第1部 地域から始まる科学技術・イノベーション

 急速に少子高齢化が進む我が国の総人口は、平成23年以降減少していますが、欧米の比較的人口の多い国でも首都圏の人口比率は5~15%程度(平成29年)である中、一都三県から成る東京圏の人口比率は約29%(令和3年)にも及び、東京圏へ人口が一極集中する傾向にあります。このため、地方においては、地域社会の担い手が減少しているだけでなく、地方経済の縮小など様々な社会的・経済的な課題が生じています。

 また、世界に目を向ければ、人口増加、エネルギー・資源・食料等の制約、環境問題などの継続的な課題への対応に加えて、新型コロナウイルス感染症拡大や安全保障をめぐる環境変化など新たな課題にも臨機応変に対応していくことが求められています。

 このような状況の下、政府は、感染症、地球温暖化、少子高齢化など、世界が直面する様々な社会的課題の解決に資する科学技術・イノベーションに重点投資することとしており、また、第6期科学技術・イノベーション基本計画では、Society 5.0の実現に向けて、少子高齢化、都市と地方の問題など我が国の社会課題の解決に向けた研究開発を推進するとともに、課題解決先進国として世界へ貢献し、一人ひとりの多様な幸せを向上させることを1つの目標としています。

 そのため、政府では科学技術分野の人材育成、世界最高水準の研究大学を形成するための大学ファンドや先端科学技術への大胆な投資、スタートアップへの徹底支援などを推進しています。また、東京圏への過度の一極集中、人口減少・少子高齢化などに起因する地域社会課題の解決、さらにはその課題解決等を通じた地域経済への貢献などの観点から、地方大学を核としたイノベーションの創出、地域発のイノベーションを創発するスタートアップ・エコシステムの確立、スマート農林水産業などに取り組んでいます。

 昨今の科学技術の急速な発展は、あらゆる場所、もの、ひとへの物理的・心理的距離を縮め、必要な情報へのアクセスを可能にし、政府の科学技術・イノベーション政策とも相まって、地方においても大小様々な研究開発の成果やスタートアップが生まれています。米国のシリコンバレーやドイツのアーヘン、ベルギーのフランダース、中国の深圳(しんせん)など、世界においても地域発の多様な拠点が形成されています。第1部では、地域に根差す大学、高等専門学校、地方公共団体、企業がその各々の強みを活(い)かしつつ地域からイノベーションを起こし、地域社会への還元や雇用創出など地域の魅力を拡大させている事例を幾つか取り上げ、さらに、その成果を必要とする他地域や諸外国にも展開していく取組なども併せて紹介します。

〈第6期科学技術・イノベーション基本計画とは〉

 我が国では、科学技術・イノベーション基本法に基づき、科学技術・イノベーション基本計画(第1期から第5期までは科学技術基本計画)(以下「基本計画」という。)を5年ごとに策定しており、令和3年4月より、現在の第6期基本計画が開始されました。同計画では、Society 5.0の実現のため、多様性や卓越性を持った「知」を創出し続ける、世界最高水準の研究力を取り戻すことが規定されています。

〈Society 5.0とは〉

 我が国が目指すべき未来社会として、基本計画において提唱されたコンセプト。「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会」であり、「直面する脅威や先の見えない不確実な状況に対し、持続可能性と強靱(きょうじん)性を備え、国民の安全と安心を確保するとともに、一人ひとりが多様な幸せ(well-being)を実現できる社会」と定義されている。

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日本が目指す未来社会「Society 5.0」の重要な3つのポイントを文部科学省の職員が説明しています。
動画でわかるSociety 5.0 令和3年版科学技術・イノベーション白書 ~職員解説編~
URL: https://www.youtube.com/watch?v=ggS9VQLsMrQ

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科学技術・学術政策局研究開発戦略課

(科学技術・学術政策局研究開発戦略課)