第5章 イノベーション創出に向けた人材、知、資金の好循環システムの構築

 国内外の知的資源を活用し、新しい価値の創出とその社会実装を迅速に進めるため、企業、大学や公的研究機関の本格的連携とベンチャー企業の創出強化等を通じて、人材、知、資金が、組織やセクター、さらには国境を越えて循環し、各々が持つ力を十分に引き出し、イノベーションが生み出されるシステムの構築を進め、我が国全体の国際競争力を強化し、経済成長を加速させることとしている。

第1節 オープンイノベーションを推進する仕組みの強化

 イノベーションを結実させるのは主として企業であるが、よりスピード感ある社会実装を実現していくためには、大学や公的研究機関との協働や従来以上に柔軟な産産連携が重要となっている。グローバルな次元でオープンイノベーションを推進するため、各主体がそれぞれの強みを生かして相互補完的に連携、共創できる仕組みの構築や、人材、知、資金の流動性を高めてイノベーションが興りやすい環境を整備していくことが重要である。

1 企業、大学、公的研究機関における推進体制の強化

(1)国内外の産学連携活動の現状

ア 大学等における産学官連携活動の実施状況

 平成16年4月の国立大学法人化以降、総じて大学等における産学官連携活動は着実に実績を上げている。平成29年度は、大学等と民間企業との「共同研究実施件数」は2万5,451件(前年度比10.6%増)、「研究費受入額」は約608億円(前年度15.7%増)と、前年度と比べて増加しており、平成26年度と比べると、「研究費受入額」は約1.46倍になっている。また、「特許権実施等件数」は1万5,798件になっている(第2‐5‐1図)。

 第2‐5‐1図/大学等における共同研究等の実績

イ 技術移転機関(TLO(※1))における活動状況

 平成29年8月28日現在、35のTLOが「大学等における技術に関する研究成果の民間事業者への移転の促進に関する法律」(平成10年法律第52号)に基づき文部科学省及び経済産業省の承認を受けており、平成28年度における特許実施許諾件数は9,120件となっている。
 この点、昨今の第4次産業革命への対応ともあいまって、大学における研究成果の社会還元を一層進めることが産業技術の向上や新たな事業分野の開拓に資することとなる。こうしたことから、「大学における産学連携機能の充実強化に関する検討会」において、イノベーションシステムにおける大学の研究成果の活用を推進する方策として、大学とTLOとの連携の在り方や技術移転の拠点構築等に関する議論のまとめが報告された(平成30年7月)。


  • ※1 Technology Licensing Organization

(2)大学等の産学官連携体制の整備

 政府は、我が国の大学・国立研究開発法人と外国企業との共同研究等の産学官連携体制に関し、安全保障貿易管理等に配慮した外国企業との連携に係るガイドラインの検討を開始した。
 文部科学省は、産学官連携の体制を強化し、企業から大学・国立研究開発法人等への投資を今後10年間で3倍に増やすことを目指す政府目標を踏まえ、経済産業省と共同して開催した「イノベーション促進産学官対話会議」において、産業界から見た、大学・国立研究開発法人が産学官連携機能を強化する上での課題とそれに対する処方箋を取りまとめた「産学官連携による共同研究強化のためのガイドライン」を平成28年11月に策定し、その普及に努めている。また、平成30年度から「オープンイノベーション機構の整備」を開始し、企業の事業戦略に深く関わる大型共同研究(競争領域に重点)を集中的にマネジメントする体制の整備を通じて、大型共同研究の推進により民間投資の促進を図っている。
 さらに、産学官連携活動の活発化に伴うリスクの多様化(例えば、利益相反、技術流出防止等)に適切に対応するため、「産学官連携リスクマネジメントモデル事業」を通じて、全国の大学等における産学官連携リスクマネジメント体制の整備・システムの構築を支援するとともに、本部主導による横断的なマネジメントを実施するための体制整備を支援している。また、平成30年5月、一般社団法人日本経済団体連合会及び経済産業省と共同で「産学官共同研究におけるマッチング促進のための大学ファクトブック」を改訂・公表し、産学官連携活動に関する大学の取組の「見える化」を進めた。
 農林水産省は、産学連携支援事業により、全国に農林水産・食品産業分野を専門とするコーディネーターを配置し、ニーズの収集・把握、シーズの収集・提供を行うとともに、産学官のマッチング支援や研究開発資金の紹介・取得支援、商品化・事業化支援等を実施している。

(3)産学官の共同研究開発の強化

 科学技術振興機構は、大学等の研究成果の実用化促進のため、大学や公的研究機関等における有望なシーズ発掘から事業化に至るまで、切れ目ない支援を実施する「研究成果最適展開支援プログラム(A‐STEP(※2))」、優れた研究成果を基に設定したテーマの下で研究開発を行い、新産業創出の礎となる技術の確立を支援する「戦略的イノベーション創出推進プログラム(S‐イノベ)」、産業界が抱える技術課題の解決に資する大学等の基礎研究を支援する「産学共創基礎基盤研究プログラム」を推進している。また、国から出資された資金等により、大学等の研究成果を用いて企業が行う開発リスクを伴う大規模な事業化開発を支援する「産学共同実用化開発事業(NexTEP(※3))」を実施している。
 総務省は、情報通信研究機構(NICT(※4))が構築・運営しているNICT総合テストベッドにより、産学官連携によるIoTや新世代ネットワーク等の技術実証・社会実証を推進している。

  • ※2 Adaptable and Seamless Technology Transfer Program
  • ※3 Next‐Generation Technology Transfer Program
  • ※4 National Institute of Information and Communications Technology

(4)民間の研究開発投資促進に向けた税制措置

 政府は、民間における研究開発を促進するため、第2‐5‐2図のとおり、研究開発税制(※5)を設けている。
 研究開発税制とは、世界の潮流の中にあって、我が国を「世界で最もイノベーションに適した国」に変革するために、研究開発を行っている企業の法人税額から、試験研究費の額に税額控除割合を乗じた金額を控除できる制度である。民間企業の研究開発投資を維持、拡大することにより、イノベーション創出につながる中長期・革新的な研究開発等を促し、我が国の成長力・国際競争力を強化することを目的としている。


  • ※5 試験研究を行う企業に対し、試験研究の額に応じて法人税を控除する制度。

 第2‐5‐2図/研究開発税制

(5)表彰制度の活用

ア 第1回 日本オープンイノベーション大賞(平成30年度)

 我が国におけるイノベーション創出の加速を目指し、オープンイノベーションのロールモデルとなる先導的又は独創的な取組・プロジェクト14件に対し、内閣総理大臣賞をはじめとする各省大臣賞等を授与した(第2‐5‐3表)。

 第2‐5‐3表/第1回 日本オープンイノベーション大賞

コラム2‐11日本オープンイノベーション大賞の創設

 近年のイノベーションの創出を巡る国際的な競争が激化する中で、研究開発等の成果を迅速に社会実装し、社会的ニーズの解決や新たな価値の創造につなげる際のオープンイノベーションの重要性が高まり、科学技術イノベーションの創出プロセスが大きく変化する中での産学官の様々な主体の連携の必要性が出ている。この状況を踏まえ、従前の「産学官連携功労者表彰」を見直し、産学官連携のほか、産産連携や市民、ユーザー等が参画した幅広い連携も対象とし、多様で新規的な取組についても称える「日本オープンイノベーション大賞」を創設した。
 イノベーションの創出を加速するため、本表彰を通じ、今後のロールモデルとして期待される先導性や独創性の高い取組・プロジェクトについて、内閣総理大臣賞をはじめとする関係省庁の大臣表彰、経済団体や学術団体の会長賞として表彰し、我が国のオープンイノベーションの拡大を図っている。第1回表彰では、14件の取組・プロジェクトが受賞した。

日本オープンイノベーション大賞
 ロゴマーク
 提供:内閣府

 第1回 日本オープンイノベーション大賞 記念シンポジウム・表彰式の様子
 第1回 日本オープンイノベーション大賞 記念シンポジウム・表彰式の様子
 提供:内閣府

<内閣総理大臣賞>

 超多項目健康ビッグデータで「寿命革命」を実現する健康未来イノベーションプロジェクト

 [概要]
 最短命県青森において、住民健診から得られた2,000項目に及ぶ健康ビッグデータを、弘前大学を中心にAI研究者や生物統計家、参画企業で分析し、疾患発症予測モデルや関連事業を産学官民の強固な連携の下に開発し、社会実装につなげている。

 [受賞のポイント]
 2005年から地域事業として丁寧に集めた健康ビッグデータをオープンにして予兆法・予防法などを開発するスキームを形成。経済効果など金額に見る効果のみならず、県民の健康への価値観のシフトにも大きく貢献する事例

 超多項目健康ビッグデータで「寿命革命」を実現する健康未来イノベーションプロジェクト 概要図
 超多項目健康ビッグデータで「寿命革命」を実現する健康未来イノベーションプロジェクト 概要図
 提供:弘前大学

2 イノベーション創出に向けた人材の好循環の誘導

 イノベーションを生み出すためには、世界トップクラスの研究者等が、大学、公的研究機関、企業等の組織の壁を越えて、流動化することを促進する必要がある。
 文部科学省、経済産業省及び関係府省庁は、研究者等が複数の機関の間での出向に関する協定等に基づき、各機関に雇用されつつ、一定のエフォート管理の下で、各機関における役割に応じて研究・開発及び教育に従事することを可能にする、クロスアポイントメント制度を推進している(第4章第1節2(3)参照)。
 また、文部科学省では、国立大学等における人事給与マネジメント改革の実施を前提として、研究代表者への人件費支出が可能となるよう、直接経費支出の柔軟化に向けた検討を行っている(第4章第3節3参照)。

3 人材、知、資金が結集する「場」の形成

(1)産学官協働の「場」の構築

 科学技術によるイノベーションを効率的にかつ迅速に進めていくためには、産学官が協働し、取り組むための「場」を構築することが必要である。

ア 世界に誇る地域発研究開発・実証拠点の形成

 文部科学省は、「世界に誇る地域発研究開発・実証拠点(リサーチコンプレックス)推進プログラム」により、地域に結集する産学官金のプレイヤーが国内外の異分野融合による最先端の研究開発や成果の事業化、人材育成を一体的かつ統合的に展開するための複合型イノベーション推進基盤(リサーチコンプレックス)を成長・発展させ、世界に誇るイノベーション創出及び地方創生を実現するために、平成30年度においては3拠点の支援を実施している(第2‐5‐4図)。

 第2‐5‐4図/世界に誇る地域発研究開発・実証拠点(リサーチコンプレックス)推進プログラム 各拠点の取組

イ 先端融合領域においてイノベーションを創出する拠点の形成

 文部科学省は、イノベーション創出のために特に重要と考えられる先端的な融合領域において、産学の協働により、将来的な実用化を見据えた基礎的段階からの研究開発を行う拠点を形成することを目的とした「先端融合領域イノベーション創出拠点形成プログラム」を実施しており、平成30年度においては1機関を支援している(第2‐5‐5図)。

 第2‐5‐5図/先端融合領域イノベーション創出拠点形成プログラム実施課題一覧

ウ 革新的イノベーション創出拠点の形成

 文部科学省では平成25年度から「センター・オブ・イノベーション(COI(※6))プログラム」を実施しており、全18拠点で革新的イノベーションを産学連携で実現するための研究開発を推進している(第2‐5‐6図)(第1部第4章2(1)参照)。


  • ※6 Center of Innovation

 第2‐5‐6図/COI拠点一覧

 産業技術総合研究所は、産業技術に関する産業界や社会からの多様なニーズを捉えながら、技術シーズの発掘や研究開発プロジェクトの推進を行っている。具体的な取組としては、オープンイノベーションハブとしての「つくばイノベーションアリーナ(TIA)」の活動を推進するとともに、共創の場の形成の一環として18の技術研究組合に参画している(平成31年1月現在)。

エ オープンイノベーションを加速する産学共創プラットフォームの形成

 科学技術振興機構は、平成28年度より「産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERA(※7))」を実施しており、民間企業とのマッチングファンドにより、複数企業から成るコンソーシアム型の連携による非競争領域における大型共同研究と博士課程学生等の人材育成、大学の産学連携システム改革等とを一体的に推進することにより、「組織」対「組織」による本格的産学連携を実現し、我が国のオープンイノベーションの本格的駆動を図っている。


  • ※7 Program on Open Innovation Platform with Enterprises, Research Institute and Academia

(2)オープンイノベーション拠点の形成

ア 筑波研究学園都市

 筑波研究学園都市は、我が国における高水準の試験研究・教育の拠点形成と東京の過密緩和への寄与を目的として建設されており、29の国等の試験研究・教育機関をはじめ、およそ150の民間の研究機関・企業等が立地しており、研究交流の促進や国際的研究交流機能の整備等の諸施策を推進している。
 TIAは、同都市にある公的4機関、産業技術総合研究所、物質・材料研究機構、筑波大学、高エネルギー加速器研究機構と東京大学を中心に運営されているオープンイノベーション拠点である。設立9年目の平成30年度には、材料開発やパワーデバイス開発の成果による実用化や製品化と新原理LSIの実用化試験など、企業連携によるイノベーションが結実している。また、TIAの人材育成事業では、サマーオープンフェスティバルに学生や企業研究者等383名、若手研究人材の育成を目的とする事業(Nanotech CUPAL(※8))に延べ200名が参加した(両者の重複約50名)。


  • ※8 Nanotech Career‐up Alliance
イ 関西文化学術研究都市

 関西文化学術研究都市は、我が国及び世界の文化・学術・研究の発展並びに国民経済の発展に資するため、その拠点となる都市の建設を推進している。平成30年度現在の立地施設数は140を超え、多様な研究活動等が展開されている。

(3)多様な分野との産学連携を行う「オープンイノベーションの場」の推進

 農林水産省は、様々な分野の革新的な技術を農林水産・食品分野に導入することで、技術革新を進め、市場ニーズを踏まえた商品化・事業化をこれまでにないスピード感を持って実現するため、「知」の集積と活用の場(R)の取組を推進している。
 平成28年4月には「「知」の集積と活用の場 産学官連携協議会」を立ち上げ、平成31年3月時点で3,057の多様な業種の企業等が会員となるとともに、特定の研究課題に取り組む164の研究開発プラットフォームが設立されている。さらに、研究開発プラットフォームから革新的な研究開発を行う研究コンソーシアムが形成されており、マッチングファンド方式の提案公募型事業により43課題を支援している。そのほか、地域の研究開発と技術の普及促進を支援する地域マッチングフォーラムの開催等の取組を進めている。

(4)技術シーズとニーズのマッチングを促進する環境の醸成

 内閣府は、技術シーズとニーズの実効あるマッチングを推進し、産学や産産間のオープンイノベーションの活性化及び研究開発型ベンチャー企業の創造・育成を加速する観点から、関係省庁や産業界等による各種マッチング事業の横断的な連携や交流が自律的、柔軟に行われる環境作りのため、サイエンス&イノベーション・インテグレーション(S&2)協議会を平成29年7月に設立した。その活動の一環として、平成31年には技術シーズとニーズのマッチングや業際的な支援人材の交流をテーマとした講演・シンポジウムを実施したほか、官民の支援人材によるネットワークの構築に向けたヒアリング調査を開始した。
文部科学省及び経済産業省は、科学技術振興機構や新エネルギー・産業技術総合開発機構と協力し、平成30年8月30日、31日に大学、公的研究機関、民間企業等の関係者が一堂に会する国内最大規模の産業界と大学等のマッチングイベント「イノベーション・ジャパン2018~大学見本市&ビジネスマッチング~」を東京ビッグサイトにおいて開催した。
 農林水産省は、農林水産・食品産業分野の研究を行う民間企業、大学、公設試験研究機関(以下「公設試」という。)、独立行政法人等の技術シーズを展示し、技術に対するニーズを有する機関との連携を促進するため、各省・各機関と連携し「アグリビジネス創出フェア」を毎年度開催している。平成30年度も、新技術の産業利用を進めている民間企業主体の展示会と同じ会場において11月に同時開催し、全国から137機関が出展し、約3万8,000人が来場した。

 第2‐5‐7表/オープンイノベーションを推進するための仕組みの強化のための主な施策(平成30年度)

第2節 新規事業に挑戦する中小・ベンチャー企業の創出強化

 技術シーズを短期間で新規事業につなげるようなイノベーションの創出は、迅速かつ小回りの利く中小・ベンチャー企業との親和性が高い。中小・ベンチャー企業の企業活動を下支えし、スピード感を損なうことなく市場創出につなげられるよう、産学官が一体となって継続的及び効果的に支援する体制を構築することが重要である。

1 起業家マインドを持つ人材の育成

 文部科学省において、学部学生や大学院生、若手研究者等に対するアントレプレナー育成プログラムの実施により、我が国のベンチャー創出力を強化する「次世代アントレプレナー育成事業(EDGE‐NEXT)」を平成29年度から実施している。

2 大学発ベンチャーの創出促進

 大学発ベンチャーの新規創設数は、一時期減少傾向にあり、平成22年度は1年当たり47件に至ったが、近年は回復基調にあり、平成28年度の実績は127件となった(対前年比33.7%増)。今後は、真に市場ニーズを捉え、強くグローバルに成長することのできる質の高い大学発ベンチャーの創出に向けて、創業後の販路開拓などのビジネス面を含め、持続的な経営に資する環境を整備していく必要がある。
 科学技術振興機構は、「大学発新産業創出プログラム(START(※9))」を実施しており、起業前の段階から公的資金と民間の事業化ノウハウ等を組み合わせることにより、成長性のある大学等発ベンチャーの創出を目指した支援を行っている。また、平成29年度よりSTARTの中において、成果の社会実装に意欲を持つ人材に対しアントレプレナー教育の提供とビジネスモデル探索活動を支援する「社会還元加速プログラム(SCORE(※10))」を実施している。「出資型新事業創出支援プログラム(SUCCESS(※11))」では、科学技術振興機構の研究開発成果を活用するベンチャー企業の設立・増資に際して出資又は人的・技術的援助を実施することにより、当該企業の事業活動を通じて研究開発成果の実用化を促進している。


  • ※9 Program for Creating Start‐ups from Advanced Research and Technology
  • ※10 Program of Start‐up incubation from COre RESearch
  • ※11 SUpport program of Capital Contribution to Early‐Stage Companies

3 新規事業のための環境創出

(1)研究開発型ベンチャー等に対する支援

 総務省は、「ICTイノベーション創出チャレンジプログラム(I‐Challenge!)」を実施している。本事業では、革新的な技術シーズやアイディアを持つ中小企業等による新事業の創出を実現するため、事業化支援の専門家の目利き機能や経営・事業化ノウハウを活用しつつ、ビジネスモデル実証フェーズの研究開発を支援している。
 経済産業省は、新エネルギー・産業技術総合開発機構を通じて、我が国における技術シーズの発掘から事業化までを一体的に支援する「研究開発型スタートアップ支援事業」を実施している。これに加えて、産業界におけるベンチャー企業をパートナーとする連携の活性化、ベンチャー企業における事業化の加速化を図るべく、事業会社と研究開発型ベンチャー企業の連携プロセスでそれぞれがぶつかる壁についてまとめた「連携の手引き(初版)」に続き、特に課題が多いと考えられる事業会社内で想定される壁に着目し、その対応策をまとめ、平成30年6月「連携の手引き(第二版)」として公表した。

(2)中小企業技術革新制度(SBIR制度)による支援

 SBIR制度においては、中小企業者及び事業を営んでいない個人(※12)が行う新技術に関する研究開発のための補助金・委託費等(特定補助金等)の支出の機会の増大を図るとともに、特許料等の減免や株式会社日本政策金融公庫による特別貸付等の事業化支援措置を講じている。平成30年度は、関係7省(総務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省)で合計91の特定補助金等を指定し、中小企業者・小規模事業者等への支出目標額を約460億円に定めた。


  • ※12 例えば、大学の研究者、新規に開業や会社設立をしようとしている個人などが考えられる。

4 新製品・サービスに対する初期需要の確保と信頼性付与

(1)公共調達の活用等による中小・ベンチャー企業の育成・強化

 内閣府は、公共調達を活用した中小・ベンチャー企業支援策として、国の機関が有する具体的ニーズに中小・ベンチャー企業が挑戦し、企業の新たな技術や着想を発掘し事業化に資する取組「内閣府オープンイノベーションチャレンジ2017」(中小・ベンチャー企業による公共調達の活用推進プログラム)を実施し、認定した15件の中小・ベンチャー企業の提案に対し、内閣府が準備するアドバイザーによる助言及び事業会社等とのマッチング等の機会を提供した。また、政府事業のイノベーション化と中小・ベンチャー企業の初期需要確保を目的として、公共調達における中小・ベンチャー企業の活用等を促進するためのガイドラインを策定した。

第3節 国際的な知的財産・標準化の戦略的活用

 知的財産マネジメントの質を一層高めるためには、自らが保有する知的財産等の活用のみならず、その価値を最大化する知的財産戦略が重要である。このため、知的財産・標準化戦略について、事業戦略に組み込むよう浸透させていくとともに、各主体の意識を高め、特許を活用することで新たなオープンイノベーションが創出されるよう促すこととしている。

1 イノベーション創出における知的財産の活用促進

 世界的なイノベーションの環境変化に対応し、国際標準化戦略を策定・実行するとともに、知的財産制度の見直し、知的財産活動に関わる体制整備を進めるため、以下のような取組を進めている。

(1)国の研究開発プロジェクトにおける知的財産(知的財産権・研究開発データ)マネジメント

ア 特許権等の知的財産権に関する取組

 経済産業省は、国の研究開発の成果を最大限事業化に結び付けるため、「委託研究開発における知的財産マネジメントに関する運用ガイドライン」(平成27年5月)に基づき、国の委託による研究開発プロジェクトごとに適切な知的財産マネジメントを実施している。
農林水産省は、農林水産分野に係る国の研究開発において、「農林水産研究における知的財産に関する方針」(平成28年2月)に基づき、研究の開始段階から研究成果の社会実装を想定した知的財産マネジメントに取り組んでいる。

イ 研究開発データに関する取組

 経済産業省は、第4次産業革命の進展を踏まえ研究開発データの利活用促進を通じた新たなビジネスの創出や競争力の強化を図るため「委託研究開発におけるデータマネジメントに関する運用ガイドライン」(平成29年12月)に基づき、平成30年3月より、利活用可能な研究開発データを登録するナショプロデータカタログ(※13)の掲載を開始した。


  • ※13 http://www.meti.go.jp/policy/innovation_policy/data_manegement.html

(2)特許情報等の整備・提供

 特許庁は、特許情報について、高度化、多様化するユーザーニーズに応えるべく、工業所有権情報・研修館を通じて、インターネットを介した特許情報提供サービス「特許情報プラットフォーム(J‐PlatPat(※14))」の提供を行っている。
 また、外国特許文献、特に急増する中国・韓国特許文献を調査できるよう、「中韓文献翻訳・検索システム」や、東南アジア諸国連合(ASEAN(※15))諸国等、諸外国の特許情報を提供する「外国特許情報サービス(FOPISER(※16))」の提供を行っている。
 そのほか、工業所有権情報・研修館ではオープンイノベーションを促進する一助として、企業・大学、公的試験研究機関等が実施許諾又は権利譲渡の用意がある「開放特許」「リサーチツール特許」の情報を収録したデータベースサービスを提供している。
 科学技術振興機構は、優れた研究成果の発掘、特許化の支援から、企業化開発に至るまでの一貫した取組を進めている。具体的には、「知財活用支援事業」において、大学等における研究成果の戦略的な海外特許取得の支援、大学等に散在している特許権等の集約・パッケージ化による活用促進、大学等の特許情報のインターネットでの無料提供(J‐STORE(※17))を実施するなど、大学等の知的財産の総合的活用を支援している。


  • ※14 https://www.j‐platpat.inpit.go.jp/
  • ※15 Association of South‐East Asian Nations
  • ※16 Foreign Patent Information Service https://www.foreignsearch.jpo.go.jp/
  • ※17 https://jstore.jst.go.jp/

(3)早期審査制度の実施

 特許庁は、特許の権利化のタイミングに対する出願人の多様なニーズに応えるため、一定の要件の下に、早期に審査を行う「早期審査制度」を実施しており、平成23年8月からは、地震により被災した企業等が知的財産を活用して復興していくことを支援するため、被災者や被災地の事業所等からの特許出願を早期に審査する「震災復興支援早期審査」を実施している。

(4)特許審査体制の整備・強化

 特許庁は、平成30年度においても、任期満了を迎えた任期付審査官の一部を再採用するなど、審査処理能力の維持・向上のため、引き続き審査体制の整備・強化を図った。

(5)事業戦略対応まとめ審査の実施

 近年、企業活動のグローバル化や事業形態の多様化に伴い、企業の知的財産戦略も事業を起点としたものに移りつつある。特許庁は、知的財産戦略に基づいた出願に対応するための審査体制について検討を進め、事業で活用される知的財産の包括的な取得を支援するため、国内外の事業に結び付く複数の知的財産(特許・意匠・商標)を対象として、分野横断的に事業展開の時期に合わせて審査・権利化を行う「事業戦略対応まとめ審査」を実施している。

(6)技術動向調査の実施・公表

 研究開発において、特許情報を活用する等、研究開発戦略と知的財産戦略との連携が求められている。このため、特許庁は、市場を獲得する可能性のある技術分野、国の研究開発プロジェクトに関連する分野を中心に、「市場動向」や「特許出願動向」等を踏まえた我が国の研究開発戦略に資する調査を行い、その結果を公表している。

(7)専門家による事業化や橋渡しの支援

 特許庁は、国際的な競争力を有する産業を創出するため、工業所有権情報・研修館を通じて、知的財産マネジメントに関する専門家である「知的財産プロデューサー」を、公的資金が投入された革新的な成果が期待される研究開発プロジェクトを推進する大学や研究開発コンソーシアム等へ派遣している。また、大学における知的財産の活用を促進するため、工業所有権情報・研修館を通じて、知的財産マネジメントに関する専門家である「産学連携知的財産アドバイザー」を、事業化を目指す産学連携活動を展開する大学へ派遣している。
 農林水産省は、国の研究事業等において、大学、国立研究開発法人、公設試験場等が連携して実施する研究計画の作成支援を行うため、知的財産の戦略的活用など技術経営(MOT(※18))的視点の導入も含め、全国に約150人の農林水産・食品産業分野を専門とするコーディネーターを配置している。


  • ※18 Management of Technology

(8)安全保障貿易管理への取組

 経済産業省は、平成30年度において、文部科学省等関係省庁と連携し、大学等向け安全保障貿易管理説明会を開催したほか、輸出管理の専門家の大学等への派遣、大学や国立研究開発法人の輸出管理担当者間のネットワーク構築の支援、研究者等向けの教育教材の提供などにより、技術情報流出の防止強化のため、大学等における管理体制強化の取組を促進した。

(9)技術等情報の管理に関する取組

 平成30年5月に成立した改正産業競争力強化法において、企業の競争力の源泉となる技術を含めた情報の適切な管理についての外部からの予測可能性を高めることにより、オープンイノベーションを進めていくため、国が認定した機関から認証を受けることができる制度を創設し、平成30年9月25日に施行した。

2 戦略的国際標準化の加速及び支援体制の強化

(1)知的財産戦略及び国際標準化戦略の推進

 経済のグローバル化が進展するとともに、経済成長の源泉である様々な知的な活動の重要性が高まる中、我が国の産業競争力強化と国民生活の向上のためには、我が国が高度な技術や豊かな文化を創造し、それをビジネスの創出や拡大に結び付けていくことが重要となっている。その基盤となるのが知的財産戦略である。
 知的財産戦略本部は、「知的財産戦略ビジョン」及び「知的財産推進計画2018」を平成30年6月に決定した。同ビジョンにおいて、我が国が目指すべき社会の姿として「価値デザイン社会」を掲げており、その実現に向け、挑戦しやすくかつ失敗が適正に評価されることや、尖(とが)った才能が育ち、活躍するための環境整備などの検討を進めている。また、同計画には、ビジネスにおいて知財を有効に活用していくため、「知財のビジネス上の価値評価」の取組を盛り込むとともに、「デザイン経営によるイノベーション創出及びブランド構築の促進」、知的資産プラットフォームの在り方の検討を含めた「オープンイノベーションの加速」、「ビジネスモデルを意識した標準、規制等のルールのデザイン」などの取組が掲げられ、同計画に沿って、知的財産戦略本部の主導の下、関係府省と共に知的財産戦略を推進している。

(2)国際標準化への積極的対応

 グローバル市場における我が国産業の競争力強化のため、日本工業規格(JIS)の対象をサービス等に拡大することやJISマークを用いた取引の信頼性確保に向けた罰則強化などを含む工業標準化法(JIS法)の改正案を第196回国会に提出し、2018年5月、改正JIS法が成立、公布された。2019年7月1日の改正JIS法の全面施行に向けて、同法に基づく政令等の整備を進めている。
 また、「未来投資戦略2018」(平成30年6月15日閣議決定)において「「知的財産推進計画」を決定し、知財・標準化戦略を推進する」と掲げられていることを踏まえ、経済産業省は、我が国企業が有利に事業展開できるような国際的なルール形成や標準化戦略策定の在り方、官民の連携体制の在り方等について引き続き検討している。
 具体的には、「平成30年度省エネルギー等に関する国際標準の獲得・普及促進事業」の一つとして、スマートマニュファクチャリングに関する国際標準化を実施している。産業技術総合研究所を中心として、民間企業数社が参画する体制において推進している。そのほか、戦略的に重要な研究開発テーマや産業横断的なテーマについて、国立研究開発法人や民間企業と連携して国際標準化活動を推進するための体制整備を行っている。また、人材育成施策としては、大学での標準化講義への経済産業省職員派遣や国際標準化をリードする若手人材を育成するための研修を開催するとともに、「標準化人材を育成する3つのアクションプラン」(平成28年度公表)に基づき開発した標準化教育に関する大学教員等向けのモデルカリキュラムや教材(ファカルティ・ディベロップメント教材)の展開及び一般財団法人日本規格協会による標準化資格制度を設けている。
 海外との協力においては、国際標準化活動におけるアジア諸国との連携や、アジア諸国の積極的な参加を促進することを目的とした技術協力を行っている。平成30年度は、日中韓3か国の標準化機関や関係企業が集まり、標準化協力分野について議論を行った。また、国際標準化機構・国際電気標準会議と連携したアジア地域向けの人材育成セミナーを実施したほか、アジア太平洋経済協力(APEC(※19))基準・適合性小委員会では、国際整合化や規格開発・普及のためのプロジェクトを進めるなど、国際標準化活動におけるアジア地域との連携強化に取り組んでいる。
 総務省は、「新たな情報通信技術戦略の在り方(平成26年諮問第22号)に関する第3次答申」(平成29年7月情報通信審議会)等の提言を踏まえ、ワイヤレス工場、スマートホーム等の重点分野における情報通信技術(ICT)の国際標準の獲得を目指して、国際電気通信連合(ITU(※20))等のデジュール標準化機関や、フォ‐ラム標準化機関等の民間のフォーラム標準化機関における標準化活動を推進している。
 国土交通省及び厚生労働省は、知的財産推進計画において、国際標準化特定戦略分野の一つに水分野が位置付けられたことを踏まえ、上下水道分野で国際展開を目指す我が国の企業が、高い競争性を発揮できる国際市場を形成することを目的として、戦略的な国際標準化を推進している。現在、「水の再利用」(ISO/TC282)、「汚泥の回収、再生利用、処理及び廃棄」(ISO/TC275)、「アセットマネジメント」(ISO/TC224/WG6及びISO/TC251)、「雨水管理」(ISO/TC224/WG11)、「危機管理」(ISO/TC224/WG)に関するワーキンググループ等へ積極的・主導的に参画している。


  • ※19 Asia Pacific Economic Cooperation
  • ※20 International Telecommunication Union

(3)特許審査の国際的な取組

 経済のグローバル化やイノベーションのオープン化が進展する中にあって、日本企業が世界中でビジネスを円滑に行うことができるよう、国際的な知財インフラを順次整備していく重要性が高まっている。このため、特許庁は、ある国で最初に特許可能と判断された出願に基づいて、他国において早期に審査が受けられる制度である「特許審査ハイウェイ(PPH(※21))」を42か国・地域との間で実施している(平成31年1月時点)。また、国際的な審査協力の新たな取組として、我が国の特許庁と米国特許商標庁は、日米両国に特許出願した発明について、日米の特許審査官がそれぞれ先行技術文献調査を実施し、その調査結果及び見解を共有した後にそれぞれの特許審査官が最初の審査結果を送付する日米協働調査試行プログラムを平成27年8月1日から実施している。さらに、PCT(※22)国際出願について、日米欧中韓の5庁が協働して国際調査報告を作成するPCT協働調査試行プログラム(PCT CS&E(※23))を平成30年7月1日より開始した。


  • ※21 Patent Prosecution Highway
  • ※22 Patent Cooperation Treaty
  • ※23 Patent Cooperation Treaty Collaborative Search and Examination

第4節イノベーション創出に向けた制度の見直しと整備

 イノベーションの源である知識や技術を迅速にビジネスとして社会に実装させるため、また、ICTの飛躍的発展に適応するよう、イノベーションが持つ社会変革のポテンシャルを最大限に引き出すため、政府は新たな製品・サービスに対応した制度の見直しを進めていくこととしている。

1 新たな製品・サービスやビジネスモデルに対応した制度の見直し

(1)イノベーションの促進に向けた規制・制度の活用

 研究開発活動を取り巻く規制・制度が、本来、研究開発活動の円滑な推進や安全性向上等を目的として設けられているものであるものの、過度に厳格なために、イノベーションを阻害していることも少なくない。政府は大胆な規制・制度改革の突破口として「国家戦略特区制度」を推進しており、あわせて、「総合特区制度」等の従来の特区制度についても継続して着実に進めていくこととしている。これらの制度を活用することによって、イノベーションの促進が期待される。

ア 国家戦略特区に関する取組

 政府は、国家戦略特区制度を基礎に、AIやビッグデータなどの先端技術を活用し、世界に先駆けて未来社会を先行実現する「丸ごと未来都市」を目指す「スーパーシティ」構想の実現に向け、より迅速・柔軟に域内独自で規制の特例を設定できる制度の創設や、Society 5.0に向けた技術的基盤の整備を進めている。また、自動車の自動運転、無人航空機(ドローン)、これらに関連する電波利用など、高度で革新的な近未来技術に関する実証実験を迅速・円滑に実施する地域限定型のサンドボックス制度の創設に向け、法案を整備している。このほかにも、遠隔服薬指導や遠隔教育のより柔軟な実施に向けて必要な制度改革等に取り組んでいる。

イ 総合特区制度に関する取組

 政府は、我が国の経済成長のエンジンとなる産業・機能の集積拠点の形成を目的とする「国際戦略総合特区」と、地域資源を最大限活用した地域活性化の取組による地域力向上を目的とする「地域活性化総合特区」において、規制の特例措置、税制・財政・金融上の支援措置などにより総合的に支援を行っている。

2 情報通信技術の飛躍的発展に対応した知的財産の制度整備

 第4次産業革命時代においては、人工知能(AI)創作物や3Dデータ、創作性を認めにくいデータベース等の新しい情報財について、その利活用が、小説、音楽や絵画などのコンテンツ産業に限らず、その他産業(製造業、農業、広告宣伝業、小売業、金融保険業、運輸業、健康産業など)にも波及することが想定され、その基盤となる知財システムの構築を進めることが産業競争力強化の観点でますます重要になってきている。
 これを踏まえ、知的財産戦略本部は「知的財産推進計画2018」において、学習済モデルやAI生成物等に係る技術動向、平成30年に改正された不正競争防止法や著作権法、改定後のデータ契約ガイドラインの運用状況等を見ながら、現行の知財制度や運用の見直しについて継続的に検討していくこととしている。また、同計画においては、新たな情報財の知財戦略強化として、オープンサイエンスが急速な広がりを見せる中、研究成果としての研究データの管理・利活用の方針や計画の策定について検討を行うこと、取引履歴を記録する技術として注目されているブロックチェーン技術の活用について検討していくことが盛り込まれている。
 経済産業省は、第4次産業革命を視野に入れた知財システムの在り方に関する検討会において、第4次産業革命に対応した企業の戦略とそれを支える知財制度・運用の在り方について検討を行い、平成29年4月に報告書を取りまとめた。報告書で示された今後実施することが適当な取組に関して、第4次産業革命に対応した知財システムの環境整備をするべく、平成30年通常国会において、不正競争防止法、工業標準化法や特許法等を含めた「不正競争防止法等の一部を改正する法律案」を提出、同年5月に成立し、同月30日に公布されたところである。
 今後、AI関連技術等が様々な技術分野で発展することが予想されるところ、AI関連技術等と関連が少なかった出願人等に審査の運用を分かりやすく示すことや特許庁として技術分野によらず統一的に特許性の判断を行うことが重要となる。そこで、特許庁は、様々な技術分野の審査官やユーザーに十分に理解されるよう、平成31年1月、AI関連技術に関する事例を「特許・実用新案審査ハンドブック」に追加した。

第5節 「地方創生」に資するイノベーションシステムの構築

 イノベーションを創出するための強みや芽は様々な地域に存在している。こうした地域の特徴を生かし、新しい製品やサービスの創出や既存産業の高付加価値化が図られていくためには、地域に自律的・持続的なイノベーションシステムが構築されることが重要である。また、次期科学技術基本計画を見据えて、今後の地域科学技術イノベーション振興施策の在り方を検討することを目的に、科学技術・学術審議会産業連携・地域支援部会の下に「地域科学技術イノベーション推進委員会」を設置し、報告書を取りまとめた(第2‐5‐8図)。

 第2‐5‐8図/地域科学技術イノベーション推進委員会 最終報告書 概要

1 地域企業の活性化

 地域イノベーション・エコシステムの形成と地方創生の実現に向けて、イノベーション実現のきっかけ・仕組み作りの量的拡大を図る段階から、具体的に地域の技術シーズ等を生かし、地域からグローバル展開を前提とした社会的なインパクトの大きい事業化の成功モデルを創出する段階へと転換が求められている。このため、文部科学省は、平成28年度より開始した「地域イノベーション・エコシステム形成プログラム」により、地域の成長に貢献しようとする地域大学に事業プロデュースチームを創設し、地域の競争力の源泉(コア技術等)を核に地域内外の人材や技術を取り込み、グローバル展開が可能な事業化計画を策定し、リスクは高いが社会的インパクトが大きい事業化プロジェクトを支援している。平成30年度までに全19地域が採択されている(第2‐5‐9図)。
 経済産業省は、地域中核企業候補が新分野・新事業等に挑戦する取組を支援し、その成長を促進するため、支援人材を活用して、全国規模の外部リソース(大学、協力企業、金融機関等)とのネットワーク構築や、地域中核企業の更なる成長のための事業化戦略の立案/販路開拓等を支援している。そのほか、関係省庁とも連携を図りつつ、国際市場に通用する事業化等に精通した専門家であるグローバル・コーディネーターを組織化した「グローバル・ネットワーク協議会」を通じ、グローバル市場も視野に入れた事業化戦略の立案や販路開拓等を支援している。

 第2‐5‐9図/地域イノベーション・エコシステムによる支援地域一覧

 加えて、「新市場創造型標準化制度」の活用においては、企業等から提案のあった案件について、平成30年度末時点で規格を19件制定した。また、自治体・産業振興機関、地域金融機関、大学・公的研究機関(パートナー機関)と一般財団法人日本規格協会が連携し、地域において標準化の戦略的活用に関する情報提供・助言等を行う「標準化活用支援パートナーシップ制度」のパートナー機関数を平成30年度末時点で159機関に拡大し、全国47都道府県に設置している。

2 地域の特性を生かしたイノベーションシステムの駆動

(1)地域イノベーションシステムの構築

 総務省、文部科学省、農林水産省及び経済産業省は、地域イノベーションの創出に向けて、地方公共団体、大学等研究機関、産業界及び金融機関の連携・協力により策定した主体的かつ優れた構想を持つ地域を「地域イノベーション戦略推進地域」として選定し、研究段階から事業化に至るまで連続的な展開ができるよう、関係省の施策を総動員して支援するシステムを構築している。
 平成30年度現在、国際的に優位な大学等の技術シーズや企業集積があり、海外からヒト・モノ・カネを引き付ける強力なポテンシャルを有する「国際競争力強化地域」20地域と、地域の特性を生かしたイノベーションが期待でき、将来的には海外市場を獲得できるポテンシャルを有する「研究機能・産業集積高度化地域」25地域の計45地域を選定している(第2‐5‐10図)。

 第2‐5‐10図/地域イノベーション戦略推進地域 選定地域一覧

 総務省は、「戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE(※24))」において、「新たな情報通信技術戦略の在り方 中間答申・第2次中間答申」を踏まえた、IoT/BD(※25)/AI時代に対応して、実用化・社会実装を意識した、新たな価値の創造、社会システムの変革並びに地域の活性化及び課題の解決に寄与するICTの研究開発を推進している。
経済産業省は、「地域未来オープンイノベーション・プラットフォーム構築事業」により、公設試・大学等に対しIoT設備等の導入を支援することを通じ、地域企業によるIoT関連技術の活用を促す環境を整え、地域イノベーション創出のための新たなプラットフォームを整備している。
 特許庁は、地方における事業化機能拡充のため、潜在ニーズを掘り起こして事業を構想し、金融機関を含む地域ネットワークを構築・活用しながらシーズのマッチングから事業資金調達、販路開拓までを含めた事業創出環境整備を支援する「事業プロデューサー」を、平成28年度から平成30年度までに3機関に1名ずつ計3名派遣した。
 農林水産省は、農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センターが実施する「イノベーション創出強化研究推進事業」において、農林水産・食品分野におけるイノベーションを創出するため、様々な分野の多様な知識・技術等を結集した研究開発を重点的に推進する提案公募型研究開発を推進しており、地域イノベーション戦略の推進に向けた研究を支援している。また、農林水産業・食品産業分野を専門とする産学連携コーディネーターを全国に配置し、ニーズの収集・把握、シーズの収集・提供を行うとともに、産学官のマッチング支援や研究開発資金の紹介・取得支援、商品化・事業化支援等を通じ、地域における農林水産・食品分野の研究開発の振興を図っている。そのほか、地域の研究開発と技術の普及促進を支援する地域マッチングフォーラムの開催等の取組を進めている。
 産業技術総合研究所は、公設試等と人的交流などを通して密接に連携して地域企業のニーズの発掘に努めるとともに、産業技術総合研究所の技術シーズを活用した地域企業への技術支援を行っている。具体的には、公設試等職員やその幹部経験者等127名を地域企業への「橋渡し」の調整役として「産総研イノベーションコーディネータ」に委嘱・雇用したり、産業技術連携推進会議を通じて公設試相互及び公設試と産業技術総合研究所との協力体制を強化するとともに、公設試職員の技術力向上や人材育成を支援している。また、包括協定を締結するなど、地方自治体との連携を積極的に進め、地方自治体の予算による補助事業の活用等により、地域産業特性に応じた技術分野での連携を推進している。このような産業技術総合研究所の技術シーズを事業化につなぐ「橋渡し」を地域及び全国レベルで行い、地域企業の技術競争力強化に資することで地方創生に取り組んでいる。


  • ※24 Stracegic Information and Communications R&D Promotion Programme
  • ※25 Big Data

(2)地域における知的財産の権利化支援

 特許庁は、全国各地の面接会場に審査官・審判官が出張する出張面接、インターネット回線を利用し出願人自身のPCから参加できるテレビ面接及び各地で口頭審理を行う巡回審判を実施した。また、INPIT(※26)近畿統括本部(INPIT‐KANSAI)を活用し、近畿地域を中心として地方の知財支援を展開した。


  • ※26 National Center for Industrial ProPerty Information and Training

3 地域が主体となる施策の推進

(1)地域の自律的・持続的な成長に向けた支援

 地域が自身の強みを生かしたイノベーションシステムを主体的に構築し、自律的・持続的に成長していくために中長期的な視点に立った支援が重要である。
 内閣府は、文部科学省と共に、省庁や地方自治体が地域におけるイノベーション・エコシステムの状況について把握するための点検指標の設定に関する検討を行っている。
 特許庁は、平成28年9月に策定した「地域知財活性化行動計画」に基づき設定した「都道府県ごとの特色を踏まえた平成31年度までの目標」の達成に向けて、地域・中小企業に対する支援施策を実施するとともに、現状の課題や今後の改善点について検証を行った。

 第2‐5‐11表/「地方創生」に資するイノベーションシステムの構築のための主な施策(平成30年度)

第6節 グローバルなニーズを先取りしたイノベーション創出機会の開拓

 世界的な共通課題であるエネルギー、資源、食料の確保、自然災害の対応等について、我が国はグローバルなニーズを先取りしつつ、我が国の技術力や現場への実装の経験を生かし、戦略性を持ってリーダーシップを取ることにより、イノベーションの創出等の機会を開拓することとしている。

1 グローバルなニーズを先取りする研究開発の推進

 科学技術に関する政策決定に活用するため、海外の情報を継続的・組織的・体系的に収集・蓄積・分析し、横断的に利用する体制を構築する必要があり、文部科学省及び関係機関において情報収集等を行っている。
 グローバルなニーズを先取りする研究開発の推進に向けた長期的な変化の探索・分析の一環として、科学技術・学術政策研究所は、将来社会に大きなインパクトをもたらす可能性のある科学技術や社会の新しい動き(変化の兆し)を、体系的で継続的なモニタリングを通じて見いだし、潜在的な機会やリスクを把握する「ホライズン・スキャニング」の取組を進めている。その一環で「KIDSASHI(きざし)」サイトを開設し、将来の見通しが不確実な中、ホライズン・スキャニングにより得られた情報をいち早く提供している。
 科学技術振興機構研究開発戦略センターは、科学技術イノベーション政策を立案する上で海外動向について調査・分析を行っている。
 農林水産省は、技術革新、グローバル化の進展など急激に変化する研究開発動向を踏まえ、戦略的な技術開発につなげるため、異分野・海外の研究開発動向を把握し、我が国に適用可能な技術の抽出や我が国の強み・弱みの分析等を行っている。
 日本学術振興会は、海外研究連絡センターにおいて、海外の学術動向等の情報収集及び我が国の大学等の国際化支援のほか、海外の学術振興機関等との連携やシンポジウムの開催等の活動を行っている。平成30年度は、日英の研究交流の契機とすべく、ロンドン研究連絡センターと英国のロイヤルソサエティ(王立協会)の共催により、“Regenerative Medicine”及び“Materials for Energy”の2分野から成るシンポジウムを開催した。また、直面する経済・社会的課題も視野に入れ、科学技術先進国との国際共同研究及び研究交流を戦略的に推進している(第4章第2節1(3)、第7章第3節参照)。

 第2‐5‐12表/グローバルなニーズを先取りするための主な施策(平成30年度)

2 インクルーシブ・イノベーションを推進する仕組みの構築

(1)地球規模問題に関する開発途上国との協力の推進

 アジア、アフリカや中南米等の開発途上国との科学技術協力については、これらの国々のニーズを踏まえ、地球規模課題の解決と社会実装に向けた国際共同研究を推進するため、文部科学省、科学技術振興機構及び日本医療研究開発機構並びに外務省及び国際協力機構が連携し、我が国の先進的な科学技術と政府開発援助(ODA(※27))を組み合わせた「地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS(※28))」を実施している。平成20~30年度(2008~2018年度)に、環境・エネルギー、生物資源、防災や感染症分野において、50か国で133件(地域別ではアジア69件、アフリカ36件等)を採択している。
 文部科学省は、我が国のSATREPSに参加する大学に留学を希望する者を国費外国人留学生として採用する、国際共同研究と留学生制度を組み合わせた取組を実施している。これにより、国際共同研究に参画する相手国の若手研究者等が、我が国で学位を取得することが可能になるなど、人材育成にも寄与する協力を進めている。


  • ※27 Official Development Assistance
  • ※28 Science and Technology Research Partnership for Sustainable Development

お問合せ先

科学技術・学術政策局企画評価課

(科学技術・学術政策局企画評価課)

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