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第1部   21世紀の教育改革
第8章  諸外国における教育改革
第1節  教育改革の世界的潮流
3  教育改革の目標



(1) 国家戦略としての教育改革

 各国がこのような大きな共通の時代背景を持ちながら進めようとしている教育改革について,国家政策の中の位置付けを見るとき,「国家戦略としての教育改革」という共通の性格が見て取れます。それは,現代の教育改革の大きな特徴と言えるでしょう。

 各国がグローバルな経済競争にさらされ,その厳しい競争に打ち勝とうとするとき,その勝利を決定する要因は資本や生産・流通システムだけでなく,高度な知識・技能,そしてそれを生み出し活用する人材の質と量であるという認識,すなわち,「知識社会」は人材競争の時代であるという認識が広がっています。そうした認識に根ざした,社会経済発展のための戦略的政策としての教育改革は,既に1980年代の教育改革の当初から各国で明確に方向付けられています。アメリカやイギリスは国際競争力向上のための「教育水準の向上」を打ち出し,フランスも「科学技術立国」政策の中に教育改革を組み込み,さらに中国も「科学技術と教育による国家振興(科教興国)」というスローガンを使っています。我が国も21世紀に臨んで「あらゆる社会システムの基盤」としての教育改革を訴えています。

 こうして,教育改革は各国の国家政策の中で極めて高い優先課題として位置づけられ,その推進に対し,経済界だけでなく,国民の幅広い支持を集めていると言えましょう。


(2) 改革が目指すもの

 それでは,各国はこうした高い優先課題とされた教育改革をどのような方向に導いていこうとしているのでしょうか。その具体的な目指す方向を見ると,各国の教育の歴史や伝統,制度的な仕組みの相違などを背景として,必ずしも同じ方向を向いているとは言えない改革もありますが,おおむね次のようなことが指摘できます。

 第一は,学力の向上です。このことは,基礎学力への危機意識を出発点として教育改革が提起されたアメリカとイギリスで極めて明確に示されていますが,フランスでもこの学力向上が第一の目標です。アメリカやイギリスではこのために,教育課程の共通化・基準化を図る一方,その達成に向けて学校の創意工夫を重んじ,自主性を拡大し,同時に学力向上がどの程度達成されたか学校の責任を問うという手法を取っています。他方,フランスでは,子どもに応じた多様な教育を志向しており,中国や韓国,シンガポールでは,創造力の育成を重視する観点からの教育課程の多様化が進められ,我が国でも学習内容を精選し基礎基本を徹底した上で「生きる力」の育成や個性の伸長を図る観点から教育課程の多様化が進められています。

 このように同じ学力向上を目標としながらも,教育課程については,一見すると,共通化と多様化という方向の違いが見られます。しかし,これは,アメリカやイギリスでは過度の多様化が,我が国を含むアジア諸国では過度の画一化が問題になっていたという,そもそもの出発点が異なるためであり,どちらも「基礎基本の着実な習得のうえに個性や創造性を伸ばす」という同じ着地点を目指していることには変わりはないと言えましょう。

 また,学力を,読み書き計算だけでなく,これを基礎とする問題解決能力や考える力,創造性を含めてとらえる新たな学力観が,我が国だけでなく,例えば,OECDにおける「生きる能力(life skill)」「教科横断能力(cross-curricular competency)」の研究や中国の「資質教育」,シンガポールの「考える学校,学ぶ国民」(thinking school, learning nation)などにも見られます。

 第二は,社会性の涵養(かんよう)です。子どもの心の荒れが多くの国で問題化している今日,これに学校教育の中でもきちんと対処していこうとする姿勢は各国で強まっており,アメリカやイギリス,フランスでは公民教育,ボランティア教育の推進などで社会の構成員たる資質としての規範意識やモラルを形成しようとしています。我が国は「心の教育」によって,豊かな人間性をはぐくもうとしていますが,中国や韓国の徳育重視といい,共通する方向性が見られます。

 第三は,高等教育の規模拡大と質の維持向上です。進学率が大きく向上し,50%前後の「大衆化・普遍化」時代を各国が迎えつつありますが,このように拡大した高等教育の経費をだれが負担するか,また,社会経済の発展に対して知的な面での貢献がますます求められるようになった今日,教育と研究の質をいかに維持向上させていくか,が我が国を含む各国の極めて切実な課題となっています。

 第四は,生涯学習社会の構築です。教育や学習が若いうちに受ける学校教育に終わるものではなく,生涯を通じて行われるべきものであるという生涯学習の考え方は,今や各国が共有するところとなっています。我が国と同じように,生涯学習社会の実現に向けた政策を明確に打ち出している国にはイギリスや韓国があります。その他の国もこれに取り組んでいますが,概して義務教育後の職業教育・訓練に重点を置く欧米諸国と,それだけでなく趣味・教養を含めて幅広くとらえる我が国とはその政策に若干の違いが認められます。しかし,生涯学習にITを取り込んで,広範柔軟に機会を拡大する動きは各国で積極的です。


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