第3章 経済・社会的課題への対応_第1節-第2節

 第5期基本計画において、目指すべき課題として掲げた「持続的な成長と地域社会の自律的な発展」、「国及び国民の安全・安心の確保と豊かで質の高い生活の実現」及び「地球規模課題への対応と世界の発展への貢献」を実現していくため、科学技術・イノベーションを総動員し戦略的に課題の解決に取り組んでいくこととしている。また、東日本大震災をはじめ、各地の災害からの復興状況等に鑑み、国や地方自治体等が一体となり、新技術や被災地の新産業につながる取組を進めることとしている。

第1節 持続的な成長と地域社会の自律的な発展

 我が国の持続的な成長のためには、現在そして将来の我が国が直面する社会コストの増大に適切な対応を図っていくことが必要であり、資源の安定的な確保、超高齢化等に対応した持続可能な社会の実現に向けた科学技術・イノベーションの取組を進めている。
 環境エネルギー分野については、「革新的環境イノベーション戦略」(令和2年1月21日 統合イノベーション戦略推進会議決定)を踏まえて、過去のストックベースでの二酸化炭素削減(ビヨンド・ゼロ)を可能とする革新的技術の確立を目指し、検討を深めている。
 また、令和2年10月に総理所信表明演説で表明された「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けて、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を令和2年12月に策定し、2兆円の基金や税、規制・標準化、国際連携などの様々な政策ツールを総動員して、革新的技術の社会実装を推進することとしている。

❶ エネルギー、資源、食料の安定的な確保

(1) エネルギーの安定的な確保とエネルギー利用の効率化
ア クリーンなエネルギー供給の安定化と低コスト化
(ア)太陽光発電システムに係る発電技術
 経済産業省は、薄型軽量のため設置制約を克服できるペロブスカイト太陽電池(※1)等の革新的な新構造太陽電池の実用化へ向けた要素技術、太陽光発電システム全体の効率向上を図るための周辺機器高機能化や維持管理技術、低コストリサイクル技術の開発を行っている。
 科学技術振興機構は、「戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発(ALCA(※2))」及び「未来社会創造事業『地球規模課題である低炭素社会の実現』領域」において、温室効果ガス削減に大きな可能性を有し、かつ従来技術の延長線上にない革新的技術の研究開発を競争的環境下で推進しており、その中で革新的な太陽光利用に係る研究開発を推進している。

(イ)浮体式洋上風力発電システムに係る発電技術
 経済産業省は、浮体式洋上風力発電システムの導入拡大に向け、浮体式特有の安全性・信頼性・経済性を検証する福島県沖における複数基による実証事業や、浮体式洋上風力発電システム技術の確立を目指した北九州市沖での新技術を活用した実証事業等を進めている。
 環境省は、我が国で初となる2MW(メガワット)浮体式洋上風力発電機の開発・実証を行い、関連技術等を確立した。本技術開発・実証の成果として、平成28年より国内初の洋上風力発電の商用運転が開始されており、風車周辺に新たな漁場が形成されるなどの副次効果も生じている。令和2年度は、前年度に続き、浮体式洋上風力発電の本格的な普及拡大に向け、施工を低炭素化・高効率化する新たな施工手法等の確立を目指す取組を行った。また、新たに浮体式洋上風力発電の早期普及に貢献するための情報や、地域が浮体式洋上風力発電によるエネルギーの地産地消を目指すに当たって必要な各種調査、当該地域における事業性・二酸化炭素削減効果の見通しなどを検討し、脱炭素化ビジネスが促進されるよう取組を行った。
 国土交通省は、浮体式洋上風力発電施設のコスト低減に向けて、平成30年度より安全性を確保しつつ浮体構造や設置方法の簡素化等を実現するための設計・安全評価手法を検討しているところ、令和2年度からは検査の効率化を実現するための手法を検討している。

(ウ)地熱発電及びその他再エネの発電等に係る技術開発
 経済産業省は、地熱発電について、資源探査の段階における高いリスクやコスト、発電段階における運転の効率化や出力の安定化といった課題を解決するため、探査精度と掘削速度を向上する技術開発や、開発・運転を効率化、出力を安定化する技術開発を行っている。また、発電能力が高く開発が期待されている次世代の地熱発電(超臨界地熱発電)に関する詳細事前検討を行っている。
 環境省は、地球温暖化の防止に向け、革新技術の高度化・社会実装を図り、必要な技術イノベーションを推進するため、再生可能エネルギーの利用、エネルギー使用の合理化だけでなく、窒化ガリウム(GaN)やセルロースナノファイバー(CNF)といった省二酸化炭素性能の高い革新的な部材・素材の活用によるエネルギー消費の大幅削減、燃料電池や水素エネルギー、蓄電池、二酸化炭素回収・有効利用・貯留(CCUS(※3))等に関連する技術の開発・実証、普及を促進した。

(エ)高効率火力発電システム及び石炭利用技術の開発
 経済産業省は、石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC(※4))の実証事業や要素技術開発(大容量燃料電池の開発等)、高効率ガスタービン技術の開発・実証事業等、石炭・LNG(※5)火力における更なる高効率発電技術の開発を実施している。また、火力発電から発生する二酸化炭素の効率的な分離回収・有効利用(CCU/カーボンリサイクル(※6))技術等の開発を行っている。

(オ)その他技術開発
 経済産業省は、国内製油所のグリーン化に向けて、重質油の組成を分子レベルで解明し反応シミュレーションモデル等を組み合わせたペトロリオミクス技術を活用して、重質油等の成分と反応性を事前に評価することにより、二次装置の稼働を適切に組み合わせ、製油所装置群の非効率な操業を抑制し、二酸化炭素排出量の削減に寄与する革新的な石油精製技術の開発等を進めている。

(カ)原子力に関する研究開発等
ⅰ)原子力利用に係る安全性・核セキュリティ向上技術
 経済産業省は、「原子力の安全性向上に資する技術開発事業」により、東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所の事故で得られた教訓を踏まえ、原子力発電所の包括的なリスク評価手法の高度化等、更なる安全対策高度化に資する技術開発及び基盤整備を行っている。また、我が国は、国際原子力機関(IAEA(※7))、米国等と協力し、核不拡散及び核セキュリティに関する技術開発や人材育成における国際協力を先導している。日本原子力研究開発機構は「核不拡散・核セキュリティ総合支援センター」を設立し、核不拡散及び核セキュリティに関する研修等を行うとともに、IAEAとの核セキュリティ分野における人材育成に係る取決めに基づき、研修カリキュラムの共同開発、講師の相互派遣、人材育成に関する情報交換等を行っている。また、中性子を利用した核燃料物質の非破壊測定、不法な核物質の起源が特定可能な核鑑識の技術開発等を行うとともに、包括的核実験禁止条約機関(CTBTO(※8))との希ガス観測プロジェクトに基づく幌延(ほろのべ)及びむつでの観測を通して核実験検知能力の向上に貢献している。

ⅱ)原子力基礎・基盤研究開発
 文部科学省は、原子力研究開発・基盤・人材作業部会において、原子力利用の安全性・信頼性・効率性を抜本的に高める新技術等の開発や、産学官の垣根を超えた人材・技術・産業基盤の強化に向けた研究開発・基盤整備・人材育成等の課題について、総合的に検討を行った。この検討結果を踏まえ、令和2年度から「原子力システム研究開発事業」では、原子力イノベーション創出につながる新たな知見の獲得や課題解決を目指し、将来の社会実装に向けて取り組むべき戦略的なテーマを設定し、経済産業省と連携して我が国の原子力技術を支える戦略的な基礎・基盤研究を推進した。
 日本原子力研究開発機構は、核工学・炉工学、燃料・材料工学、原子力化学、環境・放射線科学、分離変換技術開発、計算科学技術、先端原子力科学等の基礎・基盤研究を行っている。また、発電、水素製造など多様な産業利用が見込まれ、固有の安全性を有する高温ガス炉について、安全性の高度化、原子力利用の多様化に資する研究開発等を推進した。

ⅲ)革新的な原子力技術の開発
 原子力は実用段階にある脱炭素化の選択肢であり、安全性等の向上に加え、多様な社会的要請に応える原子力技術のイノベーションを促進することが重要である。経済産業省は令和元年度より「社会的要請に応える革新的な原子力技術開発支援事業」により、民間企業等による安全性・経済性・機動性に優れた原子力技術の開発の支援を開始した。

ⅳ)原子力人材の育成・確保
 原子力人材の育成・確保は、原子力分野の基盤を支え、より高度な安全性を追求し、原子力施設の安全確保や古い原子力発電所の廃炉を円滑に進めていく上で重要である。
 文部科学省は、「国際原子力人材育成イニシアティブ事業」により、産学官の関係機関が連携し、人材育成資源を有効に活用することによる効果的・効率的・戦略的な人材育成の取組を支援している。令和2年度より事業の大幅な見直しを行い、これまで各機関の取組を個別に支援していたのに対し、大学や研究機関等の複数機関が連携してコンソーシアムを形成し、拠点として一体的に人材を育成する体制の構築を支援している。また、「英知を結集した原子力科学技術・人材育成推進事業(以下「英知事業」という。)」において、日本原子力研究開発機構の「廃炉環境国際共同研究センター」を中心に、東電福島第一原子力発電所の廃止措置現場のニーズを踏まえた人材育成の取組を推進している。また、平成28年12月の原子力関係閣僚会議において、高速増殖原型炉もんじゅを廃止措置する旨の政府方針を決定した際、将来的に「もんじゅ」サイトを活用し、新たな試験研究炉を設置するとしていたところ。平成29年度から設置すべき炉型等の調査委託を実施し、審議会等を通じて検討した結果、中性子ビーム利用を主目的とした試験研究炉を選定し、令和2年から概念設計及び運営の在り方の検討を開始した。
 経済産業省は、「原子力の安全性向上を担う人材の育成事業委託費」により、東電福島第一原子力発電所の廃止措置や既存原子力発電所の安全確保等のため、原子力施設のメンテナンス等を行う現場技術者や、産業界等における原子力安全に関する人材の育成を支援している。

ⅴ)東電福島第一原子力発電所の廃止措置技術等の研究開発
 経済産業省、文部科学省及び関係省庁等は、東電福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けて、「東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」(令和元年12月27日改訂)に基づき、連携・協力しながら対策を講じている。この対策のうち、燃料デブリの取り出し技術の開発や原子炉格納容器内部の調査技術の開発等の技術的難易度が高く、国が前面に立って取り組む必要がある研究開発については、事業者を支援している。
 文部科学省は、「東京電力(株)福島第一原子力発電所の廃止措置等研究開発の加速プラン」(平成26年6月公表)に基づき、国内外の英知を結集し、安全かつ着実に廃止措置等を実施するため、基礎・基盤的な研究開発や人材育成の取組を推進している。具体的には、廃炉環境国際共同研究センターにおいて、福島県双葉郡富岡町に整備した「国際共同研究棟」を活用しつつ、燃料デブリの取扱いや放射性廃棄物の処理・処分、事故進展シナリオ解明等の基礎・基盤的な研究を実施している。さらに、平成27年度から実施している英知事業について、平成30年度からは本事業の運用体制を文部科学省の委託事業から、日本原子力研究開発機構を対象とする補助金事業に移行し、廃炉環境国際共同研究センターを中核として原子力分野だけでなく様々な分野の優れた知見や経験を、大学や研究機関、企業等の組織の垣根を超えて緊密に融合・連携させることにより、中長期的な廃炉現場のニーズに対応する研究開発及び人材育成の取組を推進している。
 また、廃炉に関する技術基盤を確立するための拠点整備も進めており、日本原子力研究開発機構においては、遠隔操作機器・装置の開発・実証施設(モックアップ施設)として「楢葉(ならは)遠隔技術開発センター」(福島県双葉郡楢葉(ならは)町)が、平成28年4月から本格運用を開始している。加えて、燃料デブリや放射性廃棄物などの分析手法、性状把握、処理・処分技術の開発等を行う「大熊分析・研究センター」(福島県双葉郡大熊町)が平成30年3月に一部施設の運用を開始している。さらに、同センターを活用した分析実施体制の構築に向け、第1棟・第2棟の整備を進めている。

ⅵ)核燃料サイクル技術
 「エネルギー基本計画」(平成30年7月閣議決定)においては、「使用済燃料の処理・処分に関する課題を解決し、将来世代のリスクや負担を軽減するためにも、高レベル放射性廃棄物の減容化・有害度低減や、資源の有効利用等に資する核燃料サイクルについて、これまでの経緯等も十分に考慮し、引き続き関係自治体や国際社会の理解を得つつ取り組むこととし、再処理やプルサーマル(※9)等を推進する」こととしており、また、「米国や仏国等と国際協力を進めつつ、高速炉等の研究開発に取り組む」との方針としている。
 高速増殖原型炉もんじゅについては、平成28年12月に開催された原子力関係閣僚会議において、原子炉としての運転は再開せず、廃止措置に移行することとされた。現在、廃止措置計画(平成30年3月原子力規制委員会認可)に基づき、原子力機構において廃止措置に取り組んでいる。まずは、安全確保を最優先に令和4年末までに炉心から燃料池までの燃料体取出し作業を終了することとしている。平成30年8月からは燃料体の炉外燃料貯蔵槽から燃料池への移送を開始し、令和元年9月からは燃料体の炉心から炉外燃料貯蔵槽への移送を開始した。今後も「もんじゅ」の廃止措置については、立地地域の声に向き合いつつ、安全、着実かつ計画的に進めていくこととしている。

ⅶ)放射性廃棄物処理処分に向けた技術開発等
 高レベル放射性廃棄物の大幅な減容や有害度の低減に資する可能性のある研究開発として、高速炉や加速器を用いた核変換技術や群分離技術に係る基礎・基盤研究を進めている。
 また、研究施設や医療機関などから発生する低レベル放射性廃棄物の処分に向けては、文部科学省及び経済産業省が示した「埋設処分業務の実施に関する基本方針」(平成20年12月文部科学大臣及び経済産業大臣決定)を踏まえて日本原子力研究開発機構が定めた「埋設処分業務の実施に関する計画」(平成21年11月認可、令和元年11月変更認可)に従って必要な取組を進めている。

ⅷ)原子力機構が保有する施設の廃止措置
 日本原子力研究開発機構は、平成30年12月に保有する施設全体の廃止措置にかかる長期方針である「バックエンドロードマップ」を公表した。日本原子力研究開発機構は総合的な原子力の研究開発機関として重要な役割を果たしており、その役割を果たすためにも、研究での役割を終えた施設については、国民の御理解を得ながら、安全確保を最優先に、着実に廃止措置を進めることが重要である。文部科学省は、日本原子力研究開発機構の取組を支援し、日本原子力研究開発機構の保有する原子力施設の安全かつ着実な廃止措置を進めていく。

ⅸ)国民の理解と共生に向けた取組
 文部科学省は、立地地域をはじめとする国民の理解と共生のための取組として、立地地域の持続的発展に向けた取組、原子力やその他のエネルギーに関する教育への取組に対する支援などを行っている。

ⅹ)国際原子力協力
 外務省は、IAEAによる原子力科学技術の平和的利用の促進及びこれを通じたIAEA加盟国の「持続的な開発目標(SDGs(※10))」の達成に向けた活動を支援しており、「原子力科学技術に関する研究、開発及び訓練のための地域協力協定(RCA(※11))」に基づくアジア太平洋における技術協力や平和的利用イニシアティブ(PUI(※12))拠出金等によるIAEAに対する財政的支援、専門的知見・技術を有する国内の大学、研究機関、企業とIAEAの連携強化等を通じて、開発途上国の能力構築を推進するとともに日本の優れた人材・技術の国際展開を支援している。また、IAEAは我が国と協力し、2013年(平成25年)に福島県に「IAEA緊急時対応能力研修センター(IAEA―RANET―CBC)」を指定しており、2019年(令和元年)には8月及び11月に国内外の関係者を対象として、緊急事態の準備及び対応分野での能力強化のための研修を実施した。さらに、令和元年11月に東京にて、核物質等の輸送セキュリティに関する国際シンポジウムを日本原子力研究開発機構核不拡散・核セキュリティ総合支援センターと協力して開催するなど、核セキュリティの国際的強化の取組を実施している。
 文部科学省は、IAEAや経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA(※13))などの国際機関の取組への貢献を通じて、原子力平和的利用と核不拡散の推進をリードするとともに、内閣府が主導しているアジア原子力協力フォーラム(FNCA(※14))の枠組みの下、アジア地域を中心とした参加国に対して放射線利用・研究炉利用等の分野における研究開発・基盤整備等の協力を実施している。
 経済産業省は、放射性廃棄物の有害度の低減及び減容化等に資する高速炉の実証技術の確立に向けた研究開発について、日仏、日米協力をはじめとする国際協力の枠組みを活用して進めた。
 また、米国やフランスをはじめとする原子力先進国との間で、第4世代原子力システム国際フォーラム(GIF(※15))等の活動を通じ、原子力システムの研究開発等、多岐にわたる協力を行っている。

xi)原子力の平和的利用に係る取組
 我が国は、IAEAとの間で1977年(昭和52年)に締結した日・IAEA保障措置協定及び1999年(平成11年)に締結した同協定の追加議定書に基づき、核物質が平和目的に限り利用され、核兵器などに転用されていないことをIAEAが確認する「保障措置」を受け入れている。これを受け、我が国は「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(原子炉等規制法)」(昭和32年法律第166号)に基づき、国内の核物質を計量及び管理し、国としてIAEAに報告、IAEAの査察を受け入れるなどの所要の措置を講じている。
 令和2年5月28日に我が国における2019年(平成31年及び令和元年)の保障措置活動の実施結果について原子力規制委員会に報告し、その結果をIAEAによる我が国の保障措置活動についての評価に資するためにIAEAに情報提供した。IAEAの我が国に対する保障措置実施報告では、全ての核物質が平和的活動にとどまっている旨の結論(拡大結論)を2019年(平成31年及び令和元年)についても受けた。これにより、2003年(平成15年)の実施結果以降、継続して拡大結論が導出されている。

(キ)核融合エネルギーをはじめとする長期的なエネルギー技術の研究開発
 核融合エネルギーは、燃料資源が豊富であること、発電過程で温室効果ガスを発生しないこと、少量の燃料から大規模な発電が可能であることから、エネルギー問題と環境問題を根本的に解決し、カーボンニュートラル社会において重要な将来の基幹的エネルギー源として期待されている。核融合エネルギーの実現に向け、国内では、「原型炉研究開発ロードマップについて(一次まとめ)」(平成30年7月24日策定)に基づき、トカマク方式(量子科学技術研究開発機構、高性能核融合実験装置JT-60SA(※16))、ヘリカル方式(核融合科学研究所、大型ヘリカル装置(LHD))、レーザー方式(大阪大学レーザー科学研究所、激光Ⅻ号及びLFEX)の3方式による研究を進め、世界を先導する成果を上げている。
 また、我が国は、世界7極の国際協力による核融合実験炉の建設・運転を通じて核融合エネルギーの科学的・技術的実現可能性を実証するITER(イーター)計画(※17)、日欧協力によるITER計画を補完・支援する先進的核融合研究開発である幅広いアプローチ(BA(※18))活動を推進している。ITER計画では2025年(令和7年)の運転開始を目指して、核融合実験炉ITERの建設作業が建設地であるフランスで本格化しており、令和2年7月にはITERの組立開始に際し記念式典が実施された。また、BA活動ではJT-60SAが実験運転開始に向けた調整段階に移行するなど、令和2年度も研究開発が順調に進展している。
 経済産業省では、宇宙太陽光発電の実現に必要な発電と送電を一つのパネルで行う発送電一体型パネルを開発するとともに、その軽量化や、マイクロ波による無線送電技術の効率の改善に資する送電部の高効率化のための技術開発等を行っている。
 宇宙航空研究開発機構では、宇宙太陽光発電の実用化を目指した要素技術の研究開発を行っている。

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《参考》
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核融合研究ホームページ Fusion Energy -Connect to the Future
https://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/fusion/
核融合エネルギーへの道 イーター
https://www.youtube.com/watch?v=QEohCE1famE別ウィンドウで開きます(出典:iter japan - QST)

イ 水素・蓄電池等の蓄エネルギー技術を活用したエネルギー利用の安定化
 経済産業省は、蓄電池や燃料電池に関する技術開発・実証等を実施している。具体的には、再生可能エネルギーの導入拡大に伴い必要となる系統用の大規模蓄電池について、導入時における最適な制御・管理手法の技術開発を実施するための取組を進めている。また、電気自動車やプラグインハイブリッド車など、次世代自動車用の蓄電池(※19)について、性能向上とコスト低減を目指した技術開発を実施した。家庭用燃料電池をはじめとする定置用燃料電池や燃料電池自動車に用いられる燃料電池については、低コスト化及び耐久性・効率性向上のための技術開発を行った。さらに、燃料電池自動車の更なる普及拡大に向けて、四大都市圏を中心に、令和2年度までに約137か所の水素ステーションの整備を行った。
 環境省は、平成30年度より「水素を活用した自立・分散型エネルギーシステム構築事業」を実施している。同事業において、将来の再生可能エネルギー大量導入社会を見据え、地域の実情に応じて、蓄電池や水素を活用することにより系統に依存せず再生可能エネルギーを電気・熱として供給できるシステムを構築し、自立型水素エネルギー供給システムの導入・活用方策を確立することを目指す取組を進めている。
 科学技術振興機構「戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発(ALCA)」の特別重点技術領域において、従来性能を大幅に上回る次世代蓄電池に係る研究開発を推進している。更に、「共(きょう)創(そう)の場形成支援プログラム」の先進蓄電池研究開発拠点において、産学共(きょう)創(そう)の研究開発を開始した。また、「未来社会創造事業 大規模プロジェクト型」において、水素発電、余剰電力の貯蔵、輸送手段等の水素利用の拡大に貢献する高効率・低コスト・小型長寿命な革新的水素液化技術の研究開発を推進している。

ウ 新規技術によるエネルギー利用効率の向上と消費の削減
 内閣府は、平成30年度よりSIPにおいて「IoE社会のエネルギーシステム」に取り組み、様々なエネルギーがネットワークに接続され、需給管理が可能となるIoE社会の実現を目指している。ガリウム系半導体デバイスを適用して、再生可能エネルギーを含む多様な入力電源に対して最適な制御を可能とするユニバーサルパワーモジュールやワイヤレス電力伝送システム等の社会実装に向けての研究開発を進めている。
 経済産業省は、電力グリッド上に散在する再生可能エネルギーや蓄電池等のエネルギー設備、ディマンドリスポンス等の需要側の取組を遠隔に統合して制御し、あたかも一つの発電所(仮想発電所:バーチャルパワープラント)のように機能させることによって、電力の需給調整に活用する実証を行っている。
 環境省は、公共施設等に再エネや自営線等を活用した自立・分散型エネルギーシステムを導入し、地域の再エネ比率を高めるためのエネルギー需給の最適化を行うことにより、地域全体で費用対効果の高い二酸化炭素排出削減対策を実現する先進的モデルを確立するための事業を実施している。
 科学技術振興機構は、「未来社会創造事業 大規模プロジェクト型」において、環境中の熱源(排熱や体温等)をセンサ用独立電源として活用可能とする革新的熱電変換技術の研究開発を推進した。
 理化学研究所は、エネルギー利用技術の革新を可能にする全く新しい物性科学を創成し、エネルギー変換の高効率化やデバイスの消費電力の革新的低減を実現するための研究開発を実施している。
 宇宙航空研究開発機構は、航空機の燃費・環境負荷低減等に係る研究開発を行っており、さらに、産業界等との連携により当該研究開発を国際競争力向上に直結するものとして加速させている。具体的には、次世代・次々世代航空機の開発動向を踏まえつつ、エンジンの低NOx化・高効率化技術や航空機の電動化技術等の研究開発に取り組むとともに、令和2年度に運用を開始した技術実証用エンジンをはじめとする大型試験設備の整備・維持・向上を進めている。
 新エネルギー・産業技術総合開発機構は、省エネルギー技術の研究開発や普及を効果的に推進するため、「省エネルギー技術戦略2016」に掲げる重要技術(令和元年7月改定版)を軸に、提案公募型事業である「革新的省エネルギー技術の開発促進事業」を実施している。
 建築研究所は、住宅・建築・都市分野において環境と調和した資源・エネルギーの効率的利用のための研究開発等を行っている。

エ 革新的な材料・デバイス等の幅広い分野への適用
 文部科学省は、「省エネルギー社会の実現に資する次世代半導体研究開発」において、大きな省エネ効果が期待される窒化ガリウム(GaN)等の次世代半導体を用いたパワーデバイス等の2030年の実用化に向け、理論・シミュレーションも活用した材料創製からデバイス・システム応用までの次世代半導体に係る研究開発を一体的に推進した。また、GaN等の次世代半導体の優れた材料特性を最大限活(い)かすための最適なパワーデバイス、回路システム、受動素子・実装材料の新規開発及びこれらを組み合わせたパワーエレクトロニクス機器としてのトータルシステム設計による、超省エネ・高性能なパワーエレクトロニクス機器等の実用化に向けて、「革新的パワーエレクトロニクス創出基盤技術研究開発事業」を開始した。
 科学技術振興機構は、「戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発(ALCA)」及び「未来社会創造事業『地球規模課題である低炭素社会の実現』領域」において、革新的な材料開発・応用及び化学プロセス等の研究開発を推進している。
 物質・材料研究機構では、多様なエネルギー利用を促進するネットワークシステムの構築に向け、高効率太陽電池や蓄電池の研究開発、エネルギーを有効利用するためのエネルギー変換・貯蔵用材料の研究開発、省エネルギーのための高出力半導体や高輝度発光材料等におけるブレークスルーに向けた研究開発、低環境負荷社会に資する高効率・高性能な輸送機器材料やエネルギーインフラ材料の研究開発等、エネルギーの安定的な確保とエネルギー利用の効率化に向けて、革新的な材料技術の研究開発を推進している。
 経済産業省は、二酸化炭素と水を原料に太陽エネルギーでプラスチック原料等の基幹化学品を製造する技術の開発(人工光合成プロジェクト)、金属ケイ素を経由せず、高効率に有機ケイ素原料を製造する技術の開発、機能性化学品の製造手法を従来のバッチ法からフロー法へ置き換える技術の開発、リチウムイオン蓄電池材料の性能・特性を的確かつ迅速に評価できる材料評価技術の開発、セルロースナノファイバーの製造プロセスにおけるコスト低減、製造方法の最適化、量産効果が期待できる用途に応じた複合化・加工技術等の開発・安全性評価に必要な基盤情報の整備を行っている。

コラム2-1 次世代半導体GaN:青色LEDからパワーエレクトロニクスへ

 窒化ガリウムGaNは、青色発光ダイオード(LED)の材料として用いられている半導体であり、その発明に携わった3人の日本人が2014年(平成26年)のノーベル物理学賞に輝いた。青色LEDの誕生により、光の三原色である赤・緑・青のLEDが揃い、演色性の良い白色LEDの実現にもつながった。道路や駅の電光掲示板のフルカラー化は青色LEDの発明があればこそである。また、LEDは高輝度・低消費電力・長寿命であることから、現在では、交通信号機用電球や家庭用照明機器のほとんどがLEDに置き換えられ、省エネルギー社会の実現に大きく貢献している。また、ブルーレイ(Blu-ray)として知られているように、青色LED技術を発展させた青紫レーザーが開発され、DVDの5倍以上の高密度光記録が可能となった。色彩豊かな映像と迫力ある音声を家庭で手軽に楽しめるようになり、文化的側面においてもGaNが活用されている。
 以上のように、光技術分野に次々と革命を起こしてきたGaNであるが、現在、温室効果ガス排出量の大幅削減に貢献する電力制御用(パワー)半導体として注目を集めている。ほぼすべての電化製品には電力を制御(交流-直流変換や電圧調整)するパワーエレクトロニクス機器が組み込まれているが、電力変換の際に構成部品であるシリコン半導体等から生じる大きな電力損失が問題になっている。現行のシリコンをGaNで置き換えられれば、大幅な電力損失の低減や機器の小型・軽量化が可能になり、電力を扱う様々な機器の省エネの実現が期待される。今後、2050年カーボンニュートラルを達成するためには、再生エネルギーの利用拡大や需要側の電化・省エネが不可欠である。再生エネルギーを活用した分散型電源システムの構築や温暖化ガスを排出しない電気自動車等に必要なパワーエレクトロニクス機器の普及の機運が一層高まることが予想され、そこで果たすべきGaNの役割と期待は大きい。
 しかしながら、GaNをパワーエレクトロニクス機器に実装するためには、GaNの結晶品質と製造コストの問題を解決することが要求される。青色LEDに用いられるGaNよりも格段に欠陥が少ない高品質結晶を安価でかつ安定的に得られなければ実用化は難しい。文部科学省では、GaNの優れた物性を引き出し、高い信頼性を有するデバイスを実現するために、欠陥の少ないGaN結晶基板の作製技術や高度なデバイスの作製に必要な技術の基礎研究を推進してきた。低欠陥の大口径結晶の育成、イオン注入したGaN基板を電気的に活性化する技術の開発など数々の成果が得られており、従来では困難であった大電力用途パワーデバイスとしての可能性が見えてきた。一方、パワーエレクトロニクスは、パワーデバイス、受動素子(コイルやコンデンサー等)、それらを搭載・制御する回路システムを組み合わせた複合技術であり、GaNパワーデバイスだけが優れた特性を示すだけでは超省エネ・高効率の革新的パワーエレクトロニクス機器を実現することはできない。
 文部科学省は令和2年度より、回路システム、パワーデバイス、受動素子の3つの領域が一体的に連携して革新的パワーエレクトロニクスの基礎基盤技術の研究開発を推進する事業を開始した。我が国におけるパワー半導体や受動素子等の材料研究はすでに世界トップレベルであり、その強みを活かしたパワーエレクトロニクス全体としてのシステム設計技術開発が省エネルギー社会を実現するうえで鍵となる。近い将来、GaN等の次世代パワー半導体がパワーエレクトロニクス機器を支え、電気自動車、ロボット、パワーコンディショナーなどの大幅な性能向上に貢献することが期待されている。

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(2)資源の安定的な確保と循環的な利用
ア 海底資源の探査・生産技術の研究開発
 内閣府は、SIP第1期「次世代海洋資源調査技術」の成果を踏まえ、平成30年度より、SIP第2期「革新的深海資源調査技術」として、世界に先駆け、我が国の排他的経済水域の2,000m以深にある海底に賦存するレアアース泥等の鉱物資源を効率的に調査し洋上に回収する技術の開発を進めている。令和2年度は長時間の深海調査に必要な技術の実証試験に成功するなど、社会実装に向け着実に進展している。
 国土交通省は、平成30年度より、浮体式生産貯蔵積出設備(FPSO(※20))向けの電気系統の統合制御設備や、海底パイプラインのメンテナンス用の自律型無人潜水機(AUV(※21))に係る技術開発の支援等を行い、海事産業における海洋開発分野への市場進出を推進している。
 海洋研究開発機構は、我が国の海洋の産業利用の促進に貢献するため、生物、非生物の両面から海洋における物質循環と有用資源の成因の理解を進め、得られた科学的知見、データ、技術及びサンプルを関連産業に展開している。
 海上・港湾・航空技術研究所は、海中での施工、洋上基地と海底の輸送・通信等に係る研究開発、海洋資源・エネルギー開発に係る基盤的技術の基礎となる海洋構造物の安全性評価手法及び環境負荷軽減手法の開発・高度化に関する研究を行っている。

イ レアアース・レアメタル等の省資源化・代替素材技術の研究開発
 文部科学省及び経済産業省は、次世代自動車や風力発電等に必要不可欠な原料であるレアアース・レアメタル等の希少元素の調達制約の克服や、省エネルギーを図るため、両省で連携しつつ、材料の研究開発を行っている。
 文部科学省は、我が国の資源制約を克服し、産業競争力の強化を図るため、元素の果たす機能を理論的に解明し応用することにより、レアアース・レアメタル等の希少元素を用いない全く新しい材料の創製を行う「元素戦略プロジェクト(研究拠点形成型)」を推進している。
 経済産業省は、「輸送機器の抜本的な軽量化に資する新構造材料等の技術開発事業」により、従来以上に強力かつ希少金属の使用を大幅に削減した磁性材料の開発等を行っている。また、「資源循環システム高度化促進事業」により、我が国の都市鉱山の有効利用を促進し、資源の安定供給及び省資源・省エネルギー化を実現するため、廃製品・廃部品の自動選別技術及び高効率製錬技術の開発を行っている。さらに、「サプライチェーン強靱(きょうじん)化に資する技術開発・実証」により、供給途絶リスクの高いレアアースのサプライチェーン強靱(きょうじん)化に繋げるため、レアアースの使用を極力減らす、又は使用しない高性能磁石の開発や不純物等が多く利用が難しい低品位レアアースを利用するための技術開発等を行っている。

ウ バイオマス利活用技術の開発・実証
 経済産業省は、バイオジェット燃料の2030年頃の商用化を目指し、バイオマスのガス化・液化(木材等をH2とCOのガスに変換し、触媒によりガスから燃料を製造)技術や、微細藻類の培養技術等の要素技術を含めた一貫製造プロセス構築のためのパイロット規模の検証試験等やATJ技術(触媒によりバイオエタノールから燃料を製造)に係る実証事業を行っている。
 科学技術振興機構は、「戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発(ALCA)」及び「未来社会創造事業『地球規模課題である低炭素社会の実現』領域」において、バイオマスから化成品等を製造し、石油製品を代替する革新的なバイオテクノロジーの研究開発を推進している。
 理化学研究所は、石油化学製品として消費され続けている炭素等の資源を循環的に利活用することを目指し、植物科学、微生物科学、化学生物学、合成化学等を融合した先導的研究を実施している。また、植物バイオマスを原料とした新材料の創成を実現するための革新的で一貫したバイオプロセスの確立に必要な研究開発を実施している。
 土木研究所は、下水道施設を核とした資源・エネルギー有効利用に関する研究を実施している。

(3)食料の安定的な確保
 農林水産省は、中長期的な視点で取り組むべき研究開発に加えて、農業現場の課題を科学の力で克服していくため、明確な開発目標の下、現場での実装を視野に入れた技術開発を推進している。例えば、食料の安定供給や農業の生産性向上等を目標に、超多収性作物、不良環境耐性作物、生涯生産性の高い牛等の作出に係る研究を行っている。また、食料自給率の目標達成のため、品質や加工適性等の面で画期的な特性を有する食用作物及び飼料作物の開発や、国産飼料の活用等による畜産物の差別化・高品質化技術の開発に取り組んでいる。
 さらに、ICTを活用した高度な生産管理、衛星測位情報や画像データ等を活用した農業機械の自動走行システム、畦(けい)畔(はん)除草や野菜・果樹の収穫ロボット化等のスマート農業技術の開発や生産現場への導入効果を経済面から明らかにするスマート農業実証プロジェクトを全国148地区で展開している。
 スマート農業の社会実装を加速化するため、これまでの現場での課題を踏まえ、スマート農業推進総合パッケージ(令和2年10月策定、令和3年2月改訂)として施策の方向性を取りまとめた。
 この総合パッケージに基づき、実証の着実な実施や成果の普及、農作業受託や農業機械のシェアリング等を行う農業支援サービスの育成、農業現場への実装に際して安全上の課題解決が必要なロボット技術の安全性の検証やルール作りを進めたほか、農業におけるICT利活用の促進に向けて関係省庁とも連携して農業情報の標準化や農業機械等のデータ連携を図るオープンAPIの整備に向けた検討に取り組み、令和3年2月に、農機メーカーやICTベンダー等の事業者の対応指針を「農業分野におけるオープンAPI整備に関するガイドライン」として策定した。このほか、データ駆動型農業を実現するデータプラットフォームとして、平成31年4月から「農業データ連携基盤(WAGRI)」の運用が始まり、参加企業による農業者向けの新たなサービスが展開されているほか、WAGRIを拡張し、農業生産のみならず流通・加工・消費・輸出までをデータでつなぎ、フードチェーンの最適化を目指す「スマートフードチェーン」の研究開発を進めている。
 また、SDGsや環境を重視する国内外の動きが加速する中、我が国として持続可能な食料供給システムを構築し、国内外を主導していくことが急務となっている。このため、我が国の食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現する「みどりの食料システム戦略」について、令和3年3月に中間取りまとめを行い、5月の策定に向けて検討を進めている。
 文部科学省は、海洋生物資源の持続可能な利用の実現に向け、「海洋資源利用促進技術開発プログラム」のうち「海洋生物資源確保技術高度化」において、海洋生物の生理機能を解明し、革新的な生産につなげる研究開発を行っている。
 土木研究所は、食料供給力強化に貢献する積雪寒冷地の農業生産基盤の整備・保全管理に関する研究、食料供給力強化に貢献する寒冷海域の水産基盤の整備・保全に関する研究を実施している。

コラム2-2 昆虫が世界を救う!?

 2050年には世界人口は今より約20億人増加し、97億人に達する見込みだ。地球の資源、土地、水が限られる中で、地球温暖化も進展し、タンパク質の安定供給、栄養価の高い食品の生産を通じた栄養不足の排除や、食料生産・土地利用による大気汚染の抑制など、地球規模で解決しなければならない問題が数多くある。
 ムーンショット目標5では、食料生産や消費に関する問題の解決をめざし、「2050年までに、未利用の生物機能等のフル活用により、地球環境でムリ・ムダのない持続的な食料供給産業を創出する」という野心的な目標を掲げ、「食料供給の拡大と地球環境保全を両立する食料生産システム」や「食品ロスゼロを目指す食料消費システム」の構築を目指す10プロジェクトの研究開発を開始した(参考1、参考2)。
 プロジェクトの一つに、タンパク質の生産効率が高く、飼育の際の環境負荷が小さいとされているコオロギの家畜化を目指すものがある。今は、昆虫を食料にすることに抵抗がある人が殆どだろう。しかし、食品の形状や美味しさ、機能が優れていたらどうだろうか?昆虫は一例だが、10のプロジェクトに関わる研究者が、起業家や将来を担う若者などと議論・連携しながら試行錯誤し切磋琢磨することで、世界を変えるような研究開発成果を獲得していくことに期待したい。また、研究開発を進めるだけでなく、その研究開発成果を広く社会に発信・共有していくことで、多くの人の理解を得ながら、世界の食料問題解決に貢献していくことを期待する。

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応用イメージ
提供:株式会社グリラス

<参考URL>
1 内閣府ホームページ
https://www8.cao.go.jp/cstp/moonshot/index.html別ウィンドウで開きます
2 農水省ホームページ
https://www.affrc.maff.go.jp/docs/moonshot/moonshot.html別ウィンドウで開きます

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内閣府HP

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農水省HP

コラム2-3 ドローンでのピンポイント農薬散布により使用量と労力を削減

 農薬が必要な箇所に必要な量だけを散布する、ドローンとAIを活用した画期的な技術が実用化されている。
 現在、消費者の農薬の使用に対する関心が高まる一方、農業者においても生産コストや労力の削減、環境保全型農業への取組など、農薬の使用量や散布の労力を削減する努力がなされている。このドローンによりピンポイントで農薬を散布する技術は、生産者のみならず、消費者の関心にも応える技術として注目されている。
 水田や畑などにおいては、病害虫の発生程度を圃場(ほじょう)の隅々まで把握することが困難なため、農薬を圃場(ほじょう)の全体に散布することが一般的である。しかし本技術では、まずドローンの自動飛行により圃場(ほじょう)全体の画像を取得し、AIを用いて植物の葉の様子を解析することにより、圃場(ほじょう)内で病害虫が発生している位置を特定する。続いて、農薬を搭載したドローンが、解析結果に応じて病害虫発生位置に自動飛行で到達し、その場所にピンポイントで農薬を散布して病害虫を防除することができる。本技術により、農薬の使用量を従来の1/10程度まで削減できたことや、従来の動力噴霧機による散布の1/10程度の作業時間で散布できたことから、今後さらに農薬使用量の削減や農業者の労力削減に大きく貢献する技術となることが期待されている。

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AIによる虫害位置の検出(上)と
ドローンによるピンポイント農薬散布(下)
提供:(株)オプティム

<参考URL>
農水省ホームページ
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/smart/drone.html別ウィンドウで開きます

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❷ 超高齢化・人口減少社会等に対応する持続可能な社会の実現

(1)世界最先端の医療技術の実現による健康長寿社会の形成
 国民が健康な生活及び長寿を享受することのできる社会の形成に資するため、世界最高水準の医療の提供に資する医療分野の研究開発及び当該社会の形成に資する新たな産業活動の創出等を総合的かつ計画的に推進すべく、健康・医療戦略推進本部の主導の下、令和2年度より第2期となった新たな「健康・医療戦略」(令和2年3月27日閣議決定)及び「医療分野研究開発推進計画」(令和2年3月27日健康・医療戦略推進本部決定)に基づく取組を進めている。
 従来、関係省庁がそれぞれに運用していた医療分野の研究開発予算を日本医療研究開発機構に一元的に計上したうえで、イ①~⑥に示す六つの統合プロジェクトを編成し、日本医療研究開発機構を中核として、基礎から実用化まで一貫した研究開発を推進している。
 また、「医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律」(平成29年法律第28号)に基づき、令和元年12月に第1号、令和2年6月に第2号となる事業者が認定され、認定事業者の事業運営が軌道に乗るよう、医療機関や地方公共団体等に向け認定事業者に対する医療情報の提供に関する協力を要請するなど、環境の整備を進めている。

ア 新型コロナウイルス感染症に対する研究開発等の取組
 新型コロナウイルス感染症に対する研究開発等については、令和2年度補正予算、調整費等に加えて、令和元年度からの実施分を含め、第1弾から第7弾で約1,930億円を措置し、治療法、診断法、ワクチン開発等に対して支援を行った。
 治療法については、新型コロナウイルスの国内感染例が確認されて以降、大学等により研究開発が進められ、ナファモスタットのウイルス感染阻害効果の確認等の研究成果が創出されるとともに、既存治療薬の効果及び安全性の検討、新たな作用機序等による治療薬開発を推進するため、日本医療研究開発機構を通じた基礎研究及び臨床研究等に対する支援を実施し、抗ウイルス薬(ファビピラビル、イベルメクチン)、抗炎症薬(アドレノメデュリン)、血漿(けっしょう)分画製剤(高度免疫グロブリン)等の研究開発が進められた。
 診断法についても日本医療研究開発機構を通じ、遺伝子増幅の検査に関する迅速診断キット、抗原迅速診断キット、検査試薬等の基盤的研究を支援し、実用化されたほか、厚生労働省において抗体検査キットの性能評価結果を新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引きに反映させた。また、ウイルス等感染症対策技術の開発事業において、感染症の課題解決につながる研究開発や、新型コロナウイルス感染症対策の現場のニーズに対応した機器・システムの開発・実証等への支援を実施した。こうした日本医療研究開発機構を通じた支援に加えて、文部科学省の地域イノベーション・エコシステム形成支援プログラムにおいて、神奈川地域における「SmartAmp法を活用した新型コロナウイルスの迅速検出システム」の社会実装に向け、検体採取後の全工程を簡易パッケージ化した機器等の研究開発を支援した。
 ワクチン開発については、国内におけるワクチンの開発の加速・供給体制強化の要請に対応するため、日本医療研究開発機構を通じて、国内の企業・大学等による基礎研究、非臨床研究、臨床研究の実施を支援している。
 その他、新型コロナウイルスの流行により、グローバルな対応体制の必要性が改めて明らかになったことを踏まえ、日本医療研究開発機構を通じた支援により、国内外の感染症研究基盤の強化や基礎的研究を推進(「新興・再興感染症研究基盤創生事業」(文部科学省所管))するとともに、日本が主導するアジア地域における臨床研究・治験を進めるための基盤構築を進めているところである(「アジア地域における臨床研究・治験ネットワーク構築事業」(厚生労働省所管))。

イ 6つの統合プロジェクト
①医薬品プロジェクト
 医療現場のニーズに応える医薬品の実用化を推進するため、創薬標的の探索から臨床研究に至るまで、モダリティの特徴や性質を考慮した研究開発を行うこととしている。
 令和2年度においては、例えば、質の高い臨床情報が付随した臨床検体を活用した産学官連携による創薬研究、抗体医薬品の連続生産などバイオ医薬品の産業化を見据えた製造技術開発及び実用化のための基盤技術開発、クライオ電子顕微鏡の整備加速及び自動化・遠隔化に向けた技術開発による創薬支援基盤の強化等を行った。

②医療機器・ヘルスケアプロジェクト
 AI・IoT技術、計測技術、ロボティクス技術等を融合的に活用し、診断・治療の高度化や、予防・QOL(※22)向上に資する医療機器・ヘルスケアに関する研究開発を行うこととしている。なお、本プロジェクトは日本医療研究開発機構を中核に、経済産業省、文部科学省、厚生労働省及び総務省の連携により支援を実施している。
 令和2年度においては、将来の医療・福祉分野のニーズを踏まえた、AIやロボット等の技術を活用した革新的な医療機器等の開発の強化や、疾患の特性に応じた早期診断・予防や低侵襲治療等のための医療機器等の開発の推進を行った。

③再生・細胞医療・遺伝子治療プロジェクト
 再生・細胞医療の実用化に向け、細胞培養・分化誘導等に関する基礎研究、疾患・組織別の非臨床・臨床研究や製造基盤技術の開発、疾患特異的iPS細胞等を活用した難病等の病態解明・創薬研究及び必要な基盤構築を行うほか、遺伝子治療について、遺伝子導入技術や遺伝子編集技術に関する研究開発を行う。さらに、これらの分野融合的な研究開発を推進することとしている。
 令和2年度においては、文部科学省の再生医療実現拠点ネットワークプログラムにおいて、iPS細胞や体性幹細胞等を用いた再生・細胞医療の実用化を目指した基礎研究や遺伝子治療との融合研究、iPS細胞等を用いた病態メカニズム理解に基づく創薬研究を行うとともに、厚生労働省の再生医療実用化研究事業における臨床研究・治験の推進や経済産業省の再生医療・遺伝子治療の産業化に向けた基盤技術開発事業における製造技術の開発とも連携し、基礎から実用化に向けて一体的に研究開発を推進した。

④ゲノム・データ基盤プロジェクト
 ゲノム・データ基盤の整備・利活用を促進し、ライフステージを俯瞰(ふかん)した疾患の発症・重症化予防、診断、治療等に資する研究開発を推進することで個別化予防・医療の実現を目指すこととしている。
 令和2年度においては、厚生労働省の臨床ゲノム情報統合データベース整備事業において臨床情報とゲノム情報等を集積・統合するデータベース(MGeND(※23))への更なるデータ登録と公開を行った。また、同省の革新的がん医療実用化研究事業等において、「全ゲノム解析等実行計画」に基づき、遺伝性腫瘍の臨床像の多様化を説明する新規遺伝素因の解明等に貢献する基盤情報・体制の構築等を推進した。また、文部科学省の東北メディカル・メガバンク計画においても、一般住民10万人の全ゲノム解析を官民共同で開始するなど、ゲノム・データ基盤の一層の強化を進めている。

⑤疾患基礎研究プロジェクト
 医療分野の研究開発への応用を目指し、脳機能、免疫、老化等の生命現象の機能解明や、様々な疾患を対象にした疾患メカニズムの解明等のための基礎的な研究開発を行うこととしている。
 令和2年度においては、例えば感染症については、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ、国内外の感染症研究基盤の強化や基礎的研究の推進を行った。また、がんについては、効果的な治療法の開発や有望シーズの発見・開発のための研究の推進等を行った。さらに、脳機能研究では、非ヒト霊長類の高次機能を担う神経回路の全容をニューロンレベルで解明し、脳構造機能マップを作成することで、ヒトの脳の動作原理等の解明に向けた研究などを進めている。

⑥シーズ開発・研究基盤プロジェクト
 アカデミアの組織・分野の枠を超えた研究体制を構築し、新規モダリティの創出に向けた画期的なシーズの創出・育成等の基礎的研究や、国際共同研究を実施するとともに、橋渡し研究支援拠点や臨床研究中核病院において、シーズの発掘・移転や質の高い臨床研究・治験の実施のための体制や仕組みを整備するとともに、リバース・トランスレーショナル・リサーチや実証研究基盤の構築を推進することとしている。
 令和2年度においては、引き続き文部科学省の革新的先端研究開発支援事業において、先端的な基礎研究を推進するとともに、研究基盤の構築として、文部科学省と厚生労働省とが連携し、橋渡し研究支援拠点におけるシーズ研究支援の強化や、臨床研究中核病院における安全で質の高い治験や臨床研究を実施・支援する体制等の整備を実施した。

ウ 疾患領域に関連した研究開発
 上記の六つの統合プロジェクトの中で、疾患領域に関連した研究開発も行うこととしている。その際、多様な疾患への対応が必要であること、感染症対策など機動的な対応が必要であることから、統合プロジェクトの中で行われる研究開発を特定の疾患ごとに柔軟にマネジメントできるように推進することとしている。
 令和2年度における各疾患領域に関連した主な取組としては、特に「感染症」については、新型コロナウイルス感染症の蔓延(まんえん)に伴い、その治療法、診断法、ワクチン開発等に対する支援を推進するとともに、「がん」や「難病」については、がんや難病等の医療の発展や、個別化医療の推進など、がんや難病等患者のより良い医療の推進のため、「全ゲノム解析等実行計画(第1版)」に基づき、先行解析を推進した。また、「老年医学・認知症」については、認知症施策推進大綱に基づき、認知症研究開発事業において、認知症の病態解明等のため、大規模認知症コホート研究に対する支援を推進した。

エ ムーンショット型の研究開発
 100歳まで健康不安なく人生を楽しめる社会の実現など目指すべき未来像を展望し、困難だが実現すれば大きなインパクトが期待される社会課題に対して、健康・医療分野においても貢献すべく、野心的な目標に基づくムーンショット型の研究開発を、戦略推進会議等を通じて総合科学技術・イノベーション会議で定める目標とも十分に連携しつつ、関係府省が連携して行うこととしている。
 令和2年度においては、公募を行った結果、健康長寿社会実現の基本につながるプロジェクトとして、人工冬眠、ミトコンドリア先制医療、炎症誘発細胞除去、微小炎症、組織胎児化に係る研究を採択した。今後、具体的な研究計画を策定したうえで、研究を開始していくこととしている。

オ インハウス研究開発
 関係府省が所管するインハウス研究機関が行っている医療分野のインハウス研究開発については、健康・医療戦略推進本部事務局、関係府省、インハウス研究機関及び日本医療研究開発機構の間で情報共有・連携を恒常的に確保できる仕組みを構築するとともに、各機関の特性を踏まえつつ、日本医療研究開発機構の研究開発支援との適切な連携・分担の下、全体として戦略的・体系的な研究開発を推進していくこととしている。
 令和2年度においては、インハウス研究機関間での連絡調整会議を実施し、情報共有等を行うとともに、創薬支援ネットワーク(強固な連携体制を構築し、大学や公的研究機関の成果から革新的新薬の創出を目指した実用化研究の支援)を実施するなど連携して研究を行った。
 具体的なインハウス研究機関の取組としては、例えば、理化学研究所においては、ヒトの生物学的理解を通した健康長寿の実現等を目指して、基盤的な技術開発を行うとともに、ライフサイエンス分野の研究開発を戦略的に推進した。また、医薬基盤・健康・栄養研究所等において、世界最高水準の研究開発・医療を目指して新たなイノベーションを創出するために、新たなニーズに対応した研究開発や効果的な研究開発が期待される領域等について積極的に取り組んだ。更に、産業技術総合研究所においては、創薬支援ネットワークにおける医薬品候補化合物のスクリーニングの支援に活用するため、細胞単離に資する技術の開発等に取り組んだ。

(2)持続可能な都市及び地域のための社会基盤の実現
ア コンパクトで機能的なまちづくり
 国土技術政策総合研究所は、国民の生活ニーズが多様化する中で、生活支援機能を踏まえた郊外住宅市街地の計画評価技術の開発のほか、地域間連携を推進するための地方都市における都市機能の広域連携に関する研究やスマートシティ推進支援のための主要な都市問題解決に係る計画評価技術の開発等を実施している。

イ 交通システム等に関する研究
 統合イノベーション戦略2020において、自動運転が成果の社会実装を更に重視した研究開発プログラムであるSIP第2期の取組として推進する方向性が定められている。内閣府は、SIP「自動運転(システムとサービスの拡張)」において、一般道路における高度な自動運転の実現に向けて、信号や合流支援等の動的な交通環境情報の構築に取り組み、内外の自動車メーカ、自動車部品メーカ、大学等多様な分野から29機関の参画を得て、東京臨海部実証実験を実施している。また、自動運転の普及に向け、安全性評価を仮想空間で実施するために必要なシミュレーション技術等の開発を進めている。
 総務省は、自動運転社会に向けた取組として、新たにV2X用通信を導入する場合に必要となる周波数共用等の技術的条件の検討を行っている。また、安心・安全な自動運転の実現に向け、周辺の交通状況を俯瞰的に把握できるようにするため、様々な情報源から得られる動的情報を収集しリアルタイムな交通状況として統合し、必要な範囲の情報を自動運転車両側に配信する技術の研究開発を行っている。
 警察庁は、自動運転の実用化に向け、路側インフラやクラウド等を活用した信号情報提供について研究開発を実施している。
 科学警察研究所は、自動運転を含む新たな交通の問題解決と事故原因の解明に関する研究のほか、高規格の高速道路での交通特性、高齢運転者の心理特性等に関する研究をしている。
 経済産業省では、自動走行ロボットを活用した新たな配送サービス実現に向けた技術開発事業を実施している。
 国土交通省は、レーザーから取得される3次元点群データの活用により、鉄道施設等の変状検出や異常箇所の早期発見等を可能とするシステムの開発など、鉄道分野における安全性向上に資する技術開発を推進している。
 海上・港湾・航空技術研究所は、船舶に係る技術及びこれを活用した海洋の利用等に係る技術並びに電子航法に関する研究開発を行っている。船舶に係る技術分野については、海上輸送の安全確保のため、海難事故の大幅削減と社会合理性のある安全規制の構築に資する研究を実施している。また、海上物流の効率化、輸送システムの開発等に関する研究を行っている。
 電子航法分野については、航空交通の安全性向上を図りつつ、航空交通容量の拡大、航空交通の利便性向上、航空機運航の効率性向上及び航空機による環境影響の軽減のため、航空交通システムの高度化に関する研究開発を行っている。
 自動車技術総合機構は、交通弱者に対する事故防止、次世代大型車の開発・実用化促進等の陸上輸送の安全確保、環境保全等に係る調査研究、自動車の基準適合性審査、リコールに係る技術的検証を実施している。

ウ 地域における包括的ライフケア基盤システムの構築
 文部科学省及び厚生労働省は、脳内情報を低侵襲若しくは非侵襲的に解読し、身体機能の治療・回復・補完等を可能とする技術を開発し、臨床応用及び生活支援に資することを目指している。
 厚生労働省は、障害者の自立や社会参加の支援を目的として、障害当事者のニーズを適切に反映した使い勝手の良い支援機器の開発を行う「障害者自立支援機器等開発促進事業」を実施している。
 経済産業省は、福祉用具の研究開発を行う事業者等に対する補助事業を推進している。特に、重点的に開発する分野の一つであるロボット介護機器の実用化に向けて、民間企業等が行う高齢者の自立支援等に資するロボット介護機器の開発を支援するロボット介護機器等福祉用具開発標準化事業を実施している。
 国土交通省は、屋内空間における高精度測位環境の整備により、高齢者や障害者を含む誰もが屋内外をストレスなく自由に活動できるユニバーサル社会の構築に向け、産学官連携により、主要交通ターミナルにおけるナビゲーションサービス等の創出・普及に向けた環境づくりを促進した。
 国土技術政策総合研究所は、住宅・建築のバリアフリー効果の見える化手法の確立を目的に、住環境における活動のしやすさ(=生活容易性、移動容易性、介助容易性)を、居住者(健常者、高齢者、車いす使用者、介助者等)の身体活動量を指標としたバリアフリー環境評価プログラムを用いて定量的に把握し、ライフステージに即した居住者の健康維持管理増進につながる研究を行っている。

(3)効率的・効果的なインフラの長寿命化への対策
 内閣府は、PRISM(官民研究開発投資拡大プログラム)「革新的建設・インフラ維持管理技術/革新的防災・減災技術領域」において、i-Constructionの推進等の関係府省の施策に追加予算を配分し、これを加速することにより、イノベーション転換等を推進する。また、着実かつ効率的なインフラメンテナンスを実現するとともに、データの効果的な活用がもたらすオープンイノベーションの加速を図るため、国と地方公共団体、民間のデータを連携させる連携型インフラデータプラットフォームの構築を国土交通省と連携し、推進している。
 国土交通省及び経済産業省は、社会インフラの維持管理及び災害対応の効果・効率の向上のためにロボットの開発・導入を推進している。
 国土交通省は、調査・測量から設計、施工、検査、維持管理・更新までの全ての建設生産プロセスにおいてICT等を活用する「i-Construction」を推進し、令和7年度までに建設現場の生産性2割向上を目指している。維持管理・更新においては、新技術の積極的な活用により点検の効率化・高度化を図るほか、新材料の導入により省力化・コスト縮減を図る。また、新型コロナウイルス感染症対策を契機として、公共事業におけるBIM/CIM(※24)活用拡大を加速化させ、設計・施工から維持管理に至る一連のプロセスやストック活用をデジタルで処理可能とするとともに、熟練技能のデジタル化を進めること等により、インフラ・物流分野等におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)を通じた抜本的な生産性の向上及び非接触・リモート型への転換を図る。
 国土地理院は、「i-Construction」を推進し、インフラ分野のDXを加速させるため、調査・測量、設計、施工、検査、維持管理・更新の各工程で使用する位置情報の共通ルール「国家座標」を整備している。また、3D測量の正確性・効率性・信頼性向上に資する測量新技術に関する技術開発を行っている。
 国土技術政策総合研究所では、「i-Construction」を推進するため、データ流通を目的とした3次元モデルの作成方法、様々な工種におけるICTを活用した出来形管理・検査に関する要領・基準案の作成、維持管理に資する情報を3次元モデル上で一元的に管理する方法案を作成する「ICTの全面的な活用による建設生産性向上に関する研究」等の研究を行っている。そのほか、国土交通省本省関連部局と連携し、既存の住宅・社会資本ストックの点検・補修・更新等を効率化・高度化し、安全に利用し続けるため、下水道施設の効率的な維持管理手法の開発、既存建築物や敷地の利活用に関する手法・技術の開発を行っている。
 土木研究所は、橋(きょう)梁(りょう)、舗装及び管理用施設を対象とした既設構造物の効果的(効率化・高度化)なメンテナンスサイクルの実施に資する手法の開発、並びに橋(きょう)梁(りょう)、土工構造物及びトンネルを対象とした管理レベルに対応した維持管理や長寿命化を可能とする構造物の更新・新設手法の開発、凍害・複合劣化等を受けるインフラの維持管理・更新技術の横断的(道路・河川・港湾漁港・農業分野)技術開発と体系化について進めている。
 海上・港湾・航空技術研究所は、首都圏空港の機能強化に関し、滑走路等空港インフラの安全性・維持管理の効率性の向上等に係る研究開発、我が国の経済・社会活動を支える沿岸域インフラの点検・モニタリングに関する技術開発や、維持管理の効率化及びライフサイクルコストの縮減に資する研究を実施している。
 物質・材料研究機構は、社会インフラの長寿命化・耐震化を推進するために、我が国が強みを持つ材料分野において、インフラの点検・診断技術、補修・更新技術、材料信頼性評価技術や新規構造材料の研究開発の取組を総合的に推進している。

❸ ものづくり・コトづくりの競争力向上

(1)新たなものづくりシステム
ア サプライチェーンシステムのプラットフォーム構築
 エンジニアリングシステムチェーンや生産プロセスチェーン等を統合した新たなプラットフォームの構築は、データ利活用を促進し、生産性の向上や新たな付加価値の創出をもたらす。
 経済産業省は、プラットフォームの構築に向け、先進事例の創出支援や様々な機械・設備のデータを共有できるよう、データの共通フォーマットを作成している。また、データ利活用の普及が課題となっている中小製造業向けには、課題に応じた改善策や技術をアドバイスする専門人材を育成・派遣する相談拠点の整備を開始した。また、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行を受けて、生産拠点の集中度が高い製品・部素材等について、国内における生産拠点等の整備を支援することとし、海外依存度が高い部素材の代替や使用量低減、データ連携等を通じた迅速・柔軟なサプライチェーンの組替え等、サプライチェーン強靱(きょうじん)化に資する技術開発等を行うこととした。
 国土交通省は、我が国の海事産業の国際競争力の維持・向上に向けて、IoT/ビッグデータ等の情報通信技術の活用によって船舶の開発・設計、建造、運航の各段階の効率化及び高度化を図ることにより、生産性を向上させるための技術開発の支援を行うとともに、船舶産業におけるサプライチェーン最適化に向けた課題と方策の整理を行った。また、自動運航船の実用化に向けて、平成30年6月に策定したロードマップに基づき、実証事業を実施しているところ、今後、同事業で得られる知見を活かしつつ、自動運航船実現に必要な環境整備を図る。
 情報通信研究機構は、脳情報を基に潜在的ニーズの探索を可能にするため、脳活動の計測技術の先駆的研究開発を実施している。

イ 革新的な生産技術の開発
 経済産業省は、積層造形における高品質の確保と部品開発の効率化を目指し、造形中の金属の溶融凝固現象の解明や高度な計測・機器制御技術等の開発等に取り組んでいる。

(2)統合型材料開発システム
ア 信頼性の高い材料データベースの構築
 我が国の素材産業の国際競争力を強化するために、政府は数値シミュレーション、理論、実験、解析やデータ科学等を融合した材料開発システムを構築するとともに、産学官がそれぞれ保有する信頼性の高い材料データの整理・統合及びデータベース化を推進している。

イ データベースを活用した材料開発技術の確立
 マテリアル研究の中核的な機関である物質・材料研究機構では、材料データベースを構築するとともにデータ科学との融合を発展させることにより、画期的な磁石・電池・伝熱制御等の新材料設計の実装に取り組んでいる。

第2節 国及び国民の安全・安心の確保と豊かで質の高い生活の実現

 国及び国民の安全・安心を確保し、豊かで質の高い生活を実現するためには、防災・減災や国土強(きょう)靱(じん)化等に向けた取組を進めていくとともに、国民の快適な生活環境や労働衛生を確保し、さらに安全保障環境の変化、犯罪、テロやサイバー攻撃などへの対応が重要である。これらの課題解決に向け、さらなる取組内容の強化に向けて、令和2年1月、統合イノベーション戦略推進会議にて、「安全・安心の実現に向けた科学技術・イノベーションの方向性」を取りまとめている。

❶ 自然災害への対応

(1)予防力の向上
 文部科学省は、「首都圏を中心としたレジリエンス総合力向上プロジェクト」において、政府関係機関、地方公共団体や民間企業等が保有する地震観測データを統合し官民連携による超高密度地震観測システムを構築するとともに、実大三次元震動破壊実験施設を用いた非構造部材(配管、天井等)を含む構造物の崩壊余裕度に関するセンサー情報等を収集し、都市機能維持の観点から官民一体の総合的な災害対応や事業継続、個人の防災行動等に資する多種多様かつ大量なデータを集積し、産官学で共有・解析することで、新たな価値の創出につながる取組を進めている。
 国土交通省は、海上・港湾・航空技術研究所等との相互協力の下、全国港湾海洋波浪情報網(NOWPHAS(※25))の構築・運営を行っており、全国各地で観測された波浪・潮位観測データを収集し、ウェブサイトを通じてリアルタイムに広く公開している(※26)。
 土木研究所は、顕在化・極端化してきた河川災害の被害軽減技術開発及び顕在化してきた津波や海面上昇による被害の軽減技術開発、突発的な自然現象による土砂災害の防災・減災技術の開発、極端気象がもたらす雪氷災害による被害を軽減するための技術開発を実施している。
 建築研究所は、自然災害による損傷や倒壊の防止等に資する建築物の構造安全性を確保するための技術開発や建築物の継続使用性を確保するための技術開発等を実施している。
 海上・港湾・航空技術研究所は、大規模地震後の早期復旧・復興のため、沿岸域及び背後地域における地震・津波による構造物の変形予測・性能低下を予測し、沿岸域施設の安全性・信頼性の向上を図るための研究を実施している。

(2)予測力の向上
 我が国の地震調査研究は、地震調査研究推進本部(本部長:文部科学大臣)(以下「地震本部」という。)の下、関係行政機関や大学等が密接に連携・協力しながら行われている。
 地震本部は、これまで地震の発生確率や規模等の将来予測(長期評価)を行っている。東北地方太平洋沖地震のような隣接する複数の領域を震源域とする巨大地震を評価の対象とできていなかったことや活断層を起因とした熊本地震の発生を踏まえ、長期評価の評価手法や公表方法を順次見直しつつ実施している。また、東北地方太平洋沖地震での津波による甚大な被害を踏まえ、様々な地震に伴う津波の評価を実施している。
 文部科学省は、南海トラフ地震を対象とした「防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト」を開始し、「通常と異なる現象」が観測された場合の地震活動の推移を科学的に評価する手法開発や、被害が見込まれる地域を対象とした防災対策の在り方などの調査研究に着手した。また、「日本海地震・津波調査プロジェクト」では、日本海及びその沿岸を対象に、制御震源を用いた構造探査や津波堆積物調査等を実施し、震源断層モデルや津波波源モデルに関する研究を進めた。
 阪神・淡路大震災以降、陸域に地震観測網の整備が進められてきた一方、海域の観測網については、陸域の観測網に比べて観測点数が非常に少ない状況であった。このため、防災科学研究所では、南海トラフ地震の想定震源域において、地震計、水圧計等を備えたリアルタイムで観測可能な高密度海底ネットワークシステムである「地震・津波観測監視システム(DONET(※27))」を運用している。また、今後も大きな余震や津波が発生するおそれがある東北地方太平洋沖において、地震・津波を直接検知し、災害情報の正確かつ迅速な伝達に貢献する「日本海溝海底地震津波観測網(S-net(※28))」を運用している。さらに、南海トラフ地震の想定震源域のうち、まだ観測網を設置していない高知県沖から日向灘の海域において、「南海トラフ海底地震津波観測網(N-net(※29))」の構築を進めた(第2-3-1図)。
 火山分野においては、平成26年の御嶽山の噴火等を踏まえ、平成28年度から「次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト」を開始し、火山災害の軽減に貢献するため、従前の観測研究に加え、他分野との連携・融合を図り、「観測・予測・対策」の一体的な研究の推進及び広範な知識と高度な技術を有する火山研究者の育成を行った。

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 国土技術政策総合研究所は、大規模地震に起因する土砂災害の事前推定手法の開発等の「激甚(げきじん)化する災害への対応」を行っている。
 防災科学技術研究所は、日本全国の陸域を均一かつ高密度に覆う約1,900点の高性能・高精度な地震計により、人体に感じない微弱な震動から大きな被害を及ぼす強震動に至る様々な「揺れ」の観測を行っている。海域においては約200点の地震計・津波計を運用しているほか、国内16火山の「基盤的火山観測網(V-net(※30))」を含む、全国の陸域と海域を網羅する地震・津波・火山観測網である「陸海統合地震津波火山観測網(MOWLAS(※31))」の本格運用を平成29年11月より開始した。MOWLASを用いた地震や津波の即時予測、火山活動の観測・予測の研究、実装を進めており、気象庁に観測データの提供を実施するほか、各研究機関や地方自治体及び鉄道事業者をはじめとする民間での観測データの活用を推進した。
 また、マルチセンシングに基づく土砂・風水害の発生予測に関する研究、変容する雪氷災害雪害や沿岸災害等の自然災害による被害の軽減に資する研究等を実施している。例えば、AIを用いた冬季道路状況判別、レーダと積雪変質モデル等を用いた高解像度面的降積雪情報など新しい情報の創出、及び、「雪おろシグナル」提供地域拡大、ニセコ吹きだまり情報サイト構築、既存消雪装置IoT化による降雪・融雪情報の自治体提供など雪氷防災情報の社会適用、民間企業との協力によるイノベーション創出事業への参画などを実施した。さらに、MPレーダ(※32)データ等との比較解析による雷危険度予測手法の研究開発を推進するため、首都圏で雷放電経路3次元観測システムによる雷の連続観測を実施している。
 気象庁は、文部科学省と協力して地震に関する基盤的調査観測網のデータを収集し、処理・分析を行い、その成果を防災情報等に活用するとともに地震調査研究推進本部地震調査委員会等に提供している。また、自動震源決定処理手法(PF法(※33))を開発し、平成28年4月から導入した。緊急地震速報については、東北地方太平洋沖地震で課題となった同時多発地震及び巨大地震に対応するため、IPF法(※34)及びPLUM法(※35)を開発し、IPF法を平成28年12月から、PLUM法を平成30年3月から導入している。また、更なる高度化のための技術開発を防災科学技術研究所等と協力して進めている。津波については、沖合の津波観測波形から沿岸の津波の高さを精度良く予測する手法(tFISH(※36))を平成31年3月から導入した。
 気象研究所は、津波災害軽減のための津波地震などに対応した即時的規模推定や沖合の津波観測データを活用した津波予測の技術開発、南海トラフ沿いのプレート間固着状態変化把握技術の精度向上のための地殻変動の監視・解析技術に関する研究、火山活動評価・予測の高度化のための監視手法の開発などを実施している。
 産業技術総合研究所は、防災・減災等に資する地質情報整備のため、活断層・津波堆積物調査や活火山の地質調査を行い、その結果を公表している。全国の主要活断層に関しては、分布位置や活動履歴を解明するために、陸域7断層帯(標津(しべつ)、雫石盆地西縁、横手盆地東縁、濃尾、山田、中央構造線、菊川)の地質調査を実施した。また、津波堆積物データベースに福島県沿岸域の浸水域情報を公開した。そのほか、南海トラフ巨大地震の短期予測に資する地下水等総合観測点を運用・整備し、地下水位(水圧)、地下水温、地殻歪(ひずみ)や地震波の常時観測を継続した。産業技術総合研究所の12か所の歪(ひずみ)計データが令和2年6月から気象庁の常時監視に組み入れられた結果、同庁は南海トラフ地震に関連する情報を全域で迅速に評価、発表することが可能となった。
 火山に関しては、噴火活動があった口永良部島(くちのえらぶじま)、西之島、及び桜島に対して、現地調査や火山噴出物の観測・分析等を行い、現在の噴火活動の解明や今後の活動推移予測に資する物質科学的研究を実施した。
 海洋研究開発機構は、南海トラフの想定震源域や日本周辺海域・西太平洋域において、研究船や各種観測機器等を用いて海域地震や火山に関わる調査・観測を大学等の関係機関と連携して実施している。さらに、これら観測によって得られるデータを解析する手法を高度化し、大規模かつ高精度な数値シミュレーションにより地震・火山活動の推移予測を行っている。
 国土地理院は、電子基準点(※37)等によるGNSS(※38)連続観測、超長基線電波干渉法(VLBI(※39))、干渉合成開口レーダ(InSAR(※40))等を用いた地殻変動やプレート運動の観測、解析及びその高度化のための研究開発を実施している。また、気象庁、防災科学技術研究所、神奈川県温泉地学研究所、東京大学地震研究所等による火山周辺のGNSS観測点のデータも含めた火山GNSS統合解析を実施し、火山周辺の地殻変動のより詳細な監視を行っている。
 海上保安庁は、GNSS測位と音響測距を組み合わせた海底地殻変動観測や海底地形等の調査を推進し、その結果を随時公表している。

(3)対応力の向上
 SIP第1期「レジリエントな防災・減災機能の強化」(平成26~30年度)において開発した、災害情報を電子地図上で集約し、関係機関での情報共有を可能とするシステムである「基盤的防災情報流通ネットワーク」(SIP4D(※41))を活用し、令和2年7月豪雨等において、内閣府防災部局が運用する災害時情報集約支援チーム(ISUT(※42))が、地方自治体の災害対応に対して情報面からの支援を行った。また、平成30年度より開始したSIP第2期「国家レジリエンス(防災・減災)の強化」において、衛星、AIやビッグデータ等の最新の科学技術を最大限活用した災害発生時に国や市町村の意思決定の支援を行う情報システムを構築するため、研究開発及び社会実装を推進している。災害時にSNS上で、AIを活用し人間に代わって自動的に被災者と対話するシステムである防災チャットボット等について、自治体等との実証実験を通じた研究開発を進めている。
 また、準天頂衛星システム「みちびき」のサービスを平成30年11月1日に開始し、みちびきを経由して防災気象情報の提供を行う災害・危機管理通報サービス及び避難所等における避難者の安否情報を収集する安否確認サービスの提供を行っている。
 総務省は、情報通信等の耐災害性の強化や被災地の被災状況等を把握するためのICTの研究開発を行っている。また、これまで総務省が実施してきた災害時に被災地へ搬入して通信を迅速に応急復旧させることが可能な通信設備(移動式ICTユニット)等の研究成果の社会実装や国内外への展開を推進している。
 防災科学技術研究所は、各種自然災害の情報を共有・利活用するシステムの開発に関する研究を実施するとともに、必要となる実証と、指定公共機関としての役割に基づく行政における災害対応の情報支援を行っている。令和2年7月に熊本県を中心に甚大な被害が発生した豪雨災害時においては、「SIP4D」に収集された情報や被災地で収集された情報を一元的に集約し、各災害に関連した過去の情報や分析結果等とともに、「防災科研クライシスレスポンスサイト」(NIED-CRS;一般公開)やISUT-SITE(災害対応機関に限定公開)と呼ばれる地図を表示するウェブサイトを介して災害対応機関へ情報発信を行い、球磨川周辺の孤立集落対応等を支援した。
 防衛省は、自衛隊の災害派遣活動を支援するため、隊員の重量負荷を軽減しつつ迅速機敏な行動及び不整地の踏破を可能とする高機動パワードスーツに関する研究等を実施している。また、大規模災害等において、被災した橋(きょう)梁(りょう)の代替手段をいち早く確保し、被災者の救助や復旧部隊の迅速な展開を支援するため、軽量かつ高強度な複合材の適用を目指した応急橋(きょう)梁(りょう)基礎技術の確立に向けた研究を実施している。
 消防庁消防研究センターは、エネルギー・産業基盤災害において、G空間×ICTを活用した精度の高い自律技術及び協調連携技術等により人が近づけない現場に接近し、情報収集や放水を行うための消防ロボットシステムの研究開発を進め、平成30年度に完成させた実戦配備型の消防ロボットシステムを消防本部に実証配備し、量産型の仕様策定を目指し、機能の最適化等の検討を実施した。また、①石油タンクの地震被害に関する高精度予測(石油タンク本体に被害をもたらすおそれの高い短周期地震動の性状の特定、地下構造の違いによるタンクごとの長周期地震動の影響等)、②石油タンク等の火災規模や油種等に応じた強力な泡消火技術、③石油コンビナートで貯蔵・取り扱われる反応性の高い化学物質(禁水性物質、蓄熱発火性物質など)の火災危険性に関するより適切な評価と消火時の安全管理技術についての研究開発を実施した。加えて、内面ライニング鋼板の健全性に関する定量的な診断基準等に係る研究開発を開始した。
 さらに、災害時の消防活動能力を向上させるため、救急車運用最適化等に関する研究、また、土砂災害現場における無人航空機(UAV(※43))など上空からの画像情報を活用した捜索救助活動技術、乱雑に堆積したガレキ等を取り除く手法等に関する研究開発を実施した。南海トラフ地震や首都直下地震によって発生が危惧される市街地における大規模延焼火災発生に備え、市街地火災延焼シミュレーションの高度化や被害の拡大要因である火災旋風・飛び火の現象の解明、それらの住民の避難誘導や消火活動への活用等に関する研究開発を行った。加えて、有効な火災予防対策が行えるよう火災原因調査能力の向上に関する研究開発を行うとともに、建物からの効果的な避難に関する研究開発を実施した。
 情報通信研究機構は、天候等にかかわらず災害発生時における被災地の地表状況を随時・臨機に観測可能な航空機搭載合成開口レーダ(Pi-SAR(※44))の高度化を実施している。また、公衆通信インフラが災害等で壊滅してもローカルでネットワークを維持できる地域分散ネットワーク技術や、SNSへの投稿をリアルタイムに分析し災害関連情報を抽出する情報分析技術の開発及びそれらに関して、自治体等と連携して、防災訓練等での実証実験に取り組んでいる。
 国土技術政策総合研究所は、避難・水防に即応可能な情報伝達のための決壊覚知・氾濫実況予測に関する研究、地震を受けた地方自治体の拠点建築物(庁舎等)の健全性迅速判定技術の開発、災害後における居住継続のための自立型エネルギーシステムの設計目標に関する研究を行っている。また、港湾分野においては、大規模地震時の港湾施設の即時被害推定手法に関する研究を行っている。
 土木研究所は、国内外の水災害に対応するリスクマネジメント支援技術の開発、大地震に対する構造物の被害最小化技術・早期復旧技術の開発を実施している。
 宇宙航空研究開発機構は、陸域観測技術衛星2号「だいち2号」(ALOS-2(※45))などの人工衛星を活用した様々な災害の監視や被災状況の把握に貢献している(第3章第4節参照)。
 また、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行を受けて、経済産業省は、EdTechの学校への導入や在宅教育を促進するオンライン・コンテンツの開発を進めることとした。また、越境ECの利活用促進や、デジタル商談プラットフォームの構築、スマート保安の推進など、非対面・遠隔での事業活動への支援を充実することとした。

(4)東日本大震災への対応と復興・再生の実現
ア 被災地の産業の復興・再生
 文部科学省は、津波により被害を受けた東北地方太平洋沖の海洋生態系を回復させるため、地方公共団体や関係省庁と連携しつつ、「東北マリンサイエンス拠点」を構築し、海洋生態系の調査研究を実施してきた。得られた成果は地域の漁業計画の策定や養殖場の設定等に活用されている。
 農林水産省は、「福島イノベーション・コースト構想」の実現に向け、原子力災害で被害を受けた福島県浜通り地域等において、先端技術を取り入れた先進的な農林水産業を全国に先駆けて実践することで、農林業の復興・再生を目指すため、先端農林業ロボットの開発・実証を支援している。
 また、被災地域の基幹産業である農林水産業や農村・漁村の復興・再生を加速し、更に成長力のある新たな農林水産業を育成するため、岩手県及び福島県に農業分野、宮城県及び福島県に水産業分野の研究・実証地区を設け、先端技術を駆使した現地実証研究を実施するとともに、岩手県、宮城県及び福島県に社会実装拠点を設け、研究成果の普及促進の取組を進めている。具体的には、被災地の農業者や漁業者等と連携し、被災各県の条件に応じ、水田輪作、施設園芸、漁船漁業、魚類の養殖・放流・加工等を対象とした特色ある実証研究を行っている。
 加えて、福島イノベーション・コースト構想を更に発展させて、福島浜通り地域等の復興・創生を政府のイニシアティブで長期にわたりリードしていくため、復興庁を中心に関係省庁と連携して、研究開発と人材育成の中核となる国際教育研究拠点を新設することとしている。本拠点は、「創造的復興の中核拠点」として、原子力災害によって甚大な被害を受けた福島浜通り地域等において、国内外の叡智(えいち)を結集して、新産業の創出等、福島の創造的復興に不可欠な研究開発及び人材育成を行い、発災国の国際的責務としてその経験・成果等を世界に発信・共有するとともに、そこから得られる知を基に、日本の産業競争力の強化や、日本・世界に共通する課題解決に資するイノベーションの創出を目指していく。今後、本拠点の整備に向け、令和3年度内に基本構想を策定する。

イ 原子力損害賠償に向けた取組
 「原子力損害の賠償に関する法律」(昭和36年法律第147号)は、原子力事故による損害の賠償に備え、被害者の保護と原子力事業の健全な発達を図ることを目的に掲げ、原子炉の運転等による原子力損害についての賠償責任を原子力事業者に集中させ、当該原子力事業者に無限・無過失の賠償責任を負わせることを規定している。また、原子力事業者による賠償の確実かつ迅速な履行を確保するため、原子力事業者に対する損害賠償措置の義務付けや賠償措置額を超える原子力損害が発生した場合の政府の援助等を規定するとともに、損害賠償の円滑かつ適切な実施を図るため、原子力損害賠償紛争審査会の設置等を規定している。
 東電福島第一原子力発電所及び第二原子力発電所の事故(以下「本件事故」という。)発生以降、多くの住民が避難生活や生産及び営業を含めた事業活動の断念などを余儀なくされており、10年が経過している中で、被害者が1日でも早く安心で安全な生活を取り戻せるよう、引き続き迅速・公平・適正な賠償が必要である。そのため、原子力損害の賠償に関する法律に基づき、本件事故における被害者のための様々な措置を講じている。
 文部科学省は、原子力損害賠償紛争審査会を設置し、賠償すべき損害として一定の類型化が可能な損害項目やその範囲等を示した指針を、地元の意見も踏まえつつ順次策定するとともに、必要に応じて見直しを行っている。また、原子力損害賠償紛争解決センターでは、業務運用の改善や体制整備を図りつつ、和解仲介手続を実施している。加えて、原子力損害の賠償が未請求の被災者の方々に対し、早期に賠償をご請求いただけるように、関係機関と連携しながら取組を進めている。さらに、政府として、東電の迅速かつ適切な損害賠償の実施や経営の合理化等に関する「新々・総合特別事業計画」を平成29年5月に認定(その後、数度の変更認定)し、原子力損害賠償・廃炉等支援機構を通じて、東電による円滑な賠償の支援を行っている。

コラム2-4 無人海上観測機「ウェーブグライダー」を用いて効率的な海底地殻変動観測が可能に~巨大地震の発生可能性評価の信頼度大幅向上へ期待~

 我が国は、地球を覆う複数のプレートの境界に位置する地震大国であり、平成23年の東北地方太平洋沖地震のような巨大地震が繰り返し発生し、大きな津波によって甚大な被害を受けてきている。
 このような海溝型巨大地震は、沈み込む海洋プレートと陸側のプレートとの固着で生じる歪みを解放する現象の一つである。このため、プレート同士の固着の状況の把握は、地震の規模や発生時期の予測の実現に向けて大変重要な情報となる。ただし、プレートの境界面は海底下にあるため、固着の状況を把握するためには、海底での地殻変動の観測データが不可欠である。これまでは、海上での観測と海上-海底間の音響測距とを組み合わせた観測手法を用いた観測点が日本周辺に設置されている。これにより、日本海溝沿いの海域で東北地方太平洋沖地震の地震時の地殻変動が数十mに達したことが明らかとなるなど、海溝型巨大地震の発生過程の解明に重要な知見が数多くもたらされてきたところである。しかしながら、この観測の実施には、船舶による観測航海が不可欠であり、莫大なコストがかかることが課題となっていた。
 そこで、海洋研究開発機構と東北大学による研究チームは、無人海上観測機「ウェーブグライダー」を用いた新たな観測システムを開発した。このシステムを用いた観測を令和2年6月から7月にかけての約40日間で実施した結果、船舶を用いた場合と同程度の精度でのデータの取得に成功した。さらに、約40日間の運用に要した費用は、船舶を使用した場合のおよそ1/10かそれ以下にとどまっていた。今後、無人機を活用すべき場面と有人船舶を用いる場面との住み分けが進むことで、より効率的な海底地殻変動観測の実施体制の構築が期待される。また、無人海上観測機は海底地形調査のみならず気象・海象観測等も可能なものであり、気候変動研究等への活用も期待される。

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投入直前のウェーブグライダー
提供:海洋研究開発機構

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海上での観測と海上-海底間の音響測距とを
組み合わせた観測手法の模式図
提供:海洋研究開発機構

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ウェーブグライダーの航跡図
提供:海洋研究開発機構

❷ 食品安全・生活環境・労働衛生等の確保

(1)食品における安全・安心の確保
 文部科学省は、我が国で日常摂取される食品の成分を収載した「日本食品標準成分表」を公表している。現代型の食生活に対応した質の高い情報の集積が求められていることから、令和2年12月に「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」への全面改訂を行い、掲載食品の拡充等を行った。
 農林水産省は、安全な農畜水産物・食品の安定供給の観点から、生産・加工・流通工程における有害化学物質及び微生物の汚染防止・低減のための技術の開発、重要家畜疾病の蔓(まん)延(えん)のリスクや畜産農家の経済的損失を低減させるためのより効果的な防疫措置の研究や検査法の開発並びに農産物の病害虫による被害を低減させるための防除技術の開発等に取り組んでいる。

(2)生活環境における安全・安心の確保
ア 放射性物質対策に向けた取組
 東電福島第一原子力発電所事故由来の放射性物質により汚染された環境の回復に向けて、関係機関が協力して放射性物質対策のための技術開発・調査研究に取り組んでいる。
 農林水産省は、農地及び森林の効果的・効率的な放射性物質対策に向けて技術開発を行うとともに、これまでに開発された技術を実証し、これらの成果を速やかに公表している。また、除染後の農地の地力を回復・向上させる技術開発、農作物の安全性を確保しつつ吸収抑制対策としてカリウム施肥の適正化を図る技術開発等、除染後の様々な課題に対応するための技術開発を行っている。
 環境省は、福島県内の除染により発生した土壌等の福島県外最終処分に向けて、減容・再生利用の技術開発戦略を取りまとめ、減容化等の分野において活用し得る技術の効果、安全性等を評価する実証事業を行っている。
 原子力機構は、福島県環境創造センター研究棟に入居し、福島県や国立環境研究所等と連携・協力して、東電福島第一原子力発電所事故により放射性物質で汚染された環境の回復に向けた放射線測定に関する技術開発や、放射性物質の環境動態等に関する研究、減容・再生利用に関する技術開発等を行っている。

イ 小児に対する環境リスクの解明に向けた取組
 環境省は、国立環境研究所等と連携し、全国で10万組の親子を対象とした大規模かつ長期の出生コホート調査「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」を2011年度より実施している。同調査においては、母体血等の生体試料を採取保存・分析するとともに、子供が13歳に達するまで質問票等によるフォローアップを行い、子供の健康に影響を与える環境要因を明らかにすることとしている。
 この調査研究の実施体制としては、国立環境研究所(コアセンター)が研究計画の立案や生体試料の化学分析等を、国立成育医療研究センター(メディカルサポートセンター)が医学的な支援を、全国15地域のユニットセンターが参加者のフォローアップを担っており、環境省は本調査に関する外部評価、広報・対話業務及び国際連携業務を実施するとともに、本調査研究の結果を用いて環境施策の検討を行うこととしている。

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子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)
http://www.env.go.jp/chemi/ceh/別ウィンドウで開きます

❸ サイバーセキュリティの確保

 「サイバーセキュリティ基本法」(平成26年法律第104号)に基づき、サイバーセキュリティに関する施策を総合的かつ効果的に推進するため、内閣に設置された「サイバーセキュリティ戦略本部」(本部長:内閣官房長官)での検討を経て、平成30年7月27日に「サイバーセキュリティ戦略」を閣議決定した。これに基づき、サイバーセキュリティに関する技術の研究開発を推進している。
 内閣府は、平成30年度より、SIP「IoT社会に対応したサイバー・フィジカル・セキュリティ」に取り組んでいる。本課題では、セキュアなSociety 5.0の実現に向け、IoTシステム・サービス及び中小企業を含む大規模サプライチェーン全体を守ることに活用できる「サイバー・フィジカル・セキュリティ対策基盤」の開発と実証を行い、多様な社会インフラやサービス、幅広いサプライチェーンを有する製造・流通・ビル等の各産業分野への社会実装を推進している。
 総務省は、情報通信研究機構等を通じて、サイバー攻撃観測やサイバーセキュリティ分野の研究開発を推進している。さらに、当該研究開発等を通じて得た技術的知見を活用して、巧妙化・複雑化するサイバー攻撃に対し、実践的な対処能力を持つセキュリティ人材を育成するため、同機構に組織した「ナショナルサイバートレーニングセンター」において、国の機関、地方公共団体等を対象とした実践的サイバー防御演習(CYDER(※46))の実施や、若手セキュリティ人材の育成(SecHack365)に取り組んでいる。
 経済産業省は、IoTやAIによって実現される「Society 5.0」におけるサプライチェーン全体のサイバーセキュリティ確保を目的として、産業に求められる対策の全体像を整理した「サイバー・フィジカル・セキュリティ対策フレームワーク(CPSF(※47))」を平成31年4月に策定し、CPSFに基づく産業分野別のガイドラインの作成等を進めている。平成30年11月に産業技術総合研究所が設立した「サイバーフィジカルセキュリティ研究センター」では、サイバー空間とフィジカル空間が融合する中で、高度化・複雑化する脅威の分析と、脅威に対するセキュリティ強化技術の研究開発を推進・実施している。また、平成29年4月に情報処理推進機構に設立された「産業サイバーセキュリティセンター」では、情報システムに加え、重要インフラ事業者等における制御系システムのサイバーセキュリティ対策の中核を担う人材の育成等の取組を推進している。

❹ 国家安全保障上の諸課題への対応

 「国家安全保障戦略」(平成25年12月17日国家安全保障会議・閣議決定)において、「我が国の高い技術力は、経済力や防衛力の基盤であることはもとより、国際社会が我が国に強く求める価値ある資源でもある。このため、デュアル・ユース技術を含め、一層の技術の振興を促し、我が国の技術力強化を図る必要がある」と掲げられている。
 第5期基本計画では、「科学技術には多義性があり、ある目的のために研究開発した成果が他の目的にも活用できる」といった性質を有していることや「我が国の安全保障を巡る環境が一層厳しさを増している中で、国及び国民の安全・安心を確保するためには、我が国の様々な高い技術力の活用が重要である」ことを指摘している。国家安全保障戦略や第5期基本計画に基づき、国家安全保障上の諸課題に対し、関係府省や産学官の連携の下、必要な技術の研究開発を推進することが求められている。
 公安調査庁は、統合イノベーション戦略2020等に基づき、技術流出の防止に向け、企業買収やサイバー空間における情報窃取を含めた技術流出の実態等に係る情報の収集・分析を実施し、適時、関係機関に情報提供している。
 防衛省は、防衛分野での将来における研究開発に資することを期待し、先進的な民生技術についての基礎研究を、公募・委託する安全保障技術研究推進制度(第2-3-2図)を平成27年度から実施している。
 また、防衛省は、ICT等の技術革新のサイクルが速く、進展の速い民生先端技術を技術者と運用者が一体となり速やかに取り込むことで、3~5年程度の短期間での実用化を図る取組を平成29年度より実施している。
 科学警察研究所においては、都市部における放射線テロを想定した被害予測シミュレータの開発を実施している。疑似線源とスマートフォンを活用した仮想放射線測定システムの改良も進め、核セキュリティ事案を想定した初動対処訓練や医療分野における放射線教育等に活用している。
 また、国際テロで用いられている、市販原料から製造される手製爆薬に関する威力・感度の評価や実証試験を実施するとともに、爆発物原料管理者対策に資する研究を実施している。

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コラム2-5 爆発の威力軽減に関する研究

 国際テロにおいては爆発物が頻繁に使用されているが、爆発物処理のためにこれを移動させることが困難な場合が非常に多い。科学警察研究所では、そのような状況において万が一爆発した場合の被害を軽減するための研究を行い、メーカーや他研究所とともに威力軽減剤を開発した。威力軽減剤で爆発物の周囲を囲むことで、爆発時に発生する爆風が大きく軽減され、炎も非常に小さくなることが分かっている(写真参照)。爆発物から人命や建造物を守るため、威力軽減剤の活用方法が検討されているところである。

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威力軽減剤の有無による爆発状況の違い
(左:威力軽減剤なし、右:威力軽減剤あり(炎がほぼ見られない))
提供:科学警察研究所 法科学第二部 爆発研究室

コラム2-6 基礎研究の成果を防衛装備品の研究開発へ“橋渡し”

 近年、民生分野の科学技術の進展は著しく、かつては防衛分野で培われた先進技術が民生分野にも展開されていたが、現代においては多くの防衛技術が民生分野から来ており、各国は安全保障面での技術的優位を得るために民生分野の先進技術の獲得に注力している。
 そのような中で、防衛装備庁では、令和2年度から、「安全保障技術研究推進制度」で得られた基礎研究の成果等の中から、有望な先進技術を早期に発掘、育成し、技術成熟度を引き上げて迅速かつ柔軟に装備品の研究開発に適用する「橋渡し研究」を開始している。
 「橋渡し研究」では、革新的・萌芽的な技術の成長性を“分析”し、見極め、その技術をどこまで伸ばすべきか“検討”を加え、実際に技術を育成しながら重点投資すべき技術において利活用できるのか“検証”することとしている。
 これらの取組により、将来的なゲーム・チェンジャーとなり得る装備品の創製につなげることを目指している。

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橋渡し研究の具体例:水中光無線通信の多重化等の研究
安全保障技術研究推進制度として実施した「光電子増倍管を用いた適応型水中光無線通信の研究」(委託先:海洋研究開発機構)の成果を活用し、装備品を想定した小型・軽量化、複数機間の通信等を実証。

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  • ※1 ペロブスカイトと呼ばれる結晶構造を持つ物質を使った我が国発の太陽電池。塗布や印刷などの簡易なプロセスが適用できるため、製造コストの大幅低減が期待されている。
  • ※2 Advanced Low CarbonTechnology Research and Development Program
  • ※3 Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage
  • ※4 Integrated Coal Gasification Fuel Cell Combined Cycle
  • ※5 Liquefied Natural Gas
  • ※6 Carbon dioxide Capture and Utilization/Carbon Recycling
  • ※7 International Atomic Energy Agency
  • ※8 Preparatory Commission for the Comprehensive Nuclear-Test-Ban Treaty Organization
  • ※9 使用済燃料から再処理によって分離されたプルトニウムをウランと混ぜて、混合酸化物燃料に加工し、使用すること。
  • ※10 Sustainable Development Goals
  • ※11 Regional Cooperative Agreement for Research, Development and Training Related to Nuclear Science and Technology
  • ※12 Peaceful Uses Initiative
  • ※13 OECD Nuclear Energy Agency
  • ※14 Forum for Nuclear Cooperation in Asia
  • ※15 Generation IV International Forum
  • ※16 臨界プラズマ試験装置JT-60を平成20年8月に運転停止し、改修のため解体し、令和2年3月に組立完了。現在は運転開始に向けた調整を実施。
  • ※17 日本・欧州・米国・ロシア・中国・韓国・インドの7極による国際約束に基づき、核融合実験炉の建設・運転を通じて、その科学的・技術的実現可能性を実証する国際共同プロジェクト
  • ※18 Broader Approach
  • ※19 全固体電池やリチウムイオン電池よりも高いエネルギー密度を有する革新型蓄電池
  • ※20 Floating Production Storage and Offloading System
  • ※21 Autonomous Underwater Vehicle
  • ※22 quality of life
  • ※23 Medical genomics Japan Variant Database
  • ※24 Building Information Modeling/Construction Information Modeling。
    測量・調査、設計段階から3次元モデルを導入することにより、その後の施工、維持管理・更新の各段階においても3次元モデルを連携・発展させて事業全体にわたる関係者間の情報共有を容易にし、一連の建設生産・管理システムの効率化・高度化を図るもの。
  • ※25 Nationwide Ocean Wave infomation network for Ports and HArbourS
  • ※26 http://www.mlit.go.jp/kowan/nowphas/
  • ※27 Dense Oceanfloor Network system for Earthquakes and Tsunamis
  • ※28 Seafloor observation network for earthquakes and tsunamis along the Japan Trench
  • ※29 Nankai Trough Seafloor Observation Network for Earthquakes and Tsunamis
  • ※30 The Fundamental Volcano Observation Network
  • ※31 Monitoring of Waves on Land and Seafloor
  • ※32 マルチパラメータレーダ。水平偏波と垂直偏波の2種類の電波を同時に送信・受信できるレーダ
  • ※33 Phase combination Forward search
  • ※34 Integrated Particle Filter法。同時に複数の地震が発生した場合でも、震源を精度良く推定する手法。京都大学防災研究所と協力して開発
  • ※35 Propagation of Local Undamped Motion法。強く揺れる地域が非常に広範囲に及ぶ大規模地震でも、震度を適切に予測する手法
  • ※36 tsunami Forecasting based on Inversion for initial sea-Surface Height
  • ※37 令和3年3月末現在で、全国に約1,300点
  • ※38 Global Navigation Satellite System
  • ※39 Very Long Baseline Interferometry:数十億光年の彼方(かなた)から、地球に届く電波を利用し、数千kmもの距離を数mmの誤差で測る技術
  • ※40 Interferometric Synthetic Aperture Radar: 人工衛星で宇宙から地球表面の変動を監視する技術
  • ※41 Shared Information Platform for Disaster Management
  • ※42 Information SUpport Team
  • ※43 Unmanned Aerial Vehicle
  • ※44 Polarimetric and Interferometric Airborne Synthetic Aperture Radar
  • ※45 Advanced Land Observing Satellite-2
  • ※46 CYber Defense Exercise with Recurrence
  • ※47 Cyber Physical Security Framework

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