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第2部   文教・科学技術施策の動向と展開
第6章  科学技術の戦略的重点化
第2節  ライフサイエンス分野の研究開発の重点的推進
1  ライフサイエンス分野の主要な取組


 ライフサイエンスは,生物が営む生命現象の複雑かつ精緻なメカニズムを解明する科学であるとともに,その成果を医療,環境,農林水産業等の種々の分野に応用するための科学技術であり,国民生活の向上及び国民経済の発展に大きく寄与するものです。科学技術基本計画においても,ライフサイエンスは,重点的に推進する必要のある科学技術分野の一つとして位置付けられています。総合科学技術会議では,「平成14年度の科学技術に関する予算,人材等の資源配分の方針」において,ライフサイエンスを,特に重点を置いて,優先的に研究開発資源を配分する分野の一つとして掲げるとともに,平成13年9月にライフサイエンス分野推進戦略を策定しました。また,科学技術・学術審議会においても,「科学技術・学術振興に関する当面の重要事項について」が取りまとめられ,タンパク質の解析や生物遺伝資源の収集,提供などについて,特に重点的に推進すべきであるなどの考えが示されました。

 これらを受けて,文部科学省では,理化学研究所,大学等の研究機関や科学技術振興事業団等において基礎的・先導的な研究の推進及び研究支援業務を実施するとともに,関係省庁の施策の総合調整を行うなどによりライフサイエンスの総合的な推進に努めています。他方,平成13年5月の米国経済スパイ法違反等の容疑による理研研究者起訴問題等を踏まえ,先端的な研究成果の適切な取扱いについての基本的な方針を定める必要性が高まっていることから,今後具体的な検討を行うこととしています。


(1) ライフサイエンス分野の最近の研究動向について

 平成12年6月に,人間の遺伝情報であるヒトゲノムの解読作業を進めてきた日米欧などの科学者の共同チームである国際ヒトゲノムシーケンス決定コンソーシアムが,ヒトゲノムの全塩基配列の約90%の概要解読を終了したことを発表し,13年2月には,その概要解読の解析結果を発表しました。我が国は,理化学研究所ゲノム科学総合研究センターが慶応義塾大学医学部やドイツの研究グループと共同で解析を進めていたヒトの21番染色体について,DNA塩基配列の精密な解読を完了するなど,その成果が高く評価されています。同コンソーシアムでは今後も解読を続け,遅くとも15年春までにヒトゲノムの30億の塩基配列の精密な解読を終了することを目標にしています。

 また,ゲノムの塩基配列の解読完了に続き,いわゆるポストゲノム時代が幕を開けました。平成12年12月に科学技術会議政策委員会ポストゲノムの戦略的推進に関する懇談会では,「ポストゲノム戦略の推進について」を取りまとめました。文部科学省においては,本戦略を踏まえて,タンパク質の構造・機能解析等のポストゲノム研究の推進に努めています。


(2) ゲノム科学研究の推進

{1} タンパク質の構造・機能解析の推進

 タンパク質の構造・機能解析は,その研究成果が医療への応用や産業利用へ直結することから,ヒトゲノム塩基配列の解読後におけるポストゲノム研究の中でも最も重要な分野の一つであり,我が国では今後5年間で1万〜1万2,000種といわれるタンパク質の基本構造の3分の1以上を解析することを具体的な目標として掲げています。

 我が国においては,世界有数の設備であるNMR(核磁気共鳴装置)やSPring-8(大型放射光施設)が稼働しており,産・学・官の研究能力を結集して効果的かつ迅速な構造解析を進めるとともに,タンパク質の機能解析等の研究も進めています。

{2} バイオインフォマティクスの推進

 近年のゲノム科学研究によってゲノム関連情報が大量に産出され,国民生活に直接役立つ素材として注目されていますが,今後は,これを役立てる手段としてのライフサイエンスとIT(情報技術)との融合分野であるバイオインフォマティクスの発展が必須です。このため,平成13年度に,科学技術振興事業団に新たにバイオインフォマティクス推進センターを設け,データベースの高度化・標準化・拡充や,生物系と情報系の研究者の協働によるゲノム解析ツール開発等を実施しています。また,国立遺伝学研究所が運営するDDBJ(日本DNAデータバンク)をはじめとするゲノム関連データベースの整備を進めています。

{3} 遺伝子多型研究の推進

 疾患遺伝子の解明に基づくテーラーメイド医療の実現を目指してミレニアム・ゲノム・プロジェクトの一環として,平成12年度から東京大学医科学研究所と科学技術振興事業団との共同で一塩基多型(遺伝情報の個人差,SNPs)の探索が行われており,13年10月,当初の目標である15万箇所のSNPsが見出されたところです。また,当該データベースを整備するとともに,理化学研究所の遺伝子多型研究センターにおいて,その標準多型データベースを利用した疾患関連遺伝子の探索を実施しています。本プロジェクトにより,16年度までに糖尿性腎症,心筋梗塞,関節性リウマチ,変形関節症などの疾患遺伝子の同定を目指しています。さらに,科学研究費補助金特定領域研究(C)において,本分野における大学等の基礎研究の重点的な推進を図っています。


(3) 脳科学研究の推進

 脳は,多くの可能性を秘めている大きなフロンティアです。文部科学省では,「脳に関する研究開発についての長期的な考え方(平成9年5月科学技術会議ライフサイエンス部会脳科学委員会)」等を踏まえ,理化学研究所の脳科学総合研究センターや,科学技術振興事業団の公募型研究推進事業を活用し脳研究を推進しています。また,ミレニアム・ゲノム・プロジェクトの一環として,科学研究費補助金の特定領域研究(C)において大学等における本分野の基礎研究の重点的な推進を図っています。平成13年度には,理化学研究所においてアルツハイマー病の原因物質であるβアミロイドを分解する酵素を同定するなど原因解明に大きく貢献する成果をあげました。


(4) 発生・分化・再生科学研究

 発生・分化・再生領域の研究は,高次の生命現象が生み出される基本メカニズムの解明等を通じて,生命の発生・再生の複雑なメカニズムを総合的に理解し,疾病等の克服を目指すものです。特に,近年の幹細胞研究の急速な進展や,ヒト胚性幹細胞(ES細胞)の作成技術の確立に伴い,拒絶反応のない細胞移植技術の開発(骨髄,皮膚等)等,移植・再生医療面での応用の可能性が開けてきています。

 このため,生物の発生・分化・再生の基本メカニズムを解明し,先進的な再生医療に資するため,ミレニアム・ゲノム・プロジェクトの一環として,理化学研究所に発生・再生科学総合研究センターを設置するとともに,未来開拓学術研究推進事業により大学等における発生・分化・再生研究の推進を図っています。


(5) 植物科学研究の推進

 ゲノム科学の発展に伴い,植物ゲノムの構造解析・機能解析も進展しつつあり,これらの成果を元に植物機能をコントロールすることにより,食生活の向上等に資する植物を開発することが期待されています。

 このため,ミレニアム・ゲノム・プロジェクトの一環として,理化学研究所に植物科学研究センターを設置し,アレルゲンフリーの高機能作物や低農薬作物の開発に資する研究を開始しました。また,未来開拓学術研究推進事業により植物遺伝子研究の推進を図っています。


(6) 免疫・アレルギー・感染症研究の推進

 免疫・アレルギー疾患は国民の3分の1が悩む疾病であり,現在の対症療法にも限界が見られていましたが,近年の科学技術の進歩による新たなアプローチによる研究が期待を集めています。

 文部科学省では,21世紀の我が国の高齢化社会の医療的基盤の高度化に資するため,平成13年度より,理化学研究所に新たに免疫アレルギー科学総合研究センターを設置し,免疫のシステムの基礎的・総合的な解明を開始しました。また,科学研究費補助金特定領域研究(C)に領域「感染の成立と宿主応答の分子基盤」を設定して,大学等における感染症・免疫に関する基礎研究の重点的な推進を図っています。


(7) がん関連研究の推進

 がんは我が国の総死亡数の約30%を占めており,現在,「がん克服新10か年戦略」として,がんの本態解明及びその研究成果を生かした新しい予防法・診断法・治療法の開発を進めています。本戦略の下で,文部科学省においては,放射線医学総合研究所で難治性がんに対する画期的な治療法として期待されている重粒子線がん治療装置の臨床試験を行っています。また,ミレニアム・ゲノム・プロジェクトの一環として,科学研究費補助金特定領域研究(C)により,大学等における本分野の基礎研究の重点的な推進を図っています。また,平成13年8月には厚生労働省と連携して「今後のがん研究のあり方に関する有識者会議」を設置し,がん研究の中長期的な方策についての検討を開始しました。


(8) バイオリソースセンターの整備

 ライフサイエンスの研究開発に不可欠な実験動植物等の実験材料の収集,保存,提供及びそれに関する技術の開発を行うため,ミレニアム・プロジェクトの一環として,理化学研究所にバイオリソースセンターを設置し,国内外の関係機関等とも連携を取りつつ基盤整備を推進しています。


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