今後、公共部門や製造業はじめ様々な業界・業種で生成AI技術をはじめとする高度AI技術の利活用が進むと見込まれており(第1-5-1図)、効率性や生産性の向上、新たな価値の創出が期待されるとともに、産業構造や働き方、雇用市場等への影響についても様々な分析がなされています(※1)。そのような状況の中、行政事務や行政サービス、知識労働分野等での活用可能性を検証する様々な実証研究が始まっています。また、AIによる社会の便益を増大させ、より多くの人が恩恵を享受できるようにすることを目指した検討や実証も進められています。本章では、行政府や民間企業等における高度なAIの利活用に向けた取組事例を紹介します。
1.行政事務での活用に向けた取組
中央省庁における業務での生成AIの利用については、デジタル社会推進会議で「ChatGPT等の生成AIの業務利用に関する申合せ」を策定し、各府省庁のセキュリティポリシーに従って個別にリスク管理を行っていることを前提とした上で、生成AIを巡る様々な課題や規制の在り方を巡る議論の動向等を踏まえながら適切な利活用を進めています。また、デジタル庁は、令和5年(2023年)6月から10月に生成AIを利用した法制事務補助の実験を実施したほか、同年6月に内閣人事局とともに、「働き方改革促進のための生成AI活用ワークショップ」を開催するなど、生成AIによる行政運営の効率化、行政サービスの質の向上に向けた検討や試行的取組を進めています。
地方公共団体でも、生成AIの活用に向けて、ガイドラインの整備や試行的な取組が始まっています。例えば、東京都では、令和5年(2023年)8月、職員向けに「文章生成AI利活用ガイドライン」を作成するとともにMicrosoft社が提供するサービスを業務利用できる環境を整え(※2)、さらに活用事例の共有(※3)も行いながら、業務効率化、質の向上に資する利活用の取組が進められています。また、令和5年(2023年)10月、日本電気株式会社(NEC)は、自社で開発した大規模言語モデルの自治体業務における活用に向けて、相模原市と協定を締結しました。相模原市が保有する知見を用いて個別の調整等を行いながら、相模原市の自治体業務に特化した大規模言語モデルを構築し、同年11月から実証実験を開始しています(※4)。
2.行政サービスにおける活用に向けた取組
行政サービス利用者の利便性向上に資する高度AIの活用に向けた、試行的な取組も始まっています。例えば、株式会社サイバーエージェントの「AI Lab」及び「GovTech開発センター」と、東京大学マーケットデザインセンターは、令和5年(2023年)11月より、省庁や自治体向けとなる生成AIを活用したチャットボットの社会実装に向けた実証実験を開始しました。その一つ目の取組として、佐賀県佐賀市の協力の下、子供を保育施設に入れるために子育て支援の窓口に来訪した者の支援を行う、生成AIを活用したチャットボットの実証実験を行いました(※5)。
3.知識労働分野での活用に向けた取組
医療や金融などの知識労働分野における高度AIの活用に向けた取組も進められています。例えば、医薬基盤・健康・栄養研究所は、生成AIを活用した問診システム等、医療現場を支援する基盤システムの開発に着手しています(※6)。
また、株式会社日立製作所は、統合システム運用管理における生成AIの活用による、運用効率化・自動化に関する実証実験を開始しました。生成AIを対話形式で容易に利用できる生成AIアシスタントを用いて、運用オペレーターがシステム監視中に発生するメッセージに効率的に対応できるようになることを想定し、生成AIの応答内容の正確性などについて検証しています(※7)。 自動車のデザインにもAIの活用が始まっています。トヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)では、生成AIを活用した迅速かつ効率的なデザイン手法の開発に取り組んでいます。例えば、デザイナーが「なめらか」、「モダン」等のテキストでの条件(プロンプト)を入力すると、空気抵抗のような定量的なパフォーマンス指標を最適化する方向で画像生成AIがデザインを生成できることが発表されています(※8)(第1-5-2図)。
加えて、TRIはロボットに新しい器用なスキルを迅速かつ確実に教える、拡散モデルに基づく画期的な生成AIアプローチを発表しました。こうしたアプローチは、ロボットの実用性を大幅に向上させ、ロボットの「大規模行動モデル(LBM(※9))」の構築に向けた一歩となります。TRIは既に、液体を注ぐ、道具を使う、変形可能な物体を操作するなど、数多くの難易度の高い器用なスキルを、新しいコードを1行も書くことなくロボットに教えています(※10)。
4.更なる利活用に向けた取組
AIによる社会への便益を増大させ、より多くの人が恩恵を享受できるようにしていくためには、どうしたらよいでしょうか。
デジタル庁では、令和5年(2023年)12月、「AI時代の官民データの整備・連携に向けたアクションプラン」を取りまとめ、生成AIの急速な進展に対応するため、生成AIの学習に寄与する行政保有データのオープン化等について、検討を進めていくこととしています。
また、対話型生成AIなどのように専門家ではない人々でも利用できるインターフェースでのサービスの提供が広がったことで、いわゆる「AIの民主化」が起こり、誰もが活用できる身近な技術となりつつあります。そのような中、AIシステムの開発者だけでなく、幅広い世代や立場の技術・サービスの利用者も含め、AIの複雑性やブラックボックス性といった特性や、意図的な悪用の可能性もあることなどを認識しながら、責任ある行動をとることができるようなリテラシー教育の重要性が指摘されています(※11)。
文部科学省が令和5年度(2023年度)に指定した「生成AIパイロット校(※12)」の中には、中学校技術科の中で生徒が、生成AIを活用したオリジナルチャットボットを制作し、創造的な課題解決に生成AIが有用であることを体感する取組や、「幻覚(ハルシネーション)」を体験してその仕組みを理解しながら、正しい情報であるかを確認すること、生成する情報の精度を高めるためにデータを学習させる必要性を学ぶことなどの試行的な取組も生まれています。
2022年(令和4年)11月にOpenAI社(米国)から公開されたChatGPTは、チャットという使いやすいインターフェースを採用したことにより、利用者が急激に増加し、我が国でも極めて多くの人々が短期間に使用するという状況が発生しています。このようにAIを身近に活用できるという環境の変化は、教育分野にも急速に影響を与えています。
こうした状況を受け、学校関係者が生成AIの活用の適否を判断する際の参考となるよう令和5年(2023年)5月、文部科学省から各教育委員会等に対して、事務連絡「ChatGPT等の生成AIの学校現場の利用に向けた今後の対応について」を発出しています。その後、同年7月に文部科学省は「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」を公表しました。本ガイドラインは学校現場に一律の義務付けや制限を行うものではなく、令和5年(2023年)6月末日時点での知見を基に暫定的に取りまとめたものであり、「子供の発達の段階や実態を踏まえ、年齢制限・保護者同意等の利用規約の遵守を前提に、教育活動や学習評価の目的を達成する上で、生成AIの利用が効果的か否かで判断することを基本とする」という暫定的な考え方を示しています。当該ガイドラインでは、学習指導要領において「情報活用能力」が学習の基盤となる資質・能力とされていることを踏まえ、全ての学校を対象に「情報活用能力」の育成強化を求めているほか、生成AIを取り巻く懸念やリスクに十分な対策を講じることができる学校においてパイロット的な取組を推進し、知見の蓄積を進めることとしており、令和5年度(2023年度)には教育活動や校務において生成AIの活用に取り組む生成AIパイロット校を全国で37自治体・52校指定し、知見の蓄積を進めています(令和6年(2024年)3月末現在)。
また、高等教育段階においても、事務連絡「大学・高専における生成AIの教学面の取扱いについて(周知)」を、令和5年(2023年)7月に、各大学・高等専門学校の設置者に対して周知しています。この中では、「大学・高専における生成AIの教学面の取扱いについては、それぞれの教育の実態等に応じ、今後の状況変化を踏まえて指針等の内容を見直すことも含め、主体的に対応いただくことが重要」としつつ、大学・高専の対応の参考となるよう、生成AIに関して利活用が想定される場面例や留意すべき観点等についてまとめて周知し、各大学の自主的な取組を促しています。
(生成AIが生成したテキスト)
近年、AIとその応用分野である科学技術の進歩により、私たちの生活や働き方に大きな変化がもたらされています。AIの急速な発展により、自動化が進み、効率化が図られ、私たちの生活は便利になりました。また、新たな技術を生み出し、イノベーションを加速させるためにも、AIは活用されています。
しかし、こうした急速な発展には、倫理的・社会的な懸念も生じさせています。AIが私たちの価値観やプライバシーを侵害したり、雇用の不平等を引き起こしたり、あるいはAIシステムの制御不能や人間の判断への干渉などです。また、AIがもたらす悪影響や、AIシステムの停止や破損、意図しない結果を避けるための人材配置やアクセスに関する規制を検討する必要性などについても指摘されている。
こうした課題はあるものの、AIは科学研究のあり方を変え、私たちの想像を超えるような発見や技術革新を生み出す可能性を秘めている。バイオテクノロジー、材料科学、ナノテクノロジーなど、さまざまな分野でAIが活用され、新たな診断・治療法、効率的な製造プロセス、耐久性の高い電池、廃棄物を最小限に抑える持続可能な生産などが実現している。
また、AIは気候変動や環境問題の解決にも一役買っている。大気汚染や海洋汚染、森林破壊などの複雑なデータを分析することで、AIは排出量削減のための政策提言を行い、早期警戒システムを改善し、より効果的なモデリングをサポートしている。
全体として、AIと科学の未来は、社会的・経済的利益と倫理的配慮のバランスを慎重に見極めながら、成長と発展を遂げる可能性を秘めている。
(生成AIが生成したテキスト)
近年、AIの急速な進歩により、私たちの生活や仕事は大きく変化している。一方で、AIが私たちの価値観やプライバシーを侵害したり、雇用の不平等を引き起こしたり、AIシステムの暴走によるリスクも指摘されている。こうした課題はあるものの、AIは科学研究を変え、新たな発見や技術革新を生み出す可能性を秘めている。
科学技術・学術政策局研究開発戦略課