第1章 科学技術政策の展開

 第2部では、令和元年度に科学技術の振興に関して講じられた施策について、第5期科学技術基本計画(平成28年1月22日閣議決定)に沿って記述する。

 

第1節 科学技術基本計画

 我が国の科学技術行政は、「科学技術基本法」(平成7年法律第130号)に基づき、政府が5年ごとに策定する科学技術基本計画(以下「基本計画」という。)にのっとり、総合的かつ計画的に推進している。
 これまで、第1期(平成8~12年度)、第2期(平成13~17年度)、第3期(平成18~22年度)、第4期(平成23~27年度)の基本計画を策定し、これらに沿って科学技術政策を推進してきた。
 平成28年度以降の基本計画の策定に向けて、平成26年10月、内閣総理大臣から総合科学技術・イノベーション会議に対して次期基本計画に向けた諮問がなされた(諮問第5号「科学技術基本計画について」)。同会議は、基本計画専門調査会を設置し、約1年間にわたって調査検討を行った。平成27年12月に総合科学技術・イノベーション会議は、諮問第5号に対する答申を行い、これを受けて、平成28年1月22日、第5期基本計画が閣議決定された。
 第5期基本計画では、現状認識として、情報通信技術(ICT(※1))の進化等により、社会・経済の構造が日々大きく変化する「大変革時代」が到来し、国内外の課題が増大、複雑化する中で科学技術イノベーション推進の必要性が増していることを指摘している。また、基本計画の過去20年間の実績と課題として、研究開発環境の着実な整備、青色LEDやiPS細胞などのノーベル賞受賞に象徴されるような成果が上げられた一方、科学技術における「基盤的な力」の弱体化、政府研究開発投資の伸びの停滞などを指摘している。
 こうした背景の下、第5期基本計画では、目指すべき国の姿として、①持続的な成長と地域社会の自律的な発展、②国及び国民の安全・安心の確保と豊かで質の高い生活の実現、③地球規模課題への対応と世界の発展への貢献、④知の資産の持続的創出を挙げている。また、これを実現するための基本方針として、先を見通して戦略的に手を打っていく力(先見性と戦略性)及びどのような変化にも的確に対応していく力(多様性と柔軟性)の両面を重視するとした上で、政策の4本柱として以下を掲げている。
ⅰ)未来の産業創造と社会変革に向けた新たな価値創出の取組
 自ら大きな変化を起こし、大変革時代を先導していくため、非連続なイノベーションを生み出す研究開発を強化し、新しい価値やサービスが次々と創出される「超スマート社会」を世界に先駆けて実現するための一連の取組を更に深化させつつ「Society 5.0(※2)」として強力に推進する。
ⅱ)経済・社会的課題への対応
 国内又は地球規模で顕在化している課題に先手を打って対応するため、国が重要な政策課題を設定し、課題解決に向けた科学技術イノベーションの取組を進める。
ⅲ)科学技術イノベーションの基盤的な力の強化
 今後起こり得る様々な変化に対して柔軟かつ的確に対応するため、若手人材の育成・活躍促進と大学の改革・機能強化を中心に、科学技術イノベーションの基盤的な力の抜本的強化に向けた取組を進める。
ⅳ)イノベーション創出に向けた人材、知、資金の好循環システムの構築
 国内外の人材、知、資金を活用し、新しい価値の創出とその社会実装を迅速に進めるため、企業、大学、公的研究機関の本格的連携とベンチャー企業の創出強化等を通じて、人材、知、資金があらゆる壁を乗り越えて循環し、イノベーションが生み出されるシステムの構築を進める。
 これら4本柱の取組を進めていく際に、科学技術外交とも一体となり、戦略的に国際展開を図る視点が不可欠であるとしている。また、第5期基本計画の進捗及び成果の状況を把握していくために、主要指標や目標値を定め、その達成状況を把握することにより、恒常的に政策の質の向上を図っていくとしている。
 第5期基本計画では、官民合わせた研究開発投資を対GDP比の4%以上とすることを目標とするとともに、政府研究開発投資について、平成27年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2015」に盛り込まれた「経済・財政再生計画」との整合性を確保しつつ、対GDP比の1%にすることを目指すこととした。期間中のGDPの名目成長率を平均3.3%という前提で試算した場合、第5期基本計画期間中に必要となる政府研究開発投資の総額の規模は約26兆円となる。

第2節 総合科学技術・イノベーション会議

 総合科学技術・イノベーション会議は、内閣総理大臣のリーダーシップの下、我が国の科学技術政策を強力に推進するため、「重要政策に関する会議」として内閣府に設置されている。我が国全体の科学技術を俯(ふ)瞰(かん)し、総合的かつ基本的な政策の企画立案及び総合調整を行うことを任務とし、議長である内閣総理大臣をはじめ、関係閣僚、有識者議員等により構成されている(第2-1-1表)。
 また、総合科学技術・イノベーション会議の下に、重要事項に関する専門的な事項を審議するため、専門調査会を設けている(第2-1-2図)。

■第2-1-1表/総合科学技術・イノベーション会議議員名簿

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■第2-1-2図/総合科学技術・イノベーション会議の組織図

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1 平成31年度(令和元年度)の総合科学技術・イノベーション会議における主な取組

 総合科学技術・イノベーション会議では「統合イノベーション戦略2019」(令和元年6月21日閣議決定)の策定、「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP(※3))」及び「官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM(※4))」の運営等、政策・予算・制度の各面で審議を進めてきた。
 平成31年度(令和元年度)は、平成31年4月18日の総合科学技術・イノベーション会議において、内閣総理大臣からの諮問第21号「科学技術基本計画について」に基づき、第6期基本計画の策定に向けた検討を開始し、併せて基本計画の調査・検討を行うため基本計画専門調査会を設置した。さらに、第6期基本計画策定に向けた制度的課題を検討するため、当該専門調査会の下に制度課題ワーキンググループを設置し、科学技術基本法の見直しの方向性等について検討を行った。また、令和2年1月23日の総合科学技術・イノベーション会議において、「研究力強化・若手研究者支援総合パッケージ」及びムーンショット型研究開発制度(※5)が目指すべき「ムーンショット目標」を決定した。

2 科学技術関係予算の戦略的重点化

 総合科学技術・イノベーション会議は、政府全体の科学技術関係予算を重要な分野や施策へ重点的に配分し、基本計画や総合イノベーション戦略の確実な実行を図るため、予算編成において科学技術イノベーション政策全体をかんし関係府省の取組を主導している。

(1) 科学技術に関する予算等の配分の方針
 総合科学技術・イノベーション会議は、中長期的な政策の方向性を示した基本計画の下、毎年の状況変化を踏まえ、統合イノベーション戦略において、その年度に重きを置くべき取組を示し、それらに基づいて、政府全体の科学技術関係予算の重要な分野や施策への重点的配分や政策のPDCAサイクルの実行等を図っている。

(2) 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の推進
 SIPは、総合科学技術・イノベーション会議が司令塔機能を発揮して、基礎研究から出口(実用化・事業化)までの研究開発を一気通貫で推進し、府省連携による分野横断的な研究開発に産学官連携で取り組むプログラムである。SIPの実施に当たっては、総合科学技術・イノベーション会議が定める方針の下、内閣府に計上する「科学技術イノベーション創造推進費」(令和元年度:555億円)を重点配分した。なお、健康医療分野に関しては、健康・医療戦略推進本部の下で推進した。
 平成26年度から5年間で実施したSIP第1期では、社会的課題の解決や産業競争力の強化、経済再生に資する以下の11課題が選定され、「重要インフラ等におけるサイバーセキュリティの確保」を除く10課題は平成30年度が最終年度であった(第2-1-3表)。「重要インフラ等におけるサイバーセキュリティの確保」については、平成27年度から令和元年度の5年間で実施した。
 平成30年度に終了した10課題については、各課題における成果の社会実装の状況を調査し、成功事例を積極的に対外的にアピールするため、令和元年度より追跡調査を実施している。「重要インフラ等におけるサイバーセキュリティの確保」については、令和2年度以降に追跡調査を実施することとしている。さらに、SIP第1期の追跡調査(※6)の結果から、社会実装の実現に向けてプログラム実施期間中から取り組むべき課題等を洗い出し、今後のSIP第2期の制度や課題の運営に反映していくこととしている。

■第2-1-3表/戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第1期

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 平成29年度補正予算において措置されたSIP第2期については、補正予算の趣旨である生産性革命を推進するとともに、Society 5.0の実現に向け、引き続きSIP第1期のコンセプトを踏襲しつつ、以下に示す12の課題を推進している(第2-1-4表)(附録資料参照)。その際、SIP第1期の最終年度である平成30年度に行った制度評価における指摘事項(民間企業等からのマッチングファンドの活用、ステージゲートの導入、追跡調査の実施等)を踏まえ、令和元年度に「戦略的イノベーション創造プログラム運用指針」を改正し、SIPの制度を見直した。

■第2-1-4表/戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期(※7)

ビッグデータ・AIを活用したサイバー空間基盤技術 世界最先端の、実空間における言語情報と非言語情報の融合によるヒューマン・インタラクション技術(感性・認知技術開発等)、データ連携基盤、AI間連携を確立し、社会実装する。
フィジカル領域デジタルデータ処理基盤技術 高機能センシング、高効率なデータ処理及びサイバー側との高度な連携を実現可能とする世界最先端の基盤技術を開発し、社会実装する。
IoT(※8)社会に対応したサイバー・フィジカル・セキュリティ セキュアな Society 5.0 の実現に向けて、様々なIoT機器を守り、社会全体の安全・安心を確立するため、中小企業を含むサプライチェーン全体を守ることに活用できる世界最先端の「サイバー・フィジカル・セキュリティ対策基盤」を開発するとともに、米欧各国等との連携を強化し、国際標準化、社会実装を進める。
自動運転(システムとサービスの拡張) 自動車メーカーの協調領域となる世界最先端のコア技術(信号・プローブ情報をはじめとする道路交通情報の収集・配信などに関する技術等)を確立し、一般道で自動走行レベル3を実現するための基盤を構築し、社会実装する。
統合型材料開発システムによるマテリアル革命 材料開発コストの大幅低減、開発期間の大幅短縮を目指し、世界最先端の逆問題マテリアルズインテグレーション(性能希望から最適材料・プロセス・構造を予測)を実現・社会実装し、超高性能材料の開発につなげるとともに信頼性評価技術を確立する。
光・量子を活用したSociety 5.0実現化技術 光・量子技術を活用した世界最先端の加工(レーザー加工等)、情報処理(光電子情報処理)、通信(量子暗号)の開発を行い、社会実装する。
スマートバイオ産業・農業基盤技術 農業を中心とした食品の生産・流通からリサイクルまでの食産業のバリューチェーンにおいて、「バイオ×デジタル」を用い、農産品・加工品の輸出拡大、生産現場の強化(生産性向上、労働負荷低減)、容器包装リサイクル等の「静脈系」もターゲットとした環境負荷低減を実現するフードバリューチェーンのモデル事例を実証する。
IoE(※9)社会のエネルギーシステム エネルギー需給最適化に資するエネルギーシステムの概念設計を行い、その共通基盤技術(パワエレ)の開発及び応用・実用化研究開発(ワイヤレス電力伝送システム)を行うとともに、制度整備、標準化を進め、社会実装する。
国家レジリエンス(防災・減災)の強化 大規模災害時に、衛星、AI、ビッグデータ等の最新の科学技術を活用して、国や市町村の意思決定の支援を行う情報システムを構築し、社会実装を推進する。
AIホスピタルによる高度診断・治療システム AI、IoT、ビッグデータ技術を用いた「AIホスピタルシステム」を開発・構築することにより、高度で先進的な医療サービスの提供と、病院における効率化(医師や看護師の抜本的負担軽減)を実現し、社会実装する。
スマート物流サービス 生産、流通、販売、消費までに取り扱われるデータを一気通貫で利活用し、最適化された生産・物流システムを構築するとともに、社会実装する。
革新的深海資源調査技術 我が国の排他的経済水域内にある豊富な海洋鉱物資源の活用を目指し、水深2,000m以深の海洋資源調査技術を世界に先駆けて確立・実証するとともに、社会実装する。

(3) 官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM)の推進
 PRISMは、民間投資の誘発効果の高い領域や研究開発成果の活用による政府支出の効率化が期待される領域(※10)に各府省庁施策を誘導すること等を目的に平成30年度に創設したプログラムである。総合科学技術・イノベーション会議が策定した各種戦略等を踏まえ、インフラ、創薬、農業等のデータ連携基盤の確立等に重点化し配分を行ってきており、今後も総合科学技術・イノベーション会議が策定する各種戦略等を踏まえ、各府省庁の事業の加速等により、官民の研究開発投資の拡大を目指す。

(4) ムーンショット型研究開発制度の推進
 我が国発の破壊的イノベーションの創出を目指し、従来の延長にない、大胆な発想に基づく挑戦的な研究開発を政府全体として継続的かつ安定的に推進する仕組みとして、ムーンショット型研究開発制度を推進した。未来社会を展望し、困難だが実現すれば大きなインパクトが期待される社会課題等を対象として、「ムーンショット型研究開発制度に係るビジョナリー会議」及び「ムーンショット国際シンポジウム」の検討結果を踏まえ、令和2年1月に開催された総合科学技術・イノベーション会議において、2050年までに達成すべき六つの目標を決定した。(第1部第3章第2節参照)

(5) 研究力強化・若手研究者支援総合パッケージの策定
 文部科学省が策定した「研究力向上改革2019」を発展させ、人材、資金、環境の三位一体改革により、我が国の研究力を総合的・抜本的に強化するため、研究力強化・若手研究者支援総合パッケージを策定した。

■第2-1-5図/研究力強化・若手研究者支援総合パッケージ

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■第2-1-6表/科学技術政策の推進のための主な施策(令和元年度)

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3 国家的に重要な研究開発の評価の実施

 総合科学技術・イノベーション会議は、内閣府設置法(平成11年法律第89号)第26条第1項第3号に基づき、国の科学技術政策を総合的かつ計画的に推進する観点から、各府省が実施する大規模研究開発(※11)等の国家的に重要な研究開発を対象に評価を実施している。
 また、同会議は、特定国立研究開発法人による研究開発等の促進に関する特別措置法(平成28年法律第43号)第5条に基づき、特定国立研究開発法人の中長期目標期間の最終年度においては、基本計画等の国家戦略との連動性の観点等から見込評価等や次期中長期目標案に対して意見を述べている。

(1) 特定国立研究開発法人の中長期目標期間終了時の見込評価等に対する総合科学技術・イノベーション会議の意見(令和元年12月26日決定、通知)
 令和元年度に終了する産業技術総合研究所の中長期目標期間終了時の見込評価等に対する総合科学技術・イノベーション会議の意見を決定し、当該法人を所管する経済産業大臣に通知した。

(2) 特定国立研究開発法人の次期中長期目標(案)に対する総合科学技術・イノベーション会議の意見(令和2年2月27日決定、答申)
 経済産業大臣から諮問のあった産業技術総合研究所の次期中長期目標(案)(令和2年4月~令和7年3月)に対し、総合科学技術・イノベーション会議の意見を決定し、当該法人を所管する経済産業大臣に答申した。

4 専門調査会等における主な審議事項

(1) 評価専門調査会
 特定国立研究開発法人(産業技術総合研究所)の中長期目標期間終了時の見込評価等及び次期中長期目標(案)に対する総合科学技術・イノベーション会議の意見案を取りまとめた。このほか、研究開発評価を充実させるための調査検討を開始した。

(2) 生命倫理専門調査会
 ヒト受精はいへのゲノム編集技術を用いる研究についての議論を深めるため、生命倫理専門調査会の下に、「『ヒトはいの取扱いに関する基本的考え方』見直し等に係るタスク・フォース」を設置して検討を行い、「『ヒトはいの取扱いに関する基本的考え方』見直し等に係る報告(第二次)~ヒト受精はいへのゲノム編集技術等の利用等について~」を取りまとめた。引き続き、ヒト受精はいへのゲノム編集技術等の利用等についての議論を深めていくこととしている。

(3) 基本計画専門調査会
 第5期基本計画の期間内で策定された統合イノベーション戦略の実施・検討状況を踏まえ、第5期基本計画のレビューを実施しつつ、次期基本計画の策定に向けた検討を開始した。

第3節 統合イノベーション戦略

 総合科学技術・イノベーション会議は、Society 5.0の実現に向け、関連施策を府省横断的かつ一体的に推進するため、「統合イノベーション戦略2019」を策定した(第2-1-7図)。
 本戦略では1年間の国内外における科学技術イノベーションを巡る情勢を分析して、強化すべき課題、新たに取り組むべき課題を抽出して、施策の見直しを行っており、世界に先駆けて提唱したSociety 5.0の実現に向け、「スマートシティ」、「研究力の強化」、「国際連携の抜本的強化」、「人工知能(AI)などの最先端(重要)分野の重点的戦略」の構築といった重要項目に関して進めるべき取組等が記載されている。
 具体的には、創業についてはスタートアップの育成につながる「好循環」を作り上げるため、きめ細やかな政策を講じるとともに、量子技術、AI技術などの最先端技術については国内外からトップレベルの人材や投資を結集できる「場」を作り上げること、これまでの発想にとらわれない大胆な政策を迅速かつ確実に、実行に移すことによって、我が国を「世界で最もイノベーションに適した国」にすることを目標としている。
 このため、我が国自身の社会課題の克服、さらには、我が国の産業競争力の向上に向けて、AIを取り巻く、教育改革、研究開発、社会実装などを含む人、産業、地域、政府全てへのAI普及に向け「AI戦略2019」(令和元年6月11日 統合イノベーション戦略推進会議決定)を策定した。
 また、合成生物学、ゲノム編集技術等の進展が著しいバイオテクノロジーについては、「2030年に世界最先端のバイオエコノミー(※12)社会を実現」することを目標とする「バイオ戦略2019」(令和元年6月11日 統合イノベーション戦略推進会議決定)を策定した。同戦略に基づき、バイオ分野のデータ基盤の全体設計の検討、同戦略に示された9つの市場領域に係るロードマップの策定、国際バイオコミュニティ圏の形成に向けた検討等の取組を推進した。
 生産性革命の実現や、健康・長寿社会の実現、さらに国及び国民の安全・安心の確保において、飛躍的な革新をもたらす技術体系として期待が高まっている量子技術に関しては、国全体を俯瞰した「量子技術イノベーション戦略」(令和2年1月21日 統合イノベーション戦略推進会議決定)を策定した。本戦略に基づき、国を挙げた量子技術イノベーションに関する総合的かつ戦略的取組を強力に推進している。

■第2-1-7図/統合イノベーション戦略(2019)の概要

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第4節 科学技術イノベーション行政体制及び予算

1 科学技術イノベーション行政体制

 国の行政組織においては、総合科学技術・イノベーション会議による様々な答申等を踏まえ、関係行政機関がそれぞれの所掌に基づき、国立試験研究機関、国立研究開発法人及び大学等における研究の実施、各種の研究制度による研究の推進や研究開発環境の整備等を行っている。
 文部科学省は、各分野の具体的な研究開発計画の作成及び関係行政機関の科学技術に関する事務の調整を行うほか、先端・重要科学技術分野の研究開発の実施、創造的・基礎的研究の充実・強化等の取組を総合的に推進している。また、科学技術・学術審議会を置き、文部科学大臣の諮問に応じて科学技術の総合的な振興や学術の振興に関する重要事項についての調査審議とともに、文部科学大臣に対し意見を述べること等を行っている。
 科学技術・学術審議会における主な決定・報告等は、第2-1-8表に示すとおりである。
 我が国の科学者コミュニティの代表機関として、210人の会員及び約2,000人の連携会員から成る日本学術会議は、内閣総理大臣の所轄の下に置かれ、科学に関する重要事項を審議し、その実現を図るとともに、科学に関する研究の連携を図り、その能率を向上させることを職務としている(第2-1-9図)。
 日本学術会議においては、「日本学術会議の今後の展望について」(平成27年3月 日本学術会議の新たな展望を考える有識者会議決定)に基づき、①政府や社会に対する提言機能の強化、②科学者コミュニティ内のネットワークの強化と活用、③科学者コミュニティ外との連携・コミュニケーションの強化、④世界の中のアカデミーとしての機能強化に取り組んでいる。

■第2-1-8表/科学技術・学術審議会の主な決定・報告等(令和元年度)

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■第2-1-9図/日本学術会議の構成

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 政府や社会に対する提言については、平成30年度に提言を13件、報告を4件、回答を1件公表した(勧告・要望・声明・答申は0件)(第2-1-10表)。このほか、幹事会声明として「新型コロナウイルス感染症対策に関するみなさまへのお願いと、今後の日本学術会議の対応」、「科学技術基本法改正に関する日本学術会議幹事会声明」及び「研究者の「働き方改革」と自由な研究時間確保の両立についての日本学術会議幹事会声明」を公表した。また、今後の提言等の公表に向けて、様々な委員会を設置し、審議を行っている。
 また、日本学術会議では、協力学術研究団体(2,064団体:令和元年度末時点)等の科学者コミュニティ内のネットワークの強化と活用に取り組むとともに、各種シンポジウム・記者会見等を通じて、科学者コミュニティ外との連携・コミュニケーションを図っている。
 さらに、国際学術会議(ISC(※13))をはじめとする44の国際学術団体に、我が国を代表して参画するなど、国際学術交流事業を推進している。令和元年度は閣議口頭了解を得て6件の共同主催国際会議を開催したほか、令和元年8月にはG7各国アカデミーと共同で取りまとめたGサイエンス学術会議共同声明を安倍晋三・内閣総理大臣に手交、12月には第19回アジア学術会議(SCA(※14))ミャンマー会合を開催した。

■第2-1-10表/日本学術会議の主な提言等(令和元年度)

科学技術白書の
関連項目
提言等 発出日付 概要
科学技術政策の展開 第6期科学技術基本計画に向けての提言(提言) 令和元年10月31日 第6期科学技術基本計画に対して、学術研究の現場の目から、問題の所在及び従来の政策の効果を改めて整理し、特に重要な点として、①次世代を担う博士課程学生への経済的支援の抜本的拡充、キャリアパスの多様化、②学術の多様性に資する公的研究資金制度全体のグランドデザインの再構築、③科学者コミュニティにおける多様性の実現、④科学技術政策への科学者コミュニティの参加を提言した。
経済・社会的課題への対応 日本紅斑熱・SFTS(※15)などのダニ媒介感染症対策に関する緊急提言(提言) 令和元年9月12日 日本紅斑熱・SFTSなどのダニ媒介感染症について、ダニ類の生息状況に関する調査等を行い、東京2020大会開催及びキャンプ期間中に感染の可能性が高いと判断された開催地周辺等において、ダニ忌避剤の携行・塗布の励行、会場周辺の雑草の除去等の予防対策を実施することなどを提言した。
人口縮小社会における野生動物管理のあり方(回答) 令和元年8月1日 環境省からの審議依頼に対する回答として、野生動物管理の在り方について、① 統合管理のための省庁間施策連携と基礎自治体の専門組織力の強化、② 地域資源を持続利用するためのルールと仕組み、③ 管理放棄地も含む包括的土地利用計画のための科学と基礎自治体並びに地域コミュニティの役割、④ 科学的データの集積と運用のための市民に開かれた学術研究の仕組み、⑤ 地域に根差した野生動物管理を推進する高度専門職人材の教育プログラム、などを提言した。
科学技術イノベーションの基盤的な力の強化 ゲノム医療・精密医療の多層的・統合的な推進(提言) 令和元年7月2日 平成26年に策定された「健康・医療戦略」の5年目の見直しに当たり、ゲノム医療を効率的に推進していく方向性を示すため、① 日本人のエビデンスを得るためのゲノム解析規模を拡大、② 多層的・統合的なゲノム医療・精密医療研究の推進、③ ゲノム医療・精密医療を推進する上での環境整備、などについて提言した。
持続可能な生命科学のデータ基盤の整備に向けて(提言) 令和元年11月18日 生命科学のデータ基盤を持続的に整備・発展させるため、① データ共有政策の作成と義務化、② プロジェクト立案時からのデータベース戦略策定、③ データベースセンターの一元化とスーパーコンピュータの整備、④ 人材育成と教育体制の整備、⑤ 予算の確保、データ量やデータ種類の増加に対応した仕組みの導入、などについて提言した。
第24期学術の大型研究計画に関するマスタープラン(マスタープラン2020)(提言) 令和2年1月30日 学術的意義の高い大型研究計画を広く網羅し体系化することにより、我が国の大型研究計画の在り方について、一定の指針を与えることを目的として、各学術分野が要望する学術大型研究計画を取りまとめ、マスタープラン2020を策定した。
大学改革と機能強化 歴史的思考力を育てる大学入試のあり方について (提言) 令和元年11月22日 次期学習指導要領では、歴史系科目について、暗記重視の知識詰め込み型から思考力重視の歴史教育への移行というねらいを込め、「世界史」必修を廃止して新科目「歴史総合」を必履修科目とし、従来の選択科目に代わって「世界史探究」「日本史探究」が設けられた。一方、2020年度より大学入学共通テストが導入されることになっており、新科目の大学入試での位置付けは特に重要である。そこで、今回の高校歴史教育における改革を成功させるために、特に大学入学者選抜の歴史系科目に関する改善を提言し、あわせて大学入学共通テストにおけるマークシート式試験を念頭に、知識・技能と思考力・判断力・表現力をバランスよく問う出題例を提示した。

資料:内閣府作成

2 科学技術関係予算

 我が国の令和元年度当初予算における科学技術関係予算は4兆2,377億円であり、そのうち一般会計分は3兆4,139億円、特別会計分は8,237億円となっている。一般会計のうち、科学技術振興の中心的な経費である科学技術振興費は1兆3,597億円となっている。令和元年度補正予算における科学技術関係予算は9,844億円であり、そのうち一般会計分は9,659億円(うち科学技術振興費は5,531億円)、特別会計分は185億円となっている(令和2年2月時点)。なお、科学技術関係予算は平成28年度から、これまで府省ごとの判断に基づいて登録されていたものから、行政事業レビューシートの記載内容を基に統一的な基準に基づく新集計方法に変更している。科学技術関係予算(当初予算)の推移は第2-1-11表、府省別の科学技術関係予算は第2-1-12表のとおりである。

■第2-1-11表/科学技術関係予算の推移

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■第2-1-12表/府省別科学技術関係予算

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  • ※1 Information and Communication Technology
  • ※2 Society 5.0とは、狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く新たな経済社会であり、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させ、経済的発展と社会的課題の解決を両立し、人々が快適で活力に満ちた質の高い生活を送ることのできる、人間中心の社会をいう。
  • ※3 Cross-ministerial Strategic Innovation Promotion Program
  • ※4 Public/Private R&D Investment Strategic Expansion PrograM
  • ※5 我が国発の破壊的イノベーションの創出を目指し、従来の延長にない、大胆な発想に基づく挑戦的な研究開発を政府全体として継続的かつ安定的に推進する仕組み
  • ※6 https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/200305/siryo2-2.pdf
  • ※7 詳細については附録として第2部末尾に記載
  • ※8 nternet of Things
  • ※9 Internet of Energy
  • ※10 AI技術、建設・インフラ維持管理/防災・減災技術、バイオ技術
  • ※11 国費総額約300億円以上の研究開発のうち、科学技術政策上の重要性に鑑み、評価専門調査会が評価すべきと認めたもの
  • ※12 バイオテクノロジーや再生可能な生物資源等を利活用し、持続的で、再生可能性のある循環型の経済社会を拡大させる概念
  • ※13 International Science Council
  • ※14 Science Council of Asia
  • ※15 重症熱性血小板

お問合せ先

科学技術・学術政策局企画評価課

(科学技術・学術政策局企画評価課)