第1章 科学技術・イノベーション政策の展開

 第2部では、令和4年度に科学技術・イノベーション創出の振興に関して講じられた施策について、第6期科学技術・イノベーション基本計画(令和3年3月26日閣議決定)に沿って記述する。

第1節 科学技術・イノベーション基本計画

 我が国の科学技術・イノベーション行政は、「科学技術・イノベーション基本法」(平成7年法律第130号)に基づき、政府が5年ごとに策定する科学技術・イノベーション基本計画(以下「基本計画」という。)にのっとり、総合的かつ計画的に推進している。

 これまで、第1期(平成8~12年度)、第2期(平成13~17年度)、第3期(平成18~22年度)、第4期(平成23~27年度)、第5期(平成28~令和2年度)の基本計画を策定し、これらに沿って政策を進めてきた(第1期から第5期までは科学技術基本計画)。

 令和3年度から始まった第6期科学技術・イノベーション基本計画(令和3年度~7年度)(以下「第6期基本計画」という。)は令和2年6月の科学技術基本法の本格的な改正により、名称が「科学技術・イノベーション基本法」となってから初めての計画である。第6期基本計画の策定に向けた検討は、平成31年4月に内閣総理大臣から総合科学技術・イノベーション会議に対して第6期基本計画に向けた諮問(諮問第21号「科学技術基本計画について」)がなされて設置された基本計画専門調査会にて約2年間にわたり行われ、令和3年3月26日、第6期基本計画が閣議決定された。

 第6期基本計画では、まず、第5期基本計画期間中に生じた社会の大きな変化として、先端技術(AI、量子等)を中核とした国家間の競争の先鋭化を起因とする世界秩序の再編、技術流出問題の顕在化とこれを防ぐ取組の強化、気候変動をはじめとするグローバル・アジェンダの現実化、情報社会(Society 4.0)の限界の露呈を挙げ、これらの変化が今般の新型コロナウイルス感染症の拡大により加速されていることを指摘している。そして、科学技術・イノベーション政策の振り返りとして、Society 5.0の前提となる情報通信技術の本来の力を活(い)かし切れなかったことや、我が国の論文に関する国際的地位の低下、若手研究者を取り巻く厳しい環境、さらには、科学技術基本法の改正により、「人文・社会科学」の振興と「イノベーションの創出」を法の対象に加えたことを挙げている。

 これらの背景の下、第6期基本計画では、第5期基本計画で提示したSociety 5.0を具体化し、「直面する脅威や先の見えない不確実な状況に対し、持続可能性と強靱(きょうじん)性を備え、国民の安全と安心を確保するとともに、一人ひとりが多様な幸せ(well-being)を実現できる社会」とまとめ、その実現のための具体的な取組を以下のとおり掲げた。

① 国民の安全と安心を確保する持続可能で強靱(きょうじん)な社会への変革

 我が国の社会を再設計し、世界に先駆けた地球規模課題の解決や国民の安全・安心を確保することにより、国民一人ひとりが多様な幸せを得られる社会への変革を目指す。

 このため、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)がダイナミックな好循環を生み出す社会へと変革させ、いつでも、どこでも、誰でも、安心してデータやAIを活用できるようにする。そして、世界のカーボンニュートラルを牽引(けんいん)するとともに、自然災害や新型コロナウイルス感染症などのリスクを低減することなどにより強靱(きょうじん)な社会を構築する。

 また、スタートアップを次々と生み出し、多様な主体が連携して価値を共創(きょうそう)する新たな産業基盤を構築するとともに、Society 5.0を先行的に実現する都市・地域(スマートシティ)を全国・世界に展開していく。

 さらには、これらの取組を支えるとともに、新たな社会課題に対応するため、総合知を活用し、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP(※1))第3期やムーンショット型研究開発制度等の社会課題解決のための研究開発や社会実装の推進、社会変革を支えるための科学技術外交の展開を進める。

② 知のフロンティアを開拓し価値創造の源泉となる研究力の強化

 研究者の内在的な動機に基づく多様な研究活動と、自然科学や人文・社会科学の厚みのある「知」の蓄積は、知的・文化的価値以外にも新技術や社会課題解決に資するイノベーションの創出につながる。こうした「知」を育む研究力を強化するため、まず、博士後期課程学生や若手研究者の支援を強化する。また、人文・社会科学も含めた基礎研究・学術研究の振興や総合知の創出の推進等とともに、研究者が腰を据えて研究に専念しながら、多様な主体との知の交流を通じ、独創的な成果を創出する創発的な研究の推進を強化する。

 そして、オープンサイエンスを含め、データ駆動型研究など、新たな研究システムの構築を進める。

 我が国最大かつ最先端の「知」の基盤である大学について、個々の強みを伸ばして多様化し、研究力を高めるとともに、大学で学ぶ個人の多様な自己実現を後押しするよう大学改革を進める。特に、世界最高水準の研究大学の実現に向けた10兆円規模の大学ファンドによる国際卓越研究大学への支援と、地域の中核大学や特定分野に強みを持つ研究大学に対して多様な機能を強化し、我が国の成長への駆動力へと転換させる「地域中核・特色ある研究大学総合振興パッケージ」による支援を両輪として推進し、我が国全体の研究力の底上げを図る。

③ 一人ひとりの多様な幸せ(well-being)と課題への挑戦を実現する教育・人材育成

 社会の再設計を進め、Society 5.0の社会で価値を創造するために、個人の幸せを追求し、試行錯誤しながら課題に立ち向かっていく能力・意欲を持った人材を輩出する教育・人材育成システムの実現を目指す。具体的には、初等中等教育段階におけるSTEAM(※2)教育の推進や、「GIGA(※3)スクール構想」に基づく取組をはじめとした教育分野のDXの推進、外部人材・資源の学びへの参画・活用等により、好奇心に基づいた学びを実現し探究力を強化する。また、大学等における多様なカリキュラム等の提供、リカレント教育を促進する環境・文化の醸成をはじめ、学び続ける姿勢を強化する環境の整備を行う。

 また、これらの科学技術・イノベーション政策を推進すべく、第6期基本計画の期間中に、政府の研究開発投資の総額として約30兆円を確保するとともに、官民合わせた研究開発投資総額を約120兆円とすることを目標に掲げた。

 さらに、第6期基本計画に掲げた取組を着実に行えるよう、総合知を活用する機能の強化と未来に向けた政策の立案、エビデンスシステム(e-CSTI(※4))の活用による政策立案機能強化と実効性の確保、毎年の統合戦略と基本計画に連動した政策評価の実施、司令塔機能の実効性確保を進めることとしている。

第2節 総合科学技術・イノベーション会議

 総合科学技術・イノベーション会議は、内閣総理大臣のリーダーシップの下、我が国の科学技術・イノベーション政策を強力に推進するため、「重要政策に関する会議」として内閣府に設置されている。我が国全体の科学技術・イノベーションを俯瞰(ふかん)し、総合的かつ基本的な政策の企画立案及び総合調整を行うことを任務とし、議長である内閣総理大臣をはじめ、関係閣僚、有識者議員等により構成されている(第2-1-1表)

 また、総合科学技術・イノベーション会議の下に、重要事項に関する専門的な事項を審議するため、7つの専門調査会(基本計画専門調査会、科学技術イノベーション政策推進専門調査会、重要課題専門調査会、生命倫理専門調査会、評価専門調査会、世界と伍(ご)する研究大学専門調査会、イノベーション・エコシステム専門調査会)を設けている。

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1 令和4年度の総合科学技術・イノベーション会議における主な取組

 総合科学技術・イノベーション会議では「統合イノベーション戦略2022」(令和4年6月3日閣議決定)の策定、「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP(※5))」及び「官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM(※6))」の運営等、政策・予算・制度の各面で審議を進めてきた。

 令和4年度は、令和5年2月8日の総合科学技術・イノベーション会議において「今後の科学技術・イノベーション政策の方向性について」を議題とし、先端科学技術の戦略的な推進、知の基盤(研究力)と人材育成の強化、イノベーション・エコシステムの形成を3つの基軸として検討するとともに、地域中核・特色ある研究大学総合振興パッケージの改定等を行った。

2 科学技術関係予算の戦略的重点化

 総合科学技術・イノベーション会議は、政府全体の科学技術関係予算を重要な分野や施策へ重点的に配分し、基本計画や統合イノベーション戦略の確実な実行を図るため、予算編成において科学技術・イノベーション政策全体を俯瞰(ふかん)し関係府省の取組を主導している。

❶ 科学技術に関する予算等の配分の方針

 総合科学技術・イノベーション会議は、中長期的な政策の方向性を示した基本計画の下、毎年の状況変化を踏まえ、統合イノベーション戦略において、その年度に重きを置くべき取組を示し、それらに基づいて、政府全体の科学技術関係予算の重要な分野や施策への重点的配分や政策のPDCAサイクルの実行等を図っている。

❷ 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の推進

 SIPは、総合科学技術・イノベーション会議が司令塔機能を活(い)かして、府省や産学官の垣根を越えて、分野横断的な研究開発に基礎研究から出口(実用化・事業化)までの一気通貫で取り組むプログラムである。総合科学技術・イノベーション会議が定める方針の下、内閣府に計上する「科学技術イノベーション創造推進費」(令和4年度:555億円)を財源に実施した。

 SIP第2期の12課題は、開始から5年目となり、各課題で研究内容の成果を取りまとめ、一部テーマでは社会実装が実現するとともに、社会実装に向けた体制整備が進んだ。また、SIP第3期に向けては、「第6期基本計画」に基づき、令和3年末に我が国が目指す将来像(Society 5.0)の実現に向けた15の課題候補を決定し、公募で決定したプログラムディレクター(PD)候補が座長となり、サブ課題等に関する有識者、関係省庁、研究推進法人等で構成する検討タスクフォース(TF)を設置し、フィージビリティスタディ(FS)を行ってきた。FS結果に基づき、事前評価を実施したところ、1月26日の総合科学技術・イノベーション会議のガバニングボードにおいて14の課題を決定し、課題ごとに「社会実装に向けた戦略及び研究開発計画」(戦略及び計画)(案)を策定した。策定した「戦略及び計画」(案)は、2月にパブリックコメントを行い、併せて公募を行うPDとともに、3月に決定した。3月17日には「SIP/PRISMシンポジウム2022(※7)」を開催した。

❸ 官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM)の推進と研究開発とSociety 5.0との橋渡しプログラム(BRIDGE)による社会実装の促進

 PRISMは、民間投資の誘発効果の高い領域や研究開発成果の活用による政府支出の効率化が期待される領域に各府省庁施策を誘導すること等を目的に平成30年度に創設したプログラムである。総合科学技術・イノベーション会議が策定した各種戦略等を踏まえ、AI技術領域、革新的建設・インフラ維持管理技術/革新的防災・減災技術領域、バイオ技術領域、量子技術領域に重点化し配分を行ってきており、令和4年度においては、これら4領域の33施策に追加配分を実施した。令和4年度に、これまでのPRISMの枠組みを活(い)かしながら、技術開発にとどまらず、社会実装に向けた各府省庁の施策を強化することを目的に見直しを行い、社会実装への橋渡しということで名称もBRIDGEに変更した。今後もBRIDGEにおいて、総合科学技術・イノベーション会議が策定する又は改正された各種戦略のみならず、総合科学技術・イノベーション会議が毎年設定する、事業環境整備、スタートアップ創出といった重点課題を踏まえた、革新技術等の社会課題解決や新技術の創出等、各府省庁のイノベーション化を推進すること等により、官民の研究開発投資の拡大を目指す。

❹ ムーンショット型研究開発制度の推進

 ムーンショット型研究開発制度(※8)は、超高齢化社会や地球温暖化問題など重要な社会課題に対し、人々を魅了する野心的な目標(ムーンショット目標)を国が設定し、挑戦的な研究開発を推進するものである。総合科学技術・イノベーション会議はムーンショット目標1~6を令和2年1月に、健康・医療戦略推進本部はムーンショット目標7を令和2年7月に決定した。本制度では、社会環境の変化等に応じて目標を追加することとしており、コロナ禍による経済社会の変容や気候変動問題を踏まえ、総合科学技術・イノベーション会議は若手研究者の調査研究に基づき、新たにムーンショット目標8、9を令和3年9月に決定した(第57回総合科学技術・イノベーション会議本会議)。「ムーンショット型研究開発制度に係るビジョナリー会議」で示されたヒューマン・セントリック(人間中心の社会)な考え方も踏まえ、最終的には、一人ひとりの多様な幸せ(well-being)を目指す。

 令和4年度は、令和3年度に新たに決定した2つの新目標(目標8、9)に関し、5月末より研究開発を開始した。また、激化する国際競争に打ち勝つ研究開発力強化等のため、目標1、3、4、6、7に関して新たな研究開発プロジェクトマネージャー(PM)(※9)を追加公募し、秋頃より研究開発を開始した。各目標の実現に向けた研究開発を着実に推進し、産学官から構成されるムーンショット型研究開発制度に係る戦略推進会議にて進捗状況の報告を行った。

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3 国家的に重要な研究開発の評価の実施

 総合科学技術・イノベーション会議は、「内閣府設置法」(平成11年法律第89号)第26条第1項第3号に基づき、国の科学技術政策を総合的かつ計画的に推進する観点から、各府省が実施する大規模研究開発(※10)等の国家的に重要な研究開発を対象に評価を実施している。

 また、同会議は、「特定国立研究開発法人による研究開発等の促進に関する特別措置法」(平成28年法律第43号)第5条及び福島復興再生特別措置法(平成24年法律第25号)に基づき、特定国立研究開発法人の中長期目標期間の最終年度においては、基本計画等の国家戦略との連動性の観点等から見込評価等や次期中長期目標案に対して、令和5年度から設置される福島国際研究機構に対しては新たな中期目標案に対して意見を述べている。

 (1)特定国立研究開発法人の中長期目標期間終了時の見込評価等に対する総合科学技術・イノベーション会議の意見(令和4年11月18日決定、通知)

 令和4年度に終了する物質・材料研究機構の中長期目標期間終了時の見込評価等に対する総合科学技術・イノベーション会議の意見を決定し、当該法人を所管する文部科学大臣に通知した。

 (2)特定国立研究開発法人の次期中長期目標(案)に対する総合科学技術・イノベーション会議の意見(令和5年2月27日決定、答申)

 文部科学大臣から諮問のあった物質・材料研究機構の次期中長期目標(案)(令和5年4月~令和12年3月)に対し、総合科学技術・イノベーション会議の意見を決定し、当該法人を所管する文部科学大臣に答申した。

 (3)福島国際研究教育機構の中期目標(案)に対する総合科学技術・イノベーション会議の意見(令和5年3月10日決定、答申)

 内閣総理大臣、文部科学大臣、厚生労働大臣、農林水産大臣、経済産業大臣、環境大臣から諮問のあった福島国際研究教育機構の中期目標(案)(令和5年4月~令和12年3月)に対し、総合科学技術・イノベーション会議の意見を答申した。

 そのほか、文部科学省では、「国の研究開発評価に関する大綱的指針」(平成28年12月21日内閣総理大臣決定)を受けて改定した、「文部科学省における研究及び開発に関する評価指針」(平成14年6月20日文部科学大臣決定、平成29年4月1日最終改定大綱的指針)を踏まえ、科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会等において研究開発課題の評価を実施するとともに、研究開発プログラム評価の実施に向け、議論や試行を重ねるなどして、より一層実効性の高い研究開発評価を実施することにより、優れた研究開発が効果的・効率的に推進されることを目指している。

4 専門調査会等における主な審議事項

❶ 評価専門調査会

 第6期基本計画では、「指標を用いながら進捗状況の把握、評価を評価専門調査会において継続的に実施」するとされており、これを受けて評価専門調査会の体制を見直した。

 令和3年度は、新体制の評価専門調査会において、同基本計画のうち、「多様で卓越した研究を生み出す研究の再構築」を事例として、試行的に調査・検討を実施した。

 令和4年度以降は、同基本計画における対象事例を増やすとともに、進捗状況の把握、評価の制度を高めていくこととしている。

 また、新体制の評価専門調査会では、従来実施している「国家的に重要な研究開発の評価」について、各省評価における評価項目の設定や評価基準の考え方が、「基本計画」や「大綱的指針」との整合を図ることを目的とした評価を開始した。

❷ 生命倫理専門調査会

 科学技術の進展等を踏まえたヒト受精胚(はい)の取扱いへの対応方針について、生命倫理専門調査会における議論に基づき、令和4年2月に「『ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方』見直し等に係る報告(第三次)~研究用新規胚の作成を伴うゲノム編集技術等の利用等について~」を取りまとめた。今後、ヒト受精胚(はい)に関する新たな技術が出現した場合等、科学技術に関する生命倫理上の課題が生じたときには、生命倫理専門調査会において、最新の科学的知見や社会的妥当性の評価に基づく検討を行っていくこととする。

第3節 統合イノベーション戦略

 政府は、Society 5.0の実現に向け、関連施策を府省横断的かつ一体的に推進するため、「統合イノベーション戦略」を策定している。本戦略は1年間の国内外における科学技術・イノベーションをめぐる情勢を分析し、強化すべき課題、新たに取り組むべき課題を抽出して、施策の見直しを行っている。

 令和4年度に策定された「統合イノベーション戦略2022」は、第6期基本計画の実行計画と位置付けられる2年目の年次戦略である。各国間の技術覇権争いや気候変動問題への対策等、科学技術・イノベーションを巡る国内外の変化を踏まえ、今後1年間で取り組む科学技術・イノベーション政策の具体化を行った。

 統合イノベーション戦略2022においては、以下の3つを政策の柱とし、これらを相互に連携させながら、効果的・効率的に政策を推進することで「成長」と「分配」の好循環を実現することとしている。

① 知の基盤と人材育成の強化

 10兆円規模の大学ファンドの創設を契機とした大学改革や博士学生支援、地域大学振興、STEAM教育を更に推進し、イノベーションと価値創造の源泉となる知を持続的に創出

② イノベーション・エコシステムの形成

 イノベーションの担い手としてスタートアップを前面に、経済社会を活性化させ、科学技術・イノベーションの恩恵を国民や社会、地域に還元

③ 先端科学技術の戦略的な推進

 AI・量子の新戦略やシンクタンク、経済安全保障重要技術育成プログラムや次期SIP等を通じ、我が国の勝ち筋となる技術を育成

 さらに、戦略的に取り組む分野について、量子分野では、ここ数年の量子産業を巡る国際競争の激化など外部環境が変化する中で、我が国の優位性を獲得し、有志国と強固な関係を構築することで、将来の量子技術の社会実装や量子産業の強化を実現するため、「量子未来社会ビジョン」(令和4年4月22日統合イノベーション戦略推進会議決定)を策定した。令和2年1月に策定した「量子技術イノベーション戦略」と本ビジョンの下、官民一体となった量子技術イノベーションに関する総合的かつ戦略的取組を強力に推進している。

 また、AI分野では新たな国家戦略として「AI戦略2022」(令和4年4月22日統合イノベーション戦略推進会議決定)が策定され、大規模災害等への対処などの重要性にも着目しつつ、特に企業による社会実装を念頭に、AIの信頼性向上、データの充実、人材確保等の環境整備等の新たな目標が設定され、取組が進められている。

第4節 科学技術・イノベーション行政体制及び資金循環の活性化

1 科学技術・イノベーション行政体制

 国の行政組織においては、総合科学技術・イノベーション会議による様々な答申等を踏まえ、関係行政機関がそれぞれの所掌に基づき、国立試験研究機関、国立研究開発法人及び大学等における研究の実施、各種の研究制度による研究の推進や研究開発環境の整備等を行っている。

 文部科学省は、各分野の具体的な研究開発計画の作成及び関係行政機関の科学技術に関する事務の調整を行うほか、先端・重要科学技術分野の研究開発の実施、創造的・基礎的研究の充実・強化等の取組を総合的に推進している。また、科学技術・学術審議会を置き、文部科学大臣の諮問に応じて科学技術の総合的な振興や学術の振興に関する重要事項についての調査審議とともに、文部科学大臣に対し意見を述べること等を行っている。

 科学技術・学術審議会における主な決定・報告等は、第2-1-3表に示すとおりである。

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 我が国の科学者コミュニティの代表機関として、210人(定員)の会員及び約1,900人の連携会員から成る日本学術会議は、内閣総理大臣の所轄の下に置かれ、科学に関する重要事項を審議し、その実現を図るとともに、科学に関する研究の連携を図り、その能率を向上させることを職務としている(第2-1-4図)

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 日本学術会議においては、「日本学術会議の今後の展望について」(平成27年3月日本学術会議の新たな展望を考える有識者会議決定)を基軸として改善に取り組んできたが、改めて現状を自己点検して課題を抽出し、日本学術会議がより良い役割を発揮できるようになるため、アカデミーの原点は何かを踏まえた検討を行い、改革に向けた具体的な取組を実施している(「日本学術会議のより良い役割発揮に向けて」(令和3年4月日本学術会議総会))。

 これを踏まえ令和4年1月に日本学術会議会則及び関係規定の改正、科学的助言等対応委員会の設置等を行い、これらに基づいて活動を行っている。特に、内閣府からの審議依頼2件(①「研究力強化-特に大学等における研究環境改善の視点から-に関する審議について」(令和4年8月5日に回答を公表)、②「研究DXの推進-特にオープンサイエンス、データ利活用推進の視点から-に関する審議について」(令和4年12月23日に回答を公表))に対応したほか、文部科学省からの「論文の査読に関する審議について(依頼)」(令和4年12月27日)の審議依頼に関する議論を進めている。また、その他の意思の表出等としては、令和4年度中に見解を1件、日本学術会議会長談話を3件公表した。

 また、日本学術会議では、協力学術研究団体(2,118団体:令和4年度末時点)等の科学者コミュニティ内のネットワークの強化と活用に取り組むとともに、各種シンポジウム・記者会見等を通じて、科学者コミュニティ外との連携・コミュニケーションを図っている。

 さらに、国際学術会議(ISC(※11))をはじめとする43の国際学術団体に、我が国を代表して参画するなど、国際学術交流事業を推進している。令和4年度は閣議口頭了解を得て9件の共同主催国際会議を開催したほか、令和4年5月には、ベルリンでGサイエンス学術会議が開催され、気候変動・ヘルス等、について計4つのテーマについてG7各国アカデミーと共同声明を取りまとめ公表した。また、令和5年3月には、Gサイエンス学術会議を日本学術会議が主催し、気候変動、ヘルス、海洋の3つのテーマについて共同声明を取りまとめ公表した。

 なお、日本学術会議の在り方については、令和4年1月に取りまとめた「日本学術会議の在り方に関する政策討議取りまとめ」等を踏まえ、日本学術会議が国民から理解され信頼される存在であり続けるためにはどのような役割・機能が発揮されるべきかという観点から検討を進め、令和4年12月に「日本学術会議の在り方についての方針」等を取りまとめ公表した。

コラム1 G7のナショナルアカデミーによる政策提言(Gサイエンス学術会議)

 Gサイエンス学術会議(S7:Science7)は、G7サミット参加国のナショナルアカデミーがG7サミットに向けて科学的な政策提言を行うことを目的とし、平成17年(2005年)に発足した科学アカデミー会合である。例年、その年のG7議長国のアカデミーが主導してテーマを決定し、共同声明を取りまとめ、関連する会合を開催している。
 令和5年(2023年)は、G7議長国が日本であることから、日本学術会議がGサイエンス学術会議2023を主催した。Gサイエンス学術会議2023では、気候変動や保健といった国際社会が直面する地球規模課題を踏まえ、気候変動と関連する危機への対応、高齢化社会におけるヘルス、海洋と生物多様性の3つをテーマとして、共同声明を取りまとめた。
 3月7日には、日本学術会議が主催して、Gサイエンス学術会議2023に関連する公開シンポジウムを東京で開催した。このシンポジウムには、G7ナショナルアカデミーから会長などの代表者に加えて、国際学術会議(ISC:International Science Council)、Global Young Academy、2023年のG20議長国であるインドのアカデミーからも代表者が出席し、共同声明のテーマについての基調講演やパネルディスカッションなどを行った。
 また、同日、G7ナショナルアカデミーの代表者が岸田文雄内閣総理大臣を表敬し、後藤茂之内閣府特命担当大臣(経済財政政策)の立会いの下、Gサイエンス学術会議2023共同声明を梶田隆章日本学術会議会長から岸田総理に手交した。

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2 知と価値の創出のための資金循環の活性化

❶ 科学技術関係予算

 我が国の令和4年度当初予算における科学技術関係予算は4兆2,921億円であり、そのうち一般会計分は3兆4,881億円、特別会計分は8,040億円となっている。令和4年度補正予算における科学技術関係予算は4兆6,064億円であり、そのうち一般会計分は4兆4,898億円、特別会計分は1,166億円となっている(令和5年2月時点)。科学技術関係予算(当初予算)の推移は第2-1-5表、府省別の科学技術関係予算は第2-1-6表のとおりである。

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❷ 民間の研究開発投資促進に向けた税制措置

 政府は、我が国の研究開発投資総額の約7割を占める民間企業の研究開発投資を維持・拡大し、イノベーション創出につながる中長期・革新的な研究開発を促すことを目的に、「研究開発税制」と呼ばれる税制措置を設けている。

 「研究開発税制」とは、研究開発を行う企業の法人税額から、試験研究費の額に応じて、一定割合を控除できる制度である。

 我が国のイノベーション創出を一層促す制度とするため、継続的に見直しを行っており、令和5年度税制改正大綱(令和4年12月23日閣議決定)においては、控除上限と控除率を見直し、研究開発投資のインセンティブを強化するとともに、共同研究等の対象となる研究開発型スタートアップの定義の見直しや、高度研究人材の活用を促す措置の創設、試験研究費の範囲の見直しなどの改正を行うこととされた(第2-1-7図)

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  • ※1 Cross-ministerial Strategic Innovation Promotion Program
  • ※2 Science, Technology, Engineering, Art(s) and Mathematics
  • ※3 Global and Innovation Gateway for All
  • ※4 Evidence data platform constructed by Council for Science, Technology and Innovation
  • ※5 Cross-ministerial Strategic Innovation Promotion Program
  • ※6 Public/Private R&D Investment Strategic Expansion PrograM
  • ※7 「SIP/PRISMシンポジウム2022」開催報告について(映像コンテンツの掲載等)
    https://www8.cao.go.jp/cstp/stmain/20230331sipsymposium.html
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  • ※8 ムーンショット型研究開発制度
    https://www8.cao.go.jp/cstp/moonshot/index.html
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  • ※9 研究開発プロジェクト
    https://www8.cao.go.jp/cstp/moonshot/project.html
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  • ※10 国費総額約300億円以上の研究開発のうち、科学技術政策上の重要性に鑑み、評価専門調査会が評価すべきと認めたもの
  • ※11 International Science Council

お問合せ先

科学技術・学術政策局研究開発戦略課

(科学技術・学術政策局研究開発戦略課)