第1章 教育再生の着実な推進

総論

 現在,政府においては,「教育再生」が重要課題とされており,内閣官房に設置された教育再生実行会議では,これまでに十一次にわたる提言が出されました。また,文部科学大臣の諮問機関である中央教育審議会では,教育の振興に関する重要事項が審議され,答申等が行われています。文部科学省はこれらの提言や議論を踏まえるとともに,「教育基本法」の理念の下,「教育振興基本計画」に基づき,教育再生のための施策を推進しています。
 本章では,まず第1節で,教育再生をめぐる議論の現状について,中央教育審議会と教育再生実行会議の検討状況等を紹介します。続いて,第2節では,平成30年6月に閣議決定された第3期教育振興基本計画について紹介します。最後に,第3節では教育政策に関する総合的な国立の研究機関として,国立教育政策研究所の活動について紹介します。

第1節 教育政策をめぐる動き

1 中央教育審議会

(1)中央教育審議会について

 中央教育審議会は,文部科学大臣の諮問に応じ,教育の振興,生涯学習の推進などに関する重要事項を調査審議する機関であり,教育改革の推進に当たって重要な役割を果たしています(図表2-1-1)。

 図表2-1-1 第10期中央教育審議会機構図

(2)最近の主な答申

1.第3期教育振興基本計画について

 平成28年4月の諮問を受け,教育振興基本計画部会において「第3期教育振興基本計画」の策定について審議が行われ,30年3月8日に「第3期教育振興基本計画について(答申)」が取りまとめられました。
 答申の第1部では,「人生100年時代」「超スマート社会(Society 5.0)(※1)」の到来といった,2030年以降の社会を展望した教育政策の重点事項,今後の教育政策の遂行に当たって特に留意すべき視点として,客観的な根拠を重視した教育政策の推進,教育投資の在り方,新時代の到来を見据えた次世代の教育の創造について提言されています。
 また,第2部では,第1部で示された今後の教育政策の方向性を踏まえ,平成30年度から令和4年度までの5年間における1.教育政策の目標,2.目標の進捗状況を把握するための指標,3.目標を実現するために必要となる施策群について,目標と実施手段を体系的に示す,いわゆるロジックモデルを活用しつつ整理されており,21の今後5年間の教育政策の目標と57の指標,必要となる施策群が提言されました(※2)。その後,政府内での調整を経て,平成30年6月15日に第3期の「教育振興基本計画」が閣議決定されました。

2.2040年に向けた高等教育のグランドデザインについて

 平成29年3月6日の中央教育審議会総会において,「我が国の高等教育に関する将来構想について」諮問が行われ,「第4次産業革命」の進展や,本格的な人口減少社会の到来など経済社会の大きな変化の中で,高等教育機関が求められる役割を真に果たすことができるよう,おおむね2040年頃の社会を見据えて,これからの時代の高等教育の将来構想について,総合的な検討を要請しました。本諮問を受け,中央教育審議会大学分科会将来構想部会を中心に審議が進められ,平成30年11月には,「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)」が取りまとめられました。その答申においてSociety 5.0の到来や18歳人口の減少等の社会の変化を踏まえ,1.専門に関する知識のみではなく,文理横断型の教育への転換とともに,教育の質の保証を進め,「何を学び,身に付けることができたのか」という学修の成果の可視化の促進,2.地域における質の高い高等教育機会の確保のための各大学間の「強み」を活(い)かした連携・統合の在り方や,18歳人口の減少を踏まえた高等教育機関全体の規模などについて提言がなされました。

3.人口減少時代の新しい地域づくりに向けた社会教育の振興方策について

 平成30年3月の諮問を受け,生涯学習分科会を中心に,今後の地域における社会教育の在り方や今後の社会教育施設の在り方について審議が行われ,30年12月21日に「人口減少時代の新しい地域づくりに向けた社会教育の振興方策について(答申)」が取りまとめられました。
 答申では,人口減少やコミュニティの衰退を受けて,住民参画による地域づくりがこれまで以上に求められる中,「『社会教育』を基盤とした人づくり・つながりづくり・地域づくり」が一層重要であるとされています。その上で,新たな社会教育の方向性として「開かれ,つながる社会教育」が提示され,学びの場への地域住民の主体的な参画を得ることや,首長部局,学校,NPO,企業等の多様な主体がこれまで以上に連携・協働すること,これらを実際に主導するため様々な取組を企画・実施する専門性ある人材の活躍を促進することが重要とされています。
 また,社会教育施設については,従来の役割に加え,住民主体の地域づくり,持続可能な共生社会の構築に向けた取組等の拠点としての役割が求められていくとされ,現在,教育委員会が所管することとされている公立社会教育施設を,各地方公共団体の判断により,地方公共団体の長が所管できることとする特例について,社会教育の適切な実施の確保に関する制度的担保が行われることを条件に,可とすべきとされました。

4.新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について

 平成29年6月の諮問を受け,初等中等教育分科会の下に設置された学校における働き方改革特別部会において審議が行われ,31年1月25日に「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革について(答申)」が取りまとめられました。
 答申では,教師のこれまでの働き方を見直し,教師が自らの授業を磨くとともに,その人間性や創造性を高め,子供たちに対して効果的な教育活動を行うことができるようになるという,学校における働き方改革の目的を実現するため,

  1. 勤務時間管理の徹底と勤務時間・健康管理を意識した働き方改革の促進
  2. 学校及び教師が担う業務の明確化・適正化
  3. 学校の組織運営体制の在り方
  4. 教師の勤務の在り方を踏まえた勤務時間制度の改革
  5. 学校における働き方改革の実現に向けた環境整備

 等の総合的な方策について提言されました。


  • ※1 1.狩猟社会,2.農耕社会,3.工業社会,4.情報社会に続く,人類史上5番目の新しい社会。
  • ※2 参照:第1章第2節

(3)第10期中央教育審議会

 平成31年2月15日,第10期中央教育審議会委員が任命され,新しい審議体制が発足しています。第10期においては,以下の事項等について審議を行っています。

1.新しい時代の初等中等教育の在り方について

 平成31年4月17日に開催された中央教育審議会総会において,「新しい時代の初等中等教育の在り方について」諮問を行いました。本諮問は,初等中等教育における様々な課題を克服し,新しい時代を見据えて教育の質を高めるために総合的な検討をお願いするというものです。
 諮問の内容は大きく4点あり,

  1. 新時代に対応した義務教育の在り方,
  2. 新時代に対応した高等学校教育の在り方,
  3. 増加する外国人児童生徒等への教育の在り方,
  4. これからの時代に応じた教師の在り方や教育環境の整備等です。

 Society 5.0時代の到来といった急激な社会的変化が進む中,子供たちが予測不可能な未来社会を自立的に生き,社会の形成に参画するための資質・能力を一層確実に育成することができる教育の実現に向け,今後,議論を進めていきます。

2 教育再生実行会議

(1)教育再生実行会議の第十次提言までの動き

 教育再生実行会議は,21世紀の日本にふさわしい教育体制の構築に向けて教育改革を推進するため,平成25年1月から内閣総理大臣が開催しているものです。同会議は,29年6月までに十次にわたる提言を行いました。これらの提言を受け,既にいじめ防止,教育委員会改革,大学ガバナンス改革及び教育研究力の強化,義務教育学校の制度化,教師の養成・採用・研修の一体改革,専門職大学及び専門職短期大学の制度化等について法改正等がなされるなど,様々な施策が実施に移されました。このように,教育再生実行会議は,教育再生の牽引力として大きな役割を果たしています(図表2-1-2)。
 また,平成30年5月には,これまでの提言のフォローアップを行った「これまでの提言の実施状況について(報告)」を取りまとめました。この報告では,これまでの提言事項の中で,現在の状況を踏まえてさらに取組を進めることが期待される7項目の重要事項(※3)について,会議での審議に加えて,小中学校や大学への実地視察を行うことにより,その取組状況をフォローアップしました。

 図表2-1-2 教育再生実行会議の提言と取組
 図表2-1-2 教育再生実行会議の提言と取組2


  • ※3 重要事項として,1.いじめ問題への対応や教育委員会制度改革,2.学校指導体制の構築や教師の資質向上,3.高校と大学の接続の改革,4.大学の教育研究力の強化,5.新たな時代を見据えた教育の在り方,6.学校・家庭・地域の教育力の向上,7.教育投資の充実と教育費の負担軽減の7つの項目を選定。

(2)教育再生実行会議第十一次提言「技術の進展に応じた教育の革新,新時代に対応した高等学校改革について」

 我が国では,人口減少や少子・高齢化が急速に進む中で,地方では人口減少や地域経済の縮小が進んでおり,地方の活力を取り戻すためにも,地方創生に国を挙げて取り組むことが必要となっています。また,人生100年時代においては,一人一人が「学びは終わりのないプロセス」であることを意識し,生涯を通じて社会で活躍するために,能動的に学び続けることが重要となります。さらに,AIやIoTなどの技術の急速な発展に伴いSociety 5.0が到来しつつある中,こうした技術の開発に関する国際的な競争は激しさを増しています。
 今後更に加速するであろうこうした様々な社会の変化に対し,子供達が受け身になることなく,その中から積極的にチャンスを見つけ,それを活用し,活躍していくことができるよう,教育を通じて必要な資質・能力を育成していくことが大切であり,新たな時代を見据えた教育再生を大胆に進めることが必要です。
 教育再生実行会議では,このような問題意識の下,「技術の進展に応じた教育の革新」と「新時代に対応した高等学校改革」の2つをテーマとして,平成30年8月よりワーキング・グループを設けて検討を重ね,令和元年5月,第十一次提言「技術の進展に応じた教育の革新,新時代に対応した高等学校改革について」として取りまとめました。
 本提言では,「技術の進展に応じた教育の革新」について,

  • 基礎的読解力や数学的思考力をはじめ,データサイエンス等に関する教育等も含めた基盤的な学力や情報活用能力の育成
  • 学習指導要領の一部改訂など,教育課程の不断の見直しを進め,中長期的な観点から教科書の弾力的見直しについての検討
  • 社会の変化や技術の急速な進展を踏まえた養成・採用・研修の全体を通じた教師の資質・能力の向上,外部人材の積極的な活用
  • 全ての小・中・高等学校等で遠隔教育を活用できるよう,大学・民間企業等と協働したプラットフォームの構築や,特例校制度による指導法研究
  • スタディ・ログ等を活用した個別最適化された学びの実現に向けた実証研究の推進
  • 全ての大学生がAI・数理・データサイエンスの基礎的な素養を身に付けられるよう標準カリキュラムの作成
  • 高等専門学校において,大学と連携した高度な専門教育によるハイブリッド型の連携教育プログラムの導入の促進
  • 障害のある児童生徒への指導の効果を高めるための支援機器や教材の効果的な活用の促進
  • 地方財政措置(単年度1,805億円)が講じられている学校のICT環境整備について,地方公共団体間で差が生じている要因等の分析と,必要な対応の実施
  • 競争的な環境で安価にICT機器等を調達できるよう,価格の相場観などモデルの提示やガイドブックの作成
  • 高齢者や障害者,外国人等の図書館利用が容易となるよう,先端技術を活用した点字・視聴覚資料等の活用事例について調査などを盛り込んでいます。

 また,「新時代に対応した高等学校改革」については,

  • 全ての高等学校における,生徒受入れに関する方針,教育課程編成・実施に関する方針,修了認定に関する方針の策定
  • 普通科の各学校が,教育理念に基づき選択可能な学習の方向性に基づいた類型の枠組みの提示
  • 文系と理系科目の両方をバランスよく学ぶ仕組みの構築
  • 標準的な授業時間の在り方を含む教育課程の在り方の見直し,教科書の弾力的見直しについての検討
  • 校内研修の充実,ベテランから若手教師への知識技能の伝承,教師の資質の向上に関する指標について学校種ごとの記述
  • 高等学校と市町村,産業界,大学等が協働した地域課題の解決等を通じた学びの実現,高等学校と地域をつなぐコーディネーターの役割やその在り方の検討
  • 文理両方を学ぶ人材の育成の観点から,文系・理系に偏った試験からの脱却を目指し,大学入学者選抜の在り方の見直し
  • 不登校などの多様な課題を抱える生徒に対応するためのスクールカウンセラーなどの専門人材の配置状況の把握と,適正な配置・活用に向けた方策の検討,SNSを活用した教育相談体制の充実
  • 離島・中山間地域等の小規模な高等学校において,ICTの導入や高等教育機関との連携強化による学習の多様性や質の高度化

 などを盛り込んでいます(図表2-1-3)。
 本提言に盛り込まれた諸施策については,今後,文部科学省をはじめとした関係省庁が協力して,制度改正等に向けた検討を進めていくこととしています。

 図表2-1-3 教育再生実行会議第十一次提言概要
 図表2-1-3 教育再生実行会議第十一次提言概要2

3 「Society 5.0に向けた人材育成~社会が変わる,学びが変わる~」

 人工知能(AI),ビッグデータ,InternetofThings(IoT),ロボティクス等の先端技術が高度化してあらゆる産業や社会生活に取り入れられるなど,社会の在り方そのものが劇的に変わろうとしています。そのようなSociety 5.0という新たな時代を迎えるにあたり,広く国民にはどのような能力が必要か,また,社会を創造し先導するためにどのような人材が必要か,さらには,そのために我が国の教育政策として今後講ずべき取組は何かを検討するため,平成29年11月から議論を重ねてきました。議論にあたっては,幅広い分野の有識者の参画を得たほか,文部科学省の多くの若手職員も参加し,自由闊達な議論を行い,30年6月5日,「Society 5.0に向けた人材育成~社会が変わる,学びが変わる~」を公表しました。
 議論のとりまとめにおいては,まず,Society 5.0の社会像を描いた上で,現実世界を理解し意味づけできる等の「人間の強み」を発揮し,AI等を使いこなしていくために,

  • 文章や情報を正確に読み解き対話する力
  • 科学的に思考・吟味し活用する力
  • 価値を見つけ生み出す感性と力,好奇心・探求力

 が共通して求められることを指摘しました。
 そして,このような力を育んでいくためにも,

  • これまでの一斉一律授業のみならず,個人の進度や能力等に応じた学びの場となること
  • 同一学年集団の学習に加え,異年齢・異学年集団での協働学習が拡大していくこと

 など,「学びの在り方の変革」を打ち出しています。
 その上で,取り組むべき政策の方向性として,

  1. 公正に個別最適化された学びの実現
  2. 基盤的な学力や情報活用能力の習得
  3. 大学等における文理分断からの脱却

 といった三つの方向性を掲げました。
 これらの方向性に関して,新時代の学びにおける先端技術導入実証研究事業や大学の数理及びデータサイエンス教育の全国展開など,速やかに取り組めるものについては令和元年度予算に計上しているところであり,さらに具体的施策を進めてまいります。

第2節 教育振興基本計画に基づく教育施策の推進

1 はじめに

 平成18年に「教育基本法」が改正され,科学技術の進歩,情報化,国際化,少子高齢化などの今日的な課題を踏まえ,教育の基本理念が示されました。この理念の実現に向けて,「教育基本法」の規定に基づき,政府の教育に関する総合的な計画として策定されるのが「教育振興基本計画」です。20年に政府は初めての「教育振興基本計画」を策定し,その後,様々な社会情勢の変化や,東日本大震災の発生などを踏まえ,25年6月に「第2期教育振興基本計画」を策定し,「教育基本法」の理念の実現に向けた諸施策を総合的・計画的に実施してきました。

2 第3期教育振興基本計画の策定について

 平成28年4月に,30年度から令和4年度を対象年度とする「第3期教育振興基本計画」の策定について中央教育審議会に諮問が行われました。諮問の内容は大きく2点あり,1点目は「2030年以降の社会の変化を見据えた,教育政策の在り方について」,2点目は「各種教育施策について,その効果の専門的・多角的な分析,検証に基づき,より効果的・効率的な教育施策の立案につなげるための方策について」です。
 諮問に基づいて,中央教育審議会において審議が重ねられ,平成30年3月に「第3期教育振興基本計画について(答申)」が取りまとめられました。「第2期教育振興基本計画」の進捗状況の客観的な点検が行われ,点検の結果は,より効果的・効率的な施策の実施に生かされるとともに,これまでの取組の成果,取り組むべき課題として「第3期教育振興基本計画について(答申)」に反映されています。
 その後,政府内での調整を経て,平成30年6月15日に第3期の「教育振興基本計画」(以下,「第3期計画」という。)が閣議決定されました。

(1)我が国における今後の教育政策の方向性

 第3期計画の第1部では,「教育基本法」に規定する教育の目的や目標を教育の普遍的な使命として掲げるとともに,教育をめぐる現状や課題として,これまでの取組の成果や2030年以降の変化等を見据え,取り組むべき課題が述べられています。その上で,「第2期教育振興基本計画」の「自立」「協働」「創造」の三つの方向性を実現するための生涯学習社会の構築を目指すという理念を継承しつつ,「人生100年時代」,「超スマート社会(Society 5.0)」の到来に向け,生涯にわたる一人一人の「可能性」と「チャンス」を最大化することを今後の教育政策の中心に据えて取り組むとされています。
 また,今後の教育政策に関する基本的な方針として,

  1. 夢と志を持ち,可能性に挑戦するために必要となる力を育成する
  2. 社会の持続的な発展を牽引するための多様な力を育成する
  3. 生涯学び,活躍できる環境を整える
  4. 誰もが社会の担い手となるための学びのセーフティネットを構築する
  5. 教育政策推進のための基盤を整備する

 の五つの方針が打ち出されています。
 さらに,今後の教育政策の遂行に当たって特に留意すべき視点として,客観的な根拠を重視した教育政策の推進,教育投資の在り方,新時代の到来を見据えた次世代の教育の創造が挙げられています。客観的な根拠を重視した教育政策の推進では,教育政策においてPDCAサイクルを確立し,十分に機能させることが必要であること,客観的な根拠に基づく政策立案(EBPM:Evidence-BasedPolicyMaking)を推進する体制を文部科学省に構築すること,多様な分野の研究者との連携強化,データの一元化,提供体制等の改革を推進することなどが述べられています。また,教育投資の在り方では,「新しい経済政策パッケージ」(平成29年12月8日閣議決定)及び「経済財政運営と改革の基本方針2018」(平成30年6月15日閣議決定)に基づく取組の着実な実施により教育費負担の軽減の実現を大きく進めることや,各教育段階における教育の質の向上のための教育投資を確保すること,経済協力開発機構(OECD)諸国など諸外国における公財政支出など教育投資の状況を参考とし,必要な予算を財源措置し,真に必要な教育投資を確保していくことなどが述べられています。さらに,新時代の到来を見据えた次世代の教育の創造に向けて,研究開発や先導的な取組を推進することや,地域課題の解決に向けた社会教育システムを構築することなどについて提言されています(図表2-1-4)。

 図表2-1-4 第3期教育振興基本計画概要

(2)今後5年間の教育政策の目標と施策群

 第3期計画の第2部では,第1部で示された五つの基本的な方針に沿って,平成30年度から令和4年度までの5年間における1.教育政策の目標,2.目標の進捗状況を把握するための指標,3.目標を実現するために必要となる施策群が示されています(図表2-1-5)。
 また,地方公共団体において,各地域の実情を踏まえ,特色のある目標や施策を設定し,取組を進めていくことの重要性についても言及されています。
 文部科学省としては,第3期計画を踏まえ,生涯を通じた一人一人の「可能性」と「チャンス」の最大化に向け,今後の教育政策の推進に努めてまいります。

 図表2-1-5 今後5年間の教育政策の目標と施策群

第3節 教育施策の総合的推進のための調査研究

 国立教育政策研究所は,教育政策に関する総合的な国立の研究機関として,初等中等教育から高等教育,生涯学習,文教施設までの教育行政全般にわたって,将来の政策形成のための先行的調査や既存の施策の検証など,教育改革の裏付けとなる基礎的な調査研究を進めています。また,国際的な共同研究に我が国の代表として参画するほか,児童生徒の学力の全国的な実態把握,教育委員会や学校と連携した調査研究,教育課程や生徒指導・進路指導に関する国内の教育関係者への情報提供など,幅広い活動を展開しています。

1 政策課題に対応した調査研究

 重要な課題に対応し,外部の研究者や行政担当者などが幅広く参画するプロジェクト研究を行っています。平成30年度は,就学前を起点とする縦断調査の実施により,就学前の教育・保育施設の環境,保護者の養育態度や親子関係等がその後の子供の発達に与える影響を検証し,子育て支援策や学校教育制度の改善に役立つ視点を提供することを目指す「教育の効果に関する調査研究」や,高等教育進学に伴う学生の地域間移動を機関単位で分析し,地域ごとの今後の進学需要を予測すること等を目的とする「18歳人口減少期の高等教育進学需要に関する研究」などの調査研究を行いました。

2 専門的事項に関する調査研究及び教育活動支援

 平成30年度は,児童生徒の学力の実態などを把握することを目的とした「全国学力・学習状況調査」(※4)の教科に関する調査問題を作成しました。そして,その調査結果の分析を行い,教育委員会,学校等の指導の改善・充実に資するよう,「解説資料」,「報告書」,「授業アイディア例」(※5)を作成しました。
 また,教育委員会等を対象とした説明会の開催,教育委員会が主催する研修会等への学力調査官等の派遣などにより,調査結果を踏まえた指導・助言を行いました。このほか,令和元年度の調査における中学校英語の円滑な実施に向けて,予備調査を実施しました。
 また,研究指定校事業において,効果的な教育課程の編成や指導方法の改善・充実に関する実践的な研究を推進し,研究協議会等においてそれらの成果の普及を図っています。
 さらに,いじめや不登校,キャリア教育,幼児教育,社会教育,学校施設に関する調査研究を踏まえ,各種の指導資料や参考資料を作成し配布するほか,各種の研修事業等を実施しています。


  • ※4 参照:第2部第4章第1節2
  • ※5 参照:
    • http://www.nier.go.jp/18chousa/18chousa.htm
    • http://www.nier.go.jp/18chousakekkahoukoku/index.html
    • http://www.nier.go.jp/jugyourei/h30/index.htm

3 国際共同研究等

 国立教育政策研究所は,経済協力開発機構(OECD)が実施する「生徒の学習到達度調査(PISA:ピザ)」,「国際教員指導環境調査(TALIS:タリス)」,「国際幼児教育・保育従事者調査」のほか,国際教育到達度評価学会(IEA:International Association for the Evaluation of Educational Achievement)が実施する「国際数学・理科教育動向調査(TIMSS:ティムズ)」などの国際的な比較研究に日本代表機関として参画し,これらの問題や質問紙の作成,調査の実施,結果の分析などを担当しています。
 2018(平成30)年度は,2018年6月から8月にかけて,全国の高等学校約200校(学科)を対象として,PISA2018年調査を,また,2019(平成31)年2月から3月にかけて,全国の小学校148校と中学校142校を対象として,TIMSS2019年調査を実施しました。
 PISA調査は,義務教育修了段階の15歳児が持っている知識や技能を,実生活の様々な場面で直面する課題にどの程度活用できるかを評価することを目的としており,読解リテラシー(読解力),数学的リテラシー,科学的リテラシーの3主要分野について2000(平成12)年以降,3年ごとに実施されています。本調査の結果は,2019(令和元)年12月に公表される予定です。
 また,TIMSS調査は,児童生徒の算数・数学及び理科の学力の推移を明らかにすることを目的としており,1964(昭和39)年度実施の第1回国際数学教育調査から続いているものです。今回の調査では,小学校第4学年と中学校第2学年の児童生徒,教員,学校,保護者を対象として,教科内容の調査と質問紙調査を実施しました。本調査の結果は,2020(令和2)年12月頃に公表される予定です。

4 研究活動等の成果の公開

 国立教育政策研究所の研究・事業活動に関する報告書などは,国立教育政策研究所のウェブサイト(※6)や同研究所の教育図書館などで広く公開しています。また,シンポジウムの開催や全国の教育研究所で構成される全国教育研究所連盟の大会などを通じて,教育関係者に対して幅広く研究活動等の成果の普及に努めています。
 平成30年度は,各学校でカリキュラム・マネジメントを推進するための方策や課題について,実践研究を踏まえて検討し,「主体的・対話的で深い学び」の視点からの授業改善にいかにつなげるかを考えるシンポジウム「資質・能力の育成に向けたカリキュラム・マネジメントの推進―授業づくりの視点から―」を開催しました。
 また,新しい時代の学校運営の姿・教師の役割と,それを支える「働く場所」としての学校施設の在り方について考える機会とするため,「学びのイノベーションに向けた創造的で働きやすい学校空間―シンガポールと日本の事例から―」をテーマとして国際シンポジウムを開催しました。

 教育研究公開シンポジウム「資質・能力の育成に向けたカリキュラム・マネジメントの推進―授業づくりの視点から―」
 教育研究公開シンポジウム「資質・能力の育成に向けたカリキュラム・マネジメントの推進―授業づくりの視点から―」


  • ※6 参照:http://www.nier.go.jp/

5 デジタルアーカイブの公開

 教育図書館では,明治150年記念事業として,平成30年8月に「明治期教科書デジタルアーカイブ」(※7)と「貴重資料デジタルコレクション」(※8)を公開しました。「明治期教科書デジタルアーカイブ」では,教育図書館で所蔵する教科書のうち,平成30年度は,明治期の教科書・教授書約11,500冊の画像を一般公開しました。教科書・教授書は,キーワードだけでなく,分類(教科)からも検索できるようになっています。
 「貴重資料デジタルコレクション」では,教育図書館で所蔵する貴重資料のうち,78冊を全文カラーで公開しています。資料は,「往来物・和算書」「教育制度」「教授法」「教科書・学習書」「教育用絵画」「教育双六」「掛図」「その他」の8カテゴリに分類されています。
 それぞれのデジタルアーカイブで提供している画像は,閲覧だけでなくプリントアウトとダウンロードができるようになっています。

 明治期教科書デジタルアーカイブ
 明治期教科書デジタルアーカイブ

 貴重資料デジタルコレクション
 貴重資料デジタルコレクション


  • ※7 参照: http://www.nier.go.jp/library/textbooks/
  • ※8 参照: http://www.nier.go.jp/library/rarebooks/

Column No.11 明治の歩みをつなぐ,伝える

 平成30年(2018年)は,明治元年(1868年)から起算して満150年に当たります。明治以降,近代国民国家への第一歩を踏み出した日本は,明治期において多岐にわたる近代化への取組を行い,国の基本的な形を築き上げていきました。
 内閣制度の導入,大日本帝国憲法の制定,立憲政治・議会政治の導入,鉄道の開業や郵便制度の施行など技術革新と産業化の推進,義務教育の導入や女子師範学校の設立といった教育の充実を始めとして,多くの取組が進められました。
 また,若者や女性等が海外に留学して知識を吸収し,外国人から学んだ知識を活(い)かしつつ,単なる西洋の真似ではない,日本の良さや伝統を活(い)かした技術や文化も生み出されました。
 政府では,「明治150年」を迎える平成30年(2018年)を節目として,改めて明治期を振り返り,将来につなげていくために,地方公共団体や民間企業等とも一緒になって様々な取組をしています。(文部科学省における取組)

明治150年記念「教育に関するシンポジウム」の開催

 我が国の近代化を支えた明治期以降の教育に関して,これまでの歴史的変遷,成果や課題等を振り返りつつ,未来の教育の在り方を展望するシンポジウムを開催した。第1部は高等教育,第2部は初等中等教育をテーマに,学識経験者,初等中等教育・高等教育関係者,首長等を交え,議論が行われた。

 明治150年記念「教育に関するシンポジウム」
 明治150年記念「教育に関するシンポジウム」

大学図書館が所蔵する明治期コレクション企画展示の実施

 明治期の技術や文化に関する遺産に触れる機会の充実のため,大学図書館において所蔵する明治期コレクションの企画展を開催。

 明治150年関連企画展「時を奏でる雑誌たち」(名古屋女子大学越原記念館)
 明治150年関連企画展「時を奏でる雑誌たち」(名古屋女子大学越原記念館)

国立女性教育会館による「明治150年」企画展の実施

 明治時代に出版された女性教育に関する雑誌・教科書等の資料や女性教育情報センターが所蔵する資料,明治期に関連するものについて展示を実施。

 ミニ展示「明治時代の女子教育」
 ミニ展示「明治時代の女子教育」

東京国立博物館による「近代の美術」に関する展示の実施

 明治時代,パリなどで開催された万国博覧会に出品された作品や,帝室技芸員(当時,国が特に任命した美術・工芸作家)の優れた技があらわれた作品を中心に展示。

 明治維新以来の近代美術の変遷
 明治維新以来の近代美術の変遷

国立美術館における展示の実施

 東京国立美術館工芸館では,鋳金家・鈴木長吉をはじめ,高い技術力と表現力を兼ね備えた名工たちの明治の精神を今に伝える作品を紹介する「名工の明治」を開催。また,京都国立近代美術館では,“超絶技巧”と評される工芸作品をはじめ,明治の美術作品を紹介する「明治150年展明治の日本画と工芸」を開催。

 鈴木長吉《十二の鷹》
 鈴木長吉《十二の鷹》

 並河靖之《藤図花瓶》
 並河靖之《藤図花瓶》

お問合せ先

総合教育政策局政策課

-- 登録:令和元年11月 --