第2章 東日本大震災からの復興・創生の進展

総論

 平成23年3月11日,最大震度7の東北地方太平洋沖地震が発生しました。この地震に続いて太平洋岸を中心に広範囲で津波が発生し,特に東北地方及び関東地方の太平洋岸は巨大津波によって甚大な被害を受けました。さらに,東京電力福島第一原子力発電所において事故が起こり,放射性物質が放出されるという事態が発生しました。東北地方太平洋沖地震による災害及びこれに伴う原子力発電所事故による災害は,23年4月1日の閣議了解により「東日本大震災」と呼称することとされました。
 東日本大震災から8年が経過しました。文部科学省は,被災地や被災者に寄り添いながら,復興・創生を目指して,学校施設の復旧や就学支援,児童生徒の心のケア,復興を支える人材の育成や大学・研究所等を活用した地域の再生,原子力損害賠償の円滑化などに取り組んでいます。

第1節 創造的復興を実現する人材の育成

 東日本大震災からの復興・創生のためには,教育・学びを通して,復興や持続可能な地域づくりに貢献する人材を育成することが鍵となります。こうした認識の下,東北各地では,東日本大震災を機に,従来の目的や手法に捕らわれることなく未来志向の教育の実践が進められています。

1 福島県双葉郡教育復興ビジョン

 東京電力福島第一原子力発電所における原子力事故によって避難を余儀なくされた福島県双葉郡8町村では,住民の離散により子供たちが減少しています。
 そのような中,葛尾(かつらお)村,浪江(なみえ)町,富岡(とみおか)町の3町村では,川内(かわうち)村,広野(ひろの)町,楢葉(ならは)町に続き,平成30年4月に当該町村内での学校再開を果しました。しかしながら,双葉(ふたば)町や大熊(おおくま)町では当該町内での学校再開の時期が未定となっています。
 また,当該町村内での学校再開は果たした6町村においても避難先の仮設校舎での学習を継続しているところもあるなど,様々な困難を抱えながら教育活動を行っています。
 そのため,双葉郡8町村は,長期的な復興に向けて今こそ10年先,20年先を見据えて双葉郡の教育を立て直し,これまでの価値観に捕らわれない思い切った取組を進めていくことが必要であると考え,平成25年7月31日に「双葉郡教育復興ビジョン」を取りまとめました。また,26年度から双葉郡独自の魅力的な教育として,地域の「ひと」「もの」「こと」を題材にして8町村でともに取り組む探究的な学習「ふるさと創造学」を双葉郡の小中高校で行っており,その学びの成果を共有するために「ふるさと創造学サミット」を毎年開催しています。

 ふるさと創造学サミット(平成30年12月)の会場において,発表し学びあった子供たちの様子
 ふるさと創造学サミット(平成30年12月)の会場において,発表し学びあった子供たちの様子

 その他にも,地域の垣根を越えた仲間づくりを狙いとし,双葉郡の子供たちの再会や交流の場を設定した「絆(きずな)づくり交流会(小学生対象)」や「中高生交流会(中学生・高校生対象)」を開催し,「ふたば生徒会連合(中学生・高校生対象)」を発足させています。平成27年4月に広野町に開校した福島県立ふたば未来学園高校においては,地域と連携した課題解決学習や,各界の第一人者が外部講師として教育に携わる優れた取組等により,将来のふるさとの復興を担う人材を育てています。原子力発電所事故に伴い双葉郡の外に避難した子供たちも双葉郡において高校生活を送ることができるように寮を整備しており,多くの生徒が寮で生活しながらここで高校生活を送っています。
 さらに,平成31年4月には新校舎に移転するとともに,併設中学校が開校し,中高一貫校としてさらなる教育の充実を進めています。
 文部科学省は,創造的復興教育を推進する観点からこれらの取組を技術的・財政的に支援しています。

2 創造的復興教育の更なる推進に向けて

 「第3期教育振興基本計画」(平成30年6月15日閣議決定)では,教育・学びこそが復興の鍵になるとの認識の下,東日本大震災を機に従来の目的や手法にとらわれることなく,災害からの復興等持続可能な地域づくりのための未来志向の教育実践が「創造的復興教育」として位置付けられています。
 創造的復興教育には,次のような特徴が見られます。

1.地域の課題を踏まえ,困難な状況を乗り越え持続可能な地域づくりに貢献する人材の育成を目指している。

 地域全体の現実や課題を直視し,困難を乗り越えて地域の復興に取り組み,「持続可能な地域づくり」に貢献できるような人材育成を構想した事例が数多くあります。たとえ困難な状況に置かれても,状況を的確に捉えて自ら学び,考える資質・能力,人と支え合いながら,主体的に行動して困難を乗り越えていく資質・能力のように,学習指導要領の理念である「生きる力」を更に推し進めた「生き抜く力」の育成を目指しています。

2.学校外も含めた様々な機会での活動を通した実践的な学び等,能動的・創造的な学びを重視している。

 持続可能な地域づくりに貢献できる人材を育成するためのカリキュラムや指導方法が試行錯誤されています。そこでは,教室で一方的に知識を学ぶだけではなく,学校外も含め,実践的な活動を通して学ぶことを重視しています。「教授中心」から「学習者中心」へ,「受動的で静的な教育」から「能動的で創造的な学習」への転換をもたらそうとしています。

3.地域・NPO法人・大学等の多様な主体と協働し,充実した教育環境の構築を図っている。

 2.を実現するためには,子供たちが主体的に学べる環境整備が不可欠です。既に,地域・NPO法人・大学等といった学外の多様な組織との協働が実現しています。イベント的な単発の講演等ではなく,それぞれの主体が学校教育と目的を共有し,パートナーとして協働しています。

4.地域復興の歩みそのものが学びの対象となり,相乗効果で地域の復興をも後押しする取組である。

 創造的復興教育では,地域社会そのものが教材です。子供たちは地域復興の歩みを学びの対象としてフィールドワーク(野外研究,実地調査)を繰り返し,自らの学びを深めています。こうした試みは,子供たちが学ぶだけでなく,地域復興そのものを後押しするという相乗効果を生んでいます。その副産物として,子供たちと地域の人々が共に学ぶ「学びのコミュニティ」が出現しています。

 文部科学省は,こうした実践を「創造的復興教育」として促進するとともに,被災地だけでなく全国に共有するための情報発信等を実施しています。

3 福島イノベーション・コースト構想の実現に向けた取組

 福島イノベーション・コースト構想は,東日本大震災及び原子力災害によって失われた浜通り地域等の産業を回復するため,当該地域の新たな産業基盤の構築を目指す国家プロジェクトであり,平成29年5月に成立した,「福島復興再生特別措置法の一部を改正する法律(平成29年法律第32号)」(以下,「改正福島特措法」という。)において,位置付けられました。また,改正福島特措法に基づき福島県が策定した重点推進計画においても福島イノベーション・コースト構想が明確に位置付けられ,平成30年4月25日に内閣総理大臣の認定を受けました。
 福島イノベーション・コースト構想の実現に向けた重点的取り組みの1つである教育・人材育成について,文部科学省では,平成30年度より,「福島イノベーション・コースト構想等を担う人材育成に関する事業」,「大学等の『復興知』を活用した福島イノベーション・コースト構想」を実施しています。また,東京電力福島第一原子力発電所の廃止措置に関する研究開発等(後掲)についても引き続き取り組んでいます。

(1)福島イノベーション・コースト構想等を担う人材育成に関する事業

 福島イノベーション・コースト構想等を担う人材育成のため,普通科高校に対しては,地元企業・大学等と連携したトップリーダー人材の育成のための設備整備や,大学・企業等と連携した教育プログラム等の支援を,専門高校に対しては,廃炉研究やロボット,農林水産分野に資する専門人材の育成のための施設・設備や,企業・研究所等と連携した教育プログラム等の支援を,義務教育段階に対しては,人材の裾野を広げるための理数教育・グローバル人材育成への支援を実施しています。

(2)大学等の『復興知』を活用した福島イノベーション・コースト構想促進事業

 福島県の浜通り地域においてイノベーションを起こし,新たな産業基盤の構築,地域の課題解決を図っていくためには,知の拠点である大学を活用し,持続的に先進的な知見の集積に向けた取組を推進していくことが不可欠です。しかし,現在浜通り地域には高等教育機関が少なく,特に浜通り地域の中北部に位置する相双地域は,空白地帯となっています。
 文部科学省では,全国の大学等が有する福島復興に資する「知」(復興知)を,浜通り地域等に誘導・集積するため,「大学等の『復興知』を活用した福島イノベーション・コースト構想促進事業」により,大学等の組織的な教育研究活動を支援するとともに大学間,研究者間の相互交流,ネッワークづくりを推進しています。(平成30年度採択数:15大学等20プロジェクト)

第2節 絆(きずな)づくりと活力あるコミュニティ形成

1 学びの場を通じたコミュニティ再生

 文部科学省は,いまだ仮設住宅等における生活を強いられるなど学習環境が好転していない地域や,避難先からの帰還を実施している地域等において,復興に向けた子供たちの学習支援等を行う「仮設住宅の再編等に係る子供の学習支援によるコミュニティ復興支援事業」を平成28年度から実施しています。
 具体的には,放課後における学習支援や居場所づくり,家庭教育支援,地域による学校支援活動など,仮設住宅の地域等における子供たちの学習環境づくりに地域住民等に参画いただくことを通じて,希薄化・分断化されてしまった地域コミュニティの再構築を目的とした様々な取組を行っています。

2 大学や研究所等を活用した地域の再生

(1)復興に向けた教育研究活動の推進

 東日本大震災を経て,我が国の復興・創生に向けての貢献は,知の拠点である高等教育機関の重要な使命となりました。発災直後における災害派遣医療チーム(DMAT:Disaster Medical Assistance Team)等の派遣,宿泊施設への避難者の受入れだけでなく,中長期にわたる復興・創生においても,高等教育機関の果たすべき役割の重要性は増しています。被災地域において,復興・創生を担う専門人材の育成支援等を行うとともに,被災地以外の高等教育機関による学生ボランティアの派遣や復興支援に資する研究の支援等を通じて,被災地の復興支援を行っています。

(2)東北マリンサイエンス拠点の形成

 東北地方太平洋沖地震とこれに伴い発生した津波により,世界有数の漁場である東北沖の海洋生態系が激変し,沿岸域の水産業が甚大な被害を受けました。このことから,被災地の水産業の復興支援を目的として,岩手県大おお槌つち町,宮城県女おな川がわ町の海洋研究拠点を中心に,関係地方公共団体・漁協等と連携・協力し,震災により激変した東北沖の海洋生態系を明らかにする調査研究を実施しています(図表2-2-1)。

(3)東北メディカル・メガバンク計画

 東日本大震災で医療機関などが大きな被害を受けた東北地方は,被災者の命と健康が守られ,安心して暮らすことができる医療体制・健康管理の仕組みづくりが必要となっています。
 文部科学省は,厚生労働省,総務省等との協力の下で,東北大学及び岩手医科大学を実施機関として,「東北メディカル・メガバンク計画」を推進しています。
 本計画では,被災地域を対象とした健康調査を実施し,被災地域の方々の健康向上に貢献するとともに,収集した健康情報や生体試料を蓄積してバイオバンク(※1)を構築します。さらに,このバイオバンクを活用して,病気の正確な診断や予防法の確立など,個人のゲノム情報等に応じた次世代医療の創成のための研究開発を行います。
 平成25年度以降,本格的に健康調査を開始しており,目標としていた15万人を超える多くの人々の協力を得ながら,大規模なゲノムコホート研究(※2)を推進しているほか,収集された生体試料を用いた解析を実施しています。29年度に公開した,日本人約3,500人分の全ゲノム解析により得られた標準的なゲノム配列と,その解析で見つかった全ての変異情報に加え,30年度には世界でも例のない規模でX染色体やミトコンドリアのゲノム情報を追加して公開するなど,次世代医療研究の基盤となる成果を創出しています。
 今後も,地元の地方公共団体や関係機関などとの緊密な連携の下,健康調査での医師の活動の報告や調査結果の提供などを通じて,被災地住民の方々の健康向上に貢献することとしています。また,東北地方で個別化予防(※3)等の基盤となるバイオバンクを形成し,最先端の解析研究を推進することで東北発の新しい医療をつくり,被災地の創造的な復興に貢献することとしています。

 図表2-2-1 東北マリンサイエンス拠点形成事業の概要


  • ※1 バイオバンク:協力者から収集した生体試料や健康情報,臨床情報等を管理する「倉庫」のこと。
  • ※2 ゲノムコホート研究:同意を得た住民から,生体試料,健康情報,診療情報等を収集し,生体試料から得られるゲノム情報等と併せて解析することで,疾患や薬物動態等に関連する遺伝子要因,環境要因等を同定する研究。
  • ※3 個別化予防:個人のゲノム情報を調べて,その結果を基に,より効率的・効果的に疾患の予防を行うこと。

第3節 学びのセーフティーネット

1 文教施設等の復旧

 東日本大震災(最大震度7)での文部科学省関係(幼児・児童・生徒・学生・教職員など)の人的被害は死者659名,行方不明者79名,負傷者262名となっています(図表2-2-2)。また,学校施設や社会教育施設,文化財などの物的被害は全国で1万2,000件以上発生しました(図表2-2-3)。

 津波により被害を受けた校舎
 津波により被害を受けた校舎

 改築が完了した校舎
 改築が完了した校舎

 図表2-2-2 東日本大震災における文部科学省関係の人的被害(平成24年9月14日現在)

 図表2-2-3 東日本大震災における文部科学省関係の物的被害(平成24年9月14日現在)

 また,東京電力福島第一原子力発電所における原子力事故により,福島県の公立学校のうち,浪江町の6の小・中学校が休校となっているほか,他校・他施設を使用して授業を行っている学校が19校,仮設校舎を使用している学校が4校存在しています(平成31年3月時点)。
 文部科学省は,東日本大震災によって被害を受けた文教施設等が早期に復旧し,できる限り速やかに教育活動等を再開することができるよう,必要な予算の確保に努めています。平成30年度末までに,災害復旧事業を活用する国立学校(25法人),公立学校(2,330校),私立学校(790校)については,福島県の避難指示区域に所在している学校は除き,おおむね復旧を完了しています。災害復旧事業を活用する社会教育施設・社会体育施設・文化施設については,避難指示区域に所在しており被害状況を確認できない施設を除いた1,240施設のうち9割強が,文化財等については修復に当たって国庫補助を必要とする被災文化財等の92件のうち約9割強が,それぞれ復旧を完了しています。
 また,被災地における埋蔵文化財については埋蔵文化財の専門職員の被災地派遣(平成30年度:8名)等により発掘調査期間が短縮されるなど,復興事業の工期への影響の回避につながっています。

2 就学のための経済的支援

(1)幼児児童生徒に対する支援

 東日本大震災により経済的理由から就学等が困難となった幼児児童生徒の就学支援等を実施するため,文部科学省は,「被災児童生徒就学支援等臨時特例交付金」(平成23年度から26年度までの4年間で約444億円,全額国庫負担)による基金事業を実施しました。具体的には,各都道府県等において,幼稚園に通う幼児の保育料や入園料を軽減する就園奨励事業や,小・中学生に対して学用品費や通学費(市町村が実施するスクールバスの運行委託費等),学校給食費などを補助する就学援助事業,高校生等に対する奨学金事業,特別支援学校等に通う幼児児童生徒の就学に必要な経費を補助する就学奨励事業,私立学校及び専修学校・各種学校に対する授業料等減免措置事業を実施してきました。この基金事業は26年度で終了しましたが,27年度からは,被災した幼児児童生徒が安心して学ぶことができる環境を引き続き確保するため,新たに全額国庫補助の単年度の交付金事業として「被災児童生徒就学支援等事業」を実施しており,令和元年度は所要額(約44億円)を確保しています。

(2)学生等に対する支援

 東日本大震災により被災した世帯の学生等に対しては,全国の多くの大学で,授業料減免,奨学金の支給,宿舎支援などが実施されています。文部科学省は,被災した世帯の学生等に対し,平成30年度は,高等教育段階において被災した世帯の学生等が経済的理由により進学等を断念することがないよう,授業料等減免措置とともに,日本学生支援機構の無利子奨学金の貸与を行っています。

3 学習支援・心のケア

(1)スクールカウンセラーの派遣等

 文部科学省は,被災した子供たちの心のケア等への対応のため,被災した地方公共団体等が学校などにスクールカウンセラー等を派遣するために必要な経費について支援しています。平成30年度計画においては,被災地の要望を踏まえ,岩手県,宮城県,福島県に529人のスクールカウンセラー等を派遣することとしています。

(2)公立学校における教職員体制の整備

 東日本大震災により被災した児童生徒に対するきめ細かな学習支援や心のケアを行うため,公立学校における教職員体制の整備を図る特別な教職員定数の加配措置を行っており(※4),文部科学省は,平成23年度以降,毎年度,被災自治体からの申請を受け,必要な加配措置を実施してきました。
 未だに多くの被災児童生徒に対してきめ細かな学習支援や心のケアなどの配慮が必要な状態です。また,原子力災害による避難指示が解除となった地域において学校が再開されています。このため,令和元年度においても引き続きこの加配措置を行うことで,必要な教育環境の整備を支援しています。


  • ※4 平成23年4月に成立した「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律及び地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律」の附則においても,平成23年東北地方太平洋沖地震に係る教職員定数の特別措置について規定されています。

(3)アスリートや芸術家によるスポーツ・文化芸術活動

 被災地やスポーツ界などの要望を踏まえ,被災地の小中学校にアスリートを派遣する等の事業に対してスポーツ振興くじ(toto)による助成を行っています。
 また,子供たちが健やかに過ごし,安心できる環境の醸成を図るため,「文化芸術による子供の育成事業(芸術家の派遣事業)」の一環として,被災地へ芸術家などを派遣しています。平成30年度は,音楽・演劇・落語・伝統芸能・美術などの文化芸術活動を行う芸術家などを400の小・中学校などに派遣し,講話・実技披露・実技指導を実施しました。

(4)国立青少年教育施設を活用したリフレッシュキャンプ等の実施

 国立青少年教育振興機構は,平成23年の夏,被災地の子供たちなどを対象に,子供たちの心身の健全育成及びリフレッシュを図るため,外遊び,スポーツ及び自然体験活動などができる機会として,国立青少年教育施設を活用したリフレッシュキャンプを実施しました。
 その後,「リフレッシュキャンプ」の成果を踏まえ,民間企業からの協賛金などを得ながら,岩手県・宮城県の沿岸地域及び福島県全域の小・中学生,家族を対象として,岩手山,磐梯,花山,那須甲子の東北4教育施設で「東日本大震災対応事業」として継続実施しています。平成30年度は,磐梯,那須甲子の2教育施設で13回1,124人,23年7月から30年度までに334回実施し,延べ3万418人が参加しました。今後も継続して取組を実施する予定です。

第4節 震災後の社会を生き抜く力の養成

1 防災教育の充実

 東日本大震災においては,児童生徒等及び教職員の死者・行方不明者が600人を超えるなど甚大な被害が発生しました。東日本大震災以降も連続した大規模な地震の発生,記録的な大雨に伴う大規模水害など多くの自然災害が発生しています。
 文部科学省は,各学校が地震・津波や自然災害等から児童生徒等を守るための防災マニュアルを作成する際の参考となる「学校防災マニュアル(地震・津波)作成の手引き」(平成24年3月作成)及び「学校の危機管理マニュアル作成の手引」(平成30年2月作成)や「第2次学校安全の推進に関する計画」や学習指導要領の改訂を踏まえ,各学校において地域の実情に応じた防災教育をはじめとする安全教育を行う際の参考となるよう,学校安全資料『「生きる力」をはぐくむ学校での安全教育』を改訂(平成31年3月配布)し,学校防災の充実を図っています。
 また,平成30年度においても学校種・地域の特性に応じた地域全体での学校安全推進体制の構築を図るため,学校安全の組織的取組と外部専門家の活用を進めるとともに,各自治体内での国立・私立を含む学校間の連携を促進する取組を支援する事業や,教職員に対する研修への支援を実施しています。

2 学校での放射線等に関する教育

 学校教育において,児童生徒が放射線等に関する科学的な知識等を学び,それに基づいて自ら考え判断する力を身に付けることは重要です。現行の学習指導要領においては,例えば,中学校理科においては「放射線の性質と利用」を扱う内容を追加するなど,社会科や理科等の教科の中で,エネルギーや放射線等に関する内容を充実させました。また,平成29年3月に公示された新学習指導要領の中学校理科においては,放射線について科学的な理解が深まるよう第三学年で学習することに加え,第二学年においても,放射線に関する内容を扱うこととしています。また,30年3月に公示された新学習指導要領の高等学校理科の物理基礎においても,放射線に関する内容を充実しています。
 さらに,「災害等を乗り越えて次代の社会を形成することに向けた現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力を,教科等横断的な視点で育成していくこと」を小・中・高等学校総則に規定し,放射線の科学的な理解のほか,電力等の地域間の需給構造,放射線に関する身体への影響についての正しい知識などを体系的に指導するよう内容を充実しています。
 文部科学省は,学校における放射線等に関する教育の支援として,教職員向けの放射線に関するセミナーや児童生徒向けの放射線出前授業を実施しています。また,放射線に関する基礎知識や東京電力福島第一原子力発電所における原子力事故の被害状況,地域の復興再生に向けた取組等を掲載した放射線副読本を平成26年3月に全国の小・中・高等学校等に配布していますが,作成から4年半が経過し,当時から状況が変化していることから,内容や構成を見直しました。今回の改訂においては,主なポイントとして1.まず,放射線に関する科学的な知識を理解した上で,原発事故の状況や復興に向けた取組を学ぶという章立ての構成とすること,2.いじめは決して許されないことについて強く言及すること,3.復興が着実に前進している様子を紹介すること,などの内容を記載しています。30年10月に改訂した放射線副読本を全国の小・中・高等学校等に配布するとともに,文部科学省ウェブサイトにおいても掲載しています(※5)。令和元年度には全国の小・中・高等学校等の新入生へ改訂した放射線副読本を配布するとともに,引き続き全国の小・中・高等学校等の授業等において積極的な活用が図られるよう促すこととしています。


  • ※5 https://www.mext.go.jp/b_menu/shuppan/sonota/detail/1409740.htm

第5節 原子力発電所事故への対応

1 学校等における線量の低減等

 文部科学省は,東京電力福島第一原子力発電所において原子力事故が発生して以降,子供たちの安全・安心を確保するため,通知・事務連絡を発出して学校における対応方針を示すとともに,財政的支援や専門家の派遣などによって学校における除染を推進してきました。
 これらの取組によって,学校の校庭等の空間線量率については,避難地域以外の全校で毎時1マイクロシーベルト未満まで低下しています。政府としては,引き続き,「平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」に基づき,子供の生活環境(学校,公園等)を含めた地域全体における除染を進めています。

2 環境回復や廃止措置などの原子力災害を踏まえた研究開発・人材育成の取組

(1)環境回復に向けた取組

 東京電力福島第一原子力発電所の事故により放射性物質が放出され,環境が汚染されたため,文部科学省は,除染などの環境回復に向けた研究開発を推進しています。
 具体的には,日本原子力研究開発機構及び量子科学技術研究開発機構において,福島県など地方公共団体,国内外の大学・研究機関,民間企業などと連携・協力しながら除染の技術開発・評価・実証等を実施し,吸着材や天然鉱物などを用いた土壌・河川・プール水の除染技術を開発しました。また,日本原子力研究開発機構においては,汚染土壌などの除染により空間線量率がどのように低減するかを評価できるソフトウェアを開発し,一般に公表するなどの取組を行いました。
 また,平成27年には,環境の回復・創造に取り組むための調査研究,情報発信,教育等を行う総合的な拠点施設として,福島県に「福島県環境創造センター」が設置されました。
 環境創造センターでは,福島県,日本原子力研究開発機構,国立環境研究所が連携・協力し,環境の回復・創造のための取組を推進することとしています。同年10月には三み春はる町の本館が,同年11月には南相馬市の環境放射線センターがそれぞれ開所しました。日本原子力研究開発機構は環境創造センターに入居し,環境中の放射性セシウムの移動量の測定や将来予測などの環境動態研究を中心とした技術開発等を実施しています。今後も関係機関との連携の上,地域の方々の安全・安心につながる成果情報の発信などを含め,環境回復に向けた取組を実施することとしています。

(2)廃止措置に関する研究開発

 文部科学省は,東京電力福島第一原子力発電所の安全な廃止措置等を推進するため,平成26年6月に公表した「東京電力株式会社福島第一原子力発電所の廃止措置等研究開発の加速プラン」に基づき,国内外の英知を結集し,安全かつ確実に廃止措置等を実施するための研究開発と人材育成を加速することとしています。このため,27年度に,日本原子力研究開発機構に新たな組織として「廃炉国際共同研究センター」を設置しました。29年4月には,国内外の英知を集結する場として,福島県富岡町に同センターの「国際共同研究棟」が開所しました。同センターでは,東京電力福島第一原子力発電所の廃止措置等を円滑に進めるために必要となる基礎基盤研究や人材育成等を実施しています。具体的には,原子炉内部からの燃料デブリ(※6)取り出し,放射性廃棄物の処理・処分等に必要な研究開発や産学官が連携した人材育成等を実施しています。


  • ※6 燃料デブリ:溶融した原子炉燃料が,冷えて固まったもの。

(3)原子力災害を踏まえた原子力基礎基盤研究・人材育成の取組の推進

 原子力の基盤と安全を支えるとともに,国際的な原子力安全等への貢献のためには,幅広い原子力人材を育成することが必要です。このため,文部科学省は,国際原子力人材育成イニシアティブにおける原子力分野のシミュレーション技術(※7)を活用した教育システムの構築等の活動を通じて,原子力安全・危機管理に係る人材の育成を支援しています。さらに,中長期にわたる東京電力福島第一原子力発電所の廃止措置等に係る新たな知見の創出,人材の育成・確保に向けた取組を推進するため,平成27年度から「英知を結集した原子力科学技術・人材育成推進事業」を実施しています。30年度からは,本事業の運用体制を文部科学省の委託事業から日本原子力研究開発機構を対象とする補助金事業に移行し,廃炉国際共同研究センターを中核に大学等との連携を強化した体制を構築することにより,廃炉現場のニーズを一層踏まえた研究開発及び人材育成の取組を推進していきます。


  • ※7 シミュレーション技術:ある特定のシステムの挙動を,それとほぼ同じ法則に支配される他のシステムやコンピュータなどによって模擬する技術のこと。原子力分野では,この技術を活用して,通常運転時,設計基準事故時,異常な過渡変化時における挙動等を模擬・検証することにより,施設の安全性向上に取り組んでいる。

3 原子力損害賠償への対応

 東京電力福島第一原子力発電所及び第二原子力発電所の事故発生以降,多くの住民が,避難生活や生産及び営業を含めた事業活動の断念などを余儀なくされており,被害者が一日でも早く安心で安全な生活を取り戻せるよう,迅速・公平・適正な賠償が必要です。
 文部科学省は,「原子力損害の賠償に関する法律」に基づいて設置した原子力損害賠償紛争審査会において,賠償すべき損害として一定の類型化が可能な損害項目やその範囲等を示した指針を,地元の意見も踏まえつつ順次策定するとともに,必要に応じて見直しを行ってきました。また,「原子力損害賠償紛争解決センター」では,業務運用の改善や体制整備を図りつつ,和解仲介手続を実施しています。
 さらに,政府として,東京電力ホールディングスの迅速かつ適切な損害賠償の実施や,経営の合理化等に関する「新々・総合特別事業計画」を平成29年5月に認定(その後,数度の変更認定)し,原子力損害賠償・廃炉等支援機構を通じて,東京電力ホールディングスによる円滑な賠償の支援を行っています。
 また,原子力損害賠償制度の見直しについて,内閣府原子力委員会の原子力損害賠償制度専門部会(平成27年5月設置)において検討が重ねられ,30年10月に「原子力損害賠償制度の見直しについて」が取りまとめられました。同専門部会における検討を踏まえ,1.損害賠償実施方針の作成・公表の義務付け,2.仮払資金の貸付制度の創設,3.和解仲介手続の利用に係る時効中断の特例,4.原子力損害賠償補償契約の新規締結等に係る適用期限の延長等の改正を行う「原子力損害の賠償に関する法律の一部を改正する法律」(平成30年12月12日法律第90号)が成立しました。文部科学省においては,令和2年1月1日の改正法の本格施行に向けて,必要な政省令の整備を着実に進めているところです。

お問合せ先

総合教育政策局政策課

-- 登録:令和元年11月 --