第5章 最後に

 第1部では、第1章でこれまでの地域科学技術・イノベーション政策を概観し、第2章~第4章で、こういった取組のうち、幾つかの好事例について取り上げてきました。

 ここまで紹介してきたとおり、四半世紀前に産声を上げた地域における科学技術振興は、地域拠点にコーディネーターを派遣してクラスターの形成支援を促すクラスター政策の開始に始まり、当該クラスター政策の発展、産学官連携による研究拠点の形成、地域がその強みや特性を活(い)かした自立的な科学イノベーション活動を展開できる仕組み、さらには、それらが地方創生に資するイノベーション・エコシステムの構築といった様々な段階を経て、政府の地方創生への取組の強化とも相まって、着実に拡大しています。

 さらに、Society 5.0の実現のためには、地域における科学技術・イノベーションの継続的創出こそが、自律的な地域における社会的課題の解決の要となって、ひいては地方創生の実現に貢献するものとなります。また、世界における産業構造が資本集約型から知識集約型へ急速に変化しつつある中で、地域の産業構造もまた、知識集約型の構造へと変革していかなければなりません。このような変革を成し遂げるには、価値創造の源泉となる科学技術・イノベーションの継続的創出が不可欠であり、この変革によってグローバルな価値創出を可能とする地域産業構造の再構築を図ることが求められています。

 これまでも、例えば、新しい技術や製品の開発は地方独自の新産業や雇用を創出することに寄与し、農林水産業では生産性や品質の向上を図ることで地方の一次産業を支えています。医療・福祉分野でも、社会実装フェーズを経て、いち早い革新的な医療機器による診療や詳細なデータに基づく診断など良質な医療サービスを地域住民に還元しています。

 こういった形で、地域の多様な拠点において、着実に成果が生まれてきているところですが、一方で、地域の社会的・経済的課題は、複雑で困難なものが多く、かつ絶えず変化しています。知の拠点である地方大学等、地域の強みや弱みなどの実情・実態を把握している地方公共団体、出口となる企業、それぞれの立場からのみで地域課題の解決やイノベーションを創出することは困難です。そのため、高い研究能力を持つ地方大学等、地方公共団体及び産業界が協働し、地域の産学官のステークホルダー及びその全てに関係する地域住民にとってより良い地域の在り方を検討し、目指すべき地域の未来像となる地域ビジョンを策定することが重要です。さらに、地域ビジョンからのバックキャストに基づく新たな価値創造につながる研究開発を、強化した産学連携機能の下で組織的に推進する必要があります。

 政府では、上述の問題意識の下、地域の中核大学や特定分野において世界レベルにある大学などがその強みを発揮し、社会変革を牽引(けんいん)していくため、令和4年2月に、「大学自身の取組の強化」、「つなぐ仕組みの強化」、「地域社会における大学の活躍の促進」の3つの観点から、政府が総力を挙げて実力と意欲ある大学を支援する「地域中核・特色ある研究大学総合振興パッケージ」を取りまとめました。令和5年2月には、更なる支援の拡充に向けた「量的拡大」と、目指すべき大学像の明確化や各府省の事業間の連携強化など「質的拡充」を図るため、本パッケージの改定を行っています。また、令和4年11月には「スタートアップ育成5か年計画」を策定し、地方におけるスタートアップ創出の強化も図っていくこととしています。こういった取組を通じて、地域科学技術・イノベーションが更に振興されることが期待されます。

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科学技術・学術政策局研究開発戦略課

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