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第1章 科学技術による未来予測の取組

 我々人類は、世界人口の爆発的増加等を背景とした水資源・食料不足、地球温暖化等の気候変動等のほか、貧困や格差の拡大、新型コロナウイルス感染症を始めとする新興・再興感染症の流行等の様々な地球規模の課題に直面している。その中にあって、2015年(平成27年)に持続可能な開発目標(SDGs(※1))を掲げる「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が全国連加盟国の賛同を得て採択され、全国連加盟国はSDGsを達成すべく力を尽くすこととしている。

■第1-1-1図/持続可能な開発目標(SDGs)

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 SDGsの達成には、現状をベースとして実現可能性を踏まえた積み上げを行う「フォーキャスト」ではなく、目指すべき社会の姿から振り返って現在すべきことを考える「バックキャスト」の考え方が重要とされている(※2)。
 「はじめに」において述べたとおり、我が国は、第5期科学技術基本計画において、未来社会の姿として、「Society 5.0」を提唱し、その実現に向けた取組を進めている。
 近年、人工知能(AI(※3))等の情報通信技術(ICT)、ゲノム編集等のバイオテクノロジー等の革新的技術の登場により、科学技術は急速に進展し、これまで以上に経済・社会に影響を及ぼしている。また、米中の技術覇権争いや英国の欧州連合離脱等の国際情勢の変化、人々の価値観や人生設計の多様化等により、社会の変化が急速に進み、未来の予見可能性が低下している。
 このように未来社会の不確実性や多様性が高まる中、現在、政府においては次期科学技術基本計画の策定に向けた議論が行われているが、変化に柔軟に対応し、SDGs等の地球規模の課題や少子高齢化等の我が国が抱える課題を解決していくためには、未来社会のビジョンからのバックキャストと、科学技術の潮流からのフォーキャストにより、未来社会のビジョンを科学技術で前向き・主体的にデザインし、その可能性や選択肢を広げ、変化を先導していくことが必要である。

第1節 未来予測について

 我が国における科学技術による未来予測としては、昭和35年に科学技術庁(当時)が監修した「21世紀への階段」が挙げられる。昭和31年の科学技術庁発足から間もなく、高度経済成長期の中で、近未来において明るい社会が科学技術によって可能になるという国民共通の夢を持ち、社会の変革を進めていくために作成された。執筆は大学等の研究者が担当し、エネルギー、計算機科学、生命科学、防災、物理学、宇宙等の幅広い分野で40年後の21世紀の科学技術と社会の姿を展望した。

■第1-1-2図/21世紀への階段(復刻版)表紙

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 その後、科学技術政策や研究開発戦略の立案・策定の議論に資することを目的として、科学技術の中長期的な発展の方向性を把握するための科学技術予測調査を昭和46年から科学技術庁(当時)(※4)が実施している。
 また、近年、国内外の政府や民間企業等においても、行政計画や経営戦略の企画・立案に反映する観点から、様々な手法を駆使した未来予測が実施されている。
 本章では、代表的な未来予測の手法について解説した上で、国内外の官民による科学技術による未来予測の取組により描かれた未来社会の姿を紹介する。

1 未来予測の取組の変遷

 一般的に、「予測」は、将来の出来事や有様をあらかじめ推測すること、前もって推し量ることとされている。
 科学技術に焦点を当てた未来予測としては、経済協力開発機構(OECD(※5))により「予測(フォーキャスト)」を「将来に関して比較的高度な信頼水準に基づいた確率論的説明」と定義されるとともに、「技術予測」を「将来の技術移転に関する比較的高度の信頼水準に基づいた確率論的評価」と定義(※6)されており、1970年代から科学技術動向を予測する「技術予測」が進められてきた。「技術予測」は、何年にどのような技術が実現するかという科学技術シーズの技術的動向を探索的に予測することを目的として行われていた。
 1990年代後半以降、科学技術に社会的課題解決への貢献が強く期待される中で、望ましい未来社会の姿を予測し、その実現に向けた科学技術の在り方を展望することも目的とした未来予測である「フォーサイト」(※7,8), が活用されるようになってきた(図1-1-3参照)。
 このような未来予測の目的の変化により、未来予測の実施の際の参加者も変わってきた。科学技術の先端動向の把握に加え、社会の変化やニーズの把握が必要となり、これまでの研究者・技術者等の同質性の高い集団のみならず、未来社会の担い手等の多様性の高い集団の関わりが必要となった。また、手法も、科学技術動向からのフォーキャストに加えて、未来社会のビジョンからのバックキャストが採用されるようになった。
 このような背景を受けて、欧州を中心に科学技術動向のみの予測から、多様なステークホルダーが参加するワークショップ(参加型合意形成)等を通じた、未来社会そのものも予測の対象とした取組が行われてきている。このような政策形成に向けた未来予測では、予測精度(予測が実現したか、しないか)の向上が目的ではなく、ステークホルダー間での未来社会に対する合意形成を目的としていることが多い。
 民間企業が実施している未来予測においても、研究開発計画の策定を目的とした技術予測にとどまらず、事業を取り巻く社会変化への対応や未来における事業のパートナーの探索などを目的として、未来社会についての予測が行われている。

■第1-1-3図/科学技術に関する未来予測の変遷

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2 未来予測の手法

 未来予測の手法は、その対象や目的に合わせて、様々なものが開発されてきた。第1-1-4表に定量的・定性的手法の例とその特徴を示した。

■第1-1-4表/主な予測手法とその概要

手法 概要
シミュレーション法(定量的手法) シミュレーション法は、現実の対象や現象から特徴的な要素を抽出してモデル化し、コンピュータなどで模擬することにより、未来の状況を予測する方法。コンピュータの性能向上により、複雑な事象の予測が可能となっている。
ローマクラブは、1972年に「成長の限界」を発表し、人類の未来について、「このまま人口増加や環境汚染などの傾向が続けば、資源の枯渇や環境の悪化により、100年以内に地球上の成長が限界に達する」と警告し、世界各国に衝撃を与えた。
デルファイ法
(定量的手法)
デルファイ法は、専門家の集団に対して、同一の問いかけを、結果を提示しながら繰り返し行うことで意見の収れんを図る方法。集団の意見の収れんを図るという観点から、合意形成の手段の一つであるといえる。
1950年代に米国ランド研究所で開発され、国防計画の策定等に活用されてきており、我が国においても、科学技術庁(現文部科学省科学技術・学術政策研究所)が昭和46年(1971年)に科学技術予測調査を開始し、30年先までの技術動向を予測している。
シナリオ法
(定性的手法)
シナリオ法は、不確実な未来に対して大きなインパクトを持つ自然環境、社会的・政治的動向、科学的発見、技術革新などを分岐として複数の可能性を設定し、それに至る過程を描く手法。急激な社会変化などが起きた際の迅速な意思決定が可能になる。
世界的エネルギー企業のロイヤルダッチシェルは、1970年代初めより、エネルギーの未来に関する長期シナリオを策定し、経営戦略立案に活用している。石油危機が発生する以前に、石油価格高騰シナリオを検討していたことで注目を集めた。
スキャニング法
(定性的手法)
出版物、インターネット、専門家へのインタビューなどの現在利用可能な情報に基づいて、将来大きなインパクトをもたらす可能性のある変化の兆候をいち早く捉え、それがもたらすインパクトを様々な角度(社会、技術、環境、政策、倫理等)から分析する方法。微細な社会の変化に注目することで、幅広い影響を取り込んだ予測が可能となる。
英国では2004年(平成16年)に科学局内にホライズン・スキャニングセンターが設置され、その後各国政府機関やOECD・欧州連合(EU(※9))など国際機関でも取り組まれるようになった。
ビジョニング法
(定性的手法)
多様な関係者の参画により、現在の状況や課題を把握した上で望ましい未来について議論し、長期目標や戦略的目標を共有する方法。望ましい未来の実現に向けた道筋を併せて検討することにより、バックキャストとしての手法となる。
近年の我が国政府における未来予測の取組においては、文部科学省科学技術・学術政策研究所「科学技術予測調査」をはじめ多くが本手法を採用している。

資料:文部科学省作成

 これらの手法の特徴を踏まえ、複数の手法を組み合わせることで、未来予測を行うことが一般的となっている。

第2節 国内外の官民による未来予測の取組事例

 未来予測は政府や企業における計画や戦略の策定とも密接に関連しているため、取組を行っていたとしても詳細が公表されていないことが多い。ここでは、国内外の官民による科学技術に関する未来予測(フォーサイト)の取組事例のうち、バックキャストの手法を用いているものについて、手法や未来社会の姿などが公表されている事例を紹介する。

1 我が国における政府の取組

(1) 文部科学省 科学技術・学術政策研究所「科学技術予測調査」
 文部科学省 科学技術・学術政策研究所では、科学技術イノベーション政策や研究開発戦略の立案・策定の議論に資することを目的として、科学技術の中長期的な発展の方向性を把握するための科学技術予測調査を昭和46年からおよそ5年ごとに実施している。
 第8回調査以降、科学技術発展(技術予測)に基づき社会を検討するフォーキャストの方向から、目指す社会の実現に必要な科学技術を見いだすバックキャストの手法も取り入れたものに転換した。デルファイ法、シナリオ法、ビジョニング法など複数の手法を組み合わせ、目指すべき社会の姿を描き、その実現に貢献する科学技術を抽出する試みを続けてきており、この分野で世界を常にリードしている。令和元年11月に公表された第11回調査では、我が国の未来社会において重視すべき4つの価値(Humanity 変わりゆく生き方、Inclusion 誰一人取り残さない、Sustainability 持続可能な日本、Curiosity 不滅の好奇心)と2040年の望ましい社会の姿「人間性の再興・再考による柔軟な社会」について明らかにした。本調査については第2章で詳述する。

(2) 総務省「未来をつかむTECH戦略」
 平成30年8月、総務省 情報通信審議会 情報通信政策部会 IoT(※10)新時代の未来づくり検討委員会は、人口減少・少子高齢化の進展による構造変化という現実を受け止めた上で、現実的な前提・制約の諸条件を整理し、一方で豊かな可能性を秘めた情報通信技術(ICT)というテクノロジーを積極的に活用した次世代社会の新たな目標を探るべく、2030年代に実現したい未来の姿から逆算し、アグレッシブなICT導入により「変革の実行」につなぐための改革プランとして、「未来をつかむTECH戦略」を策定した。
 同戦略においては、「人」「地域」「産業」の三つを柱とする2030年代の「実現したい」未来像として、
人づくり:年齢・性別・障害の有無・国籍・所得等に関わりなく、誰もが多様な価値観やライフスタイルを持ちつつ、豊かな人生を享受できる「インクルーシブ(包摂)」の社会
地域づくり:地域資源を集約・活用したコンパクト化と遠隔利用が可能なネットワーク化により、人口減でもつながったコミュニティを維持し、新たな絆(きずな)を創る「コネクティッド(連結)」の社会
産業づくり:設計の変更を前提とした柔軟・即応のアプローチにより、技術革新や市場環境の変化に順応して発展する「トランスフォーム(変容)」の社会
を示し、この「実現したい未来の姿」から逆算(バックキャスト)する形で、今後数年間に取り組むべき情報通信政策の在り方について検討を行い、提言として取りまとめている。
 なお、同戦略では、人づくり、地域づくり、産業づくりの三つの視点ごとに、テクノロジーを活用して新たな社会を切り拓(ひら)いている象徴的な15のシーンを具体的なイメージとしてイラスト化して提示している。

■第1-1-5図/2030年代に実現したい未来の姿(地域づくり)「C:コネクティッド」

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(3) 経済産業省・厚生労働省「未来イノベーションワーキンググループ」
 経済産業省と厚生労働省においては、次世代ヘルスケア産業協議会・次世代医療機器開発推進協議会・次世代医療ICT協議会の下に「未来イノベーションワーキンググループ」(未来イノベーションWG)を設置し、医療福祉分野においてIoT、AI、ロボット技術等、第4次産業革命を踏まえた変革が進展しつつあることを踏まえた、2040年頃における人と先端技術が共生する未来の医療福祉分野の在り方を検討した。
 2040年頃の未来の医療福祉分野の在り方の検討に当たっては、足元において導入される技術が漸進的に改善していく姿を考えるのみならず、将来見込まれる社会・地域の変化や技術革新を見据える必要があることから、2040年の理想的な健康・医療・介護の姿からバックキャストすることで中長期的な対応の方向性を平成31年3月に「未来イノベーションWGからのメッセージ 人と先端技術が共生し、一人ひとりの生き方を共に支える次世代ケアの実現に向けて」として取りまとめた。
 本メッセージは「ムーンショット型研究開発制度」(第3章第2節参照)における2050年までに達成すべき目標の検討に当たって活用された。

■第1-1-6図/先端技術が溶け込んだ2040年の社会における健康・医療・介護のイメージ

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2 欧州委員会及び民間における取組

(1) 欧州委員会研究・イノベーション総局「プロジェクト・ボヘミア」
 欧州委員会研究・イノベーション総局では、2021年から2027年の研究イノベーション枠組み計画である「ホライズン・ヨーロッパ」における優先事項を明らかにするため、2040年の未来社会の姿を予測してそれに必要な研究・イノベーションを提言する「プロジェクト・ボヘミア」(※11)を実施し、2018年3月に最終報告書「欧州連合の今後の研究・イノベーション政策の展望」(※12)を取りまとめた。
 同報告書においては、EUが世界において強力な経済的・政治的役割を維持し続け、ヨーロッパ人が望む未来を共同形成できるようにするためには、EUの研究・イノベーション政策はSDGsの実現に向けた四つの移行

  • 社会的ニーズ:人々のニーズに応えること
  • 生物圏:住みやすい地球の保護
  • イノベーション:変化の力を利用すること
  • ガバナンス:より良い世界のために力を合わせること

に同時に取り組む必要があるとした。また、これらの四つの移行に関連した研究・イノベーションを優先すべきとして、将来実現する可能性が高い19のシナリオ(※13)を作成し、これらのシナリオを実現するために最優先すべき研究開発の方向性を明らかにした。
 今後、これらの方向性に基づき、「ホライズン・ヨーロッパ」が策定される予定である。

■第1-1-7図/4つの移行とシナリオ

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(2) ロイヤルダッチシェル 「スカイシナリオ」
 エネルギー及び石油化学製品のグローバル企業グループであるロイヤルダッチシェルは、1970年代初めよりエネルギーの未来に関するシナリオを作成している(※14)。
 2018年(平成30年)3月に公表された「スカイ(Sky)シナリオ」(※15)は、パリ合意の目標を達成するための道程を示したものであり、産業革命以前からの世界の平均気温上昇が2℃をはるかに下回るように維持するために必要な変化を分析した挑戦的なシナリオである。2070年までに二酸化炭素(CO2)の排出実質ゼロ(ネット・ゼロ排出)を実現するためには、市民社会と企業、政府が相互に補完し合い、取組を加速する必要があると指摘し、困難を伴いながらも、技術、経済、産業の面で実現可能な道筋を示している。以下は幾つかの特徴である。

  • 国レベルにおいて、2030年までにCO2排出を迅速に削減するための法制度の整備、特に実効性のある炭素価格制度が必要である。
  • 電化の進展。電力が最終消費エネルギーの50%を超え(2017年の5倍)、太陽光発電が支配的な発電となる。CO2回収貯留技術と共に炭素吸収源を提供するバイオマス発電が一般化する。
  • 自動車については、内燃機関の段階的な廃止により、輸送システムでの電化が進展する(2035年までにOECD及び中国における新規乗用車販売の全てが電気自動車となり、2050年にはこの傾向が全世界に拡大する。より長期ではバイオ燃料、水素も重要な役割を果たす。)。
  • 化石燃料については、石油需要が2030年代までに減少し始めるが、長距離輸送や化学業界での需要を中心に1日当たり5,000万バレル程度は維持され、バイオ燃料等との混合が進展する。
  • 天然ガスは再生可能エネルギーへの移行期を補完するものとして2020年代半ばまで需要が伸長するが、2040年以降に徐々に需要が低下する。

■第1-1-8図/地球の平均気温上昇のシナリオ別の比較

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(3) 日立製作所「ビジョンデザイン」
 総合電機メーカーである株式会社日立製作所は、社会イノベーション協創センタービジョンデザインプロジェクトを中心に、社会イノベーション事業を推進する上での取組の一つとして、未来を描く活動「ビジョンデザイン」(※16)を実施している。本活動では、将来の社会システムのあるべき姿をビジョンシナリオとして提示し、関係者を巻き込みながら議論を喚起する取組を展開している。生活者の価値観変化の方向性を示すことに主眼を置き、新たな技術が意図せずに人にもたらしてしまうかもしれない問題への対処の可能性や、利便や効率だけではない、技術の人への寄り添い方を議論している。
 ビジョンシナリオは、PEST(Politics, Economy, Society, Technology)分析により将来変化の観点をまとめた未来洞察ツールである「きざし」を用い、街づくり、ホーム、自動運転、エネルギーなど複数領域を対象に作成され、一部はそのエッセンスを用い具体的な社会実証へ移行している。近年では、「未来の信頼のかたち」に着目し、信頼という切り口から将来の社会システム像として、「高い透明性を持った1対1の信頼」、「大企業による集中管理に託す信頼」、「自律し分散していくコミュニティの信頼」の三つのシナリオを描いた。
 また、本活動を一段深めた取組として、京都大学と共同で実施している日立京大ラボがある。同ラボでは、「2050年の大学と企業のあり方」として、大学と企業が置かれる社会の将来課題を見据えるため、霊長類学、共生人間学、経済学、東南アジア地域研究、こころ・幸福学、古代ローマ史学、アフリカ地域研究に関わる研究者との議論を通じて社会課題を抽出し、信じるもの、頼るもの、やることがなくなる(三つの喪失)ディストピア(「Crisis 5.0」)を描き、喪失から逃れる出口を検討している。また、「AIを活用した社会構想と政策提言」では、人文・社会科学系の有識者と情報科学系の研究者がAIを用いて、日本の未来シナリオ(あるべき社会)を検討し、平成29年9月に共同で、持続可能な日本の未来に向けて政策提言を行った(※17)。

■第1-1-9図/ビジョンシナリオの例

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(4) 三菱総合研究所「未来社会構想2050」
 株式会社三菱総合研究所は、文献調査や有識者との意見交換を通じ、現在生じつつある社会的課題・動向や長期統計データの推計値等を踏まえ、「未来社会構想2050」を令和元年10月に公表した。
 同構想では、2050年に目指すべき世界の姿を「豊かで持続可能な世界」(ここでの「豊か」とは、経済的な豊かさのみならず、人との関わり、働きがい、健康など、総合的な暮らしの満足度を示す。)であるとし、これを実現するには、世界各国が、基本的人権の尊重や法の支配、プライバシーの尊重、持続可能性の重要性などの価値観・道徳・社会規範を共有・順守が求められるとした。また、2050年までに世界経済の多極化が一層進展することが予想され、仮に「豊かで持続可能な世界」が実現されなければ、世界の分断が進展し、気候変動への取組等の国際的な合意形成も困難となるとした。
 目指すべき世界の姿を追求する上で、押さえておくべき六つの世界の潮流として、①デジタル経済圏の台頭、②覇権国のいない国際秩序、③脱炭素を実現する循環型社会、④変容する政府の役割、⑤多様なコミュニティが共存する社会、⑥技術によって変わる人生等を挙げた。
 日本経済・社会・個人が活力を高めるためには、世界の潮流に対して受け身ではなく潮流の変化をチャンスと捉え、社会課題を解決し豊かな暮らしを実現する必要があり、そのためには、人間中心の技術活用や日本の良さ・強みの発揮と共に、政府・企業・個人による前向きな挑戦が不可欠とした。

■第1-1-10図/豊かで持続可能な社会の実現に向けて必要な3種類のアクション

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(5) みずほフィナンシャルグループ「2050年のニッポン~課題を乗り越え、輝き続けるために~」
 株式会社みずほフィナンシャルグループは、平成29年12月、これからの日本が人口減少・高齢化や第4次産業革命と呼ばれるテクノロジーの進歩といった大きな変化といかに向き合うのか、また、構造的な課題に取り組むための道標となる超長期の目指すべきビジョン(ありたき姿)はどうあるべきかを考察したレポート「2050年のニッポン~課題を乗り越え、輝き続けるために~」を公表した。
 本レポートでは、2050年の日本を取り巻く世界経済・技術動向として、世界経済はアジアを中心に拡大し、テクノロジーの進化は様々な分野で非連続的な変化を引き起こし、経済・社会に大きなインパクトを与えるとした。
 また、2050年に向けて日本が対処すべき大きな課題は、①人口減少・高齢化に適応した制度・体制への改革、②進歩するテクノロジーを社会・経済に調和させるための規制・制度の見直しであるとし、対応が進まなければ、様々な領域で深刻な問題が生じ、マイナス成長が常態化し、経済・社会基盤が毀(き)損(そん)、日本は「不安で、安全が保たれない社会」になるとした。
 悲惨な未来を回避するには、個々の対症療法ではなく、抜本的な変革が不可欠であり、2050年の「ありたき姿」を描き、方向性を見据えるべきであるとし、「ありたき姿」の実現に向けて、「雇用・教育」、「医療・社会保障」、「社会インフラ」、「環境・エネルギー」、「産業構造」の各領域において、目指すべき姿に向けた課題への対応・取組が必要であるとした。これにより、日本は持続的成長を実現し、グローバルで高い競争力を持ち、技術と知恵でプレゼンスを発揮できる存在になるとした。

■第1-1-11図/2050年の日本のありたき姿

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(6) その他の企業での取組
上記のほかにも、企業において、経営戦略策定等に資する観点から、

  • 技術主導ではなく、2030年以降の生活者目線でのサービス開発
  • 社内外の者が未来予測を共にできるオープンスペースの提供
  • 公表資料から作成した年表型の未来予測データベースの提供

等の取組が進められている。

まとめ

 各予測をかんすると、デジタル化と地球規模課題への対応を背景とした共通した未来社会の姿として、

  • 医療・ヘルスケアの向上による健康寿命の延伸
  • バーチャル空間での活動の拡大による生活の多様化
  • AI、ロボットなどのICTの進展による産業の自動化・無人化の進展、データ産業・サービス産業等の新産業の創出
  • 脱炭素化や資源循環の進展による持続可能な社会への転換

が挙げられる。
 特に国内では、ICTを少子高齢化へ対応するためのツールとして最大限活用し、個人に合った医療・介護、多様性・包摂性などの自分らしさの尊重、各地域が連携しつつ持続的な発展を実現していく社会の姿を予測している。

 次章では、文部科学省 科学技術・学術政策研究所が行っている未来予測である「科学技術予測調査」に基づき20年後を予測し、科学技術が広げる未来社会(Society 5.0)の姿を紹介する。

コラム1-2 人工知能を活用した我が国社会の未来に関するシミュレーション

 未来社会の予測や選択肢の提示、望ましい社会に向けた政策分析等にAIを活用する試みが始まっている。
 京都大学こころの未来研究センターの広井良典教授と株式会社日立製作所日立京大ラボを中心としたグループは、2050年に向けて我が国社会が持続可能であるための方策を、AIを用いて分析し、平成29年9月に「AIの活用により、持続可能な日本の未来に向けた政策を提言」として公表した。その中では、日本社会の未来にとって重要と考えられる149個の社会的要因(人口、高齢化、GDP等)を抽出し、その因果連関モデルを作成した上で、AIを用いて約2万通りの未来予測を行い、それらを①人口、②財政・社会保障、③都市・地域、④環境・資源という4つの持続可能性と、雇用、格差、健康、幸福という4つの観点に注目して評価するとともに、望ましい社会に向かうための政策について検討した1。
 また、文部科学省と上記グループは協働で、AIを活用して我が国社会の未来と高等教育に関するシミュレーションを実施し、高等教育の質の向上・充実は我が国社会の持続可能性や社会的パフォーマンスに寄与する度合いが高いことや、高等教育の望ましい充実・強化が地方を含めた我が国全体の均衡ある発展につながるなどの分析結果を示した。この結果は平成30年11月の中央教育審議会 大学分科会・将来構想部会合同会議に報告されるとともに、「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン」(平成30年11月 同審議会答申)の参考資料として公表された2。
 AIを活用したシミュレーションについては、①未来の無数の可能性やシナリオを網羅的に列挙することで人間のもつ認知のゆがみやバイアスを是正できる、②多くの要因間の複雑な関係性や影響を分析できる、③不確実性や曖昧さを取り込んだ予測を行うことができるといった長所を持つ一方、方法論の高度化や精度の向上等が課題となっている。
<参考URL>
https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2017/09/0905.html別ウィンドウで開きます
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1411360.htm

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コラム1-3 10代が企業の未来を描く

 政府や企業、研究機関等、いわゆる「大人だけ」で未来像を描くのではなく、その未来を生きる今の「若者」が関わる形で目指す未来像を検討し、現在の活動を変えていこうという取組が始まっている。
 令和元年10月、微細藻類ユーグレナ(和名ミドリムシ)を使った研究開発を基に事業を展開する国内ベンチャーである、株式会社ユーグレナのCFOに17歳の高校生が就任した。ただ、このCFOは、最高財務責任者(Chief Financial Officer)ではなく、最高未来責任者(Chief Future Officer)である。この高校生CFOが担う役割は、「会社と未来を変えるためのすべて」であり、主に2030年に向けた株式会社ユーグレナのSDGsに関するアクション及び達成目標の策定に携わる会議の運営を行い、CFO自身を含め合計9名の10代(12歳~18歳)の子供たちが、議論を重ね若い感性による株式会社ユーグレナに対する提言をまとめることになっている。
 株式会社ユーグレナは、これまで地球のこれからについて子供たちと語り合うといった活動の中で、従来の社内体制だけでは「不十分」と気付かされ、この取組を始めたとのことである。未来のことを決めるときにその当事者たちが議論に参加しているべきと考え、18歳以下のCFOを公募した。その応募条件は「18歳以下」のみであり、応募者に対し「SDGsの17のゴールの中で関心のあるものと、そのゴールを達成するために、株式会社ユーグレナで取り組みたいこと」という課題を課し、書類審査と面接を通じて選考を行った。
 株式会社ユーグレナは10代のCFOを置くこと自体に価値があり、これはイノベーション創出を期待して新しい技術へ投資することと同様だと考えている。令和2年現在、同社の経営層は30代であるが、それでも短期的な選択をしてしまうこともあり、今後も未来の当事者からの意見に耳を傾けるべく、CFOの取組を続けていきたいとのことである。

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コラム1-4 Society 5.0 for SDGs達成のためのESG投資の進化

 令和元年6月より、一般社団法人日本経済団体連合会、東京大学及び年金積立金管理運用独立行政法人の3者でSociety 5.0 for SDGsに関する共同研究が行われ、令和2年3月に報告書がまとめられた。共同研究の背景として、以下の四つの大きな社会変化が示されている。

1.デジタル革新の進展 デジタル技術の進展により、デジタルデバイスだけでなく、あらゆる「モノ」がインターネットにつながるようになった。また、情報の予測や解析、最適化などを行うことができるAI技術の高度化、様々な技術を結び付ける5G通信技術の社会実装は目前に迫っている。
2.経済社会構造の変化 少子高齢化の進行による人口動態の変化は世界共通の課題となっている。世界経済はアジアを始めとする新興国へ一層シフトし、日本や欧州を始めとする先進国においては、低成長、低金利の長期化が懸念される。
3.地球環境問題の危機感の高まり グローバルリスクとしての環境問題の位置付けが極めて大きなものとなっている。また、気候変動は地球規模の課題であり、その解決にはビジネス主導の非連続なイノベーションの創出が不可欠であり、ESG投資(※18)のうち「E」(環境)に関する市場の拡大が著しい。
4.人々のマインドセットの変化 経済成長だけでなく社会への貢献を重視する「ミレニアル世代」、物心ついたときからデジタル機器が周りにあった「デジタルネイティブ世代」が、今後5年間で、消費者・労働者の約半数を占めるようになると言われる。

 こうした大きな変化をチャンスと捉え、中長期的な経済成長と、持続可能で人間中心の社会の構築を図るには、我が国発のコンセプトである「Society 5.0 for SDGs」の実現が大きな鍵を握る。
 報告書においては、「Society 5.0 for SDGs」の実現には、企業や大学を始め課題解決イノベーションを推進する多様な主体に中長期の安定的な資金が向かい、イノベーション・エコシステムが自律的に進化していくことが不可欠であり、現在、グローバルに拡大するESG投資の動きを捉え、ESG投資の進化(課題解決イノベーションへの投資促進)を図り、Society 5.0の実現、そしてSDGsの迅速かつ確実な達成を図るとされた。そのための方策として、以下の四つが検討され、一般社団法人日本経済団体連合会、東京大学、年金積立金管理運用独立行政法人のアクションプランが掲示された。

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方策1:Society 5.0の理解の現状とその向上策 Society 5.0の理解向上に向けた具体策を提示。
方策2:Society 5.0の経済効果・社会的効果 Society 5.0が実現した場合の主な産業分野の成長機会等、経済効果や社会的効果を試算。メリットを提示。
方策3:Society 5.0推進企業の情報開示の方向性 Society 5.0に取り組む企業への投資拡大のための、情報開示の方向性を探り、人を起点とした事業展開、グローバル課題の解決、新たな市場の創出の要素が含まれる長期ビジョンが投資家の高評価を得られる等、情報開示のポイントを提示。
方策4:Society 5.0の実現に向けた投資環境の整備 Society 5.0の実現に向けた投資の環境整備に向け、各主体の役割を整理し、大学・スタートアップへの投資促進に向けた具体案等を提示。

<参考URL>報告書本文
https://www.u-tokyo.ac.jp/content/400137089.pdf別ウィンドウで開きます


  • ※1 Sustainable Development Goals
  • ※2 UN Sustainable Development Solutions Network (SDSN),“Getting Started with the SDGs”, December 2015
  • ※3 Artificial Intelligence
  • ※4 第5回調査からは現在の文部科学省科学技術・学術政策研究所が実施
  • ※5 Organisation for Economic Co-operation and Development
  • ※6 OECD(1976年)『技術予測』
  • ※7 Foresightは、一般的には、将来への配慮・慎重さ、先見(の明)、洞察(力)を意味する『プログレッシブ英和中辞典』(小学館)。未来予測の流れでは「未来洞察」と訳すことが多い。
  • ※8 国際的なフォーサイトの専門家会合Technology Futures Analysis Method Working Group は「フォーサイト」を「より望ましい将来をデザインするための行動を導き出すという目的のために未来技術の発展と、それらの社会と環境との相互作用を同定するための体系的プロセス」と定義している。“Technology futures analysis : Toward integration of the field and new methods”, Technological Forecasting & Social Change, vol.21, pp.287-303 (2004).
  • ※9 European Union
  • ※10 Internet of Things
  • ※11 Beyond the Horizon: foresight in support of future EU research and innovation policy(BOHEMIA)
  • ※12 Transitions on the Horizon:Perspectives for the European Union’s future research and innovation policies
  • ※13 テーマ別シナリオは、「生活支援」、「バイオエコノミー」、「安価な再生可能エネルギー」、「継続的なサイバー戦争」、「ユビキタス・エキスパートシステム(ビッグデータと人工知能による意思決定補助)」、「伝染病の撃破」、「知性オンライン(感情データ共有)」、「臓器の置き換え」、「セキュリティ制御」、「低炭素経済」、「材料資源の効率性」、「一体型製造(3Dプリント)」、「自然(自然環境の価値化)」、「精密医療」、「働き方改革」、「持続可能なスマートモビリティ」、「センサー圏(センサーによる社会のリアルタイムスキャン)」、「多様な食料供給」、「知識システム(教育のオンライン環境)」から成る。
  • ※14 シナリオプランニングの部門が、社内外の様々な分野の専門家からの知見を得て、未来社会を複数同時に想定する。同社の経営戦略やビジネスプランから独立した外部環境分析である。
  • ※15 https://www.shell.com/promos/business-customers-promos/download-latest-scenario-sky/_jcr_content.stream/1530643931055/eca19f7fc0d20adbe830d3b0b27bcc9ef72198f5/shell-scenario-sky.pdf
    「スカイシナリオ」は、2013年3月に公表された「ニューレンズシナリオ」で示した2060年の二つの異なる未来像「マウンテン(Mountain)」、「オーシャン(Ocean)」のシナリオ に追加する形で作成したもの。「マウンテン」は、現在優位な立場(山頂)にある既得権者が、現状の体制を維持する形で社会の安定を生み出そうとする世界であり、天然ガスや原子力、CO2回収貯留技術等の存在感が高まる。「オーシャン」は、人々の力が中心となり、市場原理による調整が大きな役割を果たす。石油と石炭の時代が長く続いた後、世界的に太陽光発電が主要なエネルギーとなる。
  • ※16 https://www.hitachi.co.jp/rd/portal/highlight/vision_design/index.html
  • ※17 文部科学省と共同で行った高等教育政策への活用については、コラム1-2参照。
  • ※18 従来の財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素も考慮した投資のこと

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