第8節 障害のある児童生徒の可能性を最大限に発揮するための特別支援教育

3.諸課題への対応と関連施策

(1)地域・学校における支援体制の整備−LD,ADHD,高機能自閉症の児童生徒などへの支援−

1「特別支援教育体制推進事業」を通じた支援体制の整備

 LD,ADHD,高機能自閉症への教育的対応については,文部科学省では,平成12年度から,LDの児童生徒に対する指導体制の充実を図るための実証的な研究と専門家による巡回指導を実施してきました。
 また,平成15年度からすべての都道府県に委嘱して,小・中学校の通常の学級に在籍するLD,ADHD,高機能自閉症などの発達障害を含む障害のある児童生徒などに対する総合的な支援体制の整備を図るための事業を実施しています。具体的には,(ア)児童生徒の実態を把握し,適切な支援策を検討するための「校内委員会」の設置,(イ)医師や心理学の専門家で構成する「専門家チーム」の設置,(ウ)関係機関との連絡調整や保護者の連絡窓口,校内委員会の推進役となる「特別支援教育コーディネーター」の指名,(エ)専門家などが小・中学校を巡回し,教員などに指導内容や方法に関する指導助言を行う「巡回相談」の実施,(オ)学校と福祉・医療・労働等の関係機関との連携を促進するための行政レベルの部局横断型ネットワークである「特別支援連携協議会」の設置,(カ)関係機関の連携の下に,乳幼児期から学校卒業後までを見通した支援の目標や内容を盛り込んだ「個別の教育支援計画」(注)の策定,(キ)盲・聾・養護学校が専門的な知識や技能を生かし,小・中学校などへの支援を行うなど地域の特別支援教育の「センター的機能」としての役割を果たしていくことに関する実践研究を行っています。
 この事業は,平成17年4月に「発達障害者支援法」が施行されたことを踏まえ,17年度からは,乳幼児期から就労に至るまでの一貫した支援体制の整備を図るため,事業の対象を小・中学校に加え,幼稚園と高等学校へも拡大して実施しています。また,本事業の実施に当たっては,厚生労働省の「発達障害者支援体制整備事業」と連携協働の下に実施することとしており,医療,保健,福祉,労働などの関係機関が連携し作成した個別の教育支援計画に基づき,障害のある児童生徒等の乳幼児期から就労に至るまでのそれぞれの成長段階に対応する一貫した支援体制の整備を目指しています。

  • (注)個別の教育支援計画
     障害のある児童生徒一人一人のニーズを正確に把握し,教育の視点から適切に対応していくという考え方の下に,福祉,医療,労働などの関係機関との連携を図りつつ,乳幼児期から就労に至るまでの一貫して的確な教育的支援を行うために策定する支援計画。

2LD等の児童生徒への支援体制整備のためのガイドライン(試案)の策定

 文部科学省では,LD,ADHD,高機能自閉症などの児童生徒に対する教育的支援を行う体制の整備や指導の充実を図るため「小・中学校におけるLD,ADHD,高機能自閉症の児童生徒への教育支援体制の整備のためのガイドライン(試案)」を平成16年1月に策定し,全国の小・中学校や教育委員会などに配付しました。
 今後は,各教育委員会や学校での活用の成果や課題などを検証しつつ,より活用しやすいものとなるよう,改善を加えることとしています。

3国立特殊教育総合研究所における研究・研修の実施

 国立特殊教育総合研究所(NISE)においては,我が国唯一の特殊教育のナショナルセンターとして,LD,ADHD,高機能自閉症などの児童生徒等に対する指導法などについての専門的な研究や研修が進められています(参照:http://www.nise.go.jp(※独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所ホームページへリンク))。なお,同研究所は,平成19年度から名称を「国立特別支援教育総合研究所」に改称することとしています。
 主な研究・研修については,次のとおりです。

(ア)主な研究
  • 1)「小中学校に在籍する特別な配慮を必要とする児童生徒の指導および支援体制に関する研究−LD,ADHD等の指導方法を中心に−」(平成15年度〜17年度)
     研究成果として平成17年3月に「LD・ADHD・高機能自閉症の子どもの指導ガイド」を発行
  • 2)「養護学校等における自閉症を併せ有する幼児児童生徒の特性に応じた教育的支援に関する研究−知的障害養護学校における指導内容,指導法,環境整備を中心に−」(平成15年度〜17年度)
     研究成果として平成16年6月に「自閉症教育実践ガイドブック」,17年10月に「自閉症教育実践ケースブック」を発行
  • 3)「発達障害のある子どもの早期からの総合的支援システムに関する研究」(平成18年度〜19年度)
  • 4)「特別支援学校における自閉症の特性に応じた指導パッケージの開発研究−総合的アセスメント方法及びキーポイントとなる指導内容の特定を中心に−」(平成18年度〜19年度)
▲研究成果をまとめたガイドブック(資料提供:国立特殊教育総合研究所)
(イ)主な研修
  • 1)「LD・ADHD・高機能自閉症児担当指導者養成研修」の実施
     平成15年度から,LD・ADHD・高機能自閉症の児童生徒への教育について指導的立場にある者に対し,指導力の向上を図ることを目的とした研修を実施。
  • 2)「自閉症教育推進指導者講習会」の実施
     平成17年度から,各都道府県などにおいて自閉症教育推進の指導的立場にある者に対し,指導力の向上を図ることを目的とした講習会を実施。
  • 3)「特別支援教育コーディネーター指導者養成研修」の実施
     平成15年度から,各都道府県における特別支援教育コーディネーター養成に指導的役割を果たす者を養成するための研修を実施。

(2)障害の重度・重複化への対応

 近年,盲・聾・養護学校に在籍する児童生徒の障害の重度・重複化が進んでおり,こうした児童生徒に対するより適切な対応が求められています。このような状況を踏まえ,平成18年6月には盲・聾・養護学校を特別支援学校とする法改正が行われました(参照:本章本節2(3))が,このほかにも文部科学省においては次のとおり施策の充実に努めています。

1盲・聾・養護学校の学習指導要領などについて

 自立活動の指導や重複障害の児童生徒などの指導においては,個別の指導計画を作成し,個々の児童生徒などの障害の状態に応じたきめ細かな指導が行われています。
 また,障害のため通学して教育を受けることが困難な児童生徒に対して,盲・聾・養護学校の教員が,家庭や医療機関などを訪問し教育を行う訪問教育を実施しています。

2盲・聾・養護学校における「医療的ケア」について

 盲・聾・養護学校においては,日常的・応急的手当(いわゆる「医療的ケア」)を必要とする児童生徒への対応が求められています。このため,文部科学省では,平成10年度より,厚生労働省との連携の下,養護学校と医療機関との連携の在り方などについて実践的な研究を行い,体制整備を図ってきました。
 これらの文部科学省の研究成果などを踏まえ,厚生労働省では,同省の「在宅及び養護学校における日常的な医療の医学的・法律学的整理に関する研究会」の報告を受け,医療安全の確保が確実となるような一定の条件の下であれば,教員が看護師との連携・協力の下に,たんの吸引,経管栄養及び導尿を行うことを盲・聾・養護学校全体に許容するとの考え方が示されました。
 文部科学省としては,これを受けて,盲・聾・養護学校における体制の整備を図るため,平成17年度には「盲・聾・養護学校における医療的ケア実施体制整備事業」を35県に委嘱して実施しました。
 また,全国4ブロックにおいて,医療的ケアを担当する指導主事や教員,看護師を対象に研修を実施し,医療的ケアの実施体制の構築に資する知識面・技能面での向上を図っています。

(3)交流及び共同学習の充実

 障害のある子どもと,障害のない子どもや地域の人々が活動を共にすることは,すべての子どもの社会性や豊かな人間性を育成する上で意義があるだけでなく,地域の人々が障害のある子どもに対する正しい理解と認識を深める上でも重要な機会となっています。
 このことについて,平成16年6月に改正された障害者基本法においては「国及び地方公共団体は,障害のある児童及び生徒と障害のない児童及び生徒との交流及び共同学習を積極的に進めることによって,その相互理解を促進しなければならない。」と規定されました。
 文部科学省では,現行の盲・聾・養護学校や幼・小・中・高等学校の学習指導要領などにおいて,障害のある者とない者が活動を共にすることの意義を明確に規定しており,各学校においては,その充実が図られています。また,国立特殊教育総合研究所においては,教員や指導主事を対象とした,交流及び共同学習推進指導者講習会を実施しています。

(4)就学支援

 障害のある児童生徒等の就学を支援するため,「盲学校,聾学校及び養護学校への就学奨励に関する法律」(昭和29年法律第144号)などに基づき,特殊教育就学奨励制度が実施されています。
 この制度は,障害のある児童生徒等の教育の機会を保障するため,盲・聾・養護学校や小・中学校の特殊学級などへの就学の特殊事情を考慮して,児童生徒等の就学に関する保護者などの経済的負担を軽減することを目的として,その負担能力の程度に応じ,交通費や学用品費,寄宿舎費などの就学に必要な経費の全部又は一部を国及び地方公共団体が負担しているものです。

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