓発を行っています。加えて,地域における消費者教育が連携・協働により一層推進されるよう,消費者教育アドバイザーを5か所に派遣するとともに,消費者教育の効果的な体制づくりの実証的共同研究を3大学で実施しました。

9 環境教育・環境学習の推進

 地球温暖化や自然環境の破壊,資源エネルギー問題など地球規模での様々な課題がある中,エネルギーの効率的な利用など環境に対する負荷を軽減し,持続可能な社会を構築するため,国民一人一人が様々な機会を通じて環境問題について学習し,自主的・積極的に環境保全活動に取り組んでいくことが重要です。
 文部科学省は,「環境教育等による環境保全の取組の促進に関する法律」及びこれに基づく「環境保全活動,環境保全の意欲の増進及び環境教育並びに協働取組の推進に関する基本的な方針(平成30年6月閣議決定)」を踏まえ,国民がその発達段階に応じて,あらゆる機会に環境の保全についての理解と関心を深めることができるよう,学校教育や社会教育における環境教育の推進のために必要な施策に取り組んでいます。
 学校における環境教育については,これまでも,小・中・高等学校を通じ,児童生徒の発達の段階に応じて,社会科や理科など教科等横断的な学習が行われています。また平成29年3月には,小・中学校,30年3月には高等学校の学習指導要領を改訂し,環境教育については,社会科や理科,技術・家庭科など関連ある教科においてその内容を充実しています。
 文部科学省は,環境教育を一層推進するための施策として,米国が提唱し,平成30年時点で世界121の国・地域が参加している「環境のための地球規模の学習及び観測プログラム(GLOBE)」に参加する協力校の指定や,環境省との連携・協力による教師等をはじめとする環境教育・環境学習の指導者に対する研修(環境教育リーダー研修)などを実施しています。また,「健全育成のための体験活動推進事業」において,児童生徒の健全育成を目的とした自然体験活動や農林漁業体験など農山漁村等における様々な創意工夫のある宿泊体験活動を支援しています。
 学校の施設については,環境を考慮した学校施設(エコスクール)の整備を関係省庁と連携して推進しています。
 社会教育については,公民館等の社会教育施設を中心として,地域における社会教育関係団体等が連携し,環境保全等の地域の課題を解決していくための取組について情報提供するなど,地域の教育力の向上を図っています。
 さらに,青少年の自然体験活動などを一層推進するため,全国的な普及啓発事業,青少年の体験活動推進に関する調査研究,企業の取組を推進する教育CSRシンポジウム等を実施するとともに,自己肯定感を育むために有効な体験活動を支援しています。国立青少年教育振興機構は,全国28か所の国立青少年教育施設の立地条件や特色を生かした自然体験活動などの機会と場所を提供しているほか,民間団体が実施する自然体験活動などに対して「子どもゆめ基金」事業(※11)による助成を行っています。


  • ※11 参照:第2部第3章第4節2(2)

10 読書活動の推進

 読書は,言葉を学び,感性を磨き,表現力を高め,創造力を豊かなものにし,人生をより深く生きる力を身に付ける上で欠かせないものです。文部科学省は,「子どもの読書活動の推進に関する法律」及び「第四次子供の読書活動の推進に関する基本的な計画」(平成30年4月20日閣議決定)(以下,「第四次基本計画」という。)を踏まえ,令和4年度に1.子供の「不読率」(1か月に1冊も本を読まない子供の割合)の減少(小学生2%以下,中学生8%以下,高校生26%以下),2.市町村における「子どもの読書活動推進に関する基本的な計画」の策定率の増加(市にあっては100%,町村にあっては70%以上)を目指して,広く読書活動に対する国民の関心と理解を深めるため,様々な施策を実施しています。
 第四次基本計画においては,特に高校生の不読率を改善するために,1.読書習慣の形成に向けて,発達段階ごとの効果的な取組を推進すること,2.友人同士で本を薦め合うなど,読書への関心を高める取組を充実すること,3.情報環境の変化が子供の読書環境に与える影響に関する実態把握・分析を進めることとしています。国,都道府県,市町村がそれぞれの役割を踏まえ,学校・図書館・民間団体・民間企業等の様々な機関と連携し,各種取組を充実・促進していきます。

(1)学校における読書活動の推進

1.学校における読書活動の推進

 子供の読書習慣を形成していく上で,学校は掛け替えのない大きな役割を担っています。「学校教育法」には,義務教育として行われる普通教育の目標の一つとして,「読書に親しませ,生活に必要な国語を正しく理解し,使用する基礎的な能力を養うこと」が規定されています。また,学習指導要領では,学校図書館を計画的に利用しその機能の活用を図り,児童生徒の自主的,自発的な読書活動を充実することとしています。
 小学校,中学校,高等学校の各学校段階において,児童生徒が生涯にわたる読書習慣を身に付け,読書の幅を広げるため,読書の機会の拡充や図書の紹介,読書経験の共有によって様々な図書に触れる機会を確保することが重要です。
 文部科学省の調査によると,平成28年3月現在,全校一斉の読書活動(いわゆる「朝読」を含む。)を実施している公立学校の割合は,小学校で97.1%(26年96.8%),中学校で88.5%(26年88.5%),高等学校で42.7%(26年42.9%)となっています。ボランティアなどの協力を得ている学校や公立図書館との連携を実施している学校も増加しており,各学校において積極的な取組が行われています。

2.学校図書館資料の整備・充実

学校図書館には読書活動を推進する「読書センター」,教育課程の展開に寄与する「学習センター」や「情報センター」としての機能が期待されています。
 文部科学省は,公立義務教育諸学校における学校図書館の図書を充実するため,学校の規模に応じた蔵書数の目標を定めた「学校図書館図書標準」の達成等に向けて,平成29度から令和3年度までの「学校図書館図書整備等5か年計画」を策定しています。
 この計画の策定に伴い,公立義務教育諸学校の計画的な学校図書館図書の整備に必要な経費として,新たな図書等の購入に加えて,情報が古くなった図書等の更新を行うため,単年度約220億円,5か年総額約1,100億円の地方財政措置が講じられることとなっています。平成27年度末時点で「学校図書館図書標準」を達成している学校の割合は,小学校66.4%,中学校55.3%にとどまっており,文部科学省は,「学校図書館図書標準」の達成に向けて,各教育委員会に対して蔵書の計画的な整備を促しています。
 また,「学校図書館図書整備等5か年計画」の策定に伴い,学校図書館に新聞を配備するため,単年度約30億円,総額約150億円の地方財政措置が講じられることとなっています。
 平成27年度末現在で学校図書館に新聞を配備している学校の割合は,小学校41.1%,中学校37.7%にとどまっており,文部科学省は,各教育委員会に対して学校図書館への新聞の配備を促しています。

3.学校図書館の活用を推進するための人的配置の推進

 「学校図書館法」では,12学級以上の学校には学校図書館を活用した教育活動や読書活動の中心的な役割を担う司書教諭を必ず置かなければならないこととしています。文部科学省は,司書教諭の養成のための講習会を実施し有資格者の養成に努めるとともに,司書教諭の配置が促進されるよう周知を図っています。
 また,学校図書館活動を充実するためには,専ら学校図書館に関する業務を担当する学校司書を配置して,司書教諭との連携による多様な読書活動の計画・実施を推進したり,学校図書館サービスの改善・充実を図ったりすることが有効です。平成26年6月に議員立法によって「学校図書館法」が改正され,それまで法律に規定のなかった「学校司書」について,学校図書館の運営の改善及び向上を図り,学校図書館の利用の一層の促進に資するため,学校に置くよう努めることとされました。学校司書を配置する公立小・中学校の割合は近年一貫して増加しており(28年4月現在:小学校59.3%,中学校57.3%),児童生徒と本をつなぐ役割を果たす学校司書の必要性が強く認識されていることが分かります。こうしたことを踏まえ,公立小・中学校に学校司書を配置するための経費として,24年度から28年度まで単年度毎に約150億円の地方財政措置が講じられてきたところです。さらに,29年度からの「学校図書館図書整備等5か年計画」に新たに学校司書の配置を位置づけたことに伴い,単年度約220億円,総額約1,100億円の地方財政措置が講じられることとなっています。

4.学校図書館の更なる整備充実に向けて

 文部科学省は,「学校図書館の整備充実に関する調査研究協力者会議」において,学校図書館の運営に係る基本的な視点や学校司書の資格の在り方,その養成等の在り方に関する検討を行い,平成28年10月,「これからの学校図書館の整備充実について(報告)」を取りまとめました。これを踏まえ,文部科学省は,学校図書館の運営上の重要な事項について,教育委員会や学校等にとって参考となるよう,その望ましい在り方を示す「学校図書館ガイドライン」を作成しました。また,学校司書に求められる知識・技能を整理した上で,それらの専門的知識・技能を習得できる望ましい科目・単位数等を示す「学校司書のモデルカリキュラム」を作成し,各教育委員会や大学等に周知を図りました。

(2)地域における読書活動の推進

 文部科学省は,第四次基本計画に基づき,「読書コミュニティ拠点形成支援事業」,子供の読書に関する調査研究の実施,「子ども読書の日」(4月23日)を記念した「子どもの読書活動推進フォーラム」の開催,優れた読書活動を行っている図書館・学校・団体(個人)の文部科学大臣表彰を行っています。文部科学大臣表彰について,平成30年度は,区役所との連携による乳幼児健診での子育て支援事業「つるみっこ絵本広場」など様々な工夫をこらした取組を積極的に実施している横浜市立鶴見図書館等,図書館47館・学校136校・団体(個人)53団体(名)の合計236件を表彰しました。受賞事例については「子ども読書の情報館」を活用した情報提供(※12)を行っています。また,図書館が「地域の知の拠点」として住民にとって利用しやすく,身近な施設となるための環境の整備を進めています。読書活動をはじめとする図書館の機能やサービスを一層充実させるため,「図書館の設置及び運営上の望ましい基準」(平成24年12月19日文部科学省告示第172号)に基づき,子供のための施設・設備や読み聞かせ等のサービスの充実に努めています。
 さらに,図書館資源を活用した読書格差の解消に向けた活動を推進するため,「地域の教育資源を活用した教育格差解消プラン」の中で困難を抱えた親子等を対象とした「図書館資源を活用した困難地域等における読書・学習機会提供事業」を実施し,ブックリストの作成や指導法の開発等を通じて読書機会の充実を図りました。

 「子ども読書の日」普及啓発ポスター
 「子ども読書の日」普及啓発ポスター


  • ※12 参照:http://www.kodomodokusyo.go.jp/

第3節 社会教育の振興と地域全体で子供を育む環境づくり

1 社会教育の振興

(1)これからの社会教育の在り方

 人口減少や高齢化をはじめとする急速な社会経済環境の変化や取り組むべき課題の複雑化の中にあって,住民の主体的な参加による持続可能な社会づくり,地域づくりに向けて,社会教育はこれまで以上にその役割を果たすことが期待されております。
 平成30年3月には,文部科学大臣から中央教育審議会に対して今後の社会教育の振興方策について諮問を行い,これを受け,中央教育審議会は,30年12月に「人口減少時代の新しい地域づくりに向けた社会教育の振興方策について(答申)」をとりまとめました。答申では,今後の社会教育の在り方として,人口減少やコミュニティの衰退を受けて,住民参画による地域づくりがこれまで以上に求められる中,「『社会教育』を基盤とした人づくり・つながりづくり・地域づくり」が一層重要であるとされ,その上で,新たな社会教育の方向性として「開かれ,つながる社会教育」が提示されているところです(※13)。
 文部科学省としては,この答申の内容も踏まえ,引き続き社会教育の振興に努めてまいります。

(2)社会教育に関する専門的職員の充実

 教育委員会に置かれる社会教育に関する専門的職員である社会教育主事は,地域の学習課題を把握し,社会教育事業の企画・実施や,関係者への専門的技術的な助言と指導を関係各機関との効果的なネットワークを活用して行うことによって,地域住民の自発的な学習活動や学習を通じた地域づくりの活動を支援する役割を果たしています。また,図書館及び博物館に置かれる専門的職員である司書及び学芸員は,利用者や地域住民の学習機会の充実を図り,学習活動の支援を行っています。
 文部科学省は,現職の社会教育主事,司書,学芸員に対して,地域が抱える課題や学習ニーズに対応した実践的な研修を実施することによって,これらの専門的職員の資質向上を図っています。また,社会の状況に応じて,地域住民の高度化・多様化する学習ニーズに対応する社会教育主事や司書を養成するため,大学等に委嘱して社会教育主事講習や司書講習を実施するほか,学芸員資格認定試験による資格付与を行っています。
 社会教育主事の養成については,学習及びその成果を実際の地域課題の解決等につなげていくため,今後はより実践的な能力の育成が必要であると指摘されており,「社会教育主事養成の見直しに関する基本的な考え方について」(平成29年8月社会教育主事養成等の改善・充実に関する検討会)等の提言内容を踏まえ,社会教育主事講習及び社会教育主事養成課程の科目の改善を図ることとし,「社会教育主事講習等規程の一部を改正する省令」(平成30年文部科学省令第5号)を30年2月28日に公布しました。この省令については令和2年4月1日から施行されることになっています。
 本改正では,学習者の多様な特性に応じた学習支援に関する知識及び技能の習得を図る科目である「生涯学習支援論」と,多様な主体と連携・協働を図りながら学習成果を地域課題解決等につなげていくための知識及び技能の習得を図る科目である「社会教育経営論」を新設しました。これらを含む全ての科目を修得した者は,新たに「社会教育士」と称することができます。
 社会教育士には,地域学校協働活動の推進や社会教育施設における活動のみならず,環境や福祉,まちづくり等の社会の多様な分野における学習を支援する活動を通じて,人づくりや地域づくりに関する活動に積極的に携わっていくことや,首長部局,NPOや大学,企業等においても広く活用され,教育委員会に置かれる社会教育主事を中心とした社会教育行政の連携体制の構築に寄与することなどが期待されています。


  • ※13 第1章第1節1参照

2 社会教育施設を通じた様々な施策の展開

 文部科学省は,「第3期教育振興基本計画」を踏まえ,公民館等地域の「学び場」である社会教育施設を拠点に,関係部局や関係機関が連携・協働しつつ,地域の課題解決に向けた講座等の学習や地域活動の支援等が活力ある地域コミュニティの形成につながっていくよう,取組を行っています。平成30年度は,学びによる地域課題解決が持続的に行われるための方策,高齢者の社会参画の促進のためのノウハウ等について関係者間で共有を図るため,「学びを通じた地方創生コンファレンス全国フォーラム」を開催しました。
 公民館,図書館,博物館等の社会教育施設においては,地域の課題を適切に把握するとともに,施設利用者である地域住民の意向を十分にくみ取った運営を行うことが重要です。さらに,その活動内容を客観的に評価・検証し,地域住民にも公開することを通じて施設の運営の質の向上を図ることも求められます。

(1)公民館

 公民館は,地域住民にとって最も身近な学習拠点であるだけでなく,交流の場,地域コミュニティの形成の場として重要な役割を果たすとともに,地域の防災拠点としての役割も期待されています。平成27年10月現在,公民館は全国に約1万4,200館設置され,住民の学習ニーズや地域の実情に応じた学級・講座の開設など様々な学習機会を提供しています。文部科学省は,公民館職員専門講座や社会教育主事講習等において,地域課題を解決するための活動の事例提供等により,公民館における取組が一層充実するよう努めています。
 また,文部科学省では,特に事業内容・方法等に工夫をこらし,地域住民の学習活動に大きく貢献していると認められる公民館(公民館と同等の社会教育活動を行う施設を含む)を優良公民館として表彰しており,第71回(平成30年度)優良公民館表彰においては,65館を表彰館として決定しました。

(2)図書館

 図書館は,人々の学習に必要な図書や様々な情報を収集・整理・提供する身近な社会教育施設です。平成27年10月現在の図書館数は,公立図書館が3,308館,私立図書館が23館となっています。文部科学省は,24年4月に「図書館法施行規則」の一部改正を行い,図書館を支える司書が地域社会の課題や人々の情報要求に対して的確に対応できるよう,大学における司書養成課程等の改善・充実を図ったところです。また,図書館職員の資質向上に向けて,司書等の研修の充実に努めています。
 図書館には「地域の知の拠点」として,子供や高齢者など多様な利用者や住民の学習活動を支え,地域が抱える様々な課題解決の支援や地域の実情に応じた情報サービスの提供など幅広い観点から社会貢献や地域発展のために寄与することが期待されます。(3)博物館第9章第12節博物館・劇場等の振興を参照。

3 社会全体で子供たちの学びを支援する取組の推進

(1)地域と学校の連携・協働のための仕組み

 社会総掛かりでの教育の実現を図る上で,学校は,地域社会の中でその役割を果たし,地域とともに発展していくことが重要です。学校と地域がパートナーとして連携・協働するために,これからの学校は,地域でどのような子供たちを育てるのか,何を実現していくのかという目標やビジョンを保護者や地域住民等と共有し,地域と一体となって子供たちを育む「地域とともにある学校」へと転換していく必要があります。また,地域においても,学校と連携・協働してより多くの地域住民等が子供たちの成長を支える活動に参画するための基盤を整備していくことが重要です。
 このため,文部科学省では,平成29年3月に改正された「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」に基づき,コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)の導入を推進しており,全ての公立学校に学校運営協議会が設置されることを目指しています(図表2‐3‐3)。また,同年に改正された「社会教育法」に基づき,幅広い地域住民等の参画により地域全体で子供たちの学びや成長を支える様々な活動である「地域学校協働活動」を推進しており,全ての小中学校区において地域学校協働活動が実施されることを目指しています。
 新学習指導要領の理念である,「社会に開かれた教育課程」の実現に向けては,コミュニティ・スクールと地域学校協働活動を一体的に推進することにより,学校が保護者や地域住民等と教育課程に関する情報や課題・目標を共有するとともに,学校教育を学校内に閉じずに,地域の人的・物的資源を活用しながら授業等を実施するといったことが可能となります。実施後は活動の振り返りや評価を行い,次年度の教育課程や活動に反映させるといったPDCAサイクルを機能させることができます。
 また,学校運営協議会において教師の適正な勤務時間の設定に係る取組についても協議を行い,保護者や地域住民等の理解と協力を得ながら必要な地域学校協働活動を行うなど,学校における働き方改革に取り組む上でも重要な仕組みです。
 さらには,地域と学校をつなぐコーディネーターである「地域学校協働活動推進員」が学校運営協議会の委員となることで,協議の場である学校運営協議会と実働の場である地域学校協働活動が円滑に連携し,両者の機能を高め,学校と地域の更なる連携・協働が推進されるなどの相乗効果が期待されます(図表2‐3‐4)。

 図表2‐3‐3 コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)の仕組み

 図表2‐3‐4 「社会に開かれた教育課程」の実現のためのコミュニティ・スクールと地域学校協働活動の一体的推進

 社会に開かれた教育課程の実現に向けて,地域住民とともに行った授業についての振り返りをしている様子(島根県益田市立豊川小学校)
 社会に開かれた教育課程の実現に向けて,地域住民とともに行った授業についての振り返りをしている様子(島根県益田市立豊川小学校)

(2)地域と学校の連携・協働の現状

 平成30年4月1日現在において,コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)を導入している学校数は46都道府県内5,432校となっています。小・中学校,義務教育学校数で見ると,全体の16.7%(4,796校)がコミュニティ・スクールを導入しています。
 また,平成30年11月現在において,地域学校協働本部は6,190本部(※)が整備され,カバーする小・中学校数は,11,069校となっています。地域学校協働活動の一環として,地域住民等の協力を得て子供たちに学習・体験活動等を提供する「放課後子供教室」は18,749教室(※)が実施され,学習が遅れがちな中学生・高校生等を対象とした原則無料の学習支援である「地域未来塾」は2,995箇所(※)で実施されています(図表2‐3‐5)。
 文部科学省では,地域と学校の連携・協働を一層推進していくため,以下の取組を実施しています。

  1. コミュニティ・スクール導入時の運営体制づくりへの支援及び地域学校協働活動推進員の配置の促進など地域学校協働活動を推進するための財政支援
  2. コミュニティ・スクール導入の実践経験があるコミュニティ・スクール推進員(CSマイスター)及び地域学校協働活動推進・調査研究員(コンサルタント)の派遣
  3. 「地域とともにある学校づくり推進フォーラム」及び「地域学校協働活動推進全国フォーラム」,制度等説明会の実施
  4. 子供の豊かな学びを支えるため,趣旨に賛同する多様な企業・団体等を「土曜学習応援団」として位置づけ,休日や放課後等に出前授業や施設見学等の教育プログラムを提供する取組の実施(※)補助事業を活用している数であり,地方単独財源で実施している数は含まない。

 図表2‐3‐5 コミュニティ・スクールと地域学校協働本部の数

 アマゾンジャパンの社員による小学生向けのプログラミング授業の様子 アマゾンジャパンの社員による小学生向けのプログラミング授業の様子
 アマゾンジャパンの社員による小学生向けのプログラミング授業の様子

(3)高校生等による地域課題解決型学習の推進

 学びを通じた地方創生・地域振興の観点から,「地元」を学び,地域の活性化やまちづくりを担う人材を育む方策の一つとして,「地域ビジネス創出事業(SBP:SocialBusinessProject)」を推進しています。
 SBPとは,地域における次代の担い手となる高校生等の若者が,ソーシャル・ビジネス(※14)の手法を学ぶことにより,周囲の大人と共に地域課題の解決に取り組む活動です。
 静岡県の浜松学芸中学校・高等学校では,地元遠州の特産である注ちゅう染せん染ぞめの魅力をPRしてほしいとの地域からの依頼を受け,浴衣の生地を使ったパターンオーダーシャツのブランドを立ち上げました。斬新なシャツは好評を呼び,地元企業の制服として採用されるほどの成長を遂げています。その取組の独自性とモデル性が評価され,年に一度開催される「全国高校生SBP交流フェア(主催:一般社団法人未来の大人応援プロジェクト実行委員会,共催:文部科学省)」において文部科学大臣賞を受賞しました。このような,先進事例の紹介等を通して,全国への普及活動を展開しています。

 浜松学芸中学校・高等学校における発表の様子
 浜松学芸中学校・高等学校における発表の様子

 第3回全国高校生SBP交流フェアの様子
 第3回全国高校生SBP交流フェアの様子

(4)PTAや青少年教育団体等の実施する共済事業

 PTAや青少年教育団体等は,「PTA・青少年教育団体共済法」に基づき,行政庁の認可を受けて,その主催する活動等における災害について共済事業を実施することができます。平成30年度末までに,全国で27団体が本法に基づく共済事業の認可を受けています。文部科学省は,共済契約者等を保護する観点から,共済事業が適切かつ健全に実施されるよう,行政庁である都道府県教育委員会や団体に対する研修会の実施や情報提供などの支援に努めています。


  • ※14 ソーシャル・ビジネス:様々な社会的課題(高齢化問題,環境問題,子育て・教育問題など)を市場として捉え,その解決を目的とする事業。「社会性」「事業性」「革新性」の3つを要件とする。推進の結果として,経済の活性化や新しい雇用の創出に寄与する効果が期待される。(出典:経済産業省「ソーシャルビジネス推進研究会報告書」平成23年3月)

第4節 家庭教育支援の推進と青少年の健やかな成長

1 地域の多様な主体が連携協力した家庭教育支援の充実

(1)家庭教育の現状と課題

 現在,多くの家庭が家庭教育の充実に努めている一方で,家庭環境の多様化や地域社会の変化により,親子の育ちを支える人間関係が弱まる中,子育てについての悩みや不安を抱える家庭も多くなっています(図表2‐3‐6)。

 図表2‐3‐6子育てについての悩みや不安

 同時に,地域社会で子育てを支えることの重要性が認識されています(図表2-3-7)

 図表2‐3‐7 子育てする人にとっての地域の支えの重要性

 「第3期教育振興基本計画」では,多様化する家庭環境に対し,地域全体で家庭教育を支える仕組みづくりを一層促進していくこととしており,文部科学省では,学校や子育て経験者をはじめとした地域人材など,地域の多様な主体が連携・協力した親子の育ちを応援する取組等を推進しています。

(2)家庭の教育力の向上に向けた取組の推進

 文部科学省は,「地域における家庭教育支援基盤構築事業」により,身近な地域において保護者が家庭教育に関する学習や相談ができる体制が整うよう,家庭教育支援チームの組織化などによる相談対応や,保護者への学習機会の企画・提供などの家庭教育支援を行う地方公共団体の取組への助成を行っています(平成30年度:5,291か所)。また,家庭教育支援チーム等による訪問型の家庭教育支援体制の構築や妊娠期から学齢期までの切れ目のない支援の実現を図るため,「教育と福祉の連携による家庭教育支援事業(訪問型家庭教育支援等)」を地方公共団体に委託して実施しました(30年度:6府県)。
 さらに,地域における家庭教育支援活動の一層の推進を図るため,「家庭教育支援チーム」の組織づくりに必要な視点等を整理した「家庭教育支援チーム」の手引書を平成30年11月に作成し,文部科学省のウェブサイトで公表しました。
 このほか,学校・家庭・地域の連携・協働による地域全体での家庭教育支援の活性化を図るため,全国家庭教育支援研究協議会を開催しました。

(3)子供の基本的な生活習慣の確立に向けた支援の推進

1.子供の基本的な生活習慣の現状

 基本的な生活習慣の乱れが,子供たちの学習意欲や体力,気力の低下の要因の一つとして指摘されています。
 平成30年度「全国学力・学習状況調査」によると,子供の睡眠習慣については,毎日,同じくらいの時刻に寝ている小学校6年生の割合は約77%,中学校3年生の割合は約74%,毎日,同じくらいの時刻に起きている小学校6年生の割合は約89%,中学校3年生の割合は約90%となっています。
 また,同調査において,子供の朝食摂取については,朝食を毎日食べている小学校6年生の割合は約85%,中学校3年生の割合は約80%となっているほか,毎日朝食を食べる子供の方が,同調査の平均正答率が高い傾向にあることが分かっています(図表2‐3‐8)。

 図表2‐3‐8 朝食摂取と学力調査の平均正答率との関係

 このほか,中高生の生活習慣については,中学校3年生の6割以上が夜11時以降に寝ているなど,朝食摂取も含め,まだ大きな改善が必要な状況となっています(図表2‐3‐9)。

 図表2‐3‐9 夜11時以降に寝る中学3年生の割合

2.「早寝早起き朝ごはん」国民運動の推進

 子供の生活習慣づくりについて,社会全体の問題として子供たちの生活リズムの向上を図っていくため,平成18年4月に「早寝早起き朝ごはん」全国協議会が発足し,同協議会と文部科学省の連携により「早寝早起き朝ごはん」国民運動を推進してきました。その結果,PTAをはじめ,経済界,メディア,有識者,市民活動団体,教育・スポーツ・文化関係団体,読書・食育推進団体,行政などの参加を得て,全国において,子供の基本的な生活習慣の確立や生活リズムの向上につながる運動が展開されています。同協議会では,ウェブサイトによる情報提供も行っています(※15)。30年度は,「朝ごはん」と「お手伝い」に焦点をあてた「早寝早起き朝ごはん」絵本の第二弾「みんなでにっこり!あさごはん」を作成し,全国の図書館,教育委員会,幼稚園,保育所等に配布しました。
 また,平成29年度に引き続き,国立青少年教育振興機構と連携協力し,「早寝早起き朝ごはん」国民運動を促進するための「早寝早起き朝ごはん」フォーラム事業を実施するとともに,中学生の基本的な生活習慣の維持・定着・向上を図るための「早寝早起き朝ごはん」推進校事業を実施しました。
 さらに,全国の小学1年生とその保護者を対象とした「早寝早起き朝ごはん」リーフレットについて,文部科学省のウェブサイトで公表しています。
 このほか,基本的な生活習慣の定着に向けた取組の一層の推進を図るため,「早寝早起き朝ごはん」運動などの子供の生活習慣づくりに関する活動のうち,特色ある優れた実践を行い,地域全体への普及効果の高いと認められる53活動に対して,文部科学大臣表彰を行いました。


  • ※15 参照:http://www.hayanehayaoki.jp/

2 青少年の健全育成の推進

(1)青少年の体験活動の推進

1.学校・家庭・地域における体験活動の推進

 平成25年1月に中央教育審議会から答申された「今後の青少年の体験活動の推進について」においては,学校・家庭・地域が連携して社会総ぐるみで人づくりの「原点」である体験活動の機会を意図的・計画的に創出していくことの必要性が提言されています。
 本答申などを踏まえ,文部科学省は,家庭や企業などに対して体験活動の重要性等について普及啓発を行うとともに学校・家庭・地域における体験活動を推進しています。具体的にはシンポジウムの開催や,青少年の体験活動に関する調査研究や,企業が社会貢献活動の一環として行う青少年の体験活動の表彰と事例集を作成し,実践事例の紹介等を行っています。また,青少年が自信をもって成長し,より良い社会の担い手となるためには,自己肯定感をバランスよく育むことが必要であることから,自己肯定感を育むために有効な体験活動について,効果的な取組を支援しています。
 さらに,児童生徒の豊かな人間性や社会性を育むため,「健全育成のための体験活動推進事業」を実施し,学校による宿泊体験活動の取組を支援するとともに,内閣官房,総務省,農林水産省,環境省と連携して子供の農山漁村宿泊体験などを推進しています。

2.青少年の国際交流の推進

 文部科学省は,青少年の国際的視野の醸成などを図るため,次代を担う青少年等の海外派遣及び日本受入を行う「青少年国際交流推進事業」や,文化の異なる複数の国から青少年を招へいし一定期間宿泊を伴う英語による共同生活を体験する「地域における青少年の国際交流推進事業」等を実施しています。「青少年国際交流推進事業」では,日独及び日韓の青少年が様々なテーマにおいて交流を行い,相互理解の促進を図っています。平成30年度においては,インクルーシブ教育や子供の居場所づくり等のテーマで交流を行いました。「地域における青少年の国際交流推進事業」では,異なる文化的背景を持つ青少年と共同生活を行いながら,地域文化の体験やグループワーク等を通じて,青少年の国際交流を推進しています。また,国立青少年教育振興機構においても,日中韓の小学4年生から6年生を対象とした「日中韓子ども童話交流事業」など,様々な青少年の国際交流推進事業が実施されています(※16)。


  • ※16 参照:第2部第10章第1節3(2)

(2)国立青少年教育振興機構を中心とした体験活動の推進

1.青少年教育施設における体験活動の推進

 国立青少年教育振興機構は,青少年教育のナショナルセンターとして,全国28の国立青少年教育施設において,不登校,発達障害,非行,子供の貧困など青少年の現代的課題に対応した教育的プログラムを企画・実施するとともに,基礎的・専門的な調査研究,学校や青少年団体等の活動に対する指導・助言などを行っています。また,青少年団体などと連携して,社会全体で体験活動を推進する気運を高めるため,毎年10月を「体験の風をおこそう推進月間」として集中的に事業を実施するなど,体験活動の重要性を広く家庭や社会に伝える活動を進めています。

2.「子どもゆめ基金」事業

 国立青少年教育振興機構は,未来を担う夢を持った子供の健全育成を進めるため,「子どもゆめ基金」事業を通じて民間団体による様々な体験活動や読書活動などを助成し,草の根レベルの体験活動等を支援しています。平成30年度は,6,528件の応募に対して4,472件の活動を採択しました。

(3)青少年を有害情報から守るための取組の推進(※17)

 近年,スマートフォン等をはじめとした様々なインターネット接続機器の普及に伴い,長時間利用による生活リズムの乱れやSNS等を利用した犯罪等が深刻な問題となっています。
 文部科学省は,「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律」などに基づいて,地域・民間団体・関係府省庁等と連携しつつ,保護者及び青少年に対する啓発や教育活動を推進しています。


  • ※17 参照:第2部第11章第1節7

(4)依存症予防教育の推進

 近年,喫煙,飲酒,薬物,インターネット,ギャンブル等に関する依存症が社会的な問題となっており,将来的な依存症患者数の逓(てい)減や青少年の健全育成を図る観点から,国,学校,地域が一体となって予防教育を行っていくことが必要となっています。
 文部科学省は平成28年度から「依存症予防教育推進事業」を実施しており,厚生労働省との共催による全国的なシンポジウムを開催するとともに,社会教育施設等を活用した児童生徒,学生,保護者,地域住民向けの「依存症予防教室」等の取組を支援しています。

お問合せ先

総合教育政策局政策課

-- 登録:令和元年11月 --