第3節 諸外国の文化行政

 文化に対する国のかかわり方は,各国の歴史,伝統などによって大きく異なります。また,国民生活に占める政府の大きさによっても,文化と政府のかかわり方には相違があります。
 前2節で我が国の文化行政の考え方を紹介しましたが,これとの比較の視座を提供するため,この節では,英国,フランス,米国,中国,韓国の文化行政について,文化行政を担当する組織,文化芸術の振興,文化財の保護,国際文化交流の観点から紹介します。

1.英国の文化行政

(1)概説

 18世紀から19世紀にかけて産業革命により巨大な富を入手した英国は,政治的,経済的,そして文化的に世界的な影響力を持つようになりました。文化芸術に関しては,ヨーロッパ諸国と同様に王侯貴族の庇護は受けましたが,もう一方で豊かな市民層に支えられ,自立的で自主的な性格が形成されました。その精神は文化行政において芸術の自由と独立性を保つための「arm's length(アームズ・レングス)の法則」と呼ばれ,現在の文化行政も芸術と行政が一定の距離を保ち,援助を受けながら,しかも表現の自由と独立性を維持する,という法則に基づいて行われています。今日の英国においては,文化芸術団体に国から巨額の支援がなされていますが,支援は国が直接するのではなく,1946年(昭和21年)に設立されたアーツカウンシル(芸術協議会)という専門家集団の公的な機関が支援しています。
 文化政策の国家的機関として,1992年(平成4年)に文化遺産省が設立され,1997年(平成9年)に文化・メディア・スポーツ省となり現在に至っています。文化・メディア・スポーツ省は,文化の活動を通してすべての国民に生活内容の質を向上させる機会を提供すること,すべての人々にすぐれた文化芸術に接する機会を提供することを目的としており,不必要な規制や発展を阻む障害を取り除き,効果的な競争市場を形成し,国内外で評価される文化の振興に努めています。
 実際に芸術文化を直接支援する主要な公的機関として,文化・メディア・スポーツ省の傘下の独立組織であるアーツカウンシルと,海外の交流を促進することで海外における英国の文化芸術の振興を図る,外務省傘下の独立組織であるブリティッシュ・カウンシルがあります。

(2)文化芸術の振興

 美術,演劇,音楽,文学などの振興については,アーツカウンシルが中心的な役割を果たしています。アーツカウンシルは美術,演劇,音楽,文学などの団体あるいはプロジェクトに助成金を支給する公的機関であり,主な資金は文化・メディア・スポーツ省と宝くじ基金から支給されますが,その関係は一定の距離が置かれ,独立性が与えられています。また,アーツカウンシルは経済的援助を行うだけでなく,芸術教育,芸術経営,スポンサー探し,企業とのパートナーシップにおいて積極的に協力しているほか,専門的な立場から地方自治体と協力して,芸術活動の活発な実現に尽力しています。また,映画の振興については,英国映画カウンシルが行っており,映画製作の支援や映画の国際共同製作促進などを政府の方針に沿って実施しています。
 これとは別に,文化・メディア・スポーツ省は数ある国立の博物館・美術館に直接助成を行っていますが,収入に占める国の助成割合はおおむね50パーセント以下であり,その他の資金は各館が独自に民間からの寄付金などで調達しています。また,各館にはそれぞれ理事会があり,独自の政策と経営方針を実施することで,各館の自立性が保たれています。

▲アーツカウンシルの助成で製作された彫刻
Angel of the NorthNewcastle
©www.britainonview.com

(3)文化財の保護

 英国における文化財保護の制度は,歴史的建造物及び保全地区に関する1971年(昭和46年)改正法,都市田園計画法,古代記念物に関する1953年(昭和28年)歴史的建造物及び記念物法,1979年(昭和54年)遺跡及び考古学地区法などの法律によって定められています。
 文化・メディア・スポーツ省は,特殊法人的な組織であるイングリッシュ・ヘリテージなどと連携し,各種の施策を展開しています。イングリッシュ・ヘリテージは政府出資金,民間寄付金によって運営され,遺跡,歴史的建造物を買収して保護したり,個人や団体の行う保護の措置に対し補助金を交付するなどの事業を実施しています。また,保護対象遺跡の登録,現状許可などについて文化・メディア・スポーツ省に対して専門的な助言を行う立場にあります。
 さらに,文化・メディア・スポーツ省は文化財を保護するために設立された国民遺産基金へ助成を行い,海外流出のおそれのある貴重な文化財の保護や,自然・文化の両遺産にかかわる資本整備のための資金援助などを行っています。
 そのほか,文化・メディア・スポーツ省は王室関連文化財の保護・維持管理,歴史的公園の維持管理と活用を行い,また民間の会員制非営利法人であるナショナルトラストと提携し,歴史的建造物,庭園,自然環境の保全などを行っています。

(4)国際文化交流

 海外との文化交流を促進し,英国の文化芸術の海外での振興を図る機関としてブリティッシュ・カウンシルがあります。ブリティッシュ・カウンシルは海外における英語及び英国文化の普及,学術・技術分野での諸外国との永続的な協力関係の促進を目的として設立され,今では海外109か国233都市で活動しています。主に,海外における美術,演劇,映画,オペラなどの芸術活動の援助などを行っています。
 日本と英国との文化交流は,2001年(平成13年)5月から2002年(平成14年)3月末まで,日本を紹介する大型文化行事「Japan2001」が開催され,全英各地で2,000件以上の行事が実施されました。また,2008年(平成20年)には現代の英国の芸術,科学技術,クリエイティブ産業などを日本各地で紹介する「UK-Japan2008」を開催する予定です。

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