第2章 Society 5.0の実現に向けた科学技術・イノベーション政策

第1節 国民の安全と安心を確保する持続可能で強靱な社会への変革

 我が国の社会を再設計し、世界に先駆けた地球規模課題の解決や国民の安全・安心を確保することにより、国民一人ひとりが多様な幸せ(well-being)を得られる社会への変革を目指しており、そのために行っている政府の取組を報告する。

1 サイバー空間とフィジカル空間の融合による新たな価値の創出

 第6期基本計画が目指すSociety 5.0の実現に向け、サイバー空間とフィジカル空間を融合し、新たな価値を創出できることを目指している。具体的には質の高い多種多様なデータによるデジタルツインをサイバー空間に構築し、それを基にAIを積極的に用いながらフィジカル空間を変化させ、その結果をサイバー空間へ再現するという、常に変化し続けるダイナミックな好循環を生み出す社会へと変革することを目指すこととしている。

❶ サイバー空間を構築するための戦略、組織

 令和3年5月19日、「デジタル社会形成基本法」(令和3年5月19日法律第35号)等のデジタル改革関連法が公布され、同年9月1日、デジタル社会の形成に関する司令塔となるデジタル庁が発足した。

 デジタル庁では、規制・制度のデジタル原則への適合性の点検・見直しを進め、日本社会の本格的な構造改革を行い、デジタル化の恩恵を国民や事業者が享受し、成長を実感できるよう、まずは現場で人の目に頼る規制等、アナログ的な手法を用いる規制について、高精度カメラや赤外線センサーなどデジタル技術の活用可能性を踏まえた規制の横断的な点検・見直しを行い、規制の合理化に伴う新たな成長産業を創出し、経済成長の実現を図っていくこととしている。

 また、デジタル社会の実現のため、既存の法令等の点検・見直しに加えて、新規に制定される法令等についても、デジタル原則への適合性を自律的に確認するプロセス・体制の構築を目指している。

 また、行政の手続における手数料等について、キャッシュレス納付が可能となるよう、令和4年2月8日、第208回国会に「情報通信技術を利用する方法による国の歳入等の納付に関する法律案」を提出し同年4月27日に可決、成立した。

 さらに、データに関する行政機関や民間などの各プレーヤーの行動理念を明確化するとともに、サイバー空間を構築し、データを活用した新たなビジネスや行政サービスを創出することを目指すため、令和3年6月18日に「包括的データ戦略」を策定した。

❷ データプラットフォームの整備と利便性の高いデータ活用サービスの提供

 内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室は、データ活用サービスの根幹となるベース・レジストリについて、土地・地図などの具体のデータを令和3年5月に指定した。今後、関係府省庁と連携し、ベース・レジストリの整備を順次実施する。

 また、デジタル庁は、国・地方公共団体・独立行政法人等の関係者が効果的に協働できるように、特に情報システムの観点から重要な方針である「情報システムの整備及び管理の基本的な方針」(令和3年12月24日デジタル大臣決定)を策定した。また、年間を通じて、予算要求前、要求時、執行時のプロジェクトの各段階においてレビューを行い、レビューの結果等を予算要求や執行に適切に反映させていくこととしており、令和2年度時点での政府情報システムの運用等経費及び整備経費のうちのシステム改修に係る経費計約5,400億円を、令和7年度までに3割削減することを目指すこととしている。

 さらに、デジタル庁は、医療、教育、防災等の準公共分野において、デジタル化、データ連携を推進し、ユーザに個別化したサービスを提供するため、府省庁横断的な体制の下、それぞれの分野での調査・実証等の実施に向けた取組を進めている。

 情報処理推進機構に設置しているデジタルアーキテクチャ・デザインセンターにおいて、日本の産業競争力の強化及び安全・安心なデータ流通を実現するため、異なる事業・分野間で個別に整備されたシステムやデータをつなぐための標準を含むアーキテクチャの設計に取り組んできた。

 内閣府は、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP(※1))「ビッグデータ・AIを活用したサイバー空間基盤技術」で、分野を超えたデータ連携を実現する「分野間データ連携基盤技術」を開発している。同技術のコネクタを分野ごとデータ基盤に導入すると、データ提供、検索、取得等が容易にできるようになる。本技術を活用し、研究データ基盤システムやSIP等で構築する分野ごとデータ基盤の連携を実証し、分野間データ連携の仕組みの構築を目指している。

❸ データガバナンスルールなど信頼性のあるデータ流通環境の構築

 デジタル庁では、データ流通を促進するための環境整備(情報銀行、データ取引市場等)の現状・課題やそのルール等について、調査及び検討を進めている。

 また、デジタル庁と内閣府は、ステークホルダーがデータ流通に対して抱く懸念・不安を払拭し、データ流通を促進するために必要となるデータ取扱いルールを、準公共等のPF(プラットフォーム)に実装する際の検討の視点と手順を示した「プラットフォームにおけるデータ取扱いルールの実装ガイダンス ver1.0」を策定し、令和4年3月4日に公表した(※2)。

 あわせて、デジタル庁では、データ社会全体を支える本人認証やデータの真正性確保に向けて、取引や手続に係るデジタル化の阻害要因やトラストのニーズの実態を調査するとともに、これらの種別に応じて必要と考えられる信頼度(アシュアランスレベル)を整理することで、国際的な相互連携の観点にも留意しつつ、適切なトラストサービスの方向性を検討している。

❹ デジタル社会に対応した次世代インフラやデータ・AI利活用技術の整備・研究開発

1.デジタル社会に対応した次世代インフラ

 総務省は、Society 5.0におけるネットワーク通信量の急増、サービス要件の多様化やネットワークの複雑化に対応するため、1運用単位当たり5Tbpsを超える光伝送システムの実用化を目指した研究開発及び人工知能を活用した通信ネットワーク運用の自動化等を実現するための研究開発を実施した。また、第5世代移動通信システム(5G)の更なる社会実装を念頭に、具体的な利活用シーンを想定した実証試験や、5G基地局の低消費電力化・小型化等を実現するための研究開発を実施した。さらに、令和元年度から5Gの信頼性・エネルギー効率等について更なる高度化を実現するための研究開発を実施している。この他、令和2年度からは、地域の企業等をはじめとする様々な主体が個別のニーズに応じて独自の5Gシステムを柔軟に構築できる「ローカル5G」について、現実の利活用場面を想定した開発実証を実施している。

 また、テラヘルツ波を用いた超高精細度映像の非圧縮伝送が可能な無線通信基盤技術の応用展開を目指し、超高精細度映像インターフェース技術、ビーム制御技術及び無線信号処理技術の研究開発を実施した。

 情報通信研究機構は、テラヘルツ波を利用した100Gbps級の無線通信システムの実現を目指したデバイス技術や集積化技術、信号源や検出器等に関する基盤技術の研究開発を行った。また、ICT利活用に伴う通信量及び消費電力の急激な増大に対処するため、ネットワーク全体の超高速化と低消費電力化を同時に実現する光ネットワークに関する研究開発を推進した。

 経済産業省では、さらに超低遅延や多数同時接続といった機能が強化された5G(以下「ポスト5G」という。)について、今後、スマート工場や自動運転といった多様な産業用途への活用が見込まれているため、ポスト5Gに対応した情報通信システムや当該システムで用いられる半導体等の関連技術の開発に取り組んだ。また、産業のIoT化や電動化が進展し、それを支える半導体関連技術の重要性が高まる中、我が国が保有する高水準の要素技術等を活用し、エレクトロニクス製品のより高性能な省エネルギー化を実現するため、次世代パワー半導体や半導体製造装置の高度化に向けた研究開発に着手した。さらに、総務省では、2030年代のあらゆる産業・社会活動の基盤になると想定される次世代の情報通信インフラBeyond 5Gの実現に向け、令和3年3月に情報通信研究機構に研究開発基金を設置し、企業・大学等の研究開発を支援している。令和3年度末までに、同基金を活用して計47件の研究開発課題を採択し、超高速・大容量、超低遅延、超多数同時接続、自律性、拡張性、超安全・信頼性、超低消費電力等のBeyond 5Gの実現に必要な要素技術に関する研究開発を実施している。

2.AI利活用技術の整備・研究開発

 政府においては、AIを取り巻く教育改革、研究開発、社会実装等の観点から、総合的な政策パッケージとして「AI戦略2019」を令和元年6月に策定し、以降年次にて戦略のフォローアップを実施してきており、令和3年6月に策定された「AI戦略2021」に基づく取組が、関係府省の連携の下、一体的に進められている。具体的には、本戦略に基づき、統合的・統一的な情報発信や、AI研究者間の意見交換を推進するために、産業技術総合研究所、理化学研究所、情報通信研究機構を中核機関とした形にて、AI研究開発に積極的に取り組む大学・研究機関等の連携を促進する人工知能研究開発ネットワークが設立・運営されており、令和4年2月末日までに国内の116の大学・公的研究機関等が参画している。このほか、本戦略では、人工知能に関する基盤的・融合的な研究開発の推進や、研究インフラの整備等を推進している。

 関係府省庁における取組としては、総務省は、情報通信研究機構において、脳活動分析技術を用い、人の感性を客観的に評価するシステムの開発を実施しており、このシステムを用いて脳活動等に現れる無意識での価値判断等に応じた効率的な情報処理プロセスの開発等を実施し、社会実装に向けた取組を実施している。また、誰もが分かり合えるユニバーサルコミュニケーションの実現を目指して、音声、テキスト、センサーデータ等の膨大なデータを用いた深層学習技術等の先端技術により、多言語翻訳、対話システム、行動支援等の研究開発・実証を実施している。

 文部科学省は、理化学研究所に設置した革新知能統合研究センターにおいて、①深層学習の原理解明や汎用的な機械学習の基盤技術の構築、②我が国が強みを持つ分野の科学研究の加速や我が国の社会的課題の解決のための人工知能等の基盤技術の研究開発、③人工知能技術の普及に伴って生じる倫理的・法的・社会的課題(ELSI(※3))に関する研究などを実施している。令和3年度においては、「AI戦略 2019」等に基づき、Trusted Quality AI(AIの判断根拠の理解・説明可能化)の研究開発や、新型コロナウイルス感染症対策に関するAI技術を用いた研究開発(メディアや人流解析を通じた行動変容の促進・個別最適化等)などを進めている。このほか、科学技術振興機構において、人工知能等の分野における若手研究者の独創的な発想や、新たなイノベーションを切り開く挑戦的な研究課題に対する支援(AIP(※4)ネットワークラボ)を一体的に推進している。

 経済産業省は、平成27年5月、産業技術総合研究所に設置した「人工知能研究センター」に優れた研究者・技術を結集し、大学等と産業界のハブとして目的基礎研究の成果を社会実装につなげていく好循環を生むエコシステムの形成に取り組んでいる。具体的には、データ・知識融合型人工知能の先端研究、研究成果の早期橋渡しを可能とする人工知能フレームワーク・先進中核モジュールのツール開発に取り組んでいる。また、情報・人間工学領域において、世界トップレベルの人工知能処理性能を有する大規模で省電力の計算システム「AI橋渡しクラウド(ABCI(※5))」を運用するとともに、令和2年度には、産業界等からの高い需要に応じて処理能力の増強を進め、令和3年5月より拡充分の一般共用を開始した。さらに、令和3年度経済産業省「IoT社会実現に向けた次世代人工知能・センシング等中核技術開発」に基づき、新エネルギー・産業技術総合開発機構では、人工知能を活用した遠隔環境の高度状態推定・情報提示を可能とする革新的なリモート技術の基盤形成に取り組む「人工知能活用による革新的リモート技術開発」事業を開始した。加えて、平成30年度よりエネルギー需給構造の高度化に向けた「次世代人工知能・ロボットの中核となるインテグレート技術開発」事業として、エネルギー需給の高度化に貢献するAI技術の実装加速化に向けた研究開発やAI導入を飛躍的に加速させる基盤技術開発、ものづくり分野の設計や製造現場に蓄積されてきた「熟練者の技・暗黙知(経験や勘)」の伝承・効率的活用を支えるAI技術開発に取り組んでいる。

 また、経済産業省は、IoT社会の到来により増加した膨大な量の情報を効率的に活用するため、ネットワークのエッジ側で動作する超低消費電力の革新的AIチップに係るコンピューティング技術、新原理により高速化と低消費電力化を両立する次世代コンピューティング技術(脳型コンピュータ、量子コンピュータ等)や光エレクトロニクス技術等の開発に取り組んだ。また、AIチップ開発に必要な設計ツールや検証装置等を備えたAIチップ設計拠点を構築し、民間企業におけるAIチップ開発を支援した。

❺ デジタル社会を担う人材育成

 近年では、イノベーションが急速に進展し、技術がめまぐるしく進化する中、第4次産業革命やSociety 5.0の実現に向け、AI・ビッグデータ・IoT等の革新的な技術を社会実装につなげるとともに、そうした技術による産業構造改革を促す人材を育成する必要性が高まっている。

 文部科学省は、本戦略の目標である「文理を問わず全ての大学・高専生(約50万人卒/年)が初級レベルの能力を習得すること」、「大学・高専生(約25万人卒/年)が自らの専門分野への応用基礎力を習得すること」の実現のため、数理・データサイエンス・AI教育の基本的考え方、学修目標・スキルセット、教育方法などを体系化したモデルカリキュラム(リテラシーレベル・応用基礎レベル)を策定・活用するとともに、教材等の開発や、教育に活用可能な社会の実課題・実データの収集・整備等を通じて全国の大学などへの普及・展開を推進している。また、AI戦略 2019では、大学・高専における数理・データサイエンス・AI教育のうち、優れた教育プログラムを政府が認定することとされており、リテラシーレベルについては、令和3年に78件の教育プログラムを認定、応用基礎レベルについては、令和4年度より認定を開始する予定としている。本認定制度は、各大学等の取組について、政府だけでなく産業界をはじめとした社会全体として積極的に評価する環境を醸成し、より質の高い教育を牽引(けんいん)していくことを目指している。

 また、各分野の博士人材等について、データサイエンス等を活用しアカデミア・産業界を問わず活躍できるトップクラスのエキスパート人材を育成する研修プログラムの開発を目指す「データ関連人材育成プログラム」を平成29年度より実施しているほか、高度な統計学のスキルを有する人材の育成及び統計人材育成エコシステムの構築を目的とした「統計エキスパート人材育成プロジェクト」に令和3年度より取り組んでいる。

 総務省は、「戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE(※6))」において、日々新しい技術や発想が誕生している世界的に予想のつかないICT分野における、地球規模の破壊的な価値創造を生み出すため、大いなる可能性がある奇想天外でアンビシャスな技術課題への挑戦を支援する「異能(inno)vation」プログラムを実施している。

 経済産業省は、情報処理推進機構を通じて、ITを駆使してイノベーションを創出することのできる独創的なアイデアと技術を有するとともに、これらを活用していく能力を有する優れた個人(ITクリエータ)を発掘・育成する「未踏IT人材発掘・育成事業」等を実施している。

❻ デジタル社会の在り方に関する国際社会への貢献

 デジタル庁は、信頼性のあるデータ流通(DFFT(※7))の実現に向け、データ流通に関するグローバルな枠組みを構築するため、データ品質、プライバシー、セキュリティ、インフラ等の相互信頼やルール、標準等、国際的なデータ流通を促進する上での課題解決に向けた方策を実行することとしている。

 内閣府は、データ連携基盤の構築に関する取組を通じて得られた技術的成果等を踏まえつつ、関係省庁との連携の下、デジタル社会の在り方に関する国際的な議論への対応等について検討している。

 総務省は、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)も見据え、「グローバルコミュニケーション計画2025」(令和2年3月)に基づき情報通信研究機構の多言語翻訳技術の更なる高度化により、ビジネスや国際会議における議論等の場面にも対応したAIによる「同時通訳」を実現するための研究開発を実施している。

 外務省及び国際協力機構は、政府開発援助事業において開発途上国のデジタル社会構築に資する協力を推進するべく、開発の各分野でのデジタルの利活用、その基盤となるデジタル化を担う人材・産業の育成、サイバーセキュリティの能力強化等に取り組んでいる。

❼ 新たな政策的課題

 内閣府は、DFFTへの対応など、関係省庁の議論の動向を踏まえつつ、AI戦略、包括的データ戦略などに基づく各種の取組を通じて、国境を越えたデータ活用促進方策、官民におけるデジタルツイン構築の促進方針、世界の高度人材を日本へ引き付ける方策や、社会受容を政策へ反映する方策の検討を進めている。

2 地球規模課題の克服に向けた社会変革と非連続なイノベーションの推進

 2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、2050年カーボンニュートラルを実現するとともに、健全で効率的な廃棄物処理及び資源の高度な循環経済を実現に向けた対応をすることで、グリーン産業の発展を通じた経済成長へとつながることで経済と環境の好循環が生み出されるような社会を目指している。

❶ 革新的環境イノベーション技術の研究開発・低コスト化の促進

1.革新的環境イノベーション戦略とグリーン成長戦略

 「革新的環境イノベーション戦略」等に基づき、有望分野に関する革新的技術の研究開発を強化している。また、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定し、革新的な技術開発に対する継続的な支援を行うグリーンイノベーション基金事業等を活用し、革新的技術の研究開発・実証とその社会実装を推進している。

2.カーボンニュートラルに向けた研究開発の推進

 経済産業省は、二酸化炭素を資源として捉え、これを分離・回収し、鉱物化によりコンクリート等、人工光合成等により化学品、メタネーション(※8)等により燃料へ再利用し、大気中への二酸化炭素排出を抑制するカーボンリサイクルの技術開発を推進するため、「カーボンリサイクル技術ロードマップ」を令和元年6月に策定し、令和3年7月には最新動向を踏まえ改訂した。同ロードマップに沿って持続可能な航空燃料(SAF(※9))や二酸化炭素を用いたコンクリートの製造技術、バイオマス由来化学品を生産するためのバイオ生産プロセス技術等の開発を進めている。

 また、二酸化炭素回収・利用・貯留(CCUS(※10))技術の実用化を目指し、二酸化炭素大規模発生源から分離・回収・輸送した二酸化炭素を利用・地中(地下1,000m以深)に貯留する一連のトータルシステムの実証及びコストの大幅低減や安全性向上に向けた技術開発を進めている。鉄鋼製造においては、製鉄プロセスにおける大幅な二酸化炭素排出削減、省エネ化を目指し、①水素還元等プロセス技術の開発事業(COURSE50(※11))、②フェロコークス技術の開発事業を行った。①については、水素を用いて鉄鉱石を還元するための技術開発及び製鉄プロセスにおける未利用排熱を用いた二酸化炭素の分離・回収のための技術開発を行った。②については、低品位原料を有効活用して製造するコークス(フェロコークス)を用いて鉄鉱石の還元反応を低温化・高効率化するための技術開発を行った。

 環境省は、石炭火力発電所の排ガスから二酸化炭素の大半を分離・回収する場合のコスト、発電効率の低下、環境影響等の評価に向けた日本初となる実用規模の二酸化炭素分離・回収設備の設計・建設や、我が国に適したCCS(※12)の円滑な導入手法の取りまとめ等を行っている。また、国内における二酸化炭素の貯留可能な地点の選定を目的として、経済産業省と環境省は共同で弾性波探査等の地質調査を実施している。さらに、平成30年度からは二酸化炭素回収・有効利用(CCU(※13))の実証事業を行っており、人工光合成やメタネーション等といった取組及びこれらのライフサイクルを通じた二酸化炭素削減効果の検証・評価を行っている。

 経済産業省は、航空分野における脱炭素化の取組に寄与する持続可能な航空燃料(SAF(※14))の商用化に向け、ATJ(※15)技術(触媒技術を利用してアルコールからSAFを製造)や、ガス化・FT(※16)合成技術(木材等を水素と一酸化炭素に気化し、ガスと触媒を反応させてSAFを製造)、カーボンリサイクルを活用した微細藻類の培養技術を含むHEFA(※17)技術に係る実証事業等を実施している。

 また、グリーンイノベーション基金/CO2等を用いた燃料製造技術開発事業において、SAFの大量生産が可能となる技術(ATJ技術)の支援を予定している。

 科学技術振興機構は、「戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発(ALCA(※18))」及び「未来社会創造事業『地球規模課題である低炭素社会の実現』領域」において、バイオマスから化成品等を製造し、石油製品を代替する革新的なバイオテクノロジーの研究開発を推進している。

 理化学研究所は、石油化学製品として消費され続けている炭素等の資源を循環的に利活用することを目指し、植物科学、ケミカルバイオロジー、触媒化学、バイオマス工学等を融合した先導的研究を実施している。また、バイオマスを原料とした新材料の創成を実現するための革新的で一貫したバイオプロセスの確立に必要な研究開発を実施している。

コラム2-1 地球温暖対策最後の切り札 Direct Air Capture

 気候変動の問題や海洋プラスチックごみ等による海洋汚染の問題は、今後の地球規模の課題として大きな課題である。ムーンショット型研究開発制度の目標4「2050年までに、地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現」では、持続的な資源循環の実現による地球温暖化問題の解決「Cool Earth」と、環境汚染問題の解決「Clean Earth」による地球環境再生を目指し、温室効果ガス削減技術や、海洋環境下で無害なレベルまで生分解するプラスチックの開発を進めている(参考1)。
 この中で「大気から二酸化炭素を直接回収」する技術Direct Air Captureは、「脱炭素の切り札」「脱炭素の救世主」として期待され、世界各国で開発競争が激化している。空気中の二酸化炭素濃度は0.04%と非常に低く、回収するのは容易ではない上、大量に回収し分離するためには、ばく大なエネルギーが必要である。そこで、省エネルギーで回収する技術の開発が急務となっている。
 ムーンショット目標4のうち「温室効果ガスを回収、資源転換、無害化する技術の開発」プロジェクトでは、「二酸化炭素を超薄い膜でつかまえる」「蜂の巣のような構造で吸い込む」「コンクリートに閉じ込める」「二酸化炭素を吸収して資源に変える能力のある微生物を活用」などの革新的技術開発を進めている。既に、空気が通りやすく表面積が大きい「ハニカム構造」のローターと、工場の排熱程度の低エネルギーで二酸化炭素を回収できる新しい吸収剤アミンを開発し、回収・分離するためのエネルギーを大幅に下げる見込みを得ている。また、34ナノメートルという驚異の薄さの膜を開発した。この膜に空気を送ることにより高効率で二酸化炭素を集め「資源となる化合物」に変えて活用することも狙っている。「変換ユニット」と「極うす膜」をセットにして、どこでも手軽に二酸化炭素を回収しながら資源に変えるシステムの開発を目指している。

<参考URL>
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1 内閣府ホームページ
https://www8.cao.go.jp/cstp/moonshot/index.html

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3.ムーンショットに関する取組

 ムーンショット型研究開発制度は、少子高齢化、大規模自然災害、地球温暖化等の我が国が抱える課題に科学技術が果敢に挑戦し将来の成長分野を切り拓いていくために9つの目標を設定している(第1章第2節2❹参照)。その中で、目標4においては「2050年までに、地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現」という目標を掲げ、地球環境再生のために持続可能な資源循環の実現による地球温暖化問題の解決(Cool Earth)と環境汚染問題の解決(Clean Earth)を目指している。目標5においては「2050年までに、未利用の生物機能等のフル活用により、地球規模でムリ・ムダのない持続的な食料供給産業を創出」という目標を掲げ、食料生産と地球環境保全の両立を目指している。

4.ゼロエミッション国際共同研究センターについて

 令和2年1月29日に産業技術総合研究所はゼロエミッション国際共同研究センターを設置した。当該センターにおいては、国際連携の下、再生可能エネルギー、蓄電池、水素、二酸化炭素分離・利用、人工光合成等、革新的環境イノベーション戦略の重要技術の基盤研究を実施している他、クリーンエネルギー技術に関するG20各国の国立研究所等のリーダーによる国際会議(RD20)や、東京湾岸ゼロエミッションイノベーション協議会(ゼロエミベイ)の事務局を担うなど、イノベーションハブとしての活動を推進している。

5.農林水産業に関する取組

 農林水産省は、中長期的な視点で取り組むべき研究開発に加えて、農業現場の課題を科学の力で克服していくため、明確な開発目標の下、現場での実装を視野に入れた技術開発を推進している。例えば、食料の安定供給や農業の生産性向上等を目標に、超多収性作物、不良環境耐性作物、生涯生産性の高い牛等の作出に係る研究を行っている。また、食料自給率の目標達成のため、品質や加工適性等の面で画期的な特性を有する食用作物及び飼料作物の開発や、国産飼料の活用等による畜産物の差別化・高品質化技術の開発に取り組んでいる。

 また、衛星測位情報や画像データ等を活用した農業機械の自動走行システム、野菜・果樹の収穫ロボット化等のスマート農業技術の開発や生産現場への導入効果を経済面から明らかにするスマート農業実証プロジェクトを全国182地区で展開した(令和4年3月時点)。さらに、実証成果の普及のため、取組内容を紹介するパンフレットや、実証に参加した農業者や学生の『生の声』を取りまとめた動画、令和2年度採択地区の初年度成果を公表した。

 加えて、「福島イノベーション・コースト構想」の実現に向け、ICTやロボット技術などを活用した農林水産分野の先端技術の開発を行うとともに、現場が新たに直面している課題の解消に資する現地実証や社会実装に向けた取組を推進した。

 スマート農業の社会実装を加速化するため、これまでの現場での課題を踏まえ、スマート農業推進総合パッケージ(令和2年10月策定、令和3年2月改訂)として施策の方向性を取りまとめた。

 この総合パッケージに基づき、実証の着実な実施や成果の普及、農作業受託や農業機械のシェアリング等を行う農業支援サービスの育成、農業現場への実装に際して安全上の課題解決が必要なロボット技術の安全性の検証やルール作りを進めた。

 また、農業現場におけるデータ活用の促進に向けて関係省庁とも連携して農業情報の標準化や農業機械等のデータ連携を図るオープンAPI(※19)の整備に向けた検討に取り組み、令和3年2月に、農機メーカーやICTベンダー等の事業者の対応指針を「農業分野におけるオープンAPI整備に関するガイドライン」として策定した。

 このほか、様々なデータの連携・提供が可能なデータプラットフォーム「農業データ連携基盤(WAGRI)」を活用した農業者向けのICTサービスが展開されているほか、農業生産のみならず流通・加工・消費・輸出までをデータでつなぎ、フードチェーンの最適化を目指す「スマートフードチェーン」の研究開発を進めている。

 また、SDGsや環境を重視する国内外の動きが加速する中、我が国として持続可能な食料供給システムを構築し、国内外を主導していくことが急務となっている。このため、農林水産省では、令和3年5月に、我が国の食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現する「みどりの食料システム戦略」を策定し、実現に向けて生産者、事業者、消費者等の関係者が戦略の基本理念を共有するとともに、環境負荷低減につながる技術開発、地域ぐるみの活動を促進するため、「環境と調和のとれた食料システムの確立のための環境負荷低減事業活動の促進等に関する法律案(通称 みどりの食料システム法案)」を第208回国会に提出した。

 土木研究所は、食料供給力強化に貢献する積雪寒冷地の農業生産基盤の整備・保全管理に関する研究、食料供給力強化に貢献する寒冷海域の水産基盤の整備・保全に関する研究を実施している。

 農林水産省は、農林水産分野における気候変動緩和技術として、令和2年度からバイオ炭やブルーカーボン、木質バイオマスのマテリアル利用による炭素吸収源対策技術の開発に取り組んでいるほか、水田・畑作・園芸施設等の現場における温室効果ガス排出削減と生産性向上を両立する気候変動緩和技術の実装スケールでの開発、炭素貯留能力に優れた造林樹種の育種期間を大幅に短縮する技術の開発を新たに開始している。また、牛の消化管内発酵由来メタン排出削減技術等の開発や、BNI(※20)強化作物の開発や利用、AWD(※21)の実用化などの国際連携を通じた農業分野における温室効果ガス排出削減技術の開発等を推進している。

 さらに、気候変動適応技術として、流木災害防止・被害軽減技術、病害虫や侵略的外来種の管理技術の開発に取り組んでいる。

 農林水産省は、民間企業等における海外の有用な植物遺伝資源を用いた新品種開発を支援するため、特にアジア地域の各国との2国間共同研究を推進し、海外植物遺伝資源の調査・収集及びその評価を行っている。また、農業・食品産業技術総合研究機構は、農業生物資源ジーンバンク事業として、農業に係る生物遺伝資源の収集・保存・評価・提供を行っている。

 文部科学省は、我が国で日常摂取される食品の成分を収載した「日本食品標準成分表」を公表している。日本食品標準成分表の充実・利活用を含めた在り方等の検討を目標として、現代型の食生活に対応した質の高い情報の集積が求められていることを踏まえた食品成分分析等の調査を行った。

コラム2-2 乳用牛の胃から、メタンの発生抑制が期待される新種の細菌を発見 - 牛のげっぷ由来のメタン排出削減への貢献に期待 -

 農業・食品産業技術総合研究機構は、乳用牛の胃から、メタンの発生抑制が期待できる新種の細菌を発見した。
 令和3年11月の国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)において、世界全体のメタン排出量を2030年までに2020年比30%削減することを目標とするグローバル・メタン・プレッジが発足し、100か国以上が参加を表明するなど、温室効果ガスであるメタンの排出削減は国際的に重要な課題になっている。
 特に、牛などの反すう動物のげっぷにはメタンが含まれており、牛1頭から1日当たり200~600リットルのメタンがげっぷとして放出されている。年間に換算するとその量は全世界で約20億トン(二酸化炭素換算)と推定され、これは全世界で発生している温室効果ガスの約4%(二酸化炭素換算)を占めると考えられている。
 このような中、新たな細菌は乳用牛の第一胃で発見された。第一胃では微生物の働きで飼料が分解・発酵され、メタンやプロピオン酸が生成されている。プロピオン酸は牛のエネルギー源として利用される物質で、第一胃においてプロピオン酸が多く作られると、メタンは逆に作られにくくなることが分かっている。この新たな細菌は、プロピオン酸の元となる物質を、今までに知られていた細菌より多く作る特徴があることから、メタンの発生抑制が期待できることが分かった。
 今後、研究が進み、第一胃でエネルギー源のプロピオン酸を多く生成できるようになれば、乳用牛をはじめとした反すう動物からのメタン発生の削減やエネルギー効率を高めることによる生産性の向上への貢献も期待されている。

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6.社会インフラ設備の省エネ化・ゼロエミッション化に向けた取組

 国土交通省は、技術のトップランナーを中核とした海事産業の集約・連携強化を図るため、次世代船舶(ゼロエミッション船等)の技術開発支援を行うとともに、環境省と連携し、LNG燃料システム及び最新の省CO2機器を組み合わせた先進的な航行システムの普及を図るためのLNG燃料船の導入促進事業を行った。

 海上・港湾・航空技術研究所は、船舶からの二酸化炭素排出量の大幅削減に向け、ゼロエミッションを目指した環境インパクトの大幅な低減と社会合理性を兼ね備えた環境規制の実現に資する基盤的技術に関する研究を行っている。

 また、国内外に広く適用可能なブルーカーボンの計測手法を確立することを目的に、大気と海水間のガス交換速度や海水と底生系間の炭素フロー等の定量化など、沿岸域における現地調査や実験を推進している。

 土木研究所は、下水道施設を核とした資源・エネルギー有効利用に関する研究を実施している。

 国土技術政策総合研究所は、温室効果ガス排出を抑制しエネルギー・資源を回収する下水処理技術に関する研究を行っている。

 海上・港湾・航空技術研究所は、海中での施工、洋上基地と海底の輸送・通信等に係る研究開発、海洋資源・エネルギー開発に係る基盤的技術の基礎となる海洋構造物の安全性評価手法及び環境負荷軽減手法の開発・高度化に関する研究を行っている。

7.地球環境の観測技術の開発と継続的観測

(1)地球観測等の推進

 気候変動の状況等を把握するため、世界中で様々な地球観測が実施されている。気候変動問題の解決に向けた全世界的な取組を一層効果的なものとするためには、国際的な連携により、観測データ及び科学的知見への各国・機関へのアクセスを容易にするシステムが重要である。「全球地球観測システム(GEOSS(※22))」は、このような複数のシステムから構成される国際的なシステムであり、その構築を推進する国際的な枠組みとして、地球観測に関する政府間会合(GEO(※23))が設立され、2022年(令和4年)3月時点で253の国及び国際機関等が参加している。我が国はGEOの執行委員国の1つとして主導的な役割を果たしている。

 環境省は、環境研究総合推進費における戦略的研究課題の1つとして、我が国の気候変動適応を支援する影響予測・適応評価に関する最新の科学的情報の創出を目的とする「気候変動影響予測・適応評価の総合的研究(S-18)」を実施している。これらの戦略的研究をはじめとして、気候変動及びその影響の観測・監視並びに予測・評価及びその対策に関する研究を環境研究総合推進費等により総合的に推進している。

(2)人工衛星等による観測

 宇宙航空研究開発機構は、気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C(※24))、水循環変動観測衛星「しずく」(GCOM-W(※25))、陸域観測技術衛星2号「だいち2号」(ALOS-2(※26))等の運用及び先進光学衛星(ALOS-3(※27))や先進レーダ衛星(ALOS-4(※28))等の研究開発などを行い、人工衛星を活用した地球観測の推進に取り組んでいる(第2章第1節3❺参照)。

 環境省は、気候変動とその影響の解明に役立てるため、関係府省庁及び国内外の関係機関と連携して、温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT(※29))や「いぶき2号」(GOSAT-2)による全球の二酸化炭素及びメタン等の観測技術の開発及び観測に加え、航空機・船舶・地上からの観測を継続的に実施している。GOSATは、気候変動対策の一層の推進に貢献することを目指して、二酸化炭素及びメタンの全球の濃度分布、月別及び地域別の排出・吸収量の推定を実現するとともに、平成21年の観測開始から二酸化炭素及びメタンの濃度がそれぞれ季節変動を経ながら年々上昇し続けている傾向を明らかにするなどの成果を上げている。また、人間活動により発生した温室効果ガスの排出源と排出量を特定できる可能性を示した。後継機であるGOSAT-2はGOSATの観測対象である二酸化炭素やメタンの観測精度を高めるとともに、新たに一酸化炭素を観測対象として追加した。二酸化炭素は、工業活動や燃料消費等の人間活動だけでなく、森林や生物の活動によっても排出されている。一方、一酸化炭素は、人間の活動から排出されるものの、森林や生物活動からは排出されない(自然火災を除く。)。二酸化炭素と一酸化炭素を組み合わせて観測して解析することにより、「人為起源」の二酸化炭素の排出量の推定を目指している。GOSAT-2は、平成30年10月に打ち上げられ、GOSATのミッションである全球の温室効果ガス濃度の観測を継承するほか、人為起源排出源の特定と排出量推計精度を向上するための新たな機能により、各国のパリ協定に基づく排出量報告の透明性向上への貢献を目指している。なお、令和元年度から水循環観測と温室効果ガス観測のミッションの継続と観測能力の更なる強化を目指してGCOM-Wの後継センサ高性能マイクロ波放射計3(AMSR3(※30))とGOSAT-2の後継センサ温室効果ガス観測センサ3型(TANSO-3(※31))を相乗り搭載する「温室効果ガス・水循環観測技術衛星」(GOSAT-GW(※32))の開発を進めている。

 また、パリ協定に基づく世界各国が実施する気候変動対策の透明性向上に貢献するために、GOSATシリーズの観測データによる排出量推計技術等の国際標準化に向けた海外での検証と展開を推進している。環境省では、平成30年度より、モンゴル国政府の協力の下で本技術の高度化に取組み、GOSAT観測データから推計した二酸化炭素の排出量が、統計データ等からモンゴル国が算出した排出量の算定値と概ね一致するまで技術を高めることに成功した。さらに、令和3年度よりモンゴル国以外の各国への展開を推進している。

(3)地上・海洋観測等

 近年、北極域の海氷の減少、世界的な海水温の上昇や海洋酸性化の進行、プラスチックごみによる海洋の汚染など、海洋環境が急速に変化している。海洋環境の変化を理解し、海洋や海洋資源の保全・持続可能な利用、地球環境変動の解明を実現するため、海洋研究開発機構は、漂流フロート、係留ブイや船舶による観測等を組み合わせ、統合的な海洋の観測網の構築を推進している。

 海洋研究開発機構と気象庁は、文部科学省等の関係機関と連携し、世界の海洋内部の詳細な変化を把握し、気候変動予測の精度向上につなげる高度海洋監視システム(アルゴ計画(※33))に参画している。アルゴ計画は、アルゴフロートを全世界の海洋に展開することによって、常時全海洋を観測するシステムを構築するものである。

 文部科学省は、地球環境変動を顕著に捉えることが可能な南極地域及び北極域における研究諸分野の調査・観測等を推進している。「南極地域観測事業」では、南極地域観測第Ⅸ期6か年計画(平成28年度~令和3年度)に基づき、南極地域における調査・観測等を実施している。

 北極域は、様々なメカニズムにより温暖化が最も顕著に進行している場所として知られている。一方で、夏季海氷融解により、我が国を含め様々な利用可能性が期待されている。これら全球的な気候変動への対応や北極域の持続的利用への貢献の両面において、基盤となる科学的知見の充実は不可欠である。

 このため、令和2年度より北極域研究推進プロジェクト(ArCS(※34))の後継事業として「北極域研究加速プロジェクト(ArCSⅡ(※35))」を実施している。持続可能な社会の実現を目的として、北極の急激な環境変化が我が国を含む人間社会に与える影響を評価し、研究成果の社会実装を目指すとともに、北極における国際的なルール形成のための法政策的な対応の基礎となる科学的知見を国内外のステークホルダーに提供するため、国際共同研究等の取組を実施している。

 また、ArCSⅡの下、令和3年度(2021年度)は、海洋地球研究船「みらい」により、特に劇的な環境変化の最中にある太平洋側北極海の観測を実施した。

 さらに、令和3年度は、観測空白域となっている海氷域の観測が可能な観測・研究プラットフォームである北極域研究船の建造を開始した。

 気象庁は、大気や海洋の温室効果ガス、エアロゾルや地上放射、オゾン層・紫外線の観測や解析を実施しているほか、船舶、アルゴフロートや衛星等による様々な観測データを収集・分析し、地球環境に関連した海洋変動の現状と今後の見通し等を「海洋の健康診断表」として取りまとめ、情報発信を行っている。また、温室効果ガスの状況を把握するため、国内の3観測地点及び南極昭和基地において大気中の温室効果ガスの観測を行っているほか、海洋気象観測船による北西太平洋の洋上大気や海水中の温室効果ガスの観測及び航空機による上空の温室効果ガスの観測を行っている。これらを含めた地球温暖化に関する観測データは解析結果と共に公開している。さらに、国内の3観測地点及び南極昭和基地でオゾン層・紫外線の観測を行っている。

コラム2-3 リッチなデータが質の高い研究成果創出の第一歩! ~極域における観測と成果~

 本白書では、イノベーションの事例が多数紹介されていますが、イノベーションを生み出すような研究の第一歩の多くは、正確な実験や観測・計測を行ってデータを取ることです。データが正確で多い、つまり「リッチ」であるほど、論文や数理モデルの質が高まると言えるでしょう。
 そのデータを取るためには、実験室などで実験を行うこともあれば、野外などいわゆるフィールドに出ての観測・計測もあります。ここでは、容易にアクセスしがたい過酷な自然環境下にある両極域での観測とその成果の一例を紹介します。

(事例1:南極の氷河減少の仕組みの解明)
 南極大陸の東経116度付近に位置するトッテン氷河の流域には、融解した場合に全球の海水面を3~4m上昇させる量に相当する氷床が存在していますが、近年、この地域の氷床の融解が進んでいることが報告されています。過去の観測により、沖合を起源とする暖かい水が氷河の前面に分布することは分かっていましたが、そもそもこの暖かい水がどのように沖合からトッテン氷河の方向へと運ばれるかについてはこれまで不明でした。
 水産庁漁業調査船「開洋丸」の第10次南極海調査(平成30年12月~平成31年2月)、及び、第61次南極地域観測隊(令和元年11月~令和2年3月)における南極観測船「しらせ」での航海において、トッテン氷河沖合の広域で海洋観測を実施し、水温・塩分・溶存酸素などの鉛直プロファイルデータを取得しました。両航海で得られたデータと、衛星による観測データを統合して解析を行いました。
 その結果、大陸斜面に沿った水温の分布を見ると、特に暖かい水は複数の巨大な定在渦の東側(南下流域)に分布していました。このことは、これらの定在渦によって沖合の暖かい水が効率的に大陸方向へ運ばれていることを示すものです。
 複数の船舶によって広範囲における大規模なデータを取得できたことにより、初めて全体像を明らかにすることができた研究成果であり、周辺海洋による氷河の融解プロセスの包括的な理解につながると期待されます。

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二次元コード1:オゾンホールの発見
https://www.mri-jma.go.jp/Research/explanation/ozonhole.html

 これは極域での観測や研究成果のほんの一例です。このほかにも例えば皆さんがよく御存じのオゾンホールの発見なども南極地域観測の成果です(二次元コード1)。
 観測において質の高いデータを取るためには、極域での観測に耐え得る観測装置の用意や、研究者や機材等の物資の現地への輸送も必要であり、これらは多くの関係者の協力・工夫により実現しています。また、人間社会でもある北極域での活動には、現地に居住する人々の協力も不可欠です。
 さらに近年、地球科学の分野でもビッグデータを活用したいわゆるデータ駆動型の研究が活発に行われています。このような研究を行うには、取得したデータを活用しやすいように整理して公開することも大変重要です。

(事例2:北極海氷データを活用した多方面への支援)
 北極海の夏の海氷面積はおよそこの45年で半減し、2012(平成24)年9月には、海氷面積が過去最小になったことが記録されるなど、北極海は温暖化の影響が最も顕著に現れている地域です。また、2013(平成25)年に公表された、気候変動に関する政府間パネル(IPCC(※36))の第5次評価報告書によれば、早ければ2050(令和32)年ごろに夏の海氷がほとんど消失するという予測もなされています。
 国立極地研究所では、昭和53年以降、宇宙航空研究開発機構(JAXA(※37))の衛星から得られたデータを蓄積しており、平成26年からは、「準リアルタイム極域環境監視モニター(VISHOP(※38))」として公開しています(二次元コード2)。VISHOPは、極域の衛星データをブラウザ上で準リアルタイムに表示する可視化サービスで、極域の状態を素早く配信することを目的に開発されています。衛星から送られてきたデータをもとに、海氷や海水面温度、積雪深、雲の動きのような多くの分野で参照される情報を自動的に可視化しており、Webサイトにアクセスするだけでアニメーションによるダイナミックな動きを参照でき、研究者、気象関連の企業関係者、大学や高校の授業など、広く活用されています。
 北極海の海氷面積は、近年、地球温暖化の指標としても重要な役割を果たしています。2009(平成21)年に公表されたIPCCの第4次評価報告書では、北極海の海氷面積が全球予測モデルによる予測を超えて減少していることが明らかになったため、海氷域面積の予測精度を向上させるための全球予測モデルの改良を進めています。国立極地研究所では、地球温暖化によって海氷がどのように変動するかを正確に理解するだけではなく、地球温暖化の全球への影響評価や対応策の検討にも貢献しています。

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二次元コード2:VISHOP
https://ads.nipr.ac.jp/vishop/#/monitor
準リアルタイム極域環境監視モニターVISHOP

(4)スーパーコンピュータ等を活用した気候変動の予測技術等の高度化

 文部科学省は、「統合的気候モデル高度化研究プログラム」において、地球シミュレータ等のスーパーコンピュータを活用し、気候モデル等の開発を通じて気候変動の予測技術等を高度化することによって、気候変動対策に必要となる基盤的情報を創出するための研究開発を実施している。この成果が、2021年(令和3年)8月に公表された「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の第6次評価報告書第1作業部会報告書において、数多く引用されるなど、国際的な貢献も果たしている。

 また、「地球環境データ統合・解析プラットフォーム事業」において、地球環境データを蓄積・統合解析する「データ統合・解析システム(DIAS(※39))」を活用し、地球環境ビッグデータを利活用した気候変動、防災等の地球規模課題の解決に貢献する研究開発を推進している。

 気象研究所は、エアロゾルが雲に与える効果、オゾンの変化や炭素循環なども表現できる温暖化予測地球システムモデルを構築し、気候変動に関する10年程度の近未来予測及びIPCCの排出シナリオに基づく長期予測を行っている。また、我が国特有の局地的な現象を表現できる分解能を持った精緻(せいち)な雲解像地域気候モデルを開発して、領域温暖化予測を行っている。

 海洋研究開発機構は、大型計算機システムを駆使した最先端の予測モデルやシミュレーション技術の開発により、地球規模の環境変動が我が国に及ぼす影響を把握するとともに、気候変動問題の解決に海洋分野から貢献している。

コラム2-4 コロナ禍が地球環境にもたらした影響を探る

 新型コロナウイルス感染症の世界的蔓延(まんえん)を抑えるため、2020年(令和2年)は世界各国でロックダウンなどの対策が講じられました。その結果、リーマン・ショック時を超える規模で世界的に社会経済活動が低下し、温室効果ガスや大気汚染物質の排出量も減少しました。この現象に着目して、各物質の「排出量変化」と「大気中濃度の応答」の対応関係や、それらが引き起こす「気候・健康影響」の変化を評価することは、カーボンニュートラルや大気質改善へ向けての今後の政策検討に極めて有効です。国内では海洋研究開発機構、気象研究所、国立環境研究所等の研究者が集中的に解析を行っています。
 温暖化を促す二酸化炭素の排出量は、化石燃料消費量の変化から、前年比7%の減少と見積もられましたが、世界規模での大気中濃度は実際には上昇を続けました。コロナ以前の60年間の平均では、毎年の二酸化炭素排出のうち約56%が植生や海洋に吸収され、残りの44%が大気中に蓄積されるとの分配が続いていました(気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書)。これを踏まえると、二酸化炭素排出量が前年比7%の減少となったとしても、大気中への新たな蓄積を大きく抑制するほどの影響ではなかったといえます。このことは、2050年カーボンニュートラルを目指す際に、いかに大きな社会変容が必要であるかを、改めて浮き彫りにしました。
 インドや中国では空気中のエアロゾル粒子(PM2.5など)による大気汚染が収まり、青空も戻ったと報告されました。このことは、野外大気汚染による世界の早期死亡者数(約400万人/年)を減少させる効果があったと考えられます。その反面、気候影響の観点では、エアロゾル粒子の主成分である硫酸エアロゾルが持つ、太陽光を跳ね返す「日傘効果」が薄れ、逆に昇温傾向となることも指摘されました。健康を守る観点で大気汚染対策を進めることは必要ですが、副作用として温暖化が促されてしまうため、大気汚染対策とともに、その寄与を打ち消すほどに十分な温暖化物質の削減が求められるといえます。

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 一方で、大気汚染を引き起こす物質のうち、オゾンやすす(ブラックカーボン、BC)粒子は、削減に成功すれば健康影響と温暖化の両方を和らげる「一石二鳥」の効果をもたらします。オゾンの原料物質である窒素酸化物の人為的な総排出量は、2020年2月中旬までに中国では最大36%減少、2020年4~5月には世界全体で15%以上減少し、オゾンも全球で2%減少したと見積もられました。窒素酸化物の主成分である二酸化窒素濃度については、最新の人工衛星により、世界的な分布の1日ごとの変化や都市ごとの変化を観測することができるようになりました。この衛星による観測結果は、先に述べた排出量減少の推定の根拠となったほか、ロックダウン前後を比べた画像は報道でも多く取り上げられました。季節風により中国から西日本へ飛来するBC粒子濃度をコロナ前後で比較した研究では、平時と比べた2020年の排出減少幅がピーク時でも18%減と比較的小さいことが明らかになりました。ロックダウン時にも排出レベルが維持されたことから、中国での主な排出部門は産業・交通ではなく、家庭であると解釈されました。これにより、効果的な排出削減対象を絞り込むことができたといえます。
 以上のように、現実の濃度変化を迅速に把握する観測システムを基に、物質ごとに異なる排出量変化幅と気候・健康影響とを結び付けて精度良く評価する仕組みが開発されつつあり、コロナ時期の評価結果を科学的エビデンスとして社会政策に活用していくべきだと考えられます。

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❷ 多様なエネルギー源の活用等のための研究開発・実証等の推進

 政府は、令和3年10月にエネルギー基本計画を閣議決定した。その中で、2050年カーボンニュートラルの実現に向け、「産業・業務・家庭・運輸・電力部門のあらゆる経済活動に共通して、様々なイノベーションに挑戦・具現化し、新たな脱炭素技術の社会実装を進めていくことが求められる」としており、技術開発・イノベーションの重要性について明記している。また、2050年カーボンニュートラルの実現を目指す中であっても、安全の確保を大前提に、安定的で安価なエネルギー供給を確保していくことが重要であり、そのため、再エネ、原子力、水素、CCUSなどあらゆる選択肢を追求していくこととしている。

1.太陽光発電システムに係る発電技術

 経済産業省は、薄型軽量のため設置制約を克服できるペロブスカイト太陽電池(※40)等の革新的な新構造太陽電池の実用化へ向けた要素技術、太陽光発電システム全体の効率向上を図るための周辺機器高機能化や維持管理技術、低コストリサイクル技術の開発を行っている。

 科学技術振興機構は、「戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発(ALCA)」及び「未来社会創造事業『地球規模課題である低炭素社会の実現』領域」において、温室効果ガス削減に大きな可能性を有し、かつ従来技術の延長線上にない革新的技術の研究開発を競争的環境下で推進しており、その中で革新的な太陽光利用に係る研究開発を推進している。

2.浮体式洋上風力発電システムに係る発電技術

 経済産業省は、浮体式洋上風力発電システムの導入拡大に向け、福島県沖における複数基による実証事業を行い、浮体式特有の安全性・信頼性・経済性を検証した。また、浮体式洋上風力発電システム技術の確立を目指した北九州市沖での新技術を活用した実証事業等を進めている。

 環境省は、我が国で初となる2MW(メガワット)浮体式洋上風力発電機の開発・実証を行い、関連技術等を確立した。本技術開発・実証の成果として、平成28年より国内初の洋上風力発電の商用運転が開始されており、風車周辺に新たな漁場が形成されるなどの副次効果も生じている。また、浮体式洋上風力発電の本格的な普及拡大に向け、低炭素化・高効率化する新たな施工手法等の確立を目指す取組を行った。令和3年度は、前年度に引き続き脱炭素化ビジネスが促進されるよう、新たに浮体式洋上風力発電の早期普及に貢献するための情報の整理や、地域が浮体式洋上風力発電によるエネルギーの地産地消を目指すに当たって必要な各種調査、当該地域における事業性・二酸化炭素削減効果の見通しなどの検討を行った。

 国土交通省は、浮体式洋上風力発電施設のコスト低減に向けて、平成30年度より安全性を確保しつつ浮体構造や設置方法の簡素化等を実現するための設計・安全評価手法を検討しているところ、令和3年度は遠隔検査及びモニタリングについて実態調査や実現可能性の検討を行った。

3.地熱発電に係る技術開発

 経済産業省は、地熱発電について、資源探査の段階における高いリスクやコスト、発電段階における運転の効率化や出力の安定化といった課題を解決するため、探査精度と掘削速度を向上する技術開発や、開発・運転を効率化、出力を安定化する技術開発を行っている。また、発電能力が高く開発が期待されている次世代の地熱発電(超臨界地熱発電)に関する詳細事前検討を行っている。

4.高効率石炭火力発電及び二酸化炭素の分離回収・有効利用技術開発

 経済産業省は、脱炭素化を見据えた次世代の高効率石炭火力発電技術である石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC(※41))等の技術開発を実施している。また、火力発電から発生する二酸化炭素の効率的な分離回収・有効利用(CCU/カーボンリサイクル(※42))技術の開発を行っている。

5.その他技術開発

 経済産業省は、国内製油所のグリーン化に向けて、重質油の組成を分子レベルで解明し反応シミュレーションモデル等を組み合わせたペトロリオミクス技術を活用して、重質油等の成分と反応性を事前に評価することにより、二次装置の稼働を適切に組み合わせ、製油所装置群の非効率な操業を抑制し、二酸化炭素排出量の削減に寄与する革新的な石油精製技術の開発等を進めている。

6.原子力に関する研究開発等

(1)原子力利用に係る安全性・核セキュリティ向上技術

 経済産業省は、「原子力の安全性向上に資する技術開発事業」により、東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所の事故で得られた教訓を踏まえ、原子力発電所の包括的なリスク評価手法の高度化等、更なる安全対策高度化に資する技術開発及び基盤整備を行っている。また、我が国は、国際原子力機関(IAEA(※43))、米国等と協力し、核不拡散及び核セキュリティに関する技術開発や人材育成における国際協力を先導している。日本原子力研究開発機構は「核不拡散・核セキュリティ総合支援センター」を設立し、核不拡散及び核セキュリティに関する研修等を行うとともに、IAEAとの核セキュリティ分野における人材育成に係る取決めに基づき、研修カリキュラムの共同開発、講師の相互派遣、人材育成に関する情報交換等を行っている。また、中性子を利用した核燃料物質の非破壊測定、不法な取引による核物質の起源が特定可能な核鑑識の技術開発等を行うとともに、包括的核実験禁止条約機関(CTBTO(※44))との希ガス観測プロジェクトに基づく幌延(ほろのべ)及びむつでの観測を通して核実験検知能力の向上に貢献している。

(2)原子力基礎・基盤研究開発

 文部科学省は、原子力研究開発・基盤・人材作業部会において、原子力利用の安全性・信頼性・効率性を抜本的に高める新技術等の開発や、産学官の垣根を超えた人材・技術・産業基盤の強化に向けた研究開発・基盤整備・人材育成等の課題について、総合的に検討を行った。この検討結果を踏まえ、「原子力システム研究開発事業」では、原子力イノベーション創出につながる新たな知見の獲得や課題解決を目指し、将来の社会実装に向けて取り組むべき戦略的なテーマを設定し、経済産業省と連携して我が国の原子力技術を支える戦略的な基礎・基盤研究を推進した。

 日本原子力研究開発機構は、核工学・炉工学、燃料・材料工学、原子力化学、環境・放射線科学、分離変換技術開発、計算科学技術、先端原子力科学等の基礎・基盤研究を行っている。また、発電、水素製造など多様な産業利用が見込まれ、固有の安全性を有する高温ガス炉について、安全性の高度化、原子力利用の多様化に資する研究開発等を推進した。

(3)革新的な原子力技術の開発

 原子力は実用段階にある脱炭素化の選択肢であり、安全性等の向上に加え、多様な社会的要請に応える原子力技術のイノベーションを促進することが重要である。経済産業省は令和元年度より「社会的要請に応える革新的な原子力技術開発支援事業」により、民間企業等による安全性・経済性・機動性に優れた原子力技術の開発の支援を開始した。

 また、日本原子力研究開発機構は、高速実験炉「常陽」の運転再開に向けた準備等を進め、革新的な原子力技術の開発に必要な研究開発基盤の維持・発展を図った。

(4)原子力人材の育成・確保

 原子力人材の育成・確保は、原子力分野の基盤を支え、より高度な安全性を追求し、原子力施設の安全確保や古い原子力発電所の廃炉を円滑に進めていく上で重要である。

 文部科学省は、「国際原子力人材育成イニシアティブ事業」により、産学官の関係機関が連携し、人材育成資源を有効に活用することによる効果的・効率的・戦略的な人材育成の取組を支援している。令和3年度には、これまで各機関の取組を個別に支援していたのに対し、大学や研究機関等の複数機関が連携して一体的に人材育成を行う体制として「未来社会に向けた先進的原子力教育コンソーシアム(ANEC(※45))」を創設した。また、「英知を結集した原子力科学技術・人材育成推進事業(以下「英知事業」という。)において、日本原子力研究開発機構の「廃炉環境国際共同研究センター」を中心に、東電福島第一原子力発電所の廃止措置現場のニーズを踏まえた人材育成の取組を推進している。また、平成28年12月の原子力関係閣僚会議において、高速増殖原型炉もんじゅを廃止措置する旨の政府方針を決定した際、将来的に「もんじゅ」サイトを活用し、新たな試験研究炉を設置するとしていたところ。平成29年度から設置すべき炉型等の調査委託を実施し、審議会等を通じて検討した結果、中性子ビーム利用を主目的とした試験研究炉を選定し、令和2年から概念設計及び運営の在り方の検討を開始した。

 経済産業省は、「原子力の安全性向上を担う人材の育成事業委託費」により、東電福島第一原子力発電所の廃止措置や既存原子力発電所の安全確保等のため、原子力施設のメンテナンス等を行う現場技術者や、産業界等における原子力安全に関する人材の育成を支援している。

(5)東電福島第一原子力発電所の廃止措置技術等の研究開発

 経済産業省、文部科学省及び関係省庁等は、東電福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けて、「東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」(令和元年12月27日改訂)に基づき、連携・協力しながら対策を講じている。この対策のうち、燃料デブリの取り出し技術の開発や原子炉格納容器内部の調査技術の開発等の技術的難易度が高く、国が前面に立って取り組む必要がある研究開発については、事業者を支援している。

 文部科学省は、「東京電力(株)福島第一原子力発電所の廃止措置等研究開発の加速プラン」(平成26年6月公表)に基づき、国内外の英知を結集し、安全かつ着実に廃止措置等を実施するため、基礎・基盤的な研究開発や人材育成の取組を推進している。具体的には、廃炉環境国際共同研究センターにおいて、福島県双葉郡富岡町に整備した「国際共同研究棟」を活用しつつ、燃料デブリの取扱いや放射性廃棄物の処理・処分等の基礎・基盤的な研究を実施している。さらに、英知事業においては、廃炉環境国際共同研究センターを中核として原子力分野だけでなく様々な分野の優れた知見や経験を、大学や研究機関、企業等の組織の垣根を越えて緊密に融合・連携させることにより、中長期的な廃炉現場のニーズに対応する研究開発及び人材育成の取組を推進している。

 また、廃炉に関する技術基盤を確立するための拠点整備も進めており、日本原子力研究開発機構においては、遠隔操作機器・装置の開発・実証施設(モックアップ施設)として「楢葉(ならは)遠隔技術開発センター」(福島県双葉郡楢葉町)が、平成28年4月から本格運用を開始している。加えて、燃料デブリや放射性廃棄物などの分析手法、性状把握、処理・処分技術の開発等を行う「大熊分析・研究センター」(福島県双葉郡大熊町)が平成30年3月に一部施設の運用を開始している。さらに、同センターを活用した分析実施体制の構築に向け、第1棟・第2棟の整備を進めている。

(6)核燃料サイクル技術

 「エネルギー基本計画」(令和3年10月閣議決定)においては、「使用済燃料の処理・処分に関する課題を解決し、将来世代のリスクや負担を軽減するためにも、高レベル放射性廃棄物の減容化・有害度低減や、資源の有効利用等に資する核燃料サイクルについて、これまでの経緯等も十分に考慮し、引き続き関係自治体や国際社会の理解を得つつ取り組むこととし、再処理やプルサーマル(※46)等を推進する」こととしており、また、「米国や仏国等と国際協力を進めつつ、高速炉等の研究開発に取り組む」との方針としている。

(7)放射性廃棄物処理処分に向けた技術開発等

 高レベル放射性廃棄物の大幅な減容や有害度の低減に資する可能性のある研究開発として、高速炉や加速器を用いた核変換技術や群分離技術に係る基礎・基盤研究を進めている。

 また、研究施設や医療機関などから発生する低レベル放射性廃棄物の処分に向けては、文部科学省及び経済産業省が示した「埋設処分業務の実施に関する基本方針」(平成20年12月文部科学大臣及び経済産業大臣決定)を踏まえて日本原子力研究開発機構が定めた「埋設処分業務の実施に関する計画」(平成21年11月認可、令和元年11月変更認可)に従って必要な取組を進めている。

(8)日本原子力研究開発機構が保有する施設の廃止措置

 日本原子力研究開発機構は、総合的な原子力の研究開発機関として重要な役割を果たしており、その役割を果たすためにも、研究での役割を終えた施設については、国民の御理解を得ながら、安全確保を最優先に、着実に廃止措置を進めることが必要である。日本原子力研究開発機構は、平成30年12月に保有する施設全体の廃止措置に係る長期方針である「バックエンドロードマップ」を公表した。文部科学省は、日本原子力研究開発機構が保有する原子力施設の安全かつ着実な廃止措置を進めていくため、その取組を支援している。

 例えば、高速増殖原型炉もんじゅについては、平成28年12月に開催された原子力関係閣僚会議において、原子炉としての運転は再開せず、廃止措置に移行することとされた。現在、廃止措置計画(平成30年3月原子力規制委員会認可)に基づき、日本原子力研究開発機構において廃止措置計画の第一段階として、安全確保を最優先に令和4年末までに炉心から燃料池までの燃料体取出し作業を終了することとしている。今後も「もんじゅ」の廃止措置については、立地地域の声に向き合いつつ、安全、着実かつ計画的に進めていくこととしている。

 新型転換炉原型炉ふげんについては、廃止措置計画に基づき、原子炉周辺機器等の解体撤去を進めるとともに、令和8年夏頃の使用済燃料の搬出完了に向けて必要な取組を計画的に進めている。

 東海再処理施設については、廃止措置計画に基づき、保有する高放射性廃液の早期のリスク低減を最優先課題とし、高放射性廃液のガラス固化、高放射性廃液貯蔵場の安全確保に取り組むとともに、施設の高経年化対策と安全性向上対策を着実に進めている。

(9)国民の理解と共生に向けた取組

 文部科学省は、立地地域をはじめとする国民の理解と共生のための取組として、立地地域の持続的発展に向けた取組、原子力やその他のエネルギーに関する教育への取組に対する支援などを行っている。

(10)国際原子力協力

 外務省は、IAEAによる原子力科学技術の平和的利用の促進及びこれを通じたIAEA加盟国の「持続的な開発目標(SDGs(※47))」の達成に向けた活動を支援しており、「原子力科学技術に関する研究、開発及び訓練のための地域協力協定(RCA(※48))」に基づくアジア太平洋における技術協力や平和的利用イニシアティブ(PUI(※49))拠出金等によるIAEAに対する財政的支援、専門的知見・技術を有する国内の大学、研究機関、企業とIAEAの連携強化等を通じて、開発途上国の能力構築を推進するとともに日本の優れた人材・技術の国際展開を支援している。また、IAEAは我が国と協力し、2013年(平成25年)に福島県に「IAEA緊急時対応能力研修センター(IAEA─RANET─CBC)」を指定しており、国内外の関係者を対象として、緊急事態の準備及び対応分野での能力強化のための研修を実施している。さらに、令和元年11月に東京にて、核物質等の輸送セキュリティに関する国際シンポジウムを日本原子力研究開発機構核不拡散・核セキュリティ総合支援センターと協力して開催するなど、核セキュリティの国際的強化の取組を実施した。

 文部科学省は、IAEAや経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA(※50))などの国際機関の取組への貢献を通じて、原子力平和的利用と核不拡散の推進をリードするとともに、内閣府が主導しているアジア原子力協力フォーラム(FNCA(※51))の枠組みの下、アジア地域を中心とした参加国に対して放射線利用・研究炉利用等の分野における研究開発・基盤整備等の協力を実施している。

 経済産業省は、放射性廃棄物の有害度の低減及び減容化等に資する高速炉の実証技術の確立に向けた研究開発について、日仏、日米協力をはじめとする国際協力の枠組みを活用して進めた。

 また、米国やフランスをはじめとする原子力先進国との間で、第4世代原子力システム国際フォーラム(GIF(※52))等の活動を通じ、原子力システムの研究開発等、多岐にわたる協力を行っている。

(11)原子力の平和的利用に係る取組

 我が国は、IAEAとの間で1977年(昭和52年)に締結した日・IAEA保障措置協定及び1999年(平成11年)に締結した同協定の追加議定書に基づき、核物質が平和目的に限り利用され、核兵器などに転用されていないことをIAEAが確認する「保障措置」を受け入れている。これを受け、我が国は「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(原子炉等規制法)」(昭和32年法律第166号)に基づき、国内の核物質を計量及び管理し、国としてIAEAに報告、IAEAの査察を受け入れるなどの所要の措置を講じている。

 令和3年5月19日に我が国における2020年(令和2年)の保障措置活動の実施結果について原子力規制委員会に報告し、その結果をIAEAによる我が国の保障措置活動についての評価に資するためにIAEAに情報提供した。IAEAの我が国に対する保障措置実施報告では、全ての核物質が平和的活動にとどまっている旨の結論(拡大結論)を2020年(令和2年)についても受けた。これにより、2003年(平成15年)の実施結果以降、継続して拡大結論が導出されている。

7.核融合エネルギー技術の研究開発

 核融合エネルギーは、燃料資源が豊富で、発電過程で温室効果ガスを発生せず、少量の燃料から大規模な発電が可能という特徴がある。そのため、エネルギー問題と環境問題を根本的に解決し、エネルギー安全保障の確保にも資する、重要な将来のクリーン・エネルギーとして期待されており、後述するITER(イーター)計画(※53)の技術進捗も相まって、近年、諸外国でも政策的関心が高まっている。

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 我が国は、世界7極35か国の国際協力により、実験炉の建設・運転を通じて核融合エネルギーの科学的・技術的実現可能性を実証するITER計画を推進している。核融合実験炉ITERの建設作業がフランスで本格化しており、日本が製作を担当する超電導コイル等の重要機器も順次フランスに到着している。また、核融合発電に不可欠な、核融合炉から熱としてエネルギーを取り出す機器であるブランケットは、現在ITERで実施する試験に向けた設計活動が進んでおり、令和3年7月には量子科学技術研究開発機構ブランケット工学試験棟(青森県六ヶ所村)の落成記念式典が行われた。あわせて、我が国は、日欧協力によるITER計画を補完・支援し、原型炉に必要な技術基盤を確立するための先進的研究開発である幅広いアプローチ(BA(※54))活動を推進している。BA活動ではJT-60SA(※55)が実験運転開始に向けた調整など、令和3年度も研究開発が進展している。

 さらに、我が国は、核融合エネルギーの実現に向けて、平成30年7月に科学技術・学術審議会核融合科学技術委員会が策定した「原型炉研究開発ロードマップについて(一次まとめ)」等に基づき、ITER計画、BA活動を推進するとともに、ヘリカル方式(核融合科学研究所)、レーザー方式(大阪大学レーザー科学研究所)など多様な学術研究も推進しており、世界を先導する成果を上げている。令和4年1月には、同委員会において「核融合原型炉研究開発に関する第1回中間チェックアンドレビュー報告書」が取りまとめられ、これまでの目標が達成されていることを確認するとともに、今後の課題も整理された。

<参考URL>
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核融合研究ホームページ Fusion Energy -Connect to the Future
https://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/fusion/

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核融合エネルギーへの道 イーター
https://www.youtube.com/watch?v=QEohCE1famE(出典:iter japan - QST)

8.その他長期的なエネルギー技術の開発

 経済産業省では、宇宙太陽光発電の実現に必要な発電と送電を1つのパネルで行う発送電一体型パネルを開発するとともに、その軽量化や、マイクロ波による無線送電技術の効率の改善に資する送電部の高効率化のための技術開発等を行っている。

 宇宙航空研究開発機構では、宇宙太陽光発電の実用化を目指した要素技術の研究開発を行っている。

❸ 経済社会の再設計(リデザイン)の推進

1.「脱炭素社会」への移行に向けた取組

 環境省では、住宅・建築物の高断熱化改修等の省エネルギー性能の向上やネット・ゼロ・エネルギー化(ZEH(※56)・ZEB(※57))の支援を行っており、HEMS(※58)やBEMS(※59)の導入による太陽光発電と家電等の需要側設備のエネルギー管理や、充放電設備の導入によるEV(※60)・PHEV(※61)との組み合わせ利用を促進している。加えて、再エネ設備とEV・PHEVを同時導入し、カーシェアとして供する自治体・事業者を支援することで、「ゼロカーボン・ドライブ」の普及も推進している。

 環境省は、気候変動への適応について、平成30年12月に施行された気候変動適応法の規定に基づき、平成30年11月に気候変動適応計画を策定し、令和2年12月に気候変動影響評価報告書を公表した。また令和3年10月には、気候変動影響評価報告書で示された最新の科学的知見を踏まえ、気候変動適応計画を改定し、農業や自然災害等の各分野において適応策を拡充した。この適応法及び適応計画に基づき、国立環境研究所気候変動適応センターは「気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT(※62))」において、関係府省庁及び関係研究機関と連携して適応に関する最新の情報を提供するとともに、気候変動の影響や適応に関する研究や科学的な面から地方公共団体等の適応の取組のサポートを行っている。また、地域の関係者が連携して適応策を推進するため、気候変動適応法に基づく「気候変動適応広域協議会」が全国7ブロックで立ち上げられた。

 文部科学省は、地域の脱炭素化を加速し、その地域モデルを世界に展開するための大学等のネットワーク構築に取り組んだ。また、国立環境研究所気候変動適応センターのA-PLATを通じて、ニーズを踏まえた気候変動予測情報等の研究開発成果を地方公共団体等に提供している。

2.地球温暖化対策に向けた研究開発

(1)水素・蓄電池等の蓄エネルギー技術を活用したエネルギー利用の安定化

 経済産業省は、蓄電池や燃料電池に関する技術開発・実証等を実施している。具体的には、再生可能エネルギーの導入拡大に伴い必要となる系統用の大規模蓄電池について、導入時における最適な制御・管理手法の技術開発を実施するための取組を進めている。また、電気自動車やプラグインハイブリッド車など、次世代自動車用の蓄電池(※63)について、性能向上とコスト低減を目指した技術開発を実施した。家庭用燃料電池をはじめとする定置用燃料電池や燃料電池自動車に用いられる燃料電池については、低コスト化及び耐久性・効率性向上のための技術開発を行った。さらに、燃料電池自動車の更なる普及拡大に向けて、四大都市圏を中心に、令和4年3月末時点で157か所(他9か所整備中)の水素ステーションの整備を行った。

 環境省は、「再エネ由来等水素を活用した自立・分散型エネルギーシステム構築事業」において、将来の再生可能エネルギー大量導入社会を見据え、地域の実情に応じて、蓄電池や水素を活用することにより系統に依存せず再生可能エネルギーを電気・熱として供給できるシステムを構築し、自立型水素エネルギー供給システムの導入・活用方策を確立することを目指す取組を進めている。また、地域の資源を用い、水素エネルギーシステムを構築し、地域で活用することを目指した「水素サプライチェーン実証事業」を実施し、地域の特性や多様な技術に対応できるよう進めている。

 科学技術振興機構「戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発(ALCA)」の特別重点技術領域において、従来性能を大幅に上回る次世代蓄電池に係る研究開発を推進している。更に、「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)」の先進蓄電池研究開発拠点において、産学共創の研究開発を実施している。また、「未来社会創造事業 大規模プロジェクト型」において、水素発電、余剰電力の貯蔵、輸送手段等の水素利用の拡大に貢献する高効率・低コスト・小型長寿命な革新的水素液化技術の研究開発を、「未来社会創造事業『地球規模課題である低炭素社会の実現』領域」において、再生可能エネルギーから持続的に水素製造を可能にする水電解技術の研究開発を推進している。

(2)新規技術によるエネルギー利用効率の向上と消費の削減

 内閣府は、平成30年度よりSIPにおいて「IoE(※64)社会のエネルギーシステム」に取り組み、様々なエネルギーがネットワークに接続され、需給管理が可能となるIoE社会の実現を目指している。本SIPでは、再生可能エネルギーの大量導入に向けて、セクターカップリングを通じた交通・電力インフラの統合的エネルギーマネジメントシステムの概念モデル及びプラットフォームの設計のための検討を行っており、具体には、地方自治体などが地域エネルギーシステムをデザインする際のガイドラインや自治体別のエネルギー需給データベースの構築などを進めている。また、ガリウム系半導体デバイスを適用して、再生可能エネルギーを含む多様な入力電源に対して最適な制御を可能とするユニバーサルパワーモジュールやワイヤレス電力伝送システム等の社会実装に向けての研究開発を進めている。

 経済産業省は、電力グリッド上に散在する再生可能エネルギーや蓄電池等のエネルギー設備、ディマンドリスポンス等の需要側の取組を遠隔に統合して制御し、あたかも一つの発電所(仮想発電所:バーチャルパワープラント)のように機能させることによって、電力の需給調整に活用する実証を行っている。

 環境省は、地球温暖化の防止に向け、革新技術の高度化・社会実装を図り、必要な技術イノベーションを推進するため、再生可能エネルギーの利用、エネルギー使用の合理化だけでなく、窒化ガリウム(GaN)やセルロースナノファイバー(CNF)といった省二酸化炭素性能の高い革新的な部材・素材の活用によるエネルギー消費の大幅削減、燃料電池や水素エネルギー、蓄電池、二酸化炭素回収・有効利用・貯留(CCUS(※65))等に関連する技術の開発・実証、普及を促進した。

 環境省は、公共施設等に再エネや自営線等を活用した自立・分散型エネルギーシステムを導入し、地域の再エネ比率を高めるためのエネルギー需給の最適化を行うことにより、地域全体で費用対効果の高い二酸化炭素排出削減対策を実現する先進的モデルを確立するための事業を実施している。

 科学技術振興機構は、「未来社会創造事業 大規模プロジェクト型」において、環境中の熱源(排熱や体温等)をセンサ用独立電源として活用可能とする革新的熱電変換技術の研究開発を推進した。

 理化学研究所は、物性物理、超分子化学、量子情報エレクトロニクスの3分野を糾合し、新物質や新原理を開拓することで、発電・送電・蓄電をはじめとするエネルギー利用技術の革新を可能にする全く新しい物性科学を創成し、エネルギー変換の高効率化やデバイスの消費電力の革新的低減を実現するための研究開発を実施している。

 文部科学省は、航空科学技術委員会において、電動ハイブリッド推進システム技術、水素航空機に適用可能な水素燃料電池を利用したエンジン技術といった脱炭素社会に向けた航空機の二酸化炭素排出低減技術の研究開発を進めていく方向性や具体的な課題を研究開発ビジョンとして取りまとめた。

 宇宙航空研究開発機構は、航空機の燃費・環境負荷低減等に係る研究開発としてエンジンの低NOx化・高効率化技術や航空機の電動化技術等の研究開発に取り組んでおり、さらに、産業界等との連携により成果の社会実装を見据えながら、国際競争力向上に直結するものとして加速させている。

 新エネルギー・産業技術総合開発機構は、省エネルギー技術の研究開発や普及を効果的に推進するため、「省エネルギー技術戦略2016」に掲げる重要技術(令和元年7月改定版)を軸に、提案公募型事業である「脱炭素社会実現に向けた省エネルギー技術の研究開発・社会実装促進プログラム」を実施している。

 建築研究所は、住宅・建築・都市分野において環境と調和した資源・エネルギーの効率的利用のための研究開発等を行っている。

(3)革新的な材料・デバイス等の幅広い分野への適用

 文部科学省は、「革新的パワーエレクトロニクス創出基盤技術研究開発事業」において、我が国が強みを有する窒化ガリウム(GaN)等を用いて、優れた材料特性を実現できるパワーデバイスやその特性を最大限活(い)かすことができるパワエレ回路システム等を創出し、超省エネ・高性能なパワエレ技術創出のための研究開発を推進している。また、2035~2040年頃の社会で求められる革新的半導体集積回路の創生に向けて、新たな切り口による研究開発と将来の半導体産業を牽引(けんいん)する人材育成の中核となるアカデミア拠点の形成に向けて、「次世代X-nics半導体創生拠点形成事業」を開始した。

 科学技術振興機構は、「戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発(ALCA)」及び「未来社会創造事業『地球規模課題である低炭素社会の実現』領域」において、革新的な材料開発・応用及び化学プロセス等の研究開発を推進している。

 物質・材料研究機構では、多様なエネルギー利用を促進するネットワークシステムの構築に向け、高効率太陽電池や蓄電池の研究開発、エネルギーを有効利用するためのエネルギー変換・貯蔵用材料の研究開発、省エネルギーのための高出力半導体や高輝度発光材料等におけるブレークスルーに向けた研究開発、低環境負荷社会に資する高効率・高性能な輸送機器材料やエネルギーインフラ材料の研究開発等、エネルギーの安定的な確保とエネルギー利用の効率化に向けて、革新的な材料技術の研究開発を推進している。

 経済産業省は、二酸化炭素と水を原料に太陽エネルギーでプラスチック原料等の基幹化学品を製造する技術の開発(人工光合成プロジェクト)、金属ケイ素を経由せず、高効率に有機ケイ素原料を製造する技術の開発、機能性化学品の製造手法を従来のバッチ法からフロー法へ置き換える技術の開発、リチウムイオン蓄電池材料の性能・特性を的確かつ迅速に評価できる材料評価技術の開発、セルロースナノファイバーの製造プロセスにおけるコスト低減、製造方法の最適化、量産効果が期待できる用途に応じた複合化・加工技術等の開発・安全性評価に必要な基盤情報の整備を行っている。

(4)地域の脱炭素化加速のための基盤的研究開発

 文部科学省は、カーボンニュートラル実現に向けて、「大学の力を結集した、地域の脱炭素化加速のための基盤研究開発」にて人文学・社会科学から自然科学までの幅広い知見を活用して、大学等と地域が連携して地域のカーボンニュートラルを推進するためのツール等に係る分野横断的な研究開発を推進している。あわせて、令和3年7月に「カーボンニュートラル達成に貢献する大学等コアリション」を設立し、各大学等による情報共有やプロジェクト創出を促進している。

3.「循環経済」への移行に向けた取組

 循環経済への移行に向けて、令和4年4月に「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」が施行され、プラスチックの資源循環を加速している。

 そのようなプラスチックの資源循環に係る促進策として、経済産業省は、「プラスチック有効利用高度化事業」により、プラスチックの資源効率や資源価値を高めるための技術の実用化に係る研究開発並びに海洋生分解性プラスチック開発・導入普及に向けて、将来的に求められる用途や需要にこたえるための新たな技術・素材の開発及び海洋生分解性プラスチックの国際標準化提案に向けた研究開発を推進している。

 環境省は、化石由来プラスチックからバイオマス等の再生可能資源への素材代替やリサイクルが困難な複合プラスチック等のリサイクルに関する技術実証を行っている。

 環境省は、可燃ごみ指定収集袋など、その利用用途から一義的に焼却せざるを得ないプラスチックをバイオマス化するため、「地方公共団体におけるバイオプラスチック等製ごみ袋導入のガイドライン」を公表した。

 環境省は、G20大阪サミットで我が国が提唱した「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」の実現に向け、法的拘束力のある文書(条約)に関する国際的な議論への参加や東南アジアを中心とした途上国支援、海洋プラスチックごみ対策の基盤となる科学的知見の集積強化、発生抑制対策の検討などを実施し、国内外で積極的に海洋プラスチックごみ対策に取り組んでいる。

4.「分散型社会」を構成する生物多様性への対応

 環境省は、「分散型社会」を構成する生物多様性への対応については、絶滅危惧種の保護や侵略的外来種の防除に関する技術、二次的自然を含む生態系のモニタリングや維持・回復技術、遺伝資源を含む生態系サービスと自然資本の経済・社会的価値の評価技術及び持続可能な管理・利用技術等の研究開発を推進し、「自然との共生」の実現に向けて取り組んでいる。

 「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学‐政策プラットフォーム(IPBES(※66))」は、生物多様性及び生態系サービスに関する科学と政策の連携強化を目的として、評価報告書等の作成を行っている。平成31年(2019年)2月には、侵略的外来種に関する評価のための技術支援機関が公益財団法人地球環境戦略研究機関に設置され、その活動を支援した。作成中の評価報告書等に我が国の知見を効果的に反映させるため、IPBESに関わる国内専門家及び関係省庁による国内連絡会を令和3年7月、令和4年3月に開催した。さらに、IPBES地球規模評価報告書を踏まえたシンポジウム「生物多様性とライフスタイル ~自然の恵み「食」を将来に引き継ぐためにわたしたちができること~」を令和3年12月に開催した。

 我が国は、生物多様性に関するデータを収集して全世界的に利用されることを目的とする地球規模生物多様性情報機構(GBIF(※67))の活動を支援するとともに、日本からのデータ提供拠点である国立科学博物館及び国立遺伝学研究所と連携しながら、生物多様性情報をGBIFに提供した。GBIFで蓄積されたデータは、IPBESでの評価の際の重要な基盤データとなることが期待されている。

 製品評価技術基盤機構は、生物遺伝資源の収集・保存・分譲を行うとともに、これらの資源に関する情報(系統的位置付け、遺伝子に関する情報等)を整備・拡充し、幅広く提供している。また、微生物資源の保存と持続可能な利用を目指した15か国・地域28機関のネットワーク活動に参加し、各国との協力関係を構築するなど、生物多様性条約を踏まえたアジア諸国における生物遺伝資源の利用を積極的に支援している。さらに、微生物等の生物資源データを集約した横断的データベースとして「生物資源データプラットフォーム(DBRP(※68))」を構築し、生物資源とその関連情報へワンストップでアクセスできるデータプラットフォームとして運用している。

 食糧生産や気候調整等で人間社会と密接に関わる海洋生態系は、近年、汚染・温暖化・ 乱獲等の環境ストレスにさらされており、これらを踏まえた海洋生態系の理解・保全・利用が課題となっている。このため、文部科学省は、「海洋資源利用促進技術開発プログラム」のうち「海洋生物ビッグデータ活用技術高度化」において、既存のデータやデータ取得技術を基にビッグデータから新たな知見をみいだすことで、複雑で多様な海洋生態系を理解し、保全・利用へと展開する研究開発を行っている。

❹ 国民の行動変容の喚起

 環境省はナッジ等の行動科学の知見とAI/IoT等の先端技術の組み合わせ(BI-Tech)により、日常生活の様々な場面での自発的な脱炭素型アクションを後押しする行動変容モデルの構築・実証を進めている。

 また、成果を順次取りまとめ、国内及び国際会議において諸外国のナッジ・ユニット等と共に基調講演やパネルディスカッションを実施するなど、広く一般も含めた情報共有や連携を図っている。

 環境省は、国立環境研究所等と連携し、全国で約10万組の親子を対象とした大規模かつ長期の出生コホート調査「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」を平成22年度から実施している。同調査においては、臍帯(さいたい)血、血液、尿、母乳、乳歯等の生体試料を採取保存・分析するとともに、質問票等によるフォローアップを行っている。

 これまでに発表された成果論文は、235本に上り(令和3年12月末時点)、化学物質のばく露や生活環境といった環境要因が、妊娠・分娩時の異常や出生後の成長過程における子どもの健康状態に与える影響等についての研究が着実に進められている。また、エコチル調査参加者のデータは、内閣府食品安全委員会における健康影響評価、妊婦の体重増加曲線や乳幼児の発達指標の作成等に活用されている。

 これまでの成果は、シンポジウムの開催やステークホルダーとの対話事業等を通じて、国民への情報発信や健康リスクを低減するための啓発を行い、国民の行動変容を促進することに取り組んでいる。

<参考URL>
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子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)
http://www.env.go.jp/chemi/ceh/

3 レジリエントで安全・安心な社会の構築

 頻発化・激甚化する自然災害に対し、レジリエントな社会の構築を目指している。あわせてサイバー空間等の新たな領域における攻撃や、新たな生物学的な脅威から、国民生活及び経済社会の安全・安心を確保するとともに、先端技術の研究開発を推進し、適切な技術流出対策の実施も行っていくこととしている。

❶ 頻発化、激甚化する自然災害への対応

1.予防力の向上

 文部科学省は、「首都圏を中心としたレジリエンス総合力向上プロジェクト」において、政府関係機関、地方公共団体や民間企業等が保有する地震観測データを統合し官民連携による超高密度地震観測システムを構築するとともに、実大三次元震動破壊実験施設を用いた非構造部材(配管、天井等)を含む構造物の崩壊余裕度に関するセンサー情報等を収集し、都市機能維持の観点から官民一体の総合的な災害対応や事業継続、個人の防災行動等に資する多種多様かつ大量なデータを集積し、産官学で共有・解析することで、新たな価値の創出につながる取組を進めている。

 国土交通省は、海上・港湾・航空技術研究所等との相互協力の下、全国港湾海洋波浪情報網(NOWPHAS(※69))の構築・運営を行っており、全国各地で観測された波浪・潮位観測データを収集し、ウェブサイトを通じてリアルタイムに広く公開している(※70)。

 土木研究所は、顕在化・極端化してきた河川災害の被害軽減技術開発及び顕在化してきた津波や海面上昇による被害の軽減技術開発、突発的な自然現象による土砂災害の防災・減災技術の開発、極端気象がもたらす雪氷災害による被害を軽減するための技術開発を実施している。

 建築研究所は、自然災害による損傷や倒壊の防止等に資する建築物の構造安全性を確保するための技術開発や建築物の継続使用性を確保するための技術開発等を実施している。

 海上・港湾・航空技術研究所は、地震災害の軽減及び地震後の早期復旧・復興のため、沿岸域における地震・津波による構造物の変形・性能低下を予測し、沿岸域施設の安全性・信頼性の向上を図るための研究を実施している。

 気象研究所は、大学等研究機関との連携の下、令和4年出水期に西日本を中心とする水蒸気の集中観測を実施する等により、線状降水帯の発生・維持機構を解明するための研究を一丸となって加速化するため、令和4年2月に線状降水帯の機構解明の研究を立ち上げた。さらに、気象研究所は、局地的大雨をもたらす極端気象現象を、二重偏波レーダやフェーズドアレイレーダー、GPS等を用いてリアルタイムで検知する観測・監視技術の開発に取り組んでいる。また、局地的大雨を再現可能な高解像度の数値予報モデルの開発など、局地的な現象による被害軽減に寄与する気象情報の精度向上を目的とし研究を推進している。

2.予測力の向上

 我が国の地震調査研究は、地震調査研究推進本部(本部長:文部科学大臣)(以下「地震本部」という。)の下、関係行政機関や大学等が密接に連携・協力しながら行われている。

 地震本部は、これまで地震の発生確率や規模等の将来予測(長期評価)を行っている。隣接する複数の領域を震源域とする東北地方太平洋沖地震や活断層を起因とした熊本地震の発生を踏まえ、長期評価の評価手法や公表方法を順次見直しつつ実施している。また、東北地方太平洋沖地震での津波による甚大な被害を踏まえ、様々な地震に伴う津波の評価を実施している。

 文部科学省は、南海トラフ地震を対象とした「防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト」を開始し、「通常と異なる現象」が観測された場合の地震活動の推移を科学的に評価する手法開発や、被害が見込まれる地域を対象とした防災対策の在り方などの調査研究を実施している。

 阪神・淡路大震災以降、陸域に地震観測網の整備が進められてきた一方、海域の観測網については、陸域の観測網に比べて観測点数が非常に少ない状況であった。このため、防災科学技術研究所では、南海トラフ地震の想定震源域において、地震計、水圧計等を備えたリアルタイムで観測可能な高密度海底ネットワークシステムである「地震・津波観測監視システム(DONET(※71))」を運用している。また、今後も大きな余震や津波が発生するおそれがある東北地方太平洋沖において、地震・津波を直接検知し、災害情報の正確かつ迅速な伝達に貢献する「日本海溝海底地震津波観測網(S-net(※72))」を運用している。さらに、南海トラフ地震の想定震源域のうち、まだ観測網を設置していない高知県沖から日向灘の海域において、「南海トラフ海底地震津波観測網(N-net(※73))」の構築を進めた(第2-2-1図)

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 火山分野においては、平成26年の御嶽(みたけ)山の噴火等を踏まえ、平成28年度から「次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト」を開始し、火山災害の軽減に貢献するため、従前の観測研究に加え、他分野との連携・融合を図り、「観測・予測・対策」の一体的な研究の推進及び広範な知識と高度な技術を有する火山研究者の育成を行った。また、令和3年度から開始した「火山機動観測実証研究事業」において、火山の噴火発生や前兆現象発現などの緊急時等に、迅速かつ効率的な機動観測を実現するために必要な体制構築に係る実証研究を実施している。

 国土技術政策総合研究所は、土砂・洪水氾濫発生時の土砂到達範囲・堆積深を高精度に予測するための計算手法の開発等の「激甚化する災害への対応」を行っている。

 防災科学技術研究所は、日本全国の陸域を均一かつ高密度に覆う約1,900点の高性能・高精度な地震計により、人体に感じない微弱な震動から大きな被害を及ぼす強震動に至る様々な「揺れ」の観測を行っている。海域においては約200点の地震計・津波計を運用しているほか、国内16火山の「基盤的火山観測網(V-net(※74))」を含む、全国の陸域と海域を網羅する地震・津波・火山観測網である「陸海統合地震津波火山観測網(MOWLAS(※75))」の本格運用を平成29年11月より開始した。MOWLASを用いた地震や津波の即時予測、火山活動の観測・予測の研究、実装を進めており、気象庁に観測データの提供を実施するほか、各研究機関や地方自治体及び鉄道事業者をはじめとする民間での観測データの活用を推進した。

 また、マルチセンシングに基づく土砂・風水害の発生予測に関する研究、変容する雪氷災害や沿岸災害等の自然災害による被害の軽減に資する研究等を実施している。例えば、AIを用いた積雪・冠水などの道路状況判別、過去の雨量統計情報に基づく大雨の「稀(まれ)さ」を踏まえた豪雨災害危険域の抽出、レーダと積雪変質モデル等を用いた高解像度面的降積雪情報など新しい情報の創出、及び、「雪おろシグナル」提供地域拡大、ニセコ吹きだまり情報サイト構築、既存消雪装置IoT化による降雪・融雪情報の自治体提供など雪氷防災情報の社会適用、雲レーダ(※76)を用いたゲリラ豪雨早期予測技術の開発等に取り組んでおり、開発された技術を活用し、民間企業との協働によるイノベーション創出を進めている。

 気象庁は、文部科学省と協力して地震に関する基盤的調査観測網のデータを収集し、処理・分析を行い、その成果を防災情報等に活用するとともに地震調査研究推進本部地震調査委員会等に提供している。また、自動震源決定処理手法(PF法(※77))を開発し導入するとともに、緊急地震速報については、東北地方太平洋沖地震で課題となった同時多発地震及び巨大地震に対応するため、IPF法(※78)及びPLUM法(※79)を導入し、更なる高度化のための技術開発を防災科学技術研究所等と協力して進めている。津波については、沖合の津波観測波形から沿岸の津波の高さを精度良く予測する手法(tFISH(※80))を導入している。

 気象研究所は、津波災害軽減のための津波地震などに対応した即時的規模推定や沖合の津波観測データを活用した津波予測の技術開発、南海トラフで発生する地震の規模、破壊領域やゆっくりすべりの即時把握に関する研究、火山活動評価・予測の高度化のための監視手法の開発などを実施している。

 産業技術総合研究所は、防災・減災等に資する地質情報整備のため、活断層・津波堆積物調査や活火山の地質調査を行い、その結果を公表している。全国の主要活断層に関しては、地震発生確率や最新活動時期が不明な活断層のうち5つ(標津(しべつ)、津軽山地西縁、濃尾、菊川、雲仙)を調査し、地震発生確率や規模の算出に必要なデータ等を取得した。また、活断層データベースのデータ更新やシステム改善を実施した。津波堆積物については、日本海溝南部の千葉県九十九里浜において、歴史記録にない約1,000年前の津波浸水の証拠を提示し、それを説明するための波源の断層モデルを構築した。そのほか、南海トラフ巨大地震の短期予測に資する地下水等総合観測点を運用・整備し、地下水位(水圧)、地下水温、地殻歪(ひずみ)や地震波の常時観測を継続した。

 火山に関しては、噴火活動があった福徳岡ノ場及び阿蘇中岳に対して、衛星データ解析や現地調査、火山噴出物の観測・分析等を行い、現在の噴火の規模・様式等の解明や今後の活動推移予測に資する情報を取得し、関係省庁や自治体等への情報提供やウェブ発信を実施した。

 海洋研究開発機構は、南海トラフの想定震源域や日本周辺海域・西太平洋域において、研究船や各種観測機器等を用いて海域地震や火山に関わる調査・観測を大学等の関係機関と連携して実施している。さらに、これら観測によって得られるデータを解析する手法を高度化し、大規模かつ高精度な数値シミュレーションにより地震・火山活動の推移予測を行っている。

 国土地理院は、電子基準点(※81)等によるGNSS(※82)連続観測、超長基線電波干渉法(VLBI(※83))、干渉合成開口レーダー(InSAR(※84))等を用いた地殻変動やプレート運動の観測、解析及びその高度化のための研究開発を実施している。また、気象庁、防災科学技術研究所、神奈川県温泉地学研究所、東京大学地震研究所等による火山周辺のGNSS観測点のデータも含めた火山GNSS統合解析を実施し、火山周辺の地殻変動のより詳細な監視を行っている。

 海上保安庁は、GNSS測位と音響測距を組み合わせた海底地殻変動観測や海底地形等の調査を推進し、その結果を随時公表している。

 気象庁は、線状降水帯の予測精度向上等に向けた取組を強化・加速化している。令和3年6月には、線状降水帯の発生をいち早くお知らせする「顕著な大雨に関する気象情報」の運用や、九州の西から南東の沖合を中心に海上保安庁と連携した洋上観測を開始した。

コラム2-5 地下の地質構造を立体的に表現する次世代の地質図(地質地盤図)

 我が国では大都市の多くが海に面した平野部に立地しており、ひとたび大地震が発生すると、湾岸地域で液状化現象が生じたり軟弱地盤によって揺れが増幅したりして、都市インフラに甚大な被害が生じる。このような災害リスクを適切に評価し効率的に都市インフラを整備するために、地下浅部の地質地盤に関する情報が極めて重要である。しかし、従来の平面的な地質図では地下の地質構造を正確に表現することが難しかった。そうした背景を踏まえ、産業技術総合研究所では、都市域の地下地質を3次元的に可視化する新たな地質図「地質地盤図」の整備を進めており、平成30年には千葉県北部地域、令和3年には東京都区部の地質地盤図をウェブ公開した。
 地質地盤図は、独自に掘削採取したボーリングコア試料に見られる地層の特徴や年代、物性などを基に基準となる地質層序を構築した上で、自治体から提供を受けた数万地点分もの土木・建築用ボーリングデータについて地層の対比を行い、地下の地質構造を3次元的に解析することで作成されている。地質地盤図の整備により、最終氷期(最盛期は約2万年前)に海面の低下によって形成された谷を埋める軟弱な堆積物(沖積層)の分布がこれまでにない精度で描き出された。さらに、良好な地盤と考えられていた武蔵野台地の地下にも、軟らかい泥層が谷埋め状に分布することも明らかになった。地質地盤図では、地下の地層の3次元的な広がりをパソコン画面上で立体図として、誰でも簡単に閲覧することができる。また、任意箇所の地質断面図を作成することができ、興味のあるエリアを拡大して詳細に見ることも可能である。今後、地質地盤図の利活用が進むことにより、地質災害リスク評価や都市インフラ整備の高精度化・効率化が進展するだけでなく、地下水流動や地質汚染調査、不動産取引などへの貢献も期待される。

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3.対応力の向上

 SIP第1期「レジリエントな防災・減災機能の強化」(平成26~30年度)において開発した、災害情報を電子地図上で集約し、関係機関での情報共有を可能とするシステムである「基盤的防災情報流通ネットワーク」(SIP4D(※85))を活用し、令和3年7月1日からの大雨、令和3年8月の大雨において、内閣府(防災担当)が運用する「災害時情報集約支援チーム(ISUT(※86))」が、関係府省庁や地方自治体、指定公共機関の災害対応に対して情報面からの支援を行った。また、平成30年度より開始したSIP第2期「国家レジリエンス(防災・減災)の強化」において、衛星、AIやビッグデータ等の最新の科学技術を最大限活用した災害発生時に国や市町村の意思決定の支援を行う情報システムを構築するため、研究開発及び社会実装を推進している。災害時にSNS上で、AIを活用し人間に代わって自動的に被災者と対話するシステムである防災チャットボット等について、自治体等との実証実験を通じた研究開発を進めている。

 また、準天頂衛星システム「みちびき」のサービスを平成30年11月1日に開始し、みちびきを経由して防災気象情報の提供を行う災害・危機管理通報サービス及び避難所等における避難者の安否情報を収集する安否確認サービスの提供を行っている。

 総務省は、情報通信等の耐災害性の強化や被災地の被災状況等を把握するためのICTの研究開発を行っている。また、これまで総務省が実施してきた災害時に被災地へ搬入して通信を迅速に応急復旧させることが可能な通信設備(移動式ICTユニット)等の研究成果の社会実装や国内外への展開を推進している。

 防災科学技術研究所は、各種自然災害の情報を共有・利活用するシステムの開発に関する研究を実施するとともに、必要となる実証と、指定公共機関としての役割に基づく行政における災害対応の情報支援を行っている。令和3年7月1日からの大雨、令和3年8月の大雨においては、「SIP4D」に収集された情報や被災地で収集された情報を一元的に集約し、各災害に関連した過去の情報や分析結果等とともに、「防災クロスビュー」(bosaiXview;一般公開)やISUT-SITE(災害対応機関に限定公開)と呼ばれる地図を表示するウェブサイトを介して災害対応機関へ情報発信を行い、状況認識の統一等を支援した。

 消防庁消防研究センターでは、令和3年度からの新たな5年間の研究計画を設定し、①ドローンなどを活用した土砂災害時の消防活動能力向上に係る研究開発、②地震発生時の市街地火災による被害を抑制するための研究開発、③危険物施設における地震災害を抑制するための研究を自然災害への対応として進めているところである。

 情報通信研究機構は、天候等にかかわらず災害発生時における被災地の地表状況を随時・臨機に観測可能な航空機搭載合成開口レーダ(Pi-SAR(※87))の高度化を実施している。また、機構等が開発した、公衆通信網途絶地域においてサーバ機能を内蔵する可搬型通信装置同士を物理的に移動させ、装置同士が接近時に高速無線通信を行うことにより情報を同期して共有できるシステムについては、自治体への導入等が行われている。そのほか、SNSへの投稿をリアルタイムに分析し災害関連情報を抽出する情報分析技術の開発では、利便性を向上させたユーザーインターフェースを整備し、自治体等と連携して、防災訓練等での実証実験に取り組んでいる。

 国土技術政策総合研究所は、地震を受けた地方自治体の拠点建築物(庁舎等)の健全性迅速判定技術の開発、災害後における居住継続のための自立型エネルギーシステムの設計目標に関する研究を行っている。

 土木研究所は、国内外の水災害に対応するリスクマネジメント支援技術の開発、大地震に対する構造物の被害最小化技術・早期復旧技術の開発を実施している。

 宇宙航空研究開発機構は、陸域観測技術衛星2号「だいち2号」(ALOS-2(※88))などの人工衛星を活用した様々な災害の監視や被災状況の把握に貢献している。

 また、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行を受けて、経済産業省は、EdTechの学校への導入や在宅教育を促進するオンライン・コンテンツの開発を進めることとした。また、越境EC(※89)の利活用促進や、デジタル商談プラットフォームの構築、スマート保安の推進など、非対面・遠隔での事業活動への支援を充実することとした。

4.観測・予測データを統合した情報基盤の構築等

 文部科学省は、「地球環境情報プラットフォーム構築推進プログラム」において、地球環境ビッグデータ(観測情報・予測情報等)を蓄積・統合解析し、気候変動等の地球規模課題の解決に資する情報基盤として、「データ統合・解析システム(DIAS(※90))」を開発し、これまでに国内外の研究開発を支えつつ、台風等による洪水を予測するシステム等の成果を創出してきた。また、研究者や企業等国内外の多くのユーザーに長期的・安定的に利用されるための運営体制を構築するとともに、エネルギー、気象・気候、防災や農業等の社会的課題の解決に資する共通基盤技術の開発を推進している。

 また、宇宙航空研究開発機構と共同で開発した超伝導サブミリ波リム放射サウンダ(SMILES(※91))で取得されたデータを解析することにより、新たな知見に基づく地球環境変動への警告を行うとともに、観測データの無償公開を令和2年度より開始した。また、温室効果ガス観測技術衛星GOSATをはじめとした地球環境観測データの独自な数理アルゴリズム解析を推進している。さらに、電波の伝わり方に影響を与える、太陽活動及び地球近傍の電磁環境の監視・予警報を配信するとともに、宇宙環境観測データの収集・管理・解析・公開を統合的に行っている。また、これらの観測技術及び論理モデルとAIを用いた予測技術を高度化する宇宙環境計測・予測技術の開発を進めている。

 さらに、気象庁では、「ひまわり8号」及び「ひまわり9号」を運用し、熱帯低気圧や海面水温等を観測しており、我が国のみならずアジア太平洋地域の自然災害防止や気候変動監視等に貢献している。

❷ デジタル化等による効率的なインフラマネジメント

 内閣府は、PRISM(※92)(官民研究開発投資拡大プログラム)「革新的建設・インフラ維持管理技術/革新的防災・減災技術領域」において、i-Constructionの推進等の関係府省の施策に追加予算を配分し、これを加速することにより、イノベーション転換等を推進する。また、着実かつ効率的なインフラメンテナンスを実現するとともに、データの効果的な活用がもたらすオープンイノベーションの加速を図るため、国と地方公共団体、民間のデータを連携させる国土交通データプラットフォームの構築を国土交通省と連携し、推進している。この取組を中心に、内閣府において「連携型インフラデータプラットフォーム」の構築を進め、令和3年度にモデル事業においてデータ連携を試行した。

 国土交通省は、社会インフラの維持管理及び災害対応の効果・効率の向上のためにロボットの開発・導入を推進している。

 国土交通省は、調査・測量から設計、施工、検査、維持管理・更新までのあらゆる建設生産プロセスにおいてICT等を活用する「i-Construction」を推進し、令和7年度までに建設現場の生産性2割向上を目指している。さらに、新型コロナウイルス感染症対策を契機として、デジタル技術を活用して、管理者側の働き方やユーザーに提供するサービス・手続なども含めて、インフラ周りをスマートにし、従来の「常識」を変革する「インフラ分野のDX(デジタル・トランスフォーメーション)」を推進しており、例えば、3Dハザードマップを活用したリアルに認識できるリスク情報の提供、現場にいなくても現場管理が可能になるリモートでの立会いによる監督検査やデジタルデータを活用した鉄筋検査の試行、及び無人化施工・自動化施工等に取り組んでいる。令和3年度末には施策ごとの今後の具体的な工程や「実現できる事項」を示したアクションプランを策定した。令和4年はアクションプランの具体的な工程に基づき、DXによる変革に果敢に取り組む「挑戦の年」として一層取組を加速化していく。

 国土地理院は、「i-Construction」を推進し、インフラ分野のDXを加速させるため、調査・測量、設計、施工、検査、維持管理・更新の各工程で使用する位置情報の共通ルール「国家座標」を整備している。また、3D測量の正確性・効率性・信頼性向上に資する測量新技術に関する技術開発を行っている。

 国土技術政策総合研究所では、建設事業のDX化による労働生産性向上に向けて、BIM/CIM(※93)モデル等のデジタルデータの活用に向けたシステムの検討、新技術の活用・施工現場データの分析に基づく建設技能者の作業改善による労働生産性向上・安全性向上に繋がる技術開発を行う「建設事業各段階のDXによる抜本的な労働生産性向上に関する研究」を行っている。そのほか、国土交通省本省関連部局と連携し、既存の住宅・社会資本ストックの点検・補修・更新等を効率化・高度化し、安全に利用し続けるため、下水道施設の効率的な維持管理手法の開発、既存建築物や敷地の利活用に関する手法・技術の開発を行っている。

 土木研究所は、橋梁(きょうりょう)、舗装及び管理用施設を対象とした既設構造物の効果的(効率化・高度化)なメンテナンスサイクルの実施に資する手法の開発、並びに橋梁、土工構造物及びトンネルを対象とした管理レベルに対応した維持管理や長寿命化を可能とする構造物の更新・新設手法の開発、凍害・複合劣化等を受けるインフラの維持管理・更新技術の横断的(道路・河川・港湾漁港・農業分野)技術開発と体系化について進めている。

 海上・港湾・航空技術研究所は、我が国の経済・社会活動を支える沿岸域インフラの点検・モニタリングに関する技術開発や、維持管理の効率化及びライフサイクルコストの縮減に資する研究を実施している。

 物質・材料研究機構は、社会インフラの長寿命化・耐震化を推進するために、我が国が強みを持つ材料分野において、インフラの点検・診断技術、補修・更新技術、材料信頼性評価技術や新規構造材料の研究開発の取組を総合的に推進している。

❸ 攻撃が多様化・高度化するサイバー空間におけるセキュリティの確保

 「サイバーセキュリティ基本法」(平成26年法律第104号)に基づき、サイバーセキュリティに関する施策を総合的かつ効果的に推進するため、内閣に設置された「サイバーセキュリティ戦略本部」(本部長:内閣官房長官)での検討を経て、令和3年9月28日に「サイバーセキュリティ戦略」を閣議決定した。これに基づき、サイバーセキュリティに関する技術の研究開発を推進している。

 内閣府は、平成30年度より、SIP「IoT社会に対応したサイバー・フィジカル・セキュリティ」に取り組んでいる。本課題では、セキュアなSociety 5.0の実現に向け、IoTシステム・サービス及び中小企業を含む大規模サプライチェーン全体を守ることに活用できる「サイバー・フィジカル・セキュリティ対策基盤」の開発と実証を行い、多様な社会インフラやサービス、幅広いサプライチェーンを有する製造・流通・ビル等の各産業分野への社会実装を推進している。

 総務省は、情報通信研究機構等を通じて、サイバー攻撃観測やサイバーセキュリティ分野の研究開発を推進している。さらに、当該研究開発等を通じて得た技術的知見を活用して、巧妙化・複雑化するサイバー攻撃に対し、実践的な対処能力を持つセキュリティ人材を育成するため、同機構に組織した「ナショナルサイバートレーニングセンター」において、国の機関、地方公共団体等を対象とした実践的サイバー防御演習(CYDER(※94))の実施や、若手セキュリティ人材の育成(SecHack365)に取り組んでいる。また、同機構が有するこれらの技術・ノウハウや情報を中核として、同機構において、我が国のサイバーセキュリティ情報の収集・分析とサイバーセキュリティ人材の育成における産学の結節点となる「サイバーセキュリティ統合知的・人材育成基盤」(CYNEX(※95))を構築し、試験運用を実施している。経済産業省は、IoTやAIによって実現される「Society 5.0」におけるサプライチェーン全体のサイバーセキュリティ確保を目的として、産業に求められる対策の全体像を整理した「サイバー・フィジカル・セキュリティ対策フレームワーク(CPSF)」を平成31年4月に策定し、CPSFに基づく産業分野別(工場、電力、自動車等)のガイドラインの作成等を進めている。また、CPSFに連なる考え方として、サイバー空間におけるデータの取扱いやIoT機器のセキュリティに係るフレームワークの作成を進めている。平成30年11月に産業技術総合研究所が設立した「サイバーフィジカルセキュリティ研究センター」では、サイバー空間とフィジカル空間が融合する中で、高度化・複雑化する脅威の分析と、脅威に対するセキュリティ強化技術の研究開発を推進・実施している。また重要インフラや我が国経済・社会の基盤を支える産業における、サイバー攻撃に対する防護力を強化するため、情報処理推進機構に設置する産業サイバーセキュリティセンターにおいて、官民の共同によりサイバーセキュリティ対策の中核を担う人材の育成等の取組を推進している。

 経済産業省は、非対面・遠隔での活動の基盤として、サイバーセキュリティに関する検証技術構築支援や中小企業の対策支援を行うとともに、中小企業のデジタル化促進のための設備投資を後押しすることとしている。

❹ 新たな生物学的な脅威への対応

 新型コロナウイルス感染症に対する研究開発等については、治療法、診断法、ワクチン等に関する研究開発等に対して支援を行っている。

 治療法については、新型コロナウイルスの国内感染例が確認されて以降、迅速に治療薬を創出する観点から、当初は既存治療薬を用いてその有効性・安全性の検討を行うドラッグリポジショニングによる研究開発を中心に日本医療研究開発機構を通じて支援してきたところである。また、新規創薬の観点から、基礎研究及び臨床研究等に対して支援を行い、SARS-CoV-2増殖阻害活性を示す複数の新規化合物を見出す等の成果が得られている。

 診断法についても日本医療研究開発機構を通じ、遺伝子増幅の検査に関する迅速診断キット、抗原迅速診断キット、検査試薬等の基盤的研究を支援し、実用化されたほか、抗体検査キットの性能評価結果については、厚生労働行政推進調査事業費補助金による研究事業において作成された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引きに反映された。また、ウイルス等感染症対策技術の開発事業において、感染症の課題解決につながる研究開発や、新型コロナウイルス感染症対策の現場のニーズに対応した機器・システムの開発・実証等への支援を実施した。

 ワクチンについては、国内におけるワクチンの開発の加速・供給体制強化の要請に対応するため、日本医療研究開発機構を通じて、国内の企業・大学等による基礎研究、非臨床研究、臨床研究の実施を支援しており、治験の最終段階に入ったものもある。

 また、今回のパンデミックを契機にわが国においてワクチン開発を滞らせた要因を明らかにし、解決に向けて政府が一体となって必要な体制を再構築し、長期継続的に取り組む国家戦略として「ワクチン開発・生産体制強化戦略」(令和3年6月1日閣議決定)を策定した。この戦略に基づき、今後の感染症有事に備えた平時からの研究開発・生産体制強化のため、日本医療研究開発機構に先進的研究開発戦略センター(SCARDA(※96)(スカーダ))を設置し、医学、免疫学等の様々な専門領域や、バイオ医薬品の研究開発・実用化、マネジメントに精通した人材によるリーダーシップの下、国内外の感染症・ワクチンに関する情報収集・分析を幅広く行う体制を整備し、ワクチン研究開発・実用化の全体を俯瞰して研究開発支援を進めている。この新たな体制の下では、新たな創薬手法による産学官の実用化研究の集中的な支援、世界トップレベルの研究開発拠点の形成、創薬ベンチャーの育成等の事業に取り組む。また、日本医療研究開発機構における取組の他にも、デュアルユースのワクチン製造拠点の整備等、ワクチンの迅速な開発・供給を可能にする体制の構築のために必要な取組を行っている。

 そのほか、新型コロナウイルスの流行により、グローバルな対応体制の必要性が改めて明らかになったことを踏まえ、日本医療研究開発機構を通じた支援により、国内外の感染症研究基盤の強化や基礎的研究を推進(「新興・再興感染症研究基盤創生事業」(文部科学省所管))するとともに、感染症有事の抜本的強化として、感染症危機対応医薬品等の実用化に向けた開発研究まで一貫して推進している(「新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業」(厚生労働省所管))。また、日本が主導するアジア地域における臨床研究・治験を進めるための基盤構築を進めているところである(「アジア地域における臨床研究・治験ネットワーク構築事業」(厚生労働省所管))。

 また、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の早期探知のため、無症状者に焦点を当てたPCR検査等を行うモニタリング検査を実施したほか、アカデミアや企業から研究テーマの公募を行い、スーパーコンピュータ「富岳」を用いた飛沫(ひまつ)シミュレーションをはじめとする感染拡大防止に資する新技術に係る研究開発や、新規陽性者数・重症者数等の感染状況に関するシミュレーションを実施した。

❺ 宇宙・海洋分野等の安全・安心への脅威への対応

1.宇宙分野の研究開発の推進

 今日、測位・通信・観測等の宇宙システムは、我が国の安全保障や経済・社会活動を支えるとともに、Society 5.0の実現に向けた基盤としても、重要性が高まっている。こうした中、宇宙活動は官民共創の時代を迎え、広範な分野で宇宙利用による産業の活性化が図られてきている。また、宇宙探査の進展により、人類の活動領域が地球軌道を越えて月面、深宇宙へと拡大しつつある中、「はやぶさ2」による小惑星からのサンプル回収の成功は、我が国の科学技術の水準の高さを世界に示し、その力に対する国民の期待を高めた。宇宙は科学技術のフロンティア及び経済成長の推進力として、更にその重要性を増しており、我が国におけるイノベーションの創出の面でも大きな推進力になり得る。

 こうした認識の下、政府は「宇宙基本計画」(令和2年6月30日閣議決定)に基づき、我が国の宇宙開発利用を国家戦略として、総合的かつ計画的に強力に推進している。

(1)宇宙輸送システム

 宇宙輸送システムは、人工衛星等の打上げを担う宇宙開発利用の重要な柱であり、希望する時期や軌道に人工衛星を打ち上げる能力は自立性確保の観点から不可欠な技術基盤といえる。我が国は、自立的に宇宙活動を行う能力を維持・発展させるとともに、国際競争力を確保するため、平成26年度からH3ロケットの開発に着手し、各種燃焼試験等を実施している。また、イプシロンロケットについて、より一層の打上げコスト低減と基幹ロケットの高い信頼性との両立や衛星の運用性向上等により国際競争力を強化することを目的として、令和2年度からイプシロンSロケットの開発を進めている。

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(2)衛星測位システム

 内閣府は、準天頂衛星システム「みちびき」について、平成30年11月1日に4機体制による高精度測位サービスを開始するとともに、令和5年度を目途に確立する7機体制と機能・性能向上に向け、5号機、6号機及び7号機の開発を進めている。また、「みちびき」の利用拡大に向けて関係府省が連携し、自動車や農業機械の自動走行、物流や防災分野など様々な実証実験を進めている。

(3)衛星通信・放送システム

 2020年代に国際競争力を持つ次世代静止通信衛星を実現する観点から、総務省と文部科学省が連携し、電気推進技術や大電力発電、フレキシブルペイロード技術等の技術実証のため、令和5年度の打上げを目指して、平成28年度から技術試験衛星9号機の開発を行っている。

(4)衛星地球観測システム

 環境省は、平成20年度に打ち上げたGOSAT及び平成30年度に打ち上げたGOSAT-2により、全球の二酸化炭素とメタンの濃度が地球規模で年々上昇している状況を明らかにしてきた。このミッションを発展的に継承し、脱炭素社会に向けた施策効果の把握を目指し、後継機GOSAT-GWを令和5年度の打ち上げに向け開発を進めている。

 宇宙航空研究開発機構は、地球規模での水循環・気候変動メカニズムの解明を目的に平成24年5月に打ち上げた「しずく」(GCOM-W)及び平成29年12月に打ち上げた「しきさい」(GCOM-C)の運用を行っている。「しずく」は、平成26年2月に米国航空宇宙局(NASA(※97))との国際協力プロジェクトとして打ち上げた全球降水観測計画(GPM(※98))主衛星のデータとともに気象庁において利用され、降水予測精度向上に貢献するなど、気象予報や漁場把握等の幅広い分野で活用されるとともに、「しきさい」は、海外の大規模な森林火災の把握にも活用されている。現在、水循環観測と温室効果ガス観測のミッションの継続と観測能力の更なる強化を目指して「しずく」と「いぶき2号」の各々の後継センサを相乗り搭載する「温室効果ガス・水循環観測技術衛星」(GOSAT-GW)の開発を進めている。

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 また、平成26年5月に打ち上げられた「だいち2号」は、様々な災害の監視や被災状況の把握、森林や極域の氷の観測等を通じ、防災・災害対策や地球温暖化対策などの地球規模課題の解決に貢献している。現在、広域かつ高分解能な撮像が可能な先進光学衛星(ALOS-3)や先進レーダ衛星(ALOS-4)の開発を進めている。また、令和2年11月に光データ中継衛星の打上げを行い、これらの衛星間の光通信の実証に向けた取組も進めており、災害発生時の被災地の衛星データを即時に地上へ中継することが可能となるなど、将来的に迅速な災害対策に貢献することが期待されている。

 なお、我が国の人工衛星の安定的な運用に向けて、文部科学省及び宇宙航空研究開発機構は、平成14年度から宇宙状況把握システム(SSA(※99)システム)を構築・運用し、地上からスペースデブリ(宇宙ゴミ)等の把握を行ってきており、今後、令和5年度を目指して、防衛省をはじめ政府機関一体となった新たなSSAシステムの構築を進めることとしている。

(5)宇宙科学・探査

 宇宙科学の分野においては、宇宙航空研究開発機構が中心となり、世界初のX線の撮像と分光を同時に行う人工衛星の開発・運用や、小惑星探査機「はやぶさ」による小惑星「イトカワ」からのサンプル回収など、X線・赤外線天文観測や月・惑星探査などの分野で世界トップレベルの業績を上げている。平成27年12月に金星周回軌道へ投入された金星探査機「あかつき」は、金星大気における「スーパーローテーション」の維持メカニズムの解明につながる成果を上げ、平成26年12月に打ち上げた「はやぶさ2」は、小惑星「リュウグウ」に到着後、小惑星表面への人工クレーター作成、ひとつの小惑星への2度の着陸成功など数々の世界初の快挙を成し遂げた。令和2年12月に地球近傍に帰還した「はやぶさ2」は、搭載するカプセルを地球に向けて分離しカプセルはオーストラリアの砂漠地帯で回収された。カプセル内にはリュウグウ由来のサンプルが確認され、現在、国内外の研究機関で詳細な分析が行われており、探査機本体は、新たな小惑星の探査に向かっている(令和13年到着予定)。

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 このほか、欧州宇宙機関との国際協力による水星探査計画(BepiColombo)の水星磁気圏探査機「みお」(平成30年10月打上げ)が水星に向けて航行中であり、我が国初となる月への無人着陸を目指す小型月着陸実証機(SLIM(※100))やX線分光撮像衛星(XRISM(※101))(共に令和4年度打上げ予定)、火星衛星からサンプルリターンを行う火星衛星探査計画(MMX(※102))(令和6年度打上げ予定)の開発など、国際的な地位の確立や人類のフロンティア拡大に資する宇宙科学分野の研究開発を推進している。

 また、総務省では、後述の国際宇宙探査計画(アルテミス計画)へ我が国が参画を決定したことを踏まえ、月面活動においてエネルギー資源として活用が期待される水資源の地表面探査を実現するため、令和3年度から、テラヘルツ波を用いた月面の広域な水エネルギー資源探査の研究開発を開始している。

(6)有人宇宙活動

 国際宇宙ステーション(ISS(※103))計画(※104)は、日本・米国・欧州・カナダ・ロシアの5極(15か国)共同の国際協力プロジェクトである。我が国は、日本実験棟「きぼう」及び宇宙ステーション補給機「こうのとり」(HTV(※105))の開発・運用や日本人宇宙飛行士のISS長期滞在により本計画に参加している。これまでに、有人・無人宇宙技術の獲得、国際的地位の確立、宇宙産業の振興、宇宙環境利用による社会的利益及び青少年育成等の多様な成果を上げてきている。「こうのとり」は、2009年(平成21年)の初号機から2020年(令和2年)の9号機までの全てにおいてミッションを成功させており、最大約6トンという世界最大級の補給能力や、一度に複数の大型実験装置の搭載など「こうのとり」のみが備える機能などによりISSの利用・運用を支えてきた。現在は、「こうのとり」で培った経験を活かし、開発・運用コストを削減しつつ、輸送能力の向上を目指し、後継機である新型宇宙ステーション補給機(HTV-X)の開発を進めている。

 また、2021年(令和3年)4月には、約半年間のISS長期滞在から帰還間近の野口聡一宇宙飛行士と、滞在を開始した星出彰彦宇宙飛行士の日本人宇宙飛行士2名がISSに同時に滞在することになった。星出宇宙飛行士は日本人2人目となるISS船長を務め、同年11月に帰還した。さらに、同年11月から2022年(令和4年)3月まで、宇宙航空研究開発機構において新しい日本人宇宙飛行士の募集を実施した。

(7)国際宇宙探査

 国際宇宙探査計画「アルテミス計画」は、月周回有人拠点「ゲートウェイ」の建設や将来の火星有人探査に向けた技術実証、月面での持続的な有人活動などを民間企業の参画を得ながら国際協力により進めていく、米国が主導する計画である。我が国は、2019年(令和元年)10月にアルテミス計画への参画を決定し、欧州及びカナダも参画を表明している。上記決定を踏まえ、2020年(令和2年)7月には、文部科学省と米国航空宇宙局(NASA)との間で、月探査協力に関する共同宣言に署名した。その後、12月には、日本政府とNASAとの間で、ゲートウェイのための協力に関する了解覚書への署名が行われ、我が国がゲートウェイへの機器等を提供することや、NASAが日本人宇宙飛行士のゲートウェイ搭乗機会を複数回提供することなど、共同宣言において確認された協力内容を可能とする法的枠組みが設けられた。

(8)宇宙の利用を促進するための取組

 文部科学省は、人工衛星に係る潜在的なユーザーや利用形態の開拓など、宇宙利用の裾野の拡大を目的とした「宇宙航空科学技術推進委託費」により産学官の英知を幅広く活用する仕組みを構築した。これにより、宇宙航空分野の人材育成及び防災、環境等の分野における実用化を見据えた宇宙利用技術の研究開発等を引き続き行っている。

 経済産業省は、石油資源の遠隔探知能力の向上等を可能とするハイパースペクトルセンサ(HISUI(※106))の開発を進めており、令和元年12月に国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」に搭載後、令和3年度は取得データの解析・利用実証を実施した。また、民生分野の技術等を活用した低価格・高性能な宇宙用部品・コンポーネントの開発支援と軌道上実証機会の提供及び量産・コンステレーション化を見据えた低価格・高性能な小型衛星汎用バス開発・実証等を行っている。加えて、ビッグデータ化する宇宙データの利用拡大の観点から、政府衛星データをオープン&フリー化するとともに、ユーザーにとって衛星データを利用しやすい環境を提供するため、衛星データプラットフォーム(Tellus)の整備を進めた。

コラム2-6 宇宙における食料供給システムの開発を実施

 近年、国際社会において宇宙開発利用の拡大に向けた取組が活発化している。我が国においては、宇宙における国際競争力を強化していくための重要な要素の1つとして、月や火星での持続的な有人活動で活用が期待される、QOL(Quality of Life)重視型の持続可能な食料供給システムの開発に取り組もうとしている。
 農林水産省では、内閣府が創設した「宇宙開発利用加速化戦略プログラム」の一環として、令和3年度から「月面等における長期滞在を支える高度資源循環型食料供給システムの開発」戦略プロジェクトを開始した。本プロジェクトでは、将来の月面基地での食料生産を想定した閉鎖空間において、①イネ、ダイズ、イモ類などの作物を対象とした環境制御による栽培技術と発酵系等を利用した資源再生技術を組み合わせた高効率な食料供給システムの開発、②閉鎖隔離環境における心身の健康や良好な人間関係等の維持・向上を図るための食によるQOLマネジメントシステムの開発等を行うこととしている。
 これらを通じ、将来の宇宙での食料供給の実現に向けて研究開発を進めることにより、我が国の食料生産技術の向上が図られ、世界の食糧問題の解消等へ波及することが期待される。

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<参考URL>
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農水省ホームページ
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/sanki/soumu/uchushoku.html

2.海洋分野の研究開発の推進

 四方を海に囲まれ、世界有数の広大な管轄海域を有する我が国は、海洋科学技術を国家戦略上重要な科学技術として捉え、科学技術の多義性を踏まえつつ、長期的視野に立って継続的に取組を強化していく必要がある。また、海洋の生物資源や生態系の保全、エネルギー・鉱物資源確保、地球温暖化や海洋プラスチックごみなどの地球規模課題への対応、地震・津波・火山等の脅威への対策、北極域の持続的な利活用、海洋産業の競争力強化等において、海洋に関する科学的知見の収集・活用に取り組むことは重要である。

 内閣府は、総合海洋政策本部と一体となって、第3期海洋基本計画(平成30年5月15日閣議決定)と整合を図りつつ、海洋に関する技術開発課題等の解決に向けた取組を推進している。

 文部科学省は、第3期海洋基本計画の策定等を踏まえ、科学技術・学術審議会海洋開発分科会において平成28年に策定された「海洋科学技術に係る研究開発計画」を平成31年1月に改訂し、未来の産業創造に向けたイノベーション創出に資する海洋科学技術分野の研究開発を推進している。

 海洋研究開発機構は、船舶や探査機、観測機器等を用いて深海底・氷海域等のアクセス困難な場所を含めた海洋における調査・研究を行い、得られたデータを用いたシミュレーションやデータのアーカイブ・発信を行っている。また、これらの技術を活用し、いまだ十分に解明されていない領域の実態を解明するための基礎研究を推進している。

(1)海洋の調査・観測技術

 海洋研究開発機構は、海底下に広がる微生物生命圏や海溝型地震及び津波の発生メカニズム、海底資源の成因や存在の可能性等を解明するため、地球深部探査船「ちきゅう」の掘削技術やDONETを用いたリアルタイム観測技術等の開発を進めるとともに、それらの技術を活用した調査・研究・技術開発を実施している。また、大きな災害をもたらす巨大地震や津波等、深海底から生じる諸現象の実態を理解するため、研究船や有人潜水調査船「しんかい6500」、無人探査機等を用いた地殻構造探査等により、日本列島周辺海域から太平洋全域を対象に調査研究を行っている。

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(2)海洋の持続的な開発・利用等に資する技術

 文部科学省は、大学等が有する高度な技術や知見を幅広く活用し、海洋生態系や海洋環境等の海洋情報をより効率的かつ高精度に把握する観測・計測技術の研究開発を「海洋資源利用促進技術開発プログラム」のうち「海洋情報把握技術開発」において実施している。

 海洋研究開発機構は、我が国の海洋の産業利用の促進に貢献するため、生物・非生物の両面から海洋における物質循環と有用資源の成因の理解を進め、得られた科学的知見、データ、技術及びサンプルを関連産業に展開している。

(3)海洋の安全確保と環境保全に資する技術

 食糧生産や気候調整等で人間社会と密接に関わる海洋生態系は、近年、汚染・温暖化・ 乱獲等の環境ストレスにさらされており、これらを踏まえた海洋生態系の理解・保全・利用が課題となっている。このため、文部科学省は、「海洋資源利用促進技術開発プログラム」のうち「海洋生物ビッグデータ活用技術高度化」において、既存のデータやデータ取得技術を基にビッグデータから新たな知見を見いだすことで、複雑で多様な海洋生態系を理解し、保全・利用へと展開する研究開発を行っている。

 海上・港湾・航空技術研究所は、海洋資源・エネルギー開発に係る基盤的技術の基礎となる海洋構造物の安全性評価手法及び環境負荷軽減手法の開発・高度化に関する研究を行っている。

 海上保安庁は、海上交通の安全確保及び運航効率の向上のため、船舶の動静情報等を収集するとともに、これらのビッグデータを解析することにより海上における船舶交通流を予測し、船舶にフィードバックするシステムの開発を行っている。

コラム2-7 福徳岡ノ場噴火から噴出した大量の軽石漂流を読み解く

 令和3年8月13日、小笠原諸島最南端部に位置する福徳岡ノ場海底火山が噴火し、大量の軽石を放出しました。浮遊する軽石は軽石筏(いかだ)と呼ばれる大きな集団を形成して、海流や風の影響を受けながら海上を漂流しました。その大部分は東から西方向へと漂流し、10月初旬ごろから沖縄・奄美等の琉球列島に漂着し始め、現地の海上交通や漁業、観光等にも影響を及ぼしました。さらに、軽石は黒潮等の海流に乗り、伊豆諸島等にも漂着したことが確認されています。
 福徳岡ノ場由来の軽石が琉球列島に漂着したのは今回が初めてではなく、昭和61年の噴火の際にも琉球列島で軽石漂着が確認されました。しかし、今回のように、浜や港全体を埋め尽くしたという記録はこれまでになく、白い砂浜に漂着した灰色の軽石は目立ち、多くの人の関心の的となりました。
 軽石は、爆発的な噴火で噴出したマグマが、急冷されて固まったものです。地下のマグマには大量のガスが溶け込んでいますが、噴火に伴って、マグマからほとんどのガスが放出されます。時間をかけてマグマが固まると、ガスが抜けて緻密な岩石になりますが、今回のような高い噴煙を形成する爆発的な噴火をすると、ガスが膨張しながらマグマが固まるため、空隙(くうげき)の多い岩石(軽石)となります。空隙のため全体の密度は水よりも軽くなり、沈まずに長い期間漂流を続けることになります。軽石中の鉱物に含まれている化学成分を分析した結果、今回のマグマには、地殻よりも深いところで生まれた玄武岩マグマが含まれていることが明らかになりました。したがって、マントルで生まれた玄武岩マグマが地殻中のマグマ溜(た)まりに注入し、爆発的な噴火を引き起こしたことが示唆されます。今後の更なる解析により、噴火のメカニズムの解明が期待されます。
 また、海洋研究開発機構(JAMSTEC(※107))では、10月中旬に琉球列島で軽石が問題になり始めたことをきっかけに、どのように福徳岡ノ場から軽石が到達したかシミュレーションを行い、11月末には関東付近にも漂着する可能性があることを予測しました。上記の予測計算は、軽石漂流の状況をおおよそ捉えていたとはいえ、琉球列島以外の各地にも影響が広がる可能性を示唆していたことから、より精緻(せいち)な予測計算が必要とされました。そこで、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と協力し、JAXAが人工衛星で発見した軽石の位置から漂流計算を行うことで、より現実に近づけた予測計算も行いました。実際に11月下旬には予測通りまとまった量の軽石が伊豆諸島に到達し、メディアにも多く取り上げられました。また、JAMSTECでは、予測結果をYouTubeで公表しており、各地の自治体や漁業者などに活用されています。
 JAMSTECでは平常時から、自動昇降型漂流ブイ「アルゴフロート」や船舶による海洋観測を継続的に実施し、そこから得られた観測データを地球シミュレータ等のスーパーコンピュータを用いて解析することにより、海洋予測を行っています。この予測結果は公表され、基礎研究のみならず社会応用研究(漁業、海の温暖化、海洋プラスチック等)にも活用されており、今回のようなシミュレーションにも対応できたといえます。

<参考URL>
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http://www.jamstec.go.jp/j/jamstec_news/20211116

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3.防衛分野の研究開発の推進

 「国家安全保障戦略」(平成25年12月17日国家安全保障会議・閣議決定)において、「我が国の高い技術力は、経済力や防衛力の基盤であることはもとより、国際社会が我が国に強く求める価値ある資源でもある。このため、デュアル・ユース技術を含め、一層の技術の振興を促し、我が国の技術力の強化を図る必要がある」と掲げられている。国家安全保障戦略に基づき、国家安全保障上の諸課題に対し、関係府省や産学官の連携の下、必要な技術の研究開発を推進することが求められている。

 防衛省は、防衛分野での将来における研究開発に資することを期待し、先進的な民生技術についての基礎研究を、公募・委託する安全保障技術研究推進制度(第2-2-2図)を平成27年度から実施している。また、令和3年度には技術シンクタンク機能を立ち上げ将来の我が国防衛にとって重要となる先進的な民生技術の調査及び防衛分野への適用に向けた技術育成方針の検討に資する分析を進めている。

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 加えて、AI等の技術革新のサイクルが速く、進展の速い民生先端技術を技術者と運用者が一体となり速やかに取り込むことで、3年程度の短期間での実用化を図る取組を平成29年度より実施している。さらに、ゲーム・チェンジャーとなり得る防衛装備品の早期実用化のため、防衛省が実施する当該装備品のコア技術の研究と並行し、関連する重要な構成技術を民間企業等に研究委託する取組を令和4年度より開始する。

コラム2-8 防衛分野におけるAIに係る研究開発

 近年、人工知能(AI)技術は、医療、農業、物流等あらゆる分野において大きな影響を与えると期待されており、日々の暮らしを変えつつある。
 これは防衛分野においても同様であり、情報処理の高速化・省力化、状況判断・作戦立案、無人機を利用した高度な索敵等へのAI技術の活用が期待され、米中をはじめ多くの国がAI技術に係る研究開発に積極的な投資を行い、装備品等への適用を着実に進めている。
 防衛省においても、AI技術をゲーム・チェンジャーとなり得る重要技術として、投資を行うとともに、早期の適用を実現させるべく様々な取組を実施している。例えば、常時継続的な情報収集・警戒監視活動等を効率的に実施するため、レーダ画像の識別をAI技術により自動化する技術の研究、水中監視用無人機の自律監視技術に関する研究等に着手している。その他、新たな取組として、令和4年1月から同年3月にかけて実施した空対空戦闘に活用可能なAIモデルに関するコンペティションがあげられる。AI技術は民間セクターでの技術進展が著しく、防衛分野への早期の適用・高度化にあたっては、優れた民生技術の発掘が重要となっており、コンペティションといった取組により、広く一般から情報を収集することは、研究を促進させる効果的な手段の一つとなっている。本コンペティションでは、677件の応募があり、広く民間のAI技術情報が収集された。今後、防衛省において、上位入賞者のAIモデルの優位性等を分析し、将来のAI技術の研究に活かしていく。
 今後も進展し続けるAI技術を防衛分野で早期実装させるためには、防衛省と企業・大学、産学官の一層の連携が必要となる。

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4.警察におけるテロ対策に関する研究開発の推進

 科学警察研究所においては、都市部における放射線テロを想定した被害予測シミュレータの開発を実施している。疑似線源とスマートフォンを活用した仮想放射線測定システムの改良も進め、核セキュリティ事案を想定した初動対処訓練や医療分野における放射線教育等に活用している。

 また、国際テロで用いられている、市販原料から製造される手製爆薬に関する威力・感度の評価や実証試験を実施するとともに、爆発物原料管理者対策に資する研究を実施している。

❻ 安全・安心確保のための「知る」「育てる」「生かす」「守る」取組

 内閣府は国内外の技術動向、社会経済動向、安全保障など多様な視点から科学技術・イノベーションに関する調査研究を行うシンクタンク機能について令和5年度の本格的な立ち上げを目指し、令和3年秋から令和4年度にかけてシンクタンク機能に関する試行事業を実施している。また、経済安全保障の確保・強化の観点から、AIや量子、宇宙、海洋等の技術分野に関し、民生利用や公的利用への幅広い活用を目指して先端的な重要技術の研究開発を進める「経済安全保障重要技術育成プログラム」について令和3年度補正予算により予算措置し、令和4年3月に基金を造成した(令和4年度中に公募を開始する予定。)。更に、研究活動の国際化・オープン化に伴う新たなリスクに対し、大学や研究機関における研究の健全性・公正性(研究インテグリティ(※108))の自律的確保に向けた取組を行った(※109)。

 経済産業省は、令和3年度に、文部科学省等の関係省庁と連携し、大学・研究機関等向けの安全保障貿易管理説明会を開催するとともに令和4年5月1日に施行する外為法の「みなし輸出」管理の運用明確化の周知・説明、安全保障貿易に係る機微技術管理ガイダンスの改訂等を通じて、大学等の内部管理体制の強化及び機微な技術の流出防止の取組を促進した。

 また、政府研究開発事業の契約に際し、安全保障貿易管理体制の構築を求める安全保障貿易管理の要件化の取組を進めるため、内閣府と経済産業省が連携して資金配分機関や関係府省等に対して働きかけを行った。

 機微技術の輸出管理のあり方などについて、国際輸出管理レジームを含めた関係国間において議論を行っている。

 内閣情報調査室をはじめ、警察庁、公安調査庁、外務省、防衛省の情報コミュニティ各省庁は、相互に緊密な連携を保ちつつ、経済安全保障分野を含む情報の収集活動等に当たっており、令和4年度当初予算では経済インテリジェンスに係る人員について、約130人の定員増を計上した。

4 価値共創型の新たな産業を創出する基盤となるイノベーション・エコシステムの形成

 社会のニーズを原動力として課題の解決に挑むスタートアップを次々と生み出し、企業、大学、公的研究機関等が多様性を確保しつつ相互に連携して価値を共創する新たな産業基盤が構築された社会を目指している。

❶ 社会ニーズに基づくスタートアップ創出・成長の支援

1.SBIR制度による支援

 SBIR(※110)制度においては、中小企業等経営強化法(平成11年法律第18号)から科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律(平成20年法律第63号)へ根拠規定を移管したことにより、イノベーション政策として省庁横断の取組を強化するとともに、これまでの特定補助金等を指定補助金等、特定新技術補助金等に改めた。特定新技術補助金等については、革新的な研究開発を行う研究開発型スタートアップ等への支出機会の増大を図るため、令和3年度の支出目標額を約537億円に定めた。また、関係8省(総務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省)で合計9の指定補助金等を指定し、公募・執行に関する各省庁統一的な運用ルールを定め、技術開発成果の事業化を促進するとともに、日本政策金融公庫による特別利率による融資等の事業化支援措置をスタートアップ企業等に周知し、利用促進を図った。

 農林水産省は、生物系特定産業技術研究支援センターを通じて、農林水産・食品分野において新たなビジネスを創出するため、令和3年度から技術シーズの創出から開発技術の事業化までを一体的に支援する「スタートアップへの総合的支援」を開始した。

2.大学等発ベンチャーの支援

 大学等発ベンチャーの新規創設数は、一時期減少傾向にあったが、近年は回復基調にあり、令和2年度の実績は233件となった。

 科学技術振興機構は、「大学発新産業創出プログラム(START(※111))」を実施しており、起業前段階から公的資金と民間の事業化ノウハウ等を組み合わせることにより、ポストコロナの社会変革や社会課題解決につながる新規性と社会的インパクトを有する大学等発スタートアップを創出する取組への支援や、スタートアップ・エコシステム拠点都市において、大学・自治体・産業界のリソースを結集し、世界に伍するスタートアップの創出に取り組むエコシステムを構築する取組への支援を実施している。「出資型新事業創出支援プログラム(SUCCESS(※112))」では、科学技術振興機構の研究開発成果を活用するベンチャー企業への出資等を実施することにより、当該企業の事業活動を通じて研究開発成果の実用化を促進している。

 経済産業省は、新エネルギー・産業技術総合開発機構が令和2年度から実施している「官民による若手研究者発掘支援事業」において、事業化を目指す大学等の若手研究者と企業のマッチングを伴走支援するとともに、企業との共同研究費等の助成をしている。

3.研究開発型スタートアップ支援事業

 経済産業省では、新エネルギー・産業技術総合開発機構を通じて、我が国における技術シーズの発掘から事業化までを一体的に支援するため、創業前の起業家支援や、民間ベンチャーキャピタル等と協調した起業後初期の研究開発支援、事業会社と連携した事業化支援等、研究開発型スタートアップの成長フェーズに応じてシームレスに支援する「研究開発型スタートアップ支援事業」を実施している。

 また、スタートアップ支援を行う9つの政府系機関(※113)は、令和2年7月に「スタートアップ・エコシステムの形成に向けた支援に関する協定書」を締結し、スタートアップ支援に関するプラットフォーム(通称Plus(プラス)“Platform for unified support for startups”)を創設している。その活動の一環として、新エネルギー・産業技術総合開発機構において、ワンストップ相談窓口「Plus One(プラスワン)」を運用し、スタートアップへの支援制度に関する情報提供・相談対応等を行った。

❷ 企業のイノベーション活動の促進

 経済産業省は、ISO56000シリーズの動向、国内外のイノベーション経営に関する動向を踏まえつつ、施策の検討を行っている。

 内閣府はオープンでアジャイルなイノベーションの創出に不可欠なオープンソースソフトウエア(OSS)の経営上の重要性の理解促進とOSS活用に対する意識向上のため、企業関係者が集う日本知的財産協会主催の研修会でパネルディスカッションを実施した。

❸ 産学官連携による新たな価値共創の推進

1.国内外の産学官連携活動の現状

(1)大学等における産学官連携活動の実施状況

 平成16年4月の国立大学法人化以降、総じて大学等における産学官連携活動は着実に実績を上げている。令和2年度は、民間企業との共同研究による大学等の研究費受入額は約847億円(前年度6.3%増)、このうち1件当たりの受入額が1,000万円以上の共同研究による大学等の研究費受入額は約466億円(前年度13.2%増)、また特許権実施等件数は2万1,056件であり、前年度と比べて着実に増加している(第2-2-3図)

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(2)技術移転機関(TLO)における活動状況

 令和4年1月現在、32のTLO(※114)が「大学等における技術に関する研究成果の民間事業者への移転の促進に関する法律」(平成10年法律第52号)に基づき文部科学省及び経済産業省の承認を受けている。

 この点、昨今の第4次産業革命への対応とも相まって、大学における研究成果の社会還元を一層進めることが産業技術の向上や新たな事業分野の開拓に資することとなる。こうしたことから、令和元年度より、文部科学省では、「イノベーションマネジメントハブ形成支援事業」を開始し、大学、産業界、TLOのネットワーク強化を図ることを通じて、大学における知的財産の効果的活用や共同研究の構築に資する環境整備を推進している。

2.大学等の産学官連携体制の整備

 政府は、我が国の大学・国立研究開発法人と外国企業との共同研究等の産学官連携体制に関し、安全保障貿易管理等に配慮した外国企業との連携に係るガイドラインの検討を開始した。

 文部科学省及び経済産業省は、企業から大学・国立研究開発法人等への投資を今後10年間で3倍に増やすことを目指す政府目標を踏まえ、産業界から見た、大学・国立研究開発法人が産学官連携機能を強化する上での課題とそれに対する処方箋を取りまとめた「産学官連携による共同研究強化のためのガイドライン」を平成28年11月に策定した。さらに、当該ガイドラインの実効性を向上させるために大学等におけるボトルネックの解消に向けた処方箋と新たに産業界/企業における課題と処方箋を体系化した追補版を令和2年6月に取りまとめ、具体的な取組手法を整理したFAQ(※115)を令和4年3月に公表し、その普及に努めている。また、平成30年度から「オープンイノベーション機構の整備」を開始し、企業の事業戦略に深く関わる大型共同研究(競争領域に重点)を集中的にマネジメントする体制の整備を通じて、大型共同研究の推進により民間投資の促進を図っている。

<参考URL>
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オープンイノベーション機構の整備
https://www.mext.go.jp/a_menu/kagaku/openinnovation/index.htm

 また、令和元年7月、文部科学省、一般社団法人日本経済団体連合会及び経済産業省と共同で「大学ファクトブック2019」を公表し、産学官連携活動に関する大学の取組の「見える化」を進めた。令和4年3月に最新のデータを基に内容を更新した「大学ファクトブック2022」を取りまとめた。

 農林水産省は、産学連携支援事業により、全国に農林水産・食品産業分野を専門とする産学連携コーディネーターを配置し、ニーズの収集・把握、シーズの収集・提供を行うとともに、産学官のマッチング支援や研究開発資金の紹介・取得支援、商品化・事業化支援等を実施している。

3.産学官の共同研究開発の強化

 科学技術振興機構は、大学等の研究成果の実用化促進のため、多様な技術シーズの掘り起こしや、先端的基礎研究成果を持つ研究者の企業探索段階から、中核技術の構築や実用化開発の推進等を通じた企業への技術移転まで、ハンズオン支援を実施する「研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP(※116))」や、国から出資された資金等により、大学等の研究成果を用いて企業が行う開発リスクを伴う大規模な事業化開発を支援する「産学共同実用化開発事業(NexTEP)」を実施している。

 経済産業省は、新エネルギー・産業技術総合開発機構が令和2年度から実施している「官民による若手研究者発掘支援事業」において、事業化を目指す大学等の若手研究者と企業のマッチングを伴走支援するとともに、企業との共同研究費等の助成を通して、若手研究者の支援と大学への民間投資額の3倍増を目指して支援している。

 総務省は、情報通信研究機構が構築・運営しているNICT(※117)総合テストベッドにより、産学官連携によるIoTや新世代ネットワーク等の技術実証・社会実証を推進している。

 農林水産省は、農林水産関連の研究機関を相互に接続する農林水産省研究ネットワーク(MAFFIN(※118))を構築・運営しており、令和3年度現在で72機関が接続している。MAFFINはフィリピンと接続しており、海外との研究情報流通の一翼を担っている。

4.産学官協働の「場」の構築

 科学技術によるイノベーションを効率的にかつ迅速に進めていくためには、産学官が協働し、取り組むための「場」を構築することが必要である。科学技術振興機構においては、下記の(1)から(3)の事業について、令和元年度より「共創の場形成支援」として大括(くく)り化し、一体的に推進している。

(1)知と人材が集積するイノベーション・エコシステムの形成

 科学技術振興機構は、ウィズ/ポストコロナ時代を見据えつつ、国連の持続可能な開発目標(SDGs(※119))に基づく未来のありたい社会像の実現に向けた、バックキャスト型の研究開発を行う産学官共創拠点の形成を支援するため、令和2年度から「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)」を実施しており、令和3年度は35拠点の研究開発を推進している。

(2)革新的イノベーション創出拠点の形成

 科学技術振興機構では平成25年度から「センター・オブ・イノベーション(COI(※120))プログラム」を実施しており、全18拠点で革新的イノベーションを産学連携で実現するための研究開発を推進している。

<参考URL>
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共創の場形成支援プログラム
https://www.jst.go.jp/pf/platform/index.html

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センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム
https://www.jst.go.jp/coi/

(3)オープンイノベーションを加速する産学共創プラットフォームの形成

 科学技術振興機構は、平成28年度より「産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERA(※121))」を実施しており、民間企業とのマッチングファンドにより、複数企業から成るコンソーシアム型の連携による非競争領域における大型共同研究と博士課程学生等の人材育成、大学の産学連携システム改革等とを一体的に推進することにより、「組織」対「組織」による本格的産学連携を実現し、我が国のオープンイノベーションの本格的駆動を図っている。

<参考URL>
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産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERA)
https://www.jst.go.jp/opera/index.html

(4)産業技術総合研究所により技術シーズの発掘及び研究開発プログラムの発掘及び研究開発プロジェクトの推進

 産業技術総合研究所は、産業技術に関する産業界や社会からの多様なニーズを捉えながら、技術シーズの発掘や研究開発プロジェクトの推進を行っている。具体的な取組としては、オープンイノベーションハブとしての「TIA」の活動を推進するとともに、共創の場の形成の一環として16の技術研究組合に参画している(令和4年3月31日現在)。

5.オープンイノベーション拠点の形成

(1)筑波研究学園都市

 筑波研究学園都市は、我が国における高水準の試験研究・教育の拠点形成と東京の過密緩和への寄与を目的として建設されており、29の国等の試験研究・教育機関をはじめ、民間の研究機関・企業等が立地しており、研究交流の促進や国際的研究交流機能の整備等の諸施策を推進している。

 TIAは、同都市にある公的4機関、産業技術総合研究所、物質・材料研究機構、筑波大学、高エネルギー加速器研究機構と東京大学、東北大学を中心に運営されているオープンイノベーション拠点である。第3期2年度目の令和3年度においては、TIA連携プログラム探索推進事業「かけはし」では、企業連携による研究課題を充実させる取組を強化し、SDGsやプレベンチャー醸成といった取組を行った。また、Webを活用しながら、TIAの人材育成事業として、TIA連携大学院「サマー・オープン・フェスティバル」を実施した。さらに若手研究人材の育成を目的とする「Nanotech CUPAL(※122)」は、事業最終年度にあたり、「人材育成事業CUPAL 総括報告会」を開催した。

(2)関西文化学術研究都市

 関西文化学術研究都市は、我が国及び世界の文化・学術・研究の発展並びに国民経済の発展に資するため、その拠点となる都市の建設を推進している。令和3年度現在、150を超える施設が立地しており、多様な研究活動等が展開されている。

6.多様な分野との産学連携を行う「オープンイノベーションの場」の推進

 農林水産省は、様々な分野の技術を農林水産・食品分野に導入した産学官連携研究を促進するため、「知」の集積と活用の場®の取組を推進している。

 平成28年4月に「「知」の集積と活用の場®産学官連携協議会」を立ち上げ、様々な分野から4,235の研究者・生産者・企業等が会員となり、特定の目的に向けた研究戦略・ビジネス構想作りを行う172の研究開発プラットフォームが活動している(令和4年2月時点)。さらに、研究開発プラットフォーム内に研究コンソーシアムが形成され、研究開発や成果の商品化・事業化に向けた活動を展開している。

7.技術シーズとニーズのマッチングを促進する環境の醸成

 農林水産省は、農林水産・食品産業分野の研究を行う民間企業、大学、公設試験研究機関(以下、「公設試」という。)、独立行政法人等の技術シーズを展示し、技術に対するニーズを有する機関との連携を促進するため、各省・各機関と連携し「アグリビジネス創出フェア」を毎年度開催している。令和3年度も、11月にリアルとオンラインとのハイブリッド開催をし、新技術の産業利用を進めている民間企業等から情報発信を行い、全国から135機関が参加した。3日間の来場者数は33,535人、約4か月間公開した特設サイトの総ページビュー数は、64,723に達した。

 文部科学省は、「地域イノベーション・エコシステム形成プログラム」により、地域の競争力の源泉(コア技術等)を核に地域内外の人材や技術を取り込み、グローバル展開が可能な事業化計画を策定し、リスクは高いが社会的インパクトが大きい事業化プロジェクトを支援しており、これまでに全21地域を採択した。

<参考URL>
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地域イノベーション・エコシステム形成プログラム
https://www.mext.go.jp/a_menu/kagaku/chiiki/program/1367366.htm

 総務省は、「戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE(※123))」において、「新たな情報通信技術戦略の在り方 中間答申・第2次中間答申・第4次中間答申」を踏まえた、Beyond 5G時代に対応して、実用化・社会実装を意識した、新たな価値の創造、社会システムの変革並びに地域の活性化及び課題の解決に寄与するICTの研究開発を推進している。

 経済産業省は、令和2年度から開始した「産学融合拠点創出事業」において、産学融合の先導的取組とモデル拠点構築に向けた支援を行い、大学を起点とするオープンイノベーションの深化と更なる拡大を実現する産学融合を通じた共通価値の創造を目指し支援している。

 農林水産省は、生物系特定産業技術研究支援センターが実施する「イノベーション創出強化研究推進事業」において、様々な分野の多様な知識・技術等を結集した研究開発を重点的に推進する提案公募型研究開発を支援することにより、地域イノベーション戦略の推進に貢献している。また、農林水産業・食品産業分野を専門とする産学連携コーディネーターを全国に配置し、ニーズの収集・把握、シーズの収集・提供を行うとともに、産学官のマッチング支援や研究開発資金の紹介・取得支援、商品化・事業化支援等を通じ、地域における農林水産・食品分野の研究開発の振興を図っている。そのほか、地域の研究開発と技術の普及促進を支援する地域マッチングフォーラムの開催等の取組を進めている。

 産業技術総合研究所は、公設試等と人的交流などを通して密接に連携して地域企業のニーズの発掘に努めるとともに、産業技術総合研究所の技術シーズを活用した地域企業への技術支援を行っている。具体的には、公設試等職員やその幹部経験者等143名を地域企業への「橋渡し」の調整役として「産総研イノベーションコーディネータ」に委嘱・雇用し、産業技術連携推進会議を通じて公設試相互及び公設試と産業技術総合研究所との協力体制を強化するとともに、公設試職員の技術力向上や人材育成を支援している。また、包括協定を締結するなど、地方自治体との連携を積極的に進め、地方自治体の予算による補助事業の活用等により、地域産業特性に応じた技術分野での連携を推進している。このような産業技術総合研究所の技術シーズを事業化につなぐ「橋渡し」を地域及び全国レベルで行い、地域企業の技術競争力強化に資することで地方創生に取り組んでいる。

❹ 世界に比肩するスタートアップ・エコシステム拠点の形成

 内閣府、文部科学省、経済産業省では、スタートアップ・エコシステムの形成とイノベーションによる社会課題解決の実現を目指して、令和元年6月に「Beyond Limits. Unlock Our Potential~世界に伍するスタートアップ・エコシステム拠点形成戦略~」を策定し、令和2年にグローバル拠点都市4拠点、推進拠点都市4拠点を選定。拠点都市のスタートアップに対して、グローバル市場参入や海外投資家からの投資の呼び込みを促すため「グローバルスタートアップ・アクセラレーションプログラム」を実施する等、政府、政府関係機関、民間サポーターによる集中支援を実施することで、世界に伍するスタートアップ・エコシステム拠点の形成を推進している。

❺ 挑戦する人材の輩出

 我が国全体のアントレプレナーシップ醸成をより一層促進するため、文部科学省では、「次世代アントレプレナー育成事業(EDGE-NEXT(※124))」を平成29年度から実施するとともに、裾野を拡大するため、全国の大学生等を対象とした「全国アントレプレナーシップ人材育成プログラム」を試行的に実施した。また、科学技術振興機構において、「大学発新産業創出プログラム(START)」の一環として、スタートアップ・エコシステム拠点都市において、アントレプレナーシップ教育を含めた大学等の起業支援体制の構築支援を実施している。

 また、文部科学省は、複数の大学等でコンソーシアムを形成し、企業等とも連携して、研究者の流動性を高めつつ、安定的な雇用を確保しながらキャリアアップを図る「科学技術人材育成のコンソーシアムの構築事業」を実施している。

 文部科学省及び経済産業省は、人材の流動性を高める上で、研究者等が複数の機関の間での出向に関する協定等に基づき、各機関に雇用されつつ、一定のエフォート管理の下、各機関における役割に応じて研究・開発及び教育に従事することを可能にする、クロスアポイントメント制度を促進することが重要であるとの認識の下、その実施に当たっての留意点や推奨される実施例等をまとめた「クロスアポイントメント制度の基本的枠組みと留意点」を平成26年12月に公表し、更にその追補版を令和2年6月に公表して、制度の導入を促進している。

❻ 国内において保持する必要性の高い重要技術に関する研究開発の継続・技術の承継

 産業技術総合研究所は、国内において保持する必要性の高い重要技術について、企業等での研究継続が困難となった等の問題が生じた場合、将来的に国内企業等へ当該技術が橋渡しされることを想定した上で、可能な範囲で、様々な受入制度を活用し、関係研究者の一時的雇用や当該研究の一定期間引継・継続等の支援を行うことを確認している。

5 次世代に引き継ぐ基盤となる都市と地域づくり(スマートシティの展開)

 都市や地域における課題解決を図り、地域の可能性を発揮しつつ新たな価値を創出し続けることができる多様で持続可能な都市や地域が全国各地に生まれることで、あらゆるステークホルダーにとって人間としての活力を最大限発揮できるような持続的な生活基盤を有する社会を目指している。

❶ データの利活用を円滑にする基盤整備・データ連携可能な都市OS(※125)の展開

 内閣府は、スマートシティを構築する際の共通の設計の枠組みである「スマートシティリファレンスアーキテクチャ」(SIP第2期「ビッグデータ・AIを活用したサイバー空間基盤技術」の一環として作成、令和2年3月公表)について、改訂のための課題整理のための調査を実施している。

 内閣府は関係府省とともに、スーパーシティ/スマートシティのデータ連携等に関する検討を実施するとともに、総務省において、「スマートシティセキュリティガイドライン」を令和3年6月に改定した。

❷ スーパーシティを連携の核とした全国へのスマートシティ創出事例の展開

 国家戦略特別区域法の一部を改正する法律(令和2年法律第34号)に基づき、世界に先駆けて未来の生活を先行実現する「まるごと未来都市」を目指す「スーパーシティ」構想の実現に向けた議論と取組を推進している。

 国家戦略特区諮問会議等の審議を経て、令和4年4月、スーパーシティ型国家戦略特区として茨城県つくば市及び大阪府大阪市が、デジタル田園健康特区として、岡山県吉備中央町、長野県茅野市及び石川県加賀市がそれぞれ指定された。スーパーシティは、地域のデジタル化と規制改革を行うことにより、DXを進め幅広い分野で未来社会の先行的な実現を目指すものである。また、デジタル田園健康特区は、デジタル技術の活用によって、人口減少、少子高齢化など、特に地方部で問題になっている課題に焦点を当て、地域の課題解決の先駆的モデルを目指すものである。国家戦略特区においては、引き続き、岩盤規制改革に取り組んでいくとともに、特段の弊害のない特区の成果については、全国展開を加速的に進めていく。

 総合特区制度は、我が国の経済成長のエンジンとなる産業・機能の集積拠点の形成を目的とする「国際戦略総合特区」と、地域資源を最大限活用した地域活性化の取組による地域力向上を目的とする「地域活性化総合特区」からなり、政府は、規制の特例措置、税制(国際戦略総合特区のみ)・財政・金融上の支援措置などにより総合的に支援を行っている。

 関係府省は、スマートシティ官民連携プラットフォームを通じた自治体と民間企業のマッチング支援や、スマートシティガイドブック(令和3年4月公開)を活用した先行事例の横展開・普及展開活動を通じ、先進的なサービスの実装に向けた地域や民間主導の取組を促進している。

 内閣府と関係府省は、「スマートシティ関連事業に係る合同審議会」においてスマートシティ関連事業の実施地域を合同で選定するなど、スマートシティの実装・普及に向けて各府省事業を一体的に実施している。

 内閣府は関係府省とともに、スマートシティ評価指標について検討を行い、その成果を国施策のKPI・ロジックモデルの見直しや、地域におけるKPI設定のための指針等に反映した。

❸ 国際展開

 政府は、日本の「自由で開かれたスマートシティ」のコンセプトの下、グローバル・スマートシティ・アライアンス(GSCA)等の国際的な活動や、各種国際会議等において「スマートシティカタログ」等を活用し発信している。

 また、関係府省は、案件形成調査の実施や関係国・都市の参加による「日ASEAN(※126)スマートシティ・ネットワーク ハイレベル会合」(第3回:令和3年10月)の開催等「日ASEANスマートシティ・ネットワーク」の枠組みを通じたスマートシティ展開に向けて取組を推進している。

 さらに、関係府省は、国内外の標準の専門家等と連携して、リファレンスアーキテクチャなどを対象に、スマートシティに関連する国際標準の活用を推進してきた。具体的には、スマートシティに関連する国際標準の活用と海外展開に向けて、国内外の標準の専門家等と連携して、リファレンスアーキテクチャなどを対象に、今後の国際標準の活用と海外展開に向けた国際標準提案及び国内外の体制構築等について検討を実施した。

❹ 持続的活動を担う次世代人材の育成

 関係府省は、スマートシティの実現に必要な人材育成等の課題について、先行する取組事例を掲載したスマートシティガイドブックを取りまとめ、令和3年4月に公開するとともに、これらの運営上の課題解決の取組についての検討を実施している。

6 様々な社会課題を解決するための研究開発・社会実装の推進と総合知の活用

 人文・社会科学と自然科学の融合による「総合知」を活用しつつ、我が国と価値観を共有する国・地域・国際機関等と連携して、社会課題や課題の解決に向けて、研究開発と成果の社会実装に取り組むことで、未来の産業創造や経済成長と社会課題の解決が両立する社会を目指している。

❶ 総合知を活用した未来社会像とエビデンスに基づく国家戦略の策定・推進

1.人間や社会の総合的理解と課題解決に貢献する「総合知」

 内閣府では、人間や社会の総合的理解と課題解決に貢献する「総合知」に関して、「総合知」が求められる社会的背景を踏まえ、「総合知」に関する基本的な考え方、さらに戦略的な推進方策を検討し、中間取りまとめとして取りまとめた。また、あわせて、理解を促進するための参考資料として総合知の活用事例集と総合知に関連する施策例の一覧を作成した。

2.分野別戦略

 AI(第2章第1節1❹参照)、バイオテクノロジー(第1章第3節参照)、量子技術、マテリアルや、宇宙(第2章第1節3❺参照)、海洋(第2章第1節3❺参照)、環境エネルギー(第2章第1節2参照)、健康・医療、食料・農林水産業(第2章第1節2❶参照)等の府省横断的に推進すべき分野については、国家戦略に基づき、研究開発等を進めている。本白書で他の箇所で記載していない分野別戦略のうち、量子技術、マテリアルの分野別戦略について以下に記す。

(1)量子技術

 量子科学技術(光・量子技術)は、例えば、近年爆発的に増加しているデータの超高速処理を可能とするなど、新たな価値創出の中核となる強みを有する基盤技術である。近年、量子科学技術に関する世界的に研究開発が激化しており、米欧中を中心に海外では、政府主導で研究開発戦略を策定し、研究開発投資額を増加させている。さらに、世界各国の大手IT企業も積極的な投資を進め、ベンチャー企業の設立・資金調達も進んでいる。

 こうした量子科学技術の先進性やあらゆる科学技術を支える基盤性と、国際的な動向に鑑み、政府は令和2年1月に「量子技術イノベーション戦略」を策定し、その実現に向けて、「量子技術イノベーション」を明確に位置付け、日本の強みを活かし、①重点的な研究開発、②国際協力、③研究開発拠点の形成、④知的財産・国際標準化戦略、⑤優れた人材の育成・確保を進めている。他方、量子技術イノベーション戦略策定以降、コロナ禍によるDX進展、カーボンニュートラル、量子コンピュータの研究の急速な加速等、急激に変化する社会環境に対する量子技術の役割が増大していることを踏まえ、生産性革命など我が国産業の成長機会の創出やカーボンニュートラル等の社会課題のために量子技術を活用し、社会のトランスフォーメーションを実現していくため、令和4年4月に、量子未来社会ビジョンを策定した。今後は、当該ビジョンを踏まえ、産学官一体となり、量子コンピュータ、量子ソフトウェア、量子セキュリティ・ネットワーク、量子計測・センシング/量子マテリアルの各領域における産業振興や研究開発等に関する取組、イノベーション創出のための基盤的取組を強力に推進していく。

 内閣府では、平成30年度から実施している「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期」課題において、①レーザー加工、②光・量子通信、③光電子情報処理と、これらを統合したネットワーク型製造システムの研究開発及び社会実装を推進している。中でも①におけるフォトニック結晶レーザー(PCSEL(※127))の研究開発では、従来の1/3の体積という、クラス最小のLiDAR(※128)システムの開発に成功するとともに、超小型レーザー加工システムに向けた更なる高輝度・高性能化に取り組んでいる。また、令和2年6月、「官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM)」に「量子技術領域」を設置し、官民の研究開発投資の拡大に資する研究開発を支援している。さらに、令和元年度にムーンショット型研究開発制度において、「2050年までに、経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピュータを実現」するというムーンショット目標を設定し、挑戦的な研究開発を推進している。

 総務省及び情報通信研究機構は、計算機では解読不可能な量子暗号技術や単一光子から情報を取り出す量子信号処理に基づく量子通信技術の研究開発に取り組んでいる。また、総務省では、地上系の量子暗号通信の更なる長距離化技術(長距離リンク技術及び中継技術)の研究開発を推進している。さらに、地上系で開発が進められている量子暗号技術を衛星通信に導入するため、宇宙空間という制約の多い環境下でも動作可能なシステムの構築、高速移動している人工衛星からの光を地上局で正確に受信できる技術及び超小型衛星にも搭載できる技術の研究開発に取り組んでいる。加えて、令和3年度より地上系及び衛星系ネットワークを統合したグローバル規模の量子暗号通信網構築に向けた研究開発を実施している。

 文部科学省では、平成30年度から実施している「光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)」において、①量子情報処理(主に量子シミュレータ・量子コンピュータ)、②量子計測・センシング、③次世代レーザーを対象とし、プロトタイプによる実証を目指す研究開発を行うFlagshipプロジェクトや基礎基盤研究及び人材育成プログラム開発を推進している。

 量子科学技術研究開発機構では、量子計測・センシング等の量子科学技術を生命科学に応用し、生命科学の革新や新たなイノベーションの創生を目指す量子生命科学の基盤技術開発に取り組んでいる。また、世界トップクラスの量子科学技術研究開発プラットフォームの構築を目指し、重粒子線がん治療装置の小型化・高度化の研究、世界トップクラスの高強度レーザー(J-KAREN)やイオン照射研究施設(TIARA(※129))などの量子ビーム施設を活用した先端的研究を実施している。

 経済産業省では、平成30年度より開始した「高効率・高速処理を可能とするAIチップ・次世代コンピューティングの技術開発事業」において、社会に広範に存在している「組合せ最適化問題」に特化した量子コンピュータ(量子アニーリングマシン)の当該技術の開発領域を拡大し、量子アニーリングマシンのハードウェアからソフトウェア、アプリケーションに至るまで、一体的な開発を進めており、2019年度からは新たに、共通ソフトとハードをつなぐインターフェイス集積回路の開発を開始した。加えて、クラウドコンピューティングの進展などにより課題となっているデータセンターの消費電力抑制に向けて、「超低消費電力型光エレクトロニクスの実装に向けた技術開発事業」において、電子回路と光回路を組み合わせた光エレクトロニクス技術の開発に取り組んだ。

コラム2-9 世界初、ラックサイズで大規模光量子コンピュータを実現する基幹技術開発に成功 ~光ファイバ統合型量子光源を開発~

 量子コンピュータを含む量子技術に関して、諸外国とのし烈な国家間競争を勝ち抜くため、内閣府では現在、「量子技術イノベーション戦略」の改定を進めており、オールジャパンの体制の下で量子分野の重要課題に関する研究開発を推進することとしている(参考1)。量子コンピュータは、重ね合わせ状態と量子もつれ状態という量子力学特有の現象を利用した超並列計算処理が可能なことから、世界各国で研究開発が進められている。ムーンショット型研究開発制度の目標6では、「2050年までに、経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピュータを実現」という野心的な目標を掲げ、7プロジェクトの研究開発を進めている(参考2)。そのうちの1つ、「誤り耐性型大規模汎用光量子コンピュータの研究開発」のプロジェクトでは、ラックサイズで大規模光量子コンピュータを実現するための基幹デバイスとなる光ファイバ接続型高性能スクィーズド光源モジュールを実現した。開発した光ファイバ結合型量子光源モジュールと光通信用光学部品を用いることで、6テラヘルツ以上の広帯域にわたって量子ノイズが75%以上圧搾された連続波のスクィーズド光の生成に、世界で初めて光ファイバ光学系で成功した。本成果は光通信デバイスを用いた安定的かつメンテナンスフリーな閉じた系において、現実的な装置規模での光量子コンピュータ開発を可能とし、実機開発を大きく前進させると期待されている。

<参考URL>
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1 文部科学省ホームページ
https://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/ryoushi/mext_01422.html

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2 内閣府ホームページ
https://www8.cao.go.jp/cstp/moonshot/index.html

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(2)マテリアル

 マテリアル分野は、我が国が産学で高い競争力を有するとともに、広範で多様な研究領域・応用分野を支え、その横串的な性格から、異分野融合・技術融合により不連続なイノベーションをもたらす鍵として広範な社会的課題の解決に資する、未来の社会における新たな価値創出のコアとなる基盤技術である。

 当該分野の重要性に鑑み、政府は令和3年4月、2030年の社会像・産業像を見据え、Society 5.0の実現、SDGsの達成、資源・環境制約の克服、強靭(きょうじん)な社会・産業の構築等に重要な役割を果たす「マテリアル・イノベーションを創出する力」、すなわち「マテリアル革新力」を強化するための戦略(「マテリアル革新力強化戦略」)を、統合イノベーション戦略推進会議において決定した。同戦略では、国内に多様な研究者や企業が数多く存在し、世界最高レベルの研究開発基盤を有する我が国の強みを生かし、産学官関係者の共通ビジョンの下、①革新的マテリアルの開発と迅速な社会実装、②マテリアルデータと製造技術を活用したデータ駆動型研究開発の促進、③国際競争力の持続的強化等を強力に推進することとしている。

 文部科学省は、当該分野に係る基礎的・先導的な研究から実用化を展望した技術開発までを戦略的に推進するとともに、研究開発拠点の形成等への支援を実施している。具体的には、最先端の研究設備とその活用のノウハウを有する大学等の機関が緊密に連携し、全国的な共用体制を構築することで、産学の利用者に対して最先端設備の利用機会と高度な技術支援を提供する「ナノテクノロジープラットフォーム」や、大学等において産学官が連携した体制を構築し、革新的な機能を有するもののプロセス技術の確立が必要となる革新的材料を社会実装につなげるため、プロセス上の課題を解決するための学理・サイエンス基盤の構築を目指す「材料の社会実装に向けたプロセスサイエンス構築事業(Materealize)」を実施している。

 また、「マテリアル革新力強化戦略」において、データを基軸とした研究開発プラットフォームの整備とマテリアルデータの利活用促進の必要性が掲げられていることも踏まえ、文部科学省では、令和3年度から、「ナノテクノロジープラットフォーム」の先端設備共用体制を基盤として、多様な研究設備を持つハブと特徴的な技術・装置を持つスポークから成るハブ&スポーク体制を新たに構築し、高品質なデータを創出することが可能な最先端設備の共用体制基盤を全国的に整備する「マテリアル先端リサーチインフラ」を開始した。本事業は、物質・材料研究機構が設備するデータ中核拠点を介し、産学のマテリアルデータを戦略的に収集・蓄積・構造化して全国で利活用するためのプラットフォームの整備を進めている。加えて、データ活用により超高速で革新的な材料研究手法の開拓と、その全国への展開を目指す「データ創出・活用型マテリアル研究開発プロジェクト」について、令和3年度にフィージビリティ・スタディを実施し、令和4年度からの本格研究開始に向けた検討を進めるなど、研究データの創出、統合、利活用までを一気通貫した研究開発を推進している。

 さらに、物質・材料研究機構は、新物質・新材料の創製に向けたブレークスルーを目指し、物質・材料科学技術に関する基礎研究及び基盤的研究開発を行っている。量子やバイオ等、政府の重点分野に貢献する革新的マテリアルの研究開発を推進するほか、マテリアル分野のイノベーション創出を強力に推進するため、基礎研究と産業界のニーズの融合による革新的材料創出の場や世界中の研究者が集うグローバル拠点を構築するとともに、これらの活動を最大化するための研究基盤の整備を行う事業として「革新的材料開発力強化プログラム~M3(M-cube)~」を実施している。令和元年度からは、革新的新材料の創出加速等に向けた研究環境のスマートラボラトリ化のための取組を実施しており、さらに令和2年度からは、データ中核拠点として全国の先端共用設備から創出されたマテリアルデータの戦略的な収集・蓄積・AI解析までを含む利活用を可能とするシステム整備を進めている。

 内閣府は、SIP第1期「次世代海洋資源調査技術」の成果を踏まえ、平成30年度より、SIP第2期「革新的深海資源調査技術」として、世界に先駆け、我が国の排他的経済水域の2,000m以深にある海底に賦存するレアアース泥等の鉱物資源を効率的に調査し洋上に回収する技術の開発を進めている。令和3年度は南鳥島の調査海域のレアアースの概略資源量評価により産業化が期待される規模のレアアース資源の賦存を確認し、揚泥性能確認試験も実施するなど、将来のレアアース生産に向けた技術開発が着実に進展している。

 文部科学省及び経済産業省は、次世代自動車や風力発電等に必要不可欠な原料であるレアアース・レアメタル等の希少元素の調達制約の克服や、省エネルギーを図るため、両省で連携しつつ、材料の研究開発を行っている。

 文部科学省は、我が国の資源制約を克服し、産業競争力の強化を図るため、元素の果たす機能を理論的に解明し応用することにより、レアアース・レアメタル等の希少元素を用いない全く新しい材料の創製を行う「元素戦略プロジェクト(研究拠点形成型)」を推進している。

 経済産業省は、「輸送機器の抜本的な軽量化に資する新構造材料等の技術開発事業」により、従来以上に強力かつ希少金属の使用を大幅に削減した磁性材料の開発等を行っている。また、「資源循環システム高度化促進事業」により、我が国の都市鉱山の有効利用を促進し、資源の安定供給及び省資源・省エネルギー化を実現するため、廃製品・廃部品の自動選別技術、高効率製錬技術及び動静脈情報連携システムの開発を行っている。さらに、「サプライチェーン強靱化に資する技術開発・実証」により、供給途絶リスクの高いレアアースのサプライチェーン強靱化に繋げるため、レアアースの使用を極力減らす、又は使用しない高性能磁石の開発や不純物等が多く利用が難しい低品位レアアースを利用するための技術開発等を行っている。

3.エビデンスに基づく戦略策定、未来社会を具体化した政策の立案・推進

 未来社会像の検討に向けた長期的な変化の探索・分析の一環として、文部科学省科学技術・学術政策研究所は、5年ごとに科学技術予測調査(昭和46年当初は科学技術庁にて実施)を行っている。次回の第12回調査の実施に向けて、令和2年度からは、科学技術や社会の早期の兆しを捉えるホライズン・スキャニングとして、毎年、専門家に注目する科学技術等をアンケートし、専門家の知見を幅広く収集・蓄積している。令和3年度からは、人文・社会科学分野の専門家が第12回調査に参加できる体制の構築を始めている。

 内閣府は、重要科学技術領域の探索・特定に資するよう、論文情報等を活用した分析ツールを開発し、研究動向の試行的な分析を実施している。分析ツールで作成した科学技術領域の俯瞰(ふかん)図等に有識者の専門的知見を加え、政策検討に活用する仕組みの構築を進めている。また、府省共通研究開発管理システム(e-Rad)を通じて分析に必要となる各種データを収集している。これらのデータも活用し、エビデンスシステム(e-CSTI(※130))において、研究費と研究アウトプットに関する分析、研究設備・機器の共用や外部資金の獲得状況に関する分析、産業界の人材育成ニーズと学生の履修状況に関する分析等を実施している。

 文部科学省科学技術・学術政策研究所は、科学技術・イノベーションに関する政策形成及び調査・分析・研究に活用するデータ等を体系的かつ継続的に整備・蓄積していくためのデータ・情報基盤を構築し、また、調査・分析・研究を行っている。当該基盤を活用した調査研究の成果は、科学技術・イノベーション基本計画の検討をはじめ、内閣府及び文部科学省の各種政策審議会等に提供・活用されている。

 また、科学技術振興機構 研究開発戦略センターは、国内外の科学技術・イノベーションや関連する社会の動向の把握・俯瞰・分析を行い、研究開発成果の最大化に向けた研究開発戦略を検討し、科学技術・イノベーション政策立案に資する提言等を行っている。技術の高度化・複雑化の進展に伴い技術革新の重要性が増す中、限られたリソースを戦略的に投じていくことが一層求められている。こうした観点から、新エネルギー・産業技術総合開発機構技術戦略研究センターは、産業技術政策の策定に必要なエビデンスや知見を提供する重要なプレイヤーとして、グローバルかつ多様な視点で技術・産業・政策動向を把握・分析し、産業技術やエネルギー・環境技術分野の技術戦略の策定及びこれに基づく重要なプロジェクトの構想に政策当局と一体となって取り組んでいる。

4.半導体の技術的優位性確保と安定供給に向けた取組

 半導体は、デジタル化や脱炭素化、経済安全保障の確保を支えるキーテクノロジーであり、その技術的優位性の確保と安定供給体制の構築に向け、諸外国に比肩する国策としての取組が必要である。経済産業省としては、半導体・デジタル産業戦略検討会議を開催し、令和3年6月には半導体・デジタル産業戦略を打ち出している。さらに、同年11月には、「我が国の半導体産業の復活に向けた基本戦略」として更なる具体化を行っている。基本戦略においては、3段階にわたる取組方針を示しており、具体的には、ステップ1として、半導体の国内製造基盤の整備に取り組み、ステップ2として、令和7年以降に実用化が見込まれる次世代半導体の製造技術開発を国際連携にて進めるとともに、ステップ3として、令和12年以降を睨(にら)みゲームチェンジとなり得る光電融合などの将来技術の開発などにも着手していくことを掲げている。

 この戦略に基づき、令和3年度の補正予算においては、ステップ1の実現に向けて、先端半導体の製造基盤整備に6,170億円、サプライチェーン上の不可欠性の高い半導体の生産設備刷新を推進するために470億円の予算を計上した。また、ステップ2、ステップ3の実現に向けて、①日米連携による超微細な次世代半導体の製造技術や、②電気配線を光配線化することで多量のデータを高速かつ低消費電力で処理する光電融合などの将来技術について研究開発を行うべく、同補正予算において1,100億円の予算を計上している。さらに、この基本戦略を実現していく上で不可欠な半導体産業を担う人材の育成・確保についても、官民連携による具体施策の推進を行っている。引き続き、戦略に基づき、必要な施策を講じていく。

5.ロボット開発に関する取組等

 経済産業省では、令和元年7月にロボットによる社会変革推進会議が取りまとめた「ロボットによる社会変革推進計画」に基づき、「①ロボットフレンドリーな環境の構築」、「②人材育成の枠組みの構築」、「③中長期的課題に対応する研究開発体制の構築」、「④社会実装を加速するオープンイノベーション」に関する取組を進めている。「ロボットフレンドリーな環境の構築」については、施設管理、小売、食品製造、物流倉庫の分野での研究開発を進め、ユーザー視点のロボット開発や、データ連携、通信、施設設計等に係る規格化・標準化を推進しており、具体的な一例としては、施設管理分野において、令和3年6月にメーカーを問わずロボットとエレベーターが通信連携するための統一規格を策定したところである。「人材育成の枠組みの構築」については、ロボットメーカー・システムインテグレーターといった産業界と教育機関が参画するかたちで令和2年6月に設立した「未来ロボティクスエンジニア育成協議会(CHERSI(※131))」が、教員や学生を対象とする現場実習や教育カリキュラム等の策定に関する支援を実施している。「中長期的課題に対応する研究開発体制の構築」については、中長期的な視点で次世代産業用ロボットの実現に向けて、異分野の技術シーズをも取り込みつつ基礎・応用研究を実施している。「社会実装を加速するオープンイノベーション」については、世界のロボットの叡智を集めて開催する競演会として、令和3年度に「World Robot Summit 2020」を開催した(愛知大会(9月)、福島大会(10月))。

6.地理空間情報の整備

 内閣官房地理空間情報活用推進室は、産学官民が協調して高精度で利用価値の高い地理空間情報を利用できる環境を整備し、これらを高度に活用する「G空間社会」を実現するため、令和4年3月18日に第4期地理空間情報活用推進基本計画を策定した。

❷ 社会課題解決のためのミッションオリエンテッド型の研究開発の推進

1.SIP

 令和5年度から開始する次期SIPについて、「第6期科学技術・イノベーション基本計画」(令和3年3月26日閣議決定)に基づき、取り組むべき課題について、我が国が目指す将来像(Society 5.0)の実現に向けて、バックキャストにより検討を進め、令和3年12月末に課題候補(ターゲット領域)を決定した。各課題候補について、大学、研究機関、企業、ベンチャーなどから幅広く研究開発テーマのアイディアを募るため、令和4年1月から2月までの期間、情報提供依頼、いわゆるRFI(※132)を実施した。令和4年3月に、RFIの結果を整理し、プログラムディレクター(PD)候補の募集要件を検討した。(第1章第2節(2)参照)

<参考URL>
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次期SIP課題候補に係る研究開発テーマの情報提供依頼(RFI)~Society 5.0 の実現に向けたアイディア募集~
https://www8.cao.go.jp/cstp/stmain/20220119sip.html

2.ムーンショット型研究開発制度

 ムーンショット型研究開発制度は、超高齢化社会や地球温暖化問題など重要な社会課題に対し、人々を魅了する野心的な目標(ムーンショット目標)を国が設定し、挑戦的な研究開発を推進するものである。令和3年度は、既存の7目標において総合知を活用して研究開発を推進するとともに、総合知の活用に向けて目標2、4、5、6で横断的支援(数理科学、ELSI)の公募を実施した。また、コロナ禍による経済社会の変容等を想定し、若手研究者を中心とした多様な研究者による調査研究を基に、新たに2つのムーンショット目標(目標8、目標9)を決定した。

コラム2-10 害虫の飛行パターンをモデル化し3次元位置を予測

 2050年、世界人口の増加に伴い食料需要の増大が予想される中、害虫防除は食料の安定的な生産のための重要な課題となっている。ムーンショット型研究開発制度の目標5では、食料生産や消費に関する問題の解決を目指し、「2050年までに、未利用の生物機能等のフル活用により、地球環境でムリ・ムダのない持続的な食料供給産業を創出する」野心的な目標を掲げ、8プロジェクトの研究開発を実施している(参考1、参考2)。そのうちの1つに、「先端的な物理手法と未利用の生物機能を駆使した害虫被害ゼロ農業の実現」のプロジェクトがある。空中をすばやく飛び回る害虫を効率的に駆除することは、既存の防除技術では不可能である。これを可能にする画期的な物理的手法として、害虫を高出力レーザーなどで駆除する技術開発が進められている。その実現にはピンポイントで害虫の位置を把握するとともに、検出から駆除までのタイムラグを解消する必要がある。プロジェクトでは、代表的な農業害虫であるハスモンヨトウ(ガの一種)の飛翔をステレオカメラにより撮影して3次元の位置を計測し、飛行パターンを調べた。次に、得られた飛行パターンをモデル化し、リアルタイムの画像から数ステップ先(0.03秒先)の位置を1.4cm程度の精度で予測できる方法を新たに開発した。2025年までに、予測した位置にレーザーを照射して害虫を駆除する技術の実用化を目指しており、化学農薬主体の防除法から脱却し、環境への負荷も少ない新しい害虫防除技術の実現が期待される。

<参考URL>
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1 内閣府ホームページ
https://www8.cao.go.jp/cstp/moonshot/index.html

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2 農水省ホームページ
https://www.affrc.maff.go.jp/docs/moonshot/moonshot.html

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3.社会技術研究開発センター

 科学技術振興機構 社会技術研究開発センターは、少子高齢化、環境・エネルギー、安全安心、防災・減災に代表されるSDGsを含む様々な社会課題の解決や新たな科学技術の社会実装に関して生じる倫理的・法制度的・社会的課題への対応を行うために、自然科学及び人文・社会科学の知見を活用し、多様なステークホルダーとの共創による研究開発を実施している。令和3年度には、新型コロナウイルス感染症による影響など、様々な社会構造の変化により顕在化した社会課題である社会的孤立・孤独の予防に関するプログラムを開始した。本プログラムでは、社会的孤立の生成プロセスの解明や、新生活に伴う孤独リスクの可視化、孤立・孤独防止に資するコミュニティの醸成に向けた取組等に関する研究開発を推進した。

 更に、科学技術振興機構 社会技術研究開発センターは、社会における課題とその解決に必要な科学技術の現状と可能性などを、多面的な視点から把握・分析し、それらのエビデンスに基づき、合理的なプロセスにより政策を形成するための手法や指標等の研究開発を公募事業によって支援している(令和3年度より第3期)。令和3年度は、令和2年度までに採択された16件に加え、新たに7件を採択し、研究開発と成果の政策実装を推進した。

4.福島国際研究教育機構

 福島イノベーション・コースト構想を更に発展させて、研究開発、産業化及び人材育成の中核となる福島国際研究教育機構の新設に向けて、令和3年11月に「国際教育研究拠点の法人形態等について」を復興推進会議で決定し、令和4年2月には福島国際研究教育機構の設立等のための「福島復興再生特別措置法の一部を改正する法律案」を第208回国会に提出した。同年3月には、福島国際研究教育機構の研究開発、産業化、人材育成及び司令塔機能等について具体的な内容を定める「福島国際研究教育機構基本構想」を復興推進会議で決定し、福島国際研究教育機構の設立は令和5年4月とすることとした。同基本構想の中で、福島国際研究教育機構は、我が国の科学技術力の強化を牽引し、イノベーションの創出により我が国の産業競争力を世界最高の水準に引き上げる、世界に冠たる「創造的復興の中核拠点」を目指すこととした。

❸ 社会課題解決のための先進的な科学技術の社会実装

1.次期SIPでの取組

 令和5年度から開始する次期SIPについて、「第6期科学技術・イノベーション基本計画」(令和3年3月26日閣議決定)に基づき、取り組むべき課題について、我が国が目指す将来像(Society 5.0)の実現に向けて、バックキャストにより検討を進め、令和3年12月末に課題候補(ターゲット領域)を決定した。各課題候補について、大学、研究機関、企業、ベンチャーなどから幅広く研究開発テーマのアイディアを募るため、令和4年1月から2月までの期間、情報提供依頼、いわゆるRFIを実施した。令和4年3月に、RFIの結果を整理し、プログラムディレクター(PD)候補の募集要件を検討した。(第1章第2節2参照)

2.官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM)の推進

 PRISMは、民間投資の誘発効果の高い領域や研究開発成果の活用による政府支出の効率化が期待される領域(※133)に各府省庁施策を誘導すること等を目的に平成30年度に創設したプログラムである。総合科学技術・イノベーション会議が策定した各種戦略等を踏まえ、AI技術領域、革新的建設・インフラ維持管理技術/革新的防災・減災技術領域、バイオ技術領域、量子技術領域に重点化し配分を行ってきており、令和3年度においては、これら4領域の32施策に追加配分を実施した。今後も総合科学技術・イノベーション会議が策定する又は改正された各種戦略等を踏まえ、各府省庁の事業の加速等により、官民の研究開発投資の拡大を目指す(第1章第2節2参照)。

3.政府事業への先進的な技術の導入

 科学技術・イノベーションの成果の社会実装を加速させるよう、政府において率先して先進的な技術の導入を図る政府事業のイノベーション化を推進していくことが重要である。このため、内閣府においては、関係省庁と連携して、公共事業をはじめとして幅広い分野の政府事業のイノベーション化等を推進している。

❹ 知的財産・標準の国際的・戦略的な活用による社会課題の解決・国際市場の獲得等の推進

1.知的財産戦略及び国際標準戦略の推進

 経済のグローバル化が進展するとともに、経済成長の源泉である様々な知的な活動の重要性が高まる中、我が国の産業競争力強化と国民生活の向上のためには、我が国が高度な技術や豊かな文化を創造し、それをビジネスの創出や拡大に結び付けていくことが重要となっている。その基盤となるのが知的財産戦略である。

 令和3年7月、知的財産戦略本部は、「知的財産推進計画2021」を決定した。同計画は、コロナ後のニュー・ノーマルの下におけるデジタル化・グリーン化競争を我が国が勝ち抜くため、冒頭部「基本認識」において知財を取り巻く状況について整理した上で、「競争力の源泉たる知財の投資・活用を促す資本・金融市場の機能強化」、「優位な市場拡大に向けた標準の戦略的な活用の推進」、「21世紀の最重要知財となったデータの活用促進に向けた環境整備」、「デジタル時代に適合したコンテンツ戦略」、「スタートアップ・中小企業/農業分野の知財活用強化」、「知財活用を支える制度・運用・人材基盤の強化」、「クールジャパン戦略の再構築」の重点7施策に整理されており、同計画に沿って、知的財産戦略本部の主導の下、関係府省と共に知的財産戦略を推進している。

2.国際標準の戦略的活用への積極的対応

 グローバル市場における我が国産業の国際競争力強化のため、我が国官民による国際標準の戦略的な活用を推進する必要がある。このため、まず政府全体として、司令塔機能及び体制を整備し、「統合イノベーション戦略推進会議」に設置した「標準活用推進タスクフォース」の下、関係省庁連携で重点的に取り組むべき施策を推進している。具体的には、関係省庁による重要施策がより進展するよう、PRISMの枠組みを活用した標準活用加速化支援事業を通じて、予算追加配分による支援を行った。また、スマートシティ、スマート農業等、社会課題の解決や国際市場の獲得等の点で重要な分野等における国際標準の戦略的な活用について、海外政府・企業動向や国際市場環境等を踏まえて推進するとともに、必要な分野を包括的に特定・整理して対応する仕組みの整備を進めている。

 また、政府の研究開発プロジェクトや規制・制度等との連携等も通じて、国際標準の戦略的活用に係る企業行動の変容を促す環境の整備や、政府系機関等が協働して民間企業等による実践的な活動を支援するプラットフォーム体制の整備等を進めている。

 具体的には、研究開発段階における標準化活動をより適切に実施するため、新エネルギー・産業技術総合開発機構において、技術戦略策定時や研究開発プロジェクト実施時等の各段階において、標準の戦略的な活用を意識した取組を実施した。

 また、経済産業省は省エネルギー等に関する国際標準の獲得・普及促進事業委託費(省エネルギー等国際標準開発(国際電気標準分野))制度の1つとして、化合物パワー半導体の品質・信頼性試験法に関する国際標準化を実施している。産業技術総合研究所を中心として、複数の民間企業が参画し一般社団法人電子情報技術産業協会が連携する体制において推進している。そのほか、戦略的に重要な研究開発テーマや産業横断的なテーマについて、国立研究開発法人や民間企業と連携して国際標準化活動を推進している。そのほか、戦略的に重要な研究開発テーマや産業横断的なテーマについて、国立研究開発法人や民間企業と連携して国際標準化活動を推進するための体制整備を行っている。人材育成施策としては、「標準化人材を育成する3つのアクションプラン」(平成28年度公表)に基づき、国際標準化をリードする若手人材を育成するための研修を実施するとともに、標準化教育に関する大学教員向けの教材等の公開や大学における標準化講義への経済産業省職員派遣などを通じて標準化人材育成を支援するほか、一般財団法人日本規格協会による標準化資格制度を設けている。

 海外との協力においては、国際標準化活動における欧州及びアジア諸国との連携や、アジア諸国の積極的な参加を促進することを目的とした技術協力を行っている。令和3年度は、アジア太平洋地域の24か国・地域の標準化機関が集まる会議や、日中韓三か国の標準化機関が参加する会議及びアジア諸国の標準化機関等との二国間会議に参加し、標準化協力分野について議論を行った。また、国際標準化機構(ISO(※134))・国際電気標準会議(IEC(※135))と連携したアジア地域向けの人材育成セミナーを実施したほか、アジア太平洋経済協力(APEC(※136))基準・適合性小委員会では、国際整合化や規格開発・普及のためのプロジェクトを進めるなど、国際標準化活動におけるアジア地域との連携強化に取り組んでいる。

 総務省は、情報通信審議会等の提言を踏まえ、我が国の情報通信技術(ICT)の国際標準への反映を目指して、研究開発等も実施しながら、国際電気通信連合(ITU(※137))等のデジュール標準化機関や、フォーラム標準化機関における標準化活動を推進している。令和3年度は、「Beyond 5G 推進戦略」(令和2年6月策定)等を踏まえ、産学官の主要プレイヤーが結集した「Beyond 5G 新経営戦略センター」(令和2年12月18日設立)の下、研究開発初期段階からの戦略的な知財の取得や標準化活動の推進に取り組んでいる。

 国土交通省及び厚生労働省は、上下水道分野で国際展開を目指す我が国の企業が、高い競争性を発揮できる国際市場を形成することを目的として、戦略的な国際標準化を推進している。

 現在、「飲料水、汚水及び雨水に関するシステムとサービス」(ISO/TC(※138)224)、「汚泥の回収、再生利用、処理及び廃棄」(ISO/TC275)、「水の再利用」(ISO /TC 282)等へ積極的・主導的に参画している。

3.特許審査の国際的な取組

 日本企業がグローバルな事業展開を円滑に行うことができるよう、国際的な知財インフラの整備が重要である。このため、特許庁は、ある国で最初に特許可能と判断された出願に基づいて、他国において早期に審査が受けられる制度である「特許審査ハイウェイ(PPH(※139))」を45か国・地域との間で実施している(令和4年1月時点)。また、我が国の特許庁と米国特許商標庁は、日米両国に特許出願した発明について、日米の特許審査官がそれぞれ先行技術文献調査を実施し、その調査結果及び見解を共有した後に最初の審査結果を送付する日米協働調査試行プログラムを平成27年8月1日から実施している。さらに、PCT(※140)国際出願について、日米欧中韓の5庁が協働して国際調査報告を作成するPCT協働調査試行プログラムを令和2年6月30日まで実施した。

4.国の研究開発プロジェクトにおける知的財産(知的財産権・研究開発データ)マネジメント

(1)特許権等の知的財産権に関する取組

 経済産業省は、国の研究開発の成果を最大限事業化に結び付けるため、「委託研究開発における知的財産マネジメントに関する運用ガイドライン」(平成27年5月)に基づき、国の委託による研究開発プロジェクトごとに適切な知的財産マネジメントを実施している。

 農林水産省は、農林水産分野に係る国の研究開発において、「農林水産研究における知的財産に関する方針」(平成28年2月)に基づき、研究の開始段階から研究成果の社会実装を想定した知的財産マネジメントに取り組んでいる。

(2)研究開発データに関する取組

 経済産業省は、研究開発データの利活用促進を通じた新たなビジネスの創出や競争力の強化を図るため「委託研究開発におけるデータマネジメントに関する運用ガイドライン」(平成29年12月)に基づき、平成30年3月より、ナショプロデータカタログ(※141)に利活用可能な研究開発データを掲載している。

5.特許情報等の整備・提供

 特許庁は、工業所有権情報・研修館が運営する「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat(※142))」や、「外国特許情報サービス(FOPISER(※143))」を通じて、我が国の特許情報及び、我が国のユーザーからのニーズが大きい諸外国の特許情報を提供している。

 そのほか、工業所有権情報・研修館では、企業や大学、公的試験研究機関等が実施許諾又は権利譲渡の意思を持つ「開放特許」「リサーチツール特許」の情報を収録したデータベースサービスを提供している。

6.早期審査の実施

 特許庁は、特許の権利化のタイミングに対する出願人の多様なニーズに応えるため、一定の要件の下に、早期に審査を行う「早期審査」を実施している。

7.特許審査体制の整備・強化

 特許庁は、令和3年度においても、任期満了を迎えた任期付審査官の一部を再採用するなど、審査処理能力の維持・向上のため、引き続き審査体制の整備・強化を図った。

8.事業戦略対応まとめ審査の実施

 特許庁は、知的財産戦略に基づいた出願に対応するための審査体制について検討を進め、事業で活用される知的財産の包括的な取得を支援するため、国内外の事業に結び付く複数の知的財産(特許・意匠・商標)を対象として、分野横断的に事業展開の時期に合わせて審査・権利化を行う「事業戦略対応まとめ審査」を実施している。

9.技術動向調査の実施・公表

 研究開発戦略と知的財産戦略との連携が求められている中、特許庁は、新市場の創出が期待される分野、国の政策として推進すべき技術分野を中心に、特許出願動向等を調査し、その結果を公表している。

10.専門家による知財活用の支援

 特許庁は、大学において権利化されていない優れた研究成果の発掘等を支援する「知財戦略デザイナー派遣事業」を実施している。また、工業所有権情報・研修館を通じて、競争的な公的資金が投入された研究開発プロジェクトを推進する大学や研究開発コンソーシアム等を支援する「知的財産プロデューサー派遣事業」や、事業化を目指す産学連携活動を展開する大学を支援する「産学連携知的財産アドバイザー派遣事業」も実施している。令和3年度は、知財戦略デザイナー16名を20大学に、知的財産プロデューサー21名を54プロジェクトに、産学連携知的財産アドバイザー10名を18大学に派遣した。

 農林水産省は、国の研究事業等において、大学、国立研究開発法人、公設試験場等が連携して実施する研究計画の作成支援を行うため、知的財産の戦略的活用など技術経営(MOT(※144))的視点の導入も含め、全国に約140人の農林水産・食品産業分野を専門とするコーディネーターを配置している。

11.技術情報の管理に関する取組

 平成30年5月に成立した改正産業競争力強化法において、事業者が保有する重要情報の適切な管理に対し国が認定した機関から認証を受けることができる「技術情報管理認証制度」を創設した(令和4年3月末現在、6件の機関を認定)。令和3年度は、適切な技術情報管理の構築に向けたアドバイス等を行う専門家の派遣(90回派遣)や、制度に関心の高い業界団体等との連携、研修素材・パンフレットの作成、メールマガジンの配信による広報活動等に加え、制度の普及・改善に向けた有識者会議等(検討会4回、WG3回)を開催した。

12.研究成果の権利化支援と活用促進

 科学技術振興機構は、優れた研究成果の発掘・特許化を支援するために、一貫した取組を進めている。具体的には、「知財活用支援事業」において、大学等における研究成果の戦略的な外国特許取得の支援、各大学等に散在している特許権等の集約・パッケージ化による活用促進を実施するなど、大学等の知的財産の総合的活用を支援している。

❺ 科学技術外交の戦略的な推進

1.科学技術外交の戦略的な推進

 グローバル化が進展する中で、我が国の科学技術・イノベーションを推進するとともに、その成果を活用し、国際社会における我が国の存在感や信頼性を向上させるため、科学技術・イノベーションの国際活動と外務省参与(外務大臣科学技術顧問)を通じた取組を含む科学技術外交を一体的に推進していくことが必要である。

(1)国際的な枠組みの活用

ア 主要国首脳会議(サミット)関連活動

 2008年(平成20年)、当時の議長国であった我が国の発案により、G8科学技術大臣会合が当時の岸田文雄・内閣府特命担当大臣(科学技術政策)の主催で開催された。以後、2013年(平成25年)英国、さらには2015年(平成27年)ドイツ、2016年(平成28年)日本(茨城県つくば市)、2017年(平成29年)イタリア、2020年(令和2年)米国、2021年(令和3年)英国と定期的に開催されている。同会合は、内閣府特命担当大臣(科学技術政策)と諸外国の閣僚との政策協議等を通じて、科学技術を活用した地球規模の諸問題等への対処、諸外国と連携した科学技術政策を巡る国際的な議論への主体的な貢献等を開催目的としている。2021年(令和3年)7月には、英国主催によりオンライン開催され、6月に発出された首脳宣言の附属文書「G7研究協約」を踏まえ、国際研究協力の重要性や、直面する課題について連携して取り組んでいく方針を確認した。

 2008年(平成20年)の会合での議論を踏まえ設立された国際的研究施設に関する高級実務者会合(GSO(※145))については、国際的な研究施設に関する情報共有や国際協力に係る枠組み等について検討が行われている。気候中立実現のための戦略研究ネットワーク(2021年、低炭素社会国際研究ネットワークから名称変更)は、2021年12月、「気候中立で持続可能な社会実現に向けた行動を加速する」をテーマに年次会合を開催した。同年次会合では2つの基調講演と、産業の脱炭素化、雇用、国際協力、ファイナンスについて4つのテーマ別セッションが実施され、2日間で23か国・地域からのべ140名の専門家・研究者が参加した。なお、同ネットワークには、2022年(令和4年)現在、我が国を含む7か国17の研究機関が参加している。

イ アジア・太平洋経済協力(APEC)

 APEC科学技術イノベーション政策パートナーシップ(PPSTI(※146))は、共同プロジェクトやワークショップ等を通じたAPEC地域の科学技術・イノベーション推進を目的に開催されており、2021年(令和3年)8月に第18回会合が、2022年(令和4年)2月に第19回会合がオンラインで開催され、PPSTIの活動計画等について議論が行われた。

ウ 東南アジア諸国連合(ASEAN)

 我が国とASEAN科学技術イノベーション委員会(COSTI(※147))の協力枠組みとして、日・ASEAN科学技術協力委員会(AJCCST(※148))が毎年開催されており、我が国では文部科学省を中心として対応している。2018年(平成30年)のAJCCST-9で合意された「日ASEAN STI for SDGsブリッジングイニシアティブ」の下、日ASEAN共同研究成果の社会実装を強化するための協力を継続している。

エ その他

ⅰ)アジア・太平洋地域宇宙機関会議(APRSAF(※149))

 我が国は、アジア・太平洋地域での宇宙活動、利用に関する情報交換並びに多国間協力推進の場として、1993年(平成5年)から毎年1回程度、APRSAFを主催しており、13か国60名が参加した第1回から、第27回(2021年(令和3年))には48か国・地域、2国際機関から約843名が参加登録する同地域最大規模の宇宙関連会議となっている。第27回は、新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、オンラインで開催したが、現地開催とほぼ同様、若しくはそれ以上の参加が得られ、同地域においてAPRSAFが安定的な求心力があることが窺(うかが)われた。また、再編された分科会やワークショップでは、外部専門家と連携することで多様な観点で活発に議論された。

ⅱ)生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学‐政策プラットフォーム(IPBES(※150))

 生物多様性と生態系サービスに関する動向を科学的に評価し、科学と政策のつながりを強化する政府間のプラットフォームとして2012年(平成24年)4月に設立された政府間組織である。加盟国等の参加による IPBES総会第8回会合が2021年(令和3年)6月にオンラインで開催された。

ⅲ)地球観測に関する政府間会合(GEO(※151))

 2015年(平成27年)11月に開催された閣僚級会合で承認された「GEO戦略計画2016-2025」に基づき、「全球地球観測システム(GEOSS(※152))」の構築を推進する国際的な枠組みであり、2022年(令和4年)3月時点で253の国及び国際機関等が参加している。

 2021年(令和3年)11月にアジア・オセアニア地域を対象とした第14回AOGEO(※153)シンポジウムを我が国主導で開催し、研究者や実務者がこれまでの取組の紹介や意見交換などを行い、アジア・オセアニア地域特有の社会課題の解決に向けた、共通認識や今後の活動を記した「アジア・オセアニアGEO宣言2021」を採択した。

ⅳ)気候変動に関する政府間パネル(IPCC)

 気候変動に関する最新の科学的知見について取りまとめた報告書を作成し、各国政府の気候変動に関する政策に科学的な基礎を与えることを目的として、1988年(昭和63年)に世界気象機関(WMO(※154))と国連環境計画(UNEP(※155))により設立された。2021年(令和3年)8月に第6次評価報告書第1作業部会報告書、2022年(令和4年)2月に同第2作業部会報告書が公表された。

ⅴ)Innovation for Cool Earth Forum(ICEF)

 ICEFは、地球温暖化問題を解決する鍵である「イノベーション」促進のため、世界の産学官のリーダーが議論するための知のプラットフォームとして、2014年(平成26年)から毎年開催している国際会議である。2021年(令和3年)10月6~7日、オンライン開催された第8回年次総会では、「Pathways to Carbon Neutrality by 2050: Accelerating the pace of global decarbonization」をメインテーマに掲げ、2050年のカーボンニュートラルに向けた具体的かつ現実的な議論に焦点が置かれた。2日間の会合を通じ、各国政府機関、産業界、学界、国際機関等の約87か国・地域から2,000名以上が参加した。

ⅵ)Research and Development 20 for Clean Energy Technologies(RD20)

 RD20は、二酸化炭素大幅削減に向けた非連続なイノベーション創出を目的として、G20各国の研究機関からリーダーを集めた国際会議である。令和3年(2021年)10月にオンライン開催された第3回会合では、カーボンニュートラルの実現に向けて議論した成果をリーダーズステートメントとして発表するとともに、共同プロジェクトの創出を目指したタスクフォース活動を開始した。

ⅶ)北極科学大臣会合(ASM(※156))

 第3回北極科学大臣会合(ASM3)を、日本とアイスランドの共催により、令和3年(2021年)5月8日(土)~9日(日)にアジアで初となる東京で開催した。本会合は、北極における研究観測や主要な社会的課題対応の推進等を目的とした閣僚級会合であり、「持続可能な北極のための知識」をテーマに参加国・団体が議論を行い、北極域の科学分野の国際連携の推進、北極域の理解の加速と、北極域における政策決定の基になる科学の支援に関する共同声明を取りまとめた。

ⅷ)グローバルリサーチカウンシル(GRC(※157))

 世界各国の主要な学術振興機関の長による国際会議であるGRC第9回年次会合が、2021年(令和3年)5月24日(月)~28日(金)に、南アフリカ国立研究財団(NRF(※158))と英国UKリサーチ・イノベーション(UKRI)の共同主催によりダーバン(南アフリカ)を主催地としてオンラインで開催され、71か国から70機関の長等が出席し、研究支援を取り巻く課題と学術振興機関が果たしていくべき役割について議論を交わした。

(2)国際機関との連携

ア 国際連合システム(UNシステム)

ⅰ)持続可能な開発目標のための科学技術イノベーション(「STI for SDGs」)

 国連機関間タスクチーム(UN-IATT(※159))が、世界各国でSTI for SDGsロードマップの策定を促進させるために2019年(令和元年)に開始した「グローバル・パイロット・プログラム」パートナー国として、我が国は2020年度(令和2年度)より世界銀行への拠出を通じてケニアの農家へのデジタル金融サービス(DFS(※160))の提供を推進するための支援を行い、2021年度(令和3年度)にはケニア政府に対してDFSに関するエコシステム構築に向けたロードマップを提案した。

 また、開発途上国での社会的課題・ニーズを把握する取組を実施している国連開発計画(UNDP(※161) )への拠出を通じて、現地で求められるニーズを踏まえて我が国の企業等が事業化を検討する「Japan SDGs Innovation Challenge for UNDP Accelerator Labs」を2020年(令和2年)より実施している。2021年度(令和3年)には、新たに3か国の課題について、日本のステークホルダーによる解決策と事業化の検討を開始した。

 さらに、2019年度(令和元年度)より実施してきたSTI for SDGsプラットフォームの構築に関する委託調査により、世界食糧計画(WFP)の協力の下で開発途上国である4か国の課題を現地関係者と日本企業等からの参加者が協働で分析し、解決方法や事業化を検討するプログラムを開発・実証し、その成果として運用マニュアルを作成し公開した。

ⅱ)国連教育科学文化機関(UNESCO(※162)、ユネスコ)

 我が国は、国連の専門機関であるユネスコの多岐にわたる科学技術分野の事業活動に積極的に参加協力をしている。ユネスコでは、政府間海洋学委員会(IOC(※163))、政府間水文学計画(IHP(※164))、人間と生物圏(MAB(※165))計画、ユネスコ世界ジオパーク、国際生命倫理委員会(IBC(※166))、政府間生命倫理委員会(IGBC(※167))等において、地球規模課題解決のための事業や国際的なルール作り等が行われている。我が国は、ユネスコへの信託基金の拠出等を通じ、アジア・太平洋地域等における科学分野の人材育成事業や持続可能な開発のための国連海洋科学の10年(2021年(令和3年)~2030年(令和12年))に関する支援事業等を実施しており、また、各委員会へ専門委員を派遣し、議論に参画するなど、ユネスコの活動を推進している。また、2021年(令和3年)11月の第41回ユネスコ総会で採択されたオープンサイエンスに関する勧告及びAIの倫理に関する勧告については、勧告策定のための諮問委員会や地域コンサルテーション、政府間委員会に我が国の専門家を派遣するなど、様々な貢献を果たした。

ⅲ)持続可能な開発のための国連海洋科学の10年(2021-2030)

 持続可能な開発のための国連海洋科学の10年とは、海洋科学の推進により、持続可能な開発目標(SDG14等)を達成するため、2021~2030年(令和3年~令和12年)の10年間に集中的に取組を実施する国際枠組みである。2021年(令和3年)1月から開始されている。

 実施計画では、10年間の取組で目指す社会的成果として、きれいな海、健全で回復力のある海、予測できる海、安全な海、持続的に収穫できる生産的な海、万人に開かれ誰もが平等に利用できる海、心揺さぶる魅力的な海の7つが掲げられており、そのために、海洋汚染の減少や海洋生態系の保全から、海洋リテラシーの向上と人類の行動変容まで10の挑戦課題に取り組むこととされている。我が国は、これらの社会的成果への貢献を目指し、2021年(令和3年)2月に発足した国内委員会等の枠組みを通じて関係省庁・機関を含む産官学民の連携を促進し、国内・地域間・国際レベルにおいて様々な取組を推進している。

イ 経済協力開発機構(OECD(※168))

 OECDでは、閣僚理事会、科学技術政策委員会(CSTP(※169))、デジタル経済政策委員会(CDEP(※170))、産業・イノベーション・起業委員会(CIIE(※171))、原子力機関(NEA(※172))、国際エネルギー機関(IEA(※173))等を通じ、加盟国間の意見・経験等及び情報の交換、人材の交流、統計資料等の作成をはじめとした科学技術に関する活動が行われている。

 CSTPでは、科学技術政策に関する情報交換・意見交換が行われるとともに、科学技術・イノベーションが経済成長に果たす役割、研究体制の整備強化、研究開発における政府と民間の役割、国際的な研究開発協力の在り方等について検討が行われている。また、CSTPには、グローバル・サイエンス・フォーラム(GSF(※174))、イノベーション・技術政策作業部会(TIP(※175))、バイオ・ナノ・コンバージング・テクノロジー作業部会(BNCT(※176))及び科学技術指標各国専門家作業部会(NESTI(※177))の4つのサブグループが設置されている。

ⅰ)グローバル・サイエンス・フォーラム(GSF)

 GSFでは、地球規模課題の解決に向けた国際連携の在り方等が議論されている。2021年(令和3年)は、プロジェクトの成果として「危機時の科学動員」、「大型研究基盤(VLRIs)」、「グローバルな研究エコシステムにおけるインテグリティとセキュリティ」、「将来の研究人材」のプロジェクトを実施している。

ⅱ)イノベーション・技術政策作業部会(TIP)

 TIPでは、科学技術・イノベーションを政策的に経済成長に結び付けるための検討を行っており、2020年(令和2年)は、産学官及び市民参加の共創、持続的かつ包摂的な成長のためのイノベーション政策等について議論を行った。

ⅲ)バイオ・ナノ・コンバージング・テクノロジー作業部会(BNCT)

 BNCTは、バイオテクノロジーを有効に活用し、持続可能な経済成長や人類の繁栄に役立てるための政策提言や、ナノテクノロジーの波及効果、研究と研究インフラの国際化などのプロジェクトを進めている。

ⅳ)科学技術指標各国専門家作業部会(NESTI)

 NESTIは、統計作業に関して監督・指揮・調整等を行うとともに、科学技術・イノベーション政策の推進に資する指標や定量的分析の展開に寄与している。具体的には、研究開発費や科学技術人材等の科学技術・イノベーション関連指標について、国際比較のための枠組み、調査方法や指標の開発に関する議論等を行っている。

ウ 国際科学技術センター(ISTC(※178))

 ISTCは、旧ソ連邦諸国における大量破壊兵器開発に従事していた研究者・技術者が参画する平和目的の研究開発プロジェクトを支援することを目的として、1994年(平成6年)3月に設立された国際機関であり、現在では旧ソ連圏に限らず広い地域で科学者の従事する研究活動等を支援し、日本、米国、EU、韓国、ノルウェーが資金を拠出している。

(3)研究機関の活用

ア 東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA(※179))

 ERIAは、東アジア経済統合の推進に向け政策研究・提言を行う機関であり、「経済統合の深化」、「開発格差の縮小」及び「持続可能な経済成長」を3つの柱として、イノベーション政策等を含む幅広い分野にわたり、研究事業、シンポジウム事業及び人材育成事業を実施している。

(4)科学技術・イノベーションに関する戦略的国際活動の推進

 我が国が地球規模の問題解決において先導的役割を担い、世界の中で確たる地位を維持するためには、科学技術・イノベーション政策を国際協調及び協力の観点から戦略的に進めていく必要がある。

 文部科学省は、2008年度(平成20年度)より地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS(※180))を実施し、我が国の優れた科学技術とODAとの連携により、アジア等の開発途上国と、環境・エネルギー、生物資源、防災、感染症分野において地球規模の課題解決につながる国際共同研究を推進している。また、2009年度(平成21年度)より、「戦略的国際共同研究プログラム(SICORP(※181))」を実施し、戦略的な国際協力によるイノベーション創出を目指し、省庁間合意に基づくイコールパートナーシップ(対等な協力関係)の下、相手国・地域のポテンシャル・分野と協力フェーズに応じた多様な国際共同研究を推進している。さらに、2014年度(平成26年度)より「日本・アジア青少年サイエンス交流事業(さくらサイエンスプラン)」を実施し、アジアを中心とする国・地域の青少年の日本の最先端の科学技術への関心を高めるとともに、海外の優秀な科学技術イノベーション人材の将来の獲得に資するため科学技術分野での海外との青少年交流を促進してきた。令和3年度からは「国際青少年サイエンス交流事業(さくらサイエンスプログラム)」と名称を改め、対象を世界の国・地域の青少年に拡大するとともに、自然科学分野に加えて人文・社会科学分野の交流も対象としている(第2章第2節1❺参照)。

 環境省は、アジア太平洋地域での研究者の能力向上、共通の問題解決を目的とする「アジア太平洋地球変動研究ネットワーク(APN(※182))」を支援している。2021年(令和3年)2月には第24回政府間会合等が開催され、更なる活動の展開に向けた第5次戦略計画が採択された。また、アジア地域の低炭素成長に向け、最新の研究成果や知見の共有を目的とする「低炭素アジア研究ネットワーク(LoCARNet(※183))」の第9回年次会合を2021年(令和3年)3月にオンラインで開催した。

(5)諸外国との協力

ア 欧米諸国等との協力

 我が国と欧米諸国等との協力活動については、ライフサイエンス、ナノテクノロジー・材料、環境、原子力、宇宙開発等の先端研究分野での科学技術協力を推進している。具体的には、二国間科学技術協力協定に基づく科学技術協力合同委員会の開催や、情報交換、研究者の交流、共同研究の実施等の協力を進めている。

 米国との間では、1988年(昭和63年)6月に署名された日米科学技術協力協定に基づき、日米科学技術協力合同高級委員会(大臣級)や日米科学技術協力合同実務級委員会(実務級)が設置され、2021年(令和3年)6月には第16回日米科学技術協力合同実務級委員会を開催し、科学技術政策、既存の協力及び新たな協働分野に関し意見交換を行った。また、2021年(令和3年)4月の日米首脳会談で「日米競争力・強靱性(コア)パートナーシップ」を立ち上げ、AI、量子、宇宙、バイオテクノロジー、健康・医療等の重要分野における協力を推進することを確認した。これに基づき、量子分野では第16回日米科学技術協力合同実務級委員会において、文部科学省と米国エネルギー省の間で、量子技術に係る事業取決めに署名した。

 また、SICORPでは2021年(令和3年)から非医療分野における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連研究、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により求められる新たな生活態様に資するデジタルサイエンス分野の研究を実施している。

 EUとの間では、2021年(令和3年)5月に開催された第27回日EU定期首脳協議で、日EUグリーン・アライアンスに関する文書が発出された。また、総務省と欧州委員会の間では、2019年(令和元年)11月から第5次日EU共同公募としてeHealth分野の研究開発課題を募集し、2020年(令和2年)10月に1件を採択し、2021年度(令和3年度)も継続して研究開発を実施している。2021年(令和3年)6月には米国、スペイン、10月には英国、11月にはノルウェー、EU、2022年(令和4年)3月にはイスラエル、カナダとの間でそれぞれ科学技術協力合同委員会を開催し、双方間における科学技術協力の更なる促進について議論が行われた。

イ 中国、韓国、ロシアとの協力

 中国とは、2018年(平成30年)8月に文部科学省と中国科学技術部との間で署名された協力覚書に基づき、SICORP「国際共同研究拠点」(環境・エネルギー分野)が実施されている。

 日中韓3か国の枠組みでは、文部科学省科学技術・学術政策研究所と中韓の科学技術政策研究機関が協力して開催している日中韓科学技術政策セミナーが、2年連続でオンライン形式で開催された。

 ロシアとは、2017年(平成29年)9月に文部科学省とロシア教育科学省との間で署名された協力覚書に基づき、優先協力分野である「北極研究を含む合理的な自然利用」及び「エネルギー効率」、「原子力科学」に関して日露間の共同研究を実施してきた 。

ウ ASEAN諸国、インドとの協力

 アジアには、環境・エネルギー、食料、水、防災、感染症など、問題解決に当たって我が国の科学技術を生かせる領域が多く、このようなアジア共通の問題の解決に積極的な役割を果たし、この地域における相互信頼、相互利益の関係を構築していく必要がある。

 文部科学省は、科学技術振興機構と協力して、2012年(平成24年)6月に、研究開発力を強化するとともに、アジア諸国が共通して抱える課題の解決を目指し多国間の共同研究を行う「e-ASIA共同研究プログラム」を発足させた。同プログラムは、東アジアサミット参加国の機関が参加し、「材料(ナノテクノロジー)」、「農業(食料)」、「代替エネルギー」、「ヘルスリサーチ(感染症、がん)」、「防災」、「環境(気候変動、海洋科学)」、「イノベーションに向けた先端融合」の7分野を対象にしている。なお、ヘルスリサーチ分野については、2015年(平成27年)4月から日本医療研究開発機構において支援している。また、2020年度(令和2年)には、新型コロナウイルス感染症に関する共同研究プロジェクトの緊急公募を行った。

 このほか、SICORP「国際共同研究拠点」として、2015年(平成27年)9月よりASEAN地域(環境・エネルギー、生物資源、生物多様性、防災分野)、2016年(平成28年)10月よりインド(ICT分野)において支援を開始した。イノベーションの創出、日本の科学技術力の向上、相手国・地域との研究協力基盤の強化を目的として、日本の「顔の見える」持続的な共同研究・協力を推進するとともにネットワークの形成や若手研究者の育成を図っている。また、2020年11月には、インドとの間で第10回日・インド科学技術協力合同委員会をテレビ会議形式で開催し、科学技術分野における協力が継続的に推進されていることを歓迎した。

エ その他の国との協力

 その他の国との間でも、情報交換、研究者の交流、共同研究の実施等の科学技術協力が進められている。2019年(令和元年)第7回アフリカ開発会議(TICAD7(※184))の公式サイドイベントとして文部科学省が開催した「STI for SDGsについての日本アフリカ大臣対話」での議論を踏まえ、同年12月に、新たに、日本と南アフリカを核として3か国以上の日・アフリカ多国間共同研究を行うプログラム「AJ─CORE(※185)」の研究公募が開始され、2021年(令和3年)2月に4件が採択された。

 アジア、アフリカや中南米等の開発途上国との科学技術協力については、これらの国々のニーズを踏まえ、地球規模課題の解決と将来的な社会実装に向けた国際共同研究を推進するため、文部科学省、科学技術振興機構及び日本医療研究開発機構並びに外務省及び国際協力機構が連携し、我が国の優れた科学技術と政府開発援助(ODA(※186))を組み合わせた「地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS(※187))」を実施している。平成20年度から令和3年度(2008年度から2021年度)に、環境・エネルギー、生物資源、防災や感染症分野において、53か国で168件(地域別ではアジア91件、アフリカ42件、中南米25件等)を採択している。

 文部科学省は、我が国のSATREPSに参加する大学に留学を希望する者を国費外国人留学生として採用する、国際共同研究と留学生制度を組み合わせた取組を実施している。これにより、国際共同研究に参画する相手国の若手研究者等が、我が国で学位を取得することが可能になるなど、人材育成にも寄与する協力を進めている。

(6)研究活動の国際化・オープン化に伴う研究の健全性・公正性(研究インテグリティ)の自律的な確保

 研究活動の国際化、オープン化に伴う新たなリスクへ適切に対応していく観点から、研究者や大学・研究機関等が研究の健全性・公正性(研究インテグリティ)を自律的に確保することが重要であるため、令和3年4月に統合イノベーション戦略推進会議において「研究活動の国際化、オープン化に伴う新たなリスクに対する研究インテグリティの確保に係る政府としての対応方針について」を決定した。これに基づき、令和3年12月に、研究者に対し所属研究機関や研究資金配分機関への適切な情報提出を求めることを明確にするため、「競争的研究費の適正な執行に関する指針」の改定を行った。

2.研究の公正性の確保

 研究者が社会の多様なステークホルダーとの信頼関係を構築するためには、研究の公正性の確保が前提であり、研究不正行為に対する不断の対応が科学技術・イノベーションへの社会的な信頼や負託(ふたく)に応え、その推進力を向上させるものであることを、研究者及び大学等の研究機関は十分に認識する必要がある。

 公正な研究活動の推進については、文部科学省では、「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」(平成26年8月26日文部科学大臣決定)に基づき、研究機関における体制整備等の取組の徹底を図るとともに、日本学術振興会、科学技術振興機構及び日本医療研究開発機構と連携し、研究機関による研究倫理教育の実施等を支援するなどの取組を行っている。

 研究費の不正使用の防止については、文部科学省では、「研究機関における公的研究費の管理・監査のガイドライン(実施基準)」(平成19年2月15日文部科学大臣決定。以下「ガイドライン」という。)に基づき、研究機関における公的研究費の適正な管理を促すとともに、研究機関の取組を支援するための指導・助言を行っている。さらに、令和3年2月にガイドラインを改正し、研究費不正防止対策の強化を図っている。経済産業省では、「研究活動の不正行為への対応に関する指針」(平成27年1月15日改正)及び「公的研究費の不正な使用等の対応に関する指針」(平成27年1月15日改正)により対応を行うなど、関係府省においてもそれぞれの指針等に基づき対応を行っている。

 また、不正行為等に関与した者等の情報を関係府省で共有し、「競争的研究費の適正な執行に関する指針」(令和3年12月17日改正競争的研究費に関する関係府省連絡会申し合わせ)に基づき、関係府省全ての競争的研究費への応募資格制限等を行っている。

第2節 知のフロンティアを開拓し価値創造の源泉となる研究力の強化

 研究者の内在的な動機に基づく研究が、人類の知識の領域を開拓し、その積み重ねが人類の繁栄を支えてきた。人材の育成や研究インフラの整備、多様な研究に挑戦できる文化を実現し、「知」を育む研究環境を整備するために行っている政府の施策を報告する。

1 多様で卓越した研究を生み出す環境の再構築

 知のフロンティアを開拓する多様で卓越した研究成果を生み出すため、研究者が一人ひとりに内在する多様性に富む問題意識に基づき、その能力をいかんなく発揮し、課題解決へのあくなき挑戦を続けられる環境の実現を目指している。

❶ 博士後期課程学生の処遇向上とキャリアパスの拡大

 文部科学省では、優秀で志のある博士後期課程学生が研究に専念するための経済的支援及び博士人材が産業界等を含め幅広く活躍するためのキャリアパス整備を一体として行う実力と意欲のある大学を支援するため、令和3年度より「科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業」を開始したほか、科学技術振興機構を中心に、新たに「次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING(※188))」にも取り組んでいる。

 また、日本学術振興会は、我が国の学術研究の将来を担う優秀な博士後期課程の学生に対して研究奨励金を支給する「特別研究員(DC(※189))事業」を実施している。

 日本学生支援機構は、意欲と能力があるにもかかわらず、経済的な理由により進学等が困難な学生に対する奨学金事業を実施しており、大学院で無利子奨学金の貸与を受けた者のうち、在学中に特に優れた業績を上げた学生の奨学金について返還免除を行っている。なお、平成30年度入学者より、博士課程の大学院業績優秀者免除制度の拡充を行い、博士後期課程学生の経済的負担を軽減することによって、進学を促進している。

 これらの事業などにより、「研究力強化・若手研究者支援総合パッケージ(令和2年1月23日総合科学技術・イノベーション会議)」において示された政府目標である約15,000人の博士後期課程学生への経済的支援の実現が見込まれており、今後は第6期基本計画の目標である約22,500人規模の支援を目指していく。

 また、博士課程学生の処遇向上に向けて、第6期基本計画や「ポストドクター等の雇用・育成に関するガイドライン」(令和2年12月3日科学技術・学術審議会人材委員会)を踏まえ、競争的研究費制度において、博士課程学生の積極的なリサーチアシスタント(RA)等としての活用と、それに伴うRA経費の適切な対価の支払を促進している。

 文部科学省は、産業界と大学が連携して大学院教育を行い、博士後期課程において研究力に裏打ちされた実践力を養成する長期・有給のインターンシップをジョブ型研究インターンシップ(先行的・試行的取組)として令和3年度から大学院博士後期課程学生を対象に開始し、多様なキャリアパスの実現に向けて取組を進めている。

 また、国家公務員における博士号取得者の専門的知識や研究経験を踏まえた待遇改善について、内閣人事局・人事院・内閣府・文部科学省を中心としてヒアリング等を実施し、検討を進めている。

❷ 大学等において若手研究者が活躍できる環境の整備

 令和元年6月21日に閣議決定した「統合イノベーション戦略2019」に基づき、研究機関において適切に執行される体制の構築を前提として、研究活動に従事するエフォートに応じ、研究代表者本人の希望により、競争的研究費の直接経費から研究代表者(Pl(※190))への人件費を支出可能とした。これにより、研究機関において、適切な費用負担に基づき、確保した財源により、研究に集中できる環境整備等による研究代表者の研究パフォーマンス向上、若手研究者をはじめとした多様かつ優秀な人材の確保等を通じた機関の研究力強化に資する取組に活用することができ、研究者及び研究機関双方の研究力の向上が期待される。

 文部科学省は、雇用財源に外部資金(競争的研究費、共同研究費、寄附金等)を活用することで捻出された学内財源を若手ポスト増設や研究支援体制の整備などに充てる取組や、シニア研究者に対する年俸制やクロスアポイントメント制度の活用、外部資金による任期付き雇用への転換の促進などを通じて、組織全体で若手研究者のポストの確保と、若手の育成・活躍促進を後押しし、持続可能な研究体制を構築する取組の優良事例を盛り込んだ、国立大学法人等人事給与マネジメント改革に関するガイドライン(追補版)を作成し、令和3年12月21日に公表した。

 また、研究者の研究環境の整備に向けては、リサーチ・アドミニストレーター(URA)等の研究マネジメント人材の育成・活躍促進も重要であり、大学等におけるURAの更なる充実を図るため、「リサーチ・アドミニストレータ─活動の強化に関する検討会」において、その知識・能力の向上と実務能力の可視化に資するものとして認定制度の導入に向けた論点整理が取りまとめられた(平成30年9月)。この論点整理を踏まえ、令和元年度及び令和2年度に認定制度の導入に向けた調査研究等を実施し、令和3年度には「リサーチ・アドミニストレーター等のマネジメント人材に係る質保証制度の実施」事業において、URAの質保証(認定)制度の運用が開始された。

 また、平成25年度より世界水準の優れた研究大学群を増強するため、「研究大学強化促進事業」を実施し、定量的な指標(エビデンス)に基づき採択した22の大学等研究機関に対する研究マネジメント人材(URAを含む。)群の確実な配置や集中的な研究環境改革の支援を通じて、我が国全体の研究力強化を図っている。

 我が国の研究生産性の向上を図るため国内外の先進事例の知見を取り入れ、世界トップクラスの研究者育成に向けたプログラムを開発し、トップジャーナルへの論文掲載や海外資金の獲得等に向けた支援体制など、研究室単位ではなく組織的な研究者育成システムの構築を目指す「世界で活躍できる研究者戦略育成事業」を令和元年度より実施し、令和3年度においては5機関を支援している。

 また、優れた若手研究者が産学官の研究機関において、安定かつ自立した研究環境を得て自主的・自立的な研究に専念できるよう研究者及び研究機関に対して支援を行う「卓越研究員事業」 を平成28年度より実施している。令和3年度までに、本事業を通じて創出されたポストにおいて、少なくとも441名(令和4年3月31日現在)の若手研究者が安定かつ自立した研究環境を確保している。

 その他にも、若手研究者等の流動性を高めつつ安定的な雇用を確保することによって、キャリアアップを図るとともに、キャリアパスの多様化を進める仕組みを構築する大学等を支援する「科学技術人材育成のコンソーシアムの構築事業」を実施し、令和3年度においては10拠点が取組を行っている。

 科学技術振興機構は、産学官で連携し、研究者や研究支援人材を対象とした求人・求職情報など、当該人材のキャリア開発に資する情報の提供及び活用支援を行うため、「研究人材のキャリア支援ポータルサイト(JREC-IN Portal(※191))」を運営している。

 文部科学省科学技術・学術政策研究所では、平成30年度博士課程修了者に対し、修了から1.5年後の雇用状況、処遇等の追跡調査を実施し、第4次報告書として令和4年1月に公表を行ったほか、博士課程の前段階である修士課程修了予定者に対し、博士課程への進学予定や経済状況、キャリア意識等の調査を実施し、令和2年度修了者分の報告書として令和3年6月に公表した。また、博士人材の活躍状況を把握する情報基盤である博士人材データベース(JGRAD(※192))について、令和3年9月にシステム更新を行い、利用者の利便性を向上させた。

コラム2-11 研究室・研究グループの活動を可視化する: 研究室パネル調査

 文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP(※193))では、日本の研究力の現状を、論文データ等を用いて分析しています。これらの分析結果は令和元年度の科学技術白書において、日本の研究力が諸外国と比べて相対的に低下傾向にあることを示す際にも用いられていました。白書等を通じて日本の現状に対する共通認識が形成される中、最近では、日本の研究力を向上するための手段・方策に対する示唆についてもNISTEPに求められるようになってきています。
 このようなニーズに対応するには、研究者数や研究開発費といったインプットと論文数のようなアウトプットの間を結ぶ、研究のプロセスを理解することが重要であるとの問題意識に基づき、NISTEPでは令和2年度より「研究活動把握データベースを用いた研究活動の実態把握(研究室パネル調査)」を実施しています。当調査では、自然科学系の大学教員や大学教員が所属する研究室・研究グループの基礎的な情報、大学教員が実施する研究プロジェクトのポートフォリオや具体的な研究プロジェクトの内容等の項目について、令和2年度から令和6年度にかけて継続して収集していく予定です。
 令和2年度に実施した初年度調査の回答結果の分析を通じて、①職位の上昇によるマネジメント範囲の広がり、②研究室・研究グループの構造の分野間差、③助教の独立性と価値観の状況、④研究実施における学生の重要性、⑤研究プロジェクトの目的・成果の多様性といった点について示唆が得られました。図表は、理学分野の教員を対象に研究に対する価値観を職位別に示した結果です。助教が「安定した職」を重視するとの認識を示す割合が高い一方で、「知的好奇心」や「挑戦的研究」については、教授において重視するとの割合が一番高い様子が見えています。2021年(令和3年)のノーベル物理学賞を受賞した眞鍋淑郎博士が、研究における好奇心の重要性を指摘されていましたが、それを踏まえるとやや心配なデータといえます。研究室パネル調査からは、助教には任期付きの立場の方が多いこと、助教が研究活動に用いる資金の約半分は上司の獲得した外部資金からまかなわれていることなども明らかになっており、これらの要因が助教の価値観に影響を及ぼしている可能性があります。
 令和4年度以降は、調査実施に加えて分析を本格化させることにより、研究室パネル調査から得られる知見を、科学技術・学術政策立案のための基礎資料として文部科学省や総合科学技術・イノベーション会議に提供していく予定です。

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❸ 女性研究者の活躍促進

 女性研究者がその能力を発揮し、活躍できる環境を整えることは、我が国の科学技術・イノベーションの活発化や男女共同参画の推進に寄与するものである。我が国では、女性研究者の登用や活躍支援を進めることにより、女性研究者の割合は年々増加傾向にあるものの、令和3年3月31日現在で17.5%であり、先進諸国と比較すると依然として低い水準にある(第2-2-4図)。第6期基本計画では、大学の研究者の採用に占める女性の割合に関する成果目標として、2025年までに理学系20%、工学系15%、農学系30%、医学・歯学・薬学系合わせて30%、人文科学系45%、社会科学系30%を目指すとしている。

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 内閣府は、ウェブサイト「理工チャレンジ(リコチャレ)(※194)」において、理工系分野での女性の活躍を推進している大学や企業等の取組やイベント、理工系分野で活躍する女性からのメッセージ等を情報提供している。また、令和3年7月にオンラインシンポジウム「進路で人生どう変わる? 理系で広がる私の未来2021」を同ウェブサイト上に掲載し、全国の女子中高生とその保護者・教員へ向けて、理工系で活躍する多様なロールモデルからのメッセージを配信した。

 文部科学省は、出産・育児等のライフイベントと研究との両立や女性研究者の研究力向上を通じたリーダーの育成を一体的に推進するダイバーシティの実現に向けた大学等の取組を支援するため、「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ」を実施しており、令和3年度においては124機関が取組を行っている。

 日本学術振興会は、出産・育児により研究を中断した研究者に対して、研究奨励金を支給し、研究復帰を支援する「特別研究員(RPD(※195))事業」を実施している。

 科学技術振興機構は、科学技術分野で活躍する女性研究者・技術者、女子学生などと女子中高生の交流機会の提供や実験教室、出前授業の実施などを通して女子中高生の理系分野に対する興味・関心を喚起し、理系進路選択を支援する「女子中高生の理系進路選択支援プログラム」を実施している。

 産業技術総合研究所は、全国20の大学や研究機関から成る組織(ダイバーシティ・サポート・オフィス)の運営に携わり、参加機関と連携してダイバーシティ推進に関する情報共有や意見交換を行っている。また、大学・企業との連携・協働で女性活躍推進法行動計画を実践し、より広いネットワークの下、相互に研究者等のワーク・ライフ・バランスの実現やキャリア形成を支援し、意識啓発を進めるなどダイバーシティ推進に努めている。

❹ 基礎研究・学術研究の振興

1.国立大学について

 各国立大学法人は、知識集約型社会において知をリードし、イノベーションを創出する知と人材の集積地点としての役割を担うほか、全国への戦略的な配置により、地域の教育研究拠点として、各地域のポテンシャルを引き出し、地方創生に貢献する役割を担うなど、社会変革の原動力となっている。

 我が国が知識集約型社会へのパラダイムシフトや高等教育のグローバル化、地域分散型社会の形成等の課題に直面する中、国立大学がSociety 5.0の実現に向けた人材育成やイノベーション創出の中核としての役割を果たすためには、教育研究の継続性・安定性に配慮しつつ、大学改革をしっかり進めていく環境を整えていくことが必要である。

 令和3年度予算においては、国立大学法人運営費交付金は1兆790億円を計上しており、教育研究活動に必要な経費については、対前年度実質増額を確保するなど、教育研究の充実を図ったところである。

 また、令和4年度から始まる第4期中期目標期間における国立大学法人運営費交付金の在り方については、6月に取りまとめられた有識者会議の審議まとめを踏まえ、各大学のミッションを実現・加速化するための支援を充実するとともに、「成果を中心とする実績状況に基づく配分」の見直しにより、改革インセンティブの一層の向上を図ることとしている。

2.科学研究費助成事業の改革・強化

 文部科学省及び日本学術振興会は科学研究費助成事業(科研費)を実施している。科研費は、人文学・社会科学から自然科学までの全ての分野にわたり、あらゆる学術研究を対象とする競争的研究費であり、研究の多様性を確保しつつ独創的な研究活動を支援することにより、研究活動の裾野の拡大を図り、持続的な研究の発展と重厚な知的蓄積の形成に資する役割を果たしている。令和3年度は、主な研究種目全体で約10万件の新たな応募のうち、ピアレビュー(研究者コミュニティから選ばれた研究者による審査)によって約2万7,000件を採択し、数年間継続する研究課題を含めて約8万4,000件を支援している(令和3年度予算額2,377億円)。

 科研費は、これまでも制度を不断に見直し、基金化の導入や、審査システムの見直し、若手支援プランの充実をはじめとする抜本的な改革を進めてきた。令和3年度においては、若手研究者の挑戦を促し、トップレベル研究者が率いる優れた研究チームの国際共同研究を強力に推進するため、「国際先導研究」を創設したほか、一定の要件の下、「若手研究(2回目)」と「挑戦的研究(開拓)」との重複応募・受給制限を、令和5年度公募より緩和することを決定するなどの制度改善を行った。今後も、更なる学術研究の振興に向け、科研費制度の不断の見直しを行い支援の充実を図っていく。

3.戦略的創造研究推進事業

 科学技術振興機構が実施している「戦略的創造研究推進事業(新技術シーズ創出)」及び日本医療研究開発機構が実施している「革新的先端研究開発支援事業」では、国が戦略的に定めた目標の下、大学等の研究者から提案を募り、組織・分野の枠を超えた時限的な研究体制を構築して、戦略的な基礎研究を推進するとともに、有望な成果について研究を加速・深化している。研究者の独創的・挑戦的なアイディアを喚起し、多様な分野の研究者による異分野融合研究を促すため、戦略目標等を大括(くく)り化する等の制度改革を進めており、令和3年度目標として、文部科学省では以下の8つを設定した。

(1)戦略的創造研究推進事業(新技術シーズ創出)

・資源循環の実現に向けた結合・分解の精密制御

・複雑な輸送・移動現象の統合的理解と予測・制御の高度化

・Society 5.0時代の安心・安全・信頼を支える基盤ソフトウェア技術

・『バイオDX』による科学的発見の追究

・元素戦略を基軸とした未踏の多元素・複合・準安定物質探査空間の開拓

・「総合知」で築くポストコロナ社会の技術基盤

・ヒトのマルチセンシングネットワークの統合的理解と制御機構の解明

(2)革新的先端研究開発支援事業

・感染症創薬科学の新潮流

・ヒトのマルチセンシングネットワークの統合的理解と制御機構の解明

※戦略的創造研究推進事業(新技術シーズ創出)と革新的先端研究開発支援事業の共通の目標

4.創発的研究の推進

 若手を中心とした独立前後の研究者に対し、自らの野心的な構想に専念できる環境を長期的に提供することで、破壊的イノベーションをもたらし得る成果の創出を目指す「創発的研究支援事業」を科学技術振興機構に造成した基金により実施しており、令和2年度から2回の公募で計511件の研究課題を採択している。また、採択研究課題をリサーチ・アシスタント(RA)として支える博士課程学生等に対する追加支援を実施しており、令和3年度予算により当該支援の更なる充実を図った。

5.大学・大学共同利用機関における共同利用・共同研究の推進

 我が国の学術研究の発展には、最先端の大型装置や貴重な資料・データ等を、個々の大学の枠を越えて全国の研究者が利用し、共同研究を行う「共同利用・共同研究体制」が大きく貢献しており、主に大学共同利用機関や、文部科学大臣の認定を受けた国公私立大学の共同利用・共同研究拠点(※196)によって担われている。

 学術研究の大型プロジェクトは、最先端の大型研究装置等により人類未踏の研究課題に挑み世界の学術研究を先導し、また、国内外の優れた研究者を結集し、国際的な研究拠点を形成するとともに、国内外の研究機関に対し研究活動の共通基盤を提供しており、文部科学省では「大規模学術フロンティア促進事業」としてこうしたプロジェクトを支援している。その代表的な例としては、平成27年度の梶田隆章・東京大学宇宙線研究所長のノーベル物理学賞受賞につながる研究成果を上げたスーパーカミオカンデ(SK)やその次世代計画であるハイパーカミオカンデ(HK)計画が挙げられる。HKは、SKを飛躍的に上回る観測性能を備え、陽子崩壊探索やニュートリノ研究を通じた新たな物理法則の発見や素粒子と宇宙の謎を解き明かすことを目指しており、令和元年度より建設に着手している。

<参考URL>
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○ 大規模学術フロンティア促進事業
https://www.mext.go.jp/a_menu/kyoten/20200826-mxt_gakkikan-1383666_001.pdf

コラム2-12 研究計量に関するライデン声明について

 多くの研究評価で、論文の被引用数等の計量データが利用されています。この利用が適切であれば、計量データは、専門家(ピア)による評定をより妥当、公正にするための補完となり得ます。しかしながら、データを補完材料として利用するのではなく、データに主導され、引きずられた評価が往々にして行われています。このような状況に対し、科学計量学の研究者はこれまでもしばしば警告を発し、計量データの適切な利用のあり方を論じてきましたが、それらが結実したものがライデン声明といえます。
 ライデン声明の基礎となったのは、2014年(平成26年)9月にオランダのライデン大学で開催された第19回科学技術指標国際会議(STI2014)におけるDr. Diana Hicks (Georgia Institute of Technology)の基調講演です。そこでなされた議論をまとめて、Hicksら5名の連名で、2015年(平成27年)のNature誌に「研究計量に関するライデン声明」(“The Leiden Manifesto for research metrics”)が公表されました1。ライデン声明は10項目の原則(principles)から成り、研究評価における計量データの利用についてのベストプラクティスや注意点を示したものであり、研究者、管理者、評価者の全てに対するガイドラインと考えられます。以下に、ライデン声明の10の原則の見出し文のみを記します。
原則1 定量的評価は、専門家による定性的評定の支援に用いるべきである。
原則2 機関、グループ又は研究者の研究目的に照らして業績を測定せよ。
原則3 優れた地域的研究を保護せよ。
原則4 データ収集と分析のプロセスをオープン、透明、かつ単純に保て。
原則5 被評価者がデータと分析過程を確認できるようにすべきである。
原則6 分野により発表と引用の慣行は異なることに留意せよ。
原則7 個々の研究者の評定は、そのポートフォリオの定性的判定に基づくべきである。
原則8 不適切な具体性や誤った精緻性を避けよ。
原則9 評定と指標のシステム全体への効果を認識せよ。
原則10 指標を定期的に吟味し、改善せよ。
 ライデン声明のホームページ2から、Nature記事へのほか、各国語への翻訳記事やビデオへのリンクが張られています。Natureの記事を引用した論文は710件に及びますが(2022年(令和4年)3月1日にWeb of Science Core Collectionにより調査)、主要なものとして、ライデン声明のオルトメトリクスへの適用可能性を論じたもの3、学術図書館の立場からライデン声明の実用性を考察したもの4、大学での研究評価への計量書誌学データの利用はライデン声明に沿って行うよう図書館が主唱すべきと主張したもの5等があります。日本においても、研究活動の把握に論文分析が用いられる場面が多くなっていますが、ライデン声明に指摘されている留意点を踏まえた上での活用が必要です。

出典
小野寺夏生、伊神正貫(2016)。研究計量に関するライデン声明について。STI Horizon, 2 (4), 35-39. http://doi.org/10.15108/stih.00050
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参考文献
1 Hicks, D., Wouters, P., Waltman, L., de Rijcke, S. and Rafols, I. (2015). The Leiden Manifesto for research metrics. Nature, 2015, 520 (7548), 429-431. https://doi.org/10.1038/520429a
2 Leiden manifesto for research Metrics. http://www.leidenmanifesto.org/
3 Bornmann, L. and Haunschild, R. (2016). To what extent does the Leiden manifesto also apply to altmetrics? A discussion of the manifesto against the background of research into altmetrics. Online Inf. Rev., 40 (4), 529-543. https://doi.org/10.1108/OIR-09-2015-0314
4 Coombs, S. K. and Peters, I. (2017). The Leiden Manifesto under review: what libraries can learn from it. Digital LIB. Perspectives, 33 (4), 324-338. https://doi.org/10.1108/DLP-01-2017-0004
5 Webster, B. M. (2017). Principles to guide reliable and ethical research evaluation using metric-based indicators of impact. Perform. Meas. Metr., 18 (1), 5-8. https://doi.org/10.1108/PMM-06-2016-0025

❺ 国際共同研究・国際頭脳循環の推進

1.国際研究ネットワークの充実

(1)我が国の研究者の国際流動の現状

 令和4年度に公表した「国際研究交流の概況」によれば、我が国における研究者の短期派遣者数は、調査開始以降、増加傾向が見られたが、令和2年度は前年度に比べて大きく減少した。また、中・長期派遣者数は、平成20年度以降、おおむね4,000から5,000人の水準で推移してきたが、令和2年度は前年度に比べて大きく減少した(第2-2-5図)

 我が国の大学や独立行政法人等の外国人研究者の短期受入者数は、平成21年度まで増加傾向であったところ、東日本大震災等の影響により平成23年度にかけて減少し、その後回復したが、令和2年度は前年度に比べて大きく減少した。また、中・長期受入者数は、平成12年度以降、おおむね1万2,000から1万5,000人の水準で推移していたが、短期受入れに比べ程度は小さいものの令和2年度は大きく減少した(第2-2-6図)

 これらの大きな減少は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響が令和元年度については令和2年1月から3月までの3か月間であったものが、令和2年度は一年を通じて影響があったためである。

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(2)研究者の国際交流を促進するための取組

 世界規模で進む頭脳循環の流れの中において、我が国の研究者及び研究グループが国際的研究・人材ネットワークの中心に位置付けられ、またそれを維持していくことができるように、取組を進めている。

 日本学術振興会は、国際舞台で活躍できる我が国の若手研究者の育成を図るため、若手研究者を海外に派遣する諸事業や諸外国の優秀な研究者を招聘(しょうへい)する事業を実施するほか、科学研究費助成事業(科研費)において、令和3年度には、「国際先導研究」を創設し、高い研究実績と国際ネットワークを有するトップレベル研究者が率いる優秀な研究チームの下、若手(ポスドク・博士課程学生)の参画を要件とし、国際共同研究を通じて長期の海外派遣・交流や自立支援を行うことにより、世界と戦える優秀な若手研究者の育成を推進している。

 また、我が国における学術の将来を担う国際的視野に富む有能な研究者を養成・確保するため、優れた若手研究者が海外の特定の大学等研究機関において長期間研究に専念できるよう支援する「海外特別研究員事業」や、博士後期課程学生等の海外渡航支援として「若手研究者海外挑戦プログラム」等を実施している。

 さらに、国際コミュニティの中核に位置する一流の大学・研究機関において挑戦的な研究に取り組みながら、著名な研究者等とのネットワーク形成に取り組む優れた若手研究者に対して研究奨励金を支給する「国際競争力強化研究員事業(特別研究員(CPD(※197)))」を令和元年度より実施している。

 優れた外国人研究者に対し、我が国の大学等において研究活動に従事する機会を提供するとともに、我が国の大学等の研究環境の国際化に資するため、「外国人研究者招へい事業」により外国人特別研究員等の受入れを実施しているほか、「二国間交流事業」により我が国と諸外国の研究チームの持続的ネットワーク形成を支援している。

 また、アジア・太平洋・アフリカ地域の若手研究者の育成と相互のネットワーク形成のため「HOPEミーティング」を開催し、同地域から選抜された大学院生等とノーベル賞受賞者をはじめとする世界の著名研究者が交流する機会を提供している。

 科学技術振興機構は、海外の優秀な人材の獲得につなげるため、アジアを中心とする41の国・地域から青少年を短期で我が国に招聘「日本・アジア青少年交流事業(さくらサイエンスプラン)」を平成26年度から実施している。令和3年度からは「国際青少年サイエンス交流事業(さくらサイエンスプログラム)」と名称を改め、対象を世界の国・地域の青少年に拡大するとともに、自然科学分野に加えて人文・社会科学分野の交流も対象としている。

2.国際的な研究助成プログラム

 ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム(HFSP)は、1987年(昭和62年)6月のベネチア・サミットにおいて我が国が提唱した国際的な研究助成プログラムで、生体の持つ複雑な機能の解明のための基礎的な国際共同研究などを推進し、またその成果を広く人類全体の利益に供することを目的としている。現在、日本・オーストラリア・カナダ・EU・フランス・ドイツ・インド・イスラエル・イタリア・韓国・ニュージーランド・シンガポール・スイス・英国・米国の計15か国・極が加盟し、フランス・ストラスブールに置かれた国際ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム機構(HFSPO、理事長:長田重一・大阪大学特任教授)により運営されている。我が国は本プログラム創設以来積極的な支援を行い、プログラム運営において重要な役割を担っている。

 本プログラムでは、国際共同研究チームへの研究費助成(研究グラント)、若手研究者が国外で研究を行うための旅費、滞在費等の助成(フェローシップ)及び受賞者会合の開催等が実施されている。1990年度の事業開始から30年以上が経過し、この間、HFSPOは約1,200件の研究課題、4,400名余りの世界の研究者に対して研究グラントを支援するとともに、約3,400名の若手研究者に対してフェローシップの助成を実施してきた。国際的協力による、独創的・野心的・学際的な研究を支援する本プログラムでは、過去に研究グラントに採択された受賞者の中から、2018年(平成30年)にノーベル生理学・医学賞を受賞された本庶(ほんじょ)佑(たすく)・京都大学特別教授はじめ28名のノーベル賞受賞者を輩出するなど、世界的に高く評価されている。

3.国際共同研究の推進と世界トップレベルの研究拠点の形成

 我が国が世界の研究ネットワークの主要な一角に位置付けられ、世界の中で存在感を発揮していくためには、国際共同研究を戦略的に推進するとともに、国内に国際頭脳循環の中核となる研究拠点を形成することが重要である。

(1)諸外国との国際共同研究

ア ITER(イーター)計画等

 ITER計画は、核融合エネルギーの実現に向け、世界7極35か国の国際協力により実施されており、近い時期での運転開始を目指し、フランス・カダラッシュにおいてITERの建設作業が本格化している。我が国は、ITERの主要な機器である超伝導コイルの製作等を進めている(第2章第1節2❷参照)。また、日欧協力によりITER計画を補完・支援する先進的核融合研究開発である幅広いアプローチ(BA(※198))活動を青森県六ヶ所村及び茨城県那珂(なか)市で推進している。

イ 国際宇宙ステーション(ISS)

 我が国は、日本実験棟「きぼう」及び宇宙ステーション補給機「こうのとり」(HTV(※199))の運用、日本人宇宙飛行士のISS(※200)長期滞在等によりISS計画に参加している(第2章第1節3❺参照)。

ウ 国際宇宙探査

 我が国は、令和元年10月、宇宙開発戦略本部において、国際宇宙探査(アルテミス計画)への参画を決定した。令和2年12月には、日本政府とNASAとの間で、アルテミス計画の中核を担う月周回有人拠点「ゲートウェイ」のための協力に関する了解覚書が締結された(第2章第1節3❺参照)

エ 国際深海科学掘削計画(IODP)

 IODP(※201)は、地球環境変動、地球内部構造や地殻内生命圏等の解明を目的とした日米欧主導の多国間国際共同プログラムで、2013年(平成25年)10月から実施されている。我が国が提供し、科学掘削船としては世界最高レベルの性能を有する地球深部探査船「ちきゅう」及び米国が提供する掘削船を主力掘削船とし、欧州が提供する特定任務掘削船を加えた複数の掘削船を用いて世界各地の深海底の掘削を行っている。2020年(令和2年)10月、さらに2050年(令和32年)までの2050 Science Frameworkを策定、次期の活動に向けて科学的目標を明らかにしている。

オ 大型ハドロン衝突型加速器(LHC)

 現在、LHC計画(※202)においては、LHCの高輝度化(HL-LHC(※203)計画)が進められている。

カ その他

 国際リニアコライダー(ILC(※204))計画については、ヒッグス粒子の性質をより詳細に解明することを目指した国際プロジェクトであり、国際研究者コミュニティで検討されている。

(2)世界トップレベル研究拠点の形成に向けた取組

 文部科学省は、「世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI(※205))」により、高度に国際化された研究環境と世界トップレベルの研究水準を誇る「国際頭脳循環のハブ」となる拠点の充実・強化を進めている。具体的には、国内外のトップサイエンティストらによるきめ細やかな進捗管理の下で、1拠点当たり7億円程度を10年間支援し、令和3年度末時点で14拠点が活動している(https://www.jsps.go.jp/j-toplevel/04_saitaku.html)。令和2年には、これまでのミッションを高度化し、「次代を先導する価値創造」を加えた新たなミッションを策定し、この新たなミッションの下、今後、定期的・計画的な拠点形成を進めることとしている。

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(3)その他の研究大学等に関する取組

 世界水準の優れた研究大学群を増強するため、研究マネジメント人材の確保・活用と大学改革・集中的な研究環境改革の一体的な推進を支援・促進し、我が国全体の研究力強化を図るため、「研究大学強化促進事業」を実施している。

 内閣府は、沖縄科学技術大学院大学(OIST(※206))について、世界最高水準の教育・研究を行うための規模拡充に向けた取組を支援している。

❻ 研究時間の確保

1.URAの活用

 研究者のみならず、多様な人材の育成・活躍促進が重要であり、文部科学省では、研究者の研究活動活性化のための環境整備、大学等の研究開発マネジメント強化及び科学技術人材の研究職以外への多様なキャリアパスの確立を図る観点も含め、リサーチ・アドミニストレーター(URA)の支援方策について調査研究等を実施している。

 平成25年度より世界水準の優れた研究大学群を増強するため、「研究大学強化促進事業」を実施し、定量的な指標(エビデンス)に基づき採択した22の大学等研究機関に対する研究マネジメント人材(URAを含む。)群の確実な配置や集中的な研究環境改革の支援を通じて、我が国全体の研究力強化を図っている。

 また、大学等におけるURAの更なる充実を図るため、令和3年度には「リサーチ・アドミニストレーター等のマネジメント人材に係る質保証制度の実施」事業において、URAの質保証(認定)制度の運用が開始された(第2章第2節1❷参照)。

2.研究支援サービス・パートナーシップ認定制度(A-PRAS)

 文部科学省は、令和元年10月に、民間事業者が行う研究支援サービスのうち、一定の要件を満たすサービスを「研究支援サービス・パートナーシップ」として認定する「研究支援サービス・パートナーシップ認定制度(A-PRAS(※207))」を創設した。認定することを通じ、研究者の研究時間確保を含めた研究環境を向上させ、我が国における科学技術の推進及びイノベーションの創出を加速するとともに、研究支援サービスに関する多様な取組の発展を支援することを目的とし、令和2年度までに9件のサービスを認定した。令和3年度は認定したサービスについてその普及を促進すべく、利活用促進のための調査を実施した。

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研究支援サービス・パートナーシップ認定制度
https://www.mext.go.jp/a_menu/kagaku/kihon/1422215_00001.htm

3.大学の事務処理の簡素化、デジタル化

 文部科学省は、各大学、高等専門学校及び大学共同利用機関に対して、事務処理手続の簡素化、デジタル化を図るべく、公募申請する教員等の希望に応じて電子的な手続きを認めるなど柔軟な対応を求めてきている。令和3年6月には、各大学等の求人公募書類の作成に係る応募者の負担軽減の観点から、各大学等が指定する様式以外の様式で作成された履歴書や業績リスト等の書類を応募書類として活用することを可能とする等、柔軟な対応の検討を各大学等に対して促しており、その後、各大学等の教務担当者向け会議等で累次にわたり周知している。

4.競争的研究費の事務手続に係るルールの統一化・簡素化

 政府全体として、研究者の事務負担軽減による研究時間の確保及び研究費の効果的・効率的な使用のため、研究費の使い勝手の向上を目的とした制度改善に取り組んでいる。研究者の事務負担を軽減し、研究時間の確保を図る観点から、従来の「競争的資金」に該当する事業とそれ以外の公募型の研究費である各事業を「競争的研究費」として一本化し、これまで競争的資金の使用に関して統一化・簡素化したルールについて、競争的資金以外の研究資金にも適用を拡大するとともに、各事業が個別に定めていた応募様式を統一し、府省共通研究開発管理システム(e-Rad)を通じて、統一した様式による申請が可能となるよう対応を進めている。

❼ 人文・社会科学の振興と総合知の創出

 科研費は、人文学・社会科学から自然科学までの全ての分野にわたり、あらゆる学術研究を対象とする競争的研究費であり、研究の多様性を確保しつつ独創的な研究活動を支援することにより、研究活動の裾野の拡大を図り、持続的な研究の発展と重厚な知的蓄積の形成に資する役割を果たしている。

 令和2年度より、文部科学省において「人文学・社会科学を軸とした学術知共創プロジェクト」を開始し、未来社会が直面するであろう諸問題(①将来の人口動態を見据えた社会・人間の在り方、②分断社会の超克、③新たな人類社会を形成する価値の創造)の下で、人文・社会科学分野の研究者が中心となって、自然科学分野の研究者はもとより、産業界や市民社会などの多様なステークホルダー(利害関係者)が知見を寄せ合って、研究課題及び研究チームを創り上げていくための環境を構築する取組を進めている。

 また、日本学術振興会が実施している「課題設定による先導的人文学・社会科学研究推進事業」において、科学技術・学術審議会 学術分科会 人文学・社会科学特別委員会審議のまとめ等を踏まえ、令和3年度から人文学・社会科学に固有の本質的・根源的な問いを追究する「学術知共創プログラム」による研究の推進を開始した。

 文部科学省は、客観的根拠(エビデンス)に基づいた合理的なプロセスによる科学技術・イノベーション政策の形成の実現を目指し、「科学技術イノベーション政策における『政策のための科学』推進事業」を実施している。本事業では、科学技術・イノベーション政策を科学的に進めるための研究人材や同政策の形成を支える人材の育成を行う拠点(大学)に対して支援を行うとともに、これらの複数の拠点をネットワークによって結び、我が国全体で体系的な人材育成が可能となる仕組みを構築している。更にこれらの拠点を中心として、課題設定の段階から行政官と研究者が政策研究・分析を協働して行う研究プロジェクトの実施を進めている。

 内閣府では、人間や社会の総合的理解と課題解決に貢献する「総合知」に関する基本的な考え方、さらに戦略的な推進方策を検討し、中間取りまとめとして取りまとめた(第2章第1節6❶参照)。

 文部科学省科学技術・学術政策研究所では、総合知に関する意識の変化をモニタリングするため、基本計画と連動して毎年実施しているNISTEP定点調査について、第6期基本計画初年度となる令和3年度から「総合知」に関連する質問を盛り込んだ。

❽ 競争的研究費制度の一体的改革

 競争的研究費制度は、競争的な研究環境を形成し、研究者が多様で独創的な研究に継続的、発展的に取り組む上で基幹的な研究資金制度であり、これまでも予算の確保や制度の改善及び充実に努めてきた(令和3年度当初予算額6,353億円)。

 「統合イノベーション戦略2019」(令和元年6月21日閣議決定)及び「統合イノベーション戦略2020」(令和2年7月17日閣議決定)に基づき、我が国の研究力強化のため、令和2年度以降順次、研究者の研究時間の確保のため、競争的研究費の直接経費から研究以外の業務の代行に係る経費の支出を可能とすることや、競争的研究費の直接経費から研究代表者への人件費を支出することにより確保された財源を、研究機関において研究力向上のために活用することを可能としている。

 さらに、博士課程学生の処遇向上に向けて、競争的研究費における博士課程学生の活用に伴うRA経費の適切な対価の支払いを促進している(第2章第2節1❶参照)。

 また、研究者の事務負担を軽減し、研究時間の確保を図る観点から、従来の「競争的資金」に該当する事業とそれ以外の公募型の研究費である各事業を「競争的研究費」として一本化し、統一的なルールの下で各種事務手続きの簡素化・デジタル化・迅速化に係る取組等の改善を図っている(第2章第2節1❻参照)。あわせて競争的研究費における間接経費についても、直接経費に対する割合等を含め「競争的研究費」として扱いを一本化するとともに、間接経費に係る使途報告、証拠書類の簡素化に係る取組を令和4年度より適用することとする。また、各制度では、公正かつ透明で質の高い審査及び評価を行うため、審査員の年齢や性別及び所属等の多様性の確保、利害関係者の排除、審査員の評価システムの整備、審査及び採択の方法や基準の明確化並びに審査結果の開示を行っている。

 例えば、科研費では、8,000人以上の研究者によるピアレビューにより審査が実施されている。日本学術振興会は、審査委員候補者データベース(令和2年度現在、登録者数約13万6,000人)を活用し、研究機関のバランスや若手研究者、女性研究者の積極的な登用等に配慮しながら、審査委員を選考している。また、応募者本人に対する審査結果の開示については、内容を順次充実してきており、例えば、不採択課題全体の中でのおよその順位や評定要素ごとの平均点等の数値情報のほか、応募者により詳しく評価内容を伝えるために、審査委員が不十分であると評価した評定要素ごとの具体的な項目についても、「科研費電子申請システム」により開示している。

 競争的研究費をはじめとする公的研究費の不正使用の防止に向けた取組については、「公的研究費の不正使用等の防止に関する取組について(共通的な指針)」(平成18年8月31日総合科学技術会議)や「研究機関における公的研究費の管理・監査のガイドライン(実施基準)」(平成19年2月15日文部科学大臣決定。以下「ガイドライン」という。)等の指針を策定してきた。また、研究機関における不正防止に向けた体制整備の状況を調査するなどモニタリングを徹底するとともに、必要に応じ、改善に向けた指導・措置を講じることで、適切な管理・監査体制の整備を促してきた。さらに、文部科学省では、令和3年2月にガイドラインを改正し、ガバナンスの強化、啓発活動の実施や不正防止システムの強化を柱として、不正を起こさせない組織風土の形成に向けたより実効性のある取組を強化し、公的研究費の不正使用の防止に取り組んでいる。

<参考URL>
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競争的研究費制度
https://www8.cao.go.jp/cstp/compefund/

2 新たな研究システムの構築(オープンサイエンスとデータ駆動型研究等の推進)

 昨今、ビッグデータ等の多様なデータ収集や分析等が容易となる中、シミュレーションやAIを活用したデータ駆動型の研究手法が拡大している。このことは、社会全体のデジタル化や世界的なオープンサイエンスの潮流により、研究そのもののデジタルトランスフォーメーション(研究DX)が求められているといえる。さらには、新型コロナウイルス感染症を契機として世界的にも研究DXの進展が加速しており、我が国においても重要なキーワードとなる研究データの管理・利活用促進や研究DXを支えるインフラストラクチャ─の整備を進めるなど、研究DXがもたらす新たな社会の実現に向けた研究システムの構築に取り組んでいる。

❶ 信頼性のある研究データの適切な管理・利活用促進のための環境整備

 様々な研究活動によって創出される研究データは、我が国のみならず世界にとって重要な知的資産といえる。一方で、産業競争力や科学技術・学術上の優位性の確保等の重要な情報を含むものもあることから、国際的な貢献と国益の双方を考慮するためオープン・アンド・クローズ戦略に基づく研究データの管理・利活用を実行することが重要である。これらのことから、我が国のナショナルポリシーとして「公的資金による研究データの管理・利活用に関する基本的な考え方」(令和3年4月27日統合イノベーション推進会議決定)が定められ、分野・機関データベースの構築や研究データを適切かつ効率的につなぐ研究データ基盤の構築等環境整備を進めている。

 国立情報学研究所(NII(※208))では、イノベーション創出に必要な学術情報を適切に管理・保存し、そして、利用者に提供するための様々なサービスを実施している。研究データの管理・利活用促進に関しては、クラウド上で大学等が共同利用できる研究データの管理・共有・公開・検索を促進するシステム(NII-RDC)の運用を令和3年より開始した。NII-RDCは、研究データを管理する基盤(GakuNin RDM)、クラウド型の機関リポジトリ環境提供サービス(JAIRO  Cloud)、そして、研究データをはじめとした学術情報を一元的に検索可能なデータベース(CiNii Research)の3つの基盤によって構成されており、効果的・効率的な研究活動の促進に寄与している。

 科学技術振興機構では、オープンサイエンス促進に向けた研究環境整備のための研究成果取扱方針に基づき、研究プロジェクトの成果に基づく全ての研究成果論文を原則としてオープンアクセス化すること及び研究データの取扱いを定めたデータマネジメントプランの作成を促している。また、国内外の科学技術に関する文献、特許、研究者や研究開発活動に関わる基本的な情報を体系的にデータベース化し、相互に関連付けた、誰もが使いやすい公的サービス(J-GLOBAL)と、国内外の科学技術文献に関する書誌・抄録・キーワード等を、日本語で網羅的に検索可能なデータベースとして整備し、さらに、検索集合を分析・可視化できる付加価値を付けた専門家を支援する文献情報サービス(JDreamⅢ)の実施や我が国の研究者情報を一元的に集積し、研究業績情報の管理、大学の研究者総覧の構築を支援する研究者総覧データベース(researchmap)の構築、学協会自らが学術論文の電子ジャーナル発行を行うための共同のシステム環境(J-STAGE(※209))の提供により研究現場における研究環境整備の充実に取り組んでいる。さらに、同機構バイオサイエンスデータベースセンターでは、「ライフサイエンスデータベース統合推進事業」を実施し、文部科学省、厚生労働省、農林水産省及び経済産業省の4省が保有する生命科学系データベースを一元的に参照できる合同ポータルサイトの拡充や日本医療研究開発機構との連携等により、オープンサイエンスの推進に寄与している。

 農林水産省は、国内で発行されている農林水産関係学術誌の論文等の書誌データベース(JASI(※210))など、農林水産関係の文献情報や図書資料類の所在情報を構築・提供している。また、研究開発型の独立行政法人、国公立試験研究機関や大学の農林水産分野の研究報告等をデジタル化した全文情報データベース、試験研究機関で実施中の研究課題データベース等を構築・提供している。

 環境省は、生物多様性情報システム(J-IBIS(※211))において、全国の自然環境及び生物多様性に関する情報の収集・管理・提供をしている。

 理化学研究所、物質・材料研究機構や防災科学技術研究所は、我が国が強みを活(い)かせるライフサイエンス、マテリアルや防災分野で、膨大・高品質な研究データを利活用しやすい形で集積し、産学官で共有・解析することにより、新たな価値の創出につなげる取組を進めている。

 日本医療研究開発機構は、「疾病克服に向けたゲノム医療実現化プロジェクト」において、データシェアリングポリシーを示し、研究事業に対して、原則としてデータシェアリングを行うことを義務付けた。

 日本学術振興会は、オープンアクセスに係る取組について方針を示し、科研費等による論文のオープンアクセス化を進めている。

コラム2-13 科学技術・イノベーション白書検索

 文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)は、これまでに発行された「科学技術・イノベーション白書」(令和2年版までは「科学技術白書」)の全ての内容を対象としたオンラインの検索システムを構築し、ウェブサイトで公開しています1
 当白書は昭和33(1958)年に初めて発行され、昭和39(1964)年以降、毎年、発行されており、科学技術の動向や政府の科学技術政策に関する主要な情報が蓄積されています。この貴重な情報源を十分に活用できるよう、本システムは、単に各年版の白書のテキストを検索できるだけでなく、複数の年の白書を指定して検索する機能を備えています。また、当白書では、科学技術の振興に関して政府が各年度に講じた施策をまとめた部分(最近の白書では「第2部」)がありますが、この部分に限定した検索や、図表内の語句に絞った検索も可能です。さらに、指定したキーワードについての完全一致の検索に加えて、類義語も併せて検索する「あいまい検索」が可能となっています。この機能により、検索漏れを低減することができ、また、正確なキーワードが不明な場合でも思いついた類義語から検索することができます。
 本システムは、いくつかの分析ツールも備えています。「単語出現回数分析」では、指定したキーワードの出現回数が年ごとに棒グラフで表示され、そのキーワードの使用状況の推移を知ることができます。
 「キーワードマップ」は、対象とするテキストを視覚化して把握するための機能であり、重要度の高いキーワードをマップ(ワードクラウド形式)で表示します。例えば、「○○年版」と指定すると、その年版の白書でどのような語句がよく使われたのかを把握できます。また、あるキーワードを指定して、それに関連性のあるキーワード群をマップとして示すこともできます。その例として、「再生エネルギー」と指定して、2つの年版の白書を比較したマップを下図に示しました。個別技術としては、平成28年版では地熱発電、蓄電池が上位にあり、令和3年版では低炭素化、バイオマスがクローズアップされていることが分かります。
 「関連文書時系列分析」は、注目トピックについての記述の変遷を分析するためのツールであり、白書中の特定の項目や節を指定すると、それと関連度の大きい項目や節を自動抽出し、それらの文書の関係を時系列にプロットします。これにより、例えば、ある施策の経年的な進展を調べることができるため、科学技術に関する施策の分析ツールとして活用できます。
 NISTEPのデータ・情報基盤のウェブページ2では、この「科学技術・イノベーション白書検索」に加えて、科学技術に関する基本的な政策文書を対象とした「科学技術基本政策文書検索」も公開しており、そこでも同等の検索・分析機能を利用できます。これらは、政策立案、政策研究や科学史の研究、更には科学技術に関する国民の議論などでの活用が期待されます。

1 https://whitepaper-search.nistep.go.jp/
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2 https://www.nistep.go.jp/research/scisip/data-and-information-infrastructure
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❷ 研究DXを支えるインフラ整備と高付加価値な研究の加速

 研究DXを推進するため、ネットワーク、データインフラや計算資源について世界最高水準の研究基盤を形成・維持するとともに、時間や距離の制約を超えて、研究を遂行できるよう、遠隔から活用するリモート研究や、実験の自動化等を実現するスマートラボの普及に取り組んでいる。また、最先端のデータ駆動型研究、AI駆動型研究の実施を促進するとともに、これらの新たな研究手法を支える情報科学技術の研究を進めている。

1.SINETの整備、運用

 国立情報学研究所は、大学等の学術研究や教育活動全般を支える基幹的ネットワークとして学術情報ネットワーク(SINET(※212))を整備・運用しており、令和4年度からは、全都道府県を400Gbps(※213)(沖縄は200Gbps)での運用を開始する。また、国際的な先端研究プロジェクトで必要とされる国際間の研究情報流通を円滑に進めるため、米国や欧州等多くの海外研究ネットワークとの連携を進めるほか、国立大学等と連携して、セキュリティ強化に向けて引き続き対応を進めている。

2.研究施設・設備の整備・共用、ネットワーク化の促進

 科学技術の振興のための基盤である研究施設・設備は、整備や効果的な利用を図ることが重要である。また、「科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律」(平成20年法律第63号)においても、国立大学法人及び研究開発法人等が保有する研究開発施設・設備及び知的基盤の共用の促進を図るため、国が必要な施策を講じる旨が規定されている。

 このため、政府は科学技術に関する広範な研究開発領域や産学官の多様な研究機関に用いられる共通的、基盤的な施設・設備に関し、その有効利用や活用を促進するとともに、施設・設備の相互のネットワーク化を図り、利便性、相互補完性、緊急時の対応力等を向上させるための取組を進めている。

(1)特定先端大型研究施設

 「特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律」(平成6年法律第78号)(以下「共用法」という。)においては、特に重要な大規模研究施設は特定先端大型研究施設と位置付けられ、計画的な整備及び運用並びに中立・公正な共用が規定されている。

ア 大型放射光施設(SPring-8)

 SPring-8(※214)は、光速近くまで加速した電子の進行方向を曲げたときに発生する極めて明るい光である「放射光」を用いて、物質の原子・分子レベルの構造や機能を解析できる世界最高性能の研究基盤施設である。平成9年の供用開始以降、生命科学、環境・エネルギー、新材料開発など、我が国の経済成長を牽引(けんいん)する様々な分野で革新的な研究開発に貢献している。

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イ X線自由電子レーザー施設(SACLA)

 SACLA(※215)は、レーザーと放射光の特長を併せ持つ究極の光を発振し、原子レベルの超微細構造や化学反応の超高速動態・変化を瞬時に計測・分析する世界最先端の研究基盤施設である。平成24年3月に供用を開始し、平成29年度より、世界初となる電子ビームの振り分け運転(※216)による2本の硬X線自由電子レーザービームラインの同時供用が開始されるなど、更なる高インパクト成果の創出に向けた利用環境の整備が着実に進められている。

ウ スーパーコンピュータ「富岳」

 スーパーコンピュータを用いたシミュレーションは、理論、実験と並ぶ、現代の科学技術の第3の手法として最先端の科学技術や産業競争力の強化に不可欠なものとなっている。スーパーコンピュータ「富岳」は、我が国が直面する社会的・科学的課題の解決に貢献するため、「京(けい)」(平成24年9月~令和元年8月)の後継機として、平成26年度より開発を開始。システムとアプリケーションの協調的開発(co-design)により、世界最高水準の計算性能と汎用性を有するスーパーコンピュータの実現に向けて開発を進め、令和3年3月に共用を開始した。「富岳」は、令和3年11月に発表されたスパコンランキングにおいて、4つのランキング(TOP500、HPCG、HPL-AI、Graph500)で4期連続となる世界1位を獲得した。

 また、「富岳」を活用した画期的な成果が創出されるように、利用者の裾野拡大や利用しやすい環境の整備などの取組を進め、防災・減災、ものづくり、エネルギーなどの従来スパコンが活用されてきた分野に加え、AI分野など新たな領域での活用も進められ、多様な成果が創出された。

 さらに、共用計算環境基盤として、「富岳」も含めた国内の大学や研究機関などのスーパーコンピュータやストレージを学術情報ネットワーク(SINET)でつなぎ、多様な利用者のニーズに対応する革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築を進め、その効果的・効率的な運営に努めながら、様々な分野でのスーパーコンピュータの利用を推進した。

 加えて、ポスト「富岳」を見据えた我が国の計算基盤のあり方について、科学技術・学術審議会情報委員会の下に設置された部会で検討を進め、令和4年度以降に実施予定の調査研究の方向性を取りまとめた。

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エ 大強度陽子加速器施設(J-PARC)

 J-PARC(※217)は、平成21年度に全施設が稼働し、世界最高レベルのビーム強度を持つ陽子加速器を利用して生成される中性子、ミュオン、ニュートリノ(※218)等の多彩な二次粒子を利用して、幅広い分野における基礎研究から産業応用まで様々な研究開発に貢献している。物質・生命科学実験施設(特定中性子線施設)では、革新的な材料や新しい薬の開発につながる構造解析等の研究が行われ、多くの成果が創出されている。原子核・素粒子実験施設(ハドロン実験施設)やニュートリノ実験施設は、共用法の対象外の施設であるが、国内外の大学等の研究者との共同利用が進められている。特に、ニュートリノ実験施設では、2015年(平成27年)ノーベル物理学賞を受賞したニュートリノ振動の研究に続き、その更なる詳細解明を目指して、T2K(Tokai to Kamioka)実験が行われている。

(2)次世代放射光施設(軟X線向け高輝度3GeV級放射光源)

 次世代放射光施設は、軽元素を感度良く観察できる高輝度な軟X線を用いて、従来の物質構造に加え、物質の機能に影響を与える電子状態の可視化が可能な次世代の研究基盤施設で、学術研究だけでなく触媒化学や生命科学、磁性・スピントロニクス材料、高分子材料等の産業利用も含めた広範な分野での利用が期待されている。文部科学省は、この次世代放射光施設について官民地域パートナーシップにより推進することとしており、量子科学技術研究開発機構を施設の整備・運用を進める国の主体とし、さらに平成30年7月、一般財団法人光科学イノベーションセンターを代表とする、宮城県、仙台市、国立大学法人東北大学及び一般社団法人東北経済連合会の5者を地域・産業界のパートナーとして選定した。令和3年度には加速器等の機器の据付(すえつけ)等が開始されており、令和5年度の運用開始を目指して着実に整備が進められている。

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(3)研究施設設備間のネットワーク構築

ア 先端研究基盤共用促進事業(先端研究設備プラットフォームプログラム)

 文部科学省では、国内有数の先端的な研究施設・設備について、その整備・運用を含めた研究施設・設備間のネットワークを構築し、遠隔利用・自動化を図りつつ、ワンストップサービスによる利便性向上を図り、全ての研究者への高度な利用支援体制を有する全国的なプラットフォームを形成する取組を進めている。

(4)研究機関全体の研究基盤として戦略的に導入・更新・共用する仕組みの強化

 文部科学省は、研究機関全体で設備のマネジメントを担う統括部局の機能を強化し、学部・学科・研究科等の各研究組織での管理が進みつつある研究設備・機器を、研究機関全体の研究基盤として戦略的に導入・更新・共用する仕組みを強化(コアファシリティ化)する取組を進めている。

 また、大学等における研究設備・機器の戦略的な整備・運用を推進すべく、令和4年3月に「研究設備・機器の共用促進に向けたガイドライン」を決定した。

<参考URL>
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○先端研究基盤共用促進事業(コアファシリティ構築支援プログラム)
https://www.jst.go.jp/shincho/program/corefacility.html

3.知的基盤の整備・共用、ネットワーク化の促進

 文部科学省は、ライフサイエンス研究の基盤となる研究用動植物等のバイオリソースのうち、国が戦略的に整備することが重要なものについて、体系的に収集、保存、提供等を行うための体制を整備することを目的として、「ナショナルバイオリソースプロジェクト」を実施している。

 経済産業省は、我が国の研究開発力を強化するため、産業構造審議会 産業技術環境分科会 知的基盤整備特別小委員会において審議した第3期知的基盤整備計画(案)を令和3年5月に取りまとめ、公表した。これまでの第3期知的基盤整備計画における各分野の進捗は以下のとおりである。

 計量標準・計測については、産業技術総合研究所が、グリーン社会実現に貢献すべく、水素ステーションで用いられる水素ディスペンサー評価のためのマスターメーター法による計量精度検査装置の実証試験を実施し、開発技術を基にJIS B 8576改定案の作成に寄与した(第2-2-7図)。新型コロナウイルス感染症対策の非接触検温に関し、赤外線放射率0.998以上の黒体材料「暗黒シート」の製造方法を確立し、拡張不確かさ0.1 ℃の温度基準となることを実証した。安全かつ効果的ながん治療に貢献すべく、医療用リニアックからの高エネルギー電子線に対する水吸収線量標準や、放射性薬剤として用いられる放射性核種アクチニウム225放射能標準の供給を開始した。また、老朽化したインフラ設備の迅速・正確な健全性診断のため、高層ビル振動監視に用いられる小型デジタル出力型加速度センサの動的校正方法の開発や、ドローン空撮画像による橋梁の微小たわみ計測に成功した。さらに、コロナ禍での講演会等のオンライン開催、ウェブサイトのコンテンツ拡充など、効果的・効率的な普及啓発・人材育成にも取り組んだ。

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 微生物遺伝資源については、製品評価技術基盤機構が、微生物遺伝資源の収集・保存・分譲を行うとともに、これらの資源に関する情報(系統的位置付け、遺伝子に関する情報等)を整備・拡充し、幅広く提供している(令和4年1月末現在の分譲株数は6,596株)。また、微生物資源の保存と持続可能な利用を目指した15か国・地域の28機関のネットワーク活動(アジア・コンソーシアム、平成16年設立)への参加を通じて、アジア各国との協力関係を構築し、生物多様性条約や名古屋議定書を踏まえたアジア諸国の微生物遺伝資源の利用を支援している。

 地質情報については、産業技術総合研究所が、5万の1地質図幅3区画(「豊田」、「桐生及足利」、「和気(わけ)」)の出版、海洋地質図3図(「種子島付近海底地質図」、「久米島周辺海底地質図」、「久米島周辺海域表層堆積図」)の整備、20万分の1日本シームレス地質図V2の更新を行っている。また、都市域の地下地質を3次元的に表現した地質地盤図として、「東京都区部の3次元地質地盤図」を新たに公開した。沿岸域地質では、「海陸シームレス地質情報集『相模湾沿岸域』」をウェブ公開した。火山地質では、低頻度大規模噴火災害に対応する大規模火砕流分布図「姶良(あいら)カルデラ入戸(いと)火砕流堆積物分布図」を出版した(第2-2-8図)。そのほか、データ統合に向けて、地球科学図類のデジタルデータ化を進め、一部の既存データベースの連携利用のためのAPI(※219)を整備して総合ポータルシステム「地質図Navi」で公開した。

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 ゲノム・データ基盤プロジェクトでは、ゲノム・データ基盤の整備・利活用を促進し、ライフステージを俯瞰(ふかん)した疾患の発症・重症化予防、診断、治療等に資する研究開発を推進することで個別化予防・医療の実現を目指すこととしている。令和3年度においては、厚生労働省の臨床ゲノム情報公開データベース支援事業において臨床情報とゲノム情報等を集積・統合するデータベース(MGeND(※220))への更なるデータ登録と公開を行った。また、同省の革新的がん医療実用化研究事業等において、「全ゲノム解析等実行計画」に基づき、がん・難病領域の約13,000症例の全ゲノム解析等を行うとともに、データ利活用のための基盤情報・体制の構築等を推進した。また、文部科学省の東北メディカル・メガバンク計画においても、一般住民10万人の全ゲノム解析を官民共同で開始するなど、ゲノム・データ基盤の一層の強化を進めている。

4.数理・情報科学技術に係る研究

 文部科学省は、大学等の研究機関における、数学・数理科学と諸科学・産業界との共同研究等の取組を加速することによって、社会的課題の解決等に新たな価値(数学イノベーション)を生み出す枠組みを構築するため、平成29年度より「数学アドバンストイノベーションプラットフォーム(AIMaP(※221))」を実施してきた。事業最終年度となる令和3年度は、諸科学・産業界との連携と幹事拠点をハブとする拠点ネットワークによる数学と諸科学・産業との協働の成果を総括し、異分野・異業種研究交流会 2021 特別企画「アジア・太平洋における数理融合イノベーションの場の形成」(令和3年11月)や、公開シンポジウム「数学イノベーションは社会を変革できるか~AIMaP成果と今後の戦略的展開~」を開催する等成果の社会発信や諸科学・産業界との交流に積極的に取り組んだ。

 また、AIが一層進展し、DXの推進が求められるウィズコロナ・ポストコロナ時代を迎え、その基盤となる数学・数理科学の重要性のますますの高まりに対応して、令和3年1月より「アジア太平洋数理・融合研究戦略検討会」を全5回にわたり開催した。本検討会では、数理科学分野を中心とするアジア太平洋地域の高度人材との国際頭脳循環を促進し、我が国の研究力の維持・向上を図るとともに、数理科学を活用したイノベーションや同地域の共通課題の解決に貢献する拠点形成の方策について議論した。同年7月には報告書としてまとめられ、アジア・太平洋地域における国際頭脳循環のハブとなる産学官のプラットフォームの形成の必要性についての提言がなされた。

 また、理化学研究所では数理創造プログラム(iTHEMS(※222))において、数学・理論科学・計算科学を軸とした諸科学の統合的解明、社会における課題発掘及び解決、さらに民間との共同出資により設立された株式会社理研数理との連携によるイノベーションの創出等に向け取り組んでいる。

 情報科学技術を用い新たなプラットフォームを構築し、Society 5.0の先導事例を実現するため、平成30年度より、知恵・情報・技術・人材が高い水準でそろう大学等において、情報科学技術を核として様々な研究成果を統合しつつ、産業界、自治体や他の研究機関等と連携して社会実装を目指す「Society 5.0実現化研究拠点支援事業」を実施している。

5.DXによる研究活動の変化等に関する分析

 文部科学省科学技術・学術政策研究所では、DXによる研究活動の変化等に関する新たな分析手法・指標の開発の一環として、研究データの公開・共用やプレプリントの利用状況等のオープンサイエンスに係る実態調査を実施し、経年比較を行ったほか、分野別プレプリントサーバのコンテンツ調査や、英国の競争的資金に基づく多様な研究成果の公開状況の調査を実施した。

❸ 研究DXが開拓する新しい研究コミュニティ・環境の醸成

 地方公共団体、NPОやNGО、中小・スタートアップ、フリーランス型の研究者、更には市民参加など、多様な主体と共創しながら、知の創出・融合といった研究活動を促進する。また、例えば、研究者 単独では実現できない、多くのサンプルの収集や、科学実験の実施など多くの市民の参画(1万人規模、令和4年度までの着手を想定)を見込むシチズンサイエンスの研究プロジェクトの立ち上げなど、産学官の関係者のボトムアップ型の取組として、多様な主体の参画を促す環境整備を、新たな科学技術・ イノベーション政策形成プロセスとして実践する。

 科学技術振興機構は、「サイエンスアゴラ」や、地方自治体や大学等と連携して行うサイエンスアゴラ連携企画、未来社会デザインオープンプラットフォーム(CHANCE)等を通じ、多様な主体との対話・協働(共創)の場を構築し、知の創出・融合等を通じた研究活動の推進や社会における科学技術リテラシーの向上に寄与している。なお、サイエンスアゴラ2021において、「みんなで作って考えよう「1万人のシチズンサイエンス」プロジェクト」というセッションが開催され、多様な主体が関わるシチズンサイエンスの実現に向けた検討が実施された。

3 大学改革の促進と戦略的経営に向けた機能拡張

 多様な知の結節点であり、最大かつ最先端の知の基盤である大学はSociety 5.0を牽引する役割を求められている。不確実性の高い社会を豊かな知識基盤を活用することで乗りきるため、個々の強みを伸ばし、各大学にふさわしいミッションを明確化することで、多様な大学群の形成を目指している。

❶ 国立大学法人の真の経営体への転換

 文部科学省は、第4期中期目標期間に向けて、中期目標の在り方の見直しを行い、国が総体としての国立大学法人に求める役割・機能に関する基本的事項を「国立大学法人中期目標大綱」として提示し、各法人がそれを踏まえた上で中期目標の原案を策定する取扱いとした。

 また、令和3年通常国会において、国立大学法人法を改正し、年度評価を廃止し、原則として6年間を通した業務実績を評価することとした。さらに、各国立大学法人が「国立大学法人ガバナンス・コード」への適合状況等の報告を公表しており、関係者への説明責任を果たしている。

❷ 戦略的経営を支援する規制緩和

 令和3年5月に成立した「国立大学法人法の一部を改正する法律」(令和3年5月21日法律第41号)により、学長選考会議への学長の関与の排除や学長選考会議の持つ牽制機能の明確化を行った。また、令和4年度開設予定の案件から国立大学における組織の再編手続を簡素化している。

 さらに、累次の税制改正によって国立大学法人に対する寄附の促進を図っているほか、国立大学法人会計基準については、損益均衡会計の廃止等、多様なステークホルダーからも理解しやすくするとともに、目的積立金を含む繰越に関連する制度のあり方について検討し、施設設備の取替更新のための資金を積み立てることを可能とする改正を行った。

 内閣府では、大学関係者、産業界及び政府による「大学支援フォーラムPEAKS(※223)」を令和元年5月に設立し、大学における経営課題や解決策等について具体的に議論を行い、イノベーション創出につながる好事例の水平展開、規制緩和等の検討、大学経営層の育成を進めている。

❸ 10兆円規模の大学ファンドの創設

1.10兆円規模の大学ファンドの創設

 近年、我が国の研究力は、諸外国と比較して相対的に低下している状況にあり、その一因は、特に欧米のトップレベル大学において、数兆円規模のファンドの運用益を活用し、研究基盤や若手研究員への投資を充実していることにあると指摘されている。このため、我が国においても、世界と伍(ご)する研究大学の実現のため、国の資金を活用して10兆円規模の大学ファンドを創設し、令和3年度からその運用を開始した。

 大学ファンドに関する具体的な制度設計については、内閣府の総合科学技術・イノベーション会議(CSTI(※224))の専門調査会や、文部科学省において開催された世界と伍する研究大学の実現に向けた制度改正等のための検討会議における議論を踏まえ、令和4年2月1日、CSTIにて「世界と伍する研究大学の在り方について・最終まとめ」を決定した。令和4年2月25日には、この最終まとめに基づき、世界と伍する研究大学となるポテンシャルを有し、改革を行う大学に対し、集中的に大学ファンドから助成を行う等の制度を定める「国際卓越研究大学の研究及び研究成果の活用のための体制の強化に関する法律案」が閣議決定され、令和4年5月18日、参議院本会議において可決・成立した。

 これらの取組を通じ、大学自身の明確なビジョンの下、研究基盤の抜本的強化や若手研究者に対する長期的・安定的な支援を行うことにより、我が国の研究大学における研究力の抜本的な強化につなげていくこととしている。

2.地域中核・特色ある研究大学総合振興パッケージ

 我が国の大学の研究力の底上げには、全国の大学が、個々の強みを伸ばし、各大学のミッションの下、多様な研究大学群を形成することも重要である。そのため、地域の中核大学や特定分野に強みを持つ大学が、“特色ある強み”を十分に発揮し、社会変革を牽引(けんいん)する取組を強力に支援すべく、令和4年2月に「地域中核・特色ある研究大学総合振興パッケージ」が決定された。本パッケージにより、全国に存在する我が国の様々な機能を担う多様な大学が、トップレベルの研究大学とも互いに切磋琢磨(せっさたくま)できる関係を構築し、日本全体の研究力を向上させることを目指している。今後は、総合振興パッケージの改訂を順次図り、必要な支援等について検討していく。

❹ 大学の基盤を支える公的資金とガバナンスの多様化

1.大学の基盤を支える公的資金

 令和3年度予算においては、国立大学法人運営費交付金は1兆790億円を計上しており、教育研究活動に必要な経費については、対前年度実質増額を確保するなど、教育研究の充実を図っている。

 また、令和4年度から始まる第4期中期目標期間における国立大学法人運営費交付金の在り方については、令和3年6月に取りまとめられた有識者会議の審議まとめを踏まえ、各大学のミッションを実現・加速化するための支援を充実するとともに、「成果を中心とする実績状況に基づく配分」の見直しにより、改革インセンティブの一層の向上を図ることとしている。

2.世界と伍する研究大学の実現に向けて

 また、世界と伍する研究大学の実現に向けて、文部科学省において「世界と伍する研究大学の実現に向けた制度改正等のための検討会議」を令和3年9月から開催し、同年12月に論点整理を取りまとめた。

3.国立大学法人等の施設整備

 国立大学等の施設は、将来を担う人材の育成の場であるとともに、地方創生やイノベーション創出等教育研究活動を支える重要なインフラである。一方、昭和40年~50年代に大量に整備された施設が一斉に老朽改善のタイミングを迎えている中で、老朽施設が十分に改善されていないため、安全面・機能面等で大きな課題が生じている。

 このような状況の中、文部科学省では、新たに令和3年度から令和7年度までを計画期間とする「第5次国立大学法人等施設整備5か年計画」(令和3年3月31日文部科学大臣決定)を策定した。同計画のもと、老朽改善整備等による安全確保を着実に行いつつ、キャンパス全体をソフト・ハードが一体となり、地域や産業界等の様々なステークホルダーによる共創活動が展開される「イノベーション・コモンズ(共創拠点)(※225)」の実現を目指すこととしている(第2-2-9図、第2-2-10図)

 各国立大学等における「イノベーション・コモンズ」の実現に向けて、令和3年10月より開催されている「国立大学法人等の施設整備の推進に関する調査研究協力者会議」において、先導的な共創活動の取組事例を踏まえて、現状・課題等を整理するとともに、国の支援策を含めた、更なる推進方策等を検討している。

 また、2050年カーボンニュートラルの実現に向け、地球温暖化対策計画や地域脱炭素ロードマップ等において、公共施設等におけるネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)の率先した取組が求められており、政府として2030年度以降に新築される建築物についてZEB基準の水準の省エネルギー性能の確保が目標とされている。このため、国立大学法人等における新増改築及び改修事業について、徹底した省エネルギー対策を図り、他大学や地域の先導モデルとなる施設のZEB化を推進している。

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<関連サイト>
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国立大学法人等の施設整備
https://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/kokuritu/index.htm

❺ 国立研究開発法人の機能・財政基盤の強化

 平成26年に「独立行政法人通則法」(平成11年法律第103号。以下「独法通則法」という。)が改正され、独立行政法人のうち我が国における科学技術の水準の向上を通じた国民経済の健全な発展その他の公益に資するため研究開発の最大限の成果を確保することを目的とした法人を国立研究開発法人と位置付けた(令和4年3月31日現在で27法人)。さらに、平成28年には「特定国立研究開発法人による研究開発等の促進に関する特別措置法」(平成28年法律第43号)が成立し、国立研究開発法人のうち、世界最高水準の研究開発成果の創出・普及及び活用を促進し、イノベーションを牽引する中核機関として、物質・材料研究機構、理化学研究所、産業技術総合研究所が特定国立研究開発法人に指定された。

 また、研究開発力強化法が平成30年に改正され、名称を「科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律」とするほか、出資等業務を行うことができる研究開発法人及びその対象となる事業者の拡大、研究開発法人等による法人発ベンチャー支援に際しての株式等の取得・保有の可能化等が規定された。令和2年6月には同法が改正され、成果を活用する事業者等に出資可能な研究開発法人が更に拡大するとともに、研究開発法人の出資先事業者において共同研究等が実施できる旨が明確化された。また、本改正を受けて、令和3年4月に内閣府及び文部科学省において「研究開発法人による出資等に係るガイドライン」(平成31年1月17日内閣府科学技術・イノベーション推進事務局統括官、文部科学省 科学技術・学術政策局長決定)を改定した。本改正により、研究開発法人等を中心とした知識・人材・資金の好循環が実現し、科学技術・イノベーション創出の活性化がより一層促進されることが期待されている。

第3節 一人ひとりの多様な幸せ(well-being)と課題への挑戦を実現する教育・人材育成

 Society 5.0を実現するためには、これを担う人材が鍵である。このため第6期基本計画では、自ら課題を発見し、解決手法を模索する、探究的な活動を通じて身に付く能力や資質が重要としており、それらを磨き高めることで、多様な幸せを追求し、課題に立ち向かう人材を育成することを目指している。その実現に向け、政府で行っている施策を報告する。

❶ STEAM教育の推進による探究力の育成強化

 文部科学省は、令和4年度から年次進行で実施される高等学校新学習指導要領に基づき、「理数探究」や「総合的な探究の時間」等における問題発見・課題解決的な学習活動の充実を図るため、その趣旨を周知した。なお、理数教育の充実に向けた取組として、「理科教育振興法」(昭和28年法律第186号)に基づく観察・実験に係る実験器具等の設備整備の補助や、理科観察・実験アシスタントの配置の支援も引き続き実施している。

 また、先進的な理数系教育を実施する高等学校等を「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」に指定し、科学技術振興機構による支援を通じて、生徒の科学的な探究能力等を培い、将来、国際的に活躍し得る科学技術人材等の育成を図っている。具体的には、SSH指定校は、大学や研究機関等と連携しながら課題研究の推進、理数系に重点を置いたカリキュラムの開発・実施等を行い、創造性豊かな人材の育成に取り組んでいる。令和3年度においては、全国218校のSSH指定校が特色ある取組を進めている。

 科学技術振興機構は、意欲・能力のある高校生を対象とした国際的な科学技術人材を育成するプログラムの開発・実施を行う大学を「グローバルサイエンスキャンパス(GSC)」において選定し、支援している。平成29年度からは、理数分野で特に意欲や突出した能力を有する小中学生を対象に、その能力の更なる伸長を図るため、大学等が特別な育成プログラムを提供する「ジュニアドクター育成塾」を開始した。

 また、数学、化学、生物学、物理、情報、地学、地理の国際科学オリンピックや国際学生科学技術フェア(ISEF(※226))等の国際科学技術コンテストの国内大会の開催や、国際大会への日本代表選手の派遣、国際大会の日本開催に対する支援等を行っている(第2-2-11図)

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 令和3年度は、全国の高校生等が学校対抗・チーム制で理科・数学等における筆記・実技の総合力を競う場として、中学生を対象とした「第9回科学の甲子園ジュニア全国大会」(令和3年12月3日)が各都道府県会場で分散開催され、東京都代表チームが優勝した(第2-2-12図)。また、高校生等を対象とした「第11回科学の甲子園全国大会」(令和4年3月19日)が各都道府県会場で分散開催され、東京都代表の筑波大学附属駒場高等学校が優勝した(第2-2-13図)

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 文部科学省では、大学生等の研究能力や研究意欲の向上とともに、創造性豊かな科学技術人材育成を目的として「サイエンス・カンファレンス」を開催し、ポータルサイト上での自主研究の発表動画・発表ポスターの画像の掲載や交流に加え、研究者等による講演、科学コンテスト等優秀者による研究発表、トークセッション、意見交換会で構成するオンラインイベントを実施した。

 文部科学省、特許庁、日本弁理士会及び工業所有権情報・研修館は、生徒・学生の知的財産に対する理解と関心を深めるため、高等学校、高等専門学校及び大学等の生徒・学生を対象としたパテントコンテスト及びデザインパテントコンテストを開催している。コンテストに応募された発明・意匠のうち優れたものについて表彰を行うとともに、生徒・学生が行う実際の特許出願・意匠登録出願から権利取得までの過程を支援している。なお、コンテストに応募した生徒・学生が所属する学校のうち、本コンテストに際し積極的な取組を行い、生徒・学生の知的財産マインドの向上を図るとともに知的財産制度への理解を深める努力を行った学校に対しては、文部科学省から表彰を行っている。

 内閣府では、総合科学技術・イノベーション会議に中央教育審議会の委員の参画を得た有識者会議を設置し、イノベーションの源泉となるSTEAM(※227)教育の充実に向けた省庁横断的な具体策の検討を進め、政策パッケージを策定した。

❷ 外部人材・資源の学びへの参画・活用

 文部科学省は、高等学校が自治体、高等教育機関、産業界等と協働して、地域課題の解決等の探究的な学びを実現する取組を推進するため、「地域との協働による高等学校教育改革推進事業」を実施し、その成果普及のための全国サミット等を実施した。

 また、令和3年5月に「特別免許状に係る教育職員検定等に関する指針」を改訂し、都道府県教育委員会に対して特別免許状の活用を促した。特別免許状や特別非常勤講師制度については「令和の日本型学校教育」の実現に向けて多様な専門性を有する質の高い教職員集団を構築する観点から、複線化された入職ルートとして、より一層機能させていく必要があるため中央教育審議会において検討を行っている。

❸ 教育分野におけるDXの推進

 GIGA(※228)スクール構想に基づくICT(※229)環境の整備がおおむね完了し、1人1台端末環境下での新たな学びが始まっている。

 教育現場においては、教員のICT活用を支援する「ICT支援員(情報通信技術支援員)」の配置促進に向けて、支援事例等を掲載したリーフレットを配布するとともに、学校教育法施行規則の一部を改正(令和3年8月23日公布・施行)し、情報通信技術支援員として、名称と職務内容を明確にした。

 また、高等学校情報科等における外部人材の活用促進に向けて、外部人材を活用した授業を行う際の指導モデルや研修カリキュラムを示した手引きを公表・周知した。

 教育データについては、効果的な活用に向けてデータの標準化を推進する観点から、文部科学省では、令和2年に「教育データ標準」の第1版として「学習指導要領コード」及び「学校コード」を公表したほか、令和3年12月には、これまでの制度に基づき学校において普遍的に活用されてきた「主体情報」を中心に定義し、「教育データ標準」(第2版)として公表した。

 全国の公立学校における、教員の業務分担の軽減を可能とする統合型校務支援システムの導入については平成30年度からの地方財政措置が講じられており、平成30年3月現在は52.5%、令和3年3月現在は73.5%と着実に増加している。GIGAスクール構想による1人1台端末が整備されたことにより、校務でのICT機器やシステムの利用の状況が変化してきていることもあり、「GIGAスクール構想の下での校務の情報化の在り方に関する専門家会議」を令和3年12月に立ち上げ、今後の校務の情報化の在り方を検討している。

❹ 人材流動性の促進とキャリアチェンジやキャリアアップに向けた学びの強化

 厚生労働省と文部科学省は、令和4年度に「job tag(職業情報提供サイト(「日本版O-NET」))」(以下、「job tag」という。)と、大学等における社会人向けプログラムを紹介するサイト(「マナパス」)との機能面での連携を実施するため、準備を進めている。令和3年度は、マナパスに掲載されている一部の正規課程・履修証明プログラムにおいて、「マナパス」側から「job tag」の職業情報との情報連携を行った(令和4年3月時点)。

 文部科学省は、大学等における実践的な工学教育に向けた取組を推進しており、各大学では、例えば、連携する企業における課題を用いた課題解決型学習や、産業社会構造を見据えた分野を融合した教育など、教育内容や方法の質的充実に向けた取組が進められている。また、文部科学省は、科学技術に関する高等の専門的応用能力を持って計画や設計等の業務を行う者に対し、「技術士」の資格を付与する「技術士制度」を設けている。技術士試験は、理工系大学卒業程度の専門的学識等を確認する第一次試験(令和3年度合格者数5,313名)と技術士にふさわしい高等の専門的応用能力を確認する第二次試験(同2,659名)から成る。令和3年度第二次試験の部門別合格者は第2-2-14表のとおりである。

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 科学技術振興機構は、技術者が科学技術の基礎知識を幅広く習得することを支援するために、科学技術の各分野及び共通領域に関するインターネット自習教材(※230)を提供している。

 文部科学省及び経済産業省は、人材の流動性を高める上で、クロスアポイントメント制度の導入を促進している(第2章第1節4❺参照)。また、平成28年11月に策定された「産学官連携による共同研究強化のためのガイドライン」、令和2年6月に取りまとめた追補版、及び令和4年3月に公表したFAQにおいてもクロスアポイントメントを促進している。

❺ 学び続けることを社会や企業が促進する環境・文化の醸成

 職業人生の長期化や働き方の多様化、また、デジタル化等の産業構造の変化に伴い、個人のキャリアアップ・キャリアチェンジのため、リカレント教育を推進する必要性が高まっている。その際、企業における人材育成の取組の推進や教育機関におけるリカレント教育プログラムの充実など、幅広い観点から必要な施策を講じていく必要がある。このため、内閣府、文部科学省、厚生労働省及び経済産業省を構成員とした検討の場を設置し、関係府省庁の人材育成施策についての情報共有等を行っている。

 また、文部科学省はリカレント教育を推進する社会の機運を高めるため、リカレント教育の社会人受講者数のほか、その教育効果や社会への影響を評価できる指標を開発することとし、リカレント教育に係る委託事業の取組内容や成果を踏まえるとともに、教育界、産業界等の意見を踏まえ関係省庁と連携して検討を進めている。

❻ 大学・高等専門学校における多様なカリキュラム、プログラムの提供

 国立大学法人に対しては、「国立大学法人ガバナンス・コード」において、各国立大学法人に対し、学生が享受した教育成果を示す情報の公表を求めている。

 文部科学省は、全学的な教学マネジメントの確立等を実現しつつ、今後の社会や学術の新たな変化や展開に対して柔軟に対応し得る能力を有する幅広い教養と深い専門性を両立した人材育成を支援する「知識集約型社会を支える人材育成事業」を実施している。令和3年度には、文理横断・学修の幅を広げる教育プログラムや、出る杭(くい)を引き出す教育プログラムの構築を行う大学の取組を引き続き支援するとともに、授業科目を絞り込み、質と密度の高い学修の実現を目指す取組について公募を行い、3件を採択した。また、平成30年度より、卓越した博士人材を育成するとともに、人材育成・交流及び新たな共同研究が持続的に展開される卓越した拠点を形成するため、各大学が自身の強みを核に、これまでの大学院改革の成果を生かし国内外の大学・研究機関・民間企業等と組織的な連携を行いつつ、世界最高水準の教育力・研究力を結集した5年一貫の博士課程教育プログラムを構築することを支援する「卓越大学院プログラム」を実施し、令和2年度までに17大学30プログラムを採択している。

 さらに、令和3年5月に成立した国立大学法人法の一部を改正する法律により、全ての国立大学法人が大学の研究成果を活用したコンサルティング、研修・講習等を実施する事業者へ出資することを可能としている。

 高等専門学校では、中学校卒業後からの5年一貫の専門的・実践的な技術者教育を特徴とし、他分野との連携強化、社会ニーズを踏まえた教育、海外で活躍できる能力の向上等の取組を通じて技術者の育成を進めている。

❼ 市民参画など多様な主体の参画による知の共創と科学技術コミュニケーションの強化

1.公的機関等の取組

 文部科学省は科学技術週間(令和3年4月12日から18日)に合わせて、大人から子供まで、広く科学技術への関心を深めるため「一家に1枚 海 ~その多様な世界~」を全国の小中高校、科学館・博物館等へ配布するとともに、紙面上で紹介した海に関する様々な出来事や課題等を詳しく解説する特設ウェブサイトを設置、更に学びを深めることができる取組を行った。また、令和4年度版として「一家に1枚 ガラス ~人類と歩んできた万能材料~」を制作、令和4年3月に公表した。

 農林水産省は、消費者等を対象に研究者等の専門家を派遣して行う、農林水産分野の先端技術の研究開発に関する出前授業や、消費者等を対象としたゲノム編集研究施設の見学会の実施、ウェブサイトを活用した情報発信等のアウトリーチ活動を行っている。また、所管する国立研究開発法人は、一般公開や市民講座等を実施し、国民との双方向のコミュニケーション等を意識した研究活動の紹介や成果の展示等の普及啓発に努めている。

 宇宙航空研究開発機構は、青少年の人材育成の一環として「コズミックカレッジ」や連携授業やセミナー等の宇宙を素材とした様々な教育支援活動等を行っている。

 理化学研究所は、より多くの国民に対して最新の研究成果等の理解増進を図るため、冊子の作成や動画などをウェブサイト上で公開しているほか、オンラインイベントを開催している。また、本を通じて科学の面白さ、深さ、広さを紹介する取組として「科学道100冊」を全国の中学校・高校、公共図書館等に展開するなど、様々なアウトリーチ活動を行っている。

 物質・材料研究機構は、一般市民及び未来の科学者たる学生・若者に向けた普及・啓発活動として、「まてりある's eye」と題した映像を動画サイトに公開し、研究紹介に積極的に取り組むなど、科学に対する理解と興味を広める活動に力を注いでいる。

 海洋研究開発機構は、研究開発の理解増進を図るため、オンラインコンテンツを活用したアウトリーチ活動や、将来の海洋人材の裾野拡大を目指した若年層向けの「マリン・ディスカバリー・コース」を実施している。また、「GIGAスクール特別講座」における深海探査等を通じて、国民の海洋環境や深海生物への理解増進に努めた。

 産業技術総合研究所は、展示施設を常設し、バーチャルを含む各種イベントへの出展や実験教室・出前講座など、科学技術コミュニケーション事業を積極的に推進している。さらに、最新の研究成果を分かりやすく説明する動画やウェブコンテンツを作成・公開し、情報発信に努めている。

<参考URL>各機関の動画サイト
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○理研チャンネル
https://www.youtube.com/user/rikenchannel

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○物質・材料研究機構ビデオライブラリ
https://www.nims.go.jp/publicity/digital/movie/index.html

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○産業技術総合研究所動画ライブラリ
https://www.aist.go.jp/aist_j/media/video/video_main.html

 そのほか、各大学や公的研究機関は、研究成果について広く国民に対して情報発信する取組等を行っている。

 なお、総合科学技術・イノベーション会議は、1件当たり年間3,000万円以上の公的研究費の配分を受ける研究者等に対して、研究活動の内容や成果について国民との対話を行う活動を積極的に行うよう促している。

 国立国会図書館は、所蔵資料のデジタル化及び全文テキストデータ化に取り組むとともに、国民共有の知識・情報資源へのアクセス向上と利活用促進のため、全国の図書館、学術研究機関等が提供する資料、デジタルコンテンツ等を統合的に検索可能なデータベース(国立国会図書館サーチ)を提供している。

<参考URL>
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○国立国会図書館サーチ https://iss.ndl.go.jp

コラム2-14 日々身近に感じたい科学技術・イノベーションの世界 -情報サイト「サイエンスポータル」-

 大人になってから、科学の基本知識が変わっていることに驚かされることがある。例えば、かつては学校で「光合成をする生物が植物」と習い、常識のように思ってきた。ところが今は教科書に「植物は藻類から進化した」とあり、藻類は光合成をしても植物ではないという。また200億年とも150億年とも考えられていた宇宙の年齢は、約138億年としっかり求められた。前者は生物種の親戚関係を見直した結果であり、後者は人工衛星で宇宙の温度分布を詳しく調べられるようになった成果である。
 日常生活ではスマートフォンの実力や、それによる社会生活の変化にイノベーションをひしひしと感じる。便利な技術は無数の科学者、技術者の地道な努力の結晶だ。さまざまな科学技術の展開を知るにつけ、専門家ならずとも「なぜ」「どうやって」と好奇心をかき立てられる。
 一方、令和2年以降、新型コロナウイルス感染症が世界に拡大し、さまざまな関連情報が飛び交ってきた。その真偽や解釈が課題となり、科学技術情報のあり方が改めて問われてきた。
 予測が難しい未来に向け、人類が問題を解決し繁栄を築くには、科学技術を活用しつつ、あらゆる人々が生き生きと暮らし、努力と知恵を生かし合う必要がある。私たちが情報に身近に触れ、考えていくことが大切だろう。
 こうした情報源には書籍や新聞報道、放送番組、インターネットの情報などがある。信頼できる資料の一つとして、科学技術振興機構が運用する情報サイト「サイエンスポータル」が挙げられる。平成18年に開設。科学技術の報道や読み物、動画のほか、イベント情報やプレスリリースへのリンク集などがあり、同機構の活動に限らず幅広く採り上げている。
 科学技術・イノベーションの新たな知見や展開はまず、それ自体が興味深い。加えて、人類のあり方の鍵も握っている。それらを専門家任せにせず、私たち市民の感覚で見つめていくことは、成熟した未来社会を築くことにもつながるのではないか。

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サイエンスポータルのトップページ https://scienceportal.jst.go.jp/

2.科学館・科学博物館等の活動の充実

 科学技術振興機構は、科学技術・イノベーションと社会の関係の深化に向けて、多様な主体が双方向で対話・協働する「サイエンスアゴラ」や「サイエンスポータル」を通じた情報発信などの多層的な科学技術コミュニケーション活動を推進している(第2章第2節2❸参照)。特に日本科学未来館においては、先端の科学技術と社会との関わりを来館者等と共に考える活動を展開しており、IoT(※231)やAI等の最先端技術も活用した展示やイベント等を通じて多層的な科学技術コミュニケーション活動を推進するとともに、全国各地域の科学館・学校等との連携を進めている。

 国立科学博物館は、自然史・科学技術史におけるナショナルセンターとして蓄積してきた研究成果や標本・資料などの知的・物的・人的資源を活(い)かして、未就学児から成人まで幅広い世代に自然や科学の面白さを伝え、共に考える機会を提供する展示や利用者の特性に応じた学習支援活動を実施している。さらに研究者による研究活動や展示を解説する動画の公開、各SNSによるタイムリーな情報発信にも取り組んでいる。

<参考URL>国立科学博物館の動画サイト
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〇【国立科学博物館】かはくチャンネル
https://www.youtube.com/user/NMNSTOKYO

3.日本学術会議や学協会における取組

 日本学術会議は、学術の成果を国民に還元するための活動の一環として学術フォーラムを開催しており、令和3年度は、「新型コロナウイルスワクチンと感染メカニズム」、「我が国の学術政策と研究力に関する学術フォーラム」や「カーボンニュートラル実現に向けた学術の挑戦」等の広範囲なテーマについて計13回開催した。

 大学などの研究者を中心に自主的に組織された学協会は、研究組織を超えた人的交流や研究評価の場として重要な役割を果たしており、最新の研究成果を発信する研究集会などの開催や学会誌の刊行等を通じて、学術研究の発展に大きく寄与している。

 日本学術振興会は、学協会による国際会議やシンポジウムの開催及び国際情報発信力を強化する取組などに対して、科学研究費助成事業「研究成果公開促進費」による助成を行っている。


  • ※1 Cross-ministerial Strategic Innovation Promotion Program
  • ※2 https://cio.go.jp/sites/default/files/uploads/documents/digital/20220304_policies_data_strategy_outline_01.pdf
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  • ※3 Ehical, Legal and Social Issues
  • ※4 Advanced Integrated Intelligence Platform
  • ※5 AI Bridging Cloud Infrastructure
  • ※6 Strategic Information and Communications R&D Promotion Programme
  • ※7 Data Free Flow with Trust
  • ※8 二酸化炭素と水素を合成して天然ガスの主成分であるメタンを合成する技術
  • ※9 Sustainable Aviation Fuel
  • ※10 Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage
  • ※11 CO2 Ultimate Reduction System for Cool Earth 50
  • ※12 Carbon Capture and Storage
  • ※13 Carbon dioxide Capture and Utilization
  • ※14 Sustainable Aviation Fuel
  • ※15 Alcohol To Jet
  • ※16 Fischer-Tropsch
  • ※17 Hydroprocessed Esters and Fatty Acids
  • ※18 Advanced Low Carbon Technology Research and Development Program
  • ※19 Application Programming Interface
  • ※20 生物的硝化抑制
  • ※21 間断かんがい技術
  • ※22 Global Earth Observation System of Systems
  • ※23 Group on Earth Observations
  • ※24 Global Change Observation Mission-Climate
  • ※25 Global Change Observation Mission-Water
  • ※26 Advanced Land Observing Satellite - 2
  • ※27 Advanced Land Observing Satellite - 3
  • ※28 Advanced Land Observing Satellite - 4
  • ※29 Greenhouse gases Observing SATellite
  • ※30 Advanced Microwave Scanning Radiometer 3
  • ※31 Total Anthropogenic and Natural emissions mapping SpectrOmeter-3
  • ※32 Global Observing SATellite for Greenhouse gases and Water cycle
  • ※33 全世界の海洋を常時観測するため、日本、米国等30以上の国や世界気象機関(WMO:World Meterological Organization)、ユネスコ政府間海洋学委員会(IOC:Intergovernmental Oceanographic Commission)等の国際機関が参加する国際プロジェクト
  • ※34 Arctic Challenge for Sustainability
  • ※35 Arctic Challenge for Sustainability Ⅱ
  • ※36 Intergovernmental Panel on Climate Change
  • ※37 Japan Aerospace Exploration Agency
  • ※38 VIsualization Service of Horizontal scale Observations at Polar region
  • ※39 Data Integration and Analysis System
  • ※40 ペロブスカイトと呼ばれる結晶構造を持つ物質を使った我が国発の太陽電池。塗布や印刷などの簡易なプロセスが適用できるため、製造コストの大幅低減が期待されている。
  • ※41 Integrated Coal Gasification Fuel Cell Combined Cycle
  • ※42 Carbon dioxide Capture and Utilization/Carbon Recycling
  • ※43 International Atomic Energy Agency
  • ※44 Preparatory Commission for the Comprehensive Nuclear-Test-Ban Treaty Organization
  • ※45 Advanced Nuclear Education Consortium for the Future Society
  • ※46 使用済燃料から再処理によって分離されたプルトニウムをウランと混ぜて、混合酸化物燃料に加工し、使用すること
  • ※47 Sustainable Development Goals
  • ※48 Regional Cooperative Agreement for Research, Development and Training Related to Nuclear Science and Technology
  • ※49 Peaceful Uses Initiative
  • ※50 OECD Nuclear Energy Agency
  • ※51 Forum for Nuclear Cooperation in Asia
  • ※52 Generation IV International Forum
  • ※53 日本・欧州・米国等の7極35か国による国際約束に基づき、核融合実験炉の建設・運転を通じて、その科学的・技術的実現可能性を実証する国際共同プロジェクト
  • ※54 Broader Approach
  • ※55 臨界プラズマ試験装置JT-60を平成20年8月に運転停止し、改修のため解体し、令和2年3月に組立完了。現在は運転開始に向けた調整を実施
  • ※56 net Zero Energy House
  • ※57 net Zero Energy Building
  • ※58 Home Energy Management Service
  • ※59 Building and Energy Management System
  • ※60 Electric Vehicle
  • ※61 Plug-in Hybrid Electric Vehicle
  • ※62 Climate Change Adaptation Information Platform
  • ※63 全固体電池やリチウムイオン電池よりも高いエネルギー密度を有する革新型蓄電池
  • ※64 Internet of Energy
  • ※65 Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage
  • ※66 Intergovernmental science-policy Platform on Biodiversity and Ecosystem Services
  • ※67 Global Biodiversity Information Facility
  • ※68 Data and Biological Resource Platform
  • ※69 Nationwide Ocean Wave information network for Ports and HArbourS
  • ※70 http://www.mlit.go.jp/kowan/nowphas/
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  • ※71 Dense Oceanfloor Network system for Earthquakes and Tsunamis
  • ※72 Seafloor observation network for earthquakes and tsunamis along the Japan Trench
  • ※73 Nankai Trough Seafloor Observation Network for Earthquakes and Tsunamis
  • ※74 The Fundamental Volcano Observation Network
  • ※75 Monitoring of Waves on Land and Seafloor
  • ※76 雨や雪が降る前の、雲の状態を観測することができる気象レーダ
  • ※77 Phase combination Forward search
  • ※78 Integrated Particle Filter法。同時に複数の地震が発生した場合でも、震源を精度良く推定する手法。京都大学防災研究所と協力して開発
  • ※79 Propagation of Local Undamped Motion法。強く揺れる地域が非常に広範囲に及ぶ大規模地震でも、震度を適切に予測する手法
  • ※80 tsunami Forecasting based on Inversion for initial sea-Surface Height
  • ※81 令和4年3月末現在で、全国に約1,300点
  • ※82 Global Navigation Satellite System
  • ※83 Very Long Baseline Interferometry:数十億光年の彼方(かなた)から、地球に届く電波を利用し、数千kmもの距離を数mmの誤差で測る技術
  • ※84 Interferometric Synthetic Aperture Radar: 人工衛星で宇宙から地球表面の変動を監視する技術
  • ※85 Shared Information Platform for Disaster Management
  • ※86 Information SUpport Team
  • ※87 Polarimetric and Interferometric Airborne Synthetic Aperture Radar
  • ※88 Advanced Land Observing Satellite-2
  • ※89 Electronic Commerce
  • ※90 Data Integration and Analysis System
  • ※91 Superconducting Submillimeter-Wave Limb-Emission Sounder:大気の縁(リム)の方向にアンテナを向け、超伝導センサを使った高感度低雑音受信機を用いて大気中の微量分子が自ら放射しているサブミリ波(300GHzから3,000GHzまでの周波数の電波をサブミリ波という。このうち、SMILESでは、624GHzから650GHzまでのサブミリ波を使用している。)を受信し、オゾンなどの量を測定する。
  • ※92 Public/Private R&D Investment Strategic Expansion PrograM
  • ※93 Building Information Modeling/Construction Information Modeling/Management
  • ※94 CYber Defense Exercise with Recurrence
  • ※95 Cybersecurity Nexus
  • ※96 SCARDA: Strategic Center of Biomedical Advanced Vaccine Research and Development for Preparedness and Response
  • ※97 National Aeronautics and Space Administraction
  • ※98 Global Precipitation Measurement
  • ※99 Space Situational Awareness
  • ※100 Smart Lander for Investigating Moon
  • ※101 X-Ray Imaging and Spectroscopy Mission
  • ※102 Martian Moons eXploration
  • ※103 International Space Station
  • ※104 日本・米国・欧州・カナダ・ロシアの政府間協定に基づき地球周回低軌道(約400 km)上に有人宇宙ステーションを建設、運用、利用する国際協力プロジェクト
  • ※105 H-Ⅱ Transfer Vehicle
  • ※106 Hyperspectral Imager SUIte
  • ※107 Japan Agency for Marin-Earth Science and Technology
  • ※108 研究インテグリティは、研究の国際化やオープン化に伴う新たなリスクに対して新たに確保が求められる、研究の健全性・公正性を意味する。
  • ※109 詳細は第2章第1節6❺1(6)研究活動の国際化・オープン化に伴う研究の健全性・公正性(研究インテグリティ)の自律的な確保において後述。
  • ※110 Small Business Innovation Research
  • ※111 Program for Creating STart-ups from Advanced Research and Technology
  • ※112 SUpport Program of Capital Contribution to Early-Stage CompanieS
  • ※113 Plus参加9機関:新エネルギー・産業技術総合開発機構、日本医療研究開発機構、国際協力機構、科学技術振興機構、農業・食品産業技術総合研究機構、日本貿易振興機構、情報処理推進機構、産業技術総合研究所、中小企業基盤整備機構
  • ※114 Technology Licensing Organization
  • ※115 Frequently Asked Questions
  • ※116 Adaptable and Seamless Technology transfer Program through targetdriven R&D
  • ※117 National Institute of Information and Communications Technology
  • ※118 Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries Research Network
  • ※119 Sustainable Development Goals
  • ※120 Center of Innovation
  • ※121 Program on Open Innovation Platform with Enterprises, Research Institute and Academia
  • ※122 Nanotech Career-up Alliance
  • ※123 Strategic Information and Communications R&D Promotion Programme
  • ※124 Exploration and Development of Global Entrepreneurship for NEXT generation
  • ※125 都市オペレーティングシステムの略。スマートシティ実現のために、スマートシティを実現しようとする地域が共通的に活用する機能が集約され、スマートシティで導入する様々な分野のサービスの導入を容易にさせることを実現するITシステムの総称
  • ※126 Association of South East Asian Nations
  • ※127 Photonic Crystal Surface Emitting Lasers
  • ※128 Light Detection And Ranging
  • ※129 Takasaki Ion Accelerators for Advanced Radiation
  • ※130 Evidence data platform constructed by Council for Science, Technology and Innovation
  • ※131 The Consortium of Human Education for Future Robot System Integration
  • ※132 Request for Information
  • ※133 令和元年度はAI技術、建設・インフラ維持管理/防災・減災技術、バイオ技術。令和2年度は量子技術を追加
  • ※134 International Organization for Standardization
  • ※135 International Electrotechnical Comission
  • ※136 Asia Pacific Economic Cooperation
  • ※137 International Telecommunication Union
  • ※138 Technical Committee
  • ※139 Patent Prosecution Highway
  • ※140 Patent Cooperation Treaty
  • ※141 https://www.meti.go.jp/policy/innovation_policy/datamanagement.html
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  • ※142 https://www.j-platpat.inpit.go.jp/
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  • ※143 Foreign Patent Information Service
    https://www.foreignsearch2.jpo.go.jp/
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  • ※144 Management of Technology
  • ※145 The meeting of the Group of Senior Officials
  • ※146 Policy Partnership for Science, Technology and Innovation
  • ※147 Cooperation on Science, Technology and Innovation
  • ※148 ASEAN-Japan Cooperation Comittee on Science and Technology
  • ※149 Asia-Pacific Regional Space Agency Forum
  • ※150 The Intergovernmental Science-Policy Platform on Biodiversity and Ecosystem Services
  • ※151 Group on Earth Observations
  • ※152 Global Earth Observation System of System
  • ※153 Asia-Oceania Group on Earth Observations
  • ※154 World Meteorological Organization
  • ※155 United Nations Environment Programme
  • ※156 Arctic Science Ministerial
  • ※157 Global Research Council
  • ※158 The National Research Foundation of South Africa
  • ※159 UN Interagenecy Task Team on STI for SDGs
  • ※160 Digital Financial Services
  • ※161 United Nations Development Programme
  • ※162 United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization
  • ※163 Intergovernmental Oceanographic Commission
  • ※164 Intergovernmental Hydrological Programme
  • ※165 Man and the Biosphere
  • ※166 International Bioethics Committee
  • ※167 Intergovernmental Bioethics Committee
  • ※168 Organisation for Economic Co-operation and Development
  • ※169 Committee for Scientific and Technological Policy
  • ※170 Committee on Digital Economy Policy
  • ※171 Committee on Industry, Innovation and Entrepreneurship
  • ※172 Nuclear Energy Agency
  • ※173 International Energy Agency
  • ※174 OECD Global Science Forum
  • ※175 Working Party on Innovation and Technology Policy
  • ※176 Working Party on Biotechnology, Nanotechnology and Converging Technologies
  • ※177 Working Party of National Experts on Science and Technology Indicators
  • ※178 International Science and Technology Center
  • ※179 Economic Research Institute for ASEAN and East Asia
  • ※180 Science and Technology Research Partnership for Sustainable Development
  • ※181 Strategic International Collaborative Research Program
  • ※182 Asia-Pacific Network for Global Change Research
  • ※183 Low Carbon Asia Research Network
  • ※184 Tokyo International Conference on African Development
  • ※185 African-Japan Collaborative Research
  • ※186 Official Development Assistance
  • ※187 Science and Technology Research Partnership for Sustainable Development
  • ※188 Support for Pioneering Research Initiated by the Next Generation
  • ※189 Doctoral course
  • ※190 Principal Investigator
  • ※191 https://jrecin.jst.go.jp
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  • ※192 Japan Graduates Database
  • ※193 National Institute of Science and Technology Policy
  • ※194 https://www.gender.go.jp/c-challenge/
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  • ※195 Restart Postdoctoral Fellowship 研究活動を再開(Restart)する博士取得後の研究者の意味
  • ※196 令和4年4月現在、59大学107拠点(国際共同利用・共同研究拠点5大学7拠点を含む。)が認定を受けて活動している。
  • ※197 Cross-border Postdoctoral Fellow
  • ※198 Broader Approach
  • ※199 H-Ⅱ Transfer Vehicle
  • ※200 International Space Station
  • ※201 International Ocean Discovery Program
  • ※202 Large Hadron Collider:欧州合同原子核研究機関(CERN)の巨大な円形加速器を用いて、宇宙創成時(ビッグバン直後)の状態を再現し、未知の粒子の発見や、物質の究極の内部構造の探索を行う実験計画であり、CERN加盟国と日本、米国等による国際協力の下で進められている。
  • ※203 High Luminosity-Large Hadron Collider
  • ※204 International Linear Collider
  • ※205 World Premier International Research Center Initiative
  • ※206 Okinawa Institute of Science and Technology Graduate University
  • ※207 Accreditation of Partnership on Research Assistance Service
  • ※208 National Institute of Infomatics
  • ※209 Japan Science and Technology information Aggregator, Electronic
  • ※210 Japan Agricultural Sciences Index
  • ※211 Japan Integrated Biodiversity Information System
  • ※212 Science Information NETwork
  • ※213 Giga bit per second:ビットパーセカンド(bps)はデータ伝送速度の単位の一つで1秒間に何ビットのデータを伝送できるかを表す。毎秒10億ビット(1ギガビット)のデータを伝送できるのが1Gbpsである。
  • ※214 Super Photon ring-8 GeV
  • ※215 SPring-8 Angstrom Compact free electron LAser
  • ※216 線形加速器からの電子ビームをパルスごとに複数のビームラインに振り分けることで、複数のビームラインを同時に利用可能
  • ※217 Japan Proton Accelerator Research Complex
  • ※218 素粒子の一つ。電気的に中性で物質を通り抜けるため検出が難しく、質量などその性質は未知の部分が多い。
  • ※219 Application Programming Interface
  • ※220 Medical genomics Japan Variant Database
  • ※221 Advanced Innovation powered by Mathematics Platform
  • ※222 Interdisciplinary Theoretical and Mathematical Sciences Program
  • ※223 Leaders' Forum on Promoting the Evolution of Academia for Knowledge Society
  • ※224 Council for Science, Technology and Innovation
  • ※225 イノベーション・コモンズとは、教育、研究、産学連携、地域連携など様々な分野・場面において、学生、研究者、産業界、自治体など様々なプレーヤーが対面やオンラインを通じて、交流・対話し、共創することで、新たな価値を創造できるキャンパスのこと
  • ※226 International Science and Engineering Fair
  • ※227 Science, Technology, Engineering, Art(s) and Mathematics
  • ※228 Global and Innovation Gateway for All
  • ※229 Information and Communication Technology
  • ※230 https://jrecin.jst.go.jp/
    画像
  • ※231 Internet of Things

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