AIがもたらす科学技術・イノベーションの変革

 21世紀は、「知識集約型社会」とも言われ、資本設備への依存度が高く、製品が価値の中心とされている資本集約型から、スマート化によってあらゆる製品やサービスの高付加価値化が進んだ知識集約型と呼ばれる社会への転換が起こっています(※1)。また、こうした中でデータ資源が経済成長の原動力となる、データの時代とも呼ばれています。この背景の一つには、人工知能(AI)という技術の急速な進化があり、特に近年の生成AI技術の飛躍的な進展は世界中で大きな関心を集めています。AIは、データ解析からロボット技術、医療、製造業など、あらゆる技術や業種に大きな影響をもたらしてきています。また、対話型生成AIなどのように専門家ではない人々でも利用できるインターフェースでのサービスの提供が広がったことで、AIは多くの人が活用できる身近な技術となるとともに、私たちの日常生活や価値観も、AIによって変わりつつあり、未来の社会はその影響を更に強く受けることになるでしょう。
 第5期科学技術基本計画において、政府は我が国が目指すべき未来社会の姿として「Society 5.0」を提唱しており、それは「サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会」であると定義されています。Society 5.0で実現する社会は、IoT(Internet of Things)で全ての人とモノがつながり、様々な知識や情報が共有され、今までにない新たな価値を生み出す社会です。また、AIにより、必要な情報が必要なときに提供されるようになり、ロボットや自動運転などの技術で、少子高齢化、地方の過疎化、経済格差などの課題が克服され、イノベーションを通じて一人ひとりが快適で活躍できる社会となることを目指しています。現在の第6期科学技術・イノベーション基本計画においても、この構想は継承されており、第5期の計画で示した社会像を、国内外の情勢変化を踏まえて具体化させていくことが必要であるとしています。実際に、国内AIシステム市場をみると、令和5年(2023年)の市場規模(エンドユーザー支出額ベース)の前年比成長率は34.5%になっており、また、令和5年から令和10年(2023~2028年)の年間平均成長率は30.0%で推移するとする調査結果や予測(※2)があるなど、急速な成長となっており、こうした社会像の実現を後押ししています。
 IoT、ロボット、AI、ビッグデータといった社会の在り方に影響を及ぼす新たな技術が急速に進展する中、私たちが直面する課題は、単に技術を取り入れるだけではなく、それをどのように社会全体のイノベーションに結びつけるか、そして、これらの技術との共生の形をどう築くかという点にあります。
 正にそのような中、令和5年(2023年)、我が国はG7議長国として、急速な発展と普及が国際社会全体の重要な課題となっている生成AIについて議論する「広島AIプロセス」を立ち上げ、リーダーシップを発揮してきました。基盤モデル及び生成AIを含む高度なAIシステムによるリスクを軽減しつつ、その革新的な機会を最大化することが重要との認識の下、安全、安心、信頼できるAIを世界に普及させることを目的として、「広島AIプロセス包括的政策枠組み」が策定され、G7首脳に承認されました。今後も、より多くの人が最先端科学技術の恩恵を享受できるよう、技術動向や環境変化を機敏に捉えながら、国際パートナー間で連携して、柔軟性のある形で国際ガバナンスを築いていくことが重要です。
 本白書では、AIに関して我が国を取り巻く状況や研究開発動向、さらに研究開発や製造業、公共部門等の様々な分野でのAIの活用の可能性や影響を特集し、これからの我が国が目指すべきAIとの共生に向けた科学技術・イノベーションの方向性を考えます。

〈第6期科学技術・イノベーション基本計画とは〉

 我が国では、科学技術・イノベーション基本法に基づき、科学技術・イノベーション基本計画(第1期~第5期までは科学技術基本計画)(以下「基本計画」という。)を5年ごとに策定しており、令和3年(2021年)4月より、現在の第6期基本計画が開始されました。同計画では、Society 5.0の実現のため、多様性や卓越性を持った「知」を創出し続ける、世界最高水準の研究力を取り戻すことが規定されています。

〈Society 5.0とは〉

 第5期基本計画において、我が国が目指すべき未来社会の姿として提唱されたコンセプトです。「サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会」であり、「直面する脅威や先の見えない不確実な状況に対し、持続可能性と強靱(きょうじん)性を備え、国民の安全と安心を確保するとともに、一人ひとりが多様な幸せ(well-being)を実現できる社会」と定義されています。

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我が国が目指す未来社会「Society 5.0」の重要な三つのポイントを文部科学省の職員が説明しています。
動画でわかるSociety 5.0 令和3年版科学技術・イノベーション白書 ~職員解説編~
https://www.youtube.com/watch?v=ggS9VQLsMrQ


  • ※1 令和元年版科学技術白書
  • ※2 IDC Japan 株式会社「2024年国内AIシステム市場予測を発表」
    https://www.idc.com/getdoc.jsp?containerId=prJPJ52070224

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科学技術・学術政策局研究開発戦略課

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