我が国はその自然的条件から,地震,津波,暴風,竜巻,豪雨,火山噴火等,多種の自然災害が発生しやすい特性を有しています。
特に,近年では,時間雨量50mmを超える雨が頻発するなど,雨の降り方が,局地化・集中化・激甚化しております。また,大規模な地震も頻繁に発生しており,特に,甚大な人的・物的被害が予想される南海トラフ地震及び首都直下地震については,今後30年以内の地震発生確率が,南海トラフ地震は70%~80%,首都直下地震は70%程度と非常に高い確率で予想されています。
文部科学省においては,平成30年度に地震,豪雨,猛暑等,多くの災害や異常気象に見舞われたことから,学校施設等の復旧や被災した児童生徒等への支援,ブロック塀等の安全対策,空調設置の推進に取り組むとともに,今後の激甚化する気象災害,切迫する巨大地震に対応するため,国土強靱化,防災・減災対策の観点からの学校施設等の整備や防災教育等の充実,文化財の防災対策,防災に関する研究開発を推進しています。
平成30年6月18日,最大震度6弱の大阪府北部を震源とする地震が発生し,通勤・通学時間帯に多くの鉄道が運休し,大きな混乱が生じました。また,6月28日から7月8日にかけて,西日本から東海地方を中心に記録的な大雨となった平成30年7月豪雨では,死者数が200名を超える被害が生じました。さらに,相次いで台風が上陸し,台風第21号による関西国際空港の浸水・停電など,全国各地に被害がもたらされました。9月6日には最大震度7の北海道胆振(いぶり)東部地震が発生し,北海道全域に及ぶ大規模停電(ブラックアウト)が生じました。
学校関係では,大阪府北部を震源とする地震により,学校のブロック塀が倒壊し,登校中の女子児童が死亡するという大変痛ましい事故が発生しました。平成30年7月豪雨においては,児童生徒等に死傷者が発生したほか,大規模な浸水被害が発生し,学校施設の多くが避難所となるなど,速やかな学校再開が困難な状況となり,多数の学校が夏季休業の前倒しを行いました。また,北海道胆振(いぶり)東部地震においても,自宅で土砂崩れ等に巻き込まれ,生徒等に死傷者が発生したほか,地盤沈下などにより校舎が使用できない学校が発生するなどの被害が発生しました。さらに,相次ぐ台風により,全国各地で多くの学校施設等の屋根や窓ガラスに損傷が発生するなどの被害が発生しました。
また,7月中旬以降,北・東・西日本では気温がかなり高くなり,東日本の月平均気温が7月として統計開始以来第1位となるなど,記録的な高温に見舞われ,男子児童が校外学習後に教室で意識不明となり,死亡するという大変痛ましい事故が発生しました。
平成30年7月豪雨で土砂流入した体育館・昇降口
北海道胆振東部地震で生じた地割れ・窓枠のはずれ
文部科学省では,被災した学校が円滑に教育活動を再開・実施できるよう,「公立学校施設災害復旧費国庫負担法」や「激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律」等に基づいて学校施設等の速やかな復旧のために財政支援を行っており,平成30年度に発生した災害で被害を受けた学校施設等については,平成30年度第1次及び第2次補正予算に必要な経費を計上するなど,被災地からの要望や具体的な被害状況を踏まえ,支援を行っています。
公立学校施設については,被災した施設の復旧のほか,早期の復旧が困難な学校については,仮設校舎の建設等に対して財政支援を行っております。平成30年度は,文部科学省職
員による現地調査を不要とする範囲の拡大や事務手続の簡素化を行い被災自治体の負担軽減を図りました。31年3月末時点で,国からの支援を得て復旧する予定の1,107事業のうち,750事業が完了しました。
また,国立大学等施設についても,施設の復旧等に対して国庫補助を行い,平成31年3月末時点で,国からの支援を得て復旧する予定の97事業のうち,63事業が完了しました。
さらに,私立学校施設についても,平成30年7月豪雨や北海道胆振(いぶり)東部地震等が激甚災害(※1)に指定されたことにより,施設の復旧等に対して国庫補助を行っており,30年度は,公立学校と同様に国庫補助事務手続の簡素化を行いました。31年3月末時点で,国からの支援を得て復旧する予定の81事業のうち,48事業が完了しました。
平成30年7月豪雨や北海道胆振(いぶり)東部地震において,文部科学省は,被災した児童生徒等に対する学習支援や心のケアのため,教員定数の加配措置や,スクールカウンセラー,スクール・サポート・スタッフの追加配置等を行いました。
また,就学援助や高等学校等就学支援金等の支給について柔軟な対応を行うよう各都道府県教育委員会等に対して依頼するとともに,被災した児童生徒等に対する就学支援等について国庫補助の対象として追加しました。さらに,大学等授業料減免等の支援のため,平成30年度第1次及び第2次補正予算に必要な経費を計上しました。日本学生支援機構は,被災した学生等が経済的理由により就学を断念することがないよう,奨学金の緊急的な貸与や支援金の給付を行いました。
平成30年6月18日に発生した大阪府北部を震源とする地震では,学校のブロック塀が倒壊し,登校中の女子児童が死亡するという大変痛ましい事故が発生しました。当該事故を受けて,文部科学省では,6月19日に全国の学校設置者に対して,ブロック塀等の安全点検等の要請を行うとともに,その進捗状況を調査し,8月10日に結果を取りまとめました(※2)。
この調査により,「外観に基づく点検で安全性に問題があるブロック塀等を有する学校」が,全国の学校(5万1,082校)の約4分の1に当たる1万2,652校にのぼることが判明しました。
この結果を受け,文部科学省では,各学校設置者に対して,安全点検や児童生徒等への注意喚起を行う等の応急対策を実施するとともに,安全性に問題があると判明したブロック塀等については,速やかに改善を図るよう通知しました。さらに,調査結果を踏まえ,平成30年度第1次補正予算において,新たにブロック塀・冷房設備対応臨時特例交付金を創設するなど,各学校設置者が速やかにブロック塀等の安全対策を実施するために必要な予算として232億円を措置し,支援しました。
文部科学省では,引き続きフォローアップ調査を実施するなど,学校施設の安全性確保に取り組みます。
安全対策の例:ブロック塀を撤去し,フェンスに再整備した事例
学校施設は,児童生徒が一日の大半を過ごす学習・生活の場であり,地域の実情を踏まえて空調を使用しつつ,適切な学習環境を確保することが重要です。
このため,これまで文部科学省では,学校施設環境改善交付金により,公立小中学校等における空調の設置を促進してきました。公立小中学校の空調設置率は,平成30年9月現在,49.9%となっています。
平成30年夏は災害ともいえる猛暑に見舞われ,同年7月には男子児童が校外学習後に教室で意識を失い,死亡するという大変痛ましい事故が発生しました。当該事故を受けて,文部科学省は教育委員会等に対し,7月18日,熱中症にかかる可能性が高まることを踏まえた安全管理,児童生徒への指導など適切な対応を行うよう依頼しました。さらに,平成30
年度第1次補正予算では,このような猛暑に起因する健康被害の発生状況等を踏まえ,早期に子供たちの安全と健康を守るため,新たにブロック塀・冷房設備対応臨時特例交付金を創設し,全国の公立小中学校等への空調設置に必要な予算として817億円を措置し,支援しました。
また,空調設備のランニングコストとして追加的に必要となる光熱水費については,令和元年度の普通交付税算定より,措置されることとなりました。
平成23年3月11日に発生した東日本大震災から8年が経過しました。この震災による文部科学省関係(幼児・児童・生徒・学生・教職員など)の人的被害は死者659名,行方不明者79名,負傷者262名となっています。また,学校施設や社会教育施設,文化財などの物的被害は全国で1万2,000件以上発生しました。
政府においては,復興期間を令和2年度までの10年間と定め,また,復興期間の後期5か年である平成28年度から令和2年度までを「復興・創生期間」と位置付け,被災した地域の復旧・復興に向けて,総力を挙げて取り組んできました。
こうした取組の結果,地震・津波被災地域においては,10年間の復興期間の「総仕上げ」に向け,復興が着実に進展しています。また,福島の原子力災害被災地域においては,帰還困難区域を除いた地域の避難指示の解除が実現し,福島の復興・再生に向けた動きが本格的に始まっています。
このような中,東北各地では,東日本大震災を機に,従来の目的や手法に捕らわれることなく未来志向の教育の実践が進められています。新しく開校した福島県立ふたば未来学園高校は,平成30年3月に初めての卒業生を輩出し,また,31年4月には併設中学校が開校しました。
文部科学省は,引き続き被災地や被災者に寄り添いながら,復興・創生に取り組んでいます。
福島県立ふたば未来学園中学校開校式の様子
大規模自然災害等に強い国土及び地域を作るとともに,自らの生命及び生活を守ることができるよう地域住民の力を向上させるため,平成25年に「強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靱化基本法」が公布・施行され,26年6月には,当該基本法に基づき,「国土強靱化基本計画」が閣議決定されました。30年12月14日には,近年の災害から得られた貴重な教訓や社会経済情勢の変化等を踏まえ,基本計画の見直しが閣議決定されました。
文部科学省としては,指定避難所となる学校施設等における非構造部材を含めた耐震対策,自家発電設備,衛生環境の確保等による防災機能強化や老朽化対策及び防災教育の推進,地震・津波・火山観測網や衛星等による多様な情報収集手段の確保,インフラの老朽化対策における研究開発,文化財の耐震対策及び保存対策などを推進し,大規模災害によって国家的危機が実際に発生した際に我が国が十分な強靱性を発揮できるよう,国土強靱化に関する施策を計画的に進めていくこととしています。
平成30年7月豪雨,台風第21号,北海道胆振(いぶり)東部地震をはじめとする近年の自然災害により,ブラックアウトの発生,空港ターミナルの閉鎖など,国民の生活・経済に欠かせない重要なインフラがその機能を喪失し,国民の生活や経済活動に大きな影響を及ぼす事態が発生しました。このため,12府省庁により重要インフラの機能確保について緊急点検が実施され,点検結果等を踏まえ,平成30年12月14日,重要インフラが自然災害時にその機能を維持できるよう,特に緊急に実施すべき対策について,3年間で集中的に実施するものとして,事業規模がおおむね7兆円程度を目途とする「防災・減災,国土強靱化のための3か年緊急対策」が閣議決定されました。
文部科学省としては,学校施設等における災害時に落下の危険性のある外壁や天井等の改善整備及び構造体の耐震化,研究開発法人施設の防災基盤強化,南海トラフにおける新たな地震・津波観測網の構築など,12の項目について緊急対策を行うこととしたところです。当該緊急対策を踏まえ,豪雨による浸水や地震・津波などの大規模な災害時における重要インフラの機能維持を図るため,財政支援など必要な対策に取り組んでいきます。
近年,地震や豪雨等の自然災害が頻発化,多様化,甚大化しています。今後,首都直下地震等も懸念される中,文部科学省としても,国土強靱化の理念を踏まえた防災・減災対策の推進や,災害発生時の対応を強化することが必要です。
また,学校をはじめとする文教施設の整備に当たっては,文教施設は教育の場であるのみならず,災害時には地域住民の避難所としての役割も果たすことから,安全性や防災機能の強化を図る必要性が高まっています。
このような状況を踏まえ,文部科学省では,防災に係る対応を強化するため,平成30年10月に組織再編を行い,文教施設の防災を主担当とする課長級職として「参事官(施設防災担当)」を新たに創設し,これに伴い「大臣官房文教施設企画部」を「大臣官房文教施設企画・防災部」に再編しました。
このことにより,平時における耐震化や避難所機能の確保などの学校施設の防災・減災対策の推進,災害発生時の情報収集,省内の施策の総合調整,被災地への情報連絡員の派遣など,文部科学省関係の防災対策を一元的に推進することとしています。
学校施設は,児童生徒の学習・生活の場であるとともに,地震などの災害時には地域住民の避難所としての役割も果たすことから,耐震対策により安全性を確保することは極めて重要です。
国公立学校施設の構造体の耐震化については,阪神・淡路大震災以降,重点的に支援してきた結果,個別事情により遅れているものを除き,おおむね完了した状況です。また,私立学校施設については,できる限り早期の耐震化完了を目指しており,平成30年度の耐震化率は,およそ9割になっています。近年の大規模な地震では,耐震化が完了した学校施設に倒壊・崩壊といった被害が生じなかったことは耐震化の大きな成果だと考えています。
一方で,平成23年の東日本大震災では,公立学校の屋内運動場の天井や教室の照明器具が全面的に崩落するなど,非構造部材に大きな被害が発生しました。このため,文部科学省では25年8月に「学校施設における天井等落下防止対策のための手引」(※5)を作成し,屋内運動場等の吊り天井等の撤去を中心とした対策を進めました。
平成28年熊本地震においては,吊り天井等の対策は効果を発揮しましたが,屋根ブレース(※6)の破断や天井材の落下,窓ガラスの破損などにより屋内運動場を避難所として使用できなくなるなど,非構造部材等の被害を原因とする防災機能上の課題が顕在化しました。文部科学省の調査においても,30年度における非構造部材の耐震対策実施率は,構造体の耐震化や吊り天井の耐震対策と比べて遅れており,更なる取組が必要です。
学校施設において非構造部材の耐震対策を進めることは,児童生徒等の安全確保や地域の避難所としての機能確保の点で,構造体の耐震化と同様に重要です。文部科学省では,非構造部材の耐震点検を推進するため,平成27年3月に「学校施設の非構造部材の耐震化ガイドブック(改訂版)地震による落下物や転倒物から子供たちを守るために―耐震点検の実施―」(※7)(以下,「ガイドブック」という。)を作成しました。
非構造部材の被害
ガイドブック表紙
非構造部材の耐震対策については,地震時の安全確保のため,耐震点検により異常を早期に発見して進めることが重要です。耐震点検は,施設の管理者である学校設置者が責任をもって実施する必要がありますが,点検を円滑に進めるため,学校教職員,設計実務者等の専門家及び関係部署と連携し,点検のための体制づくりをすることが重要です。ガイドブックでは,学校設置者と学校の役割を明確にして具体的な点検項目と対策の方向性を示し,地震に備えて定期的,継続的に点検するものとしています。非構造部材は多種多様であり,継続した点検によって予防的な対策に結びつけていくことが重要です。
なお,前述の大阪府北部を震源とする地震を受けて,ブロック塀等の安全点検と必要な改善が速やかに実施されるよう,平成31年3月,「建築基準法施行令」の技術基準を基に,ブロック塀等の点検ポイント等について紹介したガイドブックの追補版(※8)を作成しました。文部科学省では,構造体の耐震化及び非構造部材の耐震対策が未完了の学校設置者に対しては,引き続き必要な国庫補助を行うとともに,速やかに耐震対策を実施するよう依頼しています。
学校施設には,日常はもとより災害時においても十分な安全性・機能性を有することが求められます。しかし,建築当初には確保されているこれらの性能も,経年劣化等により必要な性能を満たさなくなっていることがあります。それに気づかずに放置していると,突然外壁タイルやモルタルが落下するなどの事故が発生する可能性がありますので,常に健全な状態を維持できるよう,法令等に基づいて定期的に点検を行い,必要な修理・修繕等を速やかに実施することが必要です。
学校施設を適切に維持管理するためには,学校施設を所有・管理する学校設置者の方々と,学校施設を利用する教職員の方々がそれぞれの立場に応じて点検等を行い,常時適法な状態を維持することが必要です。文部科学省では,「建築基準法」等の規定に基づいて学校設置者が実施すべき維持管理の必要性や制度の概要をとりまとめた「子供たちの安全を守るために―学校設置者のための維持管理手引―」を平成28年3月に作成するなど,学校施設における適切な維持管理の推進を図っています。
「子供たちの安全を守るために―学校設置者のための維持管理手引―」(平成28年3月)
※ https://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/maintenance/__icsFiles/afieldfile/2017/06/14/1369016_01_1.pdf
平成23年の東日本大震災では,津波による校舎や屋内運動場の水没,浸水をはじめとして,地震による構造体の損傷や非構造部材の落下など,約8,000校が様々な被害を受けました。こうした状況を踏まえ,文部科学省では,「学校施設の在り方に関する調査研究協力者会議」において,学校施設の津波対策や避難所となる学校施設の在り方について検討し,平成26年3月に報告書(※9)が取りまとめられました。この中で津波対策については,学校設置者は,学校敷地に津波による被害が予想される場合,当該学校の立地状況や周辺地域の状況を把握した上で,周辺の高台や津波避難ビルへの避難,校舎等の屋上や上層階への避難,高台への移転などの安全対策について,防災部局等と連携を密にしながら検討し,これを実施することが重要とされています。この対策は,学校施設を新築,改築する場合のみならず,既存の施設に対しても行うことが重要です(事例はコラムを参照)。
また,この報告書では,避難所としての防災機能の強化については,災害発生から避難所の解消までのプロセスを4つの段階(フェーズ)に区分し,各々の段階で必要となる機能が整理されています。避難所として必要な機能は各段階で変化していくことから,これらのプロセスに留意して対策を検討することが重要です。
平成28年熊本地震では,非構造部材の損傷等により体育館が使用できなかったり,トイレや電気,水の確保等において不具合,不便が生じたりするなど,避難所に関する様々な課題が生じました。
文部科学省では,児童生徒,職員及び地域住民等が避難し,救援物資が届き始めるまでの段階(生命確保期:避難直後から数日程度)における避難所に必要な防災機能の保有状況の把握を目的として,平成29年度に「避難所となる公立学校施設の防災機能に関する調査」(※10)を実施しました。その結果,公立学校施設の避難所への指定の状況は3万994校(全学校の約9割)となっています。一方で,避難所に指定されている学校施設のうち,断水時のトイレや電力に関する防災機能を確保している学校数がそれぞれ50%程度に留まるなど,引き続き学校施設の防災機能強化の取組を推進する必要性が明らかとなりました。
これを受け,文部科学省としては,防災部局が中心となって教育委員会や地域の関係者と適切な協力体制を構築し,学校施設ごとに避難所として求められる役割・備えるべき機能・施設の利用計画等を明確化して,防災機能の強化を一層推進するよう,教育委員会等に周知しました。また,文部科学省では,学校施設の防災対策セミナ―を開催して,学校施設の防災機能強化に関する普及・啓発を行っています。
さらに,学校施設の防災機能強化等に関する事例集を令和元年度に作成するため,平成30年度に調査研究を開始しました。
文部科学省では,学校設置者が実施する学校施設における津波対策や防災機能強化等の取組に対する支援の一つとして,耐震対策,備蓄倉庫,屋外トイレ,自家発電設備の整備,炊き出し拠点としての活用や被災時における衛生環境の低下にも耐えられる,衛生的で安全な給食施設の整備,津波浸水想定区域内等にある建物の移転等の改築,避難経路・屋外避難階段の設置等について国庫補助を行っています。
新潟県長岡市では,平成16年に発生した新潟県中越地震の際の避難所運営の経験から,地域の避難所としての学校施設を実現するため,全ての既存市立学校(85校)を対象に,17年度から19年度,計約1億円をかけて避難所対応工事を実施しています。主な工事内容は以下のとおりです。
1.スロープの設置
2.洋式便器への取替え
3.屋内運動場への電話回線の設置
4.受水槽への蛇口の設置
5.LPガスから都市ガスへの変換器の接続口
地震や水害に備えるための防災機能強化(東京都江戸川区立小松川第二中学校)
低地にある江戸川区内の学校では,改築の際,水害対策として公立小中学校の2階に屋内運動場及び防災倉庫を設置するほか,停電や断水時にも対応できるよう諸機能の整備を進めています。平成30年2月に新校舎が竣工した江戸川区立小松川第二中学校では,高規格堤防の上に建設することにより災害時における地域の避難所機能向上を目指した防災対策に取り組んでいます。主な防災対策の整備内容は以下のとおりです。
1.防災倉庫
2.屋上のプールの水を校舎内の手洗い所へ供給
3.屋上のプールの水を使用できるマンホールトイレ
4.発電機型ガスエアコン
5‐1 太陽光発電設備
5‐2 太陽光発電の自立運転時に利用できる非常用コンセント
1.屋外避難階段
2.緊急時には蹴破って進入可能なドア
3.2階から直接屋外階段に避難可能
4.学校敷地内への出入り口に設置されたスロープ
各学校においては,児童生徒等に自然災害等の危険に際して自らの命を守り抜くための主体的に行動する態度等を身に付けさせるために,学習指導要領に基づき地域の特性や児童生徒等の実情に応じて,年間を通じて指導すべき内容を整理して,学校安全計画に位置付けることにより,系統的・体系的な防災教育を計画的に行っています。また,自然災害等を想定した実践的な避難訓練等を実施し,各教科等の学習で身に付けた知識を行動に結び付けるための教育を行っています。
文部科学省では,「第2次学校安全の推進に関する計画」や学習指導要領改訂を踏まえ,各学校において地域の実情に応じた防災教育をはじめとする安全教育を行う際の参考となるよう,学校安全資料『「生きる力」をはぐくむ学校での安全教育』を改訂し,平成31年3月に配布しています。
また,セーフティプロモーションスクール(※11)等の先進事例を参考とするなどして,学校安全の組織的取組と外部専門家の活用を進めるとともに,各地方公共団体内での国立・私立を含む学校間の連携を促進する取組等に対する支援や,防災教室の講師となる教職員等を対象とした講習会の実施に対する支援を行っています。
さらに,学校や地方公共団体において,学校安全を推進する上で必要な情報や優れた取組事例を参考にできるよう,文部科学省や各地方公共団体が作成した資料等を掲載した学校安全ポータルサイトを運用しています。
このほか,自然災害等の一因となり得る地球規模の環境問題の解決のためには,子供たちが環境問題について理解を深め,責任をもって環境を守るための行動をとることができるようになることが重要です。このため,平成29・30年に改訂した小学校,中学校,高等学校の学習指導要領において環境教育に関する内容を充実するとともに,環境教育の優れた実践の促進・普及を行うなど,学校における環境教育の推進を図っています(※12)。
学校と地域が合同で津波想定避難訓練を実施
同じ中学校区に位置する学校と地域の関係者との連携を図るための会議の開催
文化庁では,後世に確実に継承すべき貴重な文化財について,台風・地震や火事等からの被災を防ぐため,以下のような取組を行い,全国各地で文化財保護に対する意識向上に努めるとともに,重要文化財(建造物)の耐震化について対応を強化するなど,防災・減災対策を推進しています。
また,近年頻発する災害等において被害を受けた文化財に対し,その復旧を支援しています。
「文化財保護法」は,昭和24年の法隆寺金堂壁画の焼損を契機に制定されました。文化財を火災,震災,その他災害から守り,文化財保護に対する意識向上を目的として,法隆寺金堂壁画が焼損した日に当たる1月26日を「文化財防火デー」と定め,毎年全国でこの日を中心に,文化庁,消防庁,文化財所有者,地域の住民等が連携・協力し,文化財防火運動を展開しています。
平成30年度の第65回文化財防火デーでは,法隆寺で文化庁長官と消防庁審議官が出席する中,大規模な訓練が行われました。
重要文化財(建造物)は,地震時において文化財的価値の保存と人的安全性を確保する必要があります。そのため,文化庁は計画的な耐震診断(耐震基礎診断,耐震専門診断をいう。),耐震補強の実施及び対処方針の作成・実施を促進しています。
文化庁では,所有者等における重要文化財(建造物)の耐震対策への意識をより一層高め,耐震対策を進めるべく,「重要文化財(建造物)の地震に対する対処方針の作成指針」を策定し,周知のためのリーフレットを作成しました。
文化庁では,東日本大震災による文化財の被害状況について,状況の把握に継続して努めるとともに,被災地からの要請に基づき文化庁の文化財調査官を派遣し,被災した文化財の修理・復旧等について指導・助言を行っています。また,美術工芸品等の動産文化財を緊急に保全するため,救出,応急措置,博物館等における一時保管を行う「文化財レスキュー事業」や,不動産の文化財建造物についても,被災状況調査の実施,応急措置,復旧に向けた技術的支援等を行う「文化財ドクター派遣事業」を展開しています。復旧・復興事業に伴う埋蔵文化財の取扱いについては,発掘調査の範囲を限定するなど弾力的な取扱いを認めるなどの対応をとっています。
また,熊本地震時においては,被災文化財を早期に修理・復旧するため,「熊本地震文化財復旧・復興対応プロジェクトチーム」を設置したほか,特に被害の大きい熊本城については「熊本城復旧総合支援室」を設置し,その復旧を支援しています。また,被災文化財の修復への寄附を呼びかける文化庁長官メッセージを発出するとともに,「文化財レスキュー事業」や「文化財ドクター派遣事業」等による技術的な支援の実施や,全国から埋蔵文化財専門職員の派遣を行い,復旧・復興に伴う発掘・調査等の支援の実施を行っています。
我が国の国土は,地震,津波,暴風,竜巻,豪雨,火山噴火等の自然災害が多く発生する自然条件下にあります。
自然災害にはいまだに解明されていない部分が多く,大きな被害をもたらします。自然災害を正確に把握し,予測するための調査研究を進めるとともに,被害軽減を図るための研究開発を進め,防災・減災対策に活(い)かしていくことが重要です。
阪神淡路大震災を契機に,地震調査研究推進本部(以下,「地震本部」という。)が設置されました。地震本部では,地震による被害の軽減に資する地震調査研究の推進を目的とし,関係機関の地震の観測,測量,調査による成果を集めて地震活動の総合的な評価をするとともに,総合的かつ基本的な施策の立案や関係行政機関の予算等の調整等を実施しています。
地震本部の下に設置されている地震調査委員会では,防災対策の基礎となる情報を提供するため,将来,発生すると想定される地震(主要な活断層で発生する地震,海溝型地震)に関し,その場所,規模,発生確率について評価を行い,「長期評価」として公表しています(図表1‐2‐10)。平成31年2月26日には,東北から関東地方の日本海溝沿いの海域で発生する地震について評価した,「日本海溝沿いの地震活動の長期評価」(※13)を新たに公表しました。
文部科学省では,地震・津波等を観測する技術や予測する手法の研究開発等を推進しています。例えば,陸域の地震観測網,海域の地震・津波観測網,火山観測網と合わせて,全国の陸域から海域までを網羅する「陸海統合地震津波火山観測網(MOWLAS)」を防災科学技術研究所(以下,「防災科研」という。)において運用し,日本全国で発生する地震・津波等をリアルタイムで観測しています。
さらに,文部科学省では,発生すると大きな被害が想定される南海トラフ地震での防災に貢献するため,海底地震・津波観測網が設置されていない高知県沖から日向灘の海域にかけて,新たに「南海トラフ海底地震津波観測網(N‐net)」を構築しています。N‐netの整備により,地震動と津波を検知するまでの時間が短縮されることに加え,将来,津波警報や緊急地震速報等の警報に活用されることで,地震や津波から身を守るための時間が長くなることが期待されます。
南海トラフ海底地震津波観測網(N‐net)のイメージ図
防災科研では,各種自然災害に対する1.予測力,2.予防力,3.対応力,4.回復力の総合的な向上を図るため,MOWLASの観測データを活用した地震動・津波即時予測研究や府省庁連携防災情報共有システム(SIP4D)の開発とこれを活用した情報共有支援など,各種自然災害を対象にした研究開発等を実施しています。
海洋研究開発機構では,自然災害に対して強靱な社会の構築に向けて,地球深部探査船「ちきゅう」や海底広域研究船「かいめい」等を活用し,海底地殻変動を連続かつリアルタイムに観測するシステムの開発・整備をすすめ,地震発生帯での多様な断層運動のモニタリングを実施しています。宇宙航空研究開発機構では,災害時における救難ヘリコプター等の運航情報や災害情報を迅速かつ効率的に一元管理できる災害救援機統合運用システム(D‐NET)の研究開発を通じて,大規模災害への対応能力を強化しています。開発された技術は,平成29年に発生した九州北部豪雨などの災害現場での救助活動にも活用されています。また,衛星データを活用した被災状況の把握にも貢献しています(※14)。
文部科学省としては,今後とも中央防災会議や関係府省庁,地方自治体等の防災対策に効果的に活用できるような成果を提供できるよう,研究開発等を推進してまいります。
地球深部探査船「ちきゅう」
災害救援航空機統合運用システム(D‐NET)の概念図
防災科研は,自然現象により生ずる災害を未然に防止し,万が一災害が発生した際には,被害の拡大を防ぎ,これらの災害から復旧・復興するための科学技術について基礎研究及び基盤的研究開発等の業務を総合的に行い,防災科学技術の水準の向上を図ることを目的としています。また,平成28年度から始まった第4期中長期目標に基づき,効果的な災害対応・復旧復興支援の実現を目指して,次の3つの活動を積極的に進めています。
例えば,昨年西日本に大きな被害を出した平成30年7月豪雨では,災害が発生する前に,過去に発生した類似経路をもつ台風の情報をウェブサイトに掲載し,災害に対する注意喚起を行いました。また,災害対応支援として,降水量分布や台風経路,浸水・土砂災害危険度の情報,豪雨の解析結果を集約したNIED‐CRSを立ち上げて情報を発信するとともに,現地に防災科研の職員を派遣しました。また,SIP4Dを活用した情報共有支援として,災害対応現場での官民の情報収集や被災自治体や府省庁等への情報提供等を実施し,災害現場での活動に貢献しました。
さらに,防災科研では,国,地方公共団体,企業,大学,各種団体等と協力しつつ,今後発生が懸念される南海トラフにおける地震などの国難災害を乗り越えることを目標に,今後も引き続き,研究開発力,情報発信力の強化や業務標準化の推進などに取り組みます。
平成30年7月豪雨に関する防災科研クライシスレスポンスサイト
平成30年7月豪雨における防災科研災害対策チーム会議の様子
総合教育政策局政策課
-- 登録:令和元年11月 --