第1章 科学技術・イノベーション政策の展開

 第2部では、令和2年度に科学技術・イノベーション創出の振興に関して講じられた施策について、第5期科学技術基本計画(平成28年1月22日閣議決定)に沿って記述する。

第1節 科学技術・イノベーション基本計画

 我が国の科学技術・イノベーション行政は、「科学技術・イノベーション基本法」(平成7年法律第130号)に基づき、政府が5年ごとに策定する科学技術・イノベーション基本計画(以下「基本計画」という。)にのっとり、総合的かつ計画的に推進している。
 これまで、第1期(平成8~12年度)、第2期(平成13~17年度)、第3期(平成18~22年度)、第4期(平成23~27年度)、第5期(平成28年度~令和2年度)の基本計画を策定し、これらに沿って政策を進めてきた。(第1期から第5期までは科学技術基本計画)
 令和3年度から始まった第6期科学技術・イノベーション基本計画(令和3年度~令和7年度)(以下「第6期基本計画」という。)は令和2年6月の科学技術基本法の本格的な改正により、名称が「科学技術・イノベーション基本法」となってから初めての計画である。第6期基本計画の策定に向けた検討は、平成31年4月に内閣総理大臣から総合科学技術・イノベーション会議に対して第6期基本計画に向けた諮問(諮問第21号「科学技術基本計画について」)がなされて設置された基本計画専門調査会にて約2年間にわたり行われ、令和3年3月26日、第6期基本計画が閣議決定された。
 第6期基本計画では、まず、第5期基本計画期間中に生じた社会の大きな変化として、先端技術(AI、量子等)を中核とした国家間の競争の先鋭化を起因とする世界秩序の再編、技術流出問題の顕在化とこれを防ぐ取組の強化、気候変動をはじめとするグローバル・アジェンダの現実化、情報社会(Society 4.0)の限界の露呈を挙げ、これらの変化が今般の新型コロナウイルス感染症の拡大により加速されていることを指摘している。そして、科学技術・イノベーション政策の振り返りとして、Society 5.0の前提となる情報通信技術の本来の力を生かし切れなかったことや、我が国の論文に関する国際的地位の低下、若手研究者を取り巻く厳しい環境、さらには、科学技術基本法の改正により、「人文・社会科学」の振興と「イノベーションの創出」を法の対象に加えたことを挙げている。
 これら背景の下、第6期基本計画では、第5期基本計画で提示したSociety 5.0を具体化し、「直面する脅威や先の見えない不確実な状況に対し、持続可能性と強靱(きょうじん)性を備え、国民の安全と安心を確保するとともに、一人ひとりが多様な幸せ(well-being)を実現できる社会」とまとめ、その実現のための具体的な取組を以下のとおり掲げた。

① 国民の安全と安心を確保する持続可能で強靱(きょうじん)な社会への変革
 我が国の社会を再設計し、世界に先駆けた地球規模課題の解決や国民の安全・安心を確保することにより、国民一人ひとりが多様な幸せを得られる社会への変革を目指す。
 このため、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)がダイナミックな好循環を生み出す社会へと変革させ、いつでも、どこでも、だれでも、安心してデータやAIを活用できるようにする。そして、世界のカーボンニュートラルを牽引(けんいん)するとともに、自然災害や新型コロナウイルス感染症などのリスクを低減することなどにより強靱(きょうじん)な社会を構築する。
 また、スタートアップを次々と生み出し、多様な主体が連携して価値を共創(きょうそう)する新たな産業基盤を構築するとともに、Society 5.0を先行的に実現する都市・地域(スマートシティ)を全国・世界に展開していく。
 さらには、これらの取組を支えるとともに、新たな社会課題に対応するため、総合知を活用し、次期SIPやムーンショット等の社会課題解決のための研究開発や社会実装の推進、社会変革を支えるための科学技術外交の展開を進める。
② 知のフロンティアを開拓し価値創造の源泉となる研究力の強化
 研究者の内在的な動機に基づく多様な研究活動と、自然科学や人文・社会科学の厚みのある「知」の蓄積は、知的・文化的価値以外にも新技術や社会課題解決に資するイノベーションの創出につながる。こうした「知」を育む研究力を強化するため、まず、博士後期課程学生や若手研究者の支援を強化する。また、人文・社会科学も含めた基礎研究・学術研究の振興や総合知の創出の推進等とともに、研究者が腰を据えて研究に専念しながら、多様な主体との知の交流を通じ、独創的な成果を創出する創発的な研究の推進を強化する。
 そして、オープンサイエンスを含め、データ駆動型研究など、新たな研究システムの構築を進める。
 さらに、「知」の結節点であり、最大かつ最先端の「知」の基盤である大学について、個々の強みを伸ばして多様化し、個人の多様な自己実現を後押しするよう大学改革を進める。特に、世界に伍する研究大学のより一層の成長を促進するため、10兆円規模の大学ファンドの創設等を進める。
③ 一人ひとりの多様な幸せ(well-being)と課題への挑戦を実現する教育・人材育成
 社会の再設計を進め、Society 5.0の社会で価値を創造するために、個人の幸せを追求し、試行錯誤しながら課題に立ち向かっていく能力・意欲を持った人材を輩出する教育・人材育成システムの実現を目指す。具体的には、初等中等教育段階におけるSTEAM教育の推進や、「GIGAスクール構想」に基づく取組をはじめとした教育分野のDXの推進、外部人材・資源の学びへの参画・活用等により、好奇心に基づいた学びを実現し探究力を強化する。また、大学等における多様なカリキュラム等の提供、リカレント教育を促進する環境・文化の醸成をはじめ、学び続ける姿勢を強化する環境の整備を行う。
 また、これらの科学技術・イノベーション政策を推進すべく、第6期基本計画中に、政府の研究開発投資の総額として約30兆円を確保するとともに、官民合わせた研究開発投資総額を約120兆円とすることを目標に掲げた。
 さらに、第6期基本計画に掲げた取組を着実に行えるよう、総合知を活用する機能の強化と未来に向けた政策の立案、エビデンスシステム(e-CSTI)の活用による政策立案機能強化と実効性の確保、毎年の統合戦略と基本計画に連動した政策評価の実施、司令塔機能の実効性確保を進めることとしている。

第2節 総合科学技術・イノベーション会議

 総合科学技術・イノベーション会議は、内閣総理大臣のリーダーシップの下、我が国の科学技術・イノベーション政策を強力に推進するため、「重要政策に関する会議」として内閣府に設置されている。我が国全体の科学技術・イノベーションを俯(ふ)瞰(かん)し、総合的かつ基本的な政策の企画立案及び総合調整を行うことを任務とし、議長である内閣総理大臣をはじめ、関係閣僚、有識者議員等により構成されている(第2-1-1表)。
 また、総合科学技術・イノベーション会議の下に、重要事項に関する専門的な事項を審議するため、6つの専門調査会(基本計画専門調査会(※1)、科学技術イノベーション政策推進専門調査会、重要課題専門調査会、生命倫理専門調査会、評価専門調査会、世界と伍する研究大学専門調査会)を設けている。

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❶ 令和2年度の総合科学技術・イノベーション会議における主な取組

 総合科学技術・イノベーション会議では「統合イノベーション戦略2020」(令和2年7月17日閣議決定)の策定、「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP(※2))」及び「官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM(※3))」の運営等、政策・予算・制度の各面で審議を進めてきた。
 令和2年度は、令和3年3月16日の総合科学技術・イノベーション会議において、内閣総理大臣からの諮問第21号「科学技術基本計画について」に対する答申案を決定するとともに、世界と伍する研究大学専門調査会の設置を決定した。

❷ 科学技術関係予算の戦略的重点化

 総合科学技術・イノベーション会議は、政府全体の科学技術関係予算を重要な分野や施策へ重点的に配分し、基本計画や統合イノベーション戦略の確実な実行を図るため、予算編成において科学技術・イノベーション政策全体を俯(ふ)瞰(かん)し関係府省の取組を主導している。

(1)科学技術に関する予算等の配分の方針
 総合科学技術・イノベーション会議は、中長期的な政策の方向性を示した基本計画の下、毎年の状況変化を踏まえ、統合イノベーション戦略において、その年度に重きを置くべき取組を示し、それらに基づいて、政府全体の科学技術関係予算の重要な分野や施策への重点的配分や政策のPDCAサイクルの実行等を図っている。

(2)戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の推進
 SIPは、総合科学技術・イノベーション会議が司令塔機能を発揮して、基礎研究から出口(実用化・事業化)までの研究開発を一気通貫で推進し、府省連携による分野横断的な研究開発に産学官連携で取り組むプログラムである。SIPの実施に当たっては、総合科学技術・イノベーション会議が定める方針の下、内閣府に計上する「科学技術イノベーション創造推進費」(令和2年度:555億円)を重点配分した。なお、健康医療分野に関しては、健康・医療戦略推進本部の下で推進した。

 平成29年度補正予算において措置されたSIP第2期については、補正予算の趣旨である生産性革命を推進するとともに、Society 5.0の実現に向け、引き続きSIP第1期のコンセプトを踏襲しつつ、以下のリンク先に示す12の課題を推進している。令和2年度においては、SIP第2期開始後、3年目となることから、各課題の中間評価を実施するとともに、SIP制度の中間評価も実施した。
 SIP第1期については、事業終了後の追跡調査(※4)を実施しており、社会実装の実現に向けてプログラム実施期間中から取り組むべき事項を洗い出し、現在実施中のSIP第2期の制度や課題の運営に反映していくこととしている。

《参考》
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SIP(第2期)研究開発計画の概要
https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/kenkyugaiyou02.pdf別ウィンドウで開きます

(3)官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM)の推進
 PRISMは、民間投資の誘発効果の高い領域や研究開発成果の活用による政府支出の効率化が期待される領域(※5)に各府省庁施策を誘導すること等を目的に平成30年度に創設したプログラムである。総合科学技術・イノベーション会議が策定した各種戦略等を踏まえ、インフラ、創薬、農業等のデータ連携基盤の確立等に重点化し配分を行ってきており、令和2年度においてはこれに加え、令和2年1月に新たに策定した量子技術イノベーション戦略を踏まえ、量子AI技術及び量子生命技術分野への追加配分を実施した。今後も総合科学技術・イノベーション会議が策定する各種戦略等を踏まえ、各府省庁の事業の加速等により、官民の研究開発投資の拡大を目指す。

(4)ムーンショット型研究開発制度の推進
 ムーンショット型研究開発制度は、超高齢化社会や地球温暖化問題など重要な社会課題に対し、人々を魅了する野心的な目標(ムーンショット目標)を国が設定し、挑戦的な研究開発を推進するものである。総合科学技術・イノベーション会議はムーンショット目標1~6を令和2年1月に決定し(第48回総合科学技術・イノベーション会議本会議)、さらに、健康・医療戦略推進本部はムーンショット目標7を令和2年7月に決定した(第30回本部会合)。「ムーンショット型研究開発制度に係るビジョナリー会議」で示されたヒューマン・セントリック(人間中心の社会)な考え方も踏まえ、最終的には、一人ひとりの多様な幸せ(well-being)を目指す。

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 令和2年度は、以下に示すとおり、七つの目標達成に向け、合計47の研究開発プロジェクトを開始した。研究開発の戦略的な推進、研究開発成果の実用化の加速、関係府省や関係研究推進法人の間の効果的な連携・調整を図るため、産学官から構成される戦略推進会議を設置し開催した。
 さらに、新型コロナウイルス感染症の影響により、今後も社会経済の姿が大きく変容していくことが想定され、我が国の将来像や、それに向けた野心的な研究開発の在り方についても、再考が求められている。本制度では、社会環境の変化等に応じて目標を追加することとしており、新型コロナウイルス感染症の感染拡大等による経済社会の変容に対応すべく、若手を中心とする新たな目標の検討チームを公募し、21チームを決定した(令和3年1月19日公表)。採択された検討チームは半年間の調査研究等を行い、総合科学技術・イノベーション会議はこの結果を踏まえて令和3年秋頃に新たな目標を決定することを予定している。

ア 目標1 「2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現」
 ムーンショット目標1は、誰もが、場所や能力の制約を超えて社会活動に参画できるよう、身代わりとしての遠隔操作ロボットや3D映像等を示すアバター、人々の身体能力等を補完・拡張するサイボーグ技術やICT技術を組み合わせ、サイバネティック・アバター基盤を確立することを目指している。本目標の達成に向け、三つの研究開発プロジェクトを開始した。

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イ 目標2 「2050年までに、超早期に疾患の予測・予防をすることができる社会を実現」
 健康寿命を延伸するためには、疾患が発症した後で治療するという従来の考えから脱却し、疾患の超早期状態、さらには前駆状態を捉えて、疾患への移行を未然に防ぐという、超早期疾患予測・予防ができる社会を実現することが鍵となる。超早期疾患予測・予防を実現するため、観察・操作・計測・解析・データベース化等様々な研究開発を推進し、これらを統合して臓器間ネットワークの包括的な解明を進める。本目標の達成に向け、五つの研究開発プロジェクトを開始した。

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ウ 目標3 「2050年までに、AIとロボットの共進化により、自ら学習・行動し人と共生するロボットを実現」
 少子高齢化が進展する中で、危険な現場や人手不足の現場における労働、人類のフロンティア開発、生活のサポートなど、社会のあらゆる場面においてロボットを活用できるようにすることが重要で、AI とロボットの共進化によって、自ら学習・行動するロボットを実現することが鍵となる。ロボットの高度な身体性とAIの自己発展学習を両立するAIロボットの実現に向けた研究開発を推進する。本目標の達成に向け、四つの研究開発プロジェクトを開始した。

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エ 目標4 「2050年までに、地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現」
 地球環境再生のために、持続可能な資源循環の実現による、地球温暖化問題の解決(Cool Earth)と環境汚染問題の解決(Clean Earth)を目指す。本目標の達成に向け、「温室効果ガスを回収、資源転換、無害化する技術の開発」、「窒素化合物を回収、資源転換、無害化する技術の開発」、「生分解のタイミングやスピードをコントロールする海洋生分解性プラスチックの開発」を行う、13の研究開発プロジェクトを開始した。

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オ 目標5 「2050年までに、未利用の生物機能等のフル活用により、地球規模でムリ・ムダのない持続的な食料供給産業を創出」
 世界の人口増加により食料需要が増加すると見込まれているが、従来の方式だけでは地球の自然循環機能が破綻し立ちいかなくなるおそれがあることから、食料の増産と地球環境保全を両立するため、生産力向上のみならず、環境負荷や食品ロス問題を同時に解決し、地球規模でムリ・ムダのない食料供給システムの構築を目指す。本目標の達成に向け、「食料供給の拡大と地球環境保全を両立する食料生産システム」及び「食品ロス・ゼロを目指す食料消費システム」の開発を行う、10の研究開発プロジェクトを開始した。

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カ 目標6 「2050年までに、経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピュータを実現」
 多様かつ複雑で大規模な実問題を量子コンピュータで高速に解くには、量子的な誤りを直しながら正確な計算を実行する誤り耐性型汎用量子コンピュータの実現が鍵となることから、ハードウェア、ソフトウェア、ネットワーク及び関連する研究開発を推進する。本目標の達成に向け、七つの研究開発プロジェクトを開始した

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キ 目標7「2040年までに、主要な疾患を予防・克服し100歳まで健康不安なく人生を楽しむためのサステイナブルな医療・介護システムを実現」
 日常生活の中で自然と予防ができる社会、世界中のどこにいても必要な医療にアクセスできるメディカルネットワーク、健康格差をなくすインクルージョン社会を目指す。本目標の達成に向け、五つの研究開発プロジェクトを開始した。

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❸ 国家的に重要な研究開発の評価の実施

 総合科学技術・イノベーション会議は、内閣府設置法(平成11年法律第89号)第26条第1項第3号に基づき、国の科学技術政策を総合的かつ計画的に推進する観点から、各府省が実施する大規模研究開発(※7)等の国家的に重要な研究開発を対象に評価を実施している。
 また、同会議は、特定国立研究開発法人による研究開発等の促進に関する特別措置法(平成28年法律第43号)第5条に基づき、特定国立研究開発法人の中長期目標期間の最終年度においては、基本計画等の国家戦略との連動性の観点等から見込評価等や次期中長期目標案に対して意見を述べている。

❹ 専門調査会等における主な審議事項

(1)評価専門調査会
 より良い政策・施策等を実施していく上では、過去を振り返り、そこから様々な教訓や知見を得て、その教訓・知見を次の政策・施策等の検討やその推進に活(い)かしていくことが重要であることから、研究開発の評価の結果を科学技術・イノベーション政策・施策等の改善等に最大限に活かしていくことを目的として、評価専門調査会の下に「研究開発評価の充実に向けた検討ワーキングループ」を設置(令和元年10月~令和2年7月)して調査検討を行い、第6期基本計画を推進するために総合科学技術・イノベーション会議が行うべき「施策の総合的な評価」(基本計画のフォローアップ等の実施)の手法について取りまとめた。
 また、研究開発が終了した後に一定の時間経過してからの副次的成果や波及効果等の「長期的インパクト」を的確に把握するために有効な追跡評価・調査の各府省等における定着を促すために、これまで各府省等がそれぞれ工夫しながら行ってきた追跡評価・調査の良い取組を「好事例集」として取りまとめた。

(2)生命倫理専門調査会
 ヒト受精胚(はい)へのゲノム編集技術を用いる研究についての議論を深めるため、生命倫理専門調査会の下に、「『ヒト胚(はい)の取扱いに関する基本的考え方』見直し等に係るタスク・フォース」を設置して検討を行い、令和元年6月に「『ヒト胚(はい)の取扱いに関する基本的考え方』見直し等に係る報告(第二次)~ヒト受精胚(はい)へのゲノム編集技術等の利用等について~」を取りまとめた。当該報告において引き続き検討することとされた、研究用新規作成胚(はい)の作成を伴うゲノム編集技術等を用いる基礎的研究について、専門家や関係者へのヒアリングや委員による議論等を通じて検討を行っている。

(3)基本計画専門調査会
 第6期基本計画の策定に向け、令和2年6月に第5期基本計画のレビューを取りまとめた。また、レビューを踏まえ、計画の検討を進め、令和3年2月に答申案を取りまとめた。

第3節 統合イノベーション戦略

 政府は、Society 5.0の実現に向け、関連施策を府省横断的かつ一体的に推進するため、「統合イノベーション戦略」を策定している。本戦略は1年間の国内外における科学技術・イノベーションを巡る情勢を分析し、強化すべき課題、新たに取り組むべき課題を抽出して、施策の見直しを行っている。
 昨年度策定された「統合イノベーション戦略2020」では、新型コロナウイルス感染症の影響やイノベーションを巡る国内外の変化を踏まえ、Society 5.0の理念の重要性が指摘された。具体的に進めていく取組としては、
① 新型コロナウイルス感染症により直面する難局への対応と持続的かつ強靱(きょうじん)な社会・経済構造の構築
② 国内外の課題を乗り越え、成長につなげるイノベーションの創出(スタートアップ・エコシステム拠点都市の形成、スマートシティの実現と国際展開等)
③ 科学技術・イノベーションの源泉である研究力の強化(若手研究者の挑戦支援や世界に伍する規模の大学ファンドの創設、人文・社会科学の更なる振興等)
④ 戦略的に進めていくべき主要分野(AI、バイオ、量子技術、マテリアルといった基盤技術や、感染症や自然災害などに対する安全・安心に関する科学技術、環境エネルギーなどの応用分野)
 さらに、戦略的に取り組むべき分野について、AI分野では、「AI戦略2019」フォローアップ(令和2年6月26日 統合イノベーション戦略推進会議決定)をとりまとめ、「AI戦略2019」の進捗確認と本戦略を進める上で明らかになった新たな課題や新型コロナウイルス感染症への対応に向けた取組を挙げた。
 また、バイオエコノミーの拡大は、新型コロナウイルス感染症収束、2050年カーボンニュートラルの実現など社会課題の解決とともに、我が国経済の発展に重要である。このため、「バイオ戦略2020(基盤的施策)」(令和2年6月26日 統合イノベーション戦略推進会議決定)及び「バイオ戦略2020(市場領域施策確定版)」(令和3年1月19日 統合イノベーション戦略推進会議決定)を決定し、2030年に世界最先端のバイオエコノミー社会を実現するという全体目標の下、2030年時点で総額約92兆円の市場規模を目指し、バックキャストにより必要な施策を推進している。
 マテリアルは我が国が強みを持っている分野であり、カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーの実現に直結する重要な分野である。このためマテリアル革新力を強化すべく研究開発、産学官連携、人材育成を含めた総合的な政策パッケージの策定に向けた検討を進めており、令和3年1月22日には「マテリアル革新力強化戦略 中間論点整理」について統合イノベーション戦略推進会議で報告した。

第4節 科学技術・イノベーション行政体制及び予算

❶ 科学技術・イノベーション行政体制

 国の行政組織においては、総合科学技術・イノベーション会議による様々な答申等を踏まえ、関係行政機関がそれぞれの所掌(しょしょう)に基づき、国立試験研究機関、国立研究開発法人及び大学等における研究の実施、各種の研究制度による研究の推進や研究開発環境の整備等を行っている。
 文部科学省は、各分野の具体的な研究開発計画の作成及び関係行政機関の科学技術に関する事務の調整を行うほか、先端・重要科学技術分野の研究開発の実施、創造的・基礎的研究の充実・強化等の取組を総合的に推進している。また、科学技術・学術審議会を置き、文部科学大臣の諮問に応じて科学技術の総合的な振興や学術の振興に関する重要事項についての調査審議とともに、文部科学大臣に対し意見を述べること等を行っている。
 科学技術・学術審議会における主な決定・報告等は、第2-1-9表に示すとおりである。

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 我が国の科学者コミュニティの代表機関として、210人(定員)の会員及び約2,000人の連携会員から成る日本学術会議は、内閣総理大臣の所轄の下に置かれ、科学に関する重要事項を審議し、その実現を図るとともに、科学に関する研究の連携を図り、その能率を向上させることを職務としている(第2-1-10図)。
 日本学術会議においては、「日本学術会議の今後の展望について」(平成27年3月 日本学術会議の新たな展望を考える有識者会議決定)を基軸として改善に取り組んできたが、改めて現状を自己点検して課題を抽出し、日本学術会議がより良い役割を発揮できるようになるため、アカデミーの原点は何かを踏まえた検討を行っている。(日本学術会議のより良い役割発揮に向けて(中間報告)(令和2年12月16日日本学術会議幹事会))

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 政府や社会に対する提言については、令和2年度に提言を64件、報告を15件、回答を1件公表した(勧告・要望・声明・答申は0件)(第2-1-11表)。このほか、幹事会声明として「新型コロナウイルス感染症対策の検討について」を公表した。また、今後の提言等の公表に向けて、様々な委員会を設置し、審議を行っている。
 また、日本学術会議では、協力学術研究団体(2,078団体:令和2年度末時点)等の科学者コミュニティ内のネットワークの強化と活用に取り組むとともに、各種シンポジウム・記者会見等を通じて、科学者コミュニティ外との連携・コミュニケーションを図っている。
 さらに、国際学術会議(ISC(※8))をはじめとする44の国際学術団体に、我が国を代表して参画するなど、国際学術交流事業を推進している。令和2年度は閣議口頭了解を得て1件の共同主催国際会議を開催したほか、令和2年4月・5月には、新型コロナウイルス感染症を含む4つのテーマについてG7各国アカデミー等と共同で取りまとめたGサイエンス学術会議共同声明を公表した。

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❷ 科学技術関係予算

 我が国の令和2年度当初予算における科学技術関係予算は4兆3,787億円であり、そのうち一般会計分は3兆5,693億円、特別会計分は8,094億円となっている。令和2年度補正予算における科学技術関係予算は4兆3,256億円であり、そのうち一般会計分は4兆2,493億円、特別会計分は764億円となっている(令和3年3月時点)。なお、令和2年度補正予算における科学技術関係予算のうち、大規模かつ長期間にわたる科学技術関係に充てられる「グリーンイノベーション基金事業(2兆円)」および「10兆円規模の大学ファンド」については、第6期期間中における科学技術関係の支出額の状況について把握予定である。科学技術関係予算(当初予算)の推移は第2-1-12表、府省別の科学技術関係予算は第2-1-13表のとおりである。

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  • ※1 科学技術・イノベーション基本計画の調査終了に伴い現在は廃止。
  • ※2 Cross-ministerial Strategic Innovation Promotion Program
  • ※3 Public/Private R&D Investment Strategic Expansion PrograM
  • ※4 第20回ガバニングボード(https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/200305/siryo2-2.pdf)、第50回ガバニングボード(https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/210225/siryo1.pdf)
  • ※5 令和元年度はAI技術、建設・インフラ維持管理/防災・減災技術、バイオ技術。令和2年度は量子技術を追加
  • ※6 Noisy Intermediate-Scale Quantum
  • ※7 国費総額約300億円以上の研究開発のうち、科学技術政策上の重要性に鑑み、評価専門調査会が評価すべきと認めたもの
  • ※8 International Science Council

お問合せ先

科学技術・学術政策局企画評価課

(科学技術・学術政策局企画評価課)