第1章 地域科学技術・イノベーション政策

第1節 科学技術・イノベーション基本計画に沿った地域科学技術・イノベーション施策の変遷

 平成7年に科学技術基本法が制定されるまで、我が国の産学連携への意識は概して小さく、連携を推進する政策もほとんど見られませんでした。同法に基づき策定された第1期基本計画(平成8~12年度)において地域の科学技術振興の必要性が示されたことなどを皮切りに、地域における産学官の共同研究体制の構築に向けて、地域拠点へのコーディネーター派遣、地域の研究開発セクターの結集等の事業が開始されました。第2期基本計画(平成13~17年度)において、地域の科学技術振興のための環境整備の必要性が示され、地域クラスター形成支援のための施策であるクラスター政策が開始されるとともに、コーディネーターの全国配置等が進められました。第3期基本計画(平成18~22年度)では、第2期基本計画で開始されたクラスター政策を更に発展させ、産学官連携の下で世界的な研究や人材育成を行う研究教育拠点を形成するための事業などが推進されるようになりました。

 第4期基本計画(平成23~27年度)では、平成23年3月に発生した東日本大震災による被災地域の復興・再生の早期実現のためにも、国として科学技術・イノベーションを活用する取組を優先的に推進する必要があるとの認識が持たれるとともに、地域の特色や伝統等の活用等の科学技術・イノベーションを積極的に活用した新たな取組の優先的推進による地域復興・再生や、地域がその強みや特性を活(い)かした自立的な科学技術・イノベーション活動を展開できる仕組みの構築に向けて、関係省庁が連携しつつソフト面への重点支援を通じた地域イノベーション・エコシステムの形成が促進されました。また、平成25年度には、10年後の目指すべき社会像を見据えたビジョンを基に特定した研究開発課題に対する、産学連携によるチャレンジング・ハイリスクな研究開発を支援する「革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM(※1))」が開始され、地域の積極的なコミットメントが高い研究成果のみならず、その成果の社会実装を通じた地域の社会的課題の解決につながる事例が生まれつつあります。

 第5期基本計画(平成28~令和2年度)では、平成26年にまち・ひと・しごと創生法が制定され、地方創生の推進に向けた機運が高まる中、地方創生に資するイノベーションシステムの構築に向けた取組が次々と推進されました。コア技術を核に地域の成長・国富の増大に資する事業化プロジェクトを実施するとともに、地方公共団体と大学を中心とするチームで地域の「未来ビジョン」を設定し、そのビジョンからのバックキャストを通じて特定した社会的課題の解決のために科学技術・イノベーションを活用する取組の支援や、地域に集積する産・学・官・金(金融機関)のプレイヤーが共同して複合型イノベーション推進基盤(リサーチコンプレックス)を成長・発展させ、地方創生にも資することを目的としたプロジェクトなどを実施してきました。同期間中の平成28年11月に策定された「産学官連携による共同研究強化のためのガイドライン」に基づいて、地域に根差した産学官連携を実現するために、地方大学等においても必要な機能強化を進め、地域における専門知のハブとしての機能を備えることが期待されています。

 現在の第6期基本計画(令和3~7年度)では、第5期までの施策の拡充などに加え、ICT等の新技術の発展に伴う社会のデジタル化の進展や、新型コロナウイルス感染症の拡大による社会変化の加速などを踏まえ、スマートシティの展開等を掲げています。都市や地域における課題解決を図り、地域の可能性を発揮しつつ、新たな価値を創出し続けることができる多様で持続可能な都市や地域が全国各地に生まれることで、人間としての活力が最大限発揮されるような持続的な生活基盤を有する社会の実現を目指しています。

 このように、第1期から第6期にかけて、科学技術政策から科学技術・イノベーション政策へと変わり、地域科学技術・イノベーション施策のその対象も大学の学部・研究科単位から大学単位、大学を中心とした地方公共団体や企業も含む連合体、地方公共団体や地方公共団体同士の連合体といった形で、拡大の歴史をたどっています。特に、第5期以降は、地方創生への地域科学技術・イノベーションの貢献という観点からの施策が、その重要性を高めてきています。

第2節 政府内での様々な地域科学技術・イノベーションに関連した施策

 ここでは、地域科学技術・イノベーションに関連した施策として、地方創生を主な目的とした、地方公共団体や公共団体間連携を対象とした施策について、幾つかの取組を紹介します。

 地域における拠点整備に関連する取組は、国及びつくば市、国及び京都府・大阪府・奈良県における研究学園都市・文化学術研究都市の整備に遡ります。つくば市では昭和45年に制定された「筑波研究学園都市建設法」(昭和45年法律第73号)に基づき、筑波研究学園都市が、我が国における高水準の試験研究・教育の拠点形成と東京の過密緩和への寄与を目的として建設されており、現在29の国等の試験研究・教育機関のほか、民間の研究機関・企業等が立地しており、研究交流の促進や国際的研究交流機能の整備等の諸施策が推進されています。京都府・大阪府・奈良県では、昭和62年に制定された「関西文化学術研究都市建設促進法」(昭和62年法律第72号)に基づき、関西文化学術研究都市が、我が国及び世界の文化・学術・研究の発展並びに国民経済の発展に資することを目的として整備されており、現在150を超える研究施設等が立地し、多様な研究活動等が展開されています。

 また、地方創生施策としては、「地方大学・地域産業創生交付金」(内閣府)において、秋田県、富山県、石川県、岐阜県、島根県、広島県、徳島県、高知県、熊本県、函館市、神戸市、北九州市の12地域が採択されています。これは、地域の将来を担う若者が大幅に減少する中、地域の人材への投資を通じて地域の生産性の向上を目指すことが重要との観点から、首長のリーダーシップの下、産業創生・若者雇用創出を中心とした地方創生と、地方創生に積極的な役割を果たすための組織的な大学改革に一体的に取り組む地方公共団体を重点的に支援するものです。本交付金事業により「総花主義」、「平均点主義」、「自前主義」から脱却し、地域産業創生の駆動力となり特定分野に圧倒的な強みを持つ地方大学づくりを進め、地域における若者の修学・就業を促進し、東京一極集中の是正が目指されています。

 さらに、第1節で紹介したスマートシティの展開に関して、政府では、「心ゆたかな暮らし」(Well-Being)と「持続可能な環境・社会・経済」(Sustainability)を実現していくデジタル田園都市国家構想を進めています。そして、デジタル田園都市国家構想が目指すのは、地域の豊かさをそのままに、都市と同じ又は違った利便性と魅力を備えた、魅力溢(あふ)れる新たな地域づくりです。具体的には、「暮らし」や「産業」などの領域で、デジタルの力で新たなサービスや共助のビジネスモデルを生み出しながら、デジタルの恩恵を地域の皆様に届けていくことを目指しています。

 加えて、令和4年4月に指定されたスーパーシティ型国家戦略特区(茨城県つくば市及び大阪府大阪市)とデジタル田園健康特区(石川県加賀市、長野県茅野市及び岡山県吉備中央町)は、「デジタル田園都市国家構想」の先導役として、大胆な規制改革を伴ったデータ連携や先端的サービスの実現を通じて地域課題の解決を図ることが期待されています。スーパーシティは、地域のデジタル化と規制改革を行うことにより、DXを進め幅広い分野で未来社会の先行的な実現を目指すものであり、デジタル田園健康特区は、デジタル技術の活用によって、人口減少、少子高齢化など、特に地方部で問題となっている課題に焦点を当て、地域の課題解決の先駆的モデルを目指すものです。

 公共団体間で連携して推進する取組への支援としては、政府によるスタートアップ・エコシステム拠点の形成支援が挙げられます。本取組は、拠点都市のスタートアップに対して、グローバル市場への進出や海外投資家からの投資の呼び込みを促進するため「グローバルスタートアップ・アクセラレーションプログラム」を実施するなど、政府、政府関係機関、民間サポーターによる集中支援を実施することで、世界に伍(ご)するスタートアップ・エコシステム拠点の形成を推進することを目的とし、令和2年にグローバル拠点都市4拠点、推進拠点都市4拠点が選定されています(※2)。

 第1節及び第2節で紹介したとおり、我が国では地域科学技術・イノベーションの推進のため、様々な支援対象に対して、様々な支援施策が連綿と実施されており、日本全国で多様な拠点の形成と多彩な成果が生まれています。続く第2章~第4章では、こういった取組のうち、幾つかの好事例について取り上げます。


  • ※1 Center of Innovation Science and Technology based Radical Innovation and Entrepreneurship Program
  • ※2 各拠点都市の計画及び進捗
    https://www8.cao.go.jp/cstp/openinnovation/ecosystem/kyotentoshi.html
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