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第1部   21世紀の教育改革
第8章  諸外国における教育改革
第2節  教育改革の具体的展開
2  初等中等教育



(1) 教育内容・方法の改善

 多くの国で初等中等教育の大きな目標となっているのは,子どもの学力向上,教育水準の向上です。

 アメリカやイギリスでは,これまで州や国レベルの明確な教育課程の基準がなく,過度の多様性によって共通の学力水準が保障されていませんでしたが,学力向上の観点から教育課程の共通化・基準化を図りました。アメリカは,1990年代に入って各州が教科(通常英語,数学,社会,理科の4教科)ごとに履修する教育内容や達成水準について基準を定めた「教育スタンダード」を制定するようになりました。イギリスでも,1989年,初めての国の基準である「全国共通カリキュラム」を導入しました。これは義務教育終了(11学年)までの必修10教科(のち2教科追加)について達成すべき水準を定めたものです。さらに両国とも,この基準を基に,州又は全国共通のテストを実施して,その習得状況を確認するとともに,これを公表し,学校ごとに成績が分かるようにしています。

 他方,教育内容や方法を多様化することで学力向上を図ろうとする国もあります。フランスでは,伝統的に留年や中退が多く,1990年頃は小学校で4人に1人が留年を経験しているといわれていました。この学習不振児童の学力向上のため,補習時間の設定や授業単位時間の弾力的設定,個別指導の強化など,子どもに応じた多様で柔軟な教育を進めようとしています。

 シンガポールでは,効果的な学力向上を図るため,小学校から早期のコース分けや英才コースを設けています。

 また,我が国や韓国では,個性尊重の観点から多様で弾力的な教育の実現を目指しています。例えば,韓国では数学や英語で学年制を取り払って水準別に学級編制し,その他の教科も3種類の水準の教育課程を用意して,習熟度によってそれぞれ履修させるとの改革を2000年度の新教育課程から実施しました。

イギリス教育技能省『全国共通カリキュラム』

■小学校でABC──早まる英語教育

 「はあい,大きな声でAN APPLE」若い女性教師が小学校1年生のクラスで,子どもたちに初めての英語を教えていました。上海市で初めてできた私立小学校を見学した1993年のことです。国際都市上海では当時も英語学習熱は高く,この私立学校は1年生からの英語をいわば目玉として子どもを集めようとしたのです。

 上海市では,その後公立学校でも英語を始めるところが増え,1999年には市が3年生からの英語を必修にしました。北京市など他の多くの大都市でも同じように小学校の英語を開始し,こうした実績の上に,政府は2001年1月これを全国に拡大し,3年から必修で英語を実施すると発表しました。

 これより先,韓国でも1997年から小学校3年からの英語教育を必修化しました。マレーシアやシンガポールの小学校でも早くから英語教育を行っています。

 ヨーロッパでも,小学校から英語を始める国が急速に増えています。フランスでは,1995年から国語の時間を利用して2年生から外国語を実施してもよいことになり,現在5年生の8割が外国語の授業を受けていますが,大半は英語のようです。ドイツの小学校でも州ごとに必修・選択あるいは課外活動など様々な形で英語学習が実施されるようになっていますし,イタリアでも1992年に小学校2年から英語を含む外国語が導入されました。その他のヨーロッパ諸国でも英語学習を小学校から始める国が増えています。

 ヨーロッパのこうした動きはEU統合が大きな影響を与えていることはもちろんですが,ヨーロッパだけでなく,アジアも含め,国際化の急速な進展の中で英語学習を重視し,早期から学ばせる傾向はますます強まっています。


(2) 学校選択の拡大

 アメリカやイギリスでは,1980年代から学習の成果を学校間で競わせ,その結果を生徒や保護者に選択させるという観点で,学校選択が行われています。学校ごとに通学区域が定められており,通学すべき学校が地方教育委員会によって指定されますが,通学区域以外の学校を選択することもできるようになっているのです。アメリカの州によっては市町村の区域を超えた学校選択も認められるようになっていますし,イギリスでは希望者ができるだけ入学できるよう,入学定員を最大限に設定するよう指導されています。

 フランスやドイツでは学校選択は一般には行われていません。

■どこの学校にしようかな(学校選択)

 ロンドン郊外の住宅地に住んでいる初等学校6年生のピーター君は9月から通う中等学校をどこにしようか,ちょっと迷っています。ママは全国テストで最近成績をめきめき上げている近くのA校がいいと言ってもう決めてしまっているようです。パパは,試験を受けて隣町の進学校のB校(グラマースクール)に行ったらどうだと言います。ピーター君自身はといえば,親友のボブと一緒にラグビーの強いC校に行きたいと思っていて,みんなそれぞれ意見が違うから,ピーター君の悩みはなかなか解決しません。

 イギリスの公立学校では通学区域が決まっていて,子どもたちの多くはその学校に通っていますが,通学区域外の学校を選ぶこともできます。そこで入学・進学を前にしたピーターのような子どもを抱えている親は,学校についていろいろな情報を得て子どもにふさわしい学校を探します。学校を訪問して校長先生の話を聞いたりもします。

 また学校の側から見ますと,校長先生が地域や親と相談して教育方針を決めたり,先生を採用したりしていますので,学校によってはテストが多かったり,課題学習が盛んだったり,スポーツや芸術活動が得意だったりと,ずいぶん違うこともあります。全国テストの成績も学校ごとに発表されますので,その成績なども学校を選ぶ際に参考にされます。

 学校は希望者がなるべく入れるように,定員をできるだけ多く設定するよう決められています。

 それでも希望者が定員を超えたときは,通学区域内に住んでいるか,兄弟がすでに入学しているかなどの幾つかの基準で入学者を調整しています。

 また中等学校は一般には無選抜ですが,一部の,例えば進学校であるグラマースクールと呼ばれる学校には,学力試験による選抜も認められています。


(3) 学校の裁量権拡大と説明責任の重視

 学校の管理運営面についても,我が国を含めた多くの国で,学校の裁量権拡大,保護者や地域住民の運営参加,そして学校の教育運営に関する結果を問う説明責任(accountability)の重視という傾向が見られます。

 この面でもアメリカやイギリスの動きが目立っています。アメリカでは予算や教員人事,教育課程の編成に関する裁量権を拡大した「自主的運営」(SBM:School Based Management)を認める州や学区が出てきており,さらに学力不振の生徒など既存の公立学校では対応が難しい生徒などを対象に,親や教員が州や地方と契約を結び,独自の運営を認められて教育を行う「チャータースクール」が全国に広まりつつあります。2000年で約2千校,全体の2%にすぎませんが,ブッシュ大統領もその推進を支援しています。イギリスでも,学校が教員人事や予算運用をほぼ掌握する「自主的運営」(LMS : Local Management of Schools)が1980年代末からすべての公立学校で行われるようになりました。また,いずれの国でもその運営に保護者や地域住民が参加しています。

 こうした裁量権拡大によって創意工夫が学校ごとに促されると同時に,その結果が説明責任として厳しく問われるようになりました。教育課程の基準の習得状況を見る州や全国テストの結果などを基に,学校監査や評価が行われ,成果があがらなければ,問題校として教育委員会から改善指導がなされます。改善が見られない場合は,教職員の大幅入替え,廃校のほか,民間会社への運営委託(イギリス)といった措置もとられています。

 一方,我が国でも学校評議員制度ができましたが,韓国では1996年から国公立学校に学校運営委員会が設置され,保護者や地域住民が加わって運営の重要事項を審議することになり,学校独自で校長や一部教員の選考ができるなど,学校の権限が強化されました。


(4) 心の教育

 私たちが豊かな文明を享受し,快適で便利な物質生活を過ごす一方で,社会のモラルの低下や犯罪の増加などの「心の荒廃」が表れ,それが子どもに投影して「子どもの荒れ」を生んでいることは,我が国だけでなく,先進国共通の問題となっています。

 いじめ,校内暴力の広がりや不登校といった学校内の問題にとどまらず,薬物乱用や性の逸脱行動,犯罪の増加といった非行問題も増えています。こうした深刻な状況を前に,子どもの心の健全な成長のための教育への関心が高まっています。

 もとより子どもの人格形成や道徳・社会性を育てる教育については,各国において学校教育の役割に違いがあります。例えば,宗教教育を認める国も認めない国もあります。しかし,そうした違いを越えて,今日,多くの国で子どもの心の成長や社会規範・モラルの涵養(かんよう)における学校教育の役割に対し,期待が高まっていますし,これにこたえて積極的な取組も見られます。

 アメリカでは近年,ボランティア活動が学校教育の一環として積極的に取り入れられており,ボランティア活動を卒業要件として義務化する州や地方もあります。イギリスやフランスでは社会の構成員として身に付けるべき規範や知識を教える公民教育を強化しており,特にイギリスは2000年から全国共通カリキュラムに公民教育を必修教科として組み入れました。フランスの小中学校も公民教育が必修ですが,これを高校でも必修とするなど一層充実させる方針が示されています。また,宗教教育はイギリスやドイツで必修として行っています。

 一方,アジアの中国や韓国では,徳育を学校教育の中で非常に重視してきていますが,国家建設への国民の団結の必要性や子どもを巡る状況の深刻化などを背景に,一層強化しています。特に中国では愛国主義教育の推進,韓国ではボランティア活動などの実践への重視がうかがわれます。


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