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第1部   21世紀の教育改革
第8章  諸外国における教育改革
第2節  教育改革の具体的展開
3  高等教育



(1) 高等教育の拡大と財政負担の問題

 知識社会への移行と経済のグローバル化,科学技術の急速な発展が進む新しい時代を迎え,各国で高度な人材の養成と先端的な研究の推進など,時代を開拓する知的分野における高等教育の役割が重要さを増しています。我が国は,こうした新しい時代を「知的活動の一層の強化のための高等教育の構造改革が強く求められる時代」と認識し,世界水準を目指す高等教育改革を進めようとしていますが,我が国のみならず,いずれの国でも高等教育の改革は重要課題であり,これを拡大し,教育研究を活性化,高度化しようとする政策が展開されています。

 高等教育の拡大については,アメリカや我が国は比較的早くから進学率が上昇し,1970年代には同世代の3割,4割を超える多くの若者が進学し,現在は5割近くになっています(フルタイム進学率)。アメリカでは,同世代のすべての若者が進学できる高等教育全入も構想として打ち上げられています。この点,ヨーロッパ諸国では拡大がやや遅れ,1980年代でも2割程度の進学率でした。しかし,イギリスやフランスでは1980年代後半から政府の拡大政策がとられて急速な拡大が進み,今やアメリカや我が国と同水準にまでなっています。ドイツでも現在進学率は3割を超えています。

 また,韓国では大学・短大への進学率が約7割と拡大を遂げ,進学率5%で推移していた中国も数年来拡大を進め,5年後には同世代の15%が高等教育を受けられるようにする計画を発表しています。

■図1-8-1■日,米,英,仏,独の高等教育進学率

 こうして各国の高等教育は,かつてのエリート段階からいわゆる「大衆化・普遍化」の時代を迎えるようになりました。

 このように規模拡大した高等教育を抱えるようになった国は,国と地方の公財政中心で支えてきた高等教育財政の在り方を見直す必要に迫られています。

 改革の一つの方向は,国・地方の予算を効果的に配分することで,これは高等教育機関から見れば,効率的な運営を行い,予算配分に見合った成果を目に見える形であげるという考え方です。アメリカやイギリスでは,一定の業績に基づいて予算配分を行っています。フランスでは,国が大学と契約を結び,教育研究に関する契約内容を履行することを条件とした国家予算を4年単位で決める政策も実施されています。中国では,「211工程」と呼ばれる,特定の一部大学に重点配分する計画が行われています。

 第二の方向は,民間資金の活用です。授業料もその一つで,イギリスでは1998年からそれまでなかった学生の授業料を導入し,アメリカの州立大学でも1990年代前半州財政の悪化に伴い授業料を大幅に引き上げました(1985年から95年までに倍増)。ドイツでも,近年,無償制を維持すべきかどうかの議論が活発になり,長期在学者など一部学生に授業料を課す州も出ています。中国でも1989年に無償制を廃止しました。

 企業や民間研究機関などからの資金提供を受けて研究や人材養成を行う産学提携は,教育研究面での経済への貢献として各国で積極的に評価されるようになっていますが,資金面で見れば,大学の貴重な財源となりつつあります。


(2) 教育・研究の活性化・高度化と説明責任の重視

 高等教育の拡大は,財政問題だけでなく,学生の増加による教育の質の低下への懸念も生じさせています。10年間で入学者数が2倍に増えたフランスの大学では,成績不振のために4〜5割の学生が2年間の前期課程ののち後期課程に進めない事態となり,このためチューター制の導入や基礎学力の指導強化など前期課程の改善充実を,高等教育改革の最優先課題として行っています。

 アメリカでも,学力が不足する学生に高校レベルの内容の授業を行う補習教育プログラムを提供する大学が既に7割以上に上るとされ,最近,その受講者の増加に大学の負担が限界になり,補習教育プログラムの縮小を検討する大学も出てきています。1990年代半ばまでの15年間で学生数が倍増したイギリスでも,教育の質向上のため,教員の教授能力向上を図る訓練プログラムを開発する専門機関を設置しています。

 一方,高等教育機関の「知の貢献」への期待が高まる中で,教育・研究の成果に対する説明責任を重視する傾向が強まっており,それを通じて,教育・研究の活性化・高度化を促す施策が展開されています。その一つが,大学評価の実施・強化です。多くの国で政府又は第三者機関による大学評価が,1980年代から90年代初めにかけて実施されるようになりました。このうち,アメリカやイギリス,韓国ではその結果が予算配分に反映されていますし,近年高等教育改革が本格化してきたドイツでも,これを検討しています。

 教育・研究の活性化・高度化のためのこうした施策は,別な見方をすれば「競争的環境を形成する」ということです。先に述べた大学評価の結果を予算配分に反映させる方法や,中国における重点投資計画である「211工程」もそうした性格を持つものです。さらに,我が国や中国,韓国では,高等教育機関の多様化や個性化を促しており,これもそうした競争的環境形成の流れとしてとらえることもできます。中国では,1998年国公立大学の法人化が法制化されました。


(3) 大学入試の競争緩和

 大学入試を巡る競争は,欧米諸国ではさほど大きな教育問題として意識されておらず,この問題はむしろ我が国や中国,韓国といったアジアの国々に共通する問題と言えるかもしれません。

 もちろん,欧米でも有名大学に入学するためには十分な学力とそのための厳しい準備が求められますが,それが一般の教育問題として意識されないのは,一定レベル以上の大学では格差がさほど大きくなく,入学後の編入学も比較的容易なため特定の大学に希望者が集中しないフランスやドイツなどのように,入学資格を取得すれば,原則として無選抜で大学に入学できる入学制度などが関係していると見られます。

 これに対して中国や韓国では,大学を目指す受験競争が激しく,受験偏重教育や過重な学習負担が長年問題となっています。中国では,受験参考書の自由出版や課外の進学塾,進学名門校への越境入学などを原則禁止しました。韓国でも一時期進学塾や家庭教師を禁止しましたが,大学入試に関しても大学別の学力試験を廃止して生徒の負担軽減を図るとともに,共通試験の採用や高校の活動記録の重視,面接の実施など多様な選抜方法を大学の判断で採用するようになっています。シンガポールでも大学入学に至る初等中等の各段階で進学コースなどのコース振り分けが行われ,競争選抜は厳しいものとなっています。これらの国では競争の緩和のための施策を様々に工夫していますが,現在でも教育政策の上で大きな課題となっています。


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