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第3章 経済・社会的課題への対応

 第5期基本計画において、目指すべき課題として掲げた「持続的な成長と地域社会の自律的な発展」、「国及び国民の安全・安心の確保と豊かで質の高い生活の実現」及び「地球規模課題への対応と世界の発展への貢献」を実現していくため、科学技術イノベーションを総動員し戦略的に課題の解決に取り組んでいくこととしている。また、東日本大震災をはじめ、各地の災害からの復興状況等に鑑み、国や地方自治体等が一体となり、新技術や被災地の新産業につながる取組を進めることとしている。

第1節 持続的な成長と地域社会の自律的な発展

 我が国の持続的な成長のためには、現在そして将来の我が国が直面する社会コストの増大に適切な対応を図っていくことが必要であり、資源の安定的な確保、超高齢化等に対応した持続可能な社会の実現に向けた科学技術イノベーションの取組を進めている。
 環境エネルギー分野については、「革新的環境イノベーション戦略」(令和2年1月21日 統合イノベーション戦略推進会議決定)が策定され、長期戦略に掲げた温室効果ガス排出削減目標に向けて革新的技術の確立と社会実装を目指していく。

1 エネルギー、資源、食料の安定的な確保

(1) エネルギーの安定的な確保とエネルギー利用の効率化
ア クリーンなエネルギー供給の安定化と低コスト化
(ア)太陽光発電システムに係る発電技術
 経済産業省は、薄型軽量のため設置制約を克服できるペロブスカイト太陽電池(※1)等の革新的な新構造太陽電池の実用化へ向けた要素技術、太陽光発電システム全体の効率向上を図るための周辺機器高機能化や維持管理技術、低コストリサイクル技術の開発を行っている。
 科学技術振興機構は、「戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発(ALCA)」及び「未来社会創造事業『地球規模課題である低炭素社会の実現』領域」において、温室効果ガス削減に大きな可能性を有し、かつ従来技術の延長線上にない革新的技術の研究開発を競争的環境下で推進しており、その中で革新的な太陽光利用に係る研究開発を推進している。例えば、シリコン太陽電池で変換効率35%以上を目指す技術等の研究開発を推進している。

(イ)浮体式洋上風力発電システムに係る発電技術
 経済産業省は、日本の急峻きゅうしゅんな海域の特性にも対応可能な浮体式洋上風力発電システムの事業化を見据え、福島沖において、洋上変電所も含めた複数基による本格的なウィンドファームの設置・運転を行う実証事業を行い、浮体式特有の安全性・信頼性・経済性の検証を進めている。また、低コスト浮体式洋上風力発電システム技術の確立に向け、北九州市沖において、水深50mから100mにおける低コスト浮体式洋上風力発電システムの実証データによる設計検証、効率的な保守管理技術等の技術開発等を進めている。
 環境省は、我が国で初となる2MW(メガワット)浮体式洋上風力発電機の開発・実証を行い、関連技術等を確立した。本技術開発・実証の成果として、平成28年より国内初の洋上風力発電の商用運転が開始されており、風車周辺に新たな漁場が形成されるなどの副次効果も生じている。また、令和元年度は、前年度に続き、浮体式洋上風力発電の本格的な普及拡大に向け、施工を低炭素化・高効率化する新たな施工手法等の確立を目指す取組を行った。
 国土交通省は、浮体式洋上風力発電施設のコスト低減に向けて、平成30年度より安全性を確保しつつ浮体構造や設置方法の簡素化等を実現するための設計・安全評価手法を検討しているところ、平成30年度実施事業分の検討結果を踏まえ、令和2年3月に、浮体構造の簡素化を実現する設計・安全評価手法を反映するための技術基準及び安全ガイドラインの改正を実施した。

(ウ)地熱・波力・海洋温度差発電等、その他再生可能エネルギーシステムに係る発電技術等
 経済産業省は、地熱発電について、資源探査の段階における高いリスクやコスト、発電段階における運転の効率化や出力の安定化といった課題を解決するため、探査精度と掘削速度を向上する技術開発や、開発・運転を効率化、出力を安定化する技術開発を行っている。また、発電能力が高く開発が期待されている次世代の地熱発電(超臨界地熱発電)に関する詳細事前検討を行っている。
 環境省は、地球温暖化の防止に向け、革新技術の高度化・有効活用を図り、必要な技術イノベーションを推進するため、再生可能エネルギーの利用、エネルギー使用の合理化だけでなく、窒化ガリウム(GaN)やセルロースナノファイバー(CNF)等の新素材の活用によるエネルギー消費の大幅削減、燃料電池や水素エネルギー、蓄電池、二酸化炭素(CO2)回収・有効利用・貯留(CCUS(※2))等に関連する技術の開発・実証、普及を促進した。

(エ)高効率火力発電システム及び石炭利用技術の開発
 経済産業省は、石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC(※3))の実証事業や要素技術開発(大容量燃料電池の開発等)、高効率ガスタービン技術の開発・実証事業等、石炭・LNG(※4)火力における更なる高効率発電技術の開発を実施している。また、火力発電から発生するCO2の効率的な分離回収・有効利用(CCU(※5))技術等の開発を行っている。

(オ)その他技術開発
 経済産業省は、国内製油所の国際競争力の強化に向けて、コストの安い原油等から高付加価値製品の生産(石油のノーブル・ユース)や精製設備の稼働安定化(稼働信頼性の向上)を図るため、分子レベルでの構造解析や反応モデリング等を行うペトロリオミクス技術を活用して、非在来型原油や精製プロセスで生じる残油から石油製品や石油化学原料を無駄なく抽出する革新的な石油精製技術の開発等を進めている。

(カ)原子力に関する研究開発等
ⅰ)原子力利用に係る安全性・核セキュリティ向上技術
 経済産業省は、「原子力の安全性向上に資する技術開発事業」により、東京電力株式会社(以下「東電」という。)福島第一原子力発電所の事故で得られた教訓を踏まえ、原子力発電所の包括的なリスク評価手法の高度化等、更なる安全対策高度化に資する技術開発及び基盤整備を行っている。また、我が国は、国際原子力機関(IAEA(※6))、米国等と協力し、核不拡散及び核セキュリティに関する技術開発や人材育成における国際協力を先導している。日本原子力研究開発機構(以下「原子力機構」という。)は「核不拡散・核セキュリティ総合支援センター(ISCN(※7))」を設立し、核不拡散及び核セキュリティに関する研修等を行うとともに、IAEAとの核セキュリティ分野における人材育成に係る取決めに基づき、研修カリキュラムの共同開発、講師の相互派遣、人材育成に関する情報交換等を行っている。また、中性子を利用した核燃料物質の非破壊測定、不法な核物質の起源が特定可能な核鑑識の技術開発等を行うとともに、包括的核実験禁止条約機関(CTBTO(※8))との希ガス観測プロジェクトに基づく幌延及びむつでの観測を通して核実験検知能力の向上に貢献している。

ⅱ)原子力基礎・基盤研究開発
 令和元年6月に科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 原子力科学技術委員会の下に原子力研究開発・基盤・人材作業部会を設置し、原子力利用の安全性・信頼性・効率性を抜本的に高める新技術等の開発や、産学官の垣根を超えた人材・技術・産業基盤の強化に向けた研究開発・基盤整備・人材育成等の課題について、総合的に検討を行った。
 原子力機構は、核工学・炉工学、燃料・材料工学、原子力化学、環境・放射線科学、分離変換技術開発、計算科学技術、先端原子力科学等の基礎・基盤研究を行っている。また、発電、水素製造など多様な産業利用が見込まれ、固有の安全性を有する高温ガス炉について、安全性の高度化、原子力利用の多様化に資する研究開発等を推進した。

ⅲ)革新的な原子力技術の開発
 原子力は実用段階にある脱炭素化の選択肢であり、安全性等の向上に加え、多様な社会的要請に応える原子力技術のイノベーションを促進することが重要である。経済産業省は令和元年度より「社会的要請に応える革新的な原子力技術開発支援事業」により、民間企業等による安全性・経済性・機動性に優れた原子力技術の開発の支援を開始した。

ⅳ)原子力人材の育成・確保
 原子力人材の育成・確保は、原子力分野の基盤を支え、より高度な安全性を追求し、原子力施設の安全確保や古い原子力発電所の廃炉を円滑に進めていく上で重要である。
 文部科学省は、「国際原子力人材育成イニシアティブ」により、産学官の関係機関が連携し、人材育成資源を有効に活用することによる効果的・効率的・戦略的な人材育成の取組を支援している。また、「英知を結集した原子力科学技術・人材育成推進事業(以下「英知事業」という。)」の「廃止措置研究・人材育成等強化プログラム」において、原子力機構の「廃炉国際共同研究センター(以下「CLADS(※9)」という。)」等と連携し、東電福島第一原子力発電所の廃止措置現場のニーズを踏まえた人材育成の取組を推進している。
 経済産業省は、「原子力の安全性向上を担う人材の育成事業委託費」により、東電福島第一原子力発電所の廃止措置や既存原子力発電所の安全確保等のため、原子力施設のメンテナンス等を行う現場技術者や、産業界等における原子力安全に関する人材の育成を支援している。

ⅴ)東電福島第一原子力発電所の廃止措置技術等の研究開発
 経済産業省、文部科学省及び関係省庁等は、東電福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けて、「東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」(令和元年12月27日改訂)に基づき、連携・協力しながら対策を講じている。この対策のうち、燃料デブリの取り出し技術の開発や原子炉格納容器内部の調査技術の開発等の技術的難易度が高く、国が前面に立って取り組む必要がある研究開発については、事業者を支援している。
 文部科学省は、「東京電力(株)福島第一原子力発電所の廃止措置等研究開発の加速プラン」(平成26年6月公表)に基づき、国内外の英知を結集し、安全かつ着実に廃止措置等を実施するため、基礎・基盤的な研究開発や人材育成の取組を推進している。具体的には、CLADSにおいて、福島県双葉郡富岡町に整備した「国際共同研究棟」を活用しつつ、燃料デブリの取扱いや放射性廃棄物の処理・処分、事故進展シナリオ解明等の基礎・基盤的な研究を実施している。さらに、平成27年度から実施している英知事業について、平成30年度からは本事業の運用体制を文部科学省の委託事業から、原子力機構を対象とする補助金事業に移行し、CLADSを中核として原子力分野だけでなく様々な分野の優れた知見や経験を、大学や研究機関、企業等の組織の垣根を超えて緊密に融合・連携させることにより、中長期的な廃炉現場のニーズに対応する研究開発及び人材育成の取組を推進している。
 また、廃炉に関する技術基盤を確立するための拠点整備も進めており、原子力機構においては、遠隔操作機器・装置の開発・実証施設(モックアップ施設)として「楢葉遠隔技術開発センター」(福島県双葉郡楢葉町)が、平成28年4月から本格運用を開始している。加えて、燃料デブリや放射性廃棄物などの分析手法、性状把握、処理・処分技術の開発等を行う「大熊分析・研究センター」(福島県双葉郡大熊町)が平成30年3月に一部施設の運用を開始した。

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ⅵ)核燃料サイクル技術
 「エネルギー基本計画」(平成30年7月閣議決定)においては、「使用済燃料の処理・処分に関する課題を解決し、将来世代のリスクや負担を軽減するためにも、高レベル放射性廃棄物の減容化・有害度低減や、資源の有効利用等に資する核燃料サイクルについて、これまでの経緯等も十分に考慮し、引き続き関係自治体や国際社会の理解を得つつ取り組むこととし、再処理やプルサーマル(※10)等を推進する」こととしており、また、「米国や仏国等と国際協力を進めつつ、高速炉等の研究開発に取り組む」との方針としている。
 高速増殖原型炉もんじゅについては、平成28年12月に開催された原子力関係閣僚会議において、原子炉としての運転は再開せず、廃止措置に移行することとされた。現在、廃止措置計画(平成30年3月原子力規制委員会認可)に基づき、原子力機構において廃止措置に取り組んでいる。まずは、安全確保を最優先に令和4年末までに炉心から燃料池までの燃料体取出し作業を終了することとしている。平成30年8月からは燃料体の炉外燃料貯蔵槽から燃料池への移送を開始し、令和元年9月からは燃料体の炉心から炉外燃料貯蔵槽への移送を開始した。今後も「もんじゅ」の廃止措置については、立地地域の声に向き合いつつ、安全、着実かつ計画的に進めていくこととしている。

ⅶ)放射性廃棄物処理処分に向けた技術開発等
 高レベル放射性廃棄物の大幅な減容や有害度の低減に資する可能性のある研究開発として、加速器を用いた核変換技術や群分離技術に係る基礎・基盤研究を進めている。
 また、研究施設や医療機関などから発生する低レベル放射性廃棄物の処分に向けては、文部科学省及び経済産業省が示した「埋設処分業務の実施に関する基本方針」(平成20年12月文部科学大臣及び経済産業大臣決定)を踏まえて原子力機構が定めた「埋設処分業務の実施に関する計画」(平成21年11月認可、令和元年11月変更認可)に従って必要な取組を進めている。

ⅷ)原子力機構が保有する施設の廃止措置
 平成29年4月、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」(原子炉等規制法)が改正され、全ての原子力事業者は、原子炉等規制法対象施設ごとに廃棄する核燃料物質によって汚染された物の発生量の見込み、廃止措置に要する費用の見積り及びその資金の調達の方法その他の廃止措置の実施に関して必要な事項を記載した「廃止措置実施方針」を作成し、公表することとなった。また、平成30年4月には、科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 原子力科学技術委員会 原子力施設廃止措置等作業部会において「中間まとめ」が取りまとめられ、原子力機構の保有する原子力施設の廃止措置に関して、事業管理及び財務管理の観点から提言がなされた。こうしたことを受けて原子力機構は、平成30年12月に、廃止措置実施方針の作成、公表に加えて、原子力機構の保有する施設全体の廃止措置にかかる長期方針である「バックエンドロードマップ」を公表した。原子力機構は総合的な原子力の研究開発機関として重要な役割を果たしており、その役割を果たすためにも、研究での役割を終えた施設については、国民の御理解を得ながら、安全確保を最優先に、着実に廃止措置を進めることが重要である。文部科学省は、原子力機構の取組を支援し、原子力機構の保有する原子力施設の安全かつ着実な廃止措置を進めていく。

ⅸ)国民の理解と共生に向けた取組
 文部科学省は、立地地域をはじめとする国民の理解と共生のための取組として、立地地域の持続的発展に向けた取組、原子力やその他のエネルギーに関する教育への取組に対する支援などを行っている。

ⅹ)原子力国際協力
 外務省は、IAEAによる原子力科学技術の平和的利用の促進及びIAEA加盟国の「持続的な開発目標(SDGs(※11))」の達成に向けた活動を支援しており、アジア大洋州における「原子力科学技術に関する研究、開発及び訓練のための地域協力協定(RCA)」に基づく技術協力、平和的利用イニシアティブ(PUI)拠出金等によるIAEAに対する財政的支援、専門的知見・技術を有する国内の大学、研究機関、企業とIAEAの連携強化等を通じて、開発途上国の能力構築を推進するとともに日本の優れた人材・技術の国際展開を支援している。また、IAEAは我が国と協力し、2013年(平成25年)に福島県に「IAEA緊急時対応能力研修センター(IAEA―RANET―CBC)」を指定しており、2019年(令和元年)には8月及び11月に国内外の関係者を対象として、緊急事態の準備及び対応分野での能力強化のための研修を実施した。さらに、令和元年11月に東京にて、核物質等の輸送セキュリティに関する国際シンポジウムを日本原子力研究開発機構(JAEA)及び核不拡散・核セキュリティ総合支援センター(ISCN)と協力して開催するなど、核セキュリティの国際的強化の取組を実施している。
 文部科学省は、IAEAや経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA(※12))などの国際機関の取組への貢献を通じて、原子力平和的利用と核不拡散の推進をリードするとともに、内閣府が主導しているアジア原子力協力フォーラム(FNCA(※13))の枠組みの下、アジア地域を中心とした参加国に対して放射線利用・研究炉利用等の分野における研究開発・基盤整備等の協力を実施している。
 経済産業省は、放射性廃棄物の有害度の低減及び減容化等に資する高速炉の実証技術の確立に向けた研究開発について、日仏協力をはじめとする国際協力の枠組みを活用して進めた。
 また、米国やフランスをはじめとする原子力先進国との間で、第4世代原子力システム国際フォーラム(GIF(※14))等の活動を通じ、原子力システムの研究開発等、多岐にわたる協力を行っている。

xi)原子力の平和的利用に係る取組
 我が国は、IAEAとの間で1977年(昭和52年)に締結した日・IAEA保障措置協定及び1999年(平成11年)に締結した同協定の追加議定書に基づき、核物質が平和目的に限り利用され、核兵器などに転用されていないことをIAEAが確認する「保障措置」を受け入れている。これを受け、我が国は「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(原子炉等規制法)」(昭和32年法律第166号)に基づき、国内の核物質を計量及び管理し、国としてIAEAに報告、IAEAの査察を受け入れるなどの所要の措置を講じている。
 令和元年5月15日に我が国における2018年(平成30年)の保障措置活動の実施結果について原子力規制委員会に報告し、その結果をIAEAによる我が国の保障措置活動についての評価に資するためにIAEAに情報提供した。IAEAの我が国に対する保障措置実施報告では、全ての核物質が平和的活動にとどまっている旨の結論(拡大結論)を2018年(平成30年)についても受けた。これにより、2003年(平成15年)の実施結果以降、継続して拡大結論が導出されている。

(キ)核融合エネルギーをはじめとする超長期的なエネルギー技術の研究開発
 核融合エネルギーは、燃料資源が豊富であること、発電過程で温室効果ガスを発生しないこと、少量の燃料から大規模な発電が可能であることから、エネルギー問題と環境問題を根本的に解決する将来の基幹的エネルギー源として期待されている。核融合エネルギーの実現に向け、国内では、「原型炉研究開発ロードマップについて(一次まとめ)」(平成30年7月24日策定)に基づき、トカマク方式(量子科学技術研究開発機構、高性能核融合実験装置JT-60SA(※15))、ヘリカル方式(核融合科学研究所、大型ヘリカル装置(LHD))、レーザー方式(大阪大学レーザー科学研究所激光Ⅻ号)の3方式による研究を進め、世界を先導する成果を上げている。
 また、我が国は、国際約束に基づき、核融合実験炉の建設・運転を通じて核融合エネルギーの科学的・技術的実現可能性を実証するITER(イーター:国際熱核融合実験炉)計画(※16)に参加するとともに、日欧協力によりITER計画を補完・支援する先進的核融合研究開発である幅広いアプローチ(BA)活動を青森県六ヶ所村及び茨城県那珂市で推進している。
 宇宙太陽光発電は昼夜や天候といった自然条件に左右されることなく発電が可能であり、安定供給が可能なクリーンエネルギーという特徴を持つことから、将来の革新的なエネルギー技術として期待されており、平成30年度は、上空のマルチコプタへのマイクロ波無線送電実証を行い、電力として取り出せることを確認した。
 経済産業省では、宇宙太陽光発電の実現に必要な発電と送電を一つのパネルで行う発送電一体型パネルを開発するとともに、その軽量化や、マイクロ波による無線送電技術の効率の改善に資する送電部の高効率化のための技術開発等を行っている。
 宇宙航空研究開発機構では、宇宙太陽光発電の実用化を目指した要素技術の研究開発を行っている。

《参考》
核融合研究ホームページ Fusion Energy -Connect to the Future
 https://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/fusion/

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核融合エネルギーへの道 イーター
 https://www.youtube.com/watch?v=QEohCE1famE別ウィンドウで開きます(出典:iter japan - QST)

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イ 水素・蓄電池等の蓄エネルギー技術を活用したエネルギー利用の安定化
 経済産業省は、蓄電池や燃料電池に関する技術開発・実証等を実施している。具体的には、再生可能エネルギーの導入拡大に伴い必要となる系統用の大規模蓄電池について、導入時における最適な制御・管理手法の技術開発を実施するための取組を進めている。また、電気自動車やプラグインハイブリッド車など、次世代自動車用の蓄電池(※17)について、性能向上とコスト低減を目指した技術開発を実施した。家庭用燃料電池をはじめとする定置用燃料電池や燃料電池自動車に用いられる燃料電池については、低コスト化及び耐久性・効率性向上のための技術開発を行った。さらに、燃料電池自動車の更なる普及拡大に向けて、四大都市圏を中心に、平成31年度までに約120か所の水素ステーションの整備を行った。
 環境省は、平成30年度より「水素を活用した自立・分散型エネルギーシステム構築事業」を実施している。同事業において、将来の再生可能エネルギー大量導入社会を見据え、地域の実情に応じて、蓄電池や水素を活用することにより系統に依存せず再生可能エネルギーを電気・熱として供給できるシステムを構築し、自立型水素エネルギー供給システムの導入・活用方策を確立することを目指す取組を進めている。
 2019年(令和元年)に吉野彰氏がノーベル化学賞を受賞したリチウムイオン蓄電池の発明に代表される、我が国が強みを有する蓄電池分野は、「革新的環境イノベーション戦略」(令和2年1月21日統合イノベーション戦略推進会議決定)にも位置付けられており、文部科学省においても、強力に研究開発を推進している。例えば、科学技術振興機構「戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発(ALCA)」の特別重点技術領域において、従来性能を大幅に上回る次世代蓄電池に係る研究開発を推進している。また、「未来社会創造事業 大規模プロジェクト型」において、水素発電、余剰電力の貯蔵、輸送手段等の水素利用の拡大に貢献する高効率・低コスト・小型長寿命な革新的水素液化技術の研究開発を推進している。

ウ 新規技術によるエネルギー利用効率の向上と消費の削減
 内閣府は、平成30年度よりSIPにおいて「IoE社会のエネルギーシステム」に取り組み、様々なエネルギーがネットワークに接続され、エネルギーの需給管理が可能となるIoE社会の実現を目指している。研究内容としては、再生可能エネルギーを含む多様な入力電源に対して最適な制御を可能とするユニバーサルパワーモジュールやワイヤレス電力電送システム等の社会実装に向けての研究開発を進めている。
 経済産業省は、電力グリッド上に散在する再生可能エネルギーや蓄電池等のエネルギー設備、ディマンドリスポンス等の需要側の取組を遠隔に統合して制御し、あたかも一つの発電所(仮想発電所:バーチャルパワープラント)のように機能させることによって、電力の需給調整に活用する実証を行っている。
 環境省は、公共施設等に再エネや自営線等を活用した自立・分散型エネルギーシステムを導入し、併せて省エネ改修等を行った上で、地区を超えたエネルギー需給の最適化を行うことにより、地域全体で費用対効果の高いCO2排出削減対策を実現する先進的モデルを確立するための事業を実施している。
 科学技術振興機構は、「未来社会創造事業 大規模プロジェクト型」において、環境中の熱源(排熱や体温等)をセンサ用独立電源として活用可能とする革新的熱電変換技術の研究開発を令和元年度より新たに開始した。
 理化学研究所は、エネルギー利用技術の革新を可能にする全く新しい物性科学を創成し、エネルギー変換の高効率化やデバイスの消費電力の革新的低減を実現するための研究開発を実施している。
 宇宙航空研究開発機構は、航空機の低燃費・低環境負荷等に係る研究開発を行っており、さらに、我が国の航空機産業を自動車産業と比肩し得る「超成長産業」とするため、当該研究開発を国際競争力向上に直結するものとして加速することとしている。具体的には、次世代・次々世代航空機開発動向を踏まえつつ、エンジンの低NOx化・高効率化技術や航空機の電動化技術等の研究開発に取り組むとともに、大型試験設備(技術実証用エンジン、風洞等)の整備・維持・向上を進め、革新的な航空科学技術を創出し、それらを適切に産業界へ橋渡ししていくこととしている。
 新エネルギー・産業技術総合開発機構は、省エネルギー技術の研究開発や普及を効果的に推進するため、「省エネルギー技術戦略2016」に掲げる重要技術(令和元年7月改定版)を軸に、提案公募型事業である「革新的省エネルギー技術の開発促進事業」を実施している。
 建築研究所は、住宅・建築・都市分野において環境と調和した資源・エネルギーの効率的利用のための研究開発等を行っている。

エ 革新的な材料・デバイス等の幅広い分野への適用
 文部科学省は、「省エネルギー社会の実現に資する次世代半導体研究開発」において、大きな省エネ効果が期待される窒化ガリウム(GaN)等の次世代半導体を用いたパワーデバイス等の2030年の実用化に向け、理論・シミュレーションも活用した材料創製からデバイス・システム応用までの次世代半導体に係る研究開発を一体的に推進し、半導体デバイスの実現に必要となる、GaN基板の特定の部分のみをp型GaNにする技術の開発に世界で初めて成功するなどの成果を創出している。
 科学技術振興機構は、「戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発(ALCA)」及び「未来社会創造事業『地球規模課題である低炭素社会の実現』領域」において、革新的な材料開発・応用及び化学プロセス等の研究開発を推進しており、令和元年度には、バイオプラスチック原料(フランジカルボン酸)について、多段階で複雑なプロセスを簡素化し、環境調和かつ省エネルギーな合成方法を新規確立することなどに成功している。
 物質・材料研究機構では、多様なエネルギー利用を促進するネットワークシステムの構築に向け、高効率太陽電池や蓄電池の研究開発、エネルギーを有効利用するためのエネルギー変換・貯蔵用材料の研究開発、省エネルギーのための高出力半導体や高輝度発光材料等におけるブレークスルーに向けた研究開発、低環境負荷社会に資する高効率・高性能な輸送機器材料やエネルギーインフラ材料の研究開発等、エネルギーの安定的な確保とエネルギー利用の効率化に向けて、革新的な材料技術の研究開発を推進している。
 経済産業省は、CO2と水を原料に太陽エネルギーでプラスチック原料等の基幹化学品を製造する技術の開発(人工光合成プロジェクト)、金属ケイ素を経由せず、高効率に有機ケイ素原料を製造する技術の開発、非可食性バイオマス原料からエンジニアリングプラスチック等の最終化学品を製造する技術の開発、機能性化学品の製造手法を従来のバッチ法からフロー法へ置き換える技術の開発、リチウムイオン蓄電池材料の性能・特性を的確かつ迅速に評価できる材料評価技術の開発、高機能なリグノセルロースナノファイバー(※18)の一貫製造プロセスと部材化技術の開発を行っている。

コラム2-1 次世代半導体GaNがもたらす環境にやさしい未来社会

 2014年(平成26年)のノーベル物理学賞に、赤﨑勇氏、天野浩氏、中村修二氏の3名が選ばれたのは、青色発光ダイオード(LED)の発明によるものである。この発明によって、寿命が長く低消費電力の青色LEDが開発され、既に開発されていた緑色LEDや赤色LEDと合わせることで、または青色LEDと黄色蛍光体を用いることで白色光を表現できるようになり、照明機器やスマートフォンに使われる液晶パネルのバックライトなど、様々な分野に省エネ効果がもたらされた。
 この青色LEDの半導体に用いられている窒化ガリウム(GaN)は、あらゆる機器の更なる省エネを実現し、日本だけでなく世界の温室効果ガス排出量の大幅削減に貢献する可能性を秘めている。例えば、電力をコントロール(交流から直流への変換等)するパワーエレクトロニクス機器は、ほとんど全ての電化製品に組み込まれていることから、これに用いることにより、大幅な電力損失の低減や機器の小型・軽量化が可能になる。このため、電力を扱う様々な機器の省エネの実現や、空飛ぶ車など現時点では夢のような技術の実現にも期待を集めている。また、LEDよりも高輝度で光の広がりが小さいレーザーのような光デバイスや、従来の半導体を用いた場合よりも高速で大容量な通信を可能にする通信機器にも応用できる。
 しかしながら、こうした機器に用いるためには、青色LEDに用いられるGaN結晶よりも高い品質を安定的に得ることが求められる。環境省は令和元年、GaNを使ったモーター制御機器を用いた電気自動車の開発・実証に成功したが、GaNを用いたパワーエレクトロニクス機器等が世の中に普及するには更なる研究開発が必要となる。このため、文部科学省では欠陥の少ないGaN結晶の作製技術や高性能な半導体素子の作製に必要な技術の基礎研究を推進している。さらに産学共同でGaNの研究開発を加速するため、一般社団法人GaNコンソーシアム等が活動を進めている。こうしたオールジャパンでの取組により、次世代半導体GaNが多様な面で活躍する社会が近づいてきている。

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(2)資源の安定的な確保と循環的な利用

ア 海底資源の探査・生産技術の研究開発
 内閣府は、SIP第1期「次世代海洋資源調査技術」の成果を踏まえ、平成30年度より、SIP第2期「革新的深海資源調査技術」を立ち上げ、我が国の排他的経済水域の3分の2を占める水深2,000mから6,000mの海底において、世界に先駆けて深海底に賦存するレアアース泥等の鉱物資源に関する革新的深海資源調査技術を段階的に確立・実証し、社会実装することを目指している。
 国土交通省は、平成30年度より、浮体式生産貯蔵積出設備(FPSO)向けの電気系統の統合制御設備や、海底パイプラインのメンテナンス用の自律型無人潜水機(AUV)に係る技術開発の支援等を行い、海事産業における海洋開発分野への市場進出を推進している。
 海洋研究開発機構は、我が国の海洋の産業利用の促進に貢献するため、生物、非生物の両面から海洋における物質循環と有用資源の成因の理解を進め、得られた科学的知見、データ、技術及びサンプルを関連産業に展開している。
 海上・港湾・航空技術研究所は、海洋観測・探査、海中での施工、洋上基地と海底の輸送・通信、陸上から洋上基地への輸送・誘導等に係る研究開発、海洋資源・エネルギー開発に係る基盤的技術の基礎となる海洋構造物の安全性評価手法及び環境負荷軽減手法の開発・高度化に関する研究を行っている。

イ レアアース・レアメタル等の省資源化・代替素材技術の研究開発
 文部科学省及び経済産業省は、次世代自動車や風力発電等に必要不可欠な原料であるレアアース・レアメタル等の希少元素の調達制約の克服や、省エネルギーを図るため、両省で連携しつつ、材料の研究開発を行っている。
 文部科学省は、我が国の資源制約を克服し、産業競争力の強化を図るため、元素の果たす機能を理論的に解明し応用することにより、レアアース・レアメタル等の希少元素を用いない全く新しい材料の創製を行う「元素戦略プロジェクト(研究拠点形成型)」を推進している。
 経済産業省は、「輸送機器の抜本的な軽量化に資する新構造材料等の技術開発事業」により、従来以上に強力かつ希少金属の使用を大幅に削減した磁性材料の開発等を行っている。また、資源循環システム高度化促進事業のうち、「戦略的都市鉱山活用技術・システム研究開発事業」により、我が国の都市鉱山 の有効利用を促進し、資源の安定供給及び省資源・省エネルギー化を実現するため、廃製品・廃部品の自動選別技術及び高効率製錬技術の開発に取り組んでいる。

ウ バイオマス利活用技術の開発・実証
 経済産業省は、セルロース系エタノール製造プロセスの高効率化及び低コスト化や、食料生産と競合しない藻類等の次世代バイオ燃料を導入・拡大させることを目指した研究開発を行っている。そのほか、大規模なゲノム情報を基盤とした遺伝子設計・組換え技術により、従来は合成が困難であった物質の生産、有用物質生産効率の大幅な向上、物質生産におけるエネルギー消費量の飛躍的削減、環境負荷の低減及び軽量な高性能部材の開発効率を飛躍的に向上させる技術の開発を推進している。
 科学技術振興機構は、「戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発(ALCA)」及び「未来社会創造事業『地球規模課題である低炭素社会の実現』領域」において、バイオマスから化成品等を製造し、石油製品を代替する革新的なバイオテクノロジーの研究開発を推進している。令和元年度には、バイオ生産に利用する微生物を改変し、微生物自身の増殖と目的物質の生産とで、原料となる糖の種類を使い分けることにより、ナイロン等の原料であるムコン酸の生産性向上に成功している。
 理化学研究所は、石油化学製品として消費され続けている炭素等の資源を循環的に利活用することを目指し、植物科学、微生物科学、化学生物学、合成化学等を融合した先導的研究を実施している。また、植物バイオマスを原料とした新材料の創成を実現するための革新的で一貫したバイオプロセスの確立に必要な研究開発を実施している。
 土木研究所は、下水道施設を核とした資源・エネルギー有効利用に関する研究を実施している。

(3)食料の安定的な確保
 農林水産省は、中長期的な視点で取り組むべき研究開発に加えて、農業現場の課題を科学の力で克服していくため、明確な開発目標の下、現場での実装を視野に入れた技術開発を推進している。例えば、食料の安定供給や農業の生産性向上等を目標に、超多収性作物、不良環境耐性作物、生涯生産性の高い牛等の作出に係る研究を行っている。また、食料自給率の目標達成のため、品質や加工適性等の面で画期的な特性を有する食用作物及び飼料作物の開発や、国産飼料の活用等による畜産物の差別化・高品質化技術の開発に取り組んでいる。
 さらに、ロボット、AI、IoTやドローン等の先端技術を活用した、「スマート農業」を推進するため、令和元年度には、ICTを活用した高度な生産管理、衛星測位情報や画像データ等を活用した農機の自動走行システム、けいはん除草や収穫作業のロボット化等の研究や、生産現場への導入効果を経済面から明らかにする技術実証を開始した。加えて、現場実装に際して安全上の課題解決が必要なロボット技術の安全性の検証やルール作りを進めたほか、農業におけるICT利活用の促進に向けて他省庁とも連携して農業情報の標準化に取り組んだ。このほか、関係府省協力の下、民間企業や大学、国立研究開発法人等が連携して「農業データ連携基盤」を構築し、平成31年4月から運用を開始した。
 文部科学省は、海洋生物資源の持続可能な利用の実現に向け、「海洋資源利用促進技術開発プログラム」のうち「海洋生物資源確保技術高度化」において、海洋生物の生理機能を解明し、革新的な生産につなげる研究開発を行っている。
 土木研究所は、食料供給力強化に貢献する積雪寒冷地の農業生産基盤の整備・保全管理に関する研究、食料供給力強化に貢献する寒冷海域の水産基盤の整備・保全に関する研究を実施している。

コラム2-2 光合成をリアルタイム計測で生産性を最大化

 太陽光型植物工場は、太陽光エネルギーを最大限にかして、効率的かつ大規模に作物生産を行う施設である。気温・湿度・CO2濃度等の様々な環境要因がコンピュータ制御されているが、日中の環境制御の最大の目的は栽培作物の「光合成の最大化」である。しかしこれまで作物の光合成を農業生産の現場でリアルタイムに把握することは困難であった。
 新たに開発された「光合成リアルタイム計測システム」は、生産現場において植物個体全体を対象とした光合成の計測を可能にした。栽培されている状態の植物を底面が開放された透明なフィルム(以下「チャンバ」という。)で覆い、チャンバの上部に設置したファンによりチャンバ内の空気を連続的に排気する。すると、チャンバ下部の開放部からチャンバ内に空気が流入する。このとき、流入する空気と流出する空気のCO2濃度差を計測することで、チャンバ内の植物の光合成速度を算出する。
 本システムは、大学発ベンチャー等を通じて既に市販化され、スマート農業の実践現場で光合成モニタリングツールとしての活用が始まっているところである。農業生産現場では、従来、農家の経験と勘に基づいて行われてきた栽培環境(気温・湿度・CO2濃度等)の調節を、植物の光合成を直接計測した数値に基づいて最適化できるシステムとして注目を集めている。
 なお、本システムは、農林水産省の委託プロジェクト研究「人工知能未来農業創造プロジェクト」の開発成果であり、本プロジェクトでは光合成の情報に基づいて環境制御の最適化を行うとともに、生育や収穫量を高精度に予測して労務管理を最適化する取組を進めている。

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■第2-3-1表/エネルギー、資源、食料の安定的な確保のための主な施策(令和元年度)

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2 超高齢化・人口減少社会等に対応する持続可能な社会の実現

(1)世界最先端の医療技術の実現による健康長寿社会の形成
 国民が健康な生活及び長寿を享受することのできる社会の形成に資するため、世界最高水準の医療の提供に資する医療分野の研究開発及び当該社会の形成に資する新たな産業活動の創出等を総合的かつ計画的に推進すべく、健康・医療戦略推進本部の主導の下、令和2年度より第2期となった新たな「健康・医療戦略」(令和2年3月27日閣議決定)及び「医療分野研究開発推進計画」(令和2年3月27日健康・医療戦略推進本部決定)に基づく取組を進めている。

ア 医薬品創出
(ア)創薬研究の推進
 文部科学省は、日本医療研究開発機構を通じ、大学等の優れた基礎研究の成果を革新的医薬品等としての実用化につなげるため、世界最高水準の放射光施設やクライオ電子顕微鏡、化合物ライブラリー等の施設及びタンパク質生産やバイオインフォマティクス、ゲノム・エピゲノム解析等の技術支援基盤を整備し、企業や大学等に対して広く共用する「創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業」(BINDS)を実施している。今般の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応に際しても、BINDSが培ってきた、実用化に向けた支援に係る知見とノウハウを活かした、化合物ライブラリーの活用やインシリコのシミュレーション等の研究支援により、アカデミアのみならず製薬企業をはじめとした民間企業等も含めた社会総がかりでの、治療法・治療薬やワクチン等の早期実用化への貢献に向け、取り組んでいる。
 理化学研究所では、タンパク質の生産技術、構造・機能解析技術及び計算科学を活用した構造予測等の技術等の高度化を推進している。また、生命現象の計測、計算とモデル化、そして細胞機能の再構成のための最先端技術の開発等の先導的研究を行っている。
 さらに、日本医療研究開発機構の「革新的先端研究開発支援事業」や科学技術振興機構の「戦略的創造研究推進事業」(第4章第2節1(2)参照)では、前述の事業とも連携して基盤技術の創出を目指す研究を行っている。
 厚生労働省は、日本医療研究開発機構を通じ、大学や公的研究機関等の研究者が保有する優れた創薬シーズに対し、技術支援や、バイオマーカー探索、非臨床試験、知財管理等に関する支援・基盤整備費用の負担等を介して、創薬シーズの早期実用化を図る「創薬支援推進事業」を実施している。また、日本で生み出された基礎研究の成果を薬事承認につなげ、革新的な医薬品を創出するため、科学性及び倫理性が十分に担保され得る質の高い臨床研究・医師主導治験を推進する「臨床研究・治験推進研究事業」を実施している。さらに、革新的な医薬品の開発に向けた、産学官連携による創薬標的探索・バイオマーカー探索等を行う研究や、医薬品のデザインに関する研究など創薬の基盤となる技術開発等に係る研究を推進する「創薬基盤推進研究事業」を実施している。
 経済産業省は、日本医療研究開発機構を通じ、創薬標的を飛躍的に拡大し得る中分子の創薬基盤技術の開発を行う「革新的中分子創薬技術開発事業」、がん細胞等の疾患細胞に特異的に発現する糖タンパク質を創薬標的とすることで、創薬標的の拡大と副作用の低減を目指す「糖鎖利用による革新的創薬技術開発事業」を実施している。また、令和元年度から、特定の薬剤・治療に対して効果を奏する患者を識別可能なバイオマーカーを探索する技術開発を行う「患者層別化マーカー探索技術開発事業」を実施している。

(イ)バイオ医薬品の構造・製造技術の革新
 文部科学省は、日本医療研究開発機構を通じ、我が国発の革新的な次世代バイオ医薬品創出に貢献するため、大学等における基盤技術の開発を推進する「先端的バイオ創薬等基盤技術開発事業」を実施している。
 農林水産省は、カイコ等の地域資源を利用してバイオ医薬品・検査薬を生産する世界初の基盤技術を確立するとともに、それらの産業利用を加速化するための有識者研究会が取りまとめた、革新技術を早期に社会実装するための適切な環境整備の方向性についての提言を踏まえ、関連する研究開発を推進している。
 経済産業省は、日本医療研究開発機構を通じ、バイオ医薬品を高生産する新たな細胞株を樹立するとともに、需要に応じた生産量の調節を可能とするバイオ医薬品の連続生産技術を確立することを目指した「バイオ医薬品の高度製造技術開発事業」を実施している。

イ 医療機器開発
 文部科学省は、日本医療研究開発機構を通じ、「先端計測分析技術・機器開発プログラム」を実施し、これまでにない革新的な医療機器の創出へ向けて、大学等と企業との連携を通じて、有望な研究者が持つ独創的な技術シーズを広く発掘し、技術シーズを活用した医療機器の開発を推進している。
 厚生労働省は、日本医療研究開発機構を通じて、「医療機器開発推進研究事業」を実施し、患者にとってより安全な治療の実現を図るため、医師による正確で速やかな診断をサポートする診断支援ソフトウェアや非侵襲・低侵襲の医療機器の開発を推進している。
 経済産業省は、日本医療研究開発機構を通じ、医療現場のニーズに応える医療機器について日本が誇るものづくり技術を生かした開発・事業化を推進するため、「医工連携事業化推進事業」を実施しており、令和元年度において31件の医療機器開発事業を支援している。また、「先進的医療機器・システム等技術開発事業」において、我が国の医療機器に関する競争力のポテンシャル、公的支援の必要性及び医療上の価値等を踏まえて策定した五つの重点分野(※19)を対象に、先進的な医療機器・システムの開発については令和元年度に6課題を採択・支援し、我が国の医療機器産業の競争力の底上げを図るための協調領域における基盤的な技術や基礎的な要素技術から非臨床等につながる応用的な技術の開発については8課題を採択・実施している。また、医療機器の実用化を促進するための開発ガイドラインについては令和元年度に4件を公表している。
 医薬品医療機器総合機構は、アカデミアやベンチャー等による優れたシーズを実用化につなげるため、レギュラトリーサイエンス戦略相談(RS戦略相談)及びレギュラトリーサイエンス総合相談(RS総合相談)を実施している。

ウ 革新的医療技術創出拠点を活用した革新的な医薬品等の創出
 革新的医療技術創出拠点は、文部科学省が平成19年度から整備してきた「橋渡し研究支援拠点」と、厚生労働省が「医療法」(昭和23年法律第205号)に基づき承認する「臨床研究中核病院」との総称である。
 文部科学省は、厚生労働省との連携の下、日本医療研究開発機構を通じて革新的医療技術創出拠点を活用した革新的な医薬品・医療機器・再生医療等製品の創出に取り組んでいる。「橋渡し研究支援拠点」においては、同拠点内外のシーズ育成能力の強化及び構築した同拠点の恒久化を目指す「橋渡し研究戦略的推進プログラム」を平成29年度から実施し、アカデミア発の革新的な医療技術開発を支援している。
 厚生労働省は、「医療法」(昭和23年法律第205号)に基づき、平成27年より、日本発の革新的医薬品・医療機器の開発等に必要となる質の高い臨床研究を推進するため、国際水準の臨床研究や医師主導治験の中心的な役割を担う病院を「臨床研究中核病院」として承認し、日本医療研究開発機構を通じ、臨床研究中核病院を活用した「医療技術実用化総合促進事業」等を実施している。

エ 再生医療の実現
 iPS細胞等の幹細胞を用いた再生医療や創薬をいち早く実現するため、関係府省が密接に連携して研究体制の整備や研究資金の確保、知的財産の確保・管理に向けた取組等を行うことによって研究を推進している。
 文部科学省は、厚生労働省及び経済産業省との連携の下、日本医療研究開発機構が行う「再生医療実現拠点ネットワークプログラム」において、世界に先駆けてiPS細胞等を用いた再生医療・創薬を実現するべく、拠点機能の強化及びネットワーク化をオールジャパン体制で推進している。このほか、科学技術振興機構が実施する「戦略的創造研究推進事業」(第4章第2節1(2)参照)や、理化学研究所等においても基礎的な研究を実施している。
 厚生労働省は、非臨床段階から臨床段階へ移行した課題等について切れ目なく支援するとともに、日本医療研究開発機構を通じ、ヒトiPS細胞等を用いた医薬品の安全性評価法の開発や候補化合物を見つけ出すスクリーニング等を実施する研究を推進している。また、ヒトiPS細胞等のヒト幹細胞を用いた再生医療技術の早期臨床応用の課題である造腫瘍性等の研究を推進することにより、安全かつ有効な再生医療技術の基盤の確立を目指している。
 経済産業省は、日本医療研究開発機構を通じ、「再生医療・遺伝子治療の産業化に向けた基盤技術開発事業」を実施し、個々の再生医療等製品の安全性、有効性等の評価手法の開発や、開発業務受託機関(CRO)等と連携した製品開発の体制整備等の支援を行っている。加えて、再生医療技術を応用し、様々な臓器の細胞を活用した、医薬品の安全性等を評価するための応用技術の開発を行っている。
 また、遺伝子治療については、高品質で安全性の高い治療用ベクターの培養・製造技術等を開発し、国際競争力のある大量製造技術の開発を進めている。

オ ゲノム医療の実現
 文部科学省は、日本医療研究開発機構を通じ、「ゲノム研究バイオバンク事業」を実施し、協力医療機関より収集したDNAや生体試料及び臨床情報を維持・管理する世界最大規模の疾患バイオバンクを構築している。また、東日本大震災の被災地域の沿岸部を中心に、ゲノム情報を含む長期疫学(ゲノムコホート)研究等を行う「東北メディカル・メガバンク計画」を実施することにより、被災地域の医療復興に貢献するとともに、個別化予防等の次世代医療の実現を目指している。さらに、上記のような既存のバイオバンク等を研究基盤・連携のハブとして再構築するとともに、その研究基盤を利活用した目標設定型の先端研究開発を一体的に行う「ゲノム医療実現推進プラットフォーム事業」を実施している。

カ がんに関する研究
 我が国において、死亡者の約3人に1人(年間約37万人、平成30年)ががんで亡くなり、生涯において約2人に1人が罹患すると推計されていることから、依然として国民の生命と健康にとって重大な問題である。
 このため、政府は、我が国全体で進めるがん研究の今後のあるべき方向性と具体的な研究事項等について定めた「がん研究10か年戦略」(平成26年3月31日文部科学大臣・厚生労働大臣・経済産業大臣決定)に基づき、がんの根治・予防・共生の観点に立ち、患者・社会と協働することを念頭に置いてがん研究を推進している。また、「がん対策基本法」(平成18年法律第98号)に基づき、「がん患者を含めた国民が、がんを知り、がんの克服を目指す」ことを全体目標とした第3期の「がん対策推進基本計画」(平成30年3月9日閣議決定)が策定され、新たな治療法の開発が期待できるゲノム医療や免疫療法について重点的に研究を推進することが盛り込まれた。本計画において、①科学的根拠に基づくがん予防・がん検診の充実、②患者本位のがん医療の実現、③尊厳を持って安心して暮らせる社会の構築が目標として設定されたことを踏まえ、科学技術の進展や臨床ニーズに見合った研究を更に推進していく。
 文部科学省は、日本医療研究開発機構を通じ、「次世代がん医療創生研究事業」を実施し、次世代のがん医療の創成に向けて、がんの生物学的な本態解明に迫る研究、がんゲノム情報など患者の臨床データに基づいた研究及びこれらの融合研究を推進している。
 厚生労働省は、日本医療研究開発機構を通じ、「革新的がん医療実用化研究事業」を実施し、がん研究10か年戦略に基づいて、応用領域後半から臨床領域において、革新的な診断・治療など、がん医療の実用化を目指した研究を強力に推進している。また、これまでのがんの戦略的な研究を継続するとともに、特に希少がん、難治性がん等を対象とし、がん関連遺伝子の変異などのゲノム情報の活用やがん幹細胞の抑制や死滅を可能にすることを対象とした革新的治療法の開発を重点的に推進している。さらに、近年、手術、放射線療法、化学療法に次ぐ第4の治療法として、国際的にがん免疫療法の開発が急速に進んでいることから、国内での豊富な研究成果を生かし、日本発の革新的な医薬品を創出するため、難治性がんや希少がん等を 中心にがん免疫療法や抗体医薬等の分子標的薬、核酸医薬等の創薬研究に関し、質の高い非臨床試験、国際水準の臨床研究・医師主導治験を推進している。
 なお、がん患者やその家族に対して、がんとうつうをはじめとする身体的苦痛、抑うつや不安等の精神心理的苦痛、就労や金銭的問題等による社会的苦痛を改善するため、より効果的ながん疼痛評価及び治療法や高度な情報伝達手法、緩和ケアの質の評価法の確立も含めた緩和ケアに関する研究も推進している。
 量子科学技術研究開発機構は、難治性がん等に対する画期的な治療法として期待される重粒子線がん治療に関する研究開発を推進するとともに、国内外への普及に向けた取組を強化している。また、同機構が中心となって研究開発を行った成果を基に、兵庫県、群馬県、佐賀県、神奈川県、大阪府では、重粒子線がん治療施設が設置され、治療が行われており、山形県でも治療施設の建設が進められている。さらに、分子イメージング技術について、PET用プローブ(※20)などの放射性薬剤や生体計測装置の開発、病態診断及び放射性薬剤を用いた次世代治療法となる標的アイソトープ治療への応用に係る研究等を推進している。

キ 精神・神経疾患に関する研究
 文部科学省は、日本医療研究開発機構を通じ、社会に貢献する脳科学の実現を目指した「脳科学研究戦略推進プログラム」において、臨床と基礎研究の連携強化による精神・神経疾患等の克服に向けた研究開発や行動選択・環境適応を支える脳機能原理の解明に向けた研究開発等を行っている。非ヒト霊長類研究等の我が国の強み・特色を生かしつつ、ヒトの脳の神経回路レベルでの動作原理等の解明を目指し、「革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト」、「戦略的国際脳科学研究推進プログラム」を実施している。また、理化学研究所や科学技術振興機構が実施する「戦略的創造研究推進事業」(第4章第2節1(2)参照)、日本医療研究開発機構が実施する「革新的先端研究開発支援事業」においても、脳の分子構造、神経細胞や神経回路等に関する脳科学研究を推進している。
 厚生労働省は、日本医療研究開発機構を通じ、「障害者対策総合研究開発事業」を実施しており、精神疾患の発症メカニズムや、適正な診断法、治療法の確立を目指した研究を行っている。また、令和元年に取りまとめられた「認知症施策推進大綱」に基づき、日本医療研究開発機構を通じて「認知症研究開発事業」を実施し、認知症の予防法、診断法、治療法、リハビリテーションモデルや介護モデル等の研究開発を目指した研究を行い、得られた成果の普及促進を図っている。
 経済産業省は、日本医療研究開発機構を通じ、「認知症対策官民イノベーション実証基盤整備事業」を実施し、認知機能低下の抑制や早期発見等を推進することにより、医療関係者に加え非医療関係者でも利活用可能な評価手法・指標を確立するとともに、企業・医療・自治体・介護・非医療関係者等が安心して利用し得る新たな製品・サービスを検証するための実証基盤の整備を目指している。

ク 新興・再興感染症に関する研究
 文部科学省は、日本医療研究開発機構を通じ、「感染症研究国際展開戦略プログラム」及び「感染症研究革新イニシアティブ」を実施し、アジア・アフリカの9か国9か所に展開する海外研究拠点において、相手国機関と協力し、現地でまんえんする感染症の病原体に対する疫学研究、診断治療薬等の基礎的研究を推進し、感染症の制御に向けた予防や診断治療に資する新しい技術の開発等を行っている。また、国際的に脅威となる感染症対策関係閣僚会議で決定された「国際的に脅威となる感染症対策の強化に関する基本計画」(平成28年2月)、「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」(平成28年4月)及び「長崎大学の高度安全実験施設(BSL4施設)整備に係る国の関与について」(平成28年11月)を踏まえ、感染症の革新的な医薬品の創出を図るためのBSL4施設を中核とした感染症研究拠点に対する研究支援、病原性の高い病原体等に関する創薬シーズの標的探索研究等を行っている。

ケ 新型コロナウイルス感染症への対応
 令和元年12月に中国での発生が報告された新型コロナウイルス感染症については、令和2年3月11日に世界保健機関(WHO)が世界的な大流行(パンデミック)の宣言に至り、国内外に甚大な影響を及ぼしている。
 こうした状況を受け、文部科学省では新型コロナウイルス感染症対策のため、感染症研究の基盤の強化や研究の加速化に取り組んでいる。具体的には、日本医療研究開発機構を通じた助成や科学研究費助成事業(特別研究促進費)等により、治療薬やワクチン、迅速診断法の開発等に係る基盤的な技術の開発を促進している。
 治療薬の開発に関しては、例えば、前述の「感染症研究国際展開戦略プログラム」による支援を受け、東京大学医科学研究所が、膵炎の治療薬である「ナファモスタット(商品名:フサン)」について新型コロナウイルスの感染を阻害する可能性があることを発見した。このほかにも、インフルエンザ治療薬である「ファビピラビル(商品名:アビガン)」や気管支喘息の治療薬である「シクレソニド(商品名:オルベスコ)」、エボラ出血熱治療薬として開発中の「レムデシビル(商品名:ベクルリー)」等の有効性が期待され、臨床研究などが開始されており、レムデシビルについては医師主導国際共同治験の結果も踏まえて、5月7日に特例承認された。
 迅速診断法の開発については、科学研究費助成事業(特別研究促進費)の支援によるアジア地域の感染症研究拠点を活用した研究開発の成果として、長崎大学がキヤノンメディカルシステムズ株式会社と共同で、蛍光LAMP法を用いた迅速診断技術を確立している。また「世界に誇る地域発研究開発・実証拠点(リサーチコンプレックス)推進プログラム」の一環として、川崎殿町拠点において、神奈川県と理化学研究所とが共同で、SmartAmp法を利用した迅速診断技術を確立している。いずれの迅速診断法も厚生労働省及び国立感染症研究所に評価され、行政検査において使用可能になるとともに、保険適用の対象になっている。このような治療薬やワクチン、迅速診断法の開発を円滑に実施するため、海外の感染症研究拠点の基盤の強化や、「創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業(BINDS)」を通じたアカデミアや企業のための創薬研究基盤の強化・充実等に取り組んでいる。
 また、新型コロナウイルス感染症に関連する遺伝子組換え実験について、「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」(平成15年法律第97号。いわゆるカルタヘナ法)に基づく大臣確認が必要となる場合には、その重要性を鑑みて迅速性と安全性を確立しながら必要な審査を行っている。
 理化学研究所が令和3年度からの全面的な運用開始を目指して整備しているスーパーコンピュータ「富岳」については、その試行的利用を一部前倒しし、治療薬候補の探索等に取り組むとともに、大学等が所有するスーパーコンピュータの計算資源を活用した新型コロナウイルス感染症に対応した臨時的な研究公募を実施した。大型放射光施設SPring-8や大強度陽子加速器施設J-PARC等においても、創薬関連研究に関する利用申請や解析依頼を受け付けることとしており、先端的な研究施設を新型コロナウイルス感染症対策に活用して成果の早期創出に取り組んでいる。
 更に、研究者等向けに、感染症研究の留意点や文部科学省に関連する研究成果を集めた情報ポータルサイトを公表するなど、文部科学省として様々な側面から、新型コロナウイルス感染症に対応した取り組みを進めているところである。
 また、科学技術振興機構では、令和2年度に創設した研究開発プログラムにおいて、行動経済学・社会心理学・法学・倫理学など人文・社会科学の知見の活用により、新型コロナウイルス感染症に起因する様々な社会事象における市民、消費者の反応等を分析し、エビデンスに基づくリスク判断、リスクの公平な配分につながる利害調整など、緊急時の社会的意思決定における科学的エビデンスの提示などの手法を高度化する課題を対象とし、公衆衛生行政等における政策立案や情報発信プロセスへの実装に貢献することを目指している。また、感染症モデリングなどの非医療分野において、我が国と外国の研究者による新型コロナウイルス感染症拡大防止に係る国際共同研究を科学技術振興機構が公募し、緊急的に支援を実施している。
 科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」推進事業の一環としても、平成26年から平成29年までの間、感染症の数理モデルの政策実装に関する研究を実施するなど、社会実装を見据えた政策研究を推進するとともに、政策研究の成果の社会実装を推進する体制整備を実施している。
 経済産業省では、産業技術総合研究所及び杏林製薬株式会社が共同開発した、リアルタイムPCR法を利用した新型コロナウイルスの検出を迅速に行うことができる検出機器(GeneSoC)の実行性及び操作性に関する実証事業を実施した。また、簡易・迅速かつ分散的なウイルス検査、感染拡大防止に向けたシステム開発、重症患者等に向けた治療機器等への期待が高まっていることを受け、新型コロナウイルスの検出用デバイス及び診断薬の開発のための研究開発や、現場のニーズに対応した機器・システムの開発・実証等を支援することとした。
 厚生労働省では、日本医療研究開発機構を通じ、適切な診断法、治療法、予防法の開発等に取り組み、必要な行政的対応につながる研究を推進している。特に、感染症対策において重要な手段である予防接種については、安全性・医療経済性等を評価する研究を行い、予防接種行政に活用している。
 また、厚生労働省が創設に関わり、2017年より拠出を行っている感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)は、令和2年1月から、新型コロナウイルスに対するワクチンの開発を促進し、候補ワクチンを迅速に臨床試験に導くことを目的とし、各国の研究機関、大学、民間企業とのパートナーシップ締結を順次行い、令和2年3月31日時点で8件のワクチン開発プロジェクトとパートナーシップ締結を行っている。
 このほか、科学技術・学術政策研究所が、令和2年3月に科学技術に関する国民意識調査を実施したところ、新型コロナウイルスを含む感染症の予測と対策について、政府の講じるべき科学技術に関連した施策に対する国民の関心が高まっていることがわかった。(第2-3-2図)

■第2-3-2図/新型コロナウイルス等の感染症予測と対策として政府の講じるべき施策として回答された割合とその時間変化

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コ 難病に関する研究
 厚生労働省は、日本医療研究開発機構を通じ、「難病克服プロジェクト」を文部科学省と連携して実施しており、難病の克服を目指すため、患者数が少ない等の理由で研究が進まない分野における研究に対して支援を行うことにより、難病の病態を解明するとともに、効果的な新規治療薬の開発、既存薬剤の適応拡大等を一体的に推進している。

サ ICT等の活用による健康等情報の利活用の推進
 産学官による匿名加工医療情報の医療分野の研究開発への利活用を推進し、健康長寿社会の形成に資することを目的として、平成30年5月11日に、「医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律」(平成29年法律第28号)が施行された。
 総務省は、ICTを活用した医療・介護・健康分野のネットワーク化を推進し、データ流通基盤を構築・高度化するため、技術課題の解決等の観点から、遠隔医療モデルの構築、レセプトデータを活用した診療支援モデルの構築、個人の生涯にわたる医療等のデータを時系列で管理し、本人の判断の下、多目的に活用する仕組み(PHR)におけるルール作りに資する調査事業等を実施した。また、日本医療研究開発機構を通じて、AIを活用した保健指導の施策立案モデルの構築に向けた研究を実施するとともに、開発した8K内視鏡システムの更なる改良、当該システムを応用した遠隔手術支援の実現に向けた研究及び高精細映像データを活用したAI診断支援システムの構築に向けた研究を実施した。
 経済産業省は、日本医療研究開発機構を通じ、「健康・医療情報を活用した行動変容促進事業」を実施し、糖尿病等の生活習慣病軽症者等を対象に、ウェアラブル端末等から取得される日々の健康情報等に基づいて個人への介入を実施することにより、行動変容を促進し、生活習慣病等の予防・改善につながるエビデンスの構築を進めた。また、「IoT等行動変容事業」を実施し生活習慣病以外の疾患においても、IoTデバイスやモバイルアプリケーションの活用によって収集された個人の日常生活における健康データを取得・解析しその有効性を検証することによって、健康データを医師の診療等に適切に活用する手法の開発を促進するとともに、その効率的な社会実装が進むようなビジネスモデルの創出を目指す。

コラム2-3 海外研究拠点を活用した感染症研究の取組

 世界では、熱帯地域を中心として様々な新興・再興感染症が流行している。高温多湿な環境とインフラ整備の遅れによって、デング熱やマラリア、結核などの古くからある感染症は依然として流行しており、また、人口増加と経済発展に伴う人々の居住域の拡大により野生生物の生息域に接近する機会が増え、新たな動物由来感染症が発生するリスクが増大している。グローバル化が進む現代社会においては、新たに流行した感染症が国境を越えて拡大するケースもある。このような状況を踏まえ、国際的な連携の下に感染症制御に向けた取組が必要である。
 各地で蔓延まんえんする感染症に関して、文部科学省が立ち上げた「感染症研究国際展開戦略プログラム」では、九つの大学(※21)が海外の感染症研究拠点で疫学研究等を実施してきた。感染症流行地における疫学調査等により、病原体の分布や移動、変異等、流行に関わる要因の解明に資する成果が出ている。例えば、ミャンマー拠点では、インフルエンザウイルスの遺伝子解析により、平成29年にミャンマーで大流行したウイルス株が、同年にインドで流行した株に類似し、半年後に日本で流行した株と同じであることを見いだした。このようなウイルスのグローバルな移動情報は、流行する株の予測につながり、流行に先んじてワクチンを作成することが可能になる。フィリピン拠点やタイ拠点では、ノロウイルスに関して無症候性キャリア(※22)が存在することを明らかにし、このような存在が流行に影響を及ぼすことを解明することで、感染の拡大防止等に役立つことが期待される。このほか、感染の有無を判定するための検査キットや治療薬等の開発に必要な検体の遺伝子解析について、海外の感染症研究拠点において、現地で得られる検体等を迅速に解析することにより、社会実装を見据えた診断技術の開発や創薬の起点となる標的の探索等の基礎的研究を推進している。
 また、令和元年12月に中国で発生した新型コロナウイルス感染症については、科学研究費助成事業(特別研究促進費)を利用して、アジア地域の感染症研究拠点を活用し、新型コロナウイルス感染症に関する情報や検体の収集・分析、流行実態や宿主動物に関する疫学調査、迅速診断技術の確立等、予防・診断・治療法の開発に向けた基礎的研究を実施している。(新型コロナウイルス対応に関する政府の研究開発ついては、第2部第3章の「ク 新興・再興感染症に関する研究」を参照)

<参考URL>感染症研究国際展開戦略プログラム
https://www.amed.go.jp/program/list/01/06/001.html別ウィンドウで開きます

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ミャンマー拠点における
ウイルスの移動情報の特定
提供:日本医療研究開発機構

(2)持続可能な都市及び地域のための社会基盤の実現
ア コンパクトで機能的なまちづくり
 国土技術政策総合研究所は、国民の生活ニーズが多様化する中で、多様化する生活支援機能を踏まえた都市構造の分析・評価技術の開発のほか、地域間連携を推進するための地方都市における都市機能の広域連携に関する研究等を実施している。

イ 交通システム等に関する研究
 統合イノベーション戦略2019において、自動運転が成果の社会実装を更に重視した研究開発プログラムであるSIP第2期の取組として推進する方向性が定められている。内閣府は、SIP「自動運転(システムとサービスの拡張)」において、オーナー・カーについて自動運転の実用化を高速道路から一般道へ拡張するとともに自動運転技術を活用した物流・移動サービスの実用化を目指し、自動運転システムの開発・検証(実証実験)、自動運転実用化に向けた基盤技術開発、自動運転に対する社会的受容性の醸成、国際連携の強化の四つの領域で研究開発等を推進している。
 総務省は、自動運転社会に向けた取組として、新たにV2X用通信を導入する場合に必要となる周波数共用等の技術的条件の検討を行っている。また、安心・安全な自動運転の実現に向け、周辺の交通状況を俯瞰的に把握できるようにするため、様々な情報源から得られる動的情報を収集しリアルタイムな交通状況として統合し、必要な範囲の情報を自動運転車両側に配信する技術の研究開発を行っている。
 警察庁は、自動運転の実用化に向けた信号情報提供技術の高度化として、路側インフラやクラウド等を活用した信号情報提供について研究開発を実施している。
 科学警察研究所は、自動運転を含む新たな交通の問題解決と事故原因の解明に関する研究のほか、高規格の高速道路での交通特性、高齢運転者の心理特性等に関する研究をしている。
 国土交通省は、列車の先頭に搭載したカメラで樹木や電化柱等の構造物の傾斜等、列車の安全走行に支障を及ぼすおそれのある沿線の状況を撮影し、その画像を解析することにより、保線係員の巡視箇所の重点化等を図るシステムの開発など、鉄道分野における安全性向上に資する技術開発を推進している。
 海上・港湾・航空技術研究所は、船舶に係る技術並びにこれを活用した海洋の利用等に係る技術及び電子航法に関する研究開発を行っている。船舶に係る技術及びこれを活用した海洋の利用等に係る技術分野については、海上輸送の安全確保のため、海難事故の大幅削減と社会合理性のある安全規制の構築による「安全・安心社会」の実現に資する研究を実施している。また、モーダルシフトの推進や移動の円滑化等に対応した海上物流の効率化、輸送システムの開発等に関する研究を行っている。
 電子航法分野については、「軌道ベース運用による航空交通管理の高度化」、「空港運用の高度化」、「機上情報の活用による航空交通の最適化」や「関係者間の情報共有及び通信の高度化」など、航空交通の安全性向上を図りつつ、航空交通容量の拡大、航空交通の利便性向上、航空機運航の効率性向上及び航空機による環境影響の軽減に寄与する研究開発を行っている。
 自動車技術総合機構は、交通弱者に対する事故防止、次世代大型車の開発・実用化促進等の陸上輸送の安全確保、環境保全等に係る調査研究、自動車の基準適合性審査、リコールに係る技術的検証を実施している。

ウ 地域における包括的ライフケア基盤システムの構築
 文部科学省及び厚生労働省は、脳内情報を低侵襲若しくは非侵襲的に解読し、身体機能の治療・回復・補完等を可能とするブレイン・マシン・インターフェース(BMI)を開発し、臨床応用及び生活支援に資することを目指している。
 厚生労働省は、障害者の自立や社会参加の支援を目的として、障害当事者のニーズを適切に反映した使い勝手の良い支援機器の開発を行う「障害者自立支援機器等開発促進事業」を実施している。
 経済産業省は、福祉用具の研究開発を行う事業者等に対する補助事業を推進している。特に、重点的に開発する分野の一つであるロボット介護機器の実用化に向けて、民間企業等が行う高齢者の自立支援等に資するロボット介護機器の開発を支援するロボット介護機器等福祉用具開発標準化事業を実施している。
 国土交通省は、高齢者や障害者を含む誰もが屋内外をストレスなく自由に活動できるユニバーサル社会の構築に向け、渋谷駅において民間主体による屋内電子地図、測位環境の整備を支援し、民間アプリを活用した屋内外シームレスなナビゲーションサービスの実証実験を実施した。
 国土技術政策総合研究所は、住宅・建築のバリアフリー効果の見える化手法の確立を目的に、住環境における活動のしやすさ(=生活容易性、移動容易性、介助容易性)を、居住者(健常者、高齢者、車いす使用者、介助者等)の身体活動量を指標としたバリアフリー環境評価プログラムを用いて定量的に把握し、ライフステージに即した居住者の健康維持管理増進につながる研究を行っている。

コラム2-4 サイバー空間での航空機開発実現に向けて

 毎日おびただしい数のジェット旅客機が世界中を飛び回って人の移動を支えているが、航空機産業界は海外大手数社による寡占状態と言える。この状況に風穴を開けようというのが、YS-11以来60年ぶりの国産機であり、現在まさに開発の佳境を迎えている三菱スペースジェットである。欧米に比べて機体開発の経験が少ない我が国の航空機産業界が、熾烈な国際競争を勝ち抜いていくためには、市場ニーズにあった飛行機を世界に先駆けて投入できるよう開発時間を短縮していくことが重要である。
 そこで期待されているのが、サイバー空間での航空機開発であり、その要となるのがコンピューターの中で現実を模擬する数値シミュレーション技術である。これは、スーパーコンピューターを使った計算から航空機周りの空気の流れの様子や機体の性能等を予測する技術であり、ライト兄弟の時代から航空機開発において実施されてきた風洞試験のみならず、実機による飛行試験の役割をも代替する可能性を秘めている。さらには、様々な気象条件や実機で行うには危険が伴うような飛行状態の模擬など、更なる安全設計の追求に貢献することが期待されている。この技術は我が国のお家芸で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)では長年にわたる努力の結果として、10年前までは丸1日かかっていた航空機周りの流れのシミュレーションを僅か2分で終わらせることができる世界最高速レベルの計算プログラムを有している。このような技術を設計の段階からふんだんに活用することで、早い段階から機体の完成度が高まり、飛行試験に至ってからの手戻りも減らすことができるため、航空機開発を格段に高速化できる。
 しかし、現時点でそれを適用できるのは巡航のように航空機の速度や高度がほとんど変わらない状態を対象にしたシミュレーションに限られる。航空機開発においては、機体が振動するような危険な場面を含めて、図1のように様々な飛行状態を考慮しなければならない。そこで発生する現象の多くは時間とともに流れの様子が複雑に変化する非定常現象であり、それをシミュレーションし航空機設計に活用するまでには、現在の技術をもってしても多くの時間が必要となる。このような航空機開発におけるボトルネックを解消するため、JAXAでは「統合シミュレーション技術の研究開発」を進めている。略称はかの有名なアイザック・ニュートンにあやかってISSAC(Integrated Simulation System of Aerospace vehiCles)と名付けた。
 非定常現象の計算を行うと大量のデータが生み出されるが、それから飛行機設計でキーとなる現象を人の手で探り当てるのは容易ではない。そこでISSACでは、データに隠された現象の本質的な部分(特徴構造)を抽出するデータマイニングの技術を活用している。抽出した特徴構造は現象の理解を助けるだけでなく、簡易的なモデルを作るのにも役立つ。図2は解析結果の例で、複雑で難解なバフェット(流れの振動現象)の計算結果(図2上部)から、バフェットセルという本質的な特徴構造の存在をあぶりだすことに成功している(図2下部)。データマイニングはAIと同様、機械学習に分類される技術である。今後はディープラーニングの技術も積極的に導入し、更に一歩進んだ、現象を簡易的にモデル化して再現する技術を開発していくことが計画されている。これによって計算時間が劇的に短縮され、数値シミュレーション技術が我が国の航空機産業界の発展により一層貢献していくことが期待される。

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(3)効率的・効果的なインフラの長寿命化への対策
 内閣府は、PRISM(官民研究開発投資拡大プログラム)「革新的建設・インフラ維持管理技術/革新的防災・減災技術」において、i-Constructionの推進等の関係府省の施策に追加予算を配分し、これを加速することにより、イノベーション転換等を推進する。また、着実かつ効率的なインフラメンテナンスを実現するとともに、データの効果的な活用がもたらすオープンイノベーションの加速を図るため、国と地方公共団体、民間のデータを連携させるインフラ・データプラットフォームの構築を国土交通省と連携し、推進する。
 国土交通省及び経済産業省は、社会インフラの維持管理及び災害対応の効果・効率の向上のためにロボットの開発・導入を推進している。
 国土交通省は、調査・測量から設計、施工、検査、維持管理・更新までの全ての建設生産プロセスにおいてICT等を活用する「i-Construction」を推進し、令和7年度までに建設現場の生産性2割向上を目指している。また、新型コロナウイルス感染症対策を契機として、公共事業におけるBIM/CIM(※23)活用拡大を加速化させ、設計・施工から維持管理に至る一連のプロセスやストック活用をデジタルで処理可能とするとともに、熟練技能のデジタル化を進めること等により、インフラ・物流分野等におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)を通じた抜本的な生産性の向上及び非接触・リモート型への転換を図る。
 国土技術政策総合研究所では、「i-Construction」を推進するため、データ流通を目的とした3次元モデルの作成方法、様々な工種におけるICTを活用した出来形管理・検査に関する要領・基準案の作成、維持管理に資する情報を3次元モデル上で一元的に管理する方法案を作成する「ICTの全面的な活用による建設生産性向上に関する研究」等の研究を行っている。そのほか、国土交通省本省関連部局と連携し、既存の住宅・社会資本ストックの点検・補修・更新等を効率化・高度化し、安全に利用し続けるため、下水道施設の効率的な維持管理手法の開発、既存建築物の活用に関する手法・技術の開発を行っている。
 土木研究所は、きょうりょう、舗装及び管理用施設を対象とした既設構造物の効果的(効率化・高度化)なメンテナンスサイクルの実施に資する手法の開発、並びにきょうりょう、土工構造物及びトンネルを対象とした管理レベルに対応した維持管理や長寿命化を可能とする構造物の更新・新設手法の開発、凍害・複合劣化等を受けるインフラの維持管理・更新技術の横断的(道路・河川・港湾漁港・農業分野)技術開発と体系化について進めている。
 海上・港湾・航空技術研究所は、首都圏空港の機能強化に関し、滑走路等空港インフラの安全性・維持管理の効率性の向上等に係る研究開発、我が国の経済・社会活動を支える沿岸域インフラの点検・モニタリングに関する技術開発や、維持管理の効率化及びライフサイクルコストの縮減に資する研究を実施している。
 物質・材料研究機構は、社会インフラの長寿命化・耐震化を推進するために、我が国が強みを持つ材料分野において、インフラの点検・診断技術、補修・更新技術、材料信頼性評価技術や新規構造材料の研究開発の取組を総合的に推進している。

■第2-3-3表/超高齢化・人口減少社会等に対応する持続可能な社会の実現のための主な施策(令和元年度)

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3 ものづくり・コトづくりの競争力向上

(1)新たなものづくりシステム
ア サプライチェーンシステムのプラットフォーム構築
 エンジニアリングシステムチェーンや生産プロセスチェーン等を統合した新たなプラットフォームの構築は、データ利活用を促進し、生産性の向上や新たな付加価値の創出をもたらす。
 経済産業省は、プラットフォームの構築に向け、先進事例の創出支援や様々な機械・設備のデータを共有できるよう、データの共通フォーマットを作成している。また、データ利活用の普及が課題となっている中小製造業向けには、課題に応じた改善策や技術をアドバイスする専門人材を育成・派遣する相談拠点の整備を開始した。また、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行を受けて、特定国に依存する製品・部素材等について、生産拠点の国内回帰等を支援することとし、一国依存度が高い部素材の代替や使用量低減、データ連携等を通じた迅速・柔軟なサプライチェーンの組替え等、サプライチェーン強靭化に資する技術開発等を行うこととした。
 国土交通省は、我が国の海事産業の国際競争力の維持・向上に向けて、IoT/ビッグデータ等の情報通信技術の活用によって船舶の開発・設計、建造、運航の各段階の効率化及び高度化を図ることにより、生産性を向上させるための技術開発の支援を行っている。また、自動運航船の実用化に向けて、平成30年6月に策定したロードマップに基づき、実証事業を実施している。
 情報通信研究機構は、脳情報を基に潜在的ニーズの探索を可能にするため、脳活動の計測技術の先駆的研究開発を実施している。

イ 革新的な生産技術の開発
 経済産業省は、「三次元造形技術を核としたものづくり革命プログラム」を実施し、日本の強みである素材や機械制御技術等を生かし、高付加価値の部品等の製造に適した3次元積層造形技術(高速化・高精度化・高機能化等)の基盤的な開発等を行っている。
 また、「省エネルギー型製造プロセスの実現に向けた3Dプリンタの造形技術開発・実用化事業」を実施し、3次元積層造形技術の本格導入に際しての課題である造形物の品質確認を通じた実証や最適な造形条件や造形物の品質評価手法の開発を行うことにより、他国に先駆けて同技術を用いた省エネ型の新しいものづくり・製造プロセスの確立を目指している。

(2)統合型材料開発システム
ア 信頼性の高い材料データベースの構築
 我が国の素材産業の国際競争力を強化するために、政府は数値シミュレーション、理論、実験、解析やデータ科学等を融合した材料開発システムを構築するとともに、産学官がそれぞれ保有する信頼性の高い材料データの整理・統合及びデータベース化を推進している。

イ データベースを活用した材料開発技術の確立
 科学技術振興機構は、「イノベーションハブ構築支援事業」の一環として、計算科学・データ科学を活用して未知なる革新的機能を有する材料を短期間に開発する「情報統合型物質・材料開発イニシアティブ(MI2I)」を推進している。物質・材料研究の中核的な機関である物質・材料研究機構をハブとして、産学官の人材を糾合し、データベースの構築やデータ科学との融合を発展させるとともに、より広範な企業の参画を促し、画期的な磁石・電池・伝熱制御等の新材料設計の実装に取り組んでいる。

第2節 国及び国民の安全・安心の確保と豊かで質の高い生活の実現

 国及び国民の安全・安心を確保し、豊かで質の高い生活を実現するためには、防災・減災や国土きょうじん化等に向けた取組を進めていくとともに、国民の快適な生活環境や労働衛生を確保し、さらに安全保障環境の変化、犯罪、テロやサイバー攻撃などへの対応が重要である。これらの課題解決に向け、統合イノベーション戦略2019の「安全・安心」の項目において、「防災・減災、インフラの長寿命化、テロ・犯罪対策やサイバー空間、宇宙、海洋といった、様々な領域における脅威への対応に、我が国の優れた科学技術を幅広く活用していく必要があることから、関係府省庁、産学官連携の下、科学技術情報の流出にも対応しつつ、我が国の様々な高い科学技術力を結集し、社会実装により、国及び国民の安全・安心を確保する」こととしているほか、さらなる取組内容の強化に向けて、令和2年1月、統合イノベーション戦略推進会議にて、「安全・安心の実現に向けた科学技術・イノベーションの方向性」を取りまとめている。

1 自然災害への対応

(1)予防力の向上
 文部科学省は、「首都圏を中心としたレジリエンス総合力向上プロジェクト」において、政府関係機関、地方公共団体や民間企業等が保有する地震観測データを統合し官民連携による超高密度地震観測システムを構築するとともに、実大三次元震動破壊実験施設を用いた非構造部材(配管、天井等)を含む構造物の崩壊余裕度に関するセンサー情報等を収集し、都市機能維持の観点から官民一体の総合的な災害対応や事業継続、個人の防災行動等に資する多種多様かつ大量なデータを集積し、産官学で共有・解析することで、新たな価値の創出につながる取組を進めている。
 国土交通省は、海上・港湾・航空技術研究所等との相互協力の下、全国港湾海洋波浪情報網(NOWPHAS(※24))の構築・運営を行っており、全国各地で観測された波浪・潮位観測データを収集し、ウェブサイトを通じてリアルタイムに広く公開している(※25)。
 国土技術政策総合研究所は、大規模地震に起因する土砂災害の事前推定手法の開発等の「激甚化する災害への対応」、避難所における被災者の健康と安全確保のための設備等改修技術の開発等の「災害に強いまちづくり」を行っている。
 土木研究所は、顕在化・極端化してきた河川災害の被害軽減技術開発及び顕在化してきた津波や海面上昇による被害の軽減技術開発、突発的な自然現象による土砂災害の防災・減災技術の開発、極端気象がもたらす雪氷災害による被害を軽減するための技術開発を実施している。
 建築研究所は、自然災害による損傷や倒壊の防止等に資する建築物の構造安全性を確保するための技術開発や建築物の継続使用性を確保するための技術開発等を実施している。
 海上・港湾・航空技術研究所は、大規模地震後の早期復旧・復興のため、沿岸域及び背後地域における地震・津波による構造物の変形予測・性能低下を予測し、沿岸域施設の安全性・信頼性の向上を図るための研究を実施している。

(2)予測力の向上

■第2-3-4図/地震・津波観測監視システム(DONET)のイメージ図

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資料:文部科学省作成

 我が国の地震調査研究は、地震調査研究推進本部(本部長:文部科学大臣)(以下「地震本部」という。)の下、関係行政機関や大学等が密接に連携・協力しながら行われている。
 地震本部は、これまで地震の発生確率や規模等の将来予測(長期評価)を行っている。東北地方太平洋沖地震のような隣接する複数の領域を震源域とする巨大地震を評価の対象とできていなかったことや活断層を起因とした熊本地震の発生を踏まえ、長期評価の評価手法や公表方法を順次見直しつつ実施している。また、東北地方太平洋沖地震での津波による甚大な被害を踏まえ、様々な地震に伴う津波の評価を実施している。
 文部科学省は、南海トラフ地震を対象とした「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」において、想定される地震が発生した際の社会的・経済的被害が大きい地域を対象とした調査研究を実施した。また、「日本海地震・津波調査プロジェクト」では、日本海及びその沿岸を対象に、制御震源を用いた構造探査や津波堆積物調査等を実施し、震源断層モデルや津波波源モデルに関する研究を進めた。

■第2-3-5図/日本海溝海底地震津波観測網(S-net)のイメージ図

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 阪神・淡路大震災以降、陸域に地震観測網の整備が進められてきた一方、海域の観測網については、陸域の観測網に比べて観測点数が非常に少ない状況であった。このため、文部科学省は、南海トラフ地震の想定震源域において、地震計、水圧計等を備えたリアルタイムで観測可能な高密度海底ネットワークシステムである「地震・津波観測監視システム(以下「DONET(※26)」という。)」を運用している(第2-3-4図)。また、今後も大きな余震や津波が発生するおそれがある東北地方太平洋沖において、地震・津波を直接検知し、災害情報の正確かつ迅速な伝達に貢献する「日本海溝海底地震津波観測網(S-net(※27))」を運用している(第2-3-5図)。
 火山分野においては、平成26年の御嶽山の噴火等を踏まえ、平成28年度から「次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト」を開始し、火山災害の軽減に貢献するため、従前の観測研究に加え、他分野との連携・融合を図り、「観測・予測・対策」の一体的な研究の推進及び広範な知識と高度な技術を有する火山研究者の育成を行った。

 防災科学技術研究所は、日本全国の陸域を均一かつ高密度に覆う約1,900点の高性能・高精度な地震計により、人体に感じない微弱な震動から大きな被害を及ぼす強震動に至る様々な「揺れ」の観測を行っている。海域においては約200点の地震計・津波計を運用しているほか、国内16火山の「基盤的火山観測網(V-net(※28))」を含む、全国の陸域と海域を網羅する地震・津波・火山観測網である「陸海統合地震津波火山観測網(以下「MOWLAS(※29)」という。)」の本格運用を平成29年11月より開始した。MOWLASを用いた地震や津波の即時予測、火山活動の観測・予測の研究、実装を進めており、気象庁に観測データの提供を実施するほか、鉄道事業者での活用を推進した(第2-3-6図)。

■第2-3-6図/陸海統合地震津波火山観測網(MOWLAS)

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資料:文部科学省作成

 また、マルチセンシングに基づく土砂・風水害の発生予測に関する研究、雪害や沿岸災害等の自然災害による被害の軽減に資する研究等を実施している。さらに、新たな防災科学技術の創出に向けて、気象災害の軽減・防止と産業界にプラスの経済的波及効果を生み出すことを目標とした「「攻め」の防災に向けた気象災害の能動的軽減を実現するイノベーションハブ」の形成を進めている。例えば、コンビニ企業と連携して、積雪等センサーの新規開発と店舗への設置により積雪予測を高精度化し、大雪時の物流の確保と雪氷災害軽減を両立させる取組等を行っている。また、地域の防災上の課題を解決するため、雪害や水害、土砂災害に関わるセンサーを開発し、モデル地域に設置するとともに、地域のステークホルダーや生産者等と連携し、IoT技術を活用しながらデータの収集、情報の提供を行う実証実験を実施した。さらに、MPレーダ(※30)データ等との比較解析による雷危険度予測手法の研究開発を推進するため、首都圏で雷放電経路3次元観測システムによる雷の連続観測を実施している。
 気象庁は、文部科学省と協力して地震に関する基盤的調査観測網のデータを収集し、処理・分析を行い、その成果を防災情報等に活用するとともに地震調査研究推進本部地震調査委員会等に提供している。また、自動震源決定処理手法(PF法)を開発し、平成28年4月から導入した。緊急地震速報については、東北地方太平洋沖地震で課題となった同時多発地震及び巨大地震に対応するため、IPF法(※31)及びPLUM法(※32)を開発し、IPF法を平成28年12月から、PLUM法を平成30年3月から導入している。また、更なる高度化のための技術開発を防災科学技術研究所等と協力して進めている。津波については、沖合の津波観測波形から沿岸の津波の高さを精度良く予測する手法(tFISH(※33))を平成31年3月から導入した。
 気象研究所は、津波災害軽減のための津波地震などに対応した即時的規模推定や沖合の津波観測データを活用した津波予測の技術開発、緊急地震速報の精度向上のための震度予測手法に関する研究、南海トラフ沿いのプレート間固着状態変化把握技術の精度向上のための地殻変動の監視・解析技術に関する研究、火山活動評価・予測の高度化のための監視手法の開発などを実施している。
 産業技術総合研究所は、防災・減災等に資する地質情報整備のため、活断層・津波堆積物調査や活火山の地質調査を行い、その結果を公表している。全国の主要活断層に関しては、分布位置や活動履歴を解明するために、陸域6断層帯(横手盆地東縁、糸魚川-静岡構造線、野坂・集福寺、菊川、西山、雲仙断層帯[北部])や沿岸海域1断層帯(雲仙断層帯[南東部])の地質調査を実施した。また、津波堆積物データベースに福島県沿岸域の浸水域情報を公開した。そのほか、南海トラフ巨大地震の短期予測に資する地下水等総合観測点を運用・整備し、地下水位(水圧)、地下水温、地殻ひずみや地震波の常時観測を継続した。観測機器の高精度化を図るため、ひずみ計の小型化・低廉化及び既存未使用井戸を活用する手法を開発し、プロトタイプの観測井戸を設置した。火山に関しては、噴火活動があった浅間山、桜島及び阿蘇(中岳)に対して、現地調査や火山噴出物の観測・分析等を行い、現在の噴火活動の解明や今後の活動推移予測に資する物質科学的研究を実施した。
 海洋研究開発機構は、南海トラフの想定震源域や日本周辺海域・西太平洋域において、研究船や各種観測機器等を用いて海域地震や火山に関わる調査・観測を大学等の関係機関と連携して実施している。さらに、これら観測によって得られるデータを解析する手法を高度化し、大規模かつ高精度な数値シミュレーションにより地震・火山活動の推移予測を行っている。
 国土地理院は、電子基準点(※34)等によるGNSS(※35)連続観測、超長基線電波干渉法(VLBI(※36))、干渉SAR(※37)等を用いた地殻変動やプレート運動の観測、解析及びその高度化のための研究開発を実施している。また、気象庁、防災科学技術研究所、神奈川県温泉地学研究所及び東京大学地震研究所による火山周辺のGNSS観測点のデータも含めた火山GNSS統合解析を実施し、火山周辺の地殻変動のより詳細な監視を行っている。
 海上保安庁は、GNSS測位と音響測距を組み合わせた海底地殻変動観測や海底地形等の調査を推進し、その結果を随時公表している。

(3)対応力の向上
 内閣府は、SIP第1期の「レジリエントな防災・減災機能の強化」(平成26年から30年度)において、災害情報を電子地図上で集約し、関係機関での情報共有を可能とする技術である「基盤的防災情報流通ネットワーク」(SIP4D)等を開発し、令和元年8月下旬に佐賀県を中心として発生した大雨災害、令和元年房総半島台風、令和元年東日本台風では、内閣府防災部局が試行する災害時情報集約支援チーム(ISUT(※38))がSIP4Dを活用して関係府省庁等の災害関連データを統合化し災害対応支援を行った。また、平成30年度より開始したSIP第2期の「国家レジリエンス(防災・減災)の強化」において、大規模災害時に国や市町村の意思決定の支援を行う情報システムを構築するため、衛星、IoTやビッグデータ等の最新の科学技術を最大限活用した研究開発及び社会実装を推進している。
 また、準天頂衛星システム「みちびき」のサービスを平成30年11月1日に開始し、みちびきを経由して防災気象情報の提供を行う災害・危機管理通報サービス及び避難所等における避難者の安否情報を収集する安否確認サービスの提供を行っている。
 総務省は、情報通信等の耐災害性の強化や被災地の被災状況等を把握するためのICTの研究開発を行っている。また、これまで総務省が実施してきた災害時に被災地へ搬入して通信を迅速に応急復旧させることが可能な通信設備(移動式ICTユニット)等の研究成果の社会実装や国内外への展開を推進している。
 防災科学技術研究所は、各種自然災害の情報を共有・利活用するシステムの開発に関する研究を実施するとともに、その実証と指定公共機関としての責務に基づく行政における災害対応の情報支援を行っている。令和元年6月に山形県沖で発生した地震、8月下旬に佐賀県を中心として発生した大雨災害、令和元年房総半島台風、令和元年東日本台風においては、「SIP4D」に収集された情報や被災地で収集された情報を一元的に集約し、各災害に関連した過去の情報や分析結果等とともに、「防災科研クライシスレスポンスサイト」(NIED-CRS)を介して災害対応機関へ情報発信を行った。
 防衛省は、自衛隊の災害派遣活動を支援するため、隊員の重量負荷を軽減しつつ迅速機敏な行動及び不整地の踏破を可能とする高機動パワードスーツに関する研究等を実施している。また、大規模災害等において、被災したきょうりょうの代替手段をいち早く確保し、被災者の救助や復旧部隊の迅速な展開を支援するため、軽量かつ高強度な複合材の適用を目指した応急きょうりょう基礎技術の確立に向けた研究を実施している。
 消防庁消防研究センターは、エネルギー・産業基盤災害において、G空間×ICTを活用した精度の高い自律技術及び協調連携技術等により人が近づけない現場に接近し、情報収集や放水を行うための消防ロボットシステムの研究開発を進め、平成30年度に完成させた実戦配備型の消防ロボットシステムを消防本部に実証配備し、量産型の仕様策定を目指し、機能の最適化等の検討を実施した。また、①石油タンクの地震被害に関する高精度予測(石油タンク本体に被害をもたらすおそれの高い短周期地震動の性状の特定、地下構造の違いによるタンクごとの長周期地震動の影響等)、②石油タンク等の火災規模や油種等に応じた強力な泡消火技術、③石油コンビナートで貯蔵・取り扱われる反応性の高い化学物質(禁水性物質、蓄熱発火性物質など)の火災危険性に関するより適切な評価と消火時の安全管理技術についての研究開発を実施した。加えて、内面ライニング鋼板の健全性に関する定量的な診断基準等に係る研究開発を開始した。
 さらに、災害時の消防活動能力を向上させるため、救急車運用最適化等に関する研究、また、土砂災害現場における無人航空機(UAV(※39))など上空からの画像情報を活用した捜索救助活動技術、乱雑に堆積したガレキ等を取り除く手法等に関する研究開発を実施した。南海トラフ地震や首都直下地震によって発生が危惧される市街地における大規模延焼火災発生に備え、市街地火災延焼シミュレーションの高度化や被害の拡大要因である火災旋風・飛び火の現象の解明、それらの住民の避難誘導や消火活動への活用等に関する研究開発を行った。加えて、有効な火災予防対策が行えるよう火災原因調査能力の向上に関する研究開発を行うとともに、建物からの効果的な避難に関する研究開発を実施した。
 情報通信研究機構は、天候等にかかわらず災害発生時における被災地の地表状況を随時・臨機に観測可能な航空機搭載合成開口レーダ(Pi-SAR(※40))の高度化に係る研究開発を実施している。また、通信インフラが災害等で壊滅してもローカルで無線ネットワークをつなぐ耐災害ワイヤレスメッシュネットワーク技術や、上空を飛行する小型の無人航空機に仮想の電波塔の役割を担わせて情報孤立地域との間の通信を迅速に確保する無線中継技術の開発及びそれらに関して、自治体等と連携して、フィールドでの実証実験に取り組んでいる。
 国土技術政策総合研究所は、地形・河道特性を踏まえた効果的なリスク低減のための水防活動メニューの提案や水防活動効率の向上及び活動の合理化技術の開発、避難・水防に即応可能な情報伝達のための決壊覚知・氾濫実況予測に関する研究、地震火災が発生した際の避難、緊急車両の通行可能性を診断する技術の開発、地震を受けた地方自治体の拠点建築物(庁舎等)の健全性迅速判定技術の開発を行っている。また、港湾分野においては、大規模地震時の港湾施設の即時被害推定手法に関する研究を、空港分野においては、地震災害時における空港舗装の迅速な点検・復旧方法に関する研究を行っている。
 土木研究所は、国内外の水災害に対応するリスクマネジメント支援技術の開発、大地震に対する構造物の被害最小化技術・早期復旧技術の開発を実施している。
 宇宙航空研究開発機構は、陸域観測技術衛星2号「だいち2号」(ALOS-2(※41))などの人工衛星を活用した様々な災害の監視や被災状況の把握に貢献している(第3章第4節参照)。
 また、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行を受けて、経済産業省は、EdTechの学校への導入や在宅教育を促進するオンライン・コンテンツの開発を進めることとした。また、越境ECの利活用促進や、デジタル商談プラットフォームの構築、スマート保安の推進など、非対面・遠隔での事業活動への支援を充実することとした。

(4)東日本大震災への対応と復興・再生の実現
ア 被災地の産業の復興・再生
 文部科学省は、津波により被害を受けた東北地方太平洋沖の海洋生態系を回復させるため、地方公共団体や関係省庁と連携しつつ、「東北マリンサイエンス拠点」を構築し、海洋生態系の調査研究を実施している。得られた成果は地域の漁業計画の策定や養殖場の設定等に活用されている。
 農林水産省は、「福島イノベーション・コースト構想」の実現に向け、原子力災害で被害を受けた福島県浜通り地域等において、先端技術を取り入れた先進的な農林水産業を全国に先駆けて実践することで、農林業の復興・再生を目指すため、先端農林業ロボットの開発・実証を支援している。
 また、被災地域の基幹産業である農林水産業や農村・漁村の復興・再生を加速し、更に成長力のある新たな農林水産業を育成するため、岩手県及び福島県に農業分野、宮城県及び福島県に水産業分野の研究・実証地区を設け、先端技術を駆使した現地実証研究を実施するとともに、岩手県、宮城県及び福島県に社会実装拠点を設け、研究成果の普及促進の取組を進めている。具体的には、被災地の農業者や漁業者等と連携し、被災各県の条件に応じ、水田輪作、施設園芸、漁船漁業、魚類の養殖・放流・加工等を対象とした特色ある実証研究を行っている。

イ 原子力損害賠償に向けた取組
 「原子力損害の賠償に関する法律」(昭和36年法律第147号)は、原子力事故による損害の賠償に備え、被害者の保護と原子力事業の健全な発達を図ることを目的に掲げ、原子炉の運転等による原子力損害についての賠償責任を原子力事業者に集中させ、当該原子力事業者に無限・無過失の賠償責任を負わせることを規定している。また、原子力事業者による賠償の確実かつ迅速な履行を確保するため、原子力事業者に対する損害賠償措置の義務付けや賠償措置額を超える原子力損害が発生した場合の政府の援助等を規定するとともに、損害賠償の円滑かつ適切な実施を図るため、原子力損害賠償紛争審査会の設置等を規定している。
 東電福島第一原子力発電所及び第二原子力発電所の事故(以下「本件事故」という。)発生以降、多くの住民が避難生活や生産及び営業を含めた事業活動の断念などを余儀なくされており、被害者が1日でも早く安心で安全な生活を取り戻せるよう、迅速・公平・適正な賠償が必要である。そのため、原子力損害の賠償に関する法律に基づき、本件事故における被害者のための様々な措置を講じている。
 文部科学省は、原子力損害賠償紛争審査会を設置し、賠償すべき損害として一定の類型化が可能な損害項目やその範囲等を示した指針を、地元の意見も踏まえつつ順次策定するとともに、必要に応じて見直しを行っている。また、原子力損害賠償紛争解決センターでは、業務運用の改善や体制整備を図りつつ、和解仲介手続を実施している。さらに、政府として、東電の迅速かつ適切な損害賠償の実施や経営の合理化等に関する「新々・総合特別事業計画」を平成29年5月に認定(その後、数度の変更認定)し、原子力損害賠償・廃炉等支援機構を通じて、東電による円滑な賠償の支援を行っている。
 また、本件事故における対応のうち、一般的に実施することが妥当なもの等について所要の措置を講じる「原子力損害の賠償に関する法律の一部を改正する法律」(平成30年法律第90号)が平成30年12月に成立した。これにより、①原子力損害が発生した場合に、賠償の迅速かつ適切な実施を図るための方針(損害賠償実施方針)の作成・公表を原子力事業者に義務付ける制度、②原子力損害を受けた被害者に対して原子力事業者が仮払金の支払を行おうとする場合に、国が仮払金の支払のために必要な資金を貸し付ける制度、③原子力損害賠償紛争審査会が和解の仲介を打ち切った場合の時効の中断に関する特例等が創設され、令和2年1月1日に全面施行された。

■第2-3-7表/震災からの復興、再生への実現のための主な施策(令和元年度)

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2 食品安全・生活環境・労働衛生等の確保

(1)食品における安全・安心の確保
 文部科学省は、我が国で日常摂取される食品の成分を収載した「日本食品標準成分表」を公表している。現代型の食生活に対応した情報の集積が求められていることから、平成30年12月に「日本食品標準成分表2015年版(七訂)追補2018年」の策定を行い、掲載食品の拡充を行った。
 農林水産省は、安全な農畜水産物・食品の安定供給の観点から、生産・流通・加工工程における有害化学物質及び微生物の汚染防止・低減のための技術の開発、重要家畜疾病のまんえんのリスクや畜産農家の経済的損失を低減させるためのより効果的な防疫措置の研究や検査法の開発並びに農産物の病害虫による被害を低減させるための防除技術の開発等に取り組んでいる。

(2)生活環境における安全・安心の確保
ア 放射線モニタリングの実施
 東電福島第一原子力発電所事故に係る放射線モニタリングについては、関係府省や地方公共団体等が連携し、「総合モニタリング計画」(平成23年8月モニタリング調整会議決定。平成31年2月改定)に沿って、モニタリングポスト等による空間線量の測定、土壌に含まれる核種ごとの放射性物質の分析、河川や海などの水及び土に含まれる放射性物質の分析、食品や水道水に含まれる放射性物質のモニタリングなどを実施している(第2-3-8図)。

■第2-3-8図/総合モニタリング計画に沿った各省におけるモニタリングの実施体制

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■第2-3-9図/放射性物質等の分布マップ

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 令和元年度は、東電福島第一原子力発電所事故に伴い放出された放射性物質の分布状況の把握のため、放射性セシウム等の分布状況(第2-3-9図)について引き続き取りまとめるとともに、地方公共団体と連携して実施した走行サーベイの結果を公表した。また、東電福島第一原子力発電所から80km圏内及び圏外において航空機によるモニタリングを実施し、これらの地域の空間線量率の結果を公表した(第2-3-9図)。海域については、「海域モニタリングの進め方」(「総合モニタリング計画」別紙)に沿って、関係府省や地方公共団体等との連携の下、福島県沖、宮城県沖や茨城県沖などを対象に、海水や海底土、海洋生物のモニタリングを実施した。
 さらに、福島県内に設置したリアルタイム線量測定システムや福島県全域及び福島県隣県に設置した可搬型モニタリングポスト、全国における放射能調査体制の強化のため各都道府県に増設した固定型モニタリングポストにより空間線量率を測定し、これらの測定値をウェブサイトにおいて表示している(第2-3-10図)。
 農林水産省は、農地の除染など今後の営農に向けた取組を進めるため、引き続き農地土壌の放射性物質の分布状況について調査を実施した。

■第2-3-10図/放射線量測定マップの例

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イ 放射性物質対策に向けた取組
 東電福島第一原子力発電所事故由来の放射性物質により汚染された環境の回復に向けて、関係機関が協力して放射性物質対策のための技術開発・調査研究に取り組んでいる。
 農林水産省は、農地及び森林の効果的・効率的な放射性物質対策に向けて技術開発を行うとともに、これまでに開発された技術を実証し、これらの成果を速やかに公表している。また、除染後の農地の地力を回復・向上させる技術開発、農作物の安全性を確保しつつ吸収抑制対策としてカリウム施肥の適正化を図る技術開発等、除染後の様々な課題に対応するための技術開発を行っている。
 環境省は、福島県内の除染により発生した土壌等の福島県外最終処分に向けて、減容・再生利用の技術開発戦略を取りまとめ、減容化等の分野において活用し得る技術の効果、安全性等を評価する実証事業を行っている。
 原子力機構は、福島県環境創造センター研究棟に入居し、福島県や国立環境研究所等と連携・協力して、東電福島第一原子力発電所事故により放射性物質で汚染された環境の回復に向けた放射線測定に関する技術開発や、放射性物質の環境動態等に関する研究、減容・再生利用に関する技術開発等を行っている。

ウ 小児に対する環境リスクの解明に向けた取組
 環境省は、国立環境研究所等と連携し、全国で10万組の親子を対象とした大規模かつ長期の出生コホート調査「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」を平成22年度より実施している。同調査においては、母体血やさい帯血、母乳等の生体試料を採取保存・分析するとともに、子供が13歳に達するまで質問票によるフォローアップを行い、子供の健康に影響を与える環境要因を明らかにすることとしている(第2-3-11図)。
 この調査研究の実施体制としては、国立環境研究所がコアセンターとして研究計画の立案や生体試料の化学分析等を、国立成育医療研究センターがメディカルサポートセンターとして医学的な支援を、公募により指定した全国15地域のユニットセンターが参加者のフォローアップを担っており、環境省はこの調査研究の結果を用いて環境施策の検討を行うこととしている。令和元年度は、調査成果を分かりやすく国民に伝え、化学物質のリスクについて向き合うことが可能な機会を広げるための取組として、「地域の子育て世代との対話事業」を実施している。

■第2-3-11図/子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)について

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■第2-3-12表/食品安全、生活環境、労働衛生等の確保のための主な施策(令和元年度)

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3 サイバーセキュリティの確保

 「サイバーセキュリティ基本法」(平成26年法律第104号)に基づき、サイバーセキュリティに関する施策を総合的かつ効果的に推進するため、内閣に設置された「サイバーセキュリティ戦略本部」(本部長:内閣官房長官)での検討を経て、平成30年7月27日に「サイバーセキュリティ戦略」を閣議決定した。これに基づき、実践的な研究・技術開発に関する取組の具体化を図るという目的の下、令和元年5月17日に「サイバーセキュリティ研究・技術開発取組方針」を策定し、取組を推進している。
 内閣府は、平成27年度より、SIP「重要インフラ等におけるサイバーセキュリティの確保」に取り組んでいる。本課題では、国民生活の根幹を支える重要インフラ等をサイバー攻撃から守るために、制御・通信機器のしんがん判定技術(機器やソフトウェアの真正性・完全性を確認する技術)を含めた動作監視・解析技術と防御技術の研究開発を行うとともに、重要インフラ産業の国際競争力強化と東京2020大会の安定的運営に貢献することを目標とし、研究開発を推進している。また、平成30年度より、SIP「IoT社会に対応したサイバー・フィジカル・セキュリティ」に取り組んでいる。本課題では、セキュアなSociety 5.0の実現に向け、IoTシステム・サービス及び中小企業を含む大規模サプライチェーン全体を守ることに活用できる「サイバー・フィジカル・セキュリティ対策基盤」の開発と実証を行い、複数の産業分野に社会実装するための研究開発を推進している。
 総務省は、情報通信研究機構を通じて、サイバーセキュリティ分野の研究開発を推進している。さらに、その有するサイバーセキュリティに関する技術的知見を活用して、巧妙化・複雑化するサイバー攻撃に対し、実践的な対処能力を持つセキュリティ人材を育成するため、平成29年4月に同機構に組織した「ナショナルサイバートレーニングセンター」において国の行政機関、地方公共団体等を対象とした実践的サイバー防御演習(CYDER(※42))を実施しているほか、東京2020大会に向けた実践的サイバー演習であるサイバーコロッセオや、若手セキュリティイノベーターの育成であるSecHack365に取り組んでいる。
 経済産業省は、IoTやAIによって実現される「Society 5.0」におけるサプライチェーン全体のサイバーセキュリティ確保を目的として、産業に求められる対策の全体像を整理した「サイバー・フィジカル・セキュリティ対策フレームワーク(CPSF(※43))」を平成31年4月に策定し、CPSFに基づく産業分野別のガイドラインの作成等を進めている。平成30年11月には、サイバー空間とフィジカル空間が融合する中で、高度化・複雑化する脅威に対する研究開発を推進するため、産業技術総合研究所が「サイバーフィジカルセキュリティ研究センター」を設立した。また、平成29年4月に情報処理推進機構に設立された「産業サイバーセキュリティセンター」では、情報システムに加え、重要インフラ事業者等における制御系システムのサイバーセキュリティ対策の中核を担う人材の育成等の取組を推進している。

■第2-3-13表/サイバーセキュリティ確保のための主な施策(令和元年度)

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4 国家安全保障上の諸課題への対応

 「国家安全保障戦略」(平成25年12月17日国家安全保障会議・閣議決定)において、「我が国の高い技術力は、経済力や防衛力の基盤であることはもとより、国際社会が我が国に強く求める価値ある資源でもある。このため、デュアル・ユース技術を含め、一層の技術の振興を促し、我が国の技術力強化を図る必要がある」と掲げられている。
 第5期基本計画では、「科学技術には多義性があり、ある目的のために研究開発した成果が他の目的にも活用できる」といった性質を有していることや「我が国の安全保障を巡る環境が一層厳しさを増している中で、国及び国民の安全・安心を確保するためには、我が国の様々な高い技術力の活用が重要である」ことを指摘している。国家安全保障戦略や第5期基本計画に基づき、国家安全保障上の諸課題に対し、関係府省や産学官の連携の下、必要な技術の研究開発を推進することが求められている。
 防衛省は、防衛分野での将来における研究開発に資することを期待し、先進的な民生技術についての研究を、公募・委託する安全保障技術研究推進制度(第2-3-14図)を平成27年度から実施している。

■第2-3-14図/進展の速い民生先端技術の短期実用化に係る取組の概要

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 また、防衛省は、ICT等の技術革新のサイクルが速く、進展の速い民生先端技術を技術者と運用者が一体となり速やかに取り込むことで、3~5年程度の短期間での実用化を図る取組(第2-3-15図)を平成29年度より実施している。

■第2-3-15図/進展の速い民生先端技術の短期実用化に係る取組の概要

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 科学警察研究所においては、都市部における放射線テロを想定した被害予測シミュレータの開発を実施している。令和元年度には疑似線源とスマートフォンを活用した仮想放射線測定システムを改良し、核セキュリティ事案を想定した初動対処訓練や医療分野における放射線教育等に活用されている。
 また、国際テロで用いられた手製爆薬及びその使用方法について実証試験を行い、威力・感度の評価を実施するとともに、市販原料を用いて製造される手製爆薬について、爆発物原料管理者対策に資する研究を実施している。

 防衛省は、CBRN(※44)による汚染環境等の過酷な災害への対応を念頭に置いた研究を実施している。例えば、複数の無人車両が取得した情報を統合し、3Dエリア地図等を迅速に作成することにより、無人車両オペレータの作業を容易にする研究や、CBRNによる汚染について、市街地のビル等を含む詳細な地形を考慮した拡散予測や複数のセンサからの情報を基に汚染発生源エリア推定を行うための脅威評価システムに関する研究を実施している。

■第2-3-16表/国家安全保障上の諸課題への対応のための主な施策(令和元年度)

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コラム2-5 衛星搭載型2波長赤外線センサに関する研究

 防衛装備庁では、平成27年度から衛星搭載型2波長赤外線センサに関する研究を開始した。本センサは文部科学省・国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発している先進光学衛星(ALOS-3)に相乗り搭載し、令和2年度にH3ロケットにより打ち上げられ宇宙空間での実証研究を行う計画である。赤外線センサは、絶対零度以上の物体から放射及び反射する赤外線を検知できるため、宇宙空間からは雲や地表の様々な物体からの放射や主に太陽光反射による画像データを収集可能である。
 衛星搭載型2波長赤外線センサは、防衛装備庁が開発した冷却型の量子ドット赤外線検知素子であるQDIP(Quantum Dot Infrared Photodetector)をベースとし、衛星に搭載するものである。多画素の中赤外、遠赤外の2波長化を実現しており、二つの赤外線波長帯での物体の放射率、反射率の違いを利用することによる識別能力の向上が期待される。各画素は受光面に対して垂直方向に、異なる波長の検知層を2段階に積層した構造となっており、2波長の赤外線を一つの検知素子で取得することができる。また、衛星搭載型2波長赤外線センサには、2波長QDIP光学センサに加え、宇宙用として実績のあるMCT(Mercury Cadmium Telluride、水銀カドミウムテルル合金)光学センサを比較のために搭載することで、初の宇宙実証である2波長QDIP光学センサの動作特性を確認し、宇宙空間からの赤外線データの収集についての技術的知見を蓄積する。画像処理においても、中赤外画像及び遠赤外画像との融合処理を行うことも含め、一見目標の存在を探知・認識しにくい画像であっても、多くの熱源の中から特有の目標を抽出可能となることなどが期待される。

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第3節 地球規模課題への対応と世界の発展への貢献

 気候変動問題への対応は、世界にとっても、我が国にとっても喫緊の課題である。2016年(平成28年)11月に発効したパリ協定や「気候変動適応法」(平成30年6月13日法律第50号)等により、我が国においても温室効果ガス排出量の大幅な削減による気候変動の緩和及び適応に向けての取組の強化が必要となっている。

1 地球規模の気候変動への対応

(1) 地球環境の観測技術の開発と継続的観測
ア 地球観測等の推進
 地球温暖化の状況等を把握するため、世界中の国や関係機関により、人工衛星による宇宙からの観測、地上や海洋からの観測等による様々な地球観測が実施されている。気候変動問題の解決に向けた全世界的な取組を一層効果的なものとするためには、国際的な連携により、それらの観測情報を結び付け、さらに統合解析を行うことで各国における政策決定等の基礎としてより有益な科学的知見を創り出すとともに、その観測データ及び科学的知見への各国・機関へのアクセスを容易にするシステムが重要である。「全球地球観測システム(GEOSS(※45))」は、このような複数のシステムから構成される国際的なシステムであり、その構築を推進する国際的な枠組みとして、地球観測に関する政府間会合(GEO(※46))が設立され、2020年(令和2年)2月時点で245の国及び国際機関等が参加している。我が国はGEOの執行委員国の一つとして主導的な役割を果たしている。

イ 人工衛星等による観測
 宇宙航空研究開発機構は、気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C(※47))、水循環変動観測衛星「しずく」(GCOM-W(※48))、陸域観測技術衛星2号「だいち2号」(ALOS-2)等の運用及び先進光学衛星(ALOS-3)や先進レーダ衛星(ALOS-4)等の研究開発などを行い、人工衛星を活用した地球観測の推進に取り組んでいる(第3章第4節参照)。
 環境省は、気候変動とその影響の解明に役立てるため、関係府省庁及び国内外の関係機関と連携して、温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT(※49))や「いぶき2号」(GOSAT-2)による全球のCO2及びメタン等の観測技術の開発及び観測に加え、航空機・船舶・地上からの観測を継続的に実施している。GOSATは、気候変動対策の一層の推進に貢献することを目指して、CO2及びメタンの全球の濃度分布、月別及び地域別の排出・吸収量の推定を実現するとともに、平成21年の観測開始からCO2及びメタンの濃度がそれぞれ季節変動を経ながら年々上昇し続けている傾向を明らかにするなどの成果を上げている。また、人間活動により発生した温室効果ガスの排出源と排出量を特定できる可能性を示した。GOSAT-2はGOSATの観測対象であるCO2やメタンの観測精度を高めるとともに、新たに一酸化炭素を観測対象として追加した。CO2は、工業活動や燃料消費等の人間活動だけでなく、森林や生物の活動によっても排出されている。一方、一酸化炭素は、人間の活動から排出されるものの、森林や生物活動からは排出されない。CO2と一酸化炭素を組み合わせて観測して解析することにより、「人為起源」のCO2の排出量の推定を目指している。後継機GOSAT-2は、平成30年10月に打ち上げられ、GOSATのミッションである全球の温室効果ガス濃度の観測を継承するほか、人為起源排出源の特定と排出量推計精度を向上するための新たな機能により、各国のパリ協定に基づく排出量報告の透明性向上への貢献を目指している。なお、水循環観測と温室効果ガス観測のミッションの継続と観測能力の更なる強化を目指してGCOM-WとGOSAT-2の各々の後継センサを相乗り搭載する「温室効果ガス・水循環観測技術衛星」(GOSAT-GW(※50))の開発に着手した。搭載する次期温室効果ガス観測センサについては、GOSAT、GOSAT-2ミッションの発展的な継続と、排出源の監視能力を更に強化することを目指す。

ウ 地上・海洋観測等
 近年、北極域の海氷の減少、世界的な海水温の上昇や海洋酸性化の進行、プラスチックごみによる海洋の汚染など、海洋環境が急速に変化している。海洋環境の変化を理解し、海洋や海洋資源の保全・持続可能な利用、地球環境変動の解明を実現するため、海洋研究開発機構は、漂流フロート、係留ブイや船舶による観測等を組み合わせ、統合的な海洋の観測網の構築を推進している。
 文部科学省と気象庁は、世界の海洋内部の詳細な変化を把握し、気候変動予測の精度向上につなげる高度海洋監視システム(アルゴ計画(※51))に参画している。アルゴ計画は、アルゴフロートを全世界の海洋に展開することによって、常時全海洋を観測するシステムを構築するものである。
 文部科学省は、地球環境変動を顕著に捉えることが可能な南極地域及び北極域における研究諸分野の調査・観測等を推進している。「南極地域観測事業」では、南極地域観測第Ⅸ期6か年計画(平成28年度~令和3年度)に基づき、南極地域における調査・観測等を実施している。
 北極域は、様々なメカニズムにより温暖化が最も顕著に進行している場所として知られている。一方で、夏季海氷融解により、我が国を含め様々な利用可能性が期待されている。これら全球的な気候変動への対応や北極域の持続的利用への貢献の両面において、基盤となる科学的知見の充実は不可欠である。
 このため、「北極域研究推進プロジェクト(ArCS(※52))」により、北極域における環境変動と地球全体に及ぼす影響を包括的に把握し、せいな予測を行うとともに、社会・経済的影響を明らかにし、適切な判断や課題解決のための情報をステークホルダー(利害関係者)に伝えることを目指し、国際共同研究等の取組を実施している。
 また、令和元年度(2019年度)は北極海及び周辺海域において海洋環境・海洋生態系の変化を明らかにするため、北極域の国際共同観測プロジェクトMOSAiC(※53)と連動し、海氷の張り出す時期が従来より遅くなりつつある10月に、海洋地球研究船「みらい」による観測航海を実施している。
 さらに、令和元年度は、観測空白域となっている海氷域の観測が可能な観測・研究プラットフォームである北極域研究船に関して、海氷下でも自律航行や観測が可能な自律型無人探査機(AUV(※54))等の要素技術開発を実施するとともに氷海航行支援システムの構築を行った。
 気象庁は、大気や海洋の温室効果ガス、エアロゾルや地上放射、オゾン層・紫外線の観測や解析を実施しているほか、船舶、アルゴフロートや衛星等による様々な観測データを収集・分析し、地球環境に関連した情報の提供を行っている。また、温室効果ガスの状況を把握するため、国内の3観測地点及び南極昭和基地において大気中の温室効果ガスの観測を行っているほか、海洋気象観測船による北西太平洋の洋上大気や海水中の温室効果ガスの観測及び航空機による上空の温室効果ガスの観測を行っている。これらを含めた地球温暖化に関する観測データは解析結果と共に公開している。さらに、国内の3観測地点及び南極昭和基地でオゾン層・紫外線の観測を行っている。

(2) スーパーコンピュータ等を活用した気候変動の予測技術等の高度化
 文部科学省は、「統合的気候モデル高度化研究プログラム」において、地球シミュレータ等のスーパーコンピュータを活用し、気候モデル等の開発を通じて気候変動の予測技術等を高度化することによって、気候変動によって生じる多様なリスクの管理に必要となる基盤的情報を創出するための研究開発を実施している。また、気候変動に関する科学的知見をまとめた「気候変動に関する政府間パネル(IPCC(※55))」の第5次評価報告書において、これまで文部科学省の事業で開発した気候モデルが世界で最も多く活用されるなど、国際的な貢献も果たしている。
 気象庁気象研究所は、エアロゾルが雲に与える効果、オゾンの変化や炭素循環なども表現できる温暖化予測地球システムモデルを構築し、気候変動に関する10年程度の近未来予測及びIPCCの排出シナリオに基づく長期予測を行っている。また、我が国特有の局地的な現象を表現できる分解能を持ったせいな雲解像地域気候モデルを開発して、空間的にきめ細かな領域温暖化予測を行っている。
 海洋研究開発機構は、大型計算機システムを駆使した最先端の予測モデルやシミュレーション技術の開発により、地球規模の環境変動が我が国に及ぼす影響を把握するとともに、気候変動問題の解決に海洋分野から貢献している。

(3) 観測・予測データを統合した情報基盤の構築等
 文部科学省は、「地球環境情報プラットフォーム構築推進プログラム」において、地球環境ビッグデータ(観測情報・予測情報等)を蓄積・統合解析し、気候変動等の地球規模課題の解決に資する情報基盤として、「データ統合・解析システム(DIAS(※56))」を開発し、これまでに国内外の研究開発を支えつつ、道路や街区等の浸水状況をリアルタイムで予測するシステム等の成果を創出してきた。また、研究者や企業等国内外の多くのユーザーに長期的・安定的に利用されるための運営体制を構築するとともに、エネルギー、気象・気候、防災や農業等の社会的課題の解決に資する共通基盤技術の開発を推進している。
 情報通信研究機構は、国際学術会議(ISC(※57))が推進する「世界データシステム(WDS(※58))」計画に基づく世界最大規模の科学データプラットフォームの構築計画において、国際プログラムオフィスのホスト機関に選定されており、日本学術会議、国内外関連研究機関等と連携体制を構築し、地球観測データの解析等を可能とする世界規模の科学データプラットフォーム実現に資する論文及び論文で引用されるデータ間の参照関係分析技術等の研究開発を進めている。
 また、宇宙航空研究開発機構と共同で開発した超伝導サブミリ波リム放射サウンダ(SMILES(※59))によるデータ解析、成層圏等の観測データ提供を行っている。さらに、地球圏宇宙空間の電磁環境及び電波利用に関する研究開発を実施しており、宇宙・地球環境観測データの収集・管理・解析・配信を統合的に行ったほか、観測・センシング技術及び数値計算技術を高度化し、大規模データを処理するための宇宙環境インフォマティクス技術(※60)の開発を進めている。
 気象庁は、船舶、アルゴフロート、衛星等による様々な観測データを収集・分析し、地球環境に関連した海洋変動の現状と今後の見通し等を「海洋の健康診断表」として取りまとめ、情報発信を行っている。

(4) 二酸化炭素等の排出削減に向けた取組
 経済産業省は、CO2を資源として捉え、燃料や素材として再利用するとともに、大気中へのCO2排出を抑制するカーボンリサイクルの技術開発を推進するため、「カーボンリサイクル技術ロードマップ」を令和元年6月に策定し、ロードマップに沿って技術開発を進めている。
 また、CO2回収・貯留(CCS(※61))技術の実用化を目指し、CO2大規模発生源から分離・回収したCO2を地中(地下1,000m以深)に貯留する一連のトータルシステムの実証及びコストの大幅低減や安全性向上に向けた技術開発を進めている。鉄鋼製造においては、一層の低炭素化を図るため、還元材の一部をコークスから水素に代替する技術や高炉ガスのCO2を分離回収する技術など、製鉄プロセスにおける革新的なCO2排出削減技術を開発している。
 環境省は、石炭火力発電所の排ガスから二酸化炭素の大半を分離・回収する場合のコスト、発電効率の低下、環境影響等の評価に向けた日本初となる実用規模のCO2分離・回収設備の設計・建設や、我が国に適したCCSの円滑な導入手法の取りまとめ等を行っている。また、国内におけるCO2の貯留可能な地点の選定を目的として、経済産業省と環境省は共同で弾性波探査等の地質調査を実施している。さらに、平成30年度からはCO2回収・有効利用(CCU(※62))の実証事業を行っており、人工光合成やメタネーション(※63)等といった取組及びこれらのライフサイクルを通じたCO2削減効果の検証・評価を行っている。
 国土交通省は、国際海事機関(IMO(※64))において策定された、国際海運から2050年までに温室効果ガス(GHG(※65))排出量を半減させ、最終的には今世紀中のGHG排出ゼロを目指す中長期目標の達成に向け、革新的省エネ・脱炭素技術の開発・普及の方向性や課題を取りまとめたロードマップを産官学公の連携により策定したほか、老朽船の代替等を促進する新たな国際枠組みを我が国からIMOに提案し、早期合意に向けた取組を推進している。また、環境省と連携し、平成30年度(2018年度)より、実運航時におけるCO2排出削減の最大化を図るためのLNG燃料船のモデル実証事業を行っている。
 海上・港湾・航空技術研究所は、船舶からのCO2排出量の大幅削減に向け、ゼロエミッションを目指した環境インパクトの大幅な低減と社会合理性を兼ね備えた環境規制の実現に資する基盤的技術に関する研究を行っている。
 また、国内外に広く適用可能なブルーカーボンの計測手法を確立することを目的に、大気と海水間のガス交換速度や海水と底生系(底生動植物、堆積物)間の炭素フロー等を定量的に計測するための沿岸域における現地調査や実験を含む研究を推進している。
 国土技術政策総合研究所は、温室効果ガス排出を抑制しエネルギー・資源を回収する下水処理技術、住宅・建築物における快適な室内環境の担保と高い省エネルギー性能を両立するための技術開発、緑地等による都市環境改善効果に関する研究を行っている。

(5) 気候変動への対応技術の開発と経済・社会活動への波及
 「統合イノベーション戦略2019」(令和元年6月21日閣議決定)では、特に取組を強化すべき主要分野の一つとして環境エネルギーが取り上げられ、パリ目標「2目標」の達成及び「1.5」への貢献、並びに今世紀後半のできるだけ早期に「脱炭素社会」を実装することとを目指し、関係府省庁や産学官が連携して、研究開発から社会実装まで一貫した取組の具体化を図ることとした。
 文部科学省は、「気候変動適応技術社会実装プログラム」において、地方公共団体等における適応策の立案・推進を支援するため、防災、農業や暑熱対策等の実際のニーズを踏まえた汎用的に活用可能な近未来の超高解像度気候変動予測情報等を開発し、DIASに加えて環境省等の関係省庁と連携して取り組む「地域適応コンソーシアム」を通じて、研究開発成果を地方公共団体等に提供している。また、気候変動を含む地球環境研究の世界規模のイニシアティブであるフューチャー・アース構想など、国内外のステークホルダーとの協働による研究を推進している。
 農林水産省は、農林水産分野における温暖化適応技術として、令和元年度に森林・林業、水産業分野における気候変動適応技術及び野生鳥獣被害対応技術の開発に取り組むとともに、気候変動がスギ人工林に及ぼす影響評価のための人工林生産能力予測技術の開発を推進した。また、温暖化の進行に適応する農作物の品種・育種素材及び生産安定技術並びに病害虫や侵略的外来種の管理技術の開発に取り組んでいるほか、畜産分野における温室効果ガス排出削減技術の開発を推進している。このほか、国際連携を通じて農業分野における温室効果ガス削減技術や気候変動適応技術の開発を推進している。
 環境省は、環境研究総合推進費における戦略的研究課題の一つとして、効果的かつ効率的に緩和・適応策に取り組むための定量的基礎資料を整備し、気候変動対策の適切な計画立案に貢献する「気候変動の緩和策と適応策の統合的戦略研究(S-14)」を実施している。これらの戦略的研究をはじめとして、気候変動及びその影響の観測・監視並びに予測・評価及びその対策に関する研究を環境研究総合推進費等により総合的に推進している。
 また、気候変動への適応については、気候変動適応法及び平成30年11月に閣議決定された「気候変動適応計画」に基づき適応策の一層の充実を図っているところである。この適応法及び適応計画に基づき、国立環境研究所は平成28年に構築した「気候変動適応情報プラットフォーム」において、関係府省庁及び関係研究機関と連携して適応に関する最新の情報を提供するとともに、平成30年12月に「気候変動適応センター」を設立し、気候変動の影響や適応に関する研究や科学的な面から地方公共団体等の適応の取組のサポートを行っている。また、地域の関係者が一体となって適応策を推進するため、適応に関する取組について情報交換・共有等を行う気候変動適応広域協議会を全国7ブロックで開催している。
 気象庁気象研究所は、局地的大雨をもたらす極端気象現象を、二重偏波レーダやフェーズドアレイレーダー、GPS等を用いてリアルタイムで検知する観測・監視技術の開発に取り組んでいる。また、局地的大雨を再現可能な高解像度の数値予報モデルの開発など、局地的な現象による被害軽減に寄与する気象情報の精度向上を目的とし研究を推進している。

■第2-3-17表/地球規模の気候変動への対応のための主な施策(令和元年度)

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コラム2-6 我が国初のGSSPと地質時代名「チバニアン」の承認

 2020年(令和2年)1月17日、国際地質科学連合(IUGS(※66))において、千葉県市原市の養老川河岸に露出する地層断面「千葉セクション」の国際境界模式層断面とポイント(GSSP(※67))としての提案が承認された。これにより、中期更新世(77.4万年前~12.9万年前)の地質時代の名称が、「千葉時代」を意味する「チバニアン」と命名され、初めて我が国の地名が地球の歴史に刻まれることになった。
 現在、地球の歴史は116の地質時代境界によって区切られ、それぞれの境界は、その境界が世界で最もよく分かる地層によって定義される。この地層の断面をGSSPと呼び、これまで73か所のGSSPが定められてきた。
 前期-中期更新世境界GSSPの審査作業は、第1段階のワーキンググループにおいて2017年(平成29年)6月から始まった。そこでは「千葉セクション」のほかに南部イタリアの2か所が候補地となっていたが、「千葉セクション」が磁場逆転を最も分かりやすく示していたことなどから、同年11月の投票により委員の7割以上の支持を得て選出され、その後の審査においても支持を得て、今般のIUGSにおける最終的な承認に至った。
 GSSPの大多数は欧米諸国や中国にある。特に、6,600万年前以降から現在に至る新生代のGSSPは、これまで全て地中海周辺地域にあるため、更新世におけるGSSPもイタリアなど地中海周辺地域が有力と思われていた。こうした中、「千葉セクション」がGSSPに承認されたことは、学術的に大きな意義を持つとともに、今後、地質学分野において日本がプレゼンスを発揮する大きなチャンスといえる。

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2 生物多様性への対応

 「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学‐政策プラットフォーム(IPBES(※68))」は、生物多様性及び生態系サービスに関する科学と政策の連携強化を目的として、評価報告書等の作成を行っている。平成31年(2019年)2月には、侵略的外来種に関する評価のための技術支援機関が公益財団法人地球環境戦略研究機関に設置され、その活動を支援した4月下旬から5月上旬に開催されたIPBES総会第7回会合では、地球規模の生物多様性及び生態系サービスを評価した報告書が受理され、政策決定者向け要約が承認・公表された。この会合の結果報告会及び作成中の評価報告書等に我が国の知見を効果的に反映させるため、IPBESに関わる国内専門家及び関係省庁による国内連絡会を5月に開催した。さらに、IPBES地球規模評価報告書を踏まえて次期生物多様性世界目標を考えるためのシンポジウム「自然共生社会の実現に向けた社会変革」を12月に開催した。このほか、環境省は、IPBESによる評価作業への知見提供等により国際的な科学と政策の結び付き強化に貢献することを目的とした研究である「社会・生態システムの統合化による自然資本・生態系サービスの予測評価」を、環境研究総合推進費により引き続き実施した 。
 我が国は、生物多様性に関するデータを収集して全世界的に利用されることを目的とする地球規模生物多様性情報機構(GBIF(※69))に参加して活動を支援するとともに、GBIFノード(データ提供拠点)である国立科学博物館及び国立遺伝学研究所と連携しながら、生物多様性情報をGBIFに提供した。GBIFで蓄積されたデータは、IPBESでの評価の際の重要な基盤データとなることが期待されている。
 農林水産省は、民間企業等における海外の有用な植物遺伝資源を用いた新品種開発を支援するため、特にアジア地域の各国との2国間共同研究を推進し、海外植物遺伝資源の調査・収集及びその評価を行っている。また、農業・食品産業技術総合研究機構は、農業生物資源ジーンバンク事業として、農業に係る生物遺伝資源の収集・保存・評価・提供を行うとともに、DNAをはじめとするイネ等のゲノムリソースの保存・提供を行っている。
 製品評価技術基盤機構は、生物遺伝資源の収集・保存・分譲を行うとともに、これらの資源に関する情報(系統的位置付け、遺伝子に関する情報等)を整備・拡充し、幅広く提供している。また、微生物資源の保存と持続可能な利用を目指した15か国・地域27機関のネットワーク活動に参加し、各国との協力関係を構築するなど、生物多様性条約を踏まえたアジア諸国における生物遺伝資源の利用を積極的に支援している。さらに、遺伝子組換え植物により、ワクチンや機能性食品等の高付加価値な有用物質を高効率に生産するための基盤技術の開発研究を推進している。これにより、植物の機能を活用した安全で生産効率の高い物質生産技術の迅速な実用化を推進している。
 近年、地球温暖化、海洋環境劣化や乱獲等による海洋生物への様々な影響が顕在化してきており、海洋生態系の保全が重要な課題となっている。このため、文部科学省は、「海洋資源利用促進技術開発プログラム」のうち「海洋生物資源確保技術高度化」において、海洋生態系を総合的に解明する研究開発を行っている。また、津波により被害を受けた東北地方太平洋沖の海洋生態系を回復させるための調査研究を実施している。

コラム2-7 深海の泥から真核生物誕生の鍵を握る微生物「アーキア」の培養に成功

 深海の泥、すなわち海底堆積物には多種多様な微生物が生息しており、その多くはこれまで培養がされたことのない未知微生物である。これら未知微生物の理解は、地球における物質循環の理解の促進や有用な生物資源の獲得等につながることが期待されるため、海洋研究開発機構では長年にわたって海底下微生物の研究が行われてきた。その研究成果の1つとして、有人潜水調査船「しんかい6500」によって採取された海底堆積物から、真核生物の誕生の鍵を握るとされているアーキアの培養に世界で初めて成功した。
 地球の生物は、細胞内に核を持たない単細胞微生物であるアーキア(古細菌)とバクテリア(真正細菌)、核を含む複雑な細胞構造を持つ真核生物の三つに大別される。私たち人間を含む動物や植物は真核生物であるが、真核生物の祖先は、あるアーキアがミトコンドリアの祖先となるバクテリアをその細胞内部に取り込み、共生させることで誕生したとされている。最近の研究から、アスガルドと呼ばれるアーキアの一群が真核生物の祖先に最も近いと予測されたが、その存在は環境ゲノム情報でしか確認されていないため、そのアーキアの形や大きさ、生き方などは完全に謎に包まれていた。そのため、このアーキアの培養が世界的に大きく期待されていた。
 そこで、海洋研究開発機構と産業技術総合研究所をはじめとする研究チームは、微生物を使って下水を処理するリアクター装置を培養器として用いるアイデアを思い付き、深海のメタン冷湧水帯の環境条件に似せた培養を行うことによって、深海の泥からアスガルドに属するアーキアを培養することに成功した。MK-D1株と名付けたこのアーキアの詳しい性状を調べたところ、その細胞はわずか直径が550 nm(1mmの約2,000分の1)の球状で、他のアーキアには見られない触手のような細長い突起を出すことが分かった。また、他の微生物との共生をしないと増殖できないことや、その増殖速度が大腸菌の1,000分の1程度と極度に遅いことも明らかとなった。詳しいDNA解析を行った結果、アクチンやユビキチンなどこれまで真核生物しか持っていないとされてきた遺伝子を数多く持つことも分かった。さらに、本研究では、MK-D1株の特徴とこれまでの真核生物の起源に関連する研究結果に基づいて、真核生物の誕生についての新しい進化説「E3」モデルを提案した。
 本成果は令和2年(2020年)1月に英国の科学誌「Nature」に掲載され、その面白い細胞形態の写真が同誌の表紙を飾った。また、本成果は米国の科学誌「Science」が選ぶ2019年における最も革新的であった科学ニュース10件である「ブレークスルー・オブ・ザ・イヤー」の1つとして選出された。
 今後はMK-D1株の更なる調査や、他のアーキアや原始的な単細胞の真核生物の培養やその性質の解明が進むことによって、アーキアから真核生物に進化した道筋がより明らかになっていくものと期待される。

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第4節 国家戦略上重要なフロンティアの開拓

 海洋や宇宙の開発・利用・管理を支える一連の科学技術は、産業競争力の強化や経済・社会的課題への対応のみならず、我が国の存立基盤を確固たるものとするものである。また、国際社会における評価と尊敬を得るとともに、国民の科学への啓発をもたらす意味でも重要であり、長期的視野に立って強化していく必要がある。

1 海洋分野の研究開発の推進

 四方を海に囲まれた我が国は、「海洋立国」にふさわしい科学技術とイノベーションの成果を上げる必要がある。そのため、氷海域、深海部、海底下を含む海洋の調査・観測技術、生物を含む資源、運輸、観光等の海洋の持続可能な開発・利用等に資する技術、海洋の安全確保と環境保全に資する技術、これらを支える科学的知見・基盤的技術の研究開発に着実に取り組むことが重要である。
 内閣府は、総合海洋政策本部と連携し、第3期海洋基本計画(平成30年5月15日閣議決定)と整合を図りつつ、海洋に関する技術開発課題等の解決に向けた取組を推進している。
 文部科学省は、第3期海洋基本計画の策定等を踏まえ、科学技術・学術審議会海洋開発分科会において平成28年に策定された「海洋科学技術に係る研究開発計画」を平成31年1月に改訂し、未来の産業創造に向けたイノベーション創出に資する海洋科学技術分野の研究開発を推進している。
 海洋研究開発機構は、船舶や探査機、観測機器等を用いて深海底・氷海域等のアクセス困難な場所を含めた海洋における調査・研究を行い、得られたデータを用いたシミュレーションやデータのアーカイブ・発信を行っている。また、これらの技術を活用し、いまだ十分に解明されていない領域の実態を解明するための基礎研究を推進している。

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(1) 海洋の調査・観測技術
 海洋研究開発機構は、海底下に広がる微生物生命圏や海溝型地震及び津波の発生メカニズム、海底資源の成因や存在の可能性等を解明するため、地球深部探査船「ちきゅう」の掘削技術やDONETを用いたリアルタイム観測技術等の開発を進めるとともに、それらの技術を活用した調査・研究・技術開発を実施している。また、大きな災害をもたらす巨大地震や津波等、深海底から生じる諸現象の実態を理解するため、研究船や有人潜水調査船「しんかい6500」、無人探査機等を用いた地殻構造探査等により、日本列島周辺海域から太平洋全域を対象に調査研究を行っている。

(2) 海洋の持続的な開発・利用等に資する技術
 文部科学省は、大学等が有する高度な技術や知見を幅広く活用し、海洋生態系や海洋環境等の海洋情報をより効率的かつ高精度に把握する観測・計測技術の研究開発を「海洋資源利用促進技術開発プログラム」のうち「海洋情報把握技術開発」において実施している。
 海洋研究開発機構は、我が国の海洋の産業利用の促進に貢献するため、生物・非生物の両面から海洋における物質循環と有用資源の成因の理解を進め、得られた科学的知見、データ、技術及びサンプルを関連産業に展開している(第3章第1節1(2)参照)。

(3) 海洋の安全確保と環境保全に資する技術
 近年、地球温暖化、海洋環境劣化や乱獲等による海洋生物への様々な影響が顕在化してきており、海洋生態系の保全や海洋生物資源の持続可能な利用の実現が重要な課題となっている。このため、文部科学省は、「海洋資源利用促進技術開発プログラム」のうち「海洋生物資源確保技術高度化」において、海洋生物の生理機能を解明し、革新的な生産につなげる研究開発や生態系を総合的に解明する研究開発を行っている(第3章第3節2参照)。
 海上・港湾・航空技術研究所は、海洋資源・エネルギー開発に係る基盤的技術の基礎となる海洋構造物の安全性評価手法及び環境負荷軽減手法の開発・高度化に関する研究を行っている。
 海上保安庁は、海上交通の安全確保及び運航効率の向上のため、船舶の動静情報等を収集するとともに、これらのビッグデータを解析することにより海上における船舶交通流を予測し、船舶にフィードバックするシステムの開発を行っている。

コラム2-8 高速水中音響通信装置の開発 ~距離6,500mで79kbpsを達成~

 陸上通信は電磁波を用いて行われることが多いが、海中において電磁波は減衰しやすいため、海中通信は一般的に音波を用いて行われる。海洋研究開発機構では、水平方向でのMIMO(Multi-Input and Multi-Output:多入力多出力)通信に関する基礎研究や、複数の無人探査機を同時に制御するためのマルチユーザ通信装置の開発などを進めている。
 海洋研究開発機構では、こうした基礎研究や開発の成果を基に、平成29年に垂直方向の高速水中音響通信装置を独自に開発した。海中の音響通信では、高周波域の音波は吸収されてしまうため、距離と通信速度はおおよそ反比例の関係となり、従来装置の性能は40kbps·km程度であるが、海洋研究開発機構が開発した通信装置では、6.5km x 79.1kbps = 512kbps·km以上の値を達成しており、既存の通信装置を圧倒する世界最高速を実現した。本装置は、有人潜水調査船「しんかい6500」に搭載され、カメラの画像(静止画)を母船へ転送するための装置として既に実運用されている。これにより、母船上の研究者、オペレータも、潜水調査船が観測している対象やその運航状況をリアルタイムで把握することが可能となった。また、米国ウッズホール海洋研究所の潜水船「アルビン」においても同様に画像伝送の実験に成功し、今後の世界展開が期待される。このような高速通信が達成されたことは、将来的には水中Wi-Fiの構築、探査機等をインターネットへ接続する「IoT」実現の可能性を示しており、海洋分野における研究開発への貢献だけでなく、海底資源開発や港湾土木作業、ダイビング等のレジャー活動を含めた水中活動全般に広く活用できるものとして期待される。

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2 宇宙分野の研究開発の推進

 気象衛星、通信・測位・放送衛星などの宇宙関係技術は、天気予報やカーナビ、金融取引など様々な分野で国民の日々の生活と密接な関係を持ち、また、人類の知的資産を拡大し、国民に夢と希望を与える重要なものである。我が国の宇宙開発利用は、「宇宙基本法」(平成20年法律第43号)や「宇宙基本計画」(平成28年4月1日閣議決定)によって国家戦略として総合的かつ計画的に推進されている(第2-3-18表)。

■第2-3-18表/宇宙基本計画工程表(令和元年度改訂)の概要

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(1) 宇宙輸送システム

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 宇宙輸送システムは、人工衛星等の打上げを担う宇宙開発利用の重要な柱であり、希望する時期や軌道に人工衛星を打ち上げる能力は自立性確保の観点から不可欠な技術基盤といえる。我が国は、自立的に宇宙活動を行う能力を維持・発展させるとともに、国際競争力を確保するため、令和2年度の初号機打上げに向け、平成26年度からH3ロケットの開発に着手し、各種燃焼試験等を実施している。また、イプシロンロケットについて、低コスト化のためのH3ロケットとのシナジー開発を平成29年度から実施している。
 さらに、我が国の基幹ロケットである、H-ⅡAロケット、H-ⅡBロケット及びイプシロンロケットにより、平成31年1月に革新的衛星技術実証1号機、令和元年9月に宇宙ステーション補給機「こうのとり」8号機、令和2年2月に情報収集衛星光学7号機の打上げに成功した。

(2)   衛星測位システム
 内閣府は、準天頂衛星システム「みちびき」について、平成30年11月1日に4機体制による高精度測位サービスを開始するとともに、2023年度(令和5年度)を目途に確立する7機体制と機能・性能向上に向け、5号機、6号機及び7号機の開発を進めている。また、「みちびき」の利用拡大に向けて関係府省が連携し、自動車や農業機械の自動走行、物流や防災分野など様々な実証実験を進めている。

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(3) 衛星通信・放送システム
 2020年代に国際競争力を持つ次世代静止通信衛星を実現する観点から、総務省と文部科学省が連携し、電気推進技術や大電力発電、フレキシブルペイロード技術等の技術実証のため、令和4年度の打上げを目指して、平成28年度から技術試験衛星9号機の開発を行っている。

(4) 衛星地球観測システム
 環境省は、「いぶき」(GOSAT)を平成20年度に、「いぶき2号」(GOSAT-2)を平成30年度にそれぞれ打ち上げ、全球の温室効果ガス濃度を長期的に観測することによって気候変動対策を推進している。
 宇宙航空研究開発機構は、地球規模での水循環・気候変動メカニズムの解明を目的に平成24年5月に打ち上げた「しずく」及び平成29年12月に打ち上げた「しきさい」の運用を行っている。「しずく」は平成26年2月に米国航空宇宙局(NASA(※70))との国際協力プロジェクトとして打ち上げた全球降水観測計画(GPM(※71))主衛星のデータとともに気象庁において利用され、降水予測精度向上に貢献するなど、気象予報や漁場把握等の幅広い分野で活用され、「しきさい」は、海外の大規模な森林火災の把握にも活用されている。

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 また、平成26年5月に打ち上げられた「だいち2号」は、様々な災害の監視や被災状況の把握、森林や極域の氷の観測等を通じ、防災・災害対策や地球温暖化対策などの地球規模課題の解決に貢献している。現在、広域かつ高分解能な撮像が可能な先進光学衛星(ALOS-3)や先進レーダ衛星(ALOS-4)及びこれらの衛星間の光通信を実証する光データ中継衛星の開発等にも取り組んでいる。
 そのほか、総務省では、このような防災・減災等に貢献する衛星からの地球観測で活用が期待される技術として、水蒸気や酸素濃度をより正確に把握可能なテラヘルツ帯の電波によるセンシングシステムについて、その実現に向けた基盤技術の研究開発に取り組んでいる。
 なお、我が国の人工衛星の安定的な運用に向けて、文部科学省及び宇宙航空研究開発機構は、平成14年度から宇宙状況把握システム(SSA(※72)システム)を構築・運用し、地上からスペースデブリ(宇宙ゴミ)等の把握を行ってきており、今後、令和5年度を目指して、防衛省を始め政府機関一体となった新たなSSAシステムの構築を進めている。

(5) 宇宙科学・探査

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 宇宙科学の分野においては、宇宙航空研究開発機構が中心となり、世界初のX線の撮像と分光を同時に行う人工衛星の開発・運用や、小惑星探査機「はやぶさ」による小惑星「イトカワ」からの試料回収など、X線・赤外線天文観測や月・惑星探査などの分野で世界トップレベルの業績を上げている。平成27年12月に金星周回軌道へ投入された金星探査機「あかつき」は、金星大気メカニズムの解明につながる成果を上げ、平成28年12月に打ち上げたジオスペース探査衛星「あらせ」は、オーロラ発生の物理プロセスの同定に成功するなど、太陽活動と地球の相互作用等の理解の深化に貢献した。
 平成26年12月に打ち上げた「はやぶさ2」は、平成30年6月に小惑星「リュウグウ」に到着し、探査ローバによる探査、小惑星表面への人工クレーター形成、同一小惑星への2回の着陸(タッチダウン)成功などの世界初の快挙を成し遂げ、科学的に貴重な小惑星内部のサンプル採取にも成功したと見られている。今後、令和2年末頃に地球への帰還を予定している。
 このほか、欧州宇宙機関との国際協力による水星探査計画(BepiColombo)の水星磁気圏探査機「みお」(平成30年10月打上げ)が運行中であり、我が国初となる月への無人着陸を目指す小型月着陸実証機(SLIM(※73)やX線分光撮像衛星(XRISM(※74))(共に令和3年度打上げ予定)の開発など、国際的な地位の確立や人類のフロンティア拡大に資する宇宙科学分野の研究開発を推進している。

(6) 有人宇宙活動
 国際宇宙ステーション(ISS)計画(※74)は、日本・米国・欧州・カナダ・ロシアの5極(15か国)共同の国際協力プロジェクトである。我が国は、「きぼう」日本実験棟及び宇宙ステーション補給機「こうのとり」(HTV(※75))の開発・運用や日本人宇宙飛行士のISS長期滞在により本計画に参加しており、これまでに、有人・無人宇宙技術の獲得、国際プレゼンス(国際的地位)の確立、宇宙産業の振興、宇宙環境利用による社会的利益(創薬につながる高品質タンパク質結晶の生成、医学的知見の獲得、次世代半導体の開発に資する材料創製、超小型衛星放出等)及び青少年育成等の多様な成果を上げてきている。2019年(令和元年)9月、「こうのとり」8号機を打ち上げ、宇宙飛行士の生活に必要不可欠な水・食料のほか、ISSの運用の根幹を支える、日本製リチウムイオン電池を使用したバッテリや、宇宙航空研究開発機構と民間企業が共同開発した光通信システム装置等を輸送した。
 なお、2015年(平成27年)12月に、新たな日米協力の枠組みに係る合意文書を取り交わし、2024年(令和6年)までの我が国のISS運用延長への参加が決定している。今後の取組としては、将来の宇宙探査も念頭に置いた新たな宇宙ステーション補給機(HTV-X)の打上げを目指して開発を進めている。

(7) 国際宇宙探査
 様々な国で月面や火星の探査ミッションが多く計画されるなど関心が高まっている。米国は2019年(平成31年)3月、2024年(令和6年)までに月極域への有人着陸を行うと表明し、また、2030年代の火星有人着陸を目標に、月面での持続的な活動を通じて必要な技術の獲得を目指す、月周回有人拠点「ゲートウェイ」の整備を含む「アルテミス計画」を発表した。我が国では、令和元年(2019年)10月に宇宙開発戦略本部において米国提案による国際宇宙探査への日本の参画方針を決定し、我が国の強みをかした分野で戦略的に参画できるよう参画機関間で調整を進めている。また、我が国は小型月着陸実証機「SLIM(※76)」の令和3年度打上げを計画するとともに、宇宙航空研究開発機構とインド宇宙研究機関(ISRO(※77))との間で共同月極域探査ミッションについて検討を進めている。

(8) 宇宙の利用を促進するための取組
 文部科学省は、人工衛星に係る潜在的なユーザーや利用形態の開拓など、宇宙利用の裾野の拡大を目的とした「宇宙航空科学技術推進委託費」により産学官の英知を幅広く活用する仕組みを構築した。これにより、宇宙航空分野の人材育成及び防災、環境等の分野における実用化を見据えた宇宙利用技術の研究開発等を引き続き行っている。
 経済産業省は、石油資源の遠隔探知能力の向上等を可能とするハイパースペクトルセンサ(HISUI)の開発を進めており、2019年12月に打上げを行い、国際宇宙ステーションの「きぼう」日本実験棟に搭載した。また、民生分野の技術等を活用した低価格・高性能な宇宙用部品・コンポーネントの開発支援と軌道上実証機会の提供及び小型衛星用ロケットの抜本的な低コスト化実現に向けた自律飛行安全システムの開発等を行っている。加えて、ビッグデータ化する宇宙データの利用拡大の観点から、政府衛星データをオープン&フリー化するとともに、ユーザにとって使いやすい衛星データプラットフォーム(Tellus)の整備なども進めている。

■第2-3-19表/国家戦略上重要なフロンティアの開拓のための主な施策(令和元年度)

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コラム2-9 「つばめ」~世界に先駆けた日本の超低高度衛星技術~

 令和元年9月30日、宇宙航空研究開発機構が開発した超低高度衛星技術試験機「つばめ」(SLATS:Super Low Altitude Test Satellite)は、世界で最も低い地球観測衛星の高度としてギネス世界記録®に認定された167.4kmでの軌道保持を終え、翌10月1日に大気圏に再突入し、革新的な技術実証を完了した。
 人工衛星が飛行する高度を大幅に低くすると小さなセンサでも高い分解能の衛星画像を取得できるメリットがある。しかし、「超低高度」と呼ばれる高度300km以下では、通常の地球観測衛星が飛行する高度600~800kmに比べて、大気抵抗や衛星材料を劣化させる原子状酸素の密度が1,000倍以上となる。このため、長期間の衛星運用や精密な姿勢・軌道制御が求められる地球観測衛星には不向きとされていた。「つばめ」は超低高度にて長期間にわたる地球観測を可能とする技術の獲得を目指して開発され、平成29年12月23日に打ち上げられた。
 「つばめ」という名称は、衛星名の一般公募にて圧倒的多数の応募により選定された。つばさを広げすばやく低空飛行する姿が、太陽電池パドルを広げ様々な姿勢で飛行し,イオンエンジンを噴射する衛星のイメージと重なる。「つばめ」という名前のつながりで、平成31年4月に神宮球場ライトスタンドに掲げられたプロ野球
ヤクルトスワローズ球団への「おうえんメッセージ」を撮影した。8月には九州新幹線「つばめ」を撮影した。子供たちにも身近に感じられる広報活動などを行い、最新の宇宙開発に対する国民の理解増進に貢献した。
 「つばめ」の成果は地球を取り巻く超高層大気科学の発展に貢献し、さらに、将来の地球観測衛星の小型化・低コスト化や今までにない地球観測ミッションをもたらすと期待されている。

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  • ※1 ペロブスカイトと呼ばれる結晶構造を持つ物質を使った我が国発の太陽電池。塗布や印刷などの簡易なプロセスが適用できるため、製造コストの大幅低減が期待されている。
  • ※2 Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage
  • ※3 Integrated Coal Gasification Fuel Cell Combined Cycle
  • ※4 Liquefied Natural Gas
  • ※5 Carbon dioxide Capture and Utilization
  • ※6 International Atomic Energy Agency
  • ※7 Integrated Support Center for Nuclear Nonproliferation and Nuclear Security
  • ※8 Preparatory Commission for the Comprehensive Nuclear-Test-Ban Treaty Organization
  • ※9 Collaborative Laboratories for Advanced Decommissioning Science
  • ※10 使用済燃料から再処理によって分離されたプルトニウムをウランと混ぜて、混合酸化物燃料に加工し、使用すること。
  • ※11 Sustainable Development Goals
  • ※12 OECD Nuclear Energy Agency
  • ※13 Forum for Nuclear Cooperation in Asia
  • ※14 Generation IV International Forum
  • ※15 臨界プラズマ試験装置JT-60を平成20年8月に運転停止し、改修のため解体し、組立て中であり、2020年に運転開始予定
  • ※16 日本・欧州・米国・ロシア・中国・韓国・インドの7極による国際約束に基づき、核融合実験炉の建設・運転を通じて、その科学的・技術的実現可能性を実証する国際共同プロジェクト
  • ※17 全固体電池やリチウムイオン電池よりも高いエネルギー密度を有する革新型蓄電池
  • ※18 持続型木質バイオマス資源由来の、軽量、高強度、低熱膨張のナノ繊維。樹脂補強繊維としての利用が期待されている。
  • ※19 ①検査・診断の一層の早期化・簡易化、②アウトカムの最大化を図る診断・治療の一体化、③予防、④高齢化により衰える身体機能の補完・QOL向上、⑤デジタル化/データ利用による診断治療の高度化
  • ※20 生体内の放射線分布を画像化し、がん、アルツハイマー病などの病気の原因や病状等を診断するPET検査に用いられる、微量の放射線を放出する放射性薬剤
  • ※21 北海道大学(ザンビア拠点)、東北大学(フィリピン拠点)、東京大学(中国拠点)、東京医科歯科大学(ガーナ拠点)、新潟大学(ミャンマー拠点)、大阪大学(タイ拠点)、神戸大学(インドネシア拠点)、岡山大学(インド拠点)、長崎大学(ベトナム拠点)
  • ※22 ウイルスに感染していても発症していない状態。気付かず感染を広げるおそれがある。
  • ※23 Building Information Modeling/Construction Information Modeling。
    測量・調査、設計段階から3次元モデルを導入することにより、その後の施工、維持管理・更新の各段階においても3次元モデルを連携・発展させて事業全体にわたる関係者間の情報共有を容易にし、一連の建設生産・管理システムの効率化・高度化を図るもの。
  • ※24 Nationwide Ocean Wave infomation network for Ports and HArbourS
  • ※25 http://www.mlit.go.jp/kowan/nowphas/
  • ※26 Dense Oceanfloor Network system for Earthquakes and Tsunamis
  • ※27 Seafloor observation network for earthquakes and tsunamis along the Japan Trench
  • ※28 The Fundamental Volcano Observation Network
  • ※29 Monitoring of Waves on Land and Seafloor
  • ※30 マルチパラメータレーダ。水平偏波と垂直偏波の2種類の電波を同時に送信・受信できるレーダ
  • ※31 Integrated Particle Filter法。同時に複数の地震が発生した場合でも、震源を精度良く推定する手法。京都大学防災研究所と協力して開発
  • ※32 Propagation of Local Undamped Motion法。強く揺れる地域が非常に広範囲に及ぶ大規模地震でも、震度を適切に予測する手法
  • ※33 tsunami Forecasting based on Inversion for initial sea-Surface Height
  • ※34 令和2年3月末現在で、全国に約1,300点
  • ※35 Global Navigation Satellite System
  • ※36 Very Long Baseline Interferometry:数十億光年の彼方(かなた)から、地球に届く電波を利用し、数千kmもの距離を数mmの誤差で測る技術
  • ※37 Synthetic Aperture Radar:人工衛星で宇宙から地球表面の変動を監視する技術
  • ※38 Information SUpport Team
  • ※39 Unmanned Aerial Vehicle
  • ※40 Polarimetric and Interferometric Airborne Synthetic Aperture Radar
  • ※41 Advanced Land Observing Satellite-2
  • ※42 CYber Defense Exercise with Recurrence
  • ※43 Cyber Physical Security Framework
  • ※44 Chemical, Biological, Radiological, Nuclear(化学剤、生物剤、放射性物質及び核)
  • ※45 Global Earth Observation System of Systems
  • ※46 Group on Earth Observations
  • ※47 Global Change Observation Mission-Climate
  • ※48 Global Change Observation Mission-Water
  • ※49 Greenhouse gases Observing SATellite
  • ※50 Global Observing SATellite for Greenhouse gases and Water cycle
  • ※51 全世界の海洋を常時観測するため、日本、米国等30以上の国や世界気象機関(WMO)、ユネスコ政府間海洋学委員会(IOC)等の国際機関が参加する国際プロジェクト
  • ※52 Arctic Challenge for Sustainability
  • ※53 The Multidisciplinary drifting Observatory for the Study of Arctic Climate
  • ※54 Autonomous Underwater Vehicle
  • ※55 Intergovernmental Panel on Climate Change
  • ※56 Data Integration and Analysis System
  • ※57 International Science Council:人類の利益のために、科学とその応用分野における国際的な活動を推進することを目的とした国際学術機関。1931年設立の国際科学会議(ICSU)と国際社会科学評議会(ISSC)が2018年に統合して設立され、全科学分野が対象となった。
  • ※58 World Data System
  • ※59 Superconducting Submillimeter-Wave Limb-Emission Sounder:大気の縁(リム)の方向にアンテナを向け、超伝導センサを使った高感度低雑音受信機を用いて大気中の微量分子が自ら放射しているサブミリ波(300GHzから3,000GHzまでの周波数の電波をサブミリ波という。このうち、SMILESでは、624GHzから650GHzまでのサブミリ波を使用している。)を受信し、オゾンなどの量を測定する。
  • ※60 宇宙環境に関するシミュレーションや観測から生成される大規模かつ多種多様なデータを処理し、情報を抽出するための技術
  • ※61 Carbon Dioxide Capture and Storage
  • ※62 Carbon dioxide Capture and Utilization
  • ※63 二酸化炭素と水素を合成して天然ガスの主成分であるメタンを合成する技術
  • ※64 International Maritime Organization
  • ※65 Greenhouse Gas
  • ※66 International Union of Geological Sciences
  • ※67 Global Boundary Stratotype Section and Point
  • ※68 Intergovernmental science-policy Platform on Biodiversity and Ecosystem Services
  • ※69 Global Biodiversity Information Facility
  • ※70 National Aeronautics and Space Administraction
  • ※71 Global Precipitation Measurement
  • ※72 Space Situational Awareness
  • ※73 Smart Lander for Investigating Moon
  • ※74 X-Ray Imaging and Spectroscopy Mission
  • ※75 日本・米国・欧州・カナダ・ロシアの政府間協定に基づき地球周回低軌道(約400 km)上に有人宇宙ステーションを建設、運用、利用する国際協力プロジェクト
  • ※75 H-Ⅱ Transfer Vehicle
  • ※76 Smart Lander for Investigating Moon
  • ※77 Indian Space Research Organisation

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