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第2部   文教・科学技術施策の動向と展開
第7章  科学技術システムの改革
第2節  産学官連携による研究成果の社会への還元の推進
1  大学等の研究成果の社会への還元


 21世紀は「知の世紀」と言われており,「知」の創造とその活用を図ることが,「科学技術創造立国」,「国際競争力のある国」を実現するために必要であり,産学官連携はそのための取組として重要です。

 我が国における産学官連携は最近大きく進んでおり,例えば大学と産業界との共同研究数は5年で2倍以上となり,大学などの研究成果を産業界に移転する専門機関(技術移転機関(TLO)平成15年9月現在35機関)による特許実施許諾件数は約600件,大学発ベンチャー *1 数は531社と急増しています。しかし,世界でも最高水準にある我が国の大学の研究開発能力や欧米の大学の研究成果の活用状況にかんがみれば,必ずしも十分ではなく,今後の産学官連携の一層の推進が必要です。

 また,知的財産に関しては,科学技術創造立国の実現を目指す我が国としては,その取得,活用などを戦略的に進めていく必要性が広く認識され,平成14年7月に,政府の知的財産戦略会議において「知的財産戦略大綱」が決定され,14年12月には,「知的財産基本法」が制定され,国全体で取り組むという姿勢が明確にされました。さらに,15年7月に,同基本法に基づく具体的な実施計画を示した「知的財産の創出,保護及び活用に関する推進計画」が策定され,同計画に沿った具体的な取組が求められており,「知」の源泉としての大学が,知的財産の戦略的な取得・活用を進めるための環境整備を図ることが急務になっています(参照: 第2部第9章第5節 , 第2部第13章第1節2 )。


*1 大学発ベンチャー

 大学などの独創的研究開発を基に設立された新規企業。


(1) 産学官連携強化のための情報発信・交流の促進

{1}情報発信の充実

 産学官連携の強化を促進するためには,産業界と公的研究機関において共通認識の醸成を図ることが重要です。文部科学省では,新産業創出に寄与することを目的として,科学技術振興機構において様々な研究開発支援情報や研究成果情報をデータベース化 *2 し,インターネットを通じて幅広く情報提供を行っています。


*2 データベース化

 大量の情報を集め,いつでも検索できるようにすること。

{2}研究交流の促進

 文部科学省では,国立大学(平成16年4月より国立大学法人。以下同じ)や大学共同利用機関(平成16年4月より大学共同利用機関法人。以下同じ)については,学外の組織・機関との研究協力により提供される資金を有効に活用するため,以下のような施策の充実や制度の整備・改善などを図っています。

(ア)国立大学等の企業等との共同研究

 国立大学などの持っている研究能力と企業などが持っている技術力などを結集することにより,優れた研究成果が期待されることから,幅広い分野で実施されています。共同研究件数も年々増加しており,平成14年度には6,500件を超えました。

 また,企業などが国公私立大学と共同して行う試験研究などのために支出した研究費の一定割合が,法人税や所得税から控除される税制上の特例措置もあります。

 なお,文部科学省では,平成14年度から,科学技術振興調整費のプログラムの一つとして,企業などと大学など公的研究機関との共同研究を通じた,企業の問題意識やニーズ(需要)に基づく研究を促進するとともに,企業からの資金確保を促進するためのマッチングファンド 方式による共同研究制度を実施しています (図2-7-2)

(イ)受託研究

 企業や国の機関,特殊法人などが,国立大学などに対して研究を委託する制度です (図2-7-3) 。受託した国立大学などが,企業などが負担する経費で研究を行い,成果を委託者などに対して報告することによって,企業などの研究開発などに協力しています。

図2-7-2 国立大学等と民間企業との共同研究の現状

図2-7-3 委託研究の現状

(ウ)共同研究センター

 文部科学省では,これまでに46都道府県にある62の国立大学に共同研究センターを設置しており,これらは産業界との連携・協力に関する国立大学の窓口として機能するとともに,企業と行う共同研究などの実施の場となっています。また,企業の技術者に対する行動技術研修や研究開発に関する技術相談なども行い,地域産業との連携・協力やその活性化に貢献しています。

(エ)官民共同研究施設

 共同研究を促進するため,研究交流促進法が一部改正(平成10年8月)され,企業などが国立大学や国立試験研究機関の敷地内に共同研究施設を建てる場合の土地の使用料を軽減することが可能となりました。これに基づき,北海道大学,信州大学,東京農工大学の構内に共同研究施設が整備されました。

(オ)新しい形態の産学官連携手法の構築

 大学と産業界の連携・協力を一層推進するため,文部科学省では,平成11年度より,我が国の文化風土に対応した21世紀にふさわしい新しい形態の産学官連携手法の構築を目指したモデル研究を,大学と共同して行っています。

{3}人的交流の促進

(ア)国立大学教員等の民間企業役員兼業

 国立大学教員や国立試験研究機関,特定独立行政法人の研究公務員などの研究成果などに基づく知見を企業において生かせるように,人事院規則の整備により,次の場合に国立大学教員や研究公務員などが企業の役員を兼業することができるようになりました。

○技術移転機関(TLO)の役員
○教員や研究公務員などの研究成果を活用する事業を実施する企業の役員
○株式会社や有限会社の監査役

 上記のTLO又は研究成果活用企業の役員を兼業する場合は,代表権を有することもできます。さらに,研究成果活用企業については,本務を休職して役員の職務に専念することもできます。

 これら役員兼業は,人事院の承認を得て兼業に従事することとなっていましたが,人事院規則の改正により,平成14年10月からは,TLOや研究成果活用企業の役員兼業について,15年8月からは監査役兼業について,兼業の承認権限が人事院から所轄長の長等に委任され,その権限をさらに国立大学の長などに再委任することが可能となりました。

 また,構造改革特別区域において,内閣総理大臣が認定した構造改革特別区域計画に基づき役員兼業を行う場合,TLOや研究成果活用企業の役員兼業については平成15年4月から,監査役兼業については15年10月から,一定の条件の下,勤務時間内に兼業を行うことができることとなりました。

 平成15年7月現在,TLO役員兼業は66名,研究成果活用企業役員兼業は197名,監査役兼業は20名が承認を受けています。

(イ)技術コンサルティング兼業等

 国立大学教員や研究公務員などが,勤務時間外に許可を得て,企業の研究開発や研究開発に関する技術指導(技術コンサルティング)に従事することができるようになりました。また,平成12年度からは,国立大学教員や研究公務員などが,TLOが業務として行う技術コンサルティングを行うことができるようになり,14年からは,これらの者が営利企業の経営や法務に関する助言を行うことができるようになりました。

 さらに,平成15年4月からは,国立大学教員が,TLO関連や研究成果活用関連の非役員等兼業を行う場合,勤務時間内に兼業を行うことができることとなりました。


* マッチングファンド

 企業などからの資金提供を前提とする共同研究に対して,大学等の負担する経費を助成する仕組み。


(2) 大学等の研究成果の社会への還元の推進

{1}技術移転機関(TLO)

 平成10年8月に「大学等における技術に関する研究成果の民間事業者への移転の促進に関する法律」が施行されました。この法律は,大学などの研究成果の特許化や産業界への移転の促進を通じて,新たな事業分野の開拓や産業の技術の向上,大学などの研究活動の活性化を図ることを目的としています。同法に基づき,15年9月現在,35のTLOが承認されており,各地域において精力的な活動を行っています。

 また,平成11年10月に施行された産業活力再生特別措置法により,TLOの特許料などが2分の1に軽減され,12年4月に施行された産業技術力強化法に基づき,TLOが国立大学などの施設を無償で使用することができるようになりました。

{2}大学知的財産本部整備事業

 大学における特許などの研究成果については,平成16年度からの国立大学法人化に合わせ,現在の「国又は個人帰属」から「原則機関帰属」に転換されます。このため,文部科学省では,14年度から,大学知的財産本部整備事業として,34件のモデル整備機関と9件の「特色ある知的財産管理・活用機能支援プログラム」支援機関の選定を公募により行い,国公私立大学等における知的財産の創出・取得・管理・活用を戦略的にマネジメント(運営管理)できる体制の整備を進めています。

 このような体制整備により,産学官連携や技術移転の一層の推進が図られ,大学などにおける新たな研究開発が進められるとともに,大学などで生み出される優れた知の活用を通じて我が国経済の活性化が実現されることが期待されます。

{3}産学官連携支援事業

 文部科学省では,平成14年度から,産学官連携を推進する際に不可欠な各種専門知識を有する人材を,大学などのニーズに応じて配置する産学官連携支援事業を行っています(15年9月現在で102名派遣)。

{4}科学技術振興機構の技術移転事業

 科学技術振興機構では,大学や公的研究機関などの優れた研究成果の発掘・特許化の支援から,実用化が著しく困難なものについて実用化開発に至るまでの一貫した取組を推進しています。

(ア)研究成果の権利化

 大学などの研究成果の知的財産化(特許化)を促進するために,平成15年度から,大学,公的研究機関,TLOなどにおける戦略的な特許取得支援のための事業(技術移転支援センター)を行っています。

(イ)研究成果の基礎段階から育成段階での取組

 平成14年度から,従来の事業を整理し,研究成果の掘り起こしから実用化までを技術移転プランナー の一貫したサポートの下で行う研究成果最適移転事業を新たに立ち上げました。同事業では,研究成果の育成段階に応じて,共同で試作品開発を行ったり,ベンチャー起業に向けた実用化研究などを行っています。

(ウ)実用化段階での取組

 大学や公的研究機関などの優れた研究成果のうち,実用化が著しく困難なものについては,企業に委託することにより新技術の開発を行う委託開発事業を行っています。

{5}大学発ベンチャー創出支援制度

 大学発ベンチャー創出を促進するため,文部科学省では,平成14年度から,大学等の研究者などが行う研究開発などのうち,起業後に一定の成果をもたらすと期待されるものについて必要な資金を助成しています。なお,15年度新規採択分からは,科学技術振興機構において実施します。

{6}国立大学等の施設の使用

 国立大学などの研究成果を活用した事業(創業準備を含む)を行う中小企業又は個人(「大学発ベンチャー」)に対し,平成14年度6月から,事業に利用する目的に限り国立大学などの施設の使用が可能になりました。

{7}新興分野における人材養成(知的財産)

 我が国では,知的財産の確保・活用に精通する人材の不足が従来より指摘されていました。そのため,文部科学省では,平成14年度から,科学技術振興調整費の新興分野人材養成プログラムの一つとして知的財産の確保・活用に関する専門知識を有し,将来,研究現場などにおいて専門的業務を担うことができる人材などの養成を実施しています。

{8}公私立大学の設置者や国公私立大学教員の特許料等の軽減

 大学などの研究成果が企業で活用されるためには,研究成果を特許という形で自主的かつ積極的に取得していくことが必要です。そのため,産業技術力強化法に基づき,公私立大学の設置者や国公私立大学教員に関する特許料などを2分の1に軽減しました。なお,国立大学の法人化に伴い,従来「国」であった国立大学が国としての優遇措置を受けることがなくなることとされますが,平成16年度からの3年間は,経過措置として従来と同じ扱い(特許料を免ずる)を受けることとされています。

{9}構造改革特区における研究交流促進法の特例

 研究交流を一層促進することによって,地域における経済の活性化に貢献するために,文部科学省では,構造改革特別区域法(平成14年12月)において,研究交流促進法に関する特例措置を講じました。

 これは,特区内の国有の試験研究施設などを廉価で使用できる対象を拡大するとともに,施設の使用に際する要件の緩和を図るものです。これらによって,地域における研究交流の一層の促進が期待されます。


* 技術移転プランナー

 実用化の観点から研究成果の技術調査,特許調査,市場調査などを実施し,当該研究成果の最適な技術移転方策を策定する人(目利き)。


(3) 産学官連携に関する最近の動き

{1}大学発イノベーション 推進会議

 大学を核とする産学官連携を着実に推進するとともに,今後の体系的な政策形成に資するため,国公私立大学・高等専門学校,TLOなどの関係者による連絡会議を平成15年2月に東京で開催しました。同会議では,産業界からの参加も得て,産学官連携施策について意見交換を行いました。

{2}科学技術・学術審議会

 科学技術・学術審議会技術・研究基盤部会産学官連携推進委員会の下に,組織的管理・活用を視野に入れた大学などにおける知的財産の取扱いについて調査検討する「知的財産ワーキング・グループ」と,産学官連携に関する「利益相反」(責任ある地位に就いている人間の個人的な利益と公的な責任との間に生じる衝突)問題について調査検討する「利益相反ワーキング・グループ」を平成14年5月に設置し,14年11月に報告書を取りまとめました。また,産学官連携推進委員会においては,大学などと社会の発展のための新たな産学官連携の在り方について検討を行い,15年4月に「新時代の産学官連携の構築に向けて」(審議のまとめ)を取りまとめました。

{3}その他

 産学官連携については,文部科学省のみならず,政府全体として取組が進められており,企業・大学・行政の代表者約1,000人以上が参加した内閣府などの主催による「第2回産学官連携サミット」,「第3回産学官連携サミット」がそれぞれ平成14年11月,15年11月に開催されたほか,15年6月には,全国から企業・大学・行政の代表者や第一線で活躍する研究者や実務家が約4,000人以上参加した「第2回産学官連携推進会議」が京都で開催されました。なお,「第2回産学官連携推進会議」では,産学官連携活動で著しく成果を収めた事例に対し「第1回産学官連携功労者表彰」を行い,文部科学省は主催省の一つとして,3事例に対し文部科学大臣賞を授与しました。


* イノベーション

 生産技術の革新だけでなく,新商品の導入,新市場・新資源の開拓,新しい経営組織の実施などを含む概念。


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