第6章 科学技術イノベーションと社会との関係深化

 未来の社会変革や経済・社会的な課題への対応を図るには、多様なステークホルダー間の対話と協働が必要である。そのため、国、大学、公的研究機関及び科学館等が中心となり共創の場を設けるとともに、研究の公共性を確保するなどの取組を推進することとしている。

第1節 共創的科学技術イノベーションの推進

1 ステークホルダーによる対話・協働

 国際的なコミュニケーションの場の定着の促進を目指し、国際的に科学技術をリードする産学官の関係者が社会の幅広いステークホルダーの参画を得て、将来に向けての科学技術の在り方を議論する国際集会等の開催を支援する取組として、科学技術振興機構は、国際科学技術協力基盤整備事業「科学技術外交の展開に資する国際政策対話の促進」を実施している。

2 共創に向けた各ステークホルダーの取組

(1)公的機関等の取組

 文部科学省は、幅広い分野の有識者との政策対話を実施し、中長期的な視点から、未来社会ビジョンのデザインの仕組みの構築、未来型研究、研究人材やイノベ―ション基盤の在り方について議論し、平成30年8月3日に「科学技術改革タスクフォース報告~みんなで創る未来社会に向けた科学技術システム改革~」を取りまとめた。また、平成30年4月16日から22日まで、試験研究機関、地方公共団体など関連機関の協力を得て第59回「科学技術週間」を実施した。同週間中、全国各地の関連機関において、施設の一般公開や実験工作教室、講演会の開催や、科学技術分野の文部科学大臣表彰受賞者等の表彰式などの各種行事が実施されるとともに、大人から子供まで、広く科学技術に関する関心と理解を深めるため「一家に1枚 量子ビームの図鑑」ポスターを全国の小中高校、科学館・博物館等へ配布した。
 農林水産省は、生産者・消費者・マスコミ等を対象に、農林水産分野の先端技術の研究開発に関する積極的な情報提供や意見交換を行うとともに、研究者を出前講座等に派遣するアウトリーチ活動を行っている。また、所管する国立研究開発法人は、年間を通して一般公開や市民講座などを実施し、国民との双方向のコミュニケーション等を意識した研究活動の紹介や成果の展示等の普及啓発に努めている。
 宇宙航空研究開発機構は、青少年の人材育成の一環として「コズミックカレッジ」や連携授業やセミナーなどの宇宙を素材とした様々な教育支援活動等を行っている。
 理化学研究所は、一般市民に向けたイベントなどの開催だけでなく、より多くの国民への浸透を図るために最新の研究成果を紹介する冊子の作成や動画などをウェブサイト上で公開している。また、本を通じて科学の面白さ、深さ、広さを紹介する取組として「科学道100冊」「科学道100冊ジュニア」を全国の小中高校、公共図書館や書店等に展開するなど、様々なアウトリーチ活動を行っている。

《参考》理研チャンネル

 https://www.youtube.com/user/rikenchannel

 物質・材料研究機構は、一般市民及び未来の科学者たる学生・若者に向けた普及・啓発活動として、「まてりある's eye」と題した映像を動画サイトに公開し、研究紹介に積極的に取り組むなど、科学に対する理解と興味を広める活動に力を注いでいる。

《参考》物質・材料研究機構ビデオライブラリー

 https://www.nims.go.jp/publicity/digital/movie/index.html

 産業技術総合研究所は、展示施設を常設し、また、施設の一般公開を全国9拠点で行うとともに、各種イベントへの出展や実験教室・出前講座など、科学技術コミュニケーション事業を積極的に推進している。さらに、最新の研究成果を分かりやすく説明する動画を作成・公開し、情報発信に努めている。

《参考》産業技術総合研究所動画ライブラリ

 https://www.aist.go.jp/aist_j/aistinfo/video/video_main.html

 そのほか、各大学や公的研究機関は、研究成果について広く国民に対して情報発信する取組などを行っている。
 なお、総合科学技術・イノベーション会議は、1件当たり年間3,000万円以上の公的研究費の配分を受ける研究者等に対して、研究活動の内容や成果について国民との対話を行う活動を積極的に行うよう促している。また、「科学技術と社会に関する世論調査」(内閣府)によると、科学技術政策の検討には国民の関わりがより一層必要との認識が高いという結果が明らかとなっている。

(2)科学館・科学博物館等の活動の充実

 科学技術振興機構は、科学技術イノベーションと社会との問題について、様々なステークホルダーが双方向で対話・協働し、それらを政策形成や知識創造、社会実装等へと結び付ける「共創」を推進している。その活動の一環として、日本最大級のオープンフォーラム「サイエンスアゴラ」を開催しているほか、地域における共創活動を推進するため地方公共団体等が行う対話・協働活動を支援している。特に日本科学未来館においては、先端の科学技術と社会との関わりを来館者と共に考える活動を展開しており、展示やイベント等を通じて、研究者等と国民の双方向のコミュニケーション活動を推進するとともに、我が国の科学技術コミュニケーション活動の中核拠点として、全国各地域の科学館・学校等との連携を進めている。
 国立科学博物館は、未就学児から成人まで幅広い世代に自然や科学の面白さを伝え、共に考える機会を提供する展示や利用者の特性に応じた学習支援活動を実施するとともに、展示を活用し、コミュニケーションを重視した科学リテラシー涵(かん)養(よう)活動のモデル的事業の普及、学校と博物館が効果的に連携できる学習支援活動の普及、自然科学系博物館の学芸員向け研修等を行っている。

(3)日本学術会議や学協会における取組

 日本学術会議は、学術の成果を国民に還元するための活動の一環として学術フォーラムを開催しており、平成30年度は、「ジェンダー視点が変える科学・技術の未来~GS10フォローアップ~」、「軍事的安全保障研究をめぐる現状と課題―日本学術会議アンケート結果をふまえて」や「平成30年夏に複合的に連続発生した自然災害と学会調査報告」などの広範囲なテーマについて計6回開催した。
 大学などの研究者を中心に自主的に組織された学協会は、研究組織を超えた人的交流や研究評価の場として重要な役割を果たしており、最新の研究成果を発信する研究集会などの開催や学会誌の刊行などを通じて、学術研究の発展に大きく寄与している。
 文部科学省は、学協会による国際会議やシンポジウムの開催及び国際情報発信力を強化する取組などに対して、科学研究費助成事業「研究成果公開促進費」による助成を行っている。

(4)リスクコミュニケーションの推進

 文部科学省は、「リスクコミュニケーションの推進方策」(平成26年3月27日文部科学省 科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 安全・安心科学技術及び社会連携委員会)を踏まえ、平成26年度より「リスクコミュニケーションのモデル形成事業」を実施している。平成28年度に3機関の取組を採択し、合わせて5機関を支援している(平成31年3月現在)。
 食品の安全性に関するリスクコミュニケーションは、消費者庁、食品安全委員会、厚生労働省や農林水産省等の関係府省が連携し、その取組を推進している。本取組は、平成15年に制定された「食品安全基本法」(平成15年法律第48号)に、国の責務として位置付けられており、輸入食品の安全性、食品に残留する農薬等のほか、食品添加物の安全性、食中毒防止対策、食品の安全を守る取組、健康食品の安全性などのテーマについて意見交換会等を開催している。特に、平成23年度以降、東電福島第一原子力発電所の事故を受け、食品中の放射性物質対策に関しては、一般消費者を対象とした意見交換会に加え、親子参加型のイベントに出展する等、積極的にリスクコミュニケーションに取り組んでいる。

3 政策形成への科学的助言

 文部科学省は、客観的根拠(エビデンス)に基づいた合理的なプロセスによる科学技術イノベーション政策の形成の実現を目指し、「科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」推進事業」を実施している。本事業では、「科学技術イノベーション政策」を科学的に進めるための「科学」を深化させる研究人材や「科学技術イノベーション政策」の社会での実装を支える人材の育成を行う拠点(大学)に対して支援を行うとともに、これらの複数の拠点をネットワークによって結び、我が国全体で体系的な人材育成が可能となる仕組みを構築している。また、政策研究大学院大学(総合拠点)に設置した「科学技術イノベーション政策研究センター(SciREX(※1)センター)」を中心として、東京大学、一橋大学、大阪大学、京都大学及び九州大学(領域開拓拠点)との連携協力・協働の下に中核的拠点機能を整備し、政府研究開発投資の経済的・社会的波及効果に関する調査研究など、エビデンスに基づく政策の実践のための指標や手法等の開発を行っている。
 科学技術・学術政策研究所は、科学技術イノベーションに関する政策形成及び調査・分析・研究に活用するデータ等を体系的かつ継続的に整備・蓄積していくためのデータ・情報基盤の構築を行っている。当該基盤を活用した調査研究の成果は、内閣府及び文部科学省の各種政策審議会等に提供・活用されている。
科学技術振興機構 社会技術研究開発センターは、社会における課題とその解決に必要な科学技術の現状と可能性などを、多面的な視点から把握・分析し、それらのエビデンスに基づき、合理的なプロセスにより政策を形成するための手法や指標などの研究開発を公募事業によって支援している(平成28年度より第2期)。平成30年度は、平成29年度までに採択された7件に加え、新たに採択された4件について研究開発と成果の政策実装を推進した。
 また、科学技術振興機構研究開発戦略センターは、国内外の科学技術イノベーションの動向及びそれらに関する政策動向の把握・俯瞰(ふかん)を行い、科学技術イノベーション政策や研究開発戦略を提言している。


  • ※1 Science for RE-designing Science Technology and Innovation Policy

4 倫理的・法制度的・社会的取組

(1)ライフサイエンス研究の体制整備に係る取組

ア 生命倫理に対する取組

 近年のライフサイエンスの急速な発展は、人類の福利向上に大きく貢献する一方、人の尊厳や人権に関わるような生命倫理の課題を生じさせる可能性があり、関係府省において、必要な規制等を行っている。
 クローン技術等を用いる研究については、「ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律」(平成12年法律第146号)等に基づき、その適正な実施の確保を図っている。平成30年度には、「特定胚の取扱いに関する指針」(平成31年文部科学省告示第31号)を改正し、動物の体内でヒトの臓器を作る等の基礎的研究が実施可能となった。また、近年、生物の遺伝子を狙いどおりに容易に改変することを可能とするゲノム編集技術が世界的に急速に発展していることを受け、平成31年4月に「ヒト受精胚に遺伝情報改変技術等を用いる研究に関する倫理指針」(平成31年文部科学省・厚生労働省告示第3号)を策定し、生殖補助医療に資する基礎的研究を実施するための枠組みを整備した。また、ヒトES細胞を用いる研究については、「ヒトES細胞の樹立に関する指針」(平成31年文部科学省・厚生労働省告示第3号)、「ヒトES細胞の使用に関する指針」(平成31年文部科学省告示第68号)及び「ヒトES細胞の分配機関に関する指針」(平成31年文部科学省告示第69号)を平成31年4月に整備し、ES細胞の海外機関への臨床目的での分配を可能とするとともに、取扱いに関する手続の合理化を図っている。

イ ライフサイエンスにおける安全性の確保への取組

 遺伝子組換え技術は、自然界に存在しない新しい遺伝子の組合せをもたらす技術であることから、当該技術の利用により得られた生物については、生物の多様性を確保するため、「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」(平成15年法律第97号)に基づいて必要な規制を行っている。また、平成31年2月に、環境省においてゲノム編集技術により得られた生物の取扱いが取りまとめられたことを受け、関係省庁において、当該生物の使用上の具体的な取扱いに係る留意事項等を作成し、広く周知を図ることとしている。

ウ 動物実験等の適切な実施に対する取組

 「動物の愛護及び管理に関する法律」(昭和48年法律第105号)において、動物実験等については、3R(※2)の概念が明記されている。同法に基づき、実験動物については「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準」(平成18年環境省告示第88号)を定めている。文部科学省、厚生労働省及び農林水産省は、上記の基準も踏まえ、各省が所管する研究機関等に対して統一的な内容で基本指針(※3)を策定し、本指針に基づき動物実験等が適正に実施されるよう指導を行っている。


  • ※2 代替法の活用:Replacement、使用数の削減:Reduction、苦痛の軽減:Refinement
  • ※3 「研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針」(平成18年文部科学省告示第71号)、「厚生労働省の所管する実施機関における動物実験等の実施に関する基本指針」(厚生労働省:平成18年厚生科学課長通知)、「農林水産省の所管する研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針」(農林水産省:平成18年農林水産技術会議事務局長通知)

(2)人工知能等の研究の体制整備に係る取組

 総務省は、平成28年10月に立ち上げた「AIネットワーク社会推進会議」において、AIネットワーク化の推進に向けた社会的・経済的・倫理的・法的課題を総合的に検討している。平成29年7月に、AIの開発者が留意することが期待される事項として「国際的な議論のためのAI開発ガイドライン案(報告書2017)」を取りまとめたことに続き、平成30年7月には、利活用の段階においてAIの利用者等が留意することが期待される事項として「AI利活用原則案(報告書2018)」を整理した。内閣府が関係府省と合同で、平成30年4月に設置した「人間中心のAI社会原則検討会議」において、人工知能に係る技術及び人工知能の中長期的な研究開発、利活用等に当たって考慮すべき倫理等に関する産学民官の共通の基本原則を議論するとともに、統合イノベーション戦略推進会議において、平成31年3月に「人間中心のAI社会原則」を決定した。これらの成果を踏まえ、UNESCO(※4)、G7やOECD(※5)等の場においてAIに関する国際的な議論を推進することとしている。


  • ※4 United Nations Educational,Scientific and Cultural Organization:国際連合教育科学文化機関
  • ※5 Organisation for Economic Cooperation and Development:経済協力開発機構

第2節 研究の公正性の確保

 研究者が社会の多様なステークホルダーとの信頼関係を構築するためには、研究の公正性の確保が前提であり、研究不正行為に対する不断の対応が科学技術イノベーションへの社会的な信頼や負託に応え、その推進力を向上させるものであることを、研究者及び大学等の研究機関は十分に認識する必要がある。
 研究不正の問題が相次いでいることを踏まえ、文部科学省では、「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」(平成26年8月26日文部科学大臣決定)に基づく履行状況調査を実施し、調査結果を踏まえて指導するなど、研究機関における取組の徹底を図るとともに、日本学術振興会、科学技術振興機構及び日本医療研究開発機構と連携し、研究機関による研究倫理教育の実施等を支援するなどの公正な研究活動を推進するための取組を行っている。
 研究費の不正使用については、「研究機関における公的研究費の管理・監査のガイドライン(実施基準)」(平成26年2月18日改正。文部科学大臣決定)に基づく履行状況調査を実施し、研究機関における公的研究費の適切な執行体制の整備、その運用を促進している。
 経済産業省では、「研究活動の不正行為への対応に関する指針(平成27年1月15日改正)」及び「公的研究費の不正な使用等の対応に関する指針(平成27年1月15日改正)」により対応を行っている。
 また、不正行為等に関与した者の情報を関係府省で共有し、「競争的資金の適正な執行に関する指針(平成29年6月22日改正)競争的資金に関する関係府省連絡会申し合わせ」に基づき、関係府省全ての競争的資金への応募資格制限等を行っている。

お問合せ先

科学技術・学術政策局企画評価課

(科学技術・学術政策局企画評価課)

-- 登録:令和元年07月 --