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第2部   文教・科学技術施策の動向と展開
第6章 研究開発の戦略的重点化
第4節  原子力の研究開発の推進
4  先端的な原子力科学技術の推進


 原子力は,核分裂のエネルギーを利用して熱を取り出す応用技術としての側面のほか,大きな可能性を秘めた基礎・基盤的な科学技術としての側面も持っています。原子力科学技術は,核融合をはじめとする新たなエネルギー技術の発展の基盤であるとともに,レーザー,加速器,原子炉などの未踏の領域へ挑戦するための有効な研究手法を提供し,物理学など基礎科学分野における新たな知見をもたらす一方で,ライフサイエンスや物質・材料系科学技術などの分野における最先端の研究手段を提供するなどの役割を果たしています。

 また,原子力科学技術は,21世紀の人類の知的未踏領域の開拓と我が国の新産業の創出などに貢献するものであるとともに,その研究開発の推進により他の様々な科学技術分野に大きな波及効果をもたらします。したがって,これらの研究開発を進めるに当たっては,創造性豊かな研究をはぐくむ環境を整備し,これらを支える基礎・基盤研究との均衡ある発展を図りつつ,効率的に進めることが重要になります。


(1) 加速器科学の推進

 加速器とは,荷電粒子を加速し,それを活用する装置であり,がん治療などの医療分野,バイオテクノロジー分野,半導体チップの表面微細加工などの工業分野への応用などで,広く普及しています。また,物質の究極的な構造や自然界に働く力の解明を目指す素粒子・原子核物理学,新物質創製などの多様な研究のための装置としても利用されており,これらの研究は,常に国際的競争状態に置かれています。

 高エネルギー加速器研究機構と日本原子力研究所は共同で,中間子,反陽子,ニュートリノなどの二次粒子 *1 を用いて,自然界の基本原理を探求する原子核・素粒子研究を展開するとともに,世界最高クラスの中性子源を用いて21世紀の物質・生命科学研究を展開し,経済・社会の発展へ貢献するため,世界最高レベルのビーム強度を持つ大強度陽子加速器施設の建設(建設地:茨城県東海村)を進めています( 図2-6-13 )(参照: 本章第1節2(1)(ウ) )。

図表◆2-6-13 大強度陽子加速器施設鳥瞰図

 また,理化学研究所においては,水素からウランまでの全元素の放射性同位元素(RI)を世界最大の強度でビームとして発生させ,それを解析・利用する加速器施設「RIビームファクトリー」の建設を進めています。


*1 二次粒子

陽子が原子核に衝突して核反応を起こした時に発生する粒子のこと。


(2) 核融合研究開発

 核融合研究開発の推進は,未来のエネルギー選択肢の幅を広げ,その実現可能性を高める観点から重要です。現在,我が国の核融合の研究開発は,平成4年に原子力委員会が策定した「第三段階核融合研究開発基本計画」と平成12年に同委員会が策定した「原子力長期計画」に基づき,日本原子力研究所,核融合科学研究所,大学などで,相互の連携・協力により進められています。さらに,科学技術・学術審議会学術分科会の下に設置された核融合研究ワーキング・グループが15年1月に取りまとめた「今後の我が国の核融合研究の在り方について」も踏まえて,研究開発を推進しています。

 具体的な研究開発としては,まず,日本原子力研究所において,トカマク方式 *2 について実用化を目指した研究開発を進めています。特に,臨界プラズマ試験装置(JT−60) *3 に関しては,世界に先駆けた成果を上げており,更なるプラズマ閉じ込め *1 の性能向上を目指しています。それ以外にも,核融合炉を構成する機器の研究開発,材料研究や安全性に関する試験などを実施しています。

 また,大学共同利用機関である核融合科学研究所においては,我が国独自のアイデアに基づくヘリカル方式 *2 による世界最大の大型ヘリカル装置(LHD)を建設し,新しいプラズマ領域の研究を世界に先駆けて行っています。

 さらに,大阪大学レーザーエネルギー学研究センターなどをはじめ,関係大学・独立行政法人などにおいて,各種磁場閉じ込め方式 *3 や慣性閉じ込め方式 *4 による基礎的研究,炉工学に関する要素技術などの研究が進められています。

 このほか,我が国が国際協力によって進めている核融合研究開発として国際熱核融合実験炉(ITER)計画があります。ITER計画は,核融合エネルギーの科学的・技術的可能性の実証を目指した国際プロジェクトです。ITERに対する我が国の参加・誘致については,平成14年5月31日に国内候補地を青森県六ヶ所村とする閣議了解がなされました。ITER建設候補地としては,六ヶ所村(日本)のほか,カダラッシュ(フランス)が提案されています。今後,サイト(建設地)などについて合意した上で,ITERの建設・運転などに関する協定案を策定し,17年度にもITERの建設に着手することを目指しています(参照: 第2部第9章 トピックス2)。


*2 トカマク方式

ドーナツ状の磁場によるプラズマ閉じ込めの一方式。外部コイルによる環状磁場を有し,かつ,環状方向に電流を流すことにより螺旋状磁場をつくり,プラズマを安定に閉じ込める。その優れた閉じ込め性能のために世界各国の研究所でこの形式のプラズマ実験装置が建設され,研究されてきた。


*3 臨界プラズマ試験装置(JT−60)

日本原子力研究所那珂研究所で稼働している世界最大級のトカマク実験装置である。米国のTFTR(既にシャットダウン),欧州のJET装置と合わせて3大トカマクといわれた。


*1 プラズマ閉じ込め

 プラズマをどの程度,高温,高密度で,安定的にかつ長時間維持できるかという能力。加熱に要するエネルギーに対する核融合反応により発生するエネルギーの比率(Q値)等によって表される。


*2 ヘリカル方式

 トカマク型装置のようにプラズマに電流を流さずに,外部のコイルによって形成したドーナツ型の螺ら旋せん状磁場でプラズマを閉じ込める方式。


*3 磁場閉じ込め方式

 プラズマを構成するイオンと電子は,磁場中では基本的に磁力線に巻き付いて運動し,磁力線を横切っては動きにくい。また,磁場が相対的に弱いところにたまり込む性質を有する。磁場中でのプラズマのこのような振る舞いを利用したプラズマの閉じ込め方式。


*4 慣性閉じ込め方式

 固体の燃料に大きなエネルギーを瞬時に注入しプラズマが飛散する前に温度を上げて核融合反応を起こさせる方式。


*5 ITBL(IT-Based Laboratory)

 国内に散在するスーパーコンピュータを大容量ネットワーク上に共有した仮想研究環境のこと(参照: 第2部第7章第5節3(1){2} )。


(3) 革新的原子力技術の研究開発

 21世紀を展望すると,高い経済性と安全性を持ち,熱利用などの多様なエネルギー供給や原子炉利用の普及に適した革新的な原子炉を開発することが期待されています。また,使用済燃料や放射性廃棄物の処理処分問題の緩和,核不拡散抵抗性の向上などの特徴を有する革新的な核燃料サイクルシステムの実現についても期待されています。このような状況の下で,平成14年度より,多様なアイデアの活用に留意しつつ,革新的原子力技術に係る提案公募方式の研究開発を産学官の連携により実施しています。さらに,日本原子力研究所では,革新的原子力技術開発の一環として,高温工学試験研究炉(HTTR)などの研究開発を推進しています。


(4) 基礎・基盤的研究

 原子力科学技術の基礎・基盤的研究は,原子力の多様性,将来の技術革新につながる基礎を生み出し,原子力分野のプロジェクト研究や他の科学技術分野の発展にも寄与するものです。日本原子力研究所においては,先端基礎研究センターにおける重元素科学などの先端基礎研究や,関西研究所(関西文化学術研究都市)における光量子科学研究,ITBL *5 を活用した高度計算科学技術研究などの基礎・基盤的研究の充実を図っています。

 また,日本原子力研究所と理化学研究所が兵庫県播磨科学公園都市に建設した大型放射光施スプリングエイト)は,光速近くまで加速した電子を磁石などによってその進行方向を変えたとき設(Spring-8)は,光速近くまで加速した電子を磁石などによってその進行方向を変えたときに出てくる「強くて,平行性の高い光『放射光』を様々な分野で幅広く利用する施設」で,国内外の研究者に利活用されています。

▲Spring-8全景


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